CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_外伝07
Last-modified: 2010-04-28 (水) 09:51:38
ようやく落ち着いたと思う。ロンデニオン共和国として独立が成り、ともかくも自分たちの家を確保することができた。 失いし世界を持つものたち外伝・7 仕事の本質は変わらないとは言ったものの、僕らの生活様式は大きく変わることになった。 「少佐殿!!C地区の開墾が終了しました!!」 農作業は当番制となっている。全員で行うとさすがに他の業務にも影響が出ると考えられたからだ。 家に帰ることも億劫なので、農作業の日は班の面々と共に朝食を取る。もちろん部下に任せず自分で作る。 スクランブルエッグが焼き上がる。うん、自分でも上手くできた。満足出来る料理を作った日は気分がいい。 「少佐、サラダが上がりました」 ラー・カイラム所属のリゼルパイロット、ゲアハルト・フィッシャー中尉がサラダを仕上げる。彼も会員のひとりである。 「よし、手の空いている兵に配膳させろ」 畑の前に作られた小さな広場は、こうして作業で休息したり、食事をしたりするためにいくつも整備されている。そのため脇には簡単な厨房が整備されている。 仲が良くなった兵士によると、私など美食クラブが上官にいる班や、炊飯長らがいる班に配属されると食事が美味いために労働意欲が湧くそうだ。そしてなにより、うまい野菜や米、麦を作りたいと思うらしい。いい傾向である。 「いつも美味しい料理を作って下さる少佐殿に敬礼!!」 整備班の小島太一軍曹が、兵を代表して声を上げ、全員が私たちに敬礼する。繰り返すようだが、へたな奴に貴重な食料を無駄に使わせるくらいならば、私が共に働く兵の食事くらい作ることに苦痛はない。 「では、諸君。食事にしよう。頂きます」 うん、全ての活力は食に有りだな。自分の食事に満足してくれる兵を見ると素直に嬉しい。料理をすることで自分自身もストレスの解消になる。 ※ ※ ※ 午前の業務を終えて一息入れ、昼食をどうするか頭の中で色々考えていると、ブライト司令が昼食に誘って下さった。 「君にはいつも苦労をかけている。今日は美味い飯でも奢らせてくれ」 そういわれれば、喜んでついて行くに決まっている。司令は市庁舎を出て広場を挟んだ正面に店舗を構える、ロンデニオン共和国唯一の食事処、レストラン「ビュー・ペガサス」へと入る。 「それにしてもようやく落ち着けたな」 ふむ、このレタスとドレッシングのマッチングは申し分ない。蒟蒻を上手く使う事で、食感を堪能出来るよう配慮されている。まいうーである。 「君には、特にオーストラリア以来、苦労をかけてしまった。食事をおごるくらいでは報いることができるとは思わないが、ともかく堪能して欲しい」 司令は、前菜を平らげると、ワインを飲み干し、デカンタから自分のグラスへ注ぐ。 「だが、彼らも決定的なことは何もわかっていないのだ。ゼロからやり直したところで、困ることはない。とはいえ、事象のデータは渡さないといかんから考えものではある、か」 私は頷いた後にワインを飲む。昼食と言う事もあり、さっぱりとした白ワインだ。ちなみにワイン等の酒類も農業コロニーにて製造中である。 メインは鱸のムニエルだ。適量な小麦とバター、そしてソースのマリアージュ、完璧だ。さすがタムラ炊飯長である。超まいうーである。 「いや、美味い。私も料理の練習で何度か作ったが、やはりプロにはかなわん。ま、そのプロになろうとしていたんだがな」 司令は頭をかいて苦笑しながら、料理に舌鼓を打つ。 「司令、焦ることはありません。特に魚料理は簡単そうに見えて難しい物です。例えば(以下略、その時間経過すること15分)」 どうにも料理に関しては饒舌になってしまう。司令は先ほどとかわらぬ苦笑を浮かべている。少し汗をかいているようだが何故だろう。 「美食クラブ理事の適切なアドバイスを受けたからには、それを用いてシンとマユを喜ばせてやりたいな」 その言葉は、普段とは違う多弁なところを見せてしまっている自覚もあるので、逆に苦笑させられてしまう。 ※ ※ ※ 今日の事務仕事は15時で終わりである。農作業参加者は早期帰宅ができるのだ。残業しようかとも思ったが、司令に早々に止められてしまったので、帰宅することにした。 町を歩くと、兵士達がまだ整備中の娯楽を野外で楽しんでいる光景が目に入る。野球をしたり、カラオケをしたり様々である。 「うーわさに聞くパンチ力ーどうしちゃったーのー?」 それにしても下手くそだな。そう思い見てみると、『がんばれ!タブチ君』を歌うはテックス・ウエスト大尉で、『ルネッサンス情熱』を歌うはアレクザンダー・マレット少佐だ。 「副官殿ー!!ご帰宅ですか!?どうですか一曲?」 マレット少佐が誘ってくる。もはや涙目に近い部下が助けてくれと、懇願する視線を私に向ける。今日は特に急ぐ用事もない。 「全く、もう少し音程に併せて歌った方がいいぞ、少佐?」 マレットの部下達がうなだれている。気の毒に、俺とは違い上官に恵まれていないんだな。特に用事もない私は、一曲ほど歌うことにした。 「ともかく見ていろ、歌とはこう歌うのだっ!!!」 私はおもむろに鞄からマイ・マイクを取り出す。 「では!!レーゲン・ハムサットで!!『心のPhotograph』!!」 何故全員ひっくり返るのだ?だが、歌い始めると、全員が聞き入っている。そうだろう。 「um誰だってum1人じゃなぁい♪(中略)umさけないで!」 まさに熱唱した。気分爽快だ。そして全員がスタンディングオベーションである。 「さすがです、副官殿!!」 マレット少佐はひとしきり感激している。周囲の連中も拍手を浴びせてくる。普段裏方で事務仕事をしている私には気分がいい。こういう日があっていいと思う。 気を良くした私は調子に乗って、『palore』と『tous les jour』を熱唱した。ふたつとも旧世紀においてヌーベル・シャンソンと呼ばれた曲である。 「副官殿!酒のつまみと思って作ったホット・ドックです。よろしければ」 兵士達の心のこもった敬礼に答礼すると、再び帰宅の途につく。うん、このホット・ドックはうまい。タマネギの分量が絶妙で、なによりソーセージが冷めてもおいしいソーセージを用いている。彼も腕を上げたな。 ※ ※ ※ 美味いものを食べ、上機嫌に未だに実質シャッター街といえる商店街の端まで歩いて行くと、アークエンジェルの学生組に出くわした。 「ハムサット少佐!」 サイ・アーガイル曹長とトール・ケーニヒ准尉、そして市民として住んでいるカズィ・バスカークだ。 「やぁ、どうしたんだ?」 彼は何を教えているんだ。 「それで、なんだね?」 私は彼らの勢いに困惑しながら答える。 「いや、わざわざ私に聞かなくとも、料理の本さえあればそこそこの物はできる。美食クラブはその上のだな……」 トール君が、クリーム・シチューを差し出す。見た目は、そう、随分荒い野菜の切り方だな。だがそれほどおかしなところはない。 「ウボァー」 なんだ?これは、生物兵器か?くそ、喉がちりちりする。胃に流れ込んだことがはっきりわかるこの嫌悪感はどうしたらこうなるのだ。渾身の怒りを込めて叫ぶ。 「このシチューを作ったのは誰だぁ!!!!!!!!!」 俺はここ数年来ここまで頭に血が上ったことはない。これは食への冒涜だ。あの飯に関してはアブラムシ以下のイギリス人だって、ここまで酷かない。 「どうしたのです?」 偶然近くを通りかかったマリュー・ラミアス中佐とフラガ少佐が何事かと走ってきた。 「ああん!?」 俺は普通に応対したつもりなのだが、何故か2人は引いている。 「……あの、どうされたのですか?少佐……」 ラミアス艦長が、オドオドしながら尋ねてくる。 「この産業廃棄物を作った馬鹿野郎はどこだ!!!」 どん引きするラミアス艦長とサイ君、トール君を尻目にフラガ少佐が、脇でカズイ君にシチューを勧められている。 「ウボァー」 ラミアス艦長が振り向き少佐を見やる。エロ少佐などどうでもいい、俺の怒りはフルスロットルである。 「で、こんなもん作った奴はどこにいる!!!」 完全にびびったカズィが小さな店舗を指さす。あそこは、食事処が入る予定地だったが人員がいないので、好きに料理を作る場所として解放されているところだ。 「しょ、少佐!!!落ち着いて下さい!!銃を下ろして!!」 うるせぇ、揉むぞこら。今の俺は誰にも止められないぜ。ところが部屋に突入すると、驚くべき光景が広がっていた。 「……」 声を出さないアムロ中佐はさすがである。ただひたすらこめかみを叩いていたが。さすがにこの惨状を目の当たりし、自分の思考が冷静になる。 「これは、いったい何があった?」 そこには涙を目に浮かべた美少女が、おそらく彼らの悶絶した原因であるシチューを持っていた。 ※ ※ ※ 事の経緯は、こうである。ミリアリア・ハゥ軍曹が、料理場を解放されていることを知ったことが悲劇の始まりだった。 キラ君がアムロ中佐とレーンらと農作業に精を出した後で、共有の料理場について話題に出したところ、ミリアリア君がやる気を出してしまったのだ。 料理が得意であるという彼女の主張を真に受け、キラ君どころかアムロ中佐やレーンも彼女に料理を依頼してしまったのだ。トール君とサイ君が戻るとすでに料理を始めていて今更止められない。 「よし、わかった!!!ハゥ軍曹!!!これから私は君を特訓する!!!」 私は自宅に今回の被害者一同を集めてミリアリア君の特訓を行った。これはなにより、貴重な食料品を無駄に消耗されてはたまったものでは無いという思いからだ。 夕食は先ほどのリベンジを込めて再びクリーム・シチューである。私はその出来を心配していなかったので、すんなり口に運んだが、他の面々は私がミリアリア君の努力を褒めるまではおそるおそるだった。 「確かに美味い!とろみといい、火の通り具合といい完璧だ!!」 レーンが顔をほころばせる。ふむ、なかなかいい評をする。今度クラブに誘ってみるか。 「ああ、それにしても少佐、美味いものだな。短時間でこうも矯正するとは」 アムロ中佐が感嘆する。さすがにアムロ中佐にそう言われるとこそばゆい。 「なんの、常識的な見地で物を指摘しただけですよ」 ちなみに翌日、ミリアリア君の両親から涙ながらに感謝された。 私は世界が変わろうとも、やることには変わりはない。 ちなみにこの一件の後に、たまたま兵士の会話を耳にしたことがある。 なぜだろうか。 ――「レーゲン・ハムサットのDay by day」end.―― |