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CCA-Seed_787◆7fKQwZckPA氏_16

Last-modified: 2010-11-17 (水) 19:09:12
 

~アスラン達がディオキアで小休止をとる数日前

 

「まさか、喜望峰廻りになるとはねぇ……」
ユウナ・ロマ・セイランは、目の前に広がる海原を、憂いのこもった目で見つめていた。
大西洋連邦の圧力によってオーブが送り出した増援艦隊。
オーブ艦隊の旗艦である『タケミカズチ』のブリッジである。
スエズ基地への増援という名目であったが、まっすぐインド洋を突っ切るのではなく、
南アメリカを回り、大西洋を抜けて喜望峰を回り、スエズへと入るルートを取っていた。
ZAFT勢力下である現在の大洋州と赤道連合南部を避けるためというのが理由だ。
「ですが、わかりません。ZAFTと戦うという無理難題であれ、
どうして我々が黒海まで出向く必要があるのでしょう」
隣に立つアマギ‘戦時三佐’が、ユウナに問うた。ユウナは、
「インド洋だと観衆がいないんだよ」
派兵先が黒海方面だという理由は明白だ。
今現在ZAFTの勢力で一番目立つ働きをしているのは『ミネルバ』であり、
それを反連合色が日増しに強くなっていくユーラシア東側やアフリカの民衆の眼前で、
徹底的に叩きつぶす気なのだ。
それにより、世界各地のZAFT&反連合勢力の士気をそぎ落とす事に繋がり、
オーブの戦力も削れ、結果として大西洋連邦の一人勝ちという寸法だ。
「納得できません。我らオーブは、他国を侵略せず、侵略させず、他国の闘争に介入せず。
この三原則があってこそ、今の我々があるのではないですか?」
「わかってるさ。ウズミ閣下が生前おっしゃった『オーブの理念』。
それはオーブが胸を張って誇って良いと思っていたよ。
でもね、それはすでに二年前、連合に攻め込まれた時点で崩壊していたんだ」
「それは……」
二年前、ヘリオポリスにおいて連合との技術協力で『GATシリーズ』を完成させ、
あまつさえその技術を盗用し『アストレイシリーズ』を作ったという過去がある。
そして、理念を強硬に守り通した結果は…言うまでもあるまい。
「悲しいけど、これも戦争なんだよ。
僕らは、自分たちの手で、中立を壊す傷口を作ってしまった。
そのツケが、こうして回ってきた。それだけのことさ」
アマギは何か言い返そうと思ったが、ユウナの顔を見て、止めた。
「それに、これはカガリが下した決定なんだ。
『綺麗事を並べて国を焼くなんてもうたくさんだ』って。
びっくりしたよ、いったん部屋にこもったから心配してたんだけどね」
ユウナはブリッジの天井を見上げて、数日前オーブで別れた少女の事を思い出していた。
「『連合の思惑には一度乗ってやるさ……』か、いやぁ…怖かった」

 

※※※※※※※

 

「カガリ、いるのかい?」
アラファス島・オーブ行政府。首長執務室の戸を、ユウナはトントンとノックした。
例の『アークエンジェル』と『フリーダム』の映像を水面下でちらつかせた、
大西洋連邦の高圧的な姿勢に屈し、オーブはとうとう条約締結にまで至ってしまった。
それだけではなく、同時に行われたオーブへの出兵要求。それすらも、断れる段階ではなくなっていた。
その事にショックを受け、カガリは執務室に引きこもってしまったのだ。
老人達はしてやったりという顔をして、議会を去っていった彼女の背を見送ったが、
ユウナは、何か彼女に違和感を感じていた。
押さえつけていた何かが開放され、彼女の胸中で鎌首をもたげた音が、彼には聞こえたのだ。
「入るよ」
ノブをひねってみると、鍵はかけられていない。彼はそっと、扉を開けた。
「……カガリ?」
彼女は、業務机の上にあった装飾など全てを叩き落とし、机の上に地図をひろげていた。
一枚の世界地図である。
それも、赤・青・黄の三色に塗り分けており、ユウナは、勢力図だと悟った。
「……ん? ユウナか」
カガリは、先程の怒りの表情はどこへやら、彼の予想に反して冷静だった。
「まさか、私が部屋で暴れているとでも思ったか?」
「まぁ、そんな所かな。…これでも十分荒れてる方だと思うけど」
ユウナの小言を無視し、カガリはじっと地図を見つめる。
大西洋連邦、東西ユーラシア、赤道連合、南アフリカが青に塗りつぶされ、
アフリカ共同体(アフリカ北部・中央)、大洋州が赤。
残っている東アジア共和国が黄色という塗り分けであった。
「これが…オーブ」
カガリは重い口調で、オーブを青く塗りつぶす。
「私は、お父様を裏切った女になってしまった」
「そんな事…」
無い。そう言いかけて、彼は口をつぐんだ。彼女の目が、猛禽さながらの目つきになっている。
何かが、彼女の中で壊れたのか、押さえつけていた感情が爆発したのかはわからない。
彼女は、ゆっくりと部屋の中を歩き回って、張られた窓から青天を見上げて、言った。

 

「だが、これで『お父様』に拘る理由もなくなった訳だ」

 

ユウナは愕然となった。父親のウズミを慕い、
その後を追おうと懸命になっていた少女の言葉とは思えない。
「こうしてみると、当初の連合はプラントに対し優勢だったな。
しかし、この数ヶ月で、趨勢は変わった。……ミネルバの手によって」
カガリはまた赤いインクを筆に付けると、ユーラシア東側(東欧・中東)地域、
そして、赤道連合南部(東南アジア東)を真っ赤に塗りたくる。
カガリは、自分に言い聞かせるように語っている。
以前の彼女なら、どれほどの材料が向こうにあろうと、先程の議会で強硬に反戦を口にしていただろう。

 

そう、……彼女の父のように。

 

彼女は手元の筆をくるくる回しながら、言う。
「私は、今までお父様の言葉こそが正しいのだと思っていた。
『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』
…お父様の掲げられた理念こそ、最も崇高な考えだとな」
「…………」
「でも、それでいいのかって思ったのも事実だ。
国を焼かれ、家族を失った者達からすれば、
私の言葉はすべて荒唐無稽、無知蒙昧な子供の戯言だろうからな」
シン・アスカのあの言葉を思い出す。
『自分の口にした言葉で誰が死ぬかとか、真剣に考えたことがあるのかよ!?』
あれが心に突き刺さったのは、本当に考えたことなど無かったからだ。
「だから今オーブが、世界から孤立しない、国民に見捨てられないためには、
何をすべきなのかをずっと考えていたんだ。…綺麗事で国を焼くなんてもうたくさんだ!」
カガリは、脱ぎ捨てていた首長用のスーツを着直し、ユウナに向き直って、
彼は、グッと息を呑んで彼女と相対した。
これほど緊張するのは初めてだ。今までの彼女にはない『何か』を、全身に浴びせられている。
「オーブは、大西洋連邦の要求を呑み、派兵する」
「それが君の答えかい?」
「ああ。連合の思惑に一度は乗ってやるさ……。
今溝を掘っておくのは得策ではないし、連合・ZAFT双方のオーブへ手を出す気力も削がせる。
プラントとは対立することになるが……、デュランダル議長は聡明な方だ」
「……なんでここで議長の話が?」
「あ、いや! それはだな……」
あとでプラントとの対立に落としどころを見いだす気が満々だ。
急に先程までの雰囲気が雲散し慌て出す彼女を見て、ユウナが腹をかかえて笑いだした。
カガリは少し機嫌を悪くして、
「笑うな! 私なりに一生懸命考えてだな…!」
「いや、ごめん。僕と全く考えていることが一緒だったから、つい…」

 

「すまないな、片づけを手伝わせて」
「気にしないでよ。こう見えても、今喜んでるんだよ、僕は」
カッとなって叩き落とした装飾や文房具などを、
我に返ったカガリは拾い始め、ユウナはその手伝いを始めた。
「君はもうちょっと本音を口に出さないようにすればいいのに」
「う、五月蠅い……? これ…」
ふと、カガリは写真立てを拾って、黙り込む。
ユウナは散らばった書類をケースに入れ直すと、彼女の後ろに近づいて手元をのぞき込んだ。
「ウズミ閣下の写真…」
「……怒ってるかな、やっぱり」
カガリは、そっとそれを机の上に置き直して言う。
この決断は、正直今までの自分の歩んできた道を否定する事なのである。
「怒ってると思うよ。でも、きっとわかってくれるさ。
カガリだって、オーブを想っての決断なんだ。
酷に生きる事は過酷に死ぬ事より何倍も力が要るんだから…」
「ありがとう、ユウナ」
彼女は肩にポンとのせられたユウナの手を握った。

 

※※※※※※※

 

「そんな事が……」
「アスランには悪いけど、ミネルバにはボロボロになってもらわなきゃ。
……僕たちオーブの、カガリの決断を無駄にしないために」
「しかし、そういう意図であれば、ミネルバを叩くのは得策とは思えませんが…」
「今は僕らは連合側だよ?
一事に全身全霊で当たれない国を、寝返ったところで誰が信用するんだ」
ユウナはアマギにそう言い聞かせる。
そして、本国で今懸命に国民の怒りとぶつかり合っている彼女に思いをはせる。
念のため、国防軍トダカ戦時准将を傍らにつけている故、親父達首長達も迂闊に彼女に進言できまい。
彼は、典型的な、オーブに忠誠を誓った猛将である。きっと彼女の良き支えとなるはずだ。

 

「後はデュランダル議長が『曹操』のような器のある人物であることを祈るばかり、か。
……まるで『張繍』だね、僕らは」

 
 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY IF
~Revival of Red Comet~
第16話

 
 
 

「地球軍に増援、ですか」
シャア・アズナブル、アスラン・ザラ、ハイネ・ヴェステンフルスら三名は、
ミネルバ艦長室に召集され、タリアの口から、軍本部から下りてきた情報を聞いていた。
タリアは、真後ろのパネルを地図のモードへ切り替えると、
アフリカ北部から南ヨーロッパ、中東地区を映し出す。
「アフリカ共同体から送られてきた情報よ」
ジブラルタル狙いなのか、黒海方面狙いなのかまだわからないとの事だ。
「この時期ならば、スエズへの補給路確保と見るのが妥当でしょう」
「ええ、ここでスエズが落ちれば、趨勢は一気にこちらに傾きますから」
シャアとアスランが言う。
ガルナハン基地陥落以降、ユーラシア東の勢力図は一気に塗り替えられた。
東欧、中東、北アフリカがZAFT側に付く事を表明し、
南アジアを初めとする赤道連合も、
だんだん反プラント色を弱める傾向がある。
「これからが大変ね、せめぎ合いになるのは避けられないでしょ」
ハイネが、タリアのその言葉に返すように、
「その増援はともかく、現時点のスエズの戦力はどれほどの規模なんです?」
「数は勿論だけど……入った情報が正しければ、『彼ら』がいるわ。
インド洋で出くわした地球軍の連中」
やはりな、と、シャアとハイネは内心そう思った。でなければ、彼らがあそこにいるはずがない。
それにしても、厄介なことになった。
「これより本艦は出撃するわ。
マルマラ海入り口、ダーダネルス海峡でこれを迎え撃つ。
発進は〈06:00〉。いいわね」
「「「 了解! 」」」
タリアは、新たにミネルバに加わったハイネに目をやる。
ミネルバクルーの中で唯一の『特務隊』の人間である彼には、確認を取っておく必要があった。
「貴方も、よろしい?」
「ええ、それはもう」
「ならいいわ。アスランだけ残って、後は発進準備に取りかかって頂戴」
アスラン本人は、何故自分が残されるのか疑問に想った。
シャアとハイネは、アーサーの後を追って艦長室を退室する。
一人残る彼に、タリアは残酷にも、
「今度、地球軍の増援として出兵したのは……オーブ軍だそうよ」
一瞬、アスランの中では‘考える’という行為そのものがストップした。
足下がふらつき、彼は思わず部屋の壁に手をかけて、倒れかけた体を支える。
「オーブ? ……なんで?」
「言いにくいけど、あの国も連合の一員になったという事ね。
驚いたわ、オーブの姫が決定したそうよ。連合に与するって」
「カガリが!? まさか! ありえない!」
アスランは顔を真っ赤にして、艦長室の壁を叩く。
鈍い音と、アスランが荒く息を吐く音が部屋に響いた。
「悪かったわね、この黒海への地球軍侵攻阻止は、
軍本部からの命令なの。避けることは出来ないわ」
アスランは、戸惑いを隠せなかった。オーブは、第二の故郷と言っても良い所である。
そして、自らが愛した人たちが住んでいる国だ。そこと戦うのか?
「今はオーブも地球軍なのよ、アスラン」
タリアは厳しい声で告げ、アスランはゆっくりと身を起こして、
「……はい」
軍に復帰した以上、ZAFTと敵対するならば撃たねばならない。
それはわかっていたが、彼の胸中は複雑な感情が渦巻いている。
退室し、レクルームに向かおうとしたアスランに、話しかけた男がいた。
「ハイネ…」
「少し、いいか?」
甲板へと移動した後、ハイネは手すりに手をかけて、
「オーブにいたのか、大戦のあとずっと。
……いい国らしいじゃない、あそこ」
「ああ……」
アスランはチクチクと心を刺す痛みに耐えながら言う。
東南アジアの綺麗な海に、暖かな気候。プラントにはない、緑と青で彩られた島々。
「このへんも、綺麗だがな……」
黒海を見つめながら、ハイネは言い、アスランに向き直る。
「戦いたくないか……オーブとは」
アスランは、思わずハイネに目をやる。
責める気など欠片も無い、穏やかな顔だった。
「…………戦いたいとは思わないよ」
「そっか……。じゃあ、どことならお前は戦えるんだ?」
「え…!? いや、どことならなんて……戦わないのが一番だと思っただけで」
「俺もそうさ」
ハイネはまた黒海の海面に目を戻し、
「でもよ、アスラン。今は戦争なんだ。
お前のように、誰もが終わらせたがってる。
そのために、俺たちは軍人やってるんだ。そうだろ?」
アスランは、彼の言葉に何も言い返せなかった。
「割り切れよ。でないと死ぬぞ」
「はい…」
アスランは、頭の中の雑念を振り払うように、力強く言った。

 
 

※※※※※※※

 
 

「その仮面、外してはいただけないか? ロアノーク大佐」
タケミカズチのブリッジ内で、招いた地球軍士官にユウナは言い放つ。
すでにブリッジ内の空気は張りつめており、誰もが固唾を呑んで彼らを見つめていた。
士官がネオ・ロアノークと名乗り、ユウナと握手した直後の言葉である。
「…それだけは勘弁願います、司令官殿。
顔の醜い傷を曝したくはありませんので」
「……そうか」
ユウナは素っ気なく言い放つと、ブリッジに設置された戦略パネルをながめ、
「恐らく、我々の存在はすでに知られているだろうから、
航行速度から見て、敵はマルマラ海付近で待ち受けていると考えてもよろしいな?」
「さすがはオーブの軍を仕切っていらっしゃるだけはありますな、私も同意見ですよ」
この間までの高圧的な態度は何処へやら、スエズに到着した段階から、
連合側の態度は慇懃なものであった。目の前の男が地球軍の一士官であり、
ユウナがオーブの司令官という立場を考えれば自然なのかも知れないが、この態度は異様だ。
(此奴……僕たちを矢面に立たせる気だな)
ユウナはジッとパネルを見つめた後、
「しかし、我々は小勢だ。敵はあのミネルバ、我が国の領海付近で六隻の戦艦を潰した艦。
アレ相手に正面から挑むのは得策ではないな」
そこで、とユウナは続けて、ダーダネルス海峡の地図を拡大し、
旧トルコ行政区・チャナッカレ県の部分を映し出す。
「現在編成された連合・オーブ混成軍の中で、
唯一あの艦との交戦経験がある、『J.P.ジョーンズ』。
つまり貴公の艦だが、囮としてダーダネルス海峡付近まで、ミネルバをおびき寄せてもらいたい」
「なっ……!?」
ネオの口から驚きに満ちた声が漏れ、ユウナは内心ほくそ笑んだ。
あの仮面で表情は読めない。恐らく、眉をひそめていたりするのだろう。
「問題はありますまい。貴公等は一度あの艦との戦闘をくぐり抜け、
あまつさえ損傷すら与えている。おびき寄せるなど訳もないはずでは?」
ユウナがその後語ったのは、ミネルバがダーダネルス海峡に差し掛かった瞬間、
チャナッカレ県・ビガ北東部からオーブ軍全軍でミネルバを挟撃するというものだった。
ネオは言い返そうとしたが、作戦として成り立っている上、
形の上ではオーブに軍を出してもらっている立場なのだ。
彼には、これ以上言う権利すら与えられず、ブリッジを後にする他なかった。

 
 

※※※※※※※

 
 

シン・アスカはノーマルスーツに着替え、怒りにまかせてロッカーを叩く。
隣で着替えていたのは、アスランだった。
「おい、シン。どうした?」
「別にどうもしませんよ! 相手はオーブと言っても、今は地球軍なんでしょ!?」
イライラを隠さずに、シンはエレベーターに駆け込み、アスランは彼の隣に並び、
エレベーターのボタンを押す。
「君は……」
アスランが、優しい表情でシンに向かって言った。
シンは、彼の顔を睨みつけたが、彼のその表情に少し戸惑い、
「な、何です?」
「君は……本当はオーブが好きだった。そうだろ」
「はぁっ!?」
シンは一瞬、アスランの言動を理解できずにいた。自分がオーブが好き?
まさか、そんなことあり得るはずがない。
「オーブが好きだから、君はそうやって怒ることが出来るんじゃないか」
「違います!」
シンは荒々しく返して、俯く。肩も手も、震えていた。
怒りによるふるえなのか、悔しさによるものなのか、シンにはわからなかった、
悔しさ? 何故自分は悔しがっている!?
『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』
心底憎んでいたはずの、ウズミ・ナラ・アスハの顔が、頭に浮かんでくる。
シンは頭を振った。消えろ、…そう念じながら。だが消えなかった。
「……俺も、オーブは好きだよ」
アスランはシンの顔を見つめながら言う。
「だが、今は撃たなければならない。戦争を終わらせるためにな」
シンは、アスランから放たれる‘オーラ’とも言うべき何かに気圧された。
何か、以前より少し大きな人間になったような、そんな気がしていた。
エレベーターがハンガーに到着したことを知らせるブザーが鳴り、
空気の抜ける音と共に扉が開く。
「行くぞ、シン」
「は、はい!」

 

「地球軍艦隊確認しました。空母が一、戦艦五。
…敵艦から熱紋射出を確認! 西南西、数十五!」
バート・ハイムが、ブリッジに響き渡るように告げ、クルーの顔は引き締まった。
やはりここか、タリアはそう思ったが、先に海峡を抜けた相手の早さだけは予想外だった。
「MSです! 機種は、『ウィンダム』と『ダガー』」
「オーブ軍じゃない、か……!? バート、索敵範囲を拡大させて!
オーブ軍は別方向に潜んでいるわ。MS隊は、二手に分け出撃させる!」
タリアは、インパルス、セイバー、カオス、そしてシャアのザクに出撃するよう下知した。
シンはオーブの出身だし、アスランも以前まであの国にいたのだ。
相手が連合の方がいくらかやりやすいに違いない。
それに、長期戦になった場合にすぐ戻ってこれるパイロットを先に出した方がよい。
そう言う判断である。ハイネを始め、レイ、ルナマリアは艦内で待機となった。

 

一方、シャアはコクピットの中で、妙な胸騒ぎを感じていた。
「何だ……?」
ザワザワとした、不快な感覚だった。
地球軍やオーブ軍のような、軍人の出す殺気とは別物の、子供の癇癪にも似た感じ。
シンのものでも、アスランのものでも、レイのものでも、ルナマリア達のものでもない。
もっと別の、遠いどこかから此方を窺っているような……
『アズナブル機、カタパルトへ』
「了解だ」
艦内にメイリンの声が響き、シャアはザクを移送クレーンの下まで移動させた。
(あれは南ではなかったな。北か……?
いや、そちらは我々のテリトリーだ。何が潜んでいるというのだ)
「シャア・アズナブル、ザク、出るぞ!」
かけ声と共に、シャアの赤いザクが空へと射出され、
中央カタパルトから射出されたグゥルの上に飛び移る。
彼の後ろを、インパルス、セイバー、カオス等が追従していた。
「敵は以前のような規模の艦隊ではない。
だが油断するな、オーブ軍が側面を突いてくる事もあり得る。
敵をなるべく母艦から引き離し、ミネルバの射線上までおびき出す!」
「「「 了解! 」」」
地球軍艦隊から、ミサイルのシャワーが打ち上げられる。
それらは初めからシャア達を狙わず頭上を通り過ぎ、まっすぐミネルバへと飛んで行く。
アスランのセイバーが、振り向きざまに背部ビーム砲でそれらの大半を焼き払い、
残りはCIWSに撃ち落とされた。
『アイツらがいないみたいね』
『こっちが疲れてきた頃に出す腹づもりだろ!』
ノエミに対しシンは怒鳴ると、先陣を切るウィンダムに真っ向勝負を挑み、
相手が放ったライフルを身をひねってかわすと、すれ違い様に脇腹にビームを撃ち込んだ。
シャアの赤いザクが、グゥルの上から空中へ飛び上がり、
ダガーの懐に飛び込み腹部を撃ち貫くと、機体を蹴りつけて別の機体に向かっていく。
曲芸さながらの動きに、連合側のパイロット達が怯み、その隙をカオスとセイバーがついた。
カオスの脚部サーベルがウィンダムを両断し、セイバーのライフルが放った光が、
別の機体のコクピットを焼き焦がす。
『なら、疲れる前に全部叩き落とす!』
シャアは背後に迫ったウィンダムに、逆手で持ったサーベルを突き立てながら、
シンのその言葉を聞いて、どこか自棄になっている気がしていた。
(故郷が敵になればそうもなろうが……)
空になったグゥルの上に再び降り立つと、視線の先にいる地球軍艦隊から、
また次々とMSが発進してくるのに目をやって、嫌な予感がした。
肝心のミネルバが、レーダー上でどんどん前に出てきているのだ。
自分たちを援護する気だろうが、シャアは、自分たちが敵の掌中に転がり込んだことを察した。

 

「ミネルバ! 左後方!」

 

※※※※※※※

 

「ミネルバの艦長さん、意外と冷静さに欠けてたね」
ユウナは、ミネルバが連合艦隊に近づいていっているのに目をやって呟く。
タイミング、流れ共に最良だった。
今出て行けば、連合とZAFT双方にオーブの武威を見せつける好機となるだろう。
だが、妙な不安が彼を襲っていた。このまま出て行ってはいけない。
しかし、彼は躊躇せず、タケミカズチのハンガーへと下りていく。
彼は、セイラン家の紋章を刻んだ、薄紫のノーマルスーツを着込んでいた。
ハンガーには、ムラサメとアストレイのパイロット達が、整列して彼を待っている。
ユウナは、彼らを見下ろせる一段高い位置に立ち、

 

「ユウナ・ロマ・セイランである」

 

覇気のこもった声で、言った。彼らの間に流れる空気が自然に締まる。
「此度の出兵は、諸君等にとって度し難いものと思う。
『これはオーブの理念に反する』と、叫びたい者もいるだろう。
……それは別に構わん。
そう思うなら、この戦いは何としてでも、我らの勝利で終わらせねばならない!」
ユウナは、一段一段、彼らと同じ高さへと下りていきながら叫ぶ。
「理不尽、横暴な大西洋連邦の要求に耐え!
理念を破らねばならなくなった無念に耐え!
その結果得るものが敗北である事は、決して許されるものではない。
今ここで、我らが為すべきはこの苦難を乗り越え、
故郷で待つ家族達に、『勝利』という朗報を持ち帰ることに他ならん!」
パイロット達の顔に、力がこもっていく。
この戦いに勝ち、オーブを高みへと導き、大西洋の横暴におびえることのない強い国となる。
そのために、自分たちはここにいるのだ。
「私も、諸君等と痛みを分かち合う為に、ここへ来た。
諸君、オーブを、そして家族を、これ以上戦火にさらさないためにその力を貸してくれ」
最後の一段を下りて、パイロット達と同じ目線に立ち、彼ら一人一人の肩を叩きながら、ユウナは言った。
そして、振り替えって一機の機体を見上げる。
マゼンダと白と赤。三色で塗られた一機のMSを。
『MVF-M11C ムラサメ』
オーブ国有企業『モルゲンレーテ』が、アストレイに代わる主力量産機として開発した可変MSである。
各自機体へと搭乗していくパイロット達を見やりながら、
「喧嘩は嫌いだけど……まぁ、仕方ないよね」
彼は、右手に持っていたメットを、自らの頭にかぶせ、昇降用ワイヤーを掴む。
(マゼンダって……なんか悪役っぽいよなぁ。紫は好きだけど……)
そんな事を考えながら、コクピットに滑り込んだ。

 
 

※※※※※※※

 
 

『後方7時の方角より熱紋反応。数は二十一、MSと推定。
機種特定。……オーブ軍です。『ムラサメ』と『アストレイ』。
艦船は、空母が一、護衛艦六!』
通信機越しに、オーブ艦隊が現れたという報が入り、
遠目に、ミネルバからMSが出撃していくのが見える。
ハイネとルナマリアが上空を陣取り、レイが甲板で待ちかまえるのを……
シャアやアスランは、ミネルバの援護に向かいたいところだが、それが出来ない状況だった。
「オーブのMSか……!? “Z〈ゼータ〉”だと!」
脇目にオーブ製のMSを見やったシャアは驚愕した。

 

~『本当に排除しなければならないのは、地球の重さと、大きさを想像できない、あなたたちです!』
~『大尉はファを連れて退がって下さい! ハマーンとシロッコは、僕がやります!』

 

自分が目をかけた少年の声が、頭に甦る。それと同時に、怒りを覚えた。
身勝手だが、『思い出に土足で踏み込まれた』…そんな気分である。
だんだん、ウィンダムとダガーの数が減っていくことが認識でき、
シャアはさらに、サーベルを振るってウィンダムの胴を横薙ぎに切り裂いた。
そして、ミネルバが急速回頭してゆくのを視認し、通信が入る。
『これより、タンホイザー発射態勢に入る!』
グゥルが射出され、甲板のレイ機が上空へと上がり、
ミネルバが離水しながらオーブ艦隊へと艦首を向けた。
現在の戦力差は、ミネルバ一隻に対し、向こうは約十三隻だ。物量で言えば向こうが圧倒的に勝る。
そして、プラント側は『領土的野心はない』と表明している以上、ミネルバは単独で動かねばならなかった。
ディオキアからは、アフリカ共同体が援軍を出してくれたという吉報が届いていたが、
それが間に合うかは定かではない。
そして、一撃で艦隊を殲滅できる戦術兵器であるタンホイザーを使えば、
相手の機先を制する事が出来、優位に立つことが可能なのだ。
オーブ軍人の苦しい立場を、シャアは理解していたが同情はしなかった。
(こうなる結果を招いた自分自身を呪え……)
『艦首砲、射線軸よろし!』
『よし、起動開始。照準は……オーブ艦隊!』
その声と共に、ミネルバの艦首がゆっくりと開いていき、
大蛇が大口を開けたように、ミネルバが誇る牙が姿を現す。
『タンホイザー機動。照準、オーブ艦隊。
プライマリ兵装バンク、コンタクト。出力安定。最終セーフティ解除』
砲口に、次々と光が点っていく。
オーブ側も、ミネルバがやろうとしていることに気が付いたらしい。
マゼンダのムラサメを先頭に、オーブのMS部隊は散開し、艦隊は転進しようとした。
だが、もう遅い。
『てぇーっ!』
勝った。ZAFTのパイロット、そしてミネルバクルー全てがそう確信した。
オーブには、あのカニ型やクモ型のような、バリアを搭載したMAなど配備されていないのだ。

 

しかし、意外な形で、彼らの思惑は砕かれることになった。

 

『きゃぁああああああ!』
「ミネルバ! どうした、何があった!」
一瞬、閃光がミネルバの艦首を突き抜けていた。
ミネルバの艦首は爆発し、煙を上げながら、ユラユラと海上に落ちていく。
閃光の放たれた場所は、オーブ側でも、地球軍側でも無かった。
出撃前、シャアが感じ取った違和感の元である、北方から。

 

戦場にいる全ての者が、その手を止めて、そちらへと目をやった。
その方向に目を向けたシャア等が見たものは……

 

「……白いMS? 『ガンダム』だと……」

 

十枚の羽を広げ、大空に佇む天使の如きMS。
前大戦で猛威を振るい、伝説にまでなったMS。

 

『あれは……『フリーダム』!? ……キラ!?』

 
 

第16話~完~

 
 

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