Top > 第三話 『ゴミ溜の中』
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第三話 『ゴミ溜の中』 の変更点


 ゴミ溜の宇宙(うみ)で
 ――ゴミ溜の中――
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  静かに雪が舞い降り、通りを少しずつ白く染めて行く。
 「機械警備無力化。非武装警備員排除。不用心だねぇ、隊長みたいな人が狙ってるってのに」
 『ワッチから隊長。警察、公安に動き無し。大西洋連邦情報軍諜報部も現状ノーマーク』
  革手袋に連合製の拳銃。ビジネスバッグ。コートの下に更に2挺、予備弾倉。そしてナイフ。
 「総員。屋敷の見取り図は頭に入ってるな? 2班は二手に分かれて入り口と裏口を確保。
 他の物は全員邸内への侵入準備。地下の出口が一カ所だ。全部屋の制圧を確認した後、
 3班が階段を確保、1班、4班が地下へ向かう。――裏口はどうか?」
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  特殊救出奪還部隊、通称強盗隊。今回の“救奪”対象データでは少女が二人、少年が一人。
 写真を見るまでもなく完全に子供。
 「――変態共が。すぐに助けてやる、……もう少し。もう少しだけ、我慢してくれ」
 『裏口、警備員排除および機械警備の無力化に成功』
  救奪対象のパーソナルデータを思い出すのをやめる。先ずはこの屋敷の皆殺しが仕事だ。
 確認出来るだけで、最低12人居るはずである。
 「――良し、ミッションスタート。邸内のナチュラルどもは一人残らず全て殺せ。所詮変態の
 付属品だ、変態に仕えて喜ぶ変態なぞ空気を吸わせる事さえ勿体ない。……行くぞっ!」
 『イエッサー』
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  拉致、監禁された全てが非道い扱いを受けているかと言えば必ずしもそうではない。
 例え外には出られなくとも、ただの話相手として意外な厚遇を受けていた例もある。
  だがそれは例外だ。ウイルソンは知っている。彼自身の目で見てきたのだ。
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  実験動物の様に体中を切り裂かれて皮膚に何かを埋め込まれ、檻の中でうずくまって
 感情も無くした少年。
  ただ性欲を満たす。それだけの為に半年間、むしろ健康状態は管理されつつ地下室に
 閉じ込められて、何百人もの男性の相手を務めさせられていたアカデミー教官の女性。 
  来る日も来る日もダーツの的になって全身が腫れ上がった黄道同盟高官の男性。
  下着を着る事も許されず、全裸でメイドのまねごとをさせられていた少女。
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  全ては頑健なコーディネーターの肉体だからこそ可能なのであり、だがそこに人間としての
 扱いなどは微塵も感じない。だからこちらも非武装の人間を撃ち、ナイフを胸に突き立てる事は
 何の抵抗もない。変態共の付属品であるなら、その首を折る事など、どれほどの罪になるのか。
  救奪対象者が社会に復帰出来る率は1割を切る。ある者は言葉を失い、情緒が崩壊し。
 身体はともかく心の傷が深すぎたなら。自ら死を選ぶ者を、止める事の出来る者が居ようか。
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 「どなた? 何をなさっているのです? ……おこがましいようですが、生活にお困りですか?」
  品の良い女性が、開けはなったドアの向こう。背を伸ばして静かに座ったまま彼を見据える。
 「屋敷の奥様かな? ……運がなかったな、ただの通り魔だ。――恨むなら旦那にしてくれ」
  それだけ言うと彼は何の躊躇もなくトリガーを引く。サイレンサーが殺傷力を隠す軽い音を
 2回鳴らすとほぼ同時。額に二つ穴の開いた女性は、うなだれる様に椅子に沈んだ。
 『隊長、1班が3階のナチュラル完全排除を完了。これで地下以外は制圧完了です』
 「了解だ。1班、4班は地下の隠し通路へ。今日のアドバンテージはたった30秒だ、遅いぞ!」
  治らぬまでもせめてあるべき場所へ還す。だから今日も、彼は階段を走って降りるのだ。
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  ぱっとしない中年男性がウィルソンに襟首を捕まれている。
 「貴っ様ぁああ! この子達が貴様に何をしたっ!? えぇ!?」
 「や、やめ……、うぐぅ」
  入り口の黒い服を着た如何にもという風体の男達三人を弾丸三発で打ち倒し、そのまま
 地下室に踏み込んだウィルソン。男を持ち上げつつある後方で、だめ押しの銃声が鳴る。
  どうやら部屋の主は上階の変事に気づき”証拠隠滅”を計ろうとしていたものらしい。
  首に絞められた跡の残る少女、のど元を切られ血の海に沈む少年。いずれも衣服の類は
 着て居ない。そして薬物の影響か、うつろな目を見開いたまま寝転がる少女。その指が、動く。
 「生きてる? ――残弾全て、生きながらにして叩き込んでやる。覚悟しておけ、外道が!」
  パスパス。気の抜けた音が二つ響くと中年男性は両足を押さえて倒れ込む。
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  手に持ったバッグからブランケットを取り出すと唯一生き残った少女にそっと近づく。
 「……もう怖い事はない。遅くなってすまなかったな、迎えに来たぞ?」
  少女の股間にあった異物は抱きかかえる途中で何事もないかの様に装いながら引き抜き
 放り投げる。出血のあった事はあえて無視して、目を見開き動かない少女を優しく包む。
  その少女の瞳に彼は映ってはいた。だが見ているかどうか、それは別問題だ。まるで
 意志のない人形の様に抱きかかえられ、半分開いた口から涎を垂らし、ピクリともしない。
 「さぁ、居るべき場所に帰ろう。――キミの様な優秀な人間はこんなにあっさり自分を捨てては
 いけない、時間はある。必ず取り戻すんだぞ? ……何が何でも生きるんだ。約束だぞ?」 
  反応のない少女にそれでも言わずには居られない。そしていつもの空虚な感じが彼を包む。
 何の為にこんな事をしている。変態共も、そして俺も……。
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 「隊長、”足”の到着まで120秒、表、裏。どっちに?」
  ――約束だったな。少女を左手に右手の銃は続けざまに火を噴き、その銃を投げ捨てると
 更に新しい銃が火を噴いた。手足のみ、ぐずぐずに原形をとどめないまでに執拗に撃つ。
 『ワッチ2から緊急。公安が動きます! 現着まで約240秒。作戦は40秒の切り上げを!』 
 「遺体の回収急げ、さらし者にする気か!? ――受け取れ。高かったんだが、くれてやる!」
  かれは腰の鞘からからナイフを引き抜くと、ゆっくりと大きな弧を描いて放り投げる。
 「引き上げる。”足”は正面、雪が厄介だ、ダミーは裏に”足跡”を。2班は退路確保を最優先!」
  手が、足があったならあっさり避ける事が出来たであろうナイフを胸に突き刺し、それでもまだ
 生きている男を残し救奪隊は波が引く様に居なくなった。
  そして赤い色以外何も無くなった地下室。男の息の根は、止まった。
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 「…………から報告ですが対処の、……? 室長(キャップ)。――キャップ?」
  モニターに、赤い服を着た栗色のベリーショートの少女。フジコの生真面目な顔が写る。
 「――すみません、お休みでしたか? ならば特に急ぎの報告ではないので……」
 「いや、構わん。居眠りをしていただけだ。……俺もブリッジに上がるよ。報告はそれから聞こう」
  何故何の変哲もない個別の作戦を鮮明に思い出す事がある。髪を掻き毟る。判りきった事だ。
 あの時救奪した少女。自我を取り戻すまで半年、自発的に食事を取るまにでは更に時間を
 要したが社会復帰を果たした。アカデミーを卒業し、ザフトに志願する程に優秀な人材として。
 「よろしいのですか? ――イエスサー。ブリッジにてお待ちします。……では」
  思い出したのはひとえに、その少女の名前がフジコ・セリアであったから。に決まっている。
 「――せっかく当人が忘れてるっつーのに、……皮肉な話だ。タイムチャートまで覚えてやがる」
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  デブリ帯のほぼ中央付近。
  黒いナスカ級、ブリュンヒルデ。そして自ら航行が出来なくなったオルトリンデ、ゲルヒルデの
 三隻は既に使用期間が過ぎ、戦争が無ければ本来は廃棄されリサイクルされているはずの
 民間用の浮きドックらしき巨大な建造物に身を寄せている。
 『――はい、機関室です』
 「機関長代理、ほぼ修復完了じゃないか。出力52%はどうしてだ? 問題点は?」
  引きずってきた僚艦の残骸や、更に此処までに拾った連合隻の船やMSなどは流石に全て
 収容は出来ず、周辺宙域に浮かんだその様はまるでジャンク屋である。
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 『無理をすれば70を超えますが、B系統のエバポレータがイカレてます。30分が限度です』
 「他の船からの転用は出来ないのか? パーツだけならそこら中に……」
  ヴァルキリア隊の2隻は勿論、ナスカ級が3、ローラシア級が2、更には移動の途中で
 目に入った連合の船やMSまで。良くも見つからずに此処までたどり着いたもんだな。
 とウィルソン本人が驚く程の戦艦やMSの残骸が、浮きドッグを比喩でなく覆い隠している。
 「我が隊はあまりにも装備が新しすぎるんです。最新過ぎて他の艦とのパーツの規格が
 合わなくって。オルテラとゲルヒィも修復の予定と聞きましたし、ならば互換性のあるモノは
 ありません」
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  最新鋭、最強装備が仇になったか……。自分のツキのなさを呪うウィルソンである。
 ただし、落ち込んでばかりも居られない。前に進まねば生き残れない。そして何も最強装備は
 機械関係だけではない。人材もその範疇に入る。
 「アッシー交換ならな。材料がある以上、合わなきゃ作れ。他に道はない。それとたった今から
 おまえから代理を取る。給料は上がらんがクッキーの配給を週に一箱増やしてやる。文句は?」
 『――はい?』
 「ついでに作業環境も、もう少し良くしてやる。――メカマンサブチーフに繋がるか?」
  彼の椅子の前、ディスプレイにもう一人の少女が映る。
 『聞いてましたー。たった今作業終了。電源投入はキャップの指示待ちでーす』
 「OKだ。――ならば3からカウントダウンを開始する。……3,2,1。電源投入!」
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 『な、なにが……?』
  いきなり暗がりに明かりが付き、ドッグのハッチが閉まり始める。エアの入る音が大きく響く。
 「此処の電源が入った。エアーも入るから機密服も要らん。多少船の形が変わっても構わんし、
 色も塗らんで良い。やってくれ。終わったら他の2隻も復旧指揮を執れ。いいな、”機関長”」
 『……ア、アイサー!』
  データ画面には更にドッグ後端部、そう広いわけではないがメカマン待機所に人口重力の
 発生を知らせるデータが流れる。数値は0.954Gまで上がって止まる。
  人間にはやはり重力が必要だ。そして言わずとも彼女はそこまでキッチリ修復していた。
 「立て続けで申し訳無いとは思うが、人が居ない。悪いがMSの修復も急いでくれ。……おまえも
 もうサブは要らんな。コッチはチョコの配給を2枚増やそう。文句はあるか? “チーフ”」
 『アイアイサー、キャップ! 文句無いでありまーす!』
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  ――相変わらず女の子の操縦、お上手ですね。後ろからいつも通り冷静な声がかかる。
 「優秀な奴はほっといても優秀なのサ。ウチの娘(こ)達は操縦する必要なんざ、無いだろ?」
 「――私には、やはり人の上に立つのは無理なようです……」
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  MSデッキ。時間の空いたフジコは愛機を見上げながら、珍しく制服のまま素に戻っていた。
 「――セ、セリア隊長、ほんの少しだけお時間を……、その。宜しいでしょうか!」
  少なくともヴァルキリア隊。その中で赤い服を着るのは彼女だけだが、彼女を隊長と呼ぶ者も
 また居ない。デイビット・ウイルソン。第12分室の長たる彼の命令だけが部隊の全てだからだ。
 「え? 隊長……? わ、私の事? え、えと。なに? どういう……」
  完全無欠のクールビューティ、フジコの唯一の弱点。人との交流、会話。慣れ親しんだ
 自隊の人間とさえ”仕事”の括りが無くなったとたんにまともに喋れなくなる彼女である。
  つい素に戻ってしまった上、更に相手は自分に畏敬の念を抱き敬礼する少女達。最悪だ。
 「私たちもただ居るだけではいけないと思うのです。けれど動かせるだけで基礎もありません。
 お忙しいのは承知しています。でも、5分でも10分でも良いです。MSの事、教えて下さい!」
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  拾った少女達の中では非戦闘員の比率が高かった。ブリッジや主砲を吹き飛ばされた
 船の中、直撃を受けずに生き延びる事が出来た者。実に6割強がメカマンか、爆発を免れた
 機関室詰めの人間。残りも大半が甲板員やCIC詰め要員、医療スタッフその他。
  そんな中、パイロット組は総数こそ15名居たものの、稼働MSも現状黒い機体以外は3機。
 シミュレーターも使用不能。メカマンの手伝いと言っても本職ではない以上、限界はある。
 但し、フジコにとって意外だったのは自らが未熟だという自覚を持っていた事。
  だからこそ生き延びたのだろう。……これではキャップの言いぐさだ。ますます喋れなくなる。
 「う……。えと。わ、私……。その、隊長とか、そういうの、じゃ。……ないし」
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  ある程度ポジションが纏まった現状、彼女ら以外はほぼ何某かの仕事に謀殺され、全員を
 見渡してもほぼ”無職”であるのは彼女らの一団のみ。教えを請うなら分室という特殊部隊の
 中でも室長以外なら、誰しもがエースと認め、たった一人、赤い服を着る事を許されたフジコ。
  自らを劣っていると自覚した人間が取る行動としては正しいだろう。但し指導を頼む人間として
 フジコが適任かどうか、それは問題が別である。
  彼女らとて勇気を出して雑談にさえ殆ど乗ってこない孤高のエース、フジコに声をかけたのだ。
  それはフジコにもわかる。ただ彼女が孤高のエースである理由はザフトレッドだからでも
 無ければ撃墜数でも無い。そして、そんな事は外から見ただけではわからない。
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 「意地悪しないでシミュレーターのデータだけでも見てあげたらぁ? セぇリアたーいちょ?」
  彼女のおしりを撫でながら流れて行くのは、自分の機体の整備を終えたジェイミーである。
 「ひゃんっ! ――な、ジェイミー、あなた急に隊長なんて何を……!」
 「そぉよーん、隊長。若手の面倒見てあげなさいよー。あこがれのザフトレッドなんだからさ?」
  いつの間にか彼女の肩に掴まるのは同じく自機の整備を終えたパメラ。
 「私、の服は。偶々……キャップが、気まぐれを。――知ってるでしょ!? 私、隊長とか、その」
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  ――と言う訳で! 突如としてジェイミーが高らかに宣言する。
 「つい先ほど、我がリュンディのシミュレーターが全機復旧しました! 隊長は多忙である為、
 直接訓練を見るわけには行かないけれど、データのチェックはしてくれるそうです」 
  ――燃料の都合もあるから実機演習はあまり出来ないけれど。パメラが後を引き継ぐ。
 「格闘センスのある者は私、射撃の才能がありそうな者はジェイミーが面倒を見ても良い。
 勿論、総合力が高ければセリア隊長の直接指導もあり得るが、これは私達が認めれば。だ」
  ――隊長、シミュレーター使用の許可を下さい! 少女達は全員がそろって敬礼する。
 「ちょっ、パメラ、ジェイミー! 人にはね、出来る事と出来ない事がね……、ねぇ、聞いてよぉ」
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 「――帰投報告、以上!」
 「ご苦労、少佐。――デュエル・プラスとダガーL、仕上がりは?」
  デブリ帯の縁に浮かぶカエサルの艦橋。艦長への定期パトロールの報告はシェットランド。
 「PS装甲以外X105とほぼ同じ、確かにな。ダガーL、なかなか良い仕上がりだぜ?」
  GAT01A1の大規模量産型とも言えるストライク同等のスペックを誇る、GAT02ダガーL。
 特にヌーボォと呼ばれる201艦隊の先行量産試験型は明らかなオーバースペックもウリである。
 「ならばデュエルからは降りるか? 司令の意志とは言え骨董品では貴様に渡す意味がない」
  事務的な艦長の言葉にシェットランドは少し焦る。初めて貰った彼の専用機だ。
  それにGを与えられるのはエースの証、取り上げられてはたまらない。
 「パワーが段違いだ。GはあくまでGなんだぜ、艦長? ダガー系列とは全てが違うんだよ!」
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 「そう言ってもらえるとわざわざ作った甲斐もある。本当は少佐の乗り方ならば、フォビドュン辺り
 の方が良かったのだろうが、なにせGの第2期設計分は一般のパイロットからもメカニックからも
 評判が悪いそうでね。まぁ、基本部分はほとんどカラミティからの転用だが」
  ブリッジで観測データを睨みながら索敵班と何事か話していたラ・ルースが振り返る。
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 「エンジンはおかげサンで絶好調でして。――連中はこのデブリとノイズの中央に居る。もう
 慣熟飛行は完了だ。……なぁ、司令。いつまで此処に居るんで?」
  少佐、口を慎め! と言いながら立ち上がろうとする艦長をラ・ルースは手で制する。
 「失ったメビウス8機分の補給が来る。……今はそれを待つ。急ぎたいのは山々だが、半端な
 戦力ではむしろ危険だと言う事がわかった以上、選択肢はそれしかない」 
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 「――? 司令、自分は伺っておりません。月の司令部とは何時お話に……」
  ついさっきだ。艦長に答えると、手書きのメモを、すぅっとシェットランドに放ってみせる。
 「ダガーが4機にグラスパーが5機、パックが、……30機!? ヒュー。スゲーな、こりゃ」
 「来るのは中古のGAT01だが、ウチでパックのアタッチメントを付けてL仕様に改造する。
 亡霊には上の方々も怒り心頭の様でね。必ず仕留めよ、との事だ。頼りにしている、少佐」
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  シェットランドは無造作に浮き上がると艦長席の背もたれに掴まりつつメモを渡す。
 「……ダガーLが6機、改造ダガーが15機、コスモグラスパーが9機、メビウスが30機。
 そしてデュエルプラス。――司令。失礼ながら、最終的に何をなさるおつもりか? このほか
 マテウスにパーツの形で更にダガーを12機分、是だけでも事が露見すれば、ただでは……」
  だが、ラ・ルースの鉄面皮は崩れない。むしろ艦長を見上げるとニヤリと笑う。
 「先ずはヤキンの亡霊の皮をひん剥いて人間に戻って貰う。その後の事はまだ決めていない。
 だが、時勢に乗るには数も勢いも必要だ……人目を引きたいなら行列は長い方が良い」
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  そう、ラクス・クラインがやって見せた様に、勢いだけで後に続くお調子者が出るくらい、な。
 ……我々はハーメルンの笛吹きだ、艦長。ラ・ルースは艦長に向き直る。
 「――だから私がハーメルンになって笛を吹こう。さればこそ、後に続く君たちの……」
  ラ・ルースは床を蹴って艦長席、シェットランドの反対側のアームレストに自然につかまる。
 女のカンが身体を逃がそうとしたが、艦長の威厳の方がまさった。だから肩までの髪を揺らす
 事もなくゆっくりとラ・ルースを振り返る事には成功したが、背中を伝う冷や汗までは止まらない。
 「メロディ、リズム。狂っては困るのだ。連合からブルーコスモスを一掃する。我々の手で、な」
  まさに目の前。彼女の手にしたメモを取り上げ整った顔がそう言うと、口元に笑みを浮かべた。
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  数分後のブリッジ。艦長席。
 「なぁ、艦長。……実際問題、司令は何考えてるんだと思う?」
 「自分に判るわけがない。貴様の方が人間的には近いのではないか? ――少佐、マテウスの
 ダガーの件、貴様はたった今忘れろ。知っているのは自分を含めほんの数人。露見すれば
 その時点で”名実共に”首が飛ぶ。そう言う代物なのだ、アレは」
  穏便に、若しくはラ・ルースの思惑通り粛々と事が運ぶというならそれで良い。
  但し、軍人には不正を知れば当然報告の義務があるのである。
  万が一にも”揉めた”場合には、知っているだけで反逆罪に荷担した責任を問われる
 可能性が高い。内容から言って、軍法会議なぞ飛ばして直接命に関る事さえも否定出来ない。
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 「内緒話も気にくわねえがな。前フリ無しで憲兵隊に拘束されるとか、そう言うのは俺ぁごめんだ」
 「……それで良い。貴様が必要のないリスクを負う事はない」
  階級章の示す立場がどうであろうと、シェットランド自身は艦隊運営には直接関わりはない。
 部下に要らぬリスクを背負わせる必要など無いのだ。と艦長は息を吐く。
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  ――何を、か。自分が知りたいくらいだ。艦長はアームレストについた肘に細い顎を乗せる。
  マテウスのパーツを組み上げて出来上がる物はGAT01ではない。宇宙空間においては
 201艦隊においてのみテスト名目で運用されるGAT02”ダガーLヌーボォ”なのである。
  そしてストライカーパックの数もそれらを組み上げてなお、各機に2機ずつ行き渡る。
  更にはその運用をサポートするコスモグラスパー。重要性を軽んずる部隊司令が多い中、
 さして量産されている訳でも無いその機体。ラ・ルースはMAを削ってまで1個中隊を揃えた。
  それをダガーLと共に重点配備するのはMSとストライカーパックを重視した戦術を持つ
 まさにラ・ルースの意志そのもの。
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  更には全艦MS運用仕様の艦船と、輸送艦とは言いながら実はほぼ空母と言って良い程の
 徹底した改装を受け、アガメムノン級のシルエットを優に2つ飲み込んで有り余る程の超大型
 武装輸送艦マテウスは、カタパルト2本を備え、更に簡易工廠としての機能まで持たされている。
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  パイロットも無造作に選んだわけではなく、シェットランド以下全て歴戦の猛者。
 キルマークを持たない者は居なかった筈である。勿論艦長以下のクルーも同様に方向性の
 差こそあれ、優秀でない者は居ない。
  そして全隊員の絶対条件。ブルーコスモスに属していない、若しくはそのシンパでない者。
  何を。はともかく、フェデラー・ド・ラ・ルース大佐。彼は本気で事を起こすつもりだ。
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 「青き清浄なる世界のために……、か。コーディネーターとて人間であることに違いは無かろう
 ものを。……互いの存在を認める事が、何故命がけになるのだと思う? 少佐」
 「まぁ、ジョージ・グレンのマニアは居ねぇんだろうな。とは思うぜ? ブルーコスモスには、さ」
  貴様の冗談につきあっていると、ますます気が滅入る。艦長はそう言うと席を立つ。
 「少佐、ちょうど標準時で12時だ。昼にしよう、つきあえ」
 「デートのお誘いにしちゃ安上がりだなぁ。艦長をオトシたらマニアがいっぱい泣きますぜ?」
 「失敬な! 自分の何処にマニアウケする要素があるかっ! ――副長、15分程頼む」
  珍しくバカ真面目な上司が軽口を叩いたのを好ましく見て、妹を見る目で副長が振り返る。
 「ラジャー。1206、副長、頂きました! ……休憩も高級将校の責務。であります艦長。
 張りすぎた弦は簡単に切れるそうですよ? 15分と言わずランチぐらい、ごゆっくりどうぞ」
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 予告
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  亡霊の潜むデブリ帯を前に高ぶるシェットランド達。だが敵の技量を見て取ったラ・ルースは
  彼らの行動を規制する。そのラ・ルースは本部には極秘裏にザフト士官との会談の場を持つ。
  そこまでしてラ・ルースの求める物とは果たして……。
  そして時を同じくしてウィルソンの元へもミラージュコロイドをまとった来客がデブリのなかを向う。
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 ゴミ溜の宇宙(うみ)で
  次回第四話 『敵と味方』
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