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BRAVE-SEED_660氏_子連れダイノガイスト_外伝(1)

Last-modified: 2009-09-21 (月) 17:46:55
 

子連れダイノガイスト
外伝① 雷竜はどんな夢を見るか

 
 

 地球。無限に広がる大宇宙に数え切れぬほど存在する星の一つ。広大な宇宙や無数の銀河を知る中でも独特の生態系が存在し、特にもっとも繁栄している地球人の生態や社会構成はきわめて異色なものだ。
 暮れなずむ浜辺に、巨大な首長竜の影が長く伸びていた。人間をはるかに上回る視力を誇る首長竜の眼を持ってしても見渡せぬ、この星の七割を占める大海原が、徐々に沈みゆく太陽によって鮮やかなオレンジに染まっている。
 これまで三百を越す星を荒らし回り、いくつもの幻想的な光景を目にし、宇宙のあらゆる場所で起きる不可思議な現象を目にしてきたが、首長竜にとってこの星の夕暮れは、いつまでも眺めていたくなる美しさであった。

 

 * * *

 

「あ~~~」

 

 ウミネコ達が黒い影になって空にまばらに飛んでいる。打ち寄せ、退いてゆく波音は、幾十億年前から変わらぬ揺り籠の様な心地よさを、首長竜の心に与えている。
 口癖のように口から出た“あ~~”という音も、この上なく心が弛緩しているから出た音だ。砂浜に長々と伸びる首長竜の影も、どこか暢気そうに見える。

 

「お~~~」
「う~~~」

 

 と、首長竜の真似をしたのか、首長竜の頭の上にちょこんと座った二つの小さな影が、暢気なことこの上ない声を、歌うように出す、さざ波と同じように、その二人の声は首長竜の心に穏やかな波を立てる。
 ふんわりと柔らかな金髪の少女と、黒髪の少女の二人だ。地上十数メートルの位置にある首長竜の頭の上でも、徳に怯えた様子もなく――いや、機械仕掛けの恐竜などという存在自体が、この星では非常識だから、まずこの首長竜に怯えるべきなのだが。
 ま、兎にも角にもこの首長竜が自分達にとって危険な存在とは露ほども思っていないらしい、二人の少女は、声を出すのが楽しくなってきたのか歌ともいえぬ、しかし確かに歌と聞こえる様に声を出す。
 まだ動物の骨や腱、石や木で作った楽器だけの古い時代の歌の様に素朴で、歌うものの心を聞く者に伝える歌。
 首長竜は我を忘れてただただ、二人の歌に聞き惚れた。ボスと共に自由気ままに宇宙の闇を旅していた時とは違う楽しさ、いや、喜び? 喜びだろうか。心が弾む様で、胸の中がわくわくする。
 ガイスターの仲間達と同じように、いつまでも共に居たいと願う存在が、今、自分の頭の上に座っている二人だった。おかしな話だった。自分はこの二人の名前さえ知らないというのに。
 あれ、と思ったのは、その事に気づいた時だった。名前も知らないが、そもそも、どうして自分はこの二人を頭の上に載せているのだろう? 
 ふと気付くと疑問は止まらずに次々と溢れてくる。あれ、どうして自分は地球に居るのだろう? だって、自分はボス以外のガイスターの皆と一緒に宇宙警察に捕まり、監獄惑星に囚われていたのではなかった?
 カイザーズや監獄話生の看守たちはボスが死んだと言い、自分も含めガイスターも誰もが信じはしなかったから、いつかボスが助けに来てくれるだろう、とは思っていた。
 でも、ボスはいつ助けに来てくれたっけ? 自分達はどうやって脱出したんだっけ? あれ、あれ? それを言ったら、他の皆は? ボスはどこだろう? どうして自分は、この人間の子供達と一緒にいるのだろう?
 心地よい歌声も、その疑問を払拭する事は出来なかった。穏やかだった心の水面に、ふつふつと奥底から小さな泡が湧きたちはじめ、瞬く間に大きく乱しはじめる。なんだっけ、どうしてだっけ、あれ、あれ、アレ、ARE、亜礪、are?

 

「もう夜になっちゃうね。お夕飯の支度しなきゃ」

 

 頭の上の黒髪の方の言葉に、首長竜の疑問符と不安に塗れた思考が遮られる。金髪の方が、その言葉に嬉しそうに口元をほころばせ、自分の頭をぺちぺちと叩いた。叩いた手の方が壊れてしまいそうなほど柔らかく小さいものだから、首長竜ははらはらとしてしまう。

 

「■■のごはんだって。いっぱい食べよぅ」

 

 弾むように朗らかな金髪の少女の声は、自分に向けられている。その声の無邪気さに、心の中の不安が薄らいてゆくのを首長竜は感じていた。なんだろう、先程までの不安が疑問が嘘のように氷結してゆく。
 自分はまだこの二人を知らないが、きっと、この二人は仲間なのかもしれない。まだ名前も知らないこの二人と、何時か出会う。出会った後の日々が、今見ている光景なのではないか。

 

「どうしよっかな~。そうだ、今日は■■■お姉ちゃんとサンダーガイストさんの好きなものを作ってあげるね」
「うぇい!」

 

 * * *

 

 何時か見た超新星の爆発の煌めきよりもきらきらと輝く笑顔を浮かべた、黒髪の少女が自分の名前を呼んだ時、サンダーガイストは泡沫の夢から現実の世界へと帰還した。
 人間で例えるならうっすらと瞼を開くのと同じ要領で、首長竜――サンダーガイストは、視覚を復活させた。
 地球でカイザーズとの戦いに敗れたサンダーガイストらは、地球での活動に際し手に入れた機械仕掛けの体に封じ込められたまま、超A級凶悪犯が収容される監獄惑星に閉じ込められていた。
 過去、犯罪行為を行った範囲があまりにも広大であり、また件数も膨大であったため、宇宙規模の組織である宇宙警察の優れた能力を持ってしても、ガイスターの面々への判決は下されていない。
 何時か下される裁きの日まで、サンダーガイスト達は星を丸ごと監獄へと改造したこの星で、時が止まったかのように何の変化もない、生き地獄へ閉じ込められ続ける。
 地球人に比して数百倍以上の時を生きるエネルギー生命体といえども、かくも変化の無い日々を過ごし続ける事は、精神的な苦痛以外の何物でもない。ともすれば自ら死を望むような心境へとつながる階段を、日一刻ごとに歩み続ける様なものだ。
 ここに閉じ込められた頃は、やかましいほどに脱獄してやる、憶えていろ、エクスカイザー! と罵詈雑言を滝の様に零していたプテラガイストやホーンガイスト、アーマーガイストらも、沈黙に身を任せて随分と経っている。
 血の気の塊の様なホーンガイストからして、まるで死んだように眠り続けているのだから、この牢獄の中で過ごす灰色の日々の苦痛は推し量れないものがある。いっそ拷問で儲ける方が、痛みが生きているという事を実感させてくれる分だけましなのではないか。
 熟睡から目覚める度に、心に埃のように積み重なる名状しがたい疲れを意識して、陰鬱な気持ちになるのが常だったが、今日だけは違った。
 あの夢だ。この全てがモノクロに見える静寂の世界で、光輝き眩い色彩と音楽に溢れていた未来。いつかきっと、あれが、自分達に訪れるのだと、サンダーガイストは疑いの言っての曇りもなく信じた。
 まだ名前も知らない人間達。死んだと言われたボス。彼らと、いつかまた出会う事が出来る。そう思うだけで、サンダーガイストは、無意識のうちに長い尻尾を左右に振って、喜びを表現する。

 
 

 夢に見た未来は、決して、遠い日の事ではないのだから。

 
 

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