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BRAVE-SEED_勇者戦艦ジェイアスカ_第07話

Last-modified: 2010-07-11 (日) 15:40:59
 

 ────二年前。パスダー率いるゾンダリアンが地球へ到来、潜伏してからというもの、
オーブ政府は大わらわだった。先んじて地球を訪れていたソルダートJの協力の下、
ゾンダーに対抗するための防衛組織が密かに結成されることとなったものの、
結果としてオーバーテクノロジーを独占したオーブは世界各国から非難の声に晒された。
 だが自身の経験から、地球の歴史の影から戦争をコントロールしてきた組織、
反コーディネーター思想ブルーコスモスの母体でもある、ロゴスの存在を知っていた
ソルダートJシン・アスカは、技術の悪用を危惧し連合各国への技術提供を一時は渋った。
 しかしオーブは原料の輸入に頼る技術立国。下手に商売相手からへそを曲げられて、
兵糧攻めにされてはたまらない。この国は、大国アメリカの庇護を受けていられた
二十一世紀の日本とは違うのだ。
 最悪の場合戦争もやむなしかと思われていたそんな中、オーブからも人材を提供している
国際的な中立組織DSSD(深宇宙探査開発機構)からやってきた機械工学の世界的権威、
獅子王麗雄博士が運命を変えた。
「キングジェイダーがいくら強くとも一体では。
 オーブ一国の力だけでは31原種には勝てんよ」
「アンタ……いったい何なんだ」
「ボクは獅子王麗雄。君以外のソルダートJを知っている男、
 そして三十一原種と戦った男、とだけ言って置こうかの」
 そう、彼こそはかつて三重連太陽系の緑の星からの使者、ギャレオンの訪れた
平行世界の地球で、防衛組織GGG(スリージー)の一員としてゾンダリアンひいては
機界三十一原種と戦い、木星大気圏に散った男だった。
 だがそんなことは露知らぬ者からしてみれば、キングジェイダーの名を知っている
ことといい、未だ地球へ来てもいない原種と戦ったなどという発言といい、
どう考えても不審人物としか思えない。
 だが、不思議とシンは、この奇妙な来訪者である小柄な老人を信じてみようと思えた。

 

No.7『逆襲のシン』

 

 学校の帰り道、級友と連れ立って歩くマユたちは、近頃オーブへ寄港していた
アークエンジェルの話題で持ちきりだった。だがTVのニュースで出港が報じられるや、
最新鋭の戦艦をぜひとも生で一目見ようと知恵を絞っていた一部の男子たちは
こぞって悔し涙を流したという。
「あーあ、見たかったなーアークエンジェル」
 残念がる友人にそろそろと近づき、耳打ちするリュウタ。
「ここだけの話なんだけどさ、出港したっていうのは周りのザフトをだますためのウソで、
 実はまだオーブに居るらしいぜ」
「マジかよ!」
「馬鹿、声がでかい!」
「シモンズ君! またそんな話して!!」
「うわあコモリに気付かれた!」
「……シモンズくん、怒られるのがわかってるなら話さなきゃいいのに」
 ゾンダーが攻めてこようと、外国で戦争が起ころうと、オーブの子供たちの暮らしは
いつもどおり平和そのものだった。

 

 モルゲンレーテの敷地と外界を隔てるフェンス越しに、密かに内部の様子を窺う
人影があった。その数は四人、いずれも十代半ばの少年たちだ。
「チッ、こう警戒が厳しいと潜入は難しいぞ」
「わかっている! しかしモルゲンレーテだって民間企業だ……穴はあるよ」
「そう上手くいくといいがな! 大体、仮に潜入できたとしても得体の知れん異星人と
 密約を結んでいる奴等だ、どんな罠が仕掛けられているか判らんぞ?」
 彼等はいずれも、オーブ近海でアークエンジェルと交戦したザフトの少年兵だった。
もっともプラントでは満十五歳で成人と認められるので、厳密にはこの呼び名は
正しくないかもしれないが。
 リーダー格の青い髪の少年と、顔面に傷を持つ銀髪の少年との会話に、
褐色の肌をした金髪の少年が茶化すように口を出す。
「なあアスラン! もしオーブが発表したとおり、本当に“足つき”が
 もう領海を出てしまっていたら……どうするんだ?」
「こんな所でスパイごっこして、ロスした時間は致命的だぜ?」
「ディアッカ! あなただってオーブの発表はまゆつばだって言ってたでしょう!!」
 その発言にムっときたのか、一番幼げな風貌をした緑の髪の少年、ニコルが
ディアッカと呼んだ金髪へ食って掛かる。
 だがそれを制止したのは、意外にも銀髪の少年イザークだった。
「やめろディアッカ! 隊長の命令は絶対だぞ!」
 プライドが高く直情径行の彼は、事あるごとにライバル視するアスランへ
突っかかっていたのではなかったか? それが一転庇い立てのような真似をするなんて
どういう風の吹き回しだろう?
 ────そう疑問符を浮かべる一同を前に、イザークは酷薄な笑みを浮かべて口を開いた。
「それにな! ザラ隊長は誇り高い男だ、失敗の責任はちゃんと取るさ!
 な? 隊長殿?」
「ああ! そのとおりだ“足つき”とストライクは必ずここに……」
 ────トリィ!
 アスランは、ことさら反応することもなく黙々と作業を続ける。
だが不意に聞き覚えのある鳴き声を耳にして、咄嗟に上空を仰ぎ見た。
 そこで舞っていたのは、まさしくかつて自らが製作し、別れ際に幼年学校時代の
親友へとプレゼントしたペットロボ、トリィだった。
「すいませーん! こっちに鳥の形したロボットが……」
 ────あ……アスラン……?
 なんという偶然だろうか。連合軍とザフト、敵味方に引き裂かれ幾度と無く
刃を交えた親友キラ・ヤマトが、友情の証として贈られたトリィに導かれるようにして
アスラン・ザラの目の前へ姿を現したのだ。

 

 その頃獅子王博士は、軌道上のアメノミハシラと開発計画の進行状況を話し合うために
通信を行っていた。相手はミハシラ宇宙軍司令ロンド・ミナ・サハク、
ロンド・ギナの双子の姉だ。
使用されているのはレーザー通信だが、中継衛星は高度なステルス仕様の上
ホログラフィック・カモフラージュによって完全に秘匿されているため、
従来の監視、通信衛星が破壊されたように、ザフトに妨害される心配はない。
『────我が与えたミハシラウイングス、なかなかの活躍ぶりではないか』
「ロンド・ミナ司令、そちらの状況はいかがですかな?」
『まずまずといったところだな。ソリタリーウェーブライザーの実験は成功、
 量産も順調に進んでいる』
「それは良かった、こちらでもウルテクエンジンの小型化に目途が立ちそうですよ。
 これもテストパイロットを買って出てくれているロンド・ギナ司令のおかげです」
『そうか……だが気をつけよ、近頃大西洋がキナ臭くなってきた。
 現状はなんとか凌いでいるようだが、後々いつ突き上げが来るか判らん』
「危機が目前に迫っておるというのに、何故人類同士で争わねばならぬのか……」
 獅子王麗雄は、外敵を前にしても力を合わせることの出来ない人類を
歯がゆく思うとともに、機界文明に立ち向かう重圧が自らの双肩にのしかかるのを感じていた。

 

「昔……友達に!」
「大切な友達にもらった……僕の宝物なんだ……」
 ────キラ!
 キラ・ヤマトとアスラン・ザラ。思い出の品が元で奇しくも再会を果たした二人は、
互いに旧交を温めることも出来ぬまま、夕日の照らす中、涙を飲んであくまで見知らぬ
他人として別れた。
 だが、モルゲンレーテを後にした直後、彼等の身体へ鋭い痛みが奔る。
見ればめいめいが痛みを覚えた場所に、円錐状の赤い何物かが突き刺さっていたのだ。
「こ、これは!?」
「な……何が起こった!?」
「それほど会いたいのなら、会いに行けばいいだろうアスラン」
 その声を聞いて、アスランたちは目を見開いた。聞きなれた声のした方向に居たのは、
緩やかにウェーブのかかった金髪を持つ仮面の男。絶対にここに居るはずのない人物、
彼等の上官であるラウ・ル・クルーゼの姿があったのだから。
「馬鹿なっ! クルーゼ隊長が何でこんなところに!?」
 クルーゼはその問いかけに答えることもなく、ただ冷笑を返すのみだ。
そしてそれを引き金とするかのように、アスランたち四人の肉体に変化が現れる。
「ゾンダーメタルを節約しなければならないのでね、君たちには胞子で我慢してもらうとしよう」
『うわああああああああああああああああああああああああああああ!!』
「キラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
 生物へ素粒子Z0を注入する赤い円錐──完全体となったゾンダーが撒き散らす
ゾンダー胞子の刺さった箇所から、紫色を帯びた生物的な機械が瞬く間に広がり、
ザフトの若きトップガンたちは悲鳴とともに人間であることを辞めた。
「……アスラン?」
 呼ばれたような気がして、キラはふと彼等の居た方角へ振り返った。
当然そこにはもう誰の姿もない。だが、彼の胸中は予想されるザフトの待ち伏せ
だけではない、嫌な予感に苛まれていた。

 

「────ゾンダー!」
 帰宅後、シンに誘われてライオンキッチンで食事していたマユは、いつものように
ゾンダーを感知するとシンと連れ立って店を後にする。
 そして二人は駐車場に停められていた黒いスポーツカーへ乗り込むと、
一思いにアクセルを全開にし、ヘッドライトの切り裂く夕闇の中を走り出した。
「マユ! 合図したら俺にしっかりつかまるんだぞ!!」
「うん!」
 道行く車を巧みにすり抜け目当ての海岸付近へやってきたシンは、急ブレーキをかけて
車体をターンさせながらドアを開け放つと、屋根に不完全に載せられている荷物が
慣性によって放り出されるかのように、マユの身体を抱きかかえながら恐れることなく
ガードレールの向こうへと飛び出した。
 周囲に人気が無いことは確認している。ソルダートJへと変身したシンは
ジェイブレスを掲げると、天空へプロジェクションビームを投射した。
「ジェイバード!!」
 主からの呼び出しを受け、流星のように飛来したジェイバードは、二人を乗せて
瞬く間にゾンダーのもとへ飛び去ってゆく。
 その様子を見届けると、無人のはずのスポーツカーはひとりでに開けっ放しの
ドアを閉め、その場から逃げるように走り去った。

 

□□□□

 

「敵ゾンダー、領海外から本島へ向けて南下中!」
「空中空母タケミナカタ、万能補給艦トヨタマヒメ発進!」
 鳴り響く警報がオノゴロベースを震わせる中、ゾンダー確認の報を受け海上に
展開されたミハシラウイングスはその侵攻を食い止めるべく、白く航跡を曳いて
海上を往くゾンダーロボへ一斉攻撃を掛けた。
 バリアーを引き剥がされ次々に着弾するミサイル。だが爆煙が晴れた後に現れたのは、
まったくの無傷を保つ敵の姿だった。
「データ照合確認……融合しているのは連合からザフトによって強奪された
 ガンダムのようです」
 なるほど確かに、ゾンダーロボの下半身は砲撃型のバスター、上半身にはバランス型の
デュエル、右腕と左腕にはそれぞれ隠密型のブリッツと可変機であるイージスの特徴が
色濃く見てとれる。
 示されたスペックデータに目を走らせた獅子王博士は、その記述に眉をひそめた。
各機に搭載された装甲を考えれば、ミサイルの効果が薄かったのは当然と言える。
「物理攻撃を無効化するPS装甲……ゾンダーとなって、
 より強度を増しているというわけか」
 水中から辛うじて顔を出している腰部からミサイルポッドが展開し、
上空のウイングスへと反撃を浴びせかける。即座に回避行動に移るウイングスだったが、
ミサイル群は目でも付いているように目標を追尾して食い下がり、ウイングスに
迎撃の手間を取らせた。
「ウイングス各機、ビーム兵器に切り替え! ゾンダーの四方から攻撃を掛けろ!!」
『了解!』
 二機一組のフォーメーションを組んだムラサメたちは、再び放たれたミサイルや
新たに展開された砲撃の中をビークルモードで掻い潜りつつ、尾翼の根元に備えられた
ビーム砲や右側へマウントされたライフルを撃ち込んでゆく。
 だがその攻撃は、ムラサメたちの攻め込んだ四箇所全てから生じたシールドによって
難なく防がれてしまう。
「対ビームシールド……予想していないとでも思ったかい?」
 タケミナカタの艦橋で、そう言いながら口の端を吊り上げるユウナは
ミハシラウイングスの虎の子へと指示を下した。
「シルバー、ゴールド! ディストーションバスター用意!!」
『シンメトリカルドッキング! ────天ギナァ!!』
 合体したシルバーウイングとゴールドウイングは、射出された
ディストーションバスターを構えるや、すかさずゾンダーガンダムの足元へと放つ。
 解放された膨大なエネルギーが空間を捻じ曲げ、広大な海原に直径数十キロに及ぶ
大穴を開ける。スラスターとの併用で辛うじて自らの体重を支えていた浮力を
失ったことで、ゾンダーは足元に口を開いた戦闘フィールドへと真っ逆さまに転落した。
 天ギナの手放したディストーションバスターが、その基部からスラスターを噴かして
帰投するのを合図とするように、海底へと降り立った天ギナがゾンダーへと
おびただしいビームの雨を降らせた。
 間断なく射掛けられるビームを前に、ソルダートJの出番を待つことも無くゾンダーが
撃破されるかに見えたその瞬間、天ギナは目を疑った。自らの目の前から、忽然と
ゾンダーの姿が消えうせたのだ。
『何っ!?』
 放たれた火線がむなしく海底の大地を打ち砕く中、一体、二体と次々に現れた
何体ものゾンダーガンダムが彼の周囲を取り囲む。
「光を屈折させるミラージュコロイドを利用した分身だ!」
『フン、どれほどまやかしでごまかそうとっ!』
 それに怯むことなく攻撃を続ける天ギナだったが、本物を見つけ出すよりも早く
繰り出される相手の攻撃がじわじわと体力を削ってゆく。
『────隊長!』
 ブリッツガンダムのように完全に姿を隠しているのか、サポートに回るムラサメたちの
攻撃をもってしても、ゾンダー本体は見つけ出せない。焦りとダメージだけが
蓄積されてゆく中、天ギナの足元に突き刺さったランサーダートによってついに体勢が崩された。
 チャンスとばかりに虚空から染み出すように姿を現したゾンダーガンダムは、
イージスの可変形態である烏賊を思わせるMAへと姿を変えると、スラスターを
最大出力で噴かしながら飛び掛り、ガバリとその先端を開いて天ギナへ喰らいつく。
『────しまった!!』
 身動きを封じられた天ギナ目掛け、彼を拘束するアームの中心に備えられた
イージス最大の武器、複列位相エネルギー砲スキュラが火を噴かんとしたその時、
降り注いだ一条の反粒子ビームが天ギナの窮地を救った。
 反中間子の対消滅爆発によって、拘束アームを根元のスキュラもろとも吹き飛ばされた
MA形態のゾンダーガンダムは、無様に海底の泥の中へ転がる。
 飛来したのは力強くも美しい、誰もが見慣れた白亜の巨艦────
「天、大丈夫か!」
『来てくれたかジェイキャリバー、感謝する!』
「今のうちに止めを刺すぞ、やれるな?」
『無論だ。この程度でガタが来るほど柔には出来ておらん!』
「ジェイバード・プラグアウト!」
『天、ミナァ! ────マガノイクタチ!!』
 ソルダートJの叫びとともに分離したジェイバードがメカノイド・ジェイダーへの
変形を完了するとともに、マガノイクタチを構えた天ミナが再生途中のゾンダーガンダムへ斬りかかる。
 しかし、その様子を本拠地であるゾンダリアンタワーで眺めていた
機界四天王ピルエッタは、いつも通りの人形めいた表情で、どこか勝ち誇ったように呟いた。
「作戦、発動」
 ほとんどの四肢を失いながらもどうにか人型へ戻ったゾンダーガンダムが、
唯一残った右腕をジェイダーたちへ向け、キラキラと輝く微粒子を噴きかける。
 まるで苦し紛れの悪足掻きのように撒き散らされた微粒子は広範囲に舞い上がると、
上空のムラサメたちやジェイキャリアにも降りかかり、その恐るべき力を発揮した。
「これは……なんだ?」
『ち……力が入らん!? 体が……言うことを聞かん』
《────伝達系統に異常発生! エネルギー供給不能、ジェネレーティング・アーマー消失。
 Jファイバー断……線……》
『こちらもコントロール不能! うわあああああああああああ!!』
「いったいどうしちゃったの!? トモロ、Jさん! ────きゃああああああああ!!」
 ジェイキャリアの右舷サブブリッジでまさかの停電という異常事態に見舞われたマユは、
ほどなくして訪れた墜落による衝撃に悲鳴を上げた。
「機動部隊沈黙、ジェイキャリア内のマユちゃんの安否……不明です!」
「ミハシラウイングスが!」
「まさかあの粒子は!」
 力を失って倒れ伏したジェイダー、天ミナ、ミハシラウイングスらの姿と、
生き延びていたミハシラ艦隊から送信されたデータを見て、獅子王博士は確信した。
 勇者ロボたちの神経とも言うべきJファイバーの伝達を混乱させる特殊な微粒子、
それはかつて別の地球で繰り広げられた機界三十一原種との戦いで、最強の戦力であった
勇者王ガオガイガーと、ジェイアーク級一番艦のキングジェイダーを沈黙せしめた物質と
同様のものであった。
 直接の被害にあったのは同じく科学者で彼の兄である獅子王雷牙だったが、
その対処法も含め、麗雄博士自身提出されたデータでよく知っている。だがそれは
現状の装備ではどうすることも出来ないということを表していた。
「先手を打たれた! こちらにソリタリーウェーブライザーが一台でもあれば……!」
「そんな博士! どうすることも出来ないんですか!?」
「────うろたえるな!!」
 訪れた最大の危機を前に取り乱すナガオ・シモンズを司令席のギナが一喝した。
「エリカ、無事なムラサメはレッド3、ブルー2の計五機だったな?」
「は、はい!」
「予備戦力として“ヤツ”も呼び出せ」
「ユウナ、ソルダートJが立ち直るまでなんとかしのいでくれ。いざとなれば
 私のアストレイも使ってくれて構わん!」
『わかったよ、これは荷が重いね』
 絶望的な状況を覆すべく、メンバーへ指示を出してゆくロンド・ギナ。
こんな状況にあってなお、彼は信じていた。自らが勝手にライバル視するソルダートJが、
たびたび自分に泥をつけてきたソルダートJが、この程度でどうにかなるような男ではないと────

 

 再生を終え、元の姿を取り戻したゾンダーガンダムは最大の敵を排除するべく、
露出した海底に横たわるジェイキャリアへとその矛先を向ける。
 数で上回るムラサメレッドが牽引ビームでそれを食い止めようとするが、
四人もの素体とガンダムを取り込んだゾンダーのパワーを相手にするには
まったく歯が立たず、ブルーの攻撃もビームにすら耐えうる程に出力の上がった
PS装甲を前にほとんど通じていなかった。
『────ユ……マユ!』
「う……ん……?」
 照明の消えたサブブリッジの中、高度な緩衝装置のおかげか床に投げ出されて
失神するだけで済んでいたマユは、不意にジェイダーブレスからの声で目を覚ました。
「Jさん! ……いったいどうなっちゃったの? トモロは?」
『ゾンダーの攻撃で、俺たちはみんな動けなくなっちまったんだ』
 機能障害はあくまでJパワーを使用している部分に限定されているようで、通信はなんとか交わせるようだ。
「そんな!」
『外じゃ生き残ったムラサメたちがなんとかゾンダーを食い止めてる。
 けどいつまで持つかはわからない』
『そこでマユ、君がゾンダーを倒すんだ』
 Jからの信じられない言葉に、マユは当然うろたえる。
「そんな! 無理だよ!!」
『大丈夫、そのジェイキャリアにはもしものときのために電気式の手動装置が付いている。
マユはそれを使ってジェイクォースを発射すればいいだけだ』
 ブレスに表示される操作方法は、TVゲームと大した違いは無い。
目標をカーソルで選んでトリガーを引くだけだ。ゾンダーは正面に居るわけではないが、
艦の各部に設置されたカメラが目標を捕捉してくれている。
しかしこれは失敗してもやり直せるゲームとは違う、実戦なのだ。
 おそらくチャンスは一度きり。その肩にのしかかる責任は、まだ幼い少女には
重過ぎるものだ。しかしここで行動しなければ、ミハシラウイングスは確実に全滅し、
ジェイダーもマユの乗るジェイキャリアも、合体することすら出来ずに破壊されてしまうだろう。
 ────そんなの、嫌だ!
 それがもたらすであろう結果を想像し、マユは覚悟を決めた。
「────マユ、やります」
『任せたぞ、マユ!』
 もしゾンダーが勝っちゃったら……Jさんも、ミハシラのみんなも、友達も、おとうさんやおかあさんも全部殺されちゃう! ……マユが戦うしかないんだ!!
 マユはなけなしの勇気を振り絞ると、ブレスの指示通りに床面のパネルを開き、
内側に設けられたレバーを力いっぱい引いた。

 

 ダメージにならずとも煩わしく感じるのか、纏わり付くハエを振り払おうとするように、
ゾンダーガンダムが攻撃を続けるムラサメたちへ右腕を向ける。この距離では
もはや逃げられない。ムラサメたちが全滅を確信したその時────
 轟く爆音とともに、夜の闇に溶け込むような一台の黒いスポーツカーが戦場へ飛び込んできた。
 いくら展開した戦闘フィールドが広大だといっても、海岸からはまだ数キロの距離がある。
到底自動車が飛び越えられる距離ではない。そう、この車は並みの自動車などでは
決してない! その名は────
『システムチェーンジ!!』
 スポーツカーが宙を舞う中、車体のフロントが展開して両脚に、後部が左右に分かれて
ドアとともに両腕となった。露となった紫のボディには鎖帷子状の格子が刻まれ、
人間を模したその頭部にも忍者めいた意匠が見てとれる。
 これぞミハシラ軍諜報部所属のビークルロボ────
『フォグナイト、見参!!』
 諜報ロボ・フォグナイトは変形した勢いそのままにゾンダーへ蹴りを食らわせると、
その隙を逃さず右腕に仕込まれたワイヤーアンカーを射出した。
『させません! スパイアンカー!!』
 微粒子を噴き出す黒い右腕の、装甲されていない関節部へと突き刺さったアンカーは、
一瞬スパークを奔らせたかと思うとその小さな穂先を切り離し、すぐさまフォグナイトの
手元へ回収される。
『電子回路を破壊する特殊パルスです。これでしばらくは
 妨害粒子を使うことは出来ないでしょう』
 その発言通り、こちらへ向けられたゾンダーの右腕は不自然に痙攣するばかりで、
一向に微粒子を噴出すことは無い。
 狼狽えるゾンダーを見据える冷静な色を湛えたフォグナイトの機械仕掛けの瞳が、
横たわるジェイキャリアを向いた。
『マユさん、今です!』
「────お願い、当たって!!」
 マユがジェイダーブレスに浮かび上がるタッチパネルを操作するのと同時に、
その声を引き金にするかのようにして発射されたジェイクォースが、おおまかに進路を
修正しながらゾンダーガンダムの胴体をぶち抜いて、見事にゾンダー核を抉り取る。
「やったあ! ────え?」
 ────しかしその直後、ゾンダーの右腕から撃ち出されたランサーダートが
右舷サブブリッジの窓を貫いた。
「マユゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
 凍りついた空気を打ち砕くように、ジェイダー内で身動きの取れないソルダートJ──シン・アスカの絶叫がこだまする。
 このゾンダーの素体とされた人間は四人。故に核一つが摘出されようと、
行動にはなんら問題ないのだった。
 デュエルの上半身を失ったゾンダーは、何事も無かったかのように欠損した部分を
イージスの身体で代用すると、ジェイキャリアに完全に止めを刺すべく悠々と歩を進める。
 攻撃を繰り返すムラサメたちも、フォグナイトも、もはや目に入らない。
意識の奥底で何かが弾けるような錯覚とともに、シンの紅く染まった瞳が、
憎悪を引き金として一切の光を喪った。
「────!? 博士、ジェイダーの出力が急上昇、機能不全を脱しました!!」
「なんじゃと!? ────こ、これは!!」
 その異状にいち早く気付いたパピヨンの声に、獅子王博士は慌ててモニターをチェック。
示されたデータに顔面を蒼白させた。
 プラズマウイングを全力で噴かしたジェイダーが体ごとぶつかり、ゾンダーへ
有らん限りの力を込めて拳を叩きつける。
 荒削りを通り越して乱雑極まるそれは到底格闘などと呼べるものではなく、
ただ単に力に物を言わせ、手足を振り回しているだけであった。
 闇の中炎のように溢れ出す余剰のJパワーが全身を紅に染める様は、
まるで死期を悟った不死鳥が燃え盛る炎に身を投じているようでもあり、
罪人を焼き払う冥府の獄卒のようでもある。
 その熱量たるや、一歩足を踏み出しただけで泥濘はたちまちひび割れ、海底に堆積した
砂は融解して硝子状となった。戦闘フィールドを造り出すディストーションバスターの
力が無ければ、周辺の海域そのものが沸騰していてもおかしくはないとすら思える程の有様だ。
「今のジェイダーは大変危険な状態じゃ。許容量を超える高圧電流が絶縁体すらも貫くように、
 彼はオーバーヒート同然の大出力に物を言わせて妨害粒子の抵抗を押し切っておる!」
「そんなことをすれば……」
「当然、機体そのものがいつ吹き飛んでもおかしくはないぞ……怒りにここまで我を忘れるとは、
 彼にとってマユちゃんはそれほどまでかけがえの無い存在だというのか」
 エリカたちが息を呑んで見守る中、ジェイダーの猛攻は続く。
高エネルギーを纏った拳がPS装甲を物ともせずに粉砕し、かつて自分を一敗地にまみれさせたインフィニットジャスティスとよく似たイージスの頭部を握りつぶした。
「よくも! よくもマユを!! 返せ! マユを返せぇぇぇぇぇぇ!!」
 マユを奪ったブリッツの右腕が根元から力任せに引きちぎられ、矢継ぎ早に
打ち込まれた抜き手が、残るゾンダー核を次々に抉り出す。
 それを見てジェイダーが何をする気なのか悟った博士は通信マイクへ向けて叫んだ。
「────いかん! フォグナイト、彼を止めるんじゃ!
 ソルダートJは核を破壊するつもりじゃぞ!!」
『ジェイダー、おやめください!』
「うるさい! 邪魔をするな!!」
『うわあああああああっ!!』
 暴挙を止めるため、ジェイダーの半分にも満たない矮躯ながらも果敢に飛び掛った
フォグナイト。しかし怒りに支配されたシンは聞く耳持たず、歴然とした出力の差も相まって
あっさりと跳ね除けられてしまう。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ソルダートJ! やめろ、やめてくれ!!」
 握り締められたゾンダー核の表面に亀裂が奔る。このままシンは怒りに流されるまま
生命を奪い去ってしまうのか?
「Jさん! それを壊しちゃダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「────え?」
 それをぎりぎりで阻止したのは、空へ飛び出しながら必死に訴えかける、
彼が守るべき少女の叫びだった。
「わたし死んでない! 死んでないから! ゾンダーにされた人を殺しちゃダメ!!」
「そっか……マユは、生きてた……生きてたのか……」
 マユが無事なことを知って安堵したのか、みるみるうちにジェイダーの出力が
正常値に戻り、辺り一面に金属が焼ける嫌な臭いが漂う。間一髪人命が救われたことに、
オーダールームの面々もほっと胸をなでおろした。
「危ないところでしたね」
「まったくだ。勝利を掴むことこそ出来たが……」
「もしかするとマユちゃんの存在こそが、彼の力を神にも悪魔にも左右する
 心なのかもしれんな……」
 戦いが終わり、ようやく雲から顔を出した月明かりの照らす中、ゾンダー核を浄解する
マユの姿を眺めながら、誰に聞かせるでもなく博士はそう呟いた。

 

「ふむ……やられてしまったか」
 その光景を別な場所から密かに窺う者が居た。ザフトの上級士官であることを表す
白服を身に纏い、目元を仮面で覆い隠した長身の男。
「だがこれで奴のおおよその限界はわかった。君の働きに期待しているよ」
 アスランたちをゾンダー化した張本人、ラウ・ル・クルーゼはそう言ってほくそ笑むと、
隣に侍らせた赤毛の少女へ語りかける。連合の軍服に包まれた少女の胸元からは、
ゾンダーメタルが怪しげな紫の輝きを放っていた。

 

 ────次回予告
 君たちに最新情報を公開しよう。
 少女の憎しみが無敵のゾンダー戦艦を生み、キングジェイダーへと牙を剥く。
 アークエンジェル対ジェイキャリバー! 宿命の戦いはついにその火蓋を切って落とされた。
 シンよ、前世の因縁を断て!!
 勇者戦艦ジェイアスカNEXT「白銀の不死鳥」
次回もこのスレッドにメガ・フュージョン承認!

 

 これが勝利の鍵だ『光子変換翼/ジュエルジェネレーター/ジェイクォース』