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CCA-Seed_◆ygwcelWgUJa8氏_33

Last-modified: 2012-11-18 (日) 20:53:22

 漆黒の宇宙《そら》に一つの巨大な火球があがると、すぐさまその火球の大きさを覆い隠すほどの大量のモビルスーツが特徴的なゴーグルタイプの目をぎらつかせ、一機のM1を貪った。
 更にもう一機のM1が無数のビームの雨に晒され、虫食いのように穴だらけとなりやがて爆発する。
 また一つの火球が星屑の海を照らし、そのモビルスーツ――〝ストライクダガー〟は次の獲物を求めて蹂躙を始めた。
 ところどころに被弾した深緑の〝アークエンジェル〟級二番艦〝パワー〟が針鼠のような対空砲火で応戦し、同じくネルソン級戦艦やドレイク級戦艦が周囲を固め援護に入る。
 すぐに〝アメノミハシラ〟からも〝ストライクダガー〟が出撃し、敵の〝ストライクダガー〟と交戦を始めた。
 一機の敵〝ストライクダガー〟のコクピットをビームサーベルで貫いたところで、別の敵機が味方〝ストライクダガー〟をビームライフルで撃ち抜き次の標的を探すも、僚機の〝ストライクダガー〟隊ごと巨大な陽電子の輝きに飲み込まれ消滅した。
 〝パワー〟隊の戦闘隊長を任されたジャンはその様子を苦々しい思いで見つめたが、すぐの目の前の現実を見据えフットペダルを踏み込んだ。
 白く塗装された自機のスラスターの煌びやかな光はパイロットのジャンからは見えないが、敵からしてみれば格好の的であろう。無論敵の〝ストライクダガー〟はそれを見逃すはずも無く、四機の編隊が同じく鮮やかな光の尾を引いて高速で迫り来るが、同時に四方からの攻撃が敵部隊を一瞬で蹂躙し、四つの爆発の炎が宇宙《そら》を汚した。
 ちらとモニター上方に〝メビウス・ゼロ〟が映り込み、それが『月下の狂犬』ことモーガン・シュバリエだとわかればジャンは彼の言葉を思い出す。
 月で彼と対面した時、ジャンは戦闘隊長の座を譲り渡すつもりでいた。あのハルバートン少将の艦、〝パワー〟の戦闘隊長がコーディネイターというわけにはいかないだろうという、いわば彼に染み付いた奴隷根性に等しいものであったが、モーガンは笑って言った。
 
 『馬鹿言え。〝パワー〟の――ああ、閣下はザをつけんと怒るが、ま、それは良いとしてだ。あんたが手塩にかけて育てたチームだってのに、いきなり俺が横からやってきて隊長だってのは面白く無いよな? なら、〝パワー〟のチームはあんたのもんさ、遠慮せずに胸を張ってそこにいてくれりゃ良いんだ』
 
 思わずジャンは言葉を失ったが、目の前で気さくに苦笑してみせる彼は全く気にした様子も無く、ご機嫌な調子でふふんと鼻を鳴らした。
 
 『それにだ、ここんとこずっと俺が基地指令紛いなことをさせられて、やっと好き勝手できるかもしれないってのにだぁーれがそんな面倒事をなあ? ハハハ、そういうわけで任せたい、頼まれてくれ』
 
 そう言った彼の口調は、差別も偏見も無い、ただ男と男の他愛の無い会話であったのだから、ジャンはその言葉を僅かに思い出しながら、ロックオンした一機の〝ストライクダガー〟に向けて躊躇無くトリガーを引くと、銃口から放たれた煌びやかな光条は何者にも邪魔されること無く、正確にコクピットを貫いた。
 
 
 
 もうじきアークエンジェル〟艦隊が到着する、と報告が入ればハルバートンは間違いなくこの戦勝てるだろうと確信した。
 それ故に、彼はわからない。
 ビラードと言う男、野心家であったが決して無謀な事をする男ではない。彼は臆病なほど慎重な男であり、常に水面下で事を運び、犠牲者は最小限に抑え成功に収める――だからこそ、ユーラシアに彼を信望する兵は多く、それが月面基地の一斉蜂起と言う大事をも可能にしたのだと踏んでいた。
 だからこそ、だからこそこの戦い方に疑問を覚えるのだ。
 大量破壊兵器を惜しみなく投入し、〝レクイエム〟というもので地球、〝プラント〟双方に脅しをかけ、それでいて彼らの目的が見えないのだ。主義も主張も無いテロリストなど、あるわけが無い。即ち、奴らは我々に理解できない何か、もしくは知られてはまずい何かを求めている。
 暗のメッセージ。
 誰に対してだ?
 既に、ユーラシア連邦大統領はビラードとの関与を否定し、切り捨てている。
 彼らは紛れも無いただのテロリストとされたのだ。
 恐らく、ビラードの部下達はそれでもあの男を信じているだろう。悪を行おうとした上官を殴り左遷された兵、理想に燃え入隊したものの現実との差に落胆し腐りかけていた兵、かつての暗殺者、戦い疲れたゲリラ屋、親を失った少年兵、誰からも理解されない孤高の科学者、そういった者達を纏め上げ、一つの巨大な部隊を作り上げたあの男なのだから……。
 ――世界に向けて、ではない。ならばこの戦、もしや……。
 艦橋《ブリッジ》のすぐ横で一機の味方機がビームに貫かれ爆発する。慌てて援護に入る味方機を端目にホフマンが声を荒げる。
 
 「弾幕! モビルスーツ隊は本艦の援護を優先させろ! 援軍の到着まで持ちこたえるのだ!」
 
 ハルバートンはそれを見向きもせず、ビラードの起こした――恐らく、『たった一人の戦争』の真実に迫りつつあった。
 そして確信し、正気の沙汰ではない、と口の中で吐き捨て、今度こそビラードを軽蔑した。
 その『大義』に、人を殺して良い道理などあるはずが無いのだから。
 
 
 
 
PHASE-33 星屑の戦場
 
 
 
 
 〈フレイ・アルスター、〝ウィンダム〟行きます!〉
 
 少女の嬌声にシンははっと我に返ると、すぐに目の前のモニターに格納庫の様子が映し出され、あわただしく指示を出すマードックが視界に飛び込んできた。彼が通信機に叫ぶ。
 
 〈だーかーらー! ユーラシアの識別信号つったって――と、わかってるな坊主、相手はザフトじゃねえ、ナチュラルの、うちで使ってる機体と同じものを使ってる連合の正規部隊だ〉
 
 彼の言わんとしてることは、シンにはわかっているつもりだ。だから、
 
 「後方支援、ですよね。わかってますよ」
 
 と返して見せるし、手柄がどうとか言うつもりはもう無かった。
 
 〈やけに素直だな〉
 
 マードックが意外そうに方眉をひょいと吊り上げる。
 
 「僕だって、僕の所為であの人が泣くのは嫌なんです……」
 
 これが、シンの率直な感想。
 先の戦いでフレイがシンを救う際に戦った相手が、フレイにとってどういう相手だったのかはカガリから口頭で聞かされている。シンにはフレイがもうすぐ壊れてしまうのではないかと思えて、それが怖くてったまらなかった。
 
 〈……あっちの坊主と同じこと言いやがる。――〝アカツキ〟良いぞ、出せ!〉
 
 苦悩交じりの号令とともに〝アカツキ〟がカタパルトへと進められ、ハッチの奥には星屑の戦場が垣間見える。
 
 〈カナード・パルス、〝ハイペリオン〟出す!〉
 
 ドミニオン隊の戦闘隊長が発進し、やがてシンの番となる。
 
  「そんなに人を殺したいのか、人間って――!」
 
 思い切り毒づいてから、彼は前を見据える。
 
 「シン・アスカ、〝アカツキ〟行きます!」
 
 虚空へと投げ出された彼は、まず最初に闇の星空を照らし続けるいくつもの火球に目を奪われた。モビルスーツの爆発とは、違う……これはいったい。
 
 〈シン、下がって!〉
 
 キラの〝フリーダム〟がシンをかばうように前へ出る。
 
 「これって……?」
 
 モニターの中でキラは苦渋の色を浮かべ、言った。
 
 〈敵は――〉
 
 
 
 「核兵器だと!? どうして、なんであいつらが持ってるんだ!」
 
 〝ドミニオン〟艦橋でひとしきりわめいたアズラエルを無視して、ナタルはてきぱきと指示を飛ばしていく。
 
 「〝ローエングリン〟エネルギー充填一○○%!」
 
 メリオルが告げると、ナタルはすぐに発射の指示を出す。
 陽電子の煌きが宇宙《そら》をかけると、同時にいくつかの爆発が宇宙《そら》の情景を汚していく。
 ――まさか、全機がなんてことは無いよな……。
 核武装のモビルスーツ部隊など、考えたくもない。
 
 「〝アメノミハシラ〟が敵に進入をされたようです!」
 「〝アメノミハシラ〟、砲撃止みます!」
 
 カズイとミリアリアが同時に言うと、〝アメノミハシラ〟の防衛システムのいくつかが停止した。
 防衛施設の占領……最悪の結末が脳裏をよぎる。そのとき――
 
 「〝ヴァーチャー〟からの通信です!」
 
 ナタルはすぐさま「つなげ!」と答えると、険しい顔をしたイアンがぱっとモニターに映しだされた。
 
 〈バジルール少佐、これより〝ヴァーチャー〟は〝アメノミハシラ〟に乗り込み白兵戦を仕掛けます〉
 
 本当にやれるか、という疑念はすぐに捨て去った。できる自信があるから、彼はこう告げたのだ。そういう度量を持った男だとナタルは理解した。
 
 「了解しました、〝ドミニオン〟は貴艦の援護に当たります」
 
 通信を終えると同時に、ナタルは
 
 「アーガイル准尉、針路を〝アメノミハシラ〟に取れ!」
 「了解!」
 
 有無を言わずに行動する彼を、少し頼もしく思えた。
 後ろでようやく落ち着いたらしいアズラエルふと漏らす。
 
 「Nジャマーキャンセラー……」
 
 ナタルとメリオルがちらと視線を向けた。
 
 「〝ナイチンゲール〟の解析など、やつらにできるはずが無いんだ……それ以外に、だとしたらやつらは〝プラント〟と……?」
 「理事、今からでも戻ってはいかがです? ここに被弾しないという保証はございませんが」
 
 嫌悪の色を隠しもせずにナタルがぶっきらぼうに言ってやると、彼はまたいつもの人を小ばかにした顔に戻り、言った。
 
 「まさかっ、特等席ですヨ? 僕がここにいないと意味が無いじゃないですか」
 
 俗物め……。
 ナタルは誰にも気づかれないよう、静かにふんと鼻を鳴らした。
 
 
 
 ――同時刻
 
 「熱源、来ます!」
 
 管制担当のメイリンが告げると、やや遅れて巡洋艦主砲クラスと取れるビームの粒子が〝ミネルバ〟の船体を掠めた。
 アーサーがびくんと身を竦めているのを声色と感覚で知覚しながらタリアは無視した。
 ユーラシア連邦の宣戦布告後の僅かな猶予期間、〝ミネルバ〟は地球連合の同時侵攻作戦に敗退し、宇宙《そら》に脱出したザフト兵の救援に全てを費やしていた。無論、アスランの指示であるし、それを見過ごすことができなかったのも彼の美点であり欠点でもあるだろう。早々にプラントへと帰路を取っていれば、こうして発見されることも無かったのだ、というのがタリアの率直な感想であった。
 
 「〝ジャスティス〟を出します!」
 
 タリアが指示を出す前にアスランが動いた。
 
 「無茶よ! あなたは――」
 「艦長、後は頼みます!」
 
 そういうと彼は目もくれず駆け出し格納庫へと向かっていく。
 
 「――生き急いで……!」
 
 タリアは小さく吐き捨てたが、自分の考えは正しいものだと信じていた。オーブを脱出した兵、地球から逃げてきた兵、それらの救出にもっとも参加し、もっとも彼らのために戦い続けたのがアスランであるのなら、こうも言いたくなる。
 
 「ど、どうします」
 「やるしかないでしょう、貴方もさっさと覚悟を決めなさい!」
 
 副長のアーサーの情けない声に一括し、〝ミネルバ〟は地球から打上げられたザフト兵を救出しつつ、敵を退けねばならない過酷な戦いへと身を投じていく。
 それでも、やるしかないのだ。タリアはそういう甘い坊やの隊に来てしまったのだから。
 
 
 
 〝ジャスティス〟はすでにあちこちガタがきていた。オーブでの戦闘以来まともな整備をしてやれていないが、それでも、アスランはここで歩みを止めるわけにはいかない。守れる命、守るべき命を、決して見捨てないために。
 高速で襲い来る〝ストライクダガー〟に向けビームを放つが、全機が回避してみせたのはアスランにとって芳しくないことだ。決して威嚇のつもりは無かった。
 ――こいつら、エースか!
 一糸乱れぬ機動の連合部隊が、逃げ遅れた〝ジン〟に狙いを定め攻撃を加える。アスランは援護に入ろうと慌てて機体を加速させたが、隊長機と思われる〝ダガー〟がそれを阻むように立ちはだかった。
 
 「こ、こいつ!」
 
 光条に貫かれた〝ジン〟が、閃光を瞬かせながら地球の引力に引かれて落ちていく。
 ――あの機体は……。
 オーブ戦の生き残り、共に救助を続けてくれた仲間の一人だった。慌しい中で、名前までを覚えてやれなかったことをアスランは後悔した。
 眼前の〝ダガー〟がビームサーベルを抜き去り迫ると同時に、真横からの斬撃に胴から真っ二つにされた。
 
 〈アスラン、無事か!〉
 
 スカイブルーに塗られた〝スラツシュザク〟が、アスランをかばうように前へ出る。
 
 「すまないイザーク、こいつらは手強い!」
 〈見ればわかる!〉
 
 MMI‐M八二六〝ハイドラ〟ガトリングビーム砲をばらまきながら〝スラッシュザク〟が一気に加速し距離を詰める。そのまま薙ぎ払う〝ファルクス〟を容易く回避した〝ストライクダガー〟がビームサーベルを抜き斬りかかる。返す刃でビームの刃を払い、イザークは体当たりで敵を弾き飛ばした。
 たまらず距離を取る〝ストライクダガー〟を正確な射撃が貫く。
 
 〈救助作業はもうじき終わるぜアスラン! 時間を稼げばそれで良いよな?〉
 
 と、ディアッカ。
 黒く塗装された〝ガナーザク〟が敵部隊の陣形を崩していく。
 ちらと視線を地球軌道上で打上げられたシャトルから脱出していく仲間のコーディネータの姿を確認し、「ラスティ、うまくやってくれよ……」とひとりごちた。
 
 
 
 〈針路クリア! 〝インパルス〟発進どうぞ!〉
 
 通信士のメイリン・ホークの声を聞きながら、どこの針路がクリアなんだと内心毒づいたレイであったが、その感想はすぐにはるか上方から差し迫る悪寒によってかき消された。
 ぞくりと身の毛のよだつ……この世のものとは思えない悪夢のような何か。これは、知っているぞ、俺は、オーブで……同じものを――!
 
 〈レイ、どうしたの? 発進を――〉
 
 メイリンの言葉も待たずに〝インパルス〟は飛び出した。同時に〝シルエット〟が全機出撃する。
 カタパルトから虚空へと乗り出したと同時に、レイは上方の邪悪に向かってビームを放つ。
 ややあって、〝ミネルバ〟艦橋《ブリッジ》のはるか上空で巨大な火球があがった。
 
 
 
 「な、何の力ぁ?!」
 
 よろめきながら言う副長のアーサー・トラインの情けない叫びを聞きながら、タリアは衝撃ゆれる艦橋《ブリッジ》でぎっと奥歯をかみ締めた。
 先に核を使ったのがこちらなのだから、こうもなるか!
 
 「索敵急いで!」
 
 と指示をまわしつつ、メイリンを通じ出撃中のアスランへと回線をつなげる。
 
 「ザラ隊長、このままでは狙い撃ちにされます!」
 
 モニターのアスランは真面目な顔のまま告げる。
 
 〈駄目だ! 彼らを見捨ててはおけない!〉
 「――ですが!」
 
 なおも食いすがるタリアに、アスランは自信に満ちた様子で返した。
 
 〈大丈夫です。――レイがいる!〉
 「レイ、ですか?」
 〈あいつは今、〝ジャスティス〟のレーダーにも引っかからなかった〝メビウス〟を見つけて、狙撃して見せてくれた! 〝ミネルバ〟は彼が守る!〉
 
 その一言に、彼への絶大な信頼を読み取ったタリアだが、さきほど索敵士のバート・ハイムが告げた〝メビウス〟の接近とほぼ同時に攻撃をして見せた〝インパルス〟の活躍をこの目で見た以上、それを信じさせるだけの根拠もあった。
 
 「ルナマリアに伝えて! レイの〝インパルス〟を援護させなさい!」
 「は、はい!」
 
 メイリンが少しばかり危なっかしい手つきでてきぱきと指示を飛ばしていく。
 同時に〝インパルス〟が接近する〝ストライクダガー〟に向けて針路を取り、すぐ後を〝ブラストシルエット〟、〝ソードシルエット〟、〝フォースシルエット〟、そしてオーブ防衛戦にこそ間に合わなかったものの、ようやく調整の終えた〝ガイアシルエット〟、〝アビスシルエット〟、〝カオスシルエット〟の計六機もの〝ドラグーン〟がすぐ後を追い、やや遅れてルナマリアの赤い〝ザク〟が支援に入る。
 
 
 
 あの閃光、核か!?
 ぎくりと身を震わせたラスティだが、ここを動くわけにもいかないのが彼であるから、動揺を悟られないようにいつもの調子を崩さずに言う。
 
 「戦闘が始まったみたいだけど、〝ミネルバ〟まで行けるな!」
 〈ああ、すまない!〉
 
 相手がそう返すと、ラスティは〝スラッシュザク〟で〝バクゥ〟の足を押して〝ミネルバ〟の方角へと向けてやる。
 
 〈恩にきる! 後でまた会おう!〉
 「良い旅をってね!」
 
 まだまだ救いを求める機体はたくさんある。だというのに、どこの部隊も支援に来ず、この有様では泣き言も言いたくなるが、空元気のひとつでも出してやろうと思うのがラスティである。
 
 「そーらどんどん行くぜー!」
 
 といいつつも、同じく宇宙《そら》にあがった仲間の救助にあたるニコルにも声をかける。
 
 「ニコル、そっちは!」
 〈は、はい、大丈夫です!〉
 
 焦りの色を浮かべる仲間を、後でからかってやるかなどと思いつつも彼は続けた。
 
 「オーケー、ザフトのためにってね!」
 〈はい!〉
 
 
 
 格納庫《ハンガー》に溢れ返る大量の破損したモビルスーツにメカニック班長のマッド・エイブスは慌しく指示を飛ばしていた。ようやく使えるようになったシホの〝ブレイズザク〟が出撃していくのを見送りながら、同時に作業が遅れ気味のヴィーノ・デュプレに「モビルスーツの出撃を優先させろ!」と声をかけ、あわててヴィーノと同い年のヨウラン・ケントも彼に続く。
 つい先ほど到着した〝バクゥ〟から、パイロットと共に負傷した兵が数人降り立ち、地べたに突っ伏している。すぐさま救護兵が到着し、ミハイル・コーストは激を飛ばす。
 
 「丁重に扱え! ゆくゆくは我らの戦力にもなるかもしれないのだからな!」
 
 と同時に、アスランらの支援にいけないことへのわずかな苛立ちもあった。だが、地球から送られてくる負傷者の数が疾うに〝ミネルバ〟に配属されている医療メンバーの許容範囲を上回っているのだとなれば、そうも言っていられないのが現状である。
 一人の兵がまた、今度は救援艇から担ぎ出されてくる。男は簡易ベッドに寝かされ、苦痛に顔をゆがめていた。
 
 「死ぬなよ、必ず助かる!」
 
 ミハイルが言うと、男は生気の無い顔で
 
 「で、でも――」
 
 と呻くが、ミハイルはかまわずに言い放つ。
 
 「『ドクター』の名を聞いたことはあるか?」
 
 男は僅かに怪訝な顔になり、やがてはっと表情を改める。
 
 「『ドクター』……ミハイル・コースト……」
 「それが私だ。君は助かる、必ずだ!」
 
 やがて男はわずかに落ち着きを取り戻し、短く「良かった……」とつぶやき医務室へと運ばれていく。
 これが、私の戦いだ!
 ミハイルは格納庫を後にし、彼の戦争をしに向かった。
 
 
 
 ぱっと三つの巨大な火球があがり、それはレイの〝インパルス〟が核ミサイルの迎撃に成功したことを意味する。
 
 〈グゥレイト! あいつやるねぇ!〉
 〈ディアッカ余所見しないで! 邪魔よ!〉
 
 ディアッカがはしゃぐ様子を、もうとうの昔に彼とラスティに敬語の類を一切使わなくなったシホがぴしゃりと叱る。
 
 「ミゲルとアイザックは!?」
 
 アスランが〝ミネルバ〟に通信を入れると、すぐに返ってきた。
 
 〈今発進しました、二人はラスティさんたちのところに!〉
 
 良い判断だ。アスランは心の中でミゲルの判断を賞賛し、すぐに気持ちを切り替える。
 
 「イザーク、ディアッカ、シホ! 俺たち四人で連合の部隊を撃退する!」
 〈任せろ!〉
 〈ヒュー、熱いねぇアスラン!〉
 〈少しは緊張感を――!〉
 〈来たぜ!〉
 
 シホの苛立ちに、ふざけていたディアッカが真面目な声で返す。
 十二機もの〝ストライクダガー〟が、増援として現れ、隊長機と思しき機体――〝一○五ダガー〟が先陣をきる。
 ディアッカの〝ガナーザク〟がM一五○○〝オルトロス〟高エネルギー長射程ビーム砲で先制攻撃を仕掛けた。ぱっと敵部隊が鮮やかなスラスターの光を煌かせ散開する。
 
 〈あちらさんやるねぇ、こいつぁなかなか手ごわいんじゃない?〉
 〈こ、この……〉
 
 シホがまた何かを言いかけようとするが、その前にイザークが言う。
 
 〈だろうな、だからこそ貴様の腕には期待している〉
 
 言われたディアッカははっと鼻で笑い、甘い声で言い放った。
 
 〈もちろんそのつもりだぜ! イザーク、シホ、アスラン、背中は俺に任せな!〉
 
 〝オルトロス〟を構えたまま距離を取るディアッカ機にあわせるように、〝スラッシュザク〟が前へ出、あわててシホの〝ブレイズザク〟がそれに続く。
 
 「やつらを通すな! ここで抑える!」
 〈了解!〉
 
 仲間たちが同時に言うと、また遥か後方で巨大な火球があがった。
 
 「――やるな、レイ」
 
 俺も負けていられない、か。などと僅かな感傷に浸りながら、〝一○五ダガー〟をにらみつける。
 
 「ハロ、〝ファトゥム〟は任せるぞ!」
 〈テヤンデイ・テヤンデイ〉
 
 ハロを〝ファトゥム‐○○〟の制御AIとして配置したのは正解であった。こちらの先を読むナチュラルを相手にするには、意表をつく必要がある、それの苦肉の策がハロであったが、想定した以上の戦果を出してくれたのが地球でのオーブ戦である。
ハロのAIが、〝アークエンジェル〟のキラたちによるものというのは皮肉なことだが、彼らがやらなくてもアスランが完成させていたのは確実であり、その手間が省けた程度にしか彼は考えていなかった。だが、ざまあみろという感情がわいてくるのも事実である。
 一気に加速し〝一○五ダガー〟に迫ると、敵は背部に背負う×印の〝ストライカーパック〟のようなものがぱっと起動し、四つに分かれる。即座にそれが〝ガンバレル〟であることを理解したアスランは、〝ファトゥム‐○○〟のMA‐四Bフォルティス・ビーム砲、M九M九ケルフス旋廻砲塔機関砲、GAU五フォルクリス機関砲の全砲門から一斉射撃を放ちつつ、更に加速した。
 〝ガンバレル〟からの砲撃が来るよりも早く、〝一○五ダガー〟の懐に飛び込むと、〝一○五ダガー〟はビームサーベルを抜き去り、襲い来る。直前で〝ジャスティス〟から〝ファトゥム‐○○〟を分離させ、左右に分かれて〝一○五ダガー〟とビームサーベルを交える。
必殺の一撃をこめて放った斬撃を〝一○五ダガー〟は身を僅かに反らすだけで避けてみせ、アスランは舌を巻く思いだったが、〝一○五ダガー〟後方から高速で迫る〝ファトゥム‐○○〟には対応できまい!
しかし、なおも〝一○五ダガー〟は宙返りの形で回避して見せたのは、アスランは敵への賛辞の言葉を送らねばならないと痛感した。しかし、と彼は思う。
 再び体勢を立て直しビームライフルの銃口を向ける〝一○五ダガー〟を、力強いビームが貫いた。
 〝ガナーザク〟の〝オルトロス〟である。
 
 「前へ出すぎだよ」
 
 散っていく〝一○五ダガー〟に言い放つも、返事は返ってこなかった。
 
 
 
 〝ヴァーチャー〟の部隊が〝アメノミハシラ〟に突入していく。スウェンらの五機の〝G〟がそれを援護し、〝ドミニオン〟が脇を固めた。
 同時に、フレイは全方位から向けられるランダムな敵意以外にも、もうひとつの別の意思を捉えていた。オペレーターのミリアリアに通信を入れる。
 
 「ミリアリア、わたしたちの周囲を旋回してるようなものがいるって感じるけど、どう?」
 〈こちらでは確認していないけど、フレイがそう感じるならいると思う!〉
 
 すると、モニターにぱっと割ってはいる影が見え、それがアズラエルだとすぐに気づいた。彼がいつものにやけ顔を浮かばせ、綺麗な並びの白い歯が見えたのが不愉快に感じる。
 
 〈アルスター少尉? 〝ウィンダム〟は非常に敏感な機体です。貴女の脳波に導かれて、正確に敵を割り出すことも可能なはずデス〉
 
 はあっとフレイはいらだちも隠さずに言う。
 
 「それをここでやれっていうんですか?」
 〈勿論。貴女ならできますヨ〉
 
 通信が切れると、フレイはまったく! と口の中で言い放ち周囲の殺気に意識を集中した。すぐに〝ウィンダム〟の周囲を味方機の〝ストライクダガー〟が守るようにして立ち並び警戒した。
 そうだ、いる。何かがわたしを見ている!
 ぞわり、ぞわりと背筋を何が這っていくような感覚にとらわれる。何者かが品定めをするかのようにわたしを舐め回す。ああ、こいつはそういう『男』か、と理解したところで、彼女の意識が敵を捉えた。
 
 
 
 〝アークエンジェル〟を包囲しつつあった〝ストライクダガー〟に砲撃を加え、怯んだ敵機を着実に落としていく〝フォルテストラ〟装備の白い〝ロングダガー〟をモニターの下方に捉え、その動きは見事であると改めて実感した。
 苛立ったようにして二機の〝ストライクダガー〟が〝ロングダガー〟に挟み撃ちをしたところで、キラは左方からの一機に狙いを定め、トリガーを引いた。
 放たれたビームの粒子が〝ストライクダガー〟の胸部コクピットを正確に撃ち貫くと同時に、〝ロングダガー〟が残されたもう一機をサーベルで横薙ぎにし、二つの爆発。
 キラは〝フリーダム〟を〝ロングダガー〟の支援に入る形でやや後方に陣取り、通信を入れる。
 
 「キャリー中尉、大丈夫ですか!」
 〈ああ、助かったよ少尉!〉
 
 ジャンが真面目に答えると、キラはほっと胸をなでおろす。同時に後方から来た〝アカツキ〟と合流すると、すぐにスティング、アウル、ステラの〝メビウス・ゼロ〟隊が取り囲む。
 
 〈支援に回ります!〉
 〈アスカ君、無理はするな!〉
 
 ジャンが心配げに声をかけたが、シンは短く〈行けます!〉と告げると、残りの〝ストライクダガー〟に向けて七二D五式ビームライフル〝ヒャクライ〟を撃ち放つ。
 それを支援するように三機の〝メビウス・ゼロ〟から同時に〝ガンバレル〟が展開し、一機また一機と敵を撃ち落していく。ふいに、ステラがびくっと何かを感じ取りつぶやいた。
 
 〈スティングぅ……誰かがステラたちを見てるよ……?〉
 〈誰か……?〉
 
 スティングが疑問を返すと同時に〝フリーダム〟の背後を強力なビームの粒子が通過する。あわてて索敵すると、その攻撃の出所が〝ウィンダム〟であることがわかり、キラは驚愕した。
 
 「フ、フレイ!? 何で!?」
 〈邪魔よ!〉
 
 ぴしゃりと言われると、同時に聞き覚えの無い声が周囲に響く。
 
 〈ハッハッハッハ! ついに見つけたかね!〉
 
 空間がぐらりと歪み、〝フリーダム〟の二倍はあろうという巨体が姿を現す。シルエットこそ連合の〝イージス〟に似た雰囲気を感じるが、暗い紫に塗られた塗装と、両の肩が左右に大きく突き出たそれが異形の存在であることを知らしめている。
 謎の巨大モビルスーツは両手を広げ、尊大な仕草で己の存在を主張した。
 
 〈自己紹介をさせてもらおう! オレの名はアッシュ・グレイ! そしてコーディネイター!〉
 「ふざけているのか、こいつ!?」
 〈もらったぁ!〉
 
 キラが毒づくと、〝アカツキ〟と〝ロングダガー〟が同時に斬りかかる。
 
 〈人がァ! 物をしゃべっているときはぁ!〉
 
 モビルスーツは巨大なビームサーベルを構え、ジャンの一閃を全て受けきる。
 
 〈最後まで聞けと習わなかったかァ、マヌケめぇ!〉
 
 同時に〝アカツキ〟を蹴り上げ、手に持つロングビームライフルを狙いもつけずに乱射した。
 
 「シン、キャリー中尉、下がって!」
 〈〝ガンバレル〟!〉
 
 MMI‐M一五クスィフィアス・レール砲で援護射撃と同時に総勢十二基もの〝ガンバレル〟がぱっと展開し敵機体を包囲した。アッシュと名乗った男は更に声を荒げた。
 
 〈お前もだ! キラ・ヒビキ! そして強化人間の糞餓鬼どもぉ!〉
 
 言われた名に、ぎょっと身を震わせる。
 
 「あ、あなたは、その名前を――」
 〈お前もお前もお前もお前もお前もぉ!〉
 
 長大なバレルを持つロングビームライフルを乱射しつつ、敵機体はジャンたちを退ける。
 
 〈〝リジェネレイト〟だ! オレのマシーンであり、〝フリーダム〟の弟にして〝テスタメント〟の兄! 〝リジェネレイト〟! オレの存在を、覚えておくが良い! そして死ねェ!〉
 
 ロングビームライフルをなおも乱射し、〝ロングダガー〟から放たれた左肩部八連装ミサイルポッドから逃げるようにして虚空を舞う。
 
 「〝フリーダム〟の、弟――!? ザフトの人なんですか!」
 〈マヌケめ! オレが答えてやると思うか!?〉
 「な、に……!」
 〈便所の隅に転がる薄汚れて使い古されたコンドームのように目障りなお前の質問に、このオレが! こ、た、え、る、かぁー!?〉
 
 この男! キラはもはや容赦する気も起きず、MA‐M二○ルプス・ビームライフルで狙いを定める。男はなおも続ける。
 
 〈しかしさすがはフレイ・アルスター! 『赤い彗星』の名に恥じぬ腕よ!〉
 
 無言で〝ヴェスバー〟を放つフレイなど気にもせずに、アッシュは悦に浸り続ける。
 
 〈しかししかしぃ、最初からずっとこの戦場にいたからゆえ、『あえて』言わせてもらう! 遅かったなこのウスノロめ!〉
 〈キラ、このウッザイの何とかしなさい!〉
 
 同時に少女が言うと、〝リジェネレイト〟はあざ笑い〝ウィンダム〟へと標的を移し変える。
 
 〈やらせん!〉
 
 〝ロングダガー〟が踊り出、斬りかかる。
 
 〈はあっ!〉
 
 〝ウィンダム〟がES○四Bビームサーベルを抜き去り距離を詰める。
 
 〈くらえぇ!〉
 
 〝アカツキ〟が七三J二式試製双刀型ビームサーベルを持ち迫る。
 
 〈行くぜぇ!〉
 
 スティングの〝メビウス・ゼロ〟が対装甲リニアガンでそれらを支援し
 
 〈あったれぇ!〉
 
 アウルが〝ガンバレル〟で背後から襲い掛かる。
 
 〈いやなやつ、消えろ!〉
 
 真正面からステラの〝ガンバレル〟が互いに支援を繰り返しながら差し迫った。
 
 「――落とす!」
 
 キラも負けじと〝フリーダム〟を加速させ、MA‐M○一ラケルタ・ビームサーベルを鞘走らせる。
 七機による同時攻撃! これなら!
 四機のモビルスーツが交わる刹那の瞬間、〝リジェネレイト〟は斬りかかる機体に対し、左手、右手、左足、右足からそれぞれ高出力ビームサーベルを繰り出し、全てを捌ききって見せた。
 
 〈貧弱貧弱ゥ! このボンクラどもがぁー!〉
 ――強い!
 すると、通信越しのフレイが底冷えするような声色で短くこう告げた。
 
 〈ぶわぁーか〉
 
 死角から放たれた二対のMk三一五〝スティレット〟投擲噴進対装甲貫入弾が正確に〝リジェネレイト〟の両腕をえぐり飛ばし、爆発にまぎれて〝ウィンダム〟はそのまま両の足を切り落とした。
 
 〈オオウウゥ!?〉
 
 男の苦悶に満ちた声とは対照的に、フレイは上機嫌な、ややサディスティックな声色で言い放つ。
 
 〈あんたは色々知ってそうよねぇ? 生かさず殺さず連れて行ってあ、げ、る〉
 
 やっぱりフレイは最高だ、などと心の隅で思いながらも、キラは尚も余裕の様子を崩さない敵機体に注意を凝らした。
 
 〈――そう、ここからが本番! 〝リジェネレイト〟のスペクタクルショーの始まりだ!〉
 
 ぱっと姿を現したモビルアーマーのようなそれは、キラたちに砲撃を加えつつ〝リジェネレイト〟の周囲に散開し、やがてそれは姿を変え〝リジェネレイト〟とまったく同じ姿となる。男の乗る〝リジェネレイト〟から何かが分離し、新たにやってきた〝リジェネレイト〟と合体し、再び完全な状態の敵モビルスーツが姿を現した。
 
 〈うそ、それってズルイ!〉
 〈諦めるな! この程度、勝機はこちらにある!〉
 
 フレイのかわいい声に続きキラはちょっぴりカッコイイことを言おうとするが、先にジャンに言われた。
 
 〈ハァァァァ! 楽しい! さあ、殺しあおう!〉
 
 男の狂気に付き合ってやる気など毛頭無かったが、野放しにもできない。キラは再び〝リジェネレイト〟に狙いを定めた。
 
 
 
 〝アメノミハシラ〟に進入した連合の部隊は、相当の手練であった。強化訓練をこなして来たスウェンにとっても彼らの手腕は脅威であり、これほどの部隊を隠し持っていたユーラシアには僅かな苛立ちを覚えた。
 一人の敵兵がシャムスらの射撃をかいくぐり、ミューディーの眼前に迫る。
 
 「わわ、私ほんとはこういうの苦手――」
 
 言うよりも早く敵のナイフがミューディーの首筋に伸びる。
 
 「ミューディー!」
 
 シャムスが声をあげると同時に、敵連合兵の両腕が宙に舞った。スウェンが視線で追うよりも遥かに早く、少女の華奢な体がくるくると回転しながら敵兵の四肢を刻み、残った胴を盾にしながら三本のナイフを遠くから応射を加える敵部隊に投げつける。投げナイフは正確に首を貫き、三人の人だったものが崩れ落ちた。
 九死に一生を得たミューディーが腰を抜かしてつぶやいた。
 
 「ふ、副長さん強いのね……」
 
 言われた少女――メリオル・ピスティスはちらりとも見ずにミューディーに指示を出す。
 
 「人手を遊ばせてる余裕はありません。戦えないのなら〝デュエル〟に」
 
 〝ドミニオン〟からなぜ彼女がわざわざ、とつい先ほどまで思っていた疑念はとうに吹き飛んでいた。
 
 「りょ、りょーかい……って言いたいとこだけど、こ、腰抜かしちゃって……」
 
 申し訳なさそうにミューディーが言うと、後ろからさっと彼女を持ち上げた少年がミューディーの腰をぐっと押し込む。彼女は「ひゃんっ」と情けない声をあげ、少年は無視して言う。
 
 「行けるな、メリオル。――あんたたちは無理をするな」
 
 憮然とした態度の少年――カナード・パルスが言うと、相変わらずコーディネイターに苦手意識を持つエミリオが「良いのか?」と不機嫌に返す。するとカナードはにっといやらしい笑みを浮かべ、こう言った。
 
 「こっちが本職でな」
 
 と。
 
 
 
 「〝アメノミハシラ〟との通信回復! 艦長!」
 
 カズイの報告に、ナタルはほっと胸を撫で下ろした。副長のいない〝ドミニオン〟艦橋《ブリッジ》は僅かにさびしいものだが、少しの辛抱だ。
 
 「すぐに援護の部隊を向かわせると伝えろ!」
 「了解!」
 
 拘束されていた〝アメノミハシラ〟の部隊が続々と開放されていく。それらのほとんどがカナードとメリオルの手に拠るものなのだから、見事としか言いようの無い。ふいに、アズラエルがつぶやいた。
 
 「おかしいぞ……」
 
 クルーが視線を向けると、アズラエルは続ける。
 
 「ユーラシアの連中なら、二人の実力を知っているはずだ……」
 
 普段なら内心鼻で笑い相手にもしない男の言葉だが、カナードとメリオルが元ユーラシア連邦の兵であるのだから、彼の告げた言葉には無視できないものがあると感じた。
 
 「我々を誘い込む罠、だと……?」
 
 問われたアズラエルは油断無く何かを思索し続ける。
 
 「断言はできません、でも――ビラードと言う男、油断のならない人物です」
 「――何か因縁でも?」
 
 ふと自分の口から出た言葉に驚いたが、それ以上に驚いているアズラエルが、答えを示していた。ややあって彼は「これだから『ニュータイプ』は」とひとりごちたがナタルには意味はわからなかった。
 アズラエルは遠くを見るような目で、吐き捨てる。
 
 「僕のじゃあ無いんですケド、ネ」
 
 
 
 初期の段階でこそ優勢であったものの、〝リジェネレイト〟の撃破数が十を超え始めた時点で弾薬が底を尽き始め、徐々にシンたちは疲弊していった。〝フリーダム〟ですらほとんどの弾薬を撃ちつくし、ジャンの〝ロングダガー〟はすでに〝フォルテストラ〟を脱ぎ去り残された武装は僅かな弾数であろうビームライフルとサーベル。 〝ウィンダム〟も同じくビームサーベルのみとなっている。シンの〝アカツキ〟などは早々に武装を使い果たし、ステラたちの盾になるので精一杯であった。周囲には無数の〝リジェネレイト〟の残骸が散らばっているが、目の前には再び完全な状態となった〝リジェネレイト〟が悠々とたたずんでいる。
 
 〈ンッンー? 今良い曲が思い浮かんだのだが、終わりかね? ところでオレの機体のエネルギーは今百パーセントなのだがァ? アァッすまない嘘だ、九十七だった――で、終わりかね?〉
 
 弱者を甚振るような猫なで声でアッシュが言うと、フレイが息も絶え絶えに〝ウィンダム〟のサーベルを構える。
 
 〈な、なんなの、コイツ……〉
 
 するとアッシュは思い出したように声を上げた。
 
 〈アーッ! オレはそうだ、思い出したぞ! 馬鹿と言ったな小娘〉
 
 途端に冷酷な肉食獣を思わせるような声になり、男が言う。
 
 〈お前をたっぷりいたぶってオレの餓鬼でも孕ませてから殺してやりたいところだが、お前だけは殺すなと言われていてね、のどから手が出るほど悔しいィィィがァァァ、ま、仕方ない見逃してやろう。ああ、やはり嘘だ、殺すなと言われたが連れて来いとも言われていたんだったァ〉
 
 ぎりとシンは奥歯を噛み締めた。アッシュの一言一言がシンの神経を逆なでする。こいつは、今までの相手とは違う。宇宙《そら》で散った〝ストライクダガー〟隊の人たちも、オーブを取り戻すために共に戦った仲間たちも、みんな何かを成し遂げるためにたたかっていたのだ。だがこの男はどうだ。その何かを、全く感じさせない。この男は戦争をする為に戦争をしている、正真正銘の屑だ。
 
 〈『お前』の目的が何であれ、フレイには指一本触れさせない!〉
 
 ぞっとするくらい底冷えする声でキラは言った。シンも同じ気持ちだ。この男と同じ戦場にいるだけで虫唾が走る。あの人の視界に、一秒でも入れておきたくない!
 
 〈寂しいなァ、キラ・ヒビキ? ついさっきまで『あなた』だったオレの扱いが、『お前』に変わったぞ?〉
 
 男の戯言に付き合うつもりは無い。
 〝フリーダム〟がMA‐M○一ラケルタ・ビームサーベルを構える。シンと〝ロングダガー〟も同じくし、〝ウィンダム〟をかばうように寄り立った。
 
 〈オイオイそうアツくなるなよ? 『オレ以外の人間はオレに殺されるためだけに存在している』というオレの確言を、聞いたことが無いかな? あるわきゃぁ無えかァァァーハハハハハー! 可愛いィーフレェーイ! お前のォー用がァ済んだらー! 百回は遊び散らしてェ! バラバラにしてェ! 公衆便所に流してやる〉
 
 全身が沸騰しそうなほどの嫌悪と怒りに身を任せ、シンは言い放つ。
 
 「殺してやる……!」
 
 アッシュが〈ホッ!〉と感嘆する。
 
 〈オオ怖い怖い! だがそういう小僧――〉
 
 からかうような声が一気に冷たくなる。
 
 〈お前はもう死に体だ〉
 
 怒りはやがて殺意へと変わり、操縦桿を握る指先がこわばる。
 
 〈挑発だ、アスカ君〉
 
 ジャンが短く言うと、痺れを切らした〝リジェネレイト〟の巨体が一気に差し迫ってきた。
 
 
 
 ここへ来て、ユーラシアの勢いが増してきたように感じた。
 〝アメノミハシラ〟の格納庫《ハンガー》に降り立ったアズラエルは、同じく計器をいじるセレーネを一瞥しながら、眼前の戦場に目を向けた。
 これは、杞憂では無い。しかし、目的はなんだ? カナード・パルス、メリオル・ピスティス。彼らに何があるのだ……?
 しかし、この格納庫《ハンガー》に滑り込むように墜落してきた一機の〝メビウス・ゼロ〟の姿を見、彼の思索は止まった。
 
 「め、盟主、敵が!」
 
 慌てたジブリールなど見もせずに、アズラエルはその先の敵機体を睨みつける。駆動系の独特なパーツ、組み合わせ方、関節の形からすぐに分離型の機体だと読み取り、なるほどと感心した。
 
 「面白い機体を作りますネェ、ユーラシアにいるようですが、ザフト製の機体――これでハッキリしました」
 
 そしてそのまま
 
 「ですが、失敗ですネ。ずいぶんとコストを度外視した機体デス。それでは合格はあげれマセン」
 
 と皮肉るのも忘れずに、確かにあの子たちでは荷が重い相手だとも思った。だが、勝算はここにある。
 アズラエルはさっと居住まいをただし、セレーネ達に凛として告げた。
 
 「さあ、今こそ成果を見せる時です! 〝スターゲイザー〟を起動させなさい!」
 
 一秒、二秒、三秒待っても返事は来ず、アズラエルはああもう、と苛立った。
 
 「あのねぇ、こんなにカッコよく決めたんですから、僕に恥をかかせないでくださいよ!」
 
 尚も無言のセレーネ。アズラエルの脳裏にまさか、と思い浮かぶ。
 
 「あ、ひょっとして、動かないトカ……?」
 
 更に続く無言が、答えだった。
 
 「ああもう! どうするんですか!? この土壇場に来てどうしてそう――」
 
 とたんに冷静さをなくしたアズラエルだったが、少年ソルが指を立て慌ててしーっと人差し指を立てれば、また何かあるのかと興味を示すのも彼である。
 背後では〝ウィンダム〟を庇うように、〝フリーダム〟がビームサーベル一本で見事な立ち回りを見せ、白い〝ロングダガー〟も着実に敵機体のパーツをそぎ落とす。〝アカツキ〟も頑張っているようで、隙を狙い撃つ敵の砲撃をたくみにガードしている。だがその度に敵機体は損傷した部位を入れ替える。
 ソルに導かれるまま、アズラエルは映し出されるモニターに目をやった。すぐ隣でジブリールが「行け、そこだ! 頑張れ少年!」などと観戦している。
 モニターにはいくつかの文章が映し出されていた。だがそれは暗号や専用の言語プログラムなどでは無く、これは――。
 最初の文は、こう始まっていた。
 
 『私は、誰なの?』
 
 鋼の肉を得たAIの産声か。その次には、セレーネの返答と思われる文が、
 
 『おはよう、ララ。貴女は〝スターゲイザー〟。私は貴女の生みの親の、セレーネ・マクグリフ』
 
 彼女の性格の割には普通過ぎる内容にわずかな落胆したアズラエルだが、次の文を追うと、その内容はアズラエルが期待していたもの以上のものであった。
 
 『いいえ。それは嘘。私の親のことは、あの人が忘れさせてくれたから』
 『あの人?』
 『私は誰なの? 『彼女』を模しただけ? 『彼女』の心が私を呼び、私という個を形成したの? それとも、私の中に宿る『彼女』は――ああ、私は『彼女』そのものなの?』
 
 間違いない。アズラエルは確信した。ここに、いる。
 だが〝スターゲイザー〟の疑問に答える術を持たないセレーネでは、ここから先が続かないのは当然と言えた。セレーネは沈黙することしかできなかったのだろう。だから彼女を責めるつもりは無い。
ただ、セレーネに「変わります」と短く告げると、彼女は抗議の色を顔に浮かべたが、「大丈夫です」と言ってやれば、打つ手の無い彼女は席を譲るしか無いだろう。
 アズラエルが何かを入力する前に、〝スターゲイザー〟が続きを綴る。
 
 『今度は貴方? 私の知らない人?』
 
 素晴らしい。アズラエルは興奮の冷めないまま、続ける。
 
 『濡れた写真』
 
 〝スターゲイザー〟の反応がぴくりととまる。これは、キーワード。〝ナイチンゲール〟の産まれたばかりのAIにあるはずもない過去の記憶――。『本人』なのか、あるいはそれをなぞっただけか……ひょっとしたら〝サイコフレーム〟に残された『彼』の思念を、AIが取り込んだだけなのかもしれない。同じように、目の前に『いる』AIも――。
 アズラエルは尚も書き綴った。
 
 『ごみの山。殺し屋。モビルワーカー。宇宙。海。コロニー。故郷。ニュータイプ』
 
 淡々とキーワードを書き込むアズラエルに、訝しげな顔をのぞかせるセレーネだが、〝スターゲイザー〟は沈黙を守る。
 
 『雨。白鳥。出会い。車。土汚れ』
 『わたし、は――』
 
 〝スターゲイザー〟が反応を示す。セレーネはごくりとつばを飲み込み、ソルも成り行きを見守る。ジブリールが「ああ、少年!」と声をあげる。〝アカツキ〟が弾き飛ばされ、敵機体はアズラエル達をぎらりと視認した。〝ウィンダム〟がアズラエルらを庇うように躍り出る。時間は残されていない。墜落した〝メビウス・ゼロ〟からステラが這い出て、「痛いよぉ」つ涙声で呻いた。
 
 『あ、ああ、私は、わたし、は――』
 『少しだけ、君を知っている』
 『私は誰なの?』
 『それでも君は、君だ。『ララァ』なのか『ララ』なのかまではわかりません。でも、『ララァ』の望む事、そして貴女がしたいことはわかっています』
 『教えて、それは何?』
 
 それは――。答えを打ち込む前に、次が映し出された。
 
 『あ、わかったわ』
 
 人が、変わったような気がした。
 
 『ふふ、意地悪な人ね? 回りくどい言い方をして。大人っぽやりかた。でも――』
 
 コンテナから、淡い光が漏れ出した。
 
 
 
 「――何だ……?」
 
 思わず、トールは心を駆ける鮮やかな風と香りに気を取られた。
 知らない女性《ヒト》の香りだ……。
 つい今しがた敵アガメムノン級をビームサーベルで串刺した〝デュエル〟が、誘爆を始めるその船体の上でふいに動きを止める。己の状況全てを忘れたかのようにして〝デュエル〟は硬直し、何かを捜し求め――
 
 「大尉!!」
 〈馬鹿野郎!〉
 
 トールとムウが同時に叫び、〝デュエル〟が爆発に呑まれつつもわずかに遅れて飛びのいた。
 四機の〝エールダガー〟が散開し四方からの波状攻撃で〝デュエル〟を包囲する。
 トールはそのうちの一機に狙いを定め、すかさずトリガーを引いた。同時にムウの〝メビウス・ゼロ〟が対装甲リニアガンで別の〝エールダガー〟のコクピットを貫き、そのまま〝ガンバレル〟を展開させ〝デュエル〟の援護に入る。
 トールの〝デュエルダガー〟の射撃を避けた〝エールダガー〟は〝デュエル〟から嵐のようなビーム射撃を受け、慌てて距離を取る。そのままスラスターを煌かせトールに向けてビームライフルを連射した。
 〝フォルテストラ〟に装備された左肩部八連装ミサイルポッドからミサイルをばら撒き、脚部アンバックを利用した変則的な回避運動を取りつつも、確実に直撃コースのビームを連続して放つ敵のパイロットの腕に戦慄した。
 だが、後悔するわけにはいかない。最前線に出、アムロ達と共に戦わせてくれと志願したのは自分なのだから……。
 焦りがあったのかもしれない。強くなっていくフレイに、キラ、カナード……。新たに編入された三人の少年少女たちも、見事な腕だ。オルガは〝アークエンジェル〟に行ってしまい、いつのまにか自分は〝ドミニオン〟の古株になっている。にもかかわらず、俺はまだ、何もできていない。
 その苛立ちが致命的な隙となり、〝エールダガー〟から放たれた一発のバズーカが〝デュエルダガー〟に直撃し、トールはその衝撃で思い切り体をコクピットシートに打ち付けた。じわと背中に痛みが走り視界が眩むが、今まで戦い続けた経験と勘を頼りに、辛うじて体が動いた。
 ぞわりと悪寒が走る、敵が来る! ばちりとコクピット内部にスパークが走り、割れたモニターに敵が来ることを確認するよりも早く、朦朧としたままトールは操縦桿を握りなおし、そのまま〝フォルテストラ〟を着脱させ、同時にビームサーベルを振り抜く。〝エールダガー〟ビームの刃がトールに振り下ろされるよりも早く、〝デュエルダガー〟の刃が〝エールダガー〟のコクピットを貫いた。
 誘爆していく〝エールダガー〟の後方で、二つの火球があがり、残りの二機の撃墜を知る。
 
 〈トール!〉
 
 アムロが緊迫した様子で〝デュエルダガー〟を抱きかかえた。
 ようやく少しずつ現状を認識しなおし、背中の痛みがわずかに後を引くと、トールは、〝デュエルダガー〟は外から見るとそんなに損傷が酷く見えるものなのかと妙に達観した感想を持った。事実、先ほどから警報《アラート》が鳴り響き、モニターに映る自機の損害状況は真っ赤に点滅し中破を示している。
 レベルが、違う。そう確信してしまった。
 あの状況から、アムロの〝デュエル〟は無傷で二機の〝エールダガー〟を屠ったのだ。
 それでもどこか、トールは悔しいとは思えず、口元は笑ってしまっていた。
 
 「……大尉、俺、呼ばれた気がしたんです。フレイかもしれないけど、知らない人、女の人だったんですよ、その人……」
 
 〝メビウス・ゼロ〟が〝デュエルダガー〟を守るようにして周囲を警戒し、モニターの左端に小さく映る〝パワー〟から陽電子破城砲〝ローエングリン〟が放たれる。
 戦いは、続いている。
 短い沈黙の後、アムロがどこか懐かしむような、悲しむような、不思議な声色で言った。
 
 〈ああ、こちらでも確認している……すまない〉
 
 きっと彼は、自分の所為でトールが被弾したと思っているのかもしれない。
 ああ、と理解してしまった。まだ俺は、一人前の、彼の背を守る男として見てもらえていないのだ、と。
 
 「行ってください、俺は一人で戻れますから――」
 
 それでも、トールは彼を怨んだりはしない。むしろ嬉しかった。自分が目指す男は、まだこんなにも遠いのだ、と。
 
 
 
 〈アルスターでも良いがぁ、オレはそっちの何かァ!〉
 
 〝リジェネレイト〟がアズラエルたちに興味を示し、同時に
 
 〈可愛い子だなぁー! 柔らかそうな肉だ!〉
 
 と〝メビウス・ゼロ〟から這い出たステラにビームライフルの銃口を向ける。
 
 〈やめろぉぉ!〉
 
 キラが叫び〝フリーダム〟が単身加速し距離を詰める。
 
 〈キャハー!! かかったァーッ!〉
 
 そのまま敵は強大な両腕でがしりと〝フリーダム〟を掴み取り、壊れかけの玩具を分解するような気安さで〝フリーダム〟の四肢を一本一本丁寧にもぎ取っていく。
 
 〈可愛いヒィーービキくぅーん! 貴様だけは、簡単には殺さんぞぉぉぉおおおおハハハハハー!〉
 
 眼前にいる、狂気。ぞわりとフレイは確かな怒りを覚え、震えた。
 
 〈さーあ何が良い! 圧死、焼死、出血死、何が良いぃー!? それとも貴様の〝フリーダム〟とやらと同じく、手と足をもぎ取って、最後に――!〉
 
 ジャンの〝ロングダガー〟がじりと警戒しつつ距離を詰めようとするも、敵モビルスーツは〝フリーダム〟を盾にしたまま狂乱し続け、そのままぶちりと頭部を捻じ切った。
 
 〈こぉしてやろうかァーッ!?〉
 
 やめろ、やめろ……お前に何がわかる、お前なんかに! その子がどれだけ苦しんでいるか、傷ついているのかも知らないお前が……! ずっと自分を責め続けて、自分が許せなくて、そんな子を責める権利なんて、誰にだってありはしないのに!
 そのフレイの想いが、コクピットに備え付けられた〝サイコフレーム〟を通じ、機体随所に散りばめられたそれを模した金属を律動させ、〝ウィンダム〟は背後のコンテナで目覚めた存在と繋がりあい、掌握、同調し、一つのシステムとして完成した。
 ふいに、誰かが優しく彼女の頬を撫でる。
 
 「――えっ」
 
 懐かしい感じがした。ずっと見守ってくれていた、もう一人。そうだ、貴女はパパとママと会えた時、わたしの――
 ――ごきげんよう。
 さっと彼女の頬を撫でた少女のイメージは、褐色の肌のまま虚空を駆けた。
 同時に鞭のようにしなやかな光の刃が波打ち、〝リジェネレイト〟の両腕を正確に切り裂いた。
 
 〈のぅわ!?〉
 
 流れるように舞う白銀の機体がコブシで〝リジェネレイト〟を弾き飛ばすと、崩れ落ちる〝フリーダム〟を優しくささえた。
 ラ、ラという歌声が優しく響き渡る。
 
 「キラ!」
 
 フレイは慌てて〝フリーダム〟を庇うようにして前へ出る。すると白銀の機体――GSX‐四○一FW〝スターゲイザー〟は、とんと床を蹴り飛んだ。〝リジェネレイト〟はすぐに元通りの姿になる。
 
 
 
 〈まだまだ楽しませてくれるかァー! 輪っかつきの新型ー!〉
 
 両手両足のビームサーベルで一気に迫る! その全てを限りなく正確で素早いコブシの乱打で打ち落とし、〝リジェネレイト〟の四肢を文字通り殴りつぶした。
 そのまま〝スターゲイザー〟は〝リジェネレイト〟を虚空へと蹴り飛ばす。
 〝スターゲイザー〟――本来戦闘用では無いそれは、ビーム用のジェネレーターなどは一切搭載していない。それ故に、核融合炉から生み出される強大な出力の全てを、機体のパワーに割いている。
〝スターゲイザー〟の繰り出す攻撃は、PS装甲であろうと容赦なく砕く鋼の拳となったのだ。同時に背中の円環構造体型のスラスター、惑星間推進システムヴォワチュール・リュミエールが生み出す余剰エネルギーが発光しビームの輪のようなものを作り、それが意思を持った触手のようにして〝リジェネレイト〟の潰れた四肢を再び刻んだ。
 
 〈だ、だがぁ! まだまだ予備パーツは――〉
 
 男が言いかけたところで、上方からの強力なビーム。かろうじて回避した〝リジェネレイト〟が見上げると、ビームライフルを構える〝デュエル〟が太陽光をぎらりと反射させ高速で接近する。
 
 〈来たかァ! お前と殺りたかった! ずっと! こんな余興だけでオレは満足したりはしない! さあ来い予備パァーツゥ!〉
 
 が、あたりはしんと静まり返る、変わりに来たのは〝デュエル〟のビームである。男がぎっと〝デュエル〟をにらみつけた。
 
 〈ま、さ、か――〉
 
 〝デュエル〟からもう一度強力な粒子が放たれ、敵は慌ててスラスターを吹かせ回避運動を取った。
 周囲には、フレイ達が破壊したものよりも遥かに大量の敵予備パーツと思われる部品の残骸が散らばっている。
 
 〈こ、の……! 変形する主役マシンの裏方スタッフを攻撃するような野暮な真似をするんじゃあ無いッ!!〉
 
 すると、すぐに残された胸部からスモークが噴出し、同時にぐらりと景色が歪む。
 〝ミラージュコロイド〟の発動を意味していた。
 
 〈また会おう、そして次は!――必ず殺してやる〉
 
 同時に手当たり次第に残弾をばら撒くと、〝スターゲイザー〟はセレーネらをかばうようにして身を屈める。ふと、〝ウィンダム〟背後の〝フリーダム〟が何者かに引っ張られ、そのまま虚空へ投げ出された。
 
 〈お、ま、え、は、こ、こ、で、死、ねぇぇぇー!〉
 
 すでに武器を持たない姿の見えなくなった〝リジェネレイト〟が、四肢の無い〝フリーダム〟を眼下の地球に向けて勢い良く投げ捨てる。癪に障るほど見事な引き際である。
 すぐさま〝デュエル〟が加速し、〝フリーダム〟と地球へ針路を取る。
 
 「大尉! 待って!」
 〈――しかし!〉
 
 フレイはすーっと息を吐き。前を見た。
 不思議な気持ちだった。もうフレイは、つい今しがたそこにいた醜い心の男の事を忘れていたのだ。
 あの子の顔を思い浮かべたら、あの男への不愉快な気持ちは露と消える。
 怒りや苛立ちよりも、あの子の想う気持ちの方が、ずっと強かった。
 本当に、不思議な気持ち。
 
 「わたし、行きます」
 
 そのまま〝ウィンダム〟がふわりと飛び、静止した状態の〝デュエル〟とすれ違う。
 今から行っても〝フリーダム〟は地球の重力に引かれて落ちるだろう。それは〝デュエル〟でも同じことだ。彼を救うには、誰かが地球へ行く必要がある。それも、単独で大気圏突入が可能な機体が。
 アムロの〝デュエル〟が僅かに逡巡し〝ウィンダム〟を静止しようと手を伸ばすが、フレイはこの役を誰にも譲ってあげるつもりはなかった。
 ただの我侭かもしれない。けど、この想い、自分でも抑えることができない。
 あの子を、助けたい。
 
 「この機体、大尉が設計してくれたんですよね?」
 
 フレイは〝ウィンダム〟を振り向かせ、遠ざかっていく〝アメノミハシラ〟と、〝デュエル〟を視界に入れた。
 あの時とは違う、自分の意思で、フレイは今まで自分を守ってくれた彼から離れるのだ。
 フレイは、アムロを信じていた。それは、子にとって親が絶対だと感じるものと等しい。
 このモビルスーツは、アムロが、フレイの為にくれた、フレイを守る、力。
 不思議と、誇り高く、心が弾んだ。
 既に小さくなりつつある〝デュエル〟に向けて、フレイは小さく微笑み、言った。
 
 「――だから、行って来ます」
 
 と。
 
 
 
 ほぼ全ての施設を制圧し終えたカナード達は、キラ達の危機を聞きつけそれぞれの持ち場に戻ろうとしたところで、それはやってきた。ノーマルスーツ越しだった所為でわずかに気づくのが遅れたが、見間違えるはずは無い。
 『その男』は、気だるげに首の筋肉をほぐし、腰に軽く手を当て、まるでこれから準備体操でも始めるかのような気軽さで、目の前に一人で立っていた。
 男が言った。
 
 「ん、やっと来たか。随分と腕が鈍ったのではないか?」
 
 メリオルがびくりと体を震わせると、男はバイザー越しにわかるくらい、気さくに笑みをこぼした。
 
 「良い女に育った。懐かしいな……。最初に君らを見たときはこうも因縁が続くとは、思わなかった」
 「な、何を……」
 
 恐怖のあまり、メリオルが半歩下がる。
 
 「生態ユニットとして、な。アルスター嬢を欲しがっていたようだが事情が変わったのだ。〝メンデル〟とはたいした施設だよ、まさか現物があるとは思わなかった。恐らく数世紀かけて保存されてきた、本物なのだろうな。……つまりそれは――」
 
 男は言い淀むと、ふいにああと思い出し続けた。
 
 「アスハ代表でも良かったらしいのだがな、ま、あちらも失敗だったようだ。……それと、レイ・ザ・バレル、だったかな? はて、どこかで聞いた名だ……うーむ?」
 
 カナードはさっとメリオルの前に出る。男はこつこつとゆっくりと歩き迫る。
 
 「無駄足だった、というのは結果論に過ぎない。ガルシア君は私が思っていたよりも優秀だったということでしかなく、それでも私はあの子を使うのが最善だと思っていたのだ。だがモビルスーツを使えるという自信は流石に無いから――」
 
 男は愛用の短銃とナイフを構える。カナードもそれに習い、同じように構えた。ざわと全身の毛が逆立つ。冷たい汗が全身から流れ出る。
 恐ろしい、と思わず感じた。
 
 「どうやらまだ、ユーラシア連邦最強らしい私がここに来た」
 
 その男――この反逆の首謀者ビラードが、やれやれと首を左右に振り……ぞくりとカナードですらも凍りつくほどの殺気と視線で、ゆらりと歩いていたはずの男がいつの間にか目の前に――
 コーディネイターは、どこまで行っても人の姿をしている以上、人の可動範囲を超える事はできない。そこを突く、極技《サブミッション》や合気道と言った武術は、その道の達人ならば容易にコーディネイターを屠る。
 しまったと思う暇も無く、カナードの持つ銃をビラードは片手で分解し、ナイフを持つ腕に銃を突きつけ発砲。鈍い痛みを無理やり無視し、カナードはビラードにナイフを突き立てたが届くはずも無くそのまま腕をとられる。
メリオルがククリナイフで背後から斬りかかる。ビラードはカナードの腕を無理やり引き――その際左の腕がへし折れ――メリオルの 前に生ける盾として向かい合わされた。激痛の悲鳴など、あげてやるつもりは無い。変わりに言ってやった。
 
 「メリオル、殺れ!」
 
 オレごとで良い、こいつを――! だが、メリオルは動かなかった。ただ、メリオルはがたがたと震え、捕食される寸前の小動物のような目でビラードを見つめる。カナードは尚も言う。
 
 「メリオル!――ぐっ」
 
 ビラードのナイフがカナードの背中を縦に引き裂いた。背を焼かれたような灼熱の激痛と同時にぱっと血漿が舞う。メリオルの顔から血の気が引いていく。
 
 「ずいぶんと長い任務だった。メリオル君、楽にしてくれて良い」
 
 長い、任務――? どういうことだ、と思考する前に、背中につきたてられたナイフがさらに奥へとえぐりこまれ、カナードは喉元までこみ上げられた血の塊を嘔吐しパイロットスーツのバイザーにべしゃとこびりついた。
 
 「な、なにを――」
 
 怯えた少女に向けて、ビラードはまるでテーブルの横に置き忘れた財布を見つけたくらいの気軽な口調で、「ああそうだった」とつぶやくと、カナードは床に打ち捨てられ、抉り裂かれた背から血液が流れ出ていくのを知覚したまま、動かなくなった体のまま視界だけでビラードを追った。
 その男は、ゆらりとメリオルの傍らにまで歩み、彼女の耳元で何かをささやく。
 すると、メリオルはびくんと一度震えた後、視界を泳がせ、何かに強く怯えたようにして全身を震わして地べたにぺたんと座り込んだ。
 メリオルが、震えるまま頭を抱え、うずくまり、うわ言のように繰り返す。
 
 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
 
 壊れた人形のように、少女は、涙声で、何度も、何度も……。
 
 「案ずるな、私は君との約束は守る、彼は殺さない。だから行こう、メリオル君。君を盾にすれば、私はここから無事に脱出できるだろう?」
 
 自分の肉体が冷えきっていく感覚を覚えながら、捨てられたカナードは暗くなる視界で意思の無い木偶人形のようにしてビラードの後に続くメリオルを見据える。
 意識が途切れる寸前、カナードは聞いた。
 
 「追ってきたまえよ、特務兵。――それができるのなら、な」
 
 男の言った言葉の真意を、カナードは読みかねた。もしもフレイなら、きっとやつの考えてることなんてすぐにわかったのかもしれないと思い、コーディネイターとして生まれた己の無念を呪いながら、カナードの思考は暗闇に落ちていった。
 
 
 
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