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BRAVE-SEED_勇者戦艦ジェイアスカ_第05話

Last-modified: 2010-11-26 (金) 15:30:15
 

 アメノミハシラ軍機動部隊所属のシルバーウイングとゴールドウイング。
それぞれ高速戦闘機と攻撃機に変形する彼女らは、アメノミハシラ軍の旗機を務めることを
主眼に置かれているため、ミハシラの指導者であり優れたパイロットでもある、
ロンド姉弟をモデル人格として形成された超AIを搭載しており、
その卓越したコンビネーション能力は量産型無人MSムラサメとの連携も相まって
遺憾なく発揮されている。
 そして彼女らはそれだけに留まらず、二機がそれぞれ半身を構成する左右合体、
シンメトリカルドッキングを行うことで、ミハシラ軍最大の威力を誇るメガトンツール
“ディストーションバスター”の使用というその真価を最大限発揮できるようになるのだ。
『シンメトリカル・ドッキング!!』
 モルゲンレーテ地下に設けられたMS室内演習場。充分な広さを持つそこでスタッフたちの見守る中、
彼女らはお互い力強く地を蹴って、合体フォーメーションへ移行する。
 だが────
「ぐあああっ!」「だあああっ!」
 結果は無残な失敗。二機は変形すら出来ずに衝突すると、轟音と共に大地へ倒れ伏した。
即座に回収され、損傷をチェックされるシルバーウイングとゴールドウイング。
 その様子をモニターしていたシモンズ夫妻と、超AIを始めとして彼等ビークルロボの
開発に携わっていた獅子王麗雄博士は、遅々として進展せぬ訓練に頭を抱えていた。
「どうして成功しないんだろう? シミュレーションでも設計上でもなんら問題は無い筈なのに……」
「同調率も90%以上をキープしておる。残る問題は……」
 ジュエルジェネレーターの出力不足から、未だ彼等は一度として合体に成功してはいなかった────

 
 

勇者戦艦ジェイアスカ No.05『その名は天(アマツ)』

 
 

「どうだ、ジェイダーの生写真だぞぉ~!」
「すっげぇ~!」
 朝のホームルームを控えた教室で、リュウタは父親からもらった写真を自慢していた。
普段はTVや新聞で断片的にしか見ることのできないそれが、今では鮮明に彼の手の中にある。
 先日モルゲンレーテをゾンダーが襲撃したことは記憶に新しいが、あの状況で彼等を
写真に収める余裕のある人間が存在していようとは! 級友たちはお宝といってもいいそれを
手に入れたリュウタを羨望の眼差しで見つめた。
 イチコを筆頭とした女子たちがその様子に呆れている中、不意にジェイダーブレスが
メッセージを受信する。手首に伝わる振動でそれに気付いたマユは、駆け込んだトイレで
それを確認して我が目を疑った。

 

 首都オロファトと、国営企業モルゲンレーテに面した広大な軍港を擁するオーブの中心地オノゴロ島。
東側の都市部からモルゲンレーテの在る西側へと伸ばされたトンネルの中を、
一台の赤いバイクが道行く車の間隙を巧みにすり抜けて疾走していた。
 運転しているのはソルダートJだ。しかしその姿はいつものプロテクターではなく、
ライトグレーのロングコートにジーンズ姿である。年の頃は二十歳前後だろうか。
ヘルメットも被らず、風に撫でられるままの無造作な黒髪に個性的な赤い目と、
まだ少年らしさを残す整った東洋系の顔立ち。
カットされた袖からは、アルビノ気味の白い肌と、ここだけは普段通りの、
左腕を肘まで覆うJジュエルの埋め込まれた白い手甲ジェイブレスが覗いている。
 その細身の身体は一見華奢に見えるものの、よくよく見れば内側には
ワイヤーのように絞り込まれた筋肉が息づいているのが判るだろう。
 彼は一人ではなく、後部座席にマユを同乗させていた。こちらは安全のためか
しっかりとフルフェイスヘルメットを被っている。
 彼等の乗るバイクはトンネル内でわき道に逸れると、そのまま地下へと向かっていく。
その先にはモルゲンレーテと繋がる秘密の通路が存在していた。
 バイクが向かった地下300メートルの位置、モルゲンレーテと軍令部から延びる
秘密の直通ルートが引かれた場所に、ミハシラ軍オノゴロベースは人知れず設けられていた。
 同乗していた少女マユ・アスカは、モルゲンレーテの制服である
お馴染みの赤いジャンパーに着替えたJに連れられて、厳重なセキュリティに守られたその場所を訪れていた。
 本来そこへ入るには網膜と声紋の照合が必要だが、彼はジェイブレスという
絶対に奪われず複製される心配も無い認識票を所持しているため、その必要は無い。
 センサーに左腕のJジュエルをかざすことでエレベーターが作動し、マユとJは
オノゴロベースのメインオーダールームへ降りてゆく。先程の緊張など何処へやら、
実際にはじめて目にする秘密基地というものに眼を輝かせるマユの様子を、
Jはその赤い目を細めて微笑ましく見つめていた。
 ドアが開いた先では、ロンド・ギナを始めとしたオーダールームのメインスタッフたちが
勢揃いして彼女たちを出迎えてくれた。
「ようこそマユ・アスカ、ミハシラ軍ジオベースへ。我らは貴殿を歓迎する」
「はい! お招きにあずかりまことにありがとうございます!!」
「そう硬くならずともよい。皆のものを紹介しよう」
 ギナの190センチという威圧感すら覚える長身にも怯まず、マユは礼儀正しくも
元気良く挨拶する。だが、スタッフの中に見知った顔を見つけて彼女は仰天した。
「────シモンズ君とこのおじさんとおばさん!?」
「やあ、マユちゃん。いつもうちのリュウタがお世話になってます」
「おどろいたでしょう? あ、このことはアスカさんたちには内緒にしててね」
 クラスメートと良く似た丸っこい体型の、熊のような愛嬌のある中年男性と、
その妻である女性がにこやかに挨拶を返す。マユの母と同年代とは思えないくらい若々しく綺麗な人だ。
「知り合いだったか。だが案ずるな、そなたの秘密は関係者以外には決して口外せん」
「では改めまして、ミハシラ軍整備班チーフ、ナガオ・シモンズです。
 僕はMSなんかの機動兵器や艦の整備と、発進管制を担当しているんだ。よろしくね」
「同じく機動部隊担当オペレーター、エリカ・シモンズよ。私は機動兵器の設計開発、
 戦闘中は機動兵器のコンディションチェックを担当しているわ」
 次いで、知人がいたために後回しにされた彼の順番が回ってくる。
「そして作戦参謀ユウナ・ロマ・セイラン」
「ミハシラの作戦は僕が立てているよ。マユちゃん、この前は僕の父を助けてくれて、
 どうもありがとうね」
「スーパーバイザーの獅子王麗雄博士」
「よろしくな、マユ・アスカ君」
 ロンド・ギナに紹介され、年甲斐も無く赤いジャケットを着こなしている白髭の小柄な老人が
にこやかに手を振った。彼は超AIやビークルロボ、基地で使用されている医療機器の開発、
そしてソルダートJから提供された赤の星の技術解析に携わっており、戦闘時には敵の分析を担当している。
 ロボット工学をはじめとして物理学、材料工学や電子工学など、多岐にわたる分野のエキスパートである。
「情報分析担当オペレーター、パピヨン・ノワール」
「よろしく、マユ・アスカさん」
 続いて、褐色の肌に短く切りそろえられた淡い色の髪を持つ、眼鏡の美女が微笑みながら手を振った。
生物学者を母に持ち、自らも生体医工学を修める彼女は、獅子王博士の有能なアシスタントでもある。
 そして最後にギナが改めて自己紹介した。
「そしてこの私がミハシラ軍司令ロンド・ギナ・サハクだ」
「マユ・アスカです! みなさんよろしくおねがいします!!」
 そういって頭を下げるマユの姿を、オーダールームの一同は温かく受け入れた。
ゾンダーを人間へ戻す浄解能力を持つ彼女は、対ゾンダー戦における最重要人物であり、
かつ彼等が守らなければならない幼い市民でもある。
 ゾンダーという外宇宙から迫りくる恐るべき脅威を前に、立ち向かう力を与えてくれたソルダートJ。
その助けには感謝してもし足りない。
 そして今までオーブとともに、彼が全力で守り抜いてきたマユ・アスカ。
人類全ての平和のためにも、彼等の信頼を裏切るような真似だけは絶対にしてはならないのだ。

 

「────でも家に来たときはおどろいちゃった。Jさんが変身できるなんて、
 マユぜんぜん思わなかったよ!」
「あの格好で出歩くと流石に怪しまれるからな。普段は素顔なんだ」
「こんなにかっこいいならもっと早く教えてくれればよかったのにー」
「マユみたいな可愛い子に懐かれるんなら、前からそうしてたほうがよかったかもな」
「もう、Jさんったら! からかわないでよぉ」
 素敵なおにいさんの登場でキラキラと眼を輝かせるマユに、Jはそう冗談めかして返しながら、
照れて真っ赤になる彼女の髪を猫のようにわしわしと撫でた。
 その後マユたちは食堂などの生活区画をはじめとして、オノゴロベースの各部を見学しながら
格納庫へとやってきた。そこには先日大活躍を見せたミハシラウイングスたちが、
ビークルモードで翼を休めている。
「わあ……」
『む? そこにいるのは確か……ソルダートJとマユ・アスカだったな』
『我らに何か用か?』
「わ、飛行機がしゃべった!」
 翼端のライトを光らせながら、不意に声を発したシルバーウイングとゴールドウイングに、
マユは目をまんまるにして驚いた。
『驚かせてしまったか。我が名はシルバーウイング、隣が弟の────』
『ゴールドウイングだ。我らはミハシラ軍機動部隊の中核を担う超AIビークルロボットだ』
 その答えに首をかしげたものの、Jから人が乗ってなくても動くロボットのことだと説明され、
マユはジェイアークのトモロみたいなものかと納得した。
「後ろに並んでるムラサメたちも、無人機なんだぞ」
「そっか、マユてっきりロンド様がどこかに隠れてるのかと思っちゃったよ」
「勘違いするのも無理ないな。こいつらは二人とも、ロンド・サハクがモデルになってるんだ」
「でもシルバーウイングは女の人だよね、どうして?」
『我が人格モデルとなったロンド・ミナ・サハクは、ロンド・ギナ司令の姉上だ。
 故にどちらもロンド・サハクがモデルということで間違いではない』
 ロンド様ってお姉さんがいたんだ。でも姉弟で名前がそっくりだなんてめんどくさそう。
そんなことを思いながら、マユは彼等に会えたら言おうと思っていた言葉を思い出す。
「そうだ、二人とムラサメのみんな、この間はジェイダーを助けてくれてどうもありがとう!」
『気にすることはない、我らは命令に従ったまでだ』
『オーブの防衛は我らの使命だからな。わざわざそなたが礼を言う必要など無い』
「それでも助けてもらったらお礼を言わなきゃダメだよ。ロボットでも恩人は恩人だもん」
 礼を言うマユだったが、わいわいがやがや返事をかえしてくれたムラサメたちとは異なり、
シルバー、ゴールドの二機はどこか元気がない様子で、ビークルモードでありながら
心なしかうなだれているように見えた。

 

□□□□

 

 MSとの戦闘で真っ二つに斬り裂かれ、海底付近を漂流し続けるザフトのボズゴロフ級潜水艦の中で、
辛うじて命脈を保っていた生存者が慟哭していた。酸素は残り少なく、恐怖に震えるその叫びが
断末魔へと変わるのは時間の問題といえる。無神論者でも神に祈りを捧げ、
藁にも縋り付きたくなるそんな時、神ならぬ悪魔が手を差し伸べた。
「死にたくないしにたくないシニタクナイ……どうして儂がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!?
 それもこれも、あのジャンク屋がレアメタルを横取りするから……!」
『助けてあげましょうか?』
 聴こえる筈のない少女の声を耳にして、彼はついに自らが発狂したかと観念する。
いつの間にか目の前には、深い紺色のゴシックドレスに身を包む、人形めいた美貌の
幼い少女が立っていたのだ。
「ふは、ふははははははははは……お迎えなんてものはバカなナチュラルの
 迷信だとばかり思っていたが、よもや本当に在るとはな!
 どうせならこんなチンチクリンではなく胸のデカイ美人を寄越せばいいものを。
 アッハッハッハ!!」
 恐怖のあまりおかしくなった艦長を欠片も気遣うことなく、機界四天王最後の一人ピルエッタは、
人形の如く無感情に彼の額へとゾンダーメタルを押し付けた。

 

「それにしてもゾンダーにキングジェイダーねぇ……
 しばらく見ない間にずいぶん面白いことになってるみたいじゃない?」
「襲われるほうは堪ったもんじゃないわよ。今のご時勢じゃ軍に対応する余裕なんてないし、
 彼とその仲間たちだけが頼みの綱ね」
 オーブを訪れたエリカの旧友、プロフェッサーは記録映像を横目に
コーヒーを味わいながら、彼女と積もる話に花を咲かせていた。
同行してきたジャンク屋仲間の一行は、オーブ近海での戦闘で損傷し、やむなく寄港した
連合軍の新型艦アークエンジェルの修理に駆り出されている。
 野暮なツナギの上から白衣を纏ってはいるものの、その豊満な色香を隠しきれていない
見事なスタイルの彼女は、映し出されたキングジェイダーの姿に眼を細め、
左の泣きボクロも色っぽい眼鏡の奥の瞳を輝かせた。
「全長100メートル級の、変形合体する超巨大MSか……こんなのを実際に目撃なんてしたら、
 ロウが大はしゃぎするのが目に浮かぶわね」
「ロウって確かお仲間のジャンク屋だったっけ?」
「そう、天才メカニックにして大のメカマニア。新型や珍しい機体に目が無いのよね」
 連合とザフトとの戦いで崩壊したオーブの工業コロニー、ヘリオポリスから回収された
組み立て前のMSのフレームといくらかのパーツ。連合のMS開発に協力していたヘリオポリスが
戦闘に巻き込まれることを見越して、これの存在を彼女たちに知らせたのが他ならぬエリカである。
 プロフェッサーは友人に感謝していた。その情報のおかげでナチュラルでも操れるMSを
手に入れることが出来、仕事がやりやすくなったのだから。もっとも、余計なトラブルを
方々で背負い込むことになったのも否定はしない。
「まるでうちの子ね。キングジェイダーの大ファンなのよ、リュウタってば。
 うちの人もよく彼等の写真とか撮ってるし、血筋なのかしら?」
 そんな和やかな空気を、端末からけたたましく響くアラームが引き裂いた。
「ゴメン、用事が入ったみたい。しばらく席を外すわ」
 ゾンダーの出現を告げるそれを耳にして、エリカはオーダールームへと急いだ。

 

「ノワール、状況はどうなっている?」
「敵ゾンダーはオーブ西側の海域A地点に出現、現在迎撃に出たキングジェイダーが応戦中。
 だいぶ変化していますが形状から推測して、ザフトのボズゴロフ級潜水艦と融合したものと思われます」
 正面のメインモニターには、偵察機によって撮影されたゾンダーの画像データが
鮮明に映し出されている。艦首両脇に四つのMS発進口を備えた特徴的な姿は、
確かにボズゴロフ級と良く似ている。
「よろしい、ミハシラウイングスを対潜装備で出せ! 空中空母タケミナカタ、
 万能補給艦トヨタマヒメ発進!!」
「了解! 空中空母タケミナカタ、万能補給艦トヨタマヒメ発進します!!」
 その号令の下、シークレットポートに接岸された二隻の艦が切り離された。
タケミナカタは艦体を展開しつつ海面へ、一方トヨタマヒメも同じように展開し、
艦首にドリルを備えた威容をさらけ出してその後を追う。

 

「メガ・フュージョン! ……キングッ、ジェイダー!!」
 合体を終えたキングジェイダーは大海原へ降り立つと、海面へ浮上し波を蹴立てて迫り来る、
巨鯨の如きゾンダーボズゴロフの眼前へ立ちはだかった。
 奴が元のスペック通りなら270メートルというこちらの三倍近い大きさだが、
キングジェイダーのパワーならば受け止めることは不可能でない。腰を落として両腕を広げ、
キングジェイダーは元のそれを遥かに上回る、ミサイルのような速度で突っ込んできた
ゾンダーへと果敢に立ち向かう。
《ジェネレーティングアーマー出力最大!》
「ぬうん!!」
 絶妙のタイミングで力を振り絞ったフィールドジェネレーティングアーマーと、
ゾンダーバリアが火花を散らしてぶつかり合い、ゾンダーの侵攻は阻止されたかに見えた────しかし。
「なにっ!?」
 ゾンダーボズゴロフの暗緑色の巨体が不意に揺らめいたかと思うと、
キングジェイダーの両腕から掻き消え、背後から忽然と現れたミサイルが彼を襲う。
ジェネレーティングアーマーのおかげで損傷は軽微だったが、なかなかに手強い相手のようだ。
《短時間ながらESウィンドウ発生を確認。今回のゾンダーは空間歪曲能力に特化した個体のようだ》
「この空間そのものが奴にとっては海。まさに潜水艦そのものってわけか……だけどな!」
 回し蹴りのようなフォームで脚部の発射管からES爆雷が散布され、辺りにESウィンドウを展開する。
いくら隠れるのが上手でも、こうなっては出てくるほか無い。ゾンダーボズゴロフは
たちまち通常空間に引きずり出されてしまった。
 すかさず敵の足を止めるべく指先の砲門を開き、背後から五連メーザー砲を撃ち掛けるが、
ゾンダーが間一髪再び潜行したために放たれた光条は空しくすり抜け、海面を爆ぜさせるのみだった。
「でかい図体の癖に、すばしっこい奴!」
「なんてチート!!」
 その様子にタケミナカタ艦橋のユウナはうろたえるも、上空に展開を終えたミハシラウイングスと共に
持てる手の限りを尽くすべく通信を送る。
『キングジェイダー、もう一度ESミサイルか爆雷で奴を引きずり出してくれないか?
 攻撃のタイミングはこちらで合わせる!』
「……任せた。もう一度やってみよう!」
 手数が大いに越したことは無い。こちらは敵を引っ張り出すことに専念して、
ありがたく力を貸してもらうことにしよう。だがその希望は背後からの攻撃により打ち砕かれてしまう。
「ぬあああああっ!?」
 突如海中から鎖が飛び出してきたかと思うと、キングジェイダーの首を始め、
四肢に次々絡み付いて全身のことごとくを拘束し、彼を水底へと引きずり込んだ。
その出所は不自然に開いた水中の穴────ESウィンドウ。それは亜空間の中で
手薬煉引いて待ち構えるゾンダーボズゴロフの船尾に続いていた。
「こんなものぉぉぉぉぉぉ!!」
 それを力任せに引きちぎろうとするキングジェイダーであったが、そうはさせじと
彼に群がる20メートル程の影があった。
 ESウィンドウから飛び出してきたその正体は、グーンやゾノといったザフトの水中用MS。
海底に眠っていた残骸から再生、複製された、ゾンダーボズゴロフの忠実な僕である。
ジェイアーク級に搭載されているセンサーならば、その存在に感づくことは容易かと思われるが、
ゾンダーは頻繁にウィンドウを開くことでジャミングとし、伏兵の存在をぎりぎりまで悟らせず
こちらのセンサーを巧みに欺いていたのだ。
 キングジェイダーの動きが封じられるのと同時に出撃し、後背を突いたゾンダーMSたちは、
キングジェイダーの脚部を重点的に攻め、あるものはハッチの継ぎ目にセメント様の充填剤を注ぎ込み、
またあるものは鎖の輪に鋭い爪を食い込ませてしがみつく。
「────まずい! ウイングス、早くその鎖を破壊しろぉ!!」
 攻撃箇所からゾンダーの狙いに気付いたユウナは指示を出すも、企みを阻止するには間に合わず、
無情にも海中のESウィンドウがその規模を拡大した。それとタイミングを合わせるように、
ゾンダーMSが全力を振り絞ってキングジェイダーをその中へと押し込むと、
鎖は切り離されてウィンドウも閉ざされた。
『やられた!!』
 モニターの中で机を叩き、目の前が闇黒に閉ざされたような表情で叫ぶユウナに、
ナガオは怪訝な目を向ける。
「参謀、キングジェイダーならあんなところに閉じ込められても、
 自力で亜空間から脱出できるんじゃないんですか?」
『シモンズ! 君は敵の行動を見てなかったのか? 奴等は────』
《全てのES爆雷、ミサイルの発射管が潰された。周囲にこちらの空間歪曲を妨害する
 フィールドが展開されているため、ESウィンドウを開くことも不可能となったぞ》
「バリア付きの鎖のせいで分離も不可能、アーマーを展開してもMSに張り付かれてしまっては
 ハッチそのものが開かない。鎖を切ろうにも、ごていねいに砲塔や指先まで塞いでいやがる……」
「そんな! どうすることもできないの?」
「安心しろ、マユ。絶対になんとかなるさ!」
 まったく身動きの取れない状態で、亜空間へと放り出されたキングジェイダーの中、
マユを勇気付け、起死回生の一手を模索するソルダートJ。だがこの状況で彼等に残された手は皆無に近い。
「俺たちに残された希望は────」
「シンメトリカルドッキングしか有るまい」
「危険すぎます! シミュレーションならともかく訓練では一度も成功していないんですよ!?」
「だがキングジェイダーも救えず、このままゾンダーを野放しにしていても結果は同じだろう?」
 成功したことの無いものをぶっつけ本番でやれなどという無茶を通そうとするギナに
難色を示すナガオだったが、博士もギナの意見に賛同する。
 上空を飛び交うミハシラウイングスたちは、浮上してきた一瞬を狙うべく
タイミングを見計らって攻撃を仕掛けていたものの、亜空間に潜むゾンダーの進撃を
微塵も食い止めることは出来ず、逆に安全な向こう側から一方的な攻撃を受けて徒に消耗するのみだ。
 量産のためにMSと同じ構造をとったのが災いしたのか、度重なる攻撃でかなりの数の
ムラサメが脱落しており、このままではミハシラウイングスの敗走は必至だ。
 この危機を救えるのは、合体して初めて使用可能となるメガトンツール、
ディストーションバスターをおいて他に無い。しかし────二機のジェネレーター出力は、
この期に及んでも規定値に達していなかった。
『ぐああああああああっ!!』
 善戦していたものの、ついにゾンダーからのミサイル攻撃を受け、残るムラサメ共々
アームズバルカンで弾幕を張っていたゴールドウイングが手傷を負った。
『ゴールドウイング!』
『これしきの損傷なぞ、大丈夫だ! だが、やはりドッキングを成功させなくては
 打つ手は無いというのか……?』
「シルバー、ゴールド……」
「ええい、不甲斐無いぞ貴様ら! それでも我らロンド・サハクの写し身か!!」
「お願いシルバー、ゴールド。キングジェイダーとマユちゃんを救ってあげて!!」
「ボクからも頼む、もはやオーブを救える者は君たちしか居ないんじゃ!!」
 ギナを始め、生みの親である獅子王博士とエリカ、ナガオたちといった、
支えてくれるオーダールームの面々の声を受け、シルバーウイングとゴールドウイングは
無力を恥じ、与えられた役割すら満足に果たせずにいる自らを深く責める。
『悔しい、な……ゴールドウイング』
『ああ、このAIの奥が燻るような感覚……堪らなく不愉快だ』
 彼女らの脳裏に、今までたった一人でこの国を守り続けてきてくれたソルダートJの勇姿と、
格納庫でロボットの自分たちを人間と同じように気にかけてくれたマユの笑顔が浮かんだ。
 彼等は今、ゾンダーの策に嵌まり未曾有の危機に晒されていた。そしてそれを救えるかどうかは、
シンメトリカルドッキングの成功に掛かっている。
 AIがそのことを反復するたびに、Jジュエルが赤々と輝きを増し、彼女らの心臓が熱量を帯びた。
命令を機械的にこなすだけでは決して得られない、立ちはだかる困難や仲間の危機を前にして
初めてAI(心)の底から湧き上がる感情。灼熱のマグマの如きそれを、人は闘志と呼んだ。
「ジェネレーター出力、上昇しています! 60……75……89……90%を超えました!!」
「いける、いけるぞぉ!!」
『往くぞゴールド!!』『応ともシルバー!!』
『シンメトリカルドッキング!!』
 二機の────否、“二人”の燃える闘志によって、その真の力を発揮した
ジュエルジェネレーターに後押しされるように、ビークルモードの彼女たちが変形を開始した。
 ────隊長をお守りしろ! 指一本触れさせるな!! わずかに生き残るムラサメたちが、
全身全霊を込めて弾幕を張り、ゾンダーを近づけまいと合体を支援する。
 背中合わせに錐揉み飛行する二人から、主翼とブースター、武装ユニットが分離し、
湾曲した垂直尾翼が根元の可動アームによって鏡写しのように反対側へスライドする。
シルバーウイングのものは左側、ゴールドウイングは機体の右側だ。
 そのまま背面飛行で互いの距離を詰める二人は、ガイドレーザーに導かれるまま背部の
ジョイントを噛み合わせ、一体となった。同時に機首が分離し、タービン部を構成していた両腕が
肘から折れ曲がってブロック状になり、本体に残されたインテークとともに合体後の胸部へ。
 水平尾翼を格納して真っ直ぐ伸びた脚部が90度転回、自らの大腿部と脹脛(ふくらはぎ)、
膝関節同士を噛み合わせることで、左右色違いの力強い両足となった。
 分離した機首が直角に折れ曲がって腕となりつつ、シールド状の武装ユニットや、
左右に分割されたブースターが変じた足首とともに本体へドッキングする。
 シャッターに覆われていた手首から拳が飛び出し、シールドが胸部に接続されるのと同時に、
その裏側に格納されていた頭部が起ちあがり、機械仕掛けの瞳に真赤な火が点る。
 合体は完全に成功だ。それを誇るように“彼”は拳を天に突き上げて、自らの名を高らかに叫んだ。
『天(アマツ)────ギナァ!!』
 背には切れ味鋭い大振りな二刀を負い、漆黒を基調に眩い金銀を左右にあしらったその姿、
まさに王者の風格。闘志を秘めたその瞳は鬼灯の如く赤々と燃え、口元を覆うのは
牙を模した意匠の黒鉄色をしたフェイスマスク。
 鋭く尖った鍔(つば)を持つ、帽子を被ったような頭部の中心には、
Jジュエルが第三の目とも思えるような、双眸と揃いの輝きを放っていた。
「成功だ……」「やったー!!」
「よしっ! ディストーションバスター射出!! キングジェイダーを救出しろ!!」
「了解! 万能補給艦タマトヨヒメ、ミラーカタパルト作動、ディストーションバスター射出します!!」
 喜びに浸る間も無く、間髪入れずに繰り出されるギナの指示。ナガオの操作の下、
タマトヨヒメの甲板が口を開き、天ギナの下へ白銀に輝くシリンダーが撃ち出される。
 コーティングの剥離とともに“彼”の両手の中へ収まったそれは、伸長と両側から
グリップの展開を終えるや、鉛色に鈍く輝く円筒形の大型砲へと変じた。
構えるのと同時に大砲の基部から接続端子が顔を出し、胸のミラー装甲から
遮光ウィンドウのように口を開いたコネクターへと接続される。
『ジュエルジェネレーター出力最大、エネルギーチェンバー正常に加圧中……』
 二基のジュエルジェネレーターがシンクロし、その持てる力の全てを
ディストーションバスターへと注ぎ込む。
内圧が増し、ライフリングの回転が早まるたびに、外宇宙からもたらされた超技術に基づいた、
精緻極まるメカニズムが唸りを上げて目を覚まし、抑え込まれた膨大な空間歪曲エネルギーが、
その内部で砲身を食い破らんばかりに渦を巻く。
『ディストーションバスター、発射!!』
 砲身が自壊するかと思えた刹那、トリガーは引き絞られ、荒ぶる獣はその檻から解き放たれ
存分に牙を剥いた。
 されど開放されたエネルギーは、ゾンダーにはなんらダメージを与えない。
そのまま敵を素通りするや、キングジェイダーが引きずり込まれた地点と、
発射した天ギナとの中間点に留まった光球は、そこから爆発的に規模を拡大する。
 限界まで圧縮されていた反発フィールドと固縛フィールドが、その場の空間を歪ませて綻びを生み、
通常空間と亜空間を一気に反転させた。それは亜空間に在るものをこちらへ呼び戻すことにも繋がる。
 凹面鏡や凸面鏡に映りこんだような歪んだ像を結びつつ、キングジェイダーはオーブの海へと帰還した。
先程まで亜空間を我が物顔で遊泳していたゾンダーボズゴロフのオマケ付だ。
「すごい……二人とも、合体しちゃった!」
「やったな! ウイング姉弟!!」
「よし! 無事なムラサメ隊はキングジェイダーにへばり付いたMSを削ぎ落とせ!!」
 ユウナの迅速な指示の下、キングジェイダー目掛けてバリアー分解弾頭が発射されたことで、
動きを妨げていた鉄鎖はその強度を失い、巨神の剛力の前に敢え無く引き千切られる。
 そのままムラサメの機銃掃射によって駆逐されてゆくゾンダーMSを尻目に、
天ギナは役目を終えた砲身を放り捨て、残るゾンダーボズゴロフを逃がすまいと次のアクションを起こす。
『────逃がさん! 貴様はここで退場するのがお似合いだ!!』
 赤々と燃えていた双眸が、その色を澄み渡る大空のような蒼へと変え、
牙を剥いたような黒鉄のマスクが、左右に分かれて白くスッキリとしたものへと変わった。
『天(アマツ)────ミナァ!!』
 華麗な変身を遂げた天は、背負った二振りの曲刀、禍太刀(マガタチ)、
生太刀(イクタチ)を抜き放つと、その柄同士をSの字を書くように連結させる。
そのまま“彼女”は足裏のスラスターを最大出力で噴かして、瞬く間に音速の壁を突き破ると、
その速度をいささかも減じることなく、再び亜空間へ潜り込もうとするゾンダーへと
勢い良くその切っ先を突き立てた。
『マガノイクタチ!!』
 ────Jジュエルとゾンダーメタルは、方や闘志、方やストレスといった、
感情をエネルギーに換えるというほぼ同一の性質を持ちながら、互いに相反する存在である反物質である。
双方がぶつかり合った場合そのエネルギーは相殺され、わずかでもエネルギーが大きいほうが生き残る。
 ビークル形態で使用されるタービン部。ロボット形態では両肩に、合体時には左右の胸となるこの部位は、
エネルギー増幅装置の役割も兼ね備えていた。
 この部分で増幅されたJパワーは、突き刺されたマガノイクタチを通して敵を包み込み、
身動きを封じるエネルギーフィールドとなって標的の全身をパワーの伝導回路と化す。
そのまま内外から断続的に叩きつけられる高密度のJパワーは、ゾンダーのエネルギーを
大幅に減衰させつつその内部構造を完膚なきまでに破壊するのだ。
『キングジェイダー! 今だ!!』
「応とも! ────ジェイクォォォォォォォォォォォォス!!」
 その隙を逃さず発射されるジェイクォース。解き放たれた不死鳥が仕返しとばかりに
巨鯨の腹を食い破り、その中心核を抉り取った。
『テンペルム・ムンドゥース・インフィニ・トゥーム……レディーレ!』
「ああ……ありがとう……ありがとう……」
 ゾンダー核はマユの浄解によって無事に、ザフトの白服を纏った中年艦長という元の姿を取り戻す。
「ありがとう天! すっごくかっこよかったよ!!」
『ああ! これからも我ら姉弟やムラサメたち共々、よろしく頼むぞ、マユ!!』
 天ミナはウインクでもするように瞳を点滅させると、マユの感謝に清々しいサムズアップで応じた。
 こうしてシルバー、ゴールドのウイング姉弟は、また一歩戦士としての階梯を登ることとなった。
その類稀なる力は必ずや地球に平和をもたらす一助となるだろう。

 

 ────次回予告
 君たちに最新情報を公開しよう。
 新たな力を手に入れたウイング姉弟。ムラサメたちとジェイダーが、
天とキングジェイダーがぶつかり合い、互いに切磋琢磨する演習の中、
ミハシラ軍の持てる力が今明かされる!
 勇者戦艦ジェイアスカ、NEXT『夜明け』次回もこのスレッドに、メガ・フュージョン承認!!

 

 これが勝利の鍵だ! 『ジェイダーセパレーションモード』