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Canard-meet-kagari_第24話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:33:27

第24話

「サイ、こっちも駄目……そっちは?」
「残念ながら……」
「そっか……」
 トールは通信機から聞こえるサイの報告を聞き落胆する。
 デブリベルトに到着し、作業用のMA、ミストラルで付近の探索を進めるサイとトールだったが、今だに薬を発見する事が出来なかった。
「もっと向こうの方を探してみよう、必ず見つかるって!これだけデブリがあるんだぜ?」
「ああ、そうだな……」
 サイ達が再び探索活動を再開しようとした時に、通信機からカガリの悲鳴が狭いコックピットに響いた。
「サイ!」
「行ってみよう」

「どうした!」
 カナードが乗ったストライクがカガリのミストラルに近づく、モニターからは攻撃を受けた形跡は見受けられない。
「あ……あれ……」
 カナードは、カガリに言われてミストラルの向いてる方を見る。そこには、時の止まった大地が漂っていた。
「……ユニウス7か!」
 ユニウス7、プラントにとって貴重な食料生産コロニーであり、ここでは日夜、プラントの食料需要に答える為の研究が繰り返されていた。
 CE69、2月14日、地球連合軍のプラント攻撃作戦の際に使用された核ミサイルの直撃により、ユニウス7は崩壊した。犠牲者は24万3721人、それだけの人々が漆黒の闇に消えていったのだ。
「……おい、一応調査するぞ」
「ああ……」
 そして、仲間との合流を待ち、宇宙服を身に着けたカナードたちは、失われた大地に降り立った。
 真空の宇宙の中を漂っていたユニウス7は、核攻撃を受けたその瞬間をカナード達に見せた。
 子供を抱いたまま真空を漂う親子、車に座り互いに庇いあうようにいる男女、彼等は今にも。共に笑いあい、愛を囁き合いそうだった。
カガリは思った、『なぜこの人達は死ななければいけなかったのだろう?』と。たしかにプラント理事国により禁止された食量生産を行った、しかしその事は問答無用で核攻撃をするほど悪い事だったのか?
 そんな事は絶対にない筈だ。
 国内での食料需要に答える事の大切さは、日頃オーブの食料自給率の低さに頭を悩ます父の背中を見てきたカガリには良く解っていた。それなのに核攻撃を行った地球軍への怒りがカガリの胸を満たしていき、アークエンジェルの非情とも言える決定が遂にカガリの怒りを爆発させた。
「ふざけるな!ここから水と食料を運び出すだと!!!」
「食料生産コロニーであったココなら十分な量の水と食料が……」
「そんな事を聞いてるんじゃない!お前たちは、この光景を見て何とも思わないのかぁ!!」
 歯切れ悪く説明するマリューにカガリが叱責する。
「それは……」
 その言葉に狼狽し、反論の言葉が出ないマリューに変わってナタルが言う。
「我々だって好きで、こんな事をしてるんじゃない。避難民には水と食料が必要な事は、お前が良く知ってる事はずだ!」
 ナタルの言葉は、食料の備蓄状況を調べたカガリには痛いほど解っが、カガリの怒りを止める事は出来なかった。
「その避難民だって、お前たち地球軍がMSの開発なんてしなければ出なかったはずだ!!」
「嬢ちゃん!!!」
 ヒステリックに叫ぶカガリに、ムウが一喝する。
「確かに、この光景を作り出したのも、避難民を出す原因を作ったのは俺達だ。だがな俺達は生きてるんだ!ってことは、生きなきゃなんねぇってことなんだよ」
「……わかった」
 そう言うとカガリは通信を切り、現実の前では無力な自分に涙した。
「トール、オレ達は他を探そう。コーディネーター用の薬がフレイ達に効くとは思えないし…」
「ああ。カガリさんも一緒に来ないか?」
 一連のやり取りを聞いてたサイ達が気遣い、カガリを誘う。
「ありがとう……でも私はここの作業を手伝うよ」
「そう、じゃあ」
 サイ達のミストラルが薬を求めて離れていった。
「辛いのなら、船に戻れ」
 カナードが通信を入れるが、カガリは首を振った。避難民が出た原因の一つはカガリの父にもある、だから避難民達に代わり生きる為に死者の眠りを妨げる罪を被る事はカガリに出来る唯一の贖罪だった。

 夕焼け空を映し出したプラントの空の下、花束を持ったアスランは無数の墓標の中を歩いていた。本来ならば、公園として使われるはずだったこの場所は、血のヴァレンタインの悲劇の犠牲者の為に急遽改装した霊園である。
 これらの墓標の下には、墓に当然あるはずの骸はない。しかし、その魂の平穏を願う者がいて、祈りを捧げている以上、ここは立派に墓なのである。
 そしてアスランは一つの墓標の前に立ち止まる。
 そこに刻まれた名は
レノア・ザラ
アスランの母であり、かつて一人の男に至上の愛を与えた女性である。
 彼女の死によって、アスランは戦場に出る決意をし、一人の男が決して終わらない修羅の道を歩む事になったのだ。
 アスランが花を供えようとすると、既に真新しい花が供えられている。誰が供えた物なのかアスランには直ぐに判った。
 父は一度として母の墓に行った事は無いので彼女に間違いない。仕事で忙しい時間の合間を縫って花を供えてくれた彼女に感謝しつつ、手に持った花を供えようとした所で、言いようの無い胸騒ぎがアスランに襲いかかった。
(何だ!この感じは……)
 夕焼けは人を不安にさせるというが、この感覚も、その類なのだろうかとアスランは思った。
(あの料理を食べれば、こんな不安も一発で消し飛ぶのだろうな)
 アスランは、かつて親友の母親が彼の母親に教えてくれた料理を切望した。
(そういえば母上……ラクスに教えるって約束してたんだよな)
 以前にアスランとラクスとレノアの三人で夕食を共に食べた時に、レノアはラクスに、その料理に合う野菜が出来たらレシピと一緒に送ると約束したのだった。
(止めよう、虚しいくなるだけだ)
 もう果たされる事ない約束を胸にアスランは母の墓標に別れを告げた。

 ユニウス7からかなり離れて探索活動を続けるサイ達のミストラルが漂う白いMSの残骸を避ける。
「あのMS……ヘリオポリスで襲ってきた機体にソックリだな」
「同じ機体なんだろ?……!!おい、サイ見ろよ」
 トールが目の前に有るデブリに注意を促す。
「民間船だな…!!攻撃を受けた痕がある」
「ま、まさか……海賊にやられたとか?」
 トールが恐る恐る聞く、サイにとっては考えたくない事だが、その可能性は十分にある。
「調べてみる?」
「じょ、冗談!アノ船……なんかいかにも出ますって雰囲気じゃん」
 真っ白に塗装されたその船は攻撃を受けながらも、その気品を失う事なく佇んでいるのが、それがかえって不気味なのである。
「確かに」
 サイは苦笑しながらトールに答えた。
「アッチの船を調べてみよう」
 トールはエンジン以外に損傷が少ない船に向かって進んでいく。
「待てよ!」
 慌ててサイも、それに続く二人の去った後、虚空の闇にモノアイの光が灯った。

 カガリは暗い通路を慣性移動しながら進んでいた。
 さっさと食料を見つけて、この場所から一刻も早く退散しよう。それが、ここに眠る魂たちの為にしてあげる唯一の事だった。
 カガリは研究所らしき建物の中をライトの光だけを頼りに進んでいく。そしてカガリは一つ一つの部屋を見回り食料を探す。
 ある部屋に入った時に、無数に浮遊する日常品の中でアル物がカガリの目に留まった。
(手紙?)
 ピンクの可愛らしい便箋がカガリの前を通過する。手に取って見ると、そこには優しい文字でこう書かれていた。
『約束していた野菜が出来たので送ります。
 ぜひ、あの子に食べさせてね。
 ○マ○家風、ロールキャベツの作り方』
 一部の文字のインクが滲んでいて読めないが、料理のレシピがその先に書かれている。
(きっと、自分の娘に教えたかったのだろうな)
 カガリは気づいていたのだろうか? 手紙を書いた人物にこの料理を教えた人物も、その人物の姉からこの料理の作り方を教えてもらったという事を…
 カガリが食い入るように、その手紙に記されたレシピを読んでいると通信が入る。
「こちらチャンドラ。食料庫を発見した。手の空いてる者は来てくれ!」
「了解し」
「うああああああああああ」
「誰か!コチラ…アーガイル機!至急救援を…」
 カガリが返信しようとすると通信機からトールの悲鳴と切羽詰ったサイの声が聞こえ、ブツリと途切れた。
「おい!何があった!おい!!!」
 カガリが必死で呼びかけるが、通信機から聞こえるのは耳障りなノイズだけだった。
「カナードッ!!」
「今、向かってるが、こうデブリが多いと何所にいるか解らん!ムウ・ラ・フラガ、代わりに付近の警戒をしていろ!陽動かもしれん」
「了解!」
 一連のやり取りを通信機で聞いてたカガリは手に持っているレシピを握り締めると二人が無事である事をハウメアの女神に祈った。

「サイ!あ、あった!!!」
「本当か!」
「間違うもんか」
 サイは、子供の様にはしゃぐトールが差し出したビンのラベルを確認する。
「……うん、間違いないな。早速ミストラルで、ここにある薬を運び出そう」
 二人は、ミストラルに乗り込もうとする。
「ああ、でもその前に……」
 コクピットに乗り込みながらトールが含み笑いをし、医療品が入ったダンボールからアル物を取り出す。
「ほら持っときなよ」
 開封されてない避妊具の入った箱をサイに投げ渡す。
「これって…」
「手持ちが足りなくて…」
 トールが申し訳なさそうに言う
「道理で二人でよく抜け出すと思った」
「幻滅するかい?」
 ミストラルを操作しながらトールが茶化すように訊ねる。
「そりゃあ、男と女のやる事だから珍しくもないけど…」
「でサイはどうなんだよ?したのかフレイと」
「それが……フレイの親父さんが厳しくて…」
「いいじゃんか、親なんて気にする必要ないって」
「そうかな…」
 サイは、娘を溺愛するフレイの父親の親バカっぷりを良く知っているから素直に同意できない。もし下手に手を出したら世界最強の傭兵にサイの暗殺を依頼しかねないからだ。
「サイがそんなんだと他の誰かに寝取られるかもよ」
「縁起でもない事言うなよ」
「ゴメン、ゴメン」
 そんな事を話してる内に倉庫にあった医療品を回収し終え、戦艦のデブリから飛び出る。
「急ごう、ミリィ達が待ってる」
「あんまり急ぐとデブリにぶつかるぞ」
 サイ達が意気揚々とアークエンジェルへ向かうサイ達だったが、その時にサイの目の前に有るトールのミストラルが何者かの乗るジンの攻撃を受け大きくバランスを崩した。
「うあああああああああ!!」
「トールッ!!」
 サイが叫ぶと、すぐに自分のミストラルも攻撃を受け、衝撃が彼を襲う。
「ック……誰か!コチラ…アーガイル機!至急救援を……」
 再び攻撃を受け、衝撃でサイの機体の通信機が壊れる。
「クソッ!」
 逃げるサイ達は目の前に漂う戦艦のデブリを見つけ、その中に逃げ込もうとする。ジンの攻撃を間一髪でかわし、ハンガーに固定されたメビウスの横をすり抜け戦艦の格納庫に入る。
「いっ生きてるよな?オレ達…」
「なんとか…」
 大きく息をつく二人だったが、今度はミストラルの直ぐ近くにジンの砲撃が始まる。
「助かったと思ったのに!!」
「何で解るんだ?」
「知らないよ」
 サイ達は知らない事だが、彼等を攻撃してるのは偵察、及び索敵能力を強化した長距離強行偵察複座型ジンと呼ばれる機体で、ミストラルの熱反応を探知して攻撃を加えているのである。幸い威力が弱い為に一撃で戦艦の装甲を突き破る事は出来ないが、破れるのは時間の問題だ。
「救援は、まだかよ!!」
 このデブリの多さでは自分達の発見は難しいだろうとサイは思った。おまけに通信機も壊れ助けも呼べない上、さっきの僅かな時間の通信では逆探知で位置を特定するのも不可能だ。
(マズイな……)
 救援がもし来なければ、このままサイ達はジンの攻撃によって、漆黒の闇に飲まれデブリの仲間入りを果たす事になるだろう。
(せめてフレイに薬を届ければ…)
 サイは必死に、ここからのアークエンジェルへの帰還と薬をフレイたちのもとへ届ける手段を考えた。そして一つの妙案がサイの頭の中に浮かんだ。
「トール、一か八かの賭けだけど……乗ってくれるかい」
 サイは神妙な顔つきでトールに向かって言った。
 数分後、戦艦の装甲が破れると同時にサイのミストラルが飛び出し、ジンの注意を引き付ける。ジンはライフルを構え、そのミストラルを冷静に撃ち抜いていく。
 サイのミストラルが四散すると同時に、今度は反対側からトールのミストラルが飛び出す。しかし、いくら陽動に成功しようが索敵能力が強化されたジンの射程から逃れる事は出来なかった。
 陽動に気づいたジンが振り向き、ライフルで二機目のミストラルを撃ち抜いた。

「クソッ!どこだ!!」
 カナードはストライクのレーダー範囲を最大にして索敵をするが、デブリが多い為に識別が困難になっている為にサイ達はまだ発見できていない。
(ん?熱反応?)
 ストライクが付近で起きた爆発を感知する。
(そっちか!)
 カナードはストライクを爆発が起きた場所へ向かわせるが、途中でもう一つ爆発を目視した。
「チッ!間に合わなかったか……」
 メインカメラが二機のミストラルの残骸と一機のジンを捕らえる。ストライクに気づき慌てて応戦しようとするジンだが、もう遅い。
「消えろぉザコがぁ!!」
 ストライクがビームライフルを三点射し、確実にジンを葬り去る。
「こちらストライク、ジンを一機撃破した。付近に他の敵機なし。それと……ミストラルの残骸を発見した」
「!!ちょっと……それはどいうことなの!」
 カナードの通信を聞いたマリューが聞き返す。
「何度も言わせるな!ミストラル二機の撃墜を確認した」
「そんな…」
「アーガイルとケーニヒの生存を確認したのか」
 崩れる様にシートに座り込むマリューを尻目にナタルが言う。
「今、やってるが…残骸の損傷状況を見ると絶望的だな」

 カナードがそう言い切ると同時に明るい声で通信が入る。
「おいおい、勝手に殺すなよ」
「こちらアーガイル、及びケーニヒ、正面のメビウスだ。撃たないでくれよ」
 戦艦の残骸の中から、ほぼ無傷のメビウスがゆっくりと現れる。
「お前ら……生きてたのか」
「そう簡単に死なないって」
 サイの考えた作戦は、まずサイ達のミストラルを無人で飛び立たせ、敵に撃墜させる事で敵に倒したと思い込ませ、その場をやり過ごした後に、戦艦の中に在ったメビウスで脱出するというものだった。
「アンタが爆発に気づいてくれたから、思ったより早くミリィに薬が渡せれそうだ。本当にありがとな」
「なら、さっさと薬を渡してやるんだな」
 トールの言葉を照れ臭く感じながらカナードが答える。
「ん?ちょっと待って……これは救難信号!」
 通信機を弄ってたサイが国際チャンネルで流れる救難信号を確認した。
「こちらでも確認した……罠かもな」
「罠って?」」
「救難信号を出し、救助しに来た連中が助けに来たところ襲う…海賊どもが良く使う手だ」
「それじゃあ、さっきのジンの仲間かもしれないのかよ」
「可能性は高い……あれは俺が回収するから、お前達は先に行け」
「でも!」
「もしも罠なら足手纏いになる。それに早く渡したいんだろ?」
「……解った。気をつけてな」
 カナードはメビウスの後ろ姿を見送ると救難信号を出す物体に向かう。
(見たこと無い型だな……プラント製か?)
 カナードは周囲を警戒しながらストライクを救命ポッドに近づかせる。
(いきなり撃ってくるのは…なさそうだな。さっきの奴の仲間が出てきたら、この俺を敵に回した事を後悔させてやろうと思ったんだが…)
 ストライクのマニュピュレーターが救命ポッドをガシリと捕まえるとカナードはアークエンジェルに帰還することにした。

「救命ポッドを拾ったんだって!?」
 カガリが格納庫に入るなりカナードに訊ねる。
「ああ、偶然にな」
 カガリはカナードの隣に来るとポッドの方を見る。
「いつでも撃てる様にしてろ!いきなり撃ってくるかもしれん!」
 ナタルが銃を構えた兵隊に注意を促す。
「何で必要なんだ?」
「海賊が中にいて、この船を乗っ取ろうとするかもしれん」
「本当か?」
「ああ、現に所属不明のジンを一機、撃墜した」
兵士たちの準備が整うとマードックがポッドに取り付けられた端末を操作しポッドの扉を開ける。
 ゆっくりとポッドの扉が開いていくその時に僅かな隙間から球状の物体が飛び出る。
「伏せろ!」
 爆弾の類と判断したカナードが拳銃でその物体を撃ち、その物体の耳を吹き飛ばした。
「ハ、ハロ、ハロー、ハ…ろ、……HARO……」
 耳が無くなったピンクの球体は目を点滅させながら、間の抜けた合成音を発する。
「あん?」
 呆けてるカナード達にポッドの中から愛らしい声がする。
「ありがとう。御苦労様です」
 ピンクの髪を靡かせ、世界の誰もを魅了する少女が今、アークエンジェルに降り立った。

 アスランは手に持った作りかけのハロを床に落とし、有名なリポーターが伝える緊急ニュースを呆然と見ていた。
(嘘だ!こんな事があってたまるか!)
『もう一度、繰り返します。血のバレンタイン追悼式典の為にユニウス7の調査を行っていた民間船『シルバーウインド』が二日未明に消息を絶っていた事が、最高評議会の発表で明らかになりました。この船には追悼慰霊団の代表を務めるラクス・クライン嬢も乗船しており、乗り組み員を含め、安否が気づかわれています。また、地球連合の戦艦が攻撃を加えたとの情報も入っておりますが情報が錯綜しており、事実確認は取れておりません。以上ベルナデット・ルルーがお伝えしました』
アスランの脳裏に、ユニウス7が核攻撃された時の映像と大切な人の死に何も出来なかった無力な自分の姿が浮かんだ。
(俺は、もう二度とあんな悲しみを繰り返させるものか!)
 そして、ようやくアスランは自分のリストウォッチの非常召集シグナルが鳴っている事に気づいた。