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491_第06話2

Last-modified: 2007-12-02 (日) 18:00:54

 ……新早乙女研究所から数キロほど離れた場所、草木も生えていない谷間で異変は起こった。

 地面を砕きながら走る黄色い瘤の付いた巨大な蔦、岩盤の中を泳ぐよう、跳ね、そして沈みながら進んでいる。

 その光景を、上空を飛ぶゲットマシンの中からシンは見下ろしていた。

『なんだありゃあ?』

 まったく同じ感想を抱いた。あれは身体の一部で全身は地面の下ではあるだろうが……

「っ!? 竜馬さん、真下に動きが!」

 イーグル号の下で地面が盛り上がり、中から束になった蔦が露出する。横方向の動きしか見せなかった蔦の群れは

先端を地面に突き立てる様に埋まったところで動きを止め、緩慢な動きで立ち上がった。

『デカイぞ!』

「花……? あれも鬼だって言うのかよ?」

 頭頂には赤い花状の物体があった。その口から黄色い花粉のようなものが吹き上がる。

 その傍を通った瞬間、後方で爆発の連鎖が追ってきた。

「可燃性のガス!? くっ!」

 旋回しながら花粉を撒かれた範囲から離脱する。敵意があるのは確からしい。

『合体するぞ! おいシン、さっきみてぇにビビるんじゃねぇぞ!』

「言われるまでもっ!」

 あの感覚は染み付いたように残っている。すべての神経を合体のための集中させる極限の精神統一、今なら出来る

はずだ。

『ッしゃあ! 行くぜぇッ!!』

 花の部分にミサイルを撃ち込んで紅い戦闘機は天へと突き進む。その後ろをピタリと張り付くように一定の距離を

置いて飛行する。おそらく自分の後ろのジャガー号も同じように飛んでいるだろう。

『チェェェェェェンジ!』

 目の前でイーグル号の翼が折りたたまれる。同時に背後からベアー号が突っ込んできた。

「おおおおおおっ!」

 合体の衝撃をそのままにイーグル号のスリットに飛び込む。この位置、この瞬間が一番怖い。

『――ゲッタァァァァァァァァァワンッ!!』

 再び衝撃に襲われる。腕と足、角が展開されて巨大な戦闘機が角を掲げたヒトガタとなり、高速度からの急停止の

影響で大気に震動が走る。

「で、出来たっ!!」

 確かな実感を得た直後にゲッター1は地面に着地した。それを待っていたかのように蔦の群れが襲い掛かってくる。

『ゲッタァァァァァァトマホゥクッ!! おぉぉぉうりゃぁぁぁぁぁぁ!!』

 肩口から飛び出した鉄球から長柄と片刃が伸びる。それを掴んだゲッター1は鬼に突撃した。

『くらいやがれッ!』

 大上段から蔦の一本を一閃。鮮やかな断面を作り出して両断したが、同時に斬った瘤のひとつが光を放ち爆発した。

「くっ!?」

 連続した爆発によって巻き上げられた粉塵が一帯に広がる。その中で蔦の瘤が爆発する瞬間が見えた。



「あの瘤、爆弾なのか?」

 煙幕を切り裂いて再び蔦の大群が迫り来る。視界を遮られたせいかゲッターは対応できずにそのまま全身を締め

上げられて宙に持ち上げられた。

『くぅぅぅ……おおおおおお!』

 蔦を引き千切ろうとしているのか、軋みを上げながら強引にゲッターは身体を動かす。腕が瘤の一つを押し潰そう

としているのが目に入った。

「この距離じゃ……竜馬さん、ヤバイですって!」

『また爆発しちまうぞ!?』

『うるせぇ! ぬおおおりゃぁ!!』

 忠告も虚しく瘤もろとも絡み付いた蔦は四散し、当然の如く爆発の連鎖に飲み込まれる。

「うあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 爆発の衝撃で機体が殴られ、地面に落下した。

『バカヤロォ! 少しは頭を使え!!』

『てめぇに言われたかねぇや!』

 だったら考えて行動しろよ、という言葉を喉元で止めて機体の損傷をチェックする。

(外装は問題なし……問題は爆発の衝撃で内部機構にダメージが溜まってることか)

 これ以上あの爆発に巻き込まれると分離はおろか動けなくなってしまう可能性もある。

「竜馬さん、距離を取ってください! ビームなら蔦の届かない場所から……」

『うるせぇ! 逃げるのは嫌ぇなんだよ!』

 ……誰かこの男に学習能力を小指の先くらいでもいいから授けてくれ、出来ることなら今すぐに。

『おりゃあぁぁぁぁぁぁ!!』

 トマホークを振り回しながら肉薄し、蔦をまとめて叩き斬る。当然その分瘤も数多く切断され、三度ゲッターは爆

発が襲う。

「ぐぁっ!? ……このままじゃ本当に」

 足回りのダメージが深刻になっている。次に喰らえば間違いなく行動不能に陥るだろう。

「アンタ! いい加減に……」

『いい加減にしろ!!』

 通信機から早乙女博士の怒声が届く。さすがにこの状況を見かねたのかいつになく感情的な叫びだった。

『見て分からんか!? 奴は全身に爆弾を抱えているようなものだ!』

『チッ、離れりゃいいんだろ離れりゃ! ゲッタァァァァウィィィィィングッ!!』

 背中の羽が伸び、天高くゲッターが舞い上がる。下を見やると先ほどまで立っていた場所に蔦が突き刺さっていた。

『喰らえ! ゲッタァァァァァァビィィィィィィィィィム!!』

 発射のタイミングに合わせてレバーを押し込む。ゲッターの腹部から放たれた光の奔流が本体の中心に突き刺さり、

全身の瘤が誘爆していく。

 ――煙が晴れた後には、何も残ってはいなかった。

『……やったのか?』

「センサーには、反応はないみたいですけど」

 仕損じたようには見えなかった。しかし倒したというにはどこか呆気ない終わり方だ。

『……ゲッターロボ、すぐに帰還しろ』

 何かが引っかかったが、研究所からの指示に従って戻る他なかった。





「勝手なことするなって言っただろうが!」

「てめぇ!」

 研究所に戻るなり竜馬と弁慶は今にも噛み付かんばかりの勢いでいがみ合っていた。

 弁慶の怒りも当然だ、あれだけ周りを無視して一人で突っ走っていたのだから。

(一人で突っ走る、か)

 元の世界でのことを思い出す。自分もまた、竜馬のように周りのことを考えずに行動してばかりだった気がする。

 ――戦争はヒーローごっこじゃない。

 そう言って自分を殴りつけた上官がいた。はっきり言って自分のやったことに後悔はしていないが、もう少しうまくやれたんじゃないかと今ならば振り返ることができる。


(って止めなきゃマズイか? さすがに)

 とはいえどちらも鬼を素手で屠れるほどの化物級、割って入るには相応の覚悟を持って挑まなければならない。

「……けど、やるしかないか。あの~二人ともその辺にしといたほうが」

「「あぁん!?」」

 メチャメチャ怖かった。ハンパじゃないよこの殺気すらこもった迫力。

 ――カコンッ!

 竜馬の頭に下駄がぶつかる。飛んできたほうを見やると早乙女博士がいつものしかめっ面で歩み寄ってきていた。

「まだ分からんのか、纏まらぬ三人がゲッターロボに乗っても意味がないと言ってるではないか」

 ゲッターロボが三人一機という編成であることには意味があるという話は以前から聞かされていた。

 出力の増減やそれぞれの地形・戦闘スタイルに合わせた編成などが理由として説明されている。当然ながら三人のチームワークが何より重要視されるのだが……

「なら生憎だったな、つるんでやるのは俺の性分じゃねぇ」

 これである。ゲッターを乗りこなすだけで狭き門だというのにそのパイロットは独走し続けているのが現状だ。

「一人なら勝てるような言い草じゃないか!」

「勝てたじゃねえか!!」

「だから二人とも止めてくださいって!」

 何とか間に割りこむ。この二人犬猿の仲にもほどがある。

「ケッ、くだらねぇ。俺ぁ勝手にやらせてもらうぜ」

「そうはいかねぇ」

 と、この場を去ろうとした竜馬の背中に今まで静観を決め込んでいた隼人の言葉が投げかけられる。

「なんだと?」

「俺にも都合があるんでな。まだしばらくつるんでもらうぜ、お前が嫌でもな」

「関係ねぇだろ」

「知りたいんでね、お前が本当にゲッターに見込まれた男かどうか」

 ――ゲッターに、見込まれた?

 いつになく口数の多い隼人からは何かを気付いているような、気付きかけているような気配があった。

「わけわかんねぇこと言ってんじゃねえ!!」

 振り上げられた拳は、隼人の顔面に届くことなく掌の内に収まった。

「……俺は俺で目的があるって話だ」

 二人はしばらく真っ向から睨みあっていたが、やがて竜馬が引き剥がすように拳を引いた。

「ケッ、偉そうなこと抜かしやがって……お前はどうなんだ弁慶?」

 その呼びかけにつられて振り返ると、またもや立ったまま寝てる巨漢が一人。

 ……この人、目を離せばいつも寝てるような気がするんだが気のせいだろうか?

「寝るなっ!」

「……んあ?」

 ゴッ、という鈍い音の割りにまるで痛みがないような寝惚け眼で弁慶は反応する。

「おめぇもゲッターに乗る目的ってモンがあるのかよ?」

「目的? 俺は……」

 呆けていた表情が一瞬で引き締まる。

「――俺は鬼どもに恨みがある!」

 ……和尚と同門たちの仇討ち、なのだろう。単純明快な、しかしだからこそ共感できる理由だった。

「へっ、立派なこって。悪かったな俺には何もなくて」

 拗ねたように吐き捨てながら、今度はこちらに視線が向けられた。

「お前にもあんのか? 目的って奴が」

「え?」

 ゲッターに乗る、目的?

「俺は……」

 そういえば、今まで真剣に考えたことはなかった。ゲッターのパイロットになるということは達人との約束のようなものであって隼人や弁慶のような明確な目的ではない。 いや、言葉だけで見るならゲッターに乗れればいいというだけに止まってしまう。それは自分の答えではないだろう。


 ――ならば、自分自身にゲッターに乗る理由はあるのか?

「俺、は……」

 言葉に詰まる。なんということだろうか、せっかく今まで越えられなかった壁を乗り越えたと思ったのにそれ以前の問題ではないか。



――ズン!

 格納庫に震動が響く。揺れは徐々に強くなっていき、やがてまともに立つことも難しいほどになっていく。

「何事だ!?」

 早乙女博士の疑問に応えるかのように格納庫の床が裂け、巨大な蔦が現われる。

 忘れるはずもない。先ほど倒したはずの巨大な花、爆弾である瘤を無数に宿した蔦だった。

 このときはまだ知るはずもなかったが、このときすでに研究所の内外を蔦が覆っていたのだった。

「こ、のッ!」

 地面に手を着いて姿勢を安定させる。突如現われた蔦に巻きこまれた研究員の叫び声があちこちから上がっていた。

 さらに新たな蔦が床から伸びる。そこを中心に亀裂が走り、こちらに向かってきた。

「い……!?」

 気付いたときには遅かった。亀裂は股下を通過した後に一瞬にしてその幅を広げ、自身を支えていた床を崩して巨大な裂け目となった。

「あ――――」

 落ちる。バランスも取れずまともに反応することも出来ずに吸い込まれるように亀裂に倒れていく。

 こちらに目を向けた竜馬の顔が引きつり、慌ててこちらに手を伸ばす。

 その手を掴もうとこちらも手を伸ばすが、その手を握ることは出来ず、

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 暗い底へと、堕ちていった。



「シン!?」

 出来たばかりの裂け目に落下する少年に向かって手を伸ばす。

 だがコンマ数秒遅かった。指先に触れることすらできずに少年は地の底へと姿を消した。

「シン……クソッ!!」

 裂け目を覗き込むが暗くて底が見えない。吹き込む風の感じからかなりの深さであることを感じ取った。

「どうした竜馬!?」

「シンが落ちちまった! ここからじゃ見えねぇ!」

「なんだと!?」

 弁慶もまた穴に身を乗り出すが、その瞬間に顔が青ざめていた。

「――機体は無事だな。博士は司令室に行ったようだ、俺たちも行くぞ」

 後ろから冷めた声が聞こえた。振り返るといつもと変わらぬ表情で隼人がゲットマシンを見上げていた。

「隼人!? シンの奴を見捨てるつもりかよ!」

「その深さじゃ生きてるかどうかも怪しい。それに、コイツを放っておいたら俺たちも同じことになる」

 弁慶の抗議をあっさりと退けた隼人の視線がこちらにぶつけられる。

「お前も何か言うことがあるのか?」

「……ねぇよ、ただ一つだけ約束しろ」

「何だ?」

 痛みすら感じるほど握り締めた拳を隼人の目の前に突きつける。

「――事が終わったら一発殴らせろ」

「……考えておこう」

 苦笑を浮かべて隼人はゲットマシンへと続く梯子を上り始めた。



「――う」

 全身が痛む。指を動かしだけで軋みを上げそうだった。

 目を開けると真っ暗な闇が広がっていた。一度瞼を閉じ、しばらくして再び開くとぼんやりとではあるものの研究所の通路が浮かび上がってきた。

「ここ、は……?」

 痛みに耐えながら上半身を起こす。身体を支えるために手の位置を変えるとグニャリという感触があった。

 目を向ける。手に収まりきれないほどの巨大な黄色い瘤を掴んでいた。

「うわぁぁぁぁ!?」

 飛びのこうとしたがバランスを崩して転げ落ちた。

「ッつ~~~~!」

 したたかに打ち付けた後頭部を抑えて悶え苦しむ。涙で歪んだ視界に自分がいた場所を捉えると巨大な蔦があった。

「……あそこに落ちたから衝撃が散ったのか」

 なんという皮肉。だが少しでもズレていれば跡形もなく吹き飛んでいたことを考えればこの悪運に感謝するべきなのかもしれない。

 天井を見やる。自分が落ちた穴なのだろうがひたすらに真っ暗で何も見えない。

 相当な深さを落ちてきたのだろうということを認識してさらに今さらゾクリと悪寒が走った。

 視線を水平に戻すとこちらも闇が広がっていた。しかし完全な闇ではなく等間隔で室内灯が灯っていた、

「行くしかない、か」

 室内灯の光があるということは生きている区画であるのは間違いない。少なくともどこまで続いてるかも分からない縦穴をよじ登るよりはマシだろう。

 若干痛みが残る身体を引きずるように通路を進み始めた。

 通路を歩いて数分ほどで空けた空間に出た。通路よりも明かりは灯っており、ここが研究所でいくつかある格納庫の一つであることはすぐに分かった。

「――これは」

 だが、そこに広がる光景に思わず息を呑んだ。

 ――それは無数に散らばった鋼の骸。形はどれも違っており、だがそれらが作られた目的と結末は同じだった。

「プロトゲッターの、墓場……?」

 そう、そこはまさに墓場だった。

 鬼に破壊されたもの、合体に失敗し大破したもの、動くこともなく廃棄されたもの……

 ゲッター計画に散った者たちの墓場、幾人もの生き様と死に様が格納庫を覆い尽くしているかのようだった。



「…………」

 目の前の真実に戦慄した。あのゲッターロボ一体を完成させるがためにこれほどのものが生贄となったのだ。一番近くにあった機体のコクピットを覗き込む。

 鬼か、それとも別の要因なのか、シートには赤黒い染みがべっとりと張り付いていた。

「こんな……こんなことって」

 次元が違いすぎる。アカデミーでMSの開発略史は学んだがここまで凄惨なものでは断じてなかった。

 達人や、旧ゲッターチームだけではなかった。それ以前からもゲッターは多くの犠牲の上に成り立っていたのだ。

 ――鬼に対抗する力、ただそれだけを得るために。

 彼らはそんな中で何を思い、散って逝ったのだろうか。

「……俺の屍を、越えていけ」

 すべては、その一言に集約されていたことにようやく気が付いた。

 ――ズゥン!

 先ほどとは別の揺れが響き渡る。連鎖して震動が続いたことからどこかであの瘤が爆発したのだろう。

 パラパラと欠片が頭に降りかかる。天井を仰ぐと崩れかけた鉄骨が今にも落ちてきそうだった。

 ズンッ、という音に背後を向くと通路の入り口が瓦礫で埋まっていた。

「マズイっ!!」

 周囲を見渡すが隠れられそうな場所はない。通路は塞がれ、機材などは隠れられるスペースや強度を持ち合わせていない。

「……ここしかないかっ!」

 頭のないプロトゲッターのコクピットに飛び込む。だがキャノピーが開けられたままであり、このままでは結局ここに生き埋めになってしまう。

「動け! 動けよ!」

 スイッチを叩き、スロットルレバーを捻り続けるが反応はない。こんな場所に廃棄されてるのだから動かない方が当たり前なのだが、既に他の場所に隠れる余裕はない。

 万が一にでもこれが動くことに賭けるしかなかった。

「クソッ、動けぇッ!!」

 ガチリとレバーを捻った瞬間、ようやくシンは周囲に新たな異変が起こっていることに気が付いた。

「――この光は……」

 緑色の蛍火、いつか見たものとよく似た光。

 いつの間にか計器や画面にもその光は伝播し、薄暗い格納庫の中を淡く照らし出していた。

「これなら……いけるか!?」

 レバーを捻る。今まで反応しなかったのが嘘のように次々と計器に文字が宿り、動き出す。

「やった!」

 さすがゲッターロボのお兄さん、という歓喜の声を上げる前に天井の鉄骨が落下してきた。慌ててキャノピーの開閉スイッチを押し込む。

「うあぁぁっ!?」

 鈍い衝撃が機体を揺るがす。だがタッチの差でハッチが閉じられたのでなんとか生き埋めは免れた。

 機体の状態をチェックする。ゲッター1タイプの試作機らしいがかなり酷い損傷だった。

 頭部は欠落し右腕も、もげかけており、足回りは内部の疲労が溜まった影響か反応が鈍かった。

 しかしそれでもコイツは動く。先ほどの鉄骨が落下した影響は皆無と言っていい。

 さてこれからどうするかとしばらく思案し、とりあえず機体に取り付けられた通信機のスイッチを入れた。



「――まったく、たまに帰ってみたらこんなことに巻き込まれるなんて!」

 何本目かの蔦を乗り越えてミチルは愚痴りながら研究所内を駆け回っていた。

 被害は深刻だった。奥に位置する研究ブロックにまでかなりの数の蔦が進入してきている。未だに自分の身が無事なのが信じられないほどだ。

「……!」

 何体目かの死体の横を通り過ぎる。数度顔を合わせただけの人間がほとんどとはいえ、正視できるものではない。

 そして何度目かの角を曲がったところで、足を止めた。

「……参ったわね」

 通路は蔦で埋め尽くされていた。猫一匹鼠一匹すら入り込む隙間も見受けられない。

 これで研究ブロックから出る通路のすべてが絶たれたが分かった。

「せめて、司令室と連絡が取れれば」

 ブロック毎にある管理室の場所を思い出し、通ってきた道を再度走り抜ける。

「……ここね」

 祈るような気持ちでカードキーを通して暗礁番号を入力する。スライドして開かれたドアから覗く部屋の中はまるでそこだけ外界から切り取られたように無事なままだった。


「……?」

 通信を開こうとして、ずっとどこからかの電波を受信していることに気が付いた。

「地下? なんでそんな所から」

 多くの研究員の中でも一部の者しか入れないほどの地下の研究区画、普段は誰も寄り付かないような場所からの通信を訝しげに思いながらスイッチを入れる。

『――こち……ン・アス……クソ、なんで旧研究……の周波数しか……」

 チューニングが合っていないせいかノイズが酷い。仕方なくこちらで受信状態をクリアにする。

『――こちらシン・アスカ、聞こえるなら誰か応答してくれ!』





「状況は!?」

「D-3ブロックで爆発発生! 連鎖してD-2、D-4にも被害が広がっています!」

「蔦に触れるなと伝えろ! 今すぐにだ!」

 司令室は壁や床から伸びた蔦で埋め尽くされていた。その中のわずかなスペースでオペレーターと共に早乙女博士は文字通り八方塞がりの状況に歯噛みしていた。

 研究所全体はすでに蔦で絡め取られている。もし無理矢理ゲットマシンを発進させては研究所諸共ゲッターは消し飛んでしまうだろう。

(今までは力押しで攻めて来ていたというのに)

 鬼に対する認識を改めなければならない。最低でも事を自分たちとってに有利に運ぶ程度には頭が回るらしい。

「ゲットマシンは無事か?」

「全機損傷はありません、しかしカタパルトが破壊され発射口は蔦で塞がれています!」

「あくまでもゲッターを外に出させぬつもりか、小癪な」

 外部を映す画面に目を向ける。花を天に咲かせ幹に顔面を貼り付けた巨大な樹、昼間仕留めたかと思われた鬼の本体の姿があった。

(ここまで内側に入られては下手に迎撃兵装も動かせん、どうするべきか……)

 対策を考えるが如何せん情報が少なすぎる。研究所に巻きついた蔦にゲッターが通れるほどの隙間を見つけ出すことができればベストなのだが、敵はそこまで甘くはないだろう。


 最悪の場合、ゲッターを強引にでも離脱させて研究所を犠牲にするしか……

『――馬鹿言ってんじゃねぇ!!』

 怒声が響く。冷静に考えれば自身に向けられた言葉でないのは明白だったが、それでも一瞬息を呑んでしまった。

『てめえら目的があるか何か知らねぇけどよ、ここで死んじまったら元も子もねえだろうが!』

 ――そうだ、自分にもまた目的がある。

 ゲッターの示す世界、それをこの眼で見るまで死ぬことは許されない。

「……フン」

 口の端が歪む。竜馬はこの局面においてなお諦めも絶望も、それどころか迷いもしていない。

 隼人や弁慶のように確固たる目的があるわけではない、ただ敗北と逃げを許さない己のプライドのためだけに。

 やはりこの男を選んだことに間違いはなかったという確信を得ると同時に、

『――地下よ!!』

 救いの手が、思いがけない場所から差し伸べられた。







「地下200mまでのスキャン完了、データを送ります!」

 地下の格納庫。プロトゲッターのコクピットの中で画面に目を走らせ、データを送信する。

 ミチルとのコンタクトに成功したシンは自分のいる場所と現状を伝えた後、ひとつの指示を受けた。

 ――そこから、地上の格納庫直下の状況を調べて欲しい。

 ゲッターは空・陸・海、そして地中の全地形に対応したマシンである。その地形での活動を行うという設計上、各地形に特化したセンサーはどのような機体にも設置されていた。

 もっとも地中はゲッター2系統が専門であるのでスキャンはジャガー号と無理矢理回路を繋げなければならなかったが。

 結論から言えば研究所の地下は研究所から無事に脱出することができる唯一の道だった。とはいえ蔦は地下から伸びているので当然地中にも蔦は張り巡らされている。

 それでもゲッターが通れるほどの空間があるだけ地上よりはマシだ。

『……今データのリンクが終わったわ、そのまま続けて!』

「了解!」

 正直に言えば歯痒かった。半壊状態とはいえここでこうしてゲッターに乗っているというのにこんなことしか出来ない自分が悔しかった。こうしている間にも研究所内で何人の所員が傷付き、倒れ、死んでいっているのか……


(――考えるな、今は出来ることだけやるしかない)

 それが自分への言い訳だと言うことに気付いてさらに不甲斐なさを募らせる。

 ――何故自分は戦えない?

 ――何故自分はゲッターに乗って戦うことが出来ない!?

 既にゲッターロボのパイロットは揃っている。それがプロトゲッターであれど三人一機でなければそもそもゲッター炉心の出力が上がらないのだ。加えて竜馬、隼人、弁慶の三人は誰もがシン以上の能力を持っている。そこに割り込む余地など初めからなかっ……


「クソッ!!」

 苛立たしげに拳を膝に叩きつける。それがさらに深く自分を沈ませる要因であることを知っているはずなのに。

 ――ビーーッ!

 突然鳴った警告音に意識を引き戻される。

「敵!? そんな、どこから!」

 周囲を見渡す。一瞬格納庫全体にもう何度目かの震動が走り、真正面から壁を突き破って新たに蔦が現われた。今までのものとは違う、明らかに意思を持った動きでこちらに向かって突き進んでくる!


「何っ……うあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 鈍く尖った蔦の先端が、突き刺さらんばかりの勢いでプロトゲッターの胴体に向かってきた。







「遠慮せず突っ込め、隼人! 弁慶ビビんなよ!」

『うっせえ!』

 緊張しながらも返ってきた弁慶の叫びに軽く笑いかけながらも表情を引き締める。

 ワイヤーで垂直に吊り上げられた三機のゲットマシン。この狭い格納庫の中で発進・合体し、地下の隙間を通り研究所から脱出するための苦肉の策だった。

「フルスロットルだ、行くぜ!」

『地獄へのエレベーターだな、フンッ!』

 隼人がワイヤーのロックを外す、重力の法則に従って三機のマシンは落下していく。

 往く先はカタパルトが下ろされたことによって出来た穴、ほんの数十mしかない人工の縦穴の中へと突き進んでいく。

「往くぜ!」

 叫びながらイーグル号はベアー号に突っ込む。

『おおおっ!』

 その衝撃に揺れながらもベアー号はジャガー号の後部と合体した。

『チェンジ・ゲッター2ゥ! うおあああああああああっ!!』

 コンマ数秒で変形を成したゲッター2が右腕を底に突き出す。凄まじい粉塵がカタパルトから吹き上がり、モニターは砂煙の煙幕でよって一色に染まる・

「……やった、の?」

 疑問に答える様に煙幕が晴れる。モニターには螺旋状に抉れたカタパルトの底だけが映し出されていた……



「こ……このっ……!」

 蔦の先端をなんとか両手で掴みながらプロトゲッターは格納庫内で振り回されていた。

 パワーが足りない。蔦を掴むのが精一杯で押し込まれる力に対抗することができないのだ。

「クッ、何を……」

 蔦の動きはどこか妙だった。滅茶苦茶に動いているようで何か意図的にどこかへ自分ごと移動しようとしているような節がある。

「ッ、まさか!」

 プロトゲッターの背後を画面に映し出す。そこには格納庫から見える限りでもかなりの数が密集した蔦の群れ、そして、そこはゲッター2の脱出ルートと重なるポイントだった。


「ふ、ふざけんな! 俺を起爆に使うつもりかよ!?」

 察するにこの黄色い瘤はあくまでも地雷、つまり自身で爆発する機能を持ち合わせていないものなのだろう。あくまでも外部から衝撃を受けることでしか威力を発揮しない類の爆弾だ。言い換えれば、外部から衝撃を加えるだけでその対象ごと吹き飛ばすことができるのだ。40m級のロボットがぶつかればまず間違いなく爆発する。


 密集した蔦には当然その数に比例して大量の瘤が付いている。ゲッター2がこのポイントを通るタイミングに合わせずとも極端に遅れなければ爆発の影響から逃れることは出来ないだろう。いや、位置を考えればそれだけでは済まずに研究所に巻き付いた蔦の瘤に誘爆する可能性も高い。


 ただの一度の爆発でゲッターも研究所も消し飛ばす。そしてその起爆の役目を担うのが……自分。

「――コイツ」

 静かに、何かが胸に宿った。怒りにも似た、だが決してそれとは異なる感情。

(コイツにだけは……)

 頭の奥で何かが弾ける感覚。意識が広がり、機体と感覚が繋がる手ごたえを感じる。

(絶対に、負けない! 負けてたまるか!!)

 ならばどうするか、と考える。

 このままではどの道あの蔦の群れに叩きつけられる、だが無闇にこの蔦を刺激するのもマズイ。この蔦の瘤が誘爆していけばこの格納庫の天井が崩れてしまい結局同じことになる。


 ――考えろ、思い出せ。今までの戦いに何かヒントはなかったのか。

「…………っ!」

 最初にあの花のような鬼と戦ったときのことを思い出す。竜馬ががむしゃらに戦っていたこともあって気にかけることはなかったが、瘤以外の場所を斬っても爆発しなかったのではなかったか?


 確証はない。両手の中の蔦は尖っているが瘤の量自体は周囲のものと変わりはなく、さらに未だに引きずられているため震動が激しい。

 だが、生き残る可能性があるとするならばそこにしか有り得ない。

 使用可能な武装を調べる。エネルギー不足でビームは使えなかったがトマホークは問題ないようだった。

「やってやる……」

 ならば必要なものはただ一つ、

「――やってやるよ! ゲッタァァァァァァトマホゥゥゥゥゥゥクッ!!」

 右手で蔦を握り締め、左手で右肩から飛び出した柄を引き抜く。狙うは一点、瘤と瘤の間。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 両刃の斧を振るう。振るわれた刃は狙い通りの場所を一閃し、蔦を両断した。

「やった……!?」

 激痛にのた打ち回るように蔦がうねるが、それ以上の動きはない。ゲッター2は無事脱出できただろうか、と通信を開こうとしたところで

「なっ!?」

 切断した蔦の先端、その瘤が光を発しているのが見えた。

 見えないだけで刺激してしまっていたのか、それとも切り離されることも起爆の条件なのか、そんな疑問をすぐに掻き消し、蔦の少ない場所へと放り投げる。

 だがプロトゲッターの手を離れてすぐに瘤は膨張し、光と衝撃がまとめて襲い掛かってきた。



 ――生きてる。

 漠然とした感覚ではあったが、自分の心臓が動いてることと普通に呼吸ができること、四肢と頭に痛みも異常もとりあえずは感じられないことを確認し、その結論を導き出した。


「嘘みたいだ……」

 格納庫は気を失う前とほとんど変わりない様子だった。瘤が少なかったこともあってか、どうやら天井を崩すほどの爆発は起きなかったらしい。

 機体の状態をチェックする。損傷率は七割を超えている。爆発の影響か右腕は完全に欠損し、なにかの破片に抉られたのかジャガー号にあたる部分は内部を剥き出しにするほどの大きな傷があり、足回りはさらに反応が鈍くなっている。


 それでも、コイツは死にはしなかった。

「鬼は? ゲッターはどうなった?」

 通信を開こうとスイッチを押すが反応がない。壊れたか、と嘆息して辺りを見渡す。

「蔦が……これって」

 格納庫のそこかしこに生い茂っていた蔦は一つ残らず枯れ果てていた。手近なものを掴むとボロボロと崩れていった。

 ――ここでは状況が分からない。どうにかして上に出ないと……

 天井を見上げる。突き破られた天井には大きな穴が空いていた。おそらく蔦で埋まっていたのだろう、真下には崩れた蔦の残骸が堆積している。

「ゲッターウィング、いけるか?」

 蝙蝠の翼を想起させるマントがフワリと舞い上がる。出力が弱いが短時間の飛行なら問題ないだろう。

「……途中で詰まってなけりゃいいけど」

 巨体がゆっくりと浮き上がり、闇の中へと昇っていった。



 曲がりくねった縦穴を登りきるとこそは研究所の外に繋がっていた。

 研究所全体に巻きついていた蔦はすべて格納庫のものと同じように枯れ果てており、もはや脅威ではなくなっていた。

 ――だがそのことに気付いたのはもっと後のことだ。

 月明かりの下、眼前で繰り広げられる激闘――ゲッター1と鬼の戦いに目を奪われていた。

 白い樹木のような身体の鬼は巨大な尻尾と触手でゲッターに挑みかかる。だがそのすべてに対してゲッターは真っ向から挑み、そのすべてを越えて本体に拳を突き出す。


 ――ギィィィィィィィィィ……!!

 腹に風穴を空けられた鬼の絶叫が世闇に響き渡る。反撃で振るわれた巨大な尻尾がゲッターを弾き飛ばし、トマホークが地面に落ちた。

「危ないッ!!」

 倒れこんだゲッターに止めとばかりに尻尾が大上段から振り下ろされる。だが直前に起き上がったゲッターはあろうことか自ら尻尾の下に潜り込み、強引に持ち上げた。


『おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

 ゲッター3顔負けのパワーで鬼を夜空へ放り投げる。

『いくぜッ!!』

『オゥッ!』

『おぉっ!』

 腹部の装甲が展開、赤い光が地上に現われた太陽のように一面を照らし出す。

『ゲッタァァァァァァァァァビィィィィィィィィィィィィィィィムッ!!!』

 放たれたゲッターエネルギーの束が鬼の全身を呑み込んだ。

 光の中で鬼の身体は分解されていき、光が収まった後でまならな残骸と成り果てた。

「…………」

 データを照らし合わせるまでもない、自分が乗っていたときのゲッタービームとは比べ物にならない出力だった。

「俺は…………」

 悠然と立ち誇る赤き鬼の姿を目にし、ひとつの決意を固めた。

 ――それは勇敢に死ぬことよりも辛いことなのかもしれない、だが今日見たすべてのものがそれ以外の道を選ぶことを許さなかった……










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