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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第39話(1) の変更点


  最初に攻撃を受けたのは、地上へと補給物資を届けるべく進発した補給部隊の一団であった。輸送船や牽引コンテナに大量の物資、主に食料品、医療品、弾薬など軍事行動には欠かせない品々を詰め込んだそれは、三隻の護衛艦、いずれもザフト戦艦に守られながら、ザフトが確保している地球までの航路を進んでいた。
  その任に当たったのはまだ若い士官で、若いといってもアスランやハイネなどよりずっと年上なのだが、宇宙艦隊勤務においてある程度の実績を上げた男であった。軍部としては何か事故が起こってもこの者なら対処できると考えたのだが、その考えは見事に外れた。戦闘に置いてはそこそこに使える男であったのが、補給任務においては、まったくの無能とはいわないまでも有能にはなり得なかった。
  まあ、彼の方にも言い分はあるだろう。いきなりレーダーに反応があったかと思ったら、五十隻近い艦艇が襲来し彼が指揮する補給船団に砲撃を開始したのだ。どんなに慎重に行動しようと、これでは援軍を呼ぶ間もなくやられてしまう。現に敵戦艦から発射された無数の長距離砲が、モビルスーツを発進させる時間も与えぬ苛烈さで殺到し、護衛艦隊を消滅させてしまったのだ。そして盾を失った補給艦は、何の抵抗も出来ずに積み込まれていた膨大な物資ごと火球と化して爆発した。
 「敵補給船団の全滅を確認!」
  ファントムペインの強襲艦隊を指揮していたのは、月アルザッヘル基地の暫定的司令官であるイアン・リー少佐だった。彼は天才的な能力を持ち合わせた士官ではなかったが、その用兵手腕は実に手堅く、ネオ・ロアノーク大佐などからも強く信頼されていた。この時彼は、可能な限り速い速度と、動員できるだけの兵力を動員して敵補給部隊の撃滅に動いた。過剰とも言える数の暴力は、相手を一方的に打ちのめすには十分すぎた。
  もっとも、イアンがこのような選択を取ったのには別の理由もあった。彼は以前、ザフト軍の地上降下作戦を阻止するために八隻ほどの艦隊を派遣したことがあるのだが、ものの見事に全滅させられたのだ。たった一機の、モビルスーツの手によって。
  恐らく核動力機の類だろうと思われたが、また襲撃を阻まれ、全滅させられたら堪ったものではない。そこでイアンは大軍を持って襲撃することで、不測の事態にも対処できるように考えたのだ。
  幸い、イアンが恐れていたような事態にはならなかったが、油断は禁物だ。
 「全艦、アルザッヘルへ帰投する。急速回頭」
  事の次第に気付いたザフトが艦隊を派遣してくる前に、月基地へと帰還しなくてはならない。イアンは、通信士官にヘブンズベースへ報告を送るように命じた。
 「我が艦隊、敵補給部隊の全滅に成功。後はそちらにお任せする」
  やがて、ザフトの艦隊が救援に駆けつけたが、既にイアン艦隊の姿はなく、虚しくも散った補給艦の残骸が漂うだけだった。
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          39話「PXシステム起動」
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  ファントムペインによって補給線を絶たれたザフト軍は、その報告を受けて行動を開始したファントムペイン地上軍の攻撃を受けつつあった。最初に敵と遭遇したのはマハムール陸上艦隊で、前方から砂煙を上げて大軍が向かってくるのが偵察機の報告で知らされた。偵察機は報告を送ったてきた数秒後に、その反応を消滅させている。
 「来たか……索敵班は敵の総数を算出しろ。オペレーターは予想接触時間を計算!」
 「時間的距離による計算の結果、予想接触時間は約8分から10分の間です!」
  オペレーターからすぐに返答がある。
 「全艦総力戦用意! 機動兵器は全部出撃させろ。索敵班、敵の数はまだ判らないのか?」
  ラドルは慌ただしげに問いただすが、索敵担当の士官は青い顔をして振り向いた。
 「て、敵の総数は五百機を超えます!」
 「五百機を超えるだと!? 何かの間違いではないのか」
 「機甲部隊だけでも800台近くのリニアガン・タンクが動員されている模様」
  リニアガン・タンクとは、旧連合が開発し運用していた装甲車で、前大戦の序盤においては主力戦闘車として稼働していた。モビルスーツの装甲すら貫く電磁リニアガンを主武装に、凹凸のあるモビルスーツでは歩行が複雑な地形にも対応できることからモビルスーツが一般化されてからも、モビルスーツとの連係攻撃を視野にいれて運用されることが多い。
 「しかし、これは……」
  だが、全軍の大半をリニアガン・タンクで構成してくるなどラドルの予想範囲外であった。何せ、いくら使えるとはいえ時代はモビルスーツのはずだ。在庫一斉処分じゃあるまいし、よくもこれだけの数を集めたものだ。
  それに引き替えラドルの艦隊はというと、撤退作業の途中であり実は各地に分散した兵力の一部が未だ戻ってきていない。故に全軍を持って敵と向かい合うことが出来なかった。
 「バクゥ及びガズウート発進。敵機甲部隊を殲滅せよ!」
  ラドルが命令を飛ばし、各艦隊から次々とバクゥやガズウートが発進する。
 この二機はザフトの地上における主力モビルスーツであるが、ガズウートはキャタピラ装備のモビルスーツに重武装を施した砲戦専用の機体で、バクゥは猟犬をイメージさせる四つ足と、その脚力から織りなされる運動性が特徴的な機体だ。
  ガズウートに関しては、ザフトとしては不本意ながらリニアガン・タンクに機動力と速射性で劣っており、前大戦は少なからず苦戦した。だが、バクゥの登場により徐々に圧倒していき、ついには砂漠などの地上戦においてはバクゥこそ覇者であることが証明された、はずだった。
 「ガズウートは無理に前に出ようとせず、長距離からバクゥの支援を行え。バクゥは前面の敵に攻撃を集中して突破を心がけろ」
  命令しながら、ラドルは考える。敵がいよいよ攻撃を開始してきたというのなら、敵と遭遇しているのは自分たちだけではないはずだ。我々がこうして地上部隊と戦闘を始めるということは……
 「他の艦隊も、今頃敵と遭遇している頃か」
  ラドルが呟いたそこの言葉は、誰にも聞かれることはなかった。
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  嫌な読みほど当たるのは世の中の必然なのか、ラドルの予想通り各地に散らばっていたザフト軍はそれぞれファントムペインの軍勢と遭遇していた。
  紅海にて艦隊の撤退行動を開始していたモラシム艦隊の後背に、敵艦隊が出現したのである。
 「全艦急速反転、敵艦隊の迎撃を開始する!」
  敵艦隊の迅速な行動に対して逃げ切ることは出来ないと悟ったモラシムは、すぐさま戦闘を決意、各艦隊に攻勢の準備をさせた。
 「モビルスーツは全機発進! 何、心配するな。お前らの司令官は紅海の鯱だ。この海で俺が負けるはずはない!」
  艦橋から歓声が上がる。時として司令官はこのような言葉で味方を鼓舞しなければならない。モラシム自身、紅海という場所で戦って負けることはないと思いはしたものの、艦隊の状況から考えるにそれほど勝率が高いとも思えないのも確かだった。
 「ほぅ、戦うつもりか。敵の指揮官は武人だな」
  一方、そんなモラシムと戦うこととなったファントムペインの艦隊は数においてモラシム艦隊よりも多かった。それもそのはずで、彼が遭遇したのは逃げたとされるスエズ艦隊ではなく、ヘブンズベースをひたすら南下し、喜望峰をぐるりと回ってきた遠征艦隊だった。周辺にいた少数部隊なども結集した結果、かなりの数が集まっており、艦隊指揮官はダーレス少将であった。
 「こちらもモビルスーツの発進用意。数はこちらの方が上だが敵は百戦錬磨の武人だ、心して掛かれ!」
  彼は前大戦時に旧連合の艦隊指揮官兼司令官として活躍した人物で、海戦において相応の実績を持つ男だった。武勲の数からいえば、中将に昇進していてもおかしくはないのだが、前大戦時の『オーブ解放作戦』に置いて艦隊の指揮を執った際、オーブ軍こそ圧倒したもののオーブの自爆作戦を止められず、貴重なマスドライバーや研究施設などの確保に失敗した。元々、ブルーコスモスとは一線を置く立場にあったため、この失敗により前ブルーコスモス盟主、故ムルタ・アズラエル疎まれ、前線指揮官らか後方へ回されるという憂き目にあった。
  その後は後方担当として過ごしていた彼だが、旧連合が消滅しファントムペインに吸収されたことで、艦隊司令官として艦隊の一部を預かるように指示された。ファントムペインとしては有能な人材は可能な限り使いたいと思ったのであろうし、後方で腐っていたことによりダーレス自身も鬱憤が溜まっており、ブルーコスモスに対しての不破はこの際抑え、要求に応じたのである。
 「敵を返り討ちにしてしまえ!」
  相手の指揮官が誰であろうと、倒すと決めたからには全力で戦う。モラシムは全艦に長距離魚雷の発射を命じ、着弾後にモビルスーツ隊を発進させようとした。だが、ダーレスはこれに対し魚雷のロックオンシステムを攪乱する囮を射出して全弾回避した。
 「モビルスーツ隊、発進!」
  これにより、モビルスーツ発進のタイミングはダーレスが握り、先手を取って海中用モビルスーツ部隊を出撃させた。これに遅れる形で、モラシムもザフトが誇る海中用モビルスーツの数々を出撃させはじめた。
 「紅海の鯱を舐めるなよ……ここは俺の狩り場だ」
  この時のモラシムには、まだ十分の余裕があった。
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  場所を移して、地中海においてもファントムペインとザフトの間に戦端が開かれていた。スエズ基地を撤収し、急ぎディオキア基地へと撤退を開始したミネルバが敵の小規模艦隊とキプロス近くの海域で遭遇したのだ。
 「敵はどこから現れたの!?」
  突然の敵襲来にタリアは驚き、同じようにブリッジクールのほとんどが動揺していた。敵が紅海を抜けて殺到してきたというのならともかく、全く別の方角から現れたのである。
 「これはまさか!」
  アーサーが何かに思い当たったように声を上げた。
 「どうしたの、アーサー?」
 「敵は基地から逃げ出したのではなかったのです」
 「なんですって!」
  アーサーの考えによれば、敵艦隊が敵を放棄して逃げたことこそ擬態であり地中海の何処かに隠れていたに違いない。隠れた場所で時期を待ち、ザフト軍が焦土作戦により疲弊し、基地を放棄したところで一気に襲撃する、これこそが敵の真の作戦なのだ。
 「恐らく、スルト湾辺りに潜伏していたのでしょう。ジブラルタル艦隊の航路からも外れてますし、姿を隠すにはもってこいです」
 「初めから私たちは、敵の手の中で踊らされてたってわけね……」
  歯ぎしりしながらタリアが答える。
  というのも、敵が少数とはいえ今のミネルバはほんの僅かな艦艇を指揮するだけの小集団に過ぎない。分艦隊の大半はモラシムが持って行ってしまい、今ミネルバの周囲にはオズゴロフ級が二隻しかいないのだ。対する敵は倍以上の艦艇が確認されている。
 「モビルスーツ各機発進! 全力を持って敵艦隊を叩け!」
  ミネルバだけなら、その足の速さに頼って逃げることは出来たかも知れない。だが、幕艦である二隻を見捨てて逃げるわけにも行かず、ミネルバは不利な戦いを強いられることとなった。
 「海中部隊は、オズゴロフ級に搭載されている艦載機に任すしかない。俺達は敵のウィンダム隊だけに専念するぞ」
  ハイネは出撃準備を急ぐパイロットたちに、大まかな対応策を伝えた。
 「レイとルナマリアはあくまで後方支援だ。グゥルの機動力を考えて、無理はするなよ」
  前衛として敵モビルスーツ隊と戦うのはハイネのセイバー、アスランのジャスティス、オデルのジェミナス、シンのインパルスと計4機だ。いずれもエースパイロットと最高の機体ではあるのだが、敵の数はそれを遙かに上回っている。
 それどころか、この時彼らが遭遇した艦隊にも三人のエースパイロットが存在していた。
 「モビルスーツ隊出撃準備、指揮はスウェンに任せる」
  そう、ミネルバに対して戦いを挑んできたのはホアキン中佐が指揮する艦隊だった。彼はファントムペインに対して何かと因縁のあるこの相手を、自ら志願し、倒すためにヘブンズベースからわざわざやってきたのだ。
 「ミネルバよ、今日こそ貴様の最後だ」
  ホアキンは呟くと、全艦に砲撃開始の命令を飛ばした。
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  クレタにおいて艦隊を集結させ、撤退の準備をいち早く終えジブラルタルへと帰投を開始していたウィラード艦隊にも、ファントムペインによる攻撃が開始されていた。イオニア海を進むジブラルタル軍は側背から現れた敵艦隊に猛撃を喰らった。
 「どうやら敵はアドリア海に身を潜めていたようだな。ワシとしたことが迂闊だった」
  ウィラードは弛んだ顎をなで回しながら、苦々しげに呟いた。スエズ艦隊はどうやら艦隊を二分させ、それぞれ別の場所に潜ませていたらしい。
 「閣下、どうなさいますか!?」
  焦ったように副官が訪ねてくるが、ウィラードはまだ冷静だった。撤退準備を早期に終えていたこともあり、遭遇戦の対して素早い対応をすることが出来たのだ。
 「今はひたすら逃げるしかあるまい。砲火を拡散して敵の前進を阻み、急ぎジブラルタルへと戻るしかあるまい」
  ジブラルタルへは至急応援を寄こすように通信を送ったが、果たして送ってくるかどうか。仮に送ってきたとして、その時にはもう自分たちがやられてしまっている可能性も十分にある。
 「これは……ダメかもしれんな」
  ウィラードは思わず悲観的な言葉をいってしまったが、幸いそれを聞いた者は誰もいなかった。
  そして、そんなウィラードに対し攻撃を仕掛けたのはネオ・ロアノークが指揮する艦隊だった。彼はホアキンと共にスエズ基地に赴き、艦隊の大部分の指揮を任されていた。
 「さすがはザフトの宿将だ。戦うことを考えずに、逃げることを第一にしているな」
  相手が戦う気満々であるのなら、ネオは全力を持ってこれに対抗したであろうが、ほとんど隙を見せずに後退していく敵艦隊に舌打ちせずにはいられなかった。
 「敵の砲火は拡散されている分、威力がない。装甲の厚い艦を前面に出して、逃げる敵艦隊を追い散らせ!」
  その間に、スティング・オークレーが指揮する空戦モビルスーツ隊と、アウル・ニーダが指揮する海中モビルスーツ隊が出撃準備をさせた。モビルスーツであれば、逃げる敵に追いすがり捕らえることも可能なはずだ。 
 
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  旗艦のパイロットたちが待機する場所に、ステラとアウルがいた。先ほどまでスティングもいたのだが、彼は出撃命令が出ると同時に飛び出していった。アウルにも出ているのだが、「先に行ってくれ」とスティングを先に行かせた。
 「行かなくて良いの?」
  不思議そうにステラが訪ねる。彼女は今回、居残り組である。彼女の機体は空も飛べなければ泳ぐことも出来ない陸戦型である。海中モビルスーツも動かせなくはないが、敢えて不慣れな物に乗る必要はないと、ネオが判断したのだ。
 「ステラ……」
  アウルの顔は、どこか思い詰めたような、緊張の面持ちだった。
 「何?」
  問い返すステラに、アウルは息を呑む。彼はここ数日、ステラの精神が酷く不安定なことを知っていた。
 
  そう、あのラクス・クラインを誘拐するために行動を起こした事件の日以来、ステラは何かが変わってしまった。酷く沈んだような、失望と絶望を折り合わせたような表情、身体は脱力しきっており、受け答えも上の空。
  スティングは、ネオの役に立てなかったことを悔やんでいるのだというが、アウルはそうは思わない。きっと、何かあったのだ。彼女の精神を狂わせる衝撃的な……悲しい出来事が。現にアウルは、テロ事件の失敗の翌日、ヘブンズベースへと戻る船の中で、彼女が泣いているのを目撃している。
  何故だか、凄く気になった。
  理由は上手く説明できないが、ステラが泣いているのを見て、その理由が知りたくなった。そして、それを誰にも打ち明けないことが、非常に腹立たしかった。
  確かに自分は、ネオやスティングほどステラに好かれているとは思えない。それどころか、もしかしたら嫌われているかも知れないし、欠片も好かれてない気もする。だが、アウルにとってステラはロドニアにあったラボからの、大事な友人だ。ステラが信頼しているネオよりも、ずっとずっと付き合いは長いのだ。
  この時、アウルの中に生まれた感情は奇妙なものだった。
  ステラが抱えている何かを、殴ってでも聞き出したいという気持ちと、彼女に手を挙げる事なんて出来ないという気持ち、聞き出すことで彼女が信頼しているネオよりも彼女と親しくなれるのではないかという秘密の共有、しかし彼女に触れることで壊してしまうのではないかという恐怖感、そして……
  ステラのことをもっと知りたいという好奇心、ステラの心にいる何かを排除したいという劣等感、ステラを誰にも渡したくないという独占欲が、アウルの中には芽生えつつあった。
  本人は、これがどういう気持ちなのか、説明が出来ない。ただ、自分には理解不能な複雑な気持ちが絡み合っていることだけは確かだった。
 「ステラ、後で話がある」
 「話?」
 「後で、どうしてもお前に言いたいことがあるんだ」
  聞きたいことではなくて、言いたいこと。何故、自分がそのようなことを言ったのか、アウル自身判らなかった。
 「この戦闘から帰ってきたら、話があるから、ちゃんと、ちゃんと聞いてくれよ!」
 「う、うん。わかった……」
  いつになく熱のこもったアウルに、気圧されるようにステラは頷いた。アウルはそれを確認すると、さっと扉の方へ駆け出た。
 「じゃあ、行ってくる!」
  アウルがステラに対して抱いた気持ちは、彼には複雑だったが、言葉にするとたった一言で終わるものだった。たった一言、それに気付くことが出来れば、アウルはもう少し素直に慣れたのかも知れない。
  だが、アウルがそれに気付くことは、一生無かった。
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  地表にて、リニアガン・タンクの大軍と戦うこととなったヨアヒム・ラドル指揮するマハムール艦隊は、意外な苦戦を強いられていた。既に三度、モビルスーツによる突撃が行われたが、そのこと如くが跳ね飛ばされた。 
 「敵はモビルスーツじゃないんだぞ。何を手間取っている!」
  敵のリニアガン・タンクは数の有利さを十分に活かした横列陣をいくつも引いており、向かい来る敵を長距離砲でもある電磁砲を使って撃ち崩した。正面から突っ込んでくる敵に対して連続砲撃を浴びせるだけなのだから、これほど簡単なものはない。バクゥやザウートは後退しては粘り強く突撃を続けていたが、これでは数を減らすだけである。
 「がむしゃらに突っ込むだけだから苦戦しているのだ! 部隊を密集させて砲火を一点に集中しろ」
  正しい選択でもあり、間違った選択でもある。ラドルは戦力を密集させることで攻撃力・防御力の強化を図ったが、この時、敵が密集したモビルスーツ隊に一点集中砲火を浴びせかければ、ザフト軍は総崩れになったかも知れない。ラドルにしてもそれを考えないではなかったが、元々数においてこちは敵より少ないのだ。それが分散していては、各個撃破の的となるだけである。
 「その方がまだマシだ」
  旗艦レセップス級戦艦『デズモンド』にて指揮を行っていたが、ラドルは敵の一斉攻撃に対抗するべく周囲の艦隊を集め、艦砲射撃とミサイルによる反撃も考えたが、敵は仕掛けてこなかった。それどころか、もっと恐るべき手段を使ってきた。
 「こ、これは!」
  戦闘開始から方向のため叫びっぱなしで、声もそろそろ枯れてきたオペレーターがそれまでよりも大きく声を上げた。
 「どうした?」
  ラドルは指揮座から身を乗り出して訪ねる。
 「敵の一部が各所で急速に移動を開始しています。これはまさか、我が艦隊を包囲するつもりでは!?」
 「しまった、その手があったか!」
  ラドルが兵力を密集させたことにより、広範囲での攻勢を必要としなくなった敵軍が陣形を広げ、マハムール艦隊を包囲するため動き始めたのだ。ラドルは慌ててこれを阻もうとし、移動する敵部隊に対して攻撃を加えた。それによって、リニアガン・タンクのいくつかは破壊されたのだが、その犠牲を払って敵は包囲網を完成させたのだ。
 「隊長、我が軍は敵の完全な包囲下にありますぞ!」
  うわずった声で副官が言うが、そんなことはラドルも判ってる。
 「敵将はなかなかに狡猾な奴だな……効率的で、必ず敵に勝てる戦術を駆使してくる」
  敵ながら賞賛に値するとはこの事か。ただ数で押すだけではなく、ちゃんとした戦術を使うことで、確実にマハムール艦隊を追いつめている。
 「これだけリニアガン・タンク部隊を上手く使うとは、敵将は一体――?」
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  ラドルによって賞賛された、このリニアガン・タンク部隊の大軍を指揮するのはモーガン・シュバリエ、『月下の狂犬』とあだ名される男だった。
 「敵の指揮官、なかなかの手練れだな。だが、残念なことに陣容が薄い」
  モーガンは旧連合はユーラシア連邦に所属する軍人で、前大戦時はリニアガン・タンクで構成された戦車部隊を率いて戦っていた。夜戦を得意とし、敵の作戦を完全に読む戦略家である彼についたのが月下の狂犬という異名であり、多数を指揮する能力と、敵戦力の位置把握において比類無い存在だった。
  モーガンはユーラシア連邦に所属する身であるが故、大西洋連邦に属しているといっていいファントムペインに対し、あまり良い感情は持っていなかったが、今回の作戦への参加を命じられ、断ることが出来なかった。前大戦時、大西洋連邦側の独断でユーラシア連邦にあったアラスカが自爆させられて以来、何かと国の政治力が弱まってしまったのだ。
 「まあ、連中に借りを作っておくのも悪くはないか」
  今回の戦いを行うに当たって、モーガンは敢えてモビルスーツではなくリニアガン・タンクを使用することを決めた。これは、地上戦において旧連合及びファントムペインの持つモビルスーツがザフトのそれと比べて性能が落ちることと、急場においても十分な数を揃えることが出来ることが利点だった。彼はスエズの陸上戦力に加えて、ビクトリア宇宙港に駐留する部隊からもリニアガン・タンクを招集した。これは人間真理の面白さと言うべきか、モビルスーツを貸せと言えば嫌がる奴も、リニアガン・タンクを貸せと言えば案外すんなりと貸すのだ。いつの間にか人の間にモビルスーツの方がリニアガン・タンクより圧倒的に強いという図式が生まれた結果だが、モーガンはそうは思わない。彼に言わせれば、戦場次第ではモビルスーツよりもリニアガン・タンクのほうがよっぽど強い。現に彼は、それを証明しつつある。
 「敵は完全にこちらの包囲下だ。長距離砲でも打ち続ければ必ず当たる。確実に敵を仕留めろよ」
  モーガンも、そして彼が指揮する部隊も、活力に満ちていた。敵よりも多い数で、包囲網が完全なものとなった今、士気は頗る高まっていた。何より、ザフトと違って補給物資はタップリあるので、その分の精神的重圧が存在しなかったのだ。 
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