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Azrail_If_74_第06話

Last-modified: 2007-11-09 (金) 21:59:55

「ザフト空母艦隊が北大西洋に集結中です。進路、地中海方面…ジブラルタルに向かっています」
各種CIC機器が並ぶブリッジは、一瞬静寂に包まれた。
「本国への橋頭堡を築かせる訳にはいかん。総員コンデションレッド発令」
「ホセ中将…本国との回線が開きました」
その言葉と同時に、ユーラシア連邦統一海軍中将である、彼、フィリップ・ホセの専用端末にユスーポフ
大統領の疲れたような顔が浮かぶ。
「何故、ここまでの進入を許したのだ! もし地中海へザフトの進出を許したら、私は治安を維持する
自信は無いぞ…!」
「その時は…」
にやりとホセは続ける。
「軍政を敷くべきでしょうな。軍は全面的に…大統領、貴方を支持しますよ」
「なっ…!?」
ユスーポフ大統領が恐慌に陥る、間際。
「冗談ですよ大統領。統一海軍の威信にかけて地中海への進出は許しません」
その後、幾つかのやり取りの後、ホセ中将に統一海軍の全権が委譲された。

第一次カサブランカ沖海戦は当所、連合の空母艦隊より飛び立った重武装スピアヘッドによるザフト空母護衛
艦隊への爆撃で幕を開けた。
空中戦力に乏しいザフトはその主戦力を、潜水空母艦隊へと搭載している事から、連合としても決定打に欠ける
攻撃を繰り返し、それでもザフトの護衛艦隊はほぼ壊滅させた。
無傷の潜水空母艦隊は、着実に連合艦隊へと距離を縮めて行く。
「…! 空母チェザーレ撃沈…ッ!」
ホセは隣に立つ副官へと向き直る。
「な…何処からの攻撃だ…!」
「ふ、不明です…!」
その時、旗艦ノブゴロドのブリッジが大きく揺れる。
CICが「エドワード撃沈しました!」と叫んだ瞬間。
轟音と共に、ノブゴロドのブリッジが傾き始める。
側壁に打ち付けられ、頭部から血を流しながらホセは副官の姿を探した。
負傷したホセに駆け寄りながら、副官は彼の頭部に自らの軍服の裾を破り、その傷に添えた。
「提督…! 攻撃はか、海中から行われています…!」
「海中から、か…。どうやら我々はザフトの技術を甘く見すぎていたという事だな」
薄らぐ意識を必死に繋ぎ止めながら、ホセは長年連れ添った副官に最後の命令を下した。
「…君は生きてこの情報を上に伝えてくれ……頼んだぞ」

ユーラシア連合統一海軍が壊滅したのはその18分後の事であった。
ザフトはその新兵器である水中用MSグーンの性能を発揮し、こうしてザフトは地中海への進出
を果たした。
ユーラシアは喉元にナイフを突きつけられた形で、苦しい戦いを続けることとなる。

『蒼い血或いはノブレス・オブリュージュ6』

「了解しましたよ大統領。僕にお任せ下さい」
端末をオフにしながら、人差し指でトントンと机を叩きながら、アズラエルは黙想する。
ようやく、ベットから解放され、デトロイトの某所に位置する何時もの執務室に帰り、そこで
執務を執るアズラエルであったが、退院直後のアッシュ大西洋連邦大統領からの知らせと要請
にその苛立ちを募らせていた。
僕は何でも屋じゃないんですよ…とぶつぶつ呟きながらも、端末を叩きつづける。
ユーラシア連邦大統領が、大西洋連邦大統領であるアッシュを急かし、そのアッシュがアズラ
エルに物事を丸投げするという、連鎖構造であった。
軍需産業理事と言っても、上から丸投げされた案件に肉付けし、それを具体化して行く事が、
アズラエルの主要な業務でもあり、アズラエルはそれに不満を述べつつも、着実に仕事はこなし、
今の地位を築いてきた。
ぶつぶつと、アズラエルの独り言だけが、室内に響き、時間は過ぎてゆく。
時間が来ると、アズラエルは痛み止めの薬を空っぽの胃にコーヒーと共に流し込んで行く。
そのアズラエルの酷使された脳髄から一つのアイデアがロゴスに提出される。

時間が来ると、アズラエルは部屋の照明を落し、自らの端末を白壁に向ける。
埃の粒子が、煌く光の中、ひらひら舞うのを見つめながら、溜息をついた。
「さて、今回は理事からの提案である地球連合正式航空機の見直し案についてだが…」
壁に映し出されたグリッドには、ロゴスの構成員が映し出される。
モニター越しの会議、アズラエルから言わせれば時間の無駄、がこうして始まった。

ロゴスの面々との会議を終え、モニターの光が消えた暗闇の中、アズラエルは瞑目する。
今回の彼の提案は是認され、大統領に上げられる。
後は、財団と政府の技術者間の実務的な交流に終始するので、実質この案件はアズラエルの
手から離れた。
突然、照明が灯る。
「お疲れのようですが大丈夫ですか。Mrアズラエル」
瞼を開き、扉の方へ向き直る。
隣の部屋で控え、彼の業務をサポートしている女性、セレーネ・マクグリフがそこには立っていた。

一月前。

「義足の具合も良いようですね」
「Dr…貴女のお陰ですよ」
長期間ベットの上にあった肉体はその行使に悲鳴を上げている。
以前より、少しだけゆったりとした歩行速度で歩く分には既に、支障は存在しなかった。
何時ものように、日中の業務を終えた後、アズラエルはセレーネと共に、貸切のリハビリ室を
ゆっくりと肩を並べながら歩いている。
アズラエルの歩行速度や歩幅などを端末機器により測定しながら、セレーネは微笑む。
「どうやらMrアズラエル…退院が近づいて来たようですね」
肩を竦め、アズラエルはやれやれと溜息を付いた。
「ようやくですね。もう病院の天井には飽き飽きしていた所です」
「退院後の細かい処方は書いておきますから。それを後任の医師にお渡し下さい」
「……」
ふと、アズラエルは口をつぐみ、休憩用のベンチを見つけると、そこに腰を下ろす。
セレーネも少し距離を取りながら、そのベンチに腰掛けた。
以前、体験した深い沈黙の中、セレーネは居心地の悪さを感じる。
やはり…不快なのだろうか。
「Dr…いや、セレーネさん。僕のお願いを一つ聞いて貰えますか…?」
突然、沈黙の帳を破るかのように、アズラエルはぽつりと口にする。
「私に出来る事でしたら」
と、セレーネは少しだけ不安を覚えながら答えた。
アズラエルはセレーネから顔を背け、小さく呟く。
「いや、貴女に僕の秘書を勤めて貰いたいんですよ」
驚き、しかし反射的にセレーネは拒絶した。
「…私は医師です。政治的な事は分らないし興味ありません」
「僕が頼んでも駄目ですか。この僕が」
「Mrアズラエル。無理なものは無理です」
「……」
「……」
ポケットに手を差し入れ、アズラエルは折りたたんだ紙片を取り出す。
「DSSPへの外部オブザーバーとしての参加及び計画案策定…それに、システム上流研究員としての
地位を用意すると言ったら、セレーネさん、どうしますか?」
セレーネにその紙片を差し出す。
それはDSSPへのアズラエル財団の資金投入割合を示すものであった。
全体の60%以上の資金を投入しているアズラエル財団はDSSPへの直接的な指揮介入権は無いものの、
その研究の方向性を暗喩し、自らの息のかかったスタッフを送り込む事は容易であり、それはすぐに
セレーネにも理解出来た。
「当然、暫くは僕の傍で勤めてもらうので、遠隔スタッフとしての参加ですが…まあ、問題は無いん
じゃないですか」
「……」
無意識のうちに唇を噛み、セレーネは俯く。
答えを待つように、アズラエルは沈黙した。

宇宙『そら』への夢を叶える為。
私は悪魔にでも魂を売るであろう。
幼い頃よりも何度も何度も想い浮かべ、そうして大人になってからも想い浮かべていた、夢。
その夢が突然、現実のものとなり、セレーネは戸惑った。
戸惑いながらも、冷静に思考の糸を巡らせる。
そうして暫く黙考しながらも、セレーネは自分がどう答えるか、答えが分っていた。

メフィストフェレスと契約するファウストのように、セレーネの気持ちに迷いは無い。
「…私で宜しければ。微力は尽くします」
アズラエルはにっこりと微笑み、セレーネの手を取り囁いた。
「後悔はさせませんよ…セレーネさん」