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Canard-meet-kagari_第28話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:34:31

第28話

 円筒形のコロニーに、一つ目の巨人達が近づくと持っていた球状の物体をコロニーに取り付ける。
 何をしているかは、彼女には直ぐに解った。これは彼女が何度も見ている『夢』だから……
 数分もしない内にコロニーの内部は劇的な変化が、起き始める。
 赤ん坊を抱いたまま道端に横たわる母親。
 建物に突っ込み炎を上げてる車の運転主は、白目を剥き、口から泡を噴いてハンドルにもたれかかっている。
 シェルターの入り口を守るように座り込んだ少年兵、しかし、そのシェルターの中でも、人々は苦悶の表情を浮かべ息絶えている。
 だが、このコロニーを襲った悲劇はなおも続く。
 突如、強力な閃光が広がり、錯綜する光の光条と爆発の火球がコロニーを包み、コロニーは、ゆっくりと地球へと降下していく。
 その周囲を飛び交う一つ目の巨人達、その姿はジンに良く似ていた。
 そしてコロニーは、気流の渦を裂き、摩擦熱で真っ赤に灼熱しながら地球に墜ちていく。
 その光景は、まるで空が落ちてくる様だった。
 コロニーが地表に落下すると凄まじい爆発が起こり、並び立つ巨大ビル郡を爆風でなぎ払っていく。
 彼女は、瓦礫の山の中を立ち尽くすだけだが、その後も悪夢は続く。
 太陽の光で焼かれる小惑星、憎しみを呼ぶ業火に焼き尽くされる艦隊、爆発する小惑星、悲しき人々の思いが生み出した星の屑、ジャングルに立ち昇るキノコ雲、いつまでも覇権争う愚かな人類の欲望を受けて、より巨大な姿になる巨人達。
 そして一つの小惑星を包んだ暖かい光で、もう悪夢は終わるかに見えた……だが終わらない。
 無機質な機械によって虐殺されるコロニー。
 人々を争わない生き物に変える天使の輪も巨人の戦いが砕いていく。
 そして何万年たとうと巨人の戦いに終わりは来ない、ただ始まりと終わりを繰り返しながら互いの信じた未来の為に雨の様に降りそそぐコロニー、それを迎え撃つ月光の剣。
 虐げられた人々の怒りを代弁すべく放たれる地表を射抜く巨大なオーロラ。
 暗黒の雲が空を覆い、母なる地球を貪る巨大な触手。
 そして全ては、『時代を振り戻す者』と『不変なる者』の対決に委ねられる。
 光の燐粉が彼女の体を包み込む。
 これは、この星の記憶、過ぎ去った過去の事でもあり、やがて訪れる未来の事でもある。
 私達は今、この時代においても試されてる『よき力』と『よき心』を持つ生命体なのか……
 もし、私達がそれを持たない生命体なら……

 ラクスの意識がゆっくりと覚醒する。
(また、あの夢……)
 ラクスは、起き上がると寝汗にビショリと濡れたシャツを着替える。
 カガリが持って来てくれた物だが、胸周りのサイズが大きい為かなりブカブカだ。
 本当なら備え付けのシャワーで身を清めたかったが、水も食料と同じくユニウス7から運び出したものだから使う訳にはいかない。
(今日で三日目、早く助けが来るとよいのですが)
 ラクスは、もう彼女の情報なら既に自分の所在を突き止めているだろうと思い、救出に来る人間をゆっくりと考える。
(あの二人は、まだここから離れた所にいますから無理でしょうし、あの方が来ますとワタクシの事を顧みずに、この船を沈めるでしょうから論外……
 となりますとクルーゼ様でしょうね……そしたらアスランも)
 ラクスは、急に鼻をヒクつかせる。
「ハロ、私、匂いませんよね」
「ハロ~!モンダイナシ!モンダイナッシ!!」
「そう、よかった」
 ラクスは、ホッと胸を撫で下ろした。

 熱もすっかり下がったミリアリアは、軽い足取りでシャワールームへ向かう。
 すれ違う避難民の顔は、今までの不安を抱えた表情から打って変わり、楽しそうに談笑している。
(やっと味方と合流できるんだもんね、無理ないか)
 連合の先遣艦隊からの通信が入ったのは昨日の出来事だった。
 このニュースは自分の代わりにブリッジにいた人物によって瞬く間に避難民達に伝えられ、避難民達の間にも、ようやくほっとした空気が流れたのである。
 ミリアリアが、そんな平和な雰囲気にヘリオポリスの事を思い出しならシャワールームの前にやって来ると、何やら中から不穏な言い争いが聞こえてくる。
「ちょっと!痛いじゃないの!!」
「少しくらいガマンしろ!」
「アンタ!ワザとじゃないの!!」
「なんだと!!」
「キャ!痛い!やっぱりワザとやったわね!!コノ!」
「イテテテッ!やったな!!」
(何やってんのよ、まったく……)
 ミリアリアが溜め息を付きながらシャワールームに入ると、互いの髪を引っ張り合ってるカガリとフレイが同時にミリアリアの方を向き、異口同音に言った。
「「ちょうど、良い所に来た(わ)!!コイツが!!」」
「ハイハイ、わかったから順番に話を聞かせてよね」
 ミリアリアが興奮する二人をなだめながら、事情を聞く。
 つまりは、こういう事である。連合の先遣艦隊には、大西洋連邦の事務次官であるフレイの父親が乗船しており、父親の手前、みっともない格好ではいられないフレイが、カガリに髪の毛をセットしてくれるよう頼んだ。
「そしたら、この娘、不器用だから痛くて……」
「それでケンカになったのね。ほら、貸して」
 ミリアリアはカガリの手からブラシを受け取るとフレイの髪をとき始める。
「ありがとうミリアリア!」
「へぇ上手いな」
 カガリが、その手際に関心したように呟く。
「フレイの髪って綺麗ね、やっぱり手入れとか気をつけてる?」
「当然よ、けどサイったら全然、髪の事を褒めたりしないのよ!」
「男ってそうなのよね~、ところでフレイって何でヘリオポリスにいたの?
 お父さん、大西洋連邦の事務次官なんでしょ?」
「私が変なゴタゴタに巻き込まれないようにって、それと私が……サイの側にいられるようにって」
 フレイが顔を真っ赤にして言うとカガリが首を傾げて言う。
「ん?どういう事だ?オーブに来てから知り合ったんじゃないのか?」
「私のパパが、サイのパパと親友で……それで何があったんだか知らないけど、お互いに子供が出来たら結婚させようって約束してて……」
「じゃあ!アナタ達、結婚するの!!」
 ミリアリアが、あんぐりと口を開けて驚く
「まだ、そうと決まった訳じゃないけど……」
「けど嫌じゃないのか?親が勝手に決めた相手と結婚なんて」
 カガリの質問にフレイは、少々とまどう
「え?でも前からサイとは文通してたし、それにパパが……そう言ったんだし……」
「親が言えば従うだけなのか?お前は」
「ウルサイはね!アンタはどうなのよ?」
「どうって……」
「アノ人よ!仲がよいみたいじゃない」
「アイツは、そんなんじゃない!……ヒマな時はOSの改良してるか、鍛えてるかのどっちかで全然相手にしてくれないし……それにアイツ、私の事を名前で呼んだことないし……」
「あっ!そういえば私も呼んでもらってない」
 ミリアリアが今までのカナードの言動を思い出して言う。
「それに違うんだ。アイツといると感じるのは、何だろう?とにかく安心するんだ。
 お父様といるみたいで……」
「案外、生き別れのお兄さんかもよ」
 ミリアリアが冗談半分に言うとフレイも同意する
「あ!私もそう思った。あんた達の口ゲンカって痴話ゲンカというより、兄妹ゲンカだもん」
「はっはっは、まさか。そんなマンガみたいな事……」
(世継ぎをお父様が手放す訳ないだろう。あっ、でも……もしもアイツが私の兄なら私がユウナと結婚しなくて済んで、代わりにアイツが首長になってもらえるな。
 そしたらアイツの事だから邪魔なサハクを叩き潰して……ってダメだ!それじゃ内戦になる)
「う~ん」
 呻りながら悩むカガリにミリアリアが解決方を教えてみる。
「今度、試しに親の写真でも見せてみたら?父親とか、母親とか」
「母親か……そういえば私、お母様の顔知らないな」
「「えっ!」」
 異口同音に驚く二人にカガリは、きょとんして言う。
「そんなに驚く事ないだろ?私が生まれてスグに死んじゃったんだから……」
「驚くわよ!私だって生まれてスグにママが死んじゃったけど、写真で顔くらい見たことあるわ!!」
「そういうモノなのか?」
 首を傾げてるカガリがミリアリアに聞く。
「普通わね……アナタ、お母さんが恋しいと思った事はなかったの?」
「なかったな……母親代わりにマーナがいたし」
「私は……恋しかったわ」
 普段からは、まったく想像できない暗く沈んだ声でフレイは続けた。
「ママが生きてたら一人で寝る事もないし、お手伝いさんが作った料理を食べる事もない、お裁縫とかいろんな事を教えてもらえる。
 毎日、夜遅くに仕事の愚痴をママの写真に話すパパを見ることもない。ずっとそう思ってたわ……だから」
(ママを殺したコーディネーターは許せない)
 ミリアリアの手が、そんなフレイの肩にやさしく置かれる。
「フレイ……もういいわ。ほら、スマイル、スマイル、そんな顔だとお父さん悲しむわ」
「……ありがとう」

「なんだボウズ、またいじってるのか」
 カナードがストライクのコクピットで真剣な表情でOSの調整をしていると、通りかかったマードックがコクピットの中を覗き込む。カナードは返事をせず黙ってキーを打っている。
 そして調整が終わると唇をニヤリと歪ませマードックの方を見る。
「……やはりな。おっさんコイツを見てくれ」
 カナードがマードックに今、調整し終わったOSが映る画面を見せる。
「この設定にするとガンダムの反応速度がコンマ5、速くなるんだが機体強度に問題あるか?」
「おお!!よく見つけたな!コイツの実際の機体強度はデータ上のスペックより、かなり上だから問題ない。しかし、こんなピーキーな設定だと、かなりの暴れ馬になるぞ」
「乗りこなす自信はある」
 ふてぶてしく言うカナードにマードックが呆れる。
「まったく、もう直ぐ合流するってのに……オマエさんパイロットに志願する気はないか?艦長が推薦すればハルバートン提督も嫌とは言えないだろうよ」
「どういう事だ。大尉風情が進言したとしても聞くかどうか……」
「事情があるんだよ、事情が……」
「事情?」
「ちょっと耳かせ」
 マードックは、首を傾げるカナードにヘリオポリスの工場では公然の秘密となっていた事情を耳打つ
「フン、道理で使えない女だと思ったよ」
「あんまり他言すんなよ!」
「わかったよ。OSの不具合を確かめたいからシュミレーターを起動するぞ」
「まっガンバレよ」
 マードックが離れていくと、カナードはストライクのシュミュレーションモードを立ち上げる
(さあコレで準備は整った。このOSならアノ感覚にも付いてこれるはずだ)
 カナードは敵のガンダムとの決戦に向けて改良したOSの感覚を確かめる。
(奴等は第八艦隊と合流するまでに必ず仕掛けてくるはずだ)
 もし艦隊と合流したら、いかにガンダムが四機あろうとも迂闊に攻めてくる事は出来ない。なら、ザフトは必ずその前にアークエンジェルとストライクを亡き者にしようとしてくるはずだ。そして、その時こそカナードにとっても残された最後のチャンスなのだ。
 画面に現れたイージスのデータを斬り付けながらカナードは叫んだ。
「早く来い!!アスラン・ザラ!!!」

「本艦隊のランデブーポイントへの到達時間は予定通り。合流後、アークエンジェルは本艦隊指揮下に入り、本体への合流地点へ向かう。
 後わずかだ。無事の到達を祈る!」
 護衛艦モントメゴリの艦長コープマンの伝える言葉にマリューは肩を撫で下ろす。
 合流すれば、やっとこの重圧から開放される、それがマリューに限りない安堵感をもたらしていた。
 画面が映り変わり、コープマンの隣に座るスーツ姿の男性が名乗りを上げる。
「大西洋連邦事務次官、ジョージ・アルスターだ。まずは民間人の救助に尽力を尽くしてくれたことに礼を言いたい」
 マリューは、アルスターの名前に聞き覚えがあった。
(たしかフレイというサイ君のガールフレンドよね)
 ここ数日、フレイはブリッチに食事を運びに来ては、サイとイチャついている為、フレイの顔は良く覚えていた。
「あーそれとそのー……救助した民間人名簿の中に我が娘、フレイ・アルスターの名があったことに驚き、喜んでいる」
「え!!」
 マリュー達ブリッチクルーの目が点になる。まさか、そんなVIPのご令嬢だとは夢にも思っていなかった為だ。
「出来れば顔を見せてもらえるとありがたいのだが……」
「事務次官殿、合流すればすぐに会えます」
 コープマンが事務的な口調で牽制すると、ジョージは肩をすくめる。
「それもそうだな。では、合流を楽しみに待ってる」

 ラクス探索の任を受けたヴェサリウスは、アークエンジェルより先に先遣艦隊を補足していた。
「地球軍の艦艇がこんなところで何を?」
 アデスの口にした疑問に椅子に座ったままのクルーゼが静かに答えた。
「おそらく『足つき』への補給、もしくは出迎えの艦艇だろうな……」
「すると、この近くに『足つき』が?」
『足つき』とは、アークエンジェルの特徴である艦首両舷から前方に突き出した脚部状のモビルスーツハッチがハイヒールの様に見えるためザフトが付けたアークエンジェルの名称だった。
 クルーゼは隊長席で密かにほくそ笑む。
(ちょうど良いタイミングで現れてくれたよ、足つきを探す手間が省けた)
 クルーゼは出発した直前に、彼女からアークエンジェルにラクスが保護されたという情報を聞き、偶然を装い、アークエンジェルへ接触し、ラクスを救出する計画を立てていた。
 その為に、時を見計らい用意しておいたある物を使いヴェサリウスにアークエンジェルを捜索させるつもりだったのだが、思わぬところで、その手間が省けた。
「ラコーニとポルトの隊の合流が、予定より遅れている。
 もしあれが、足つきに補給を運ぶ艦ならば、このまま見逃すわけにはいかない」
「しかし……我々にはラクス嬢捜索の任務が」
「近くに敵がいる以上捜索に専念できなだろう?それに私は軍人だ。
 たった一人の少女の為にあれを見逃す、というわけにもいくまい」
「了解しました。こちらの位置はまだ気づかれてはいないな。ロストするなよ、慎重に追うんだ!!」
アデスは艦長席でブリッチクルーに的確に指示を出す。
「ところで、アスランはどうしてる?」
「昨日から、アノ機体……イージスに籠もってOSの調整をしていますよ」
「そうか、後で激励に行くとしよう。足つきと戦闘になればストライクも出て来る。彼には必ず倒してもらわねばな」
「出来るでしょうか?」
「彼は世界で最初のスーツ乗りの御子息だ。必ず出来るさ」
「そうでしたな」

「レーダーに艦影確認」
「早かったな、アークエンジェルか?」
 コープマンが艦長席でドリンクを飲みながら、オペレーターに向き直る。
「いえ、それにしては方向が……!!船籍確認、これは……ザフト艦です!」
「なんだと!!」
 慌てるジョージの横でコープマンは、あくまで冷静にオペレーターに聞く
「距離は」
「かなり離れてますが、この速度差では追いつかれるのは時間の問題です」
「っく!アークエンジェルへ、反転離脱を打電!」
「艦長、応援を頼んだ方が良いのでは?かなりの性能なんだろ?アークエンジェルのMSは」
 ジョージの進言をコープマンは退ける。
「いえ事務次官、今はアークエンジェルとMSの安全が第一です。例のこともあります……」
「わかった、こんな事なら助っ人を待って来るのだったな……」
 ジョージは覚悟を決める。娘の乗る船が安全ならそれに越した事はない。自分に課せられた任務も後任の者が成し遂げてくれるはずだ、それにしても……
「フレイのウェディングドレス姿を見れないのが残念だ……」
「何でしたら脱出ポッドに移りますか?」
「いや、ポッドの生存率など高が知れてるよ。
 それにザフトに捕まって政治の材料には成りたくはないからね」
「同感ですな、最大船速、出来るだけザフト艦をアークエンジェルから引き離せ!」
(サイ君、フレイを頼んだよ)
 ジョージは目を瞑り、親友の息子に愛する娘を託した。

「どういう事ですか!先遣艦隊を見捨てるんですか!?」
「しかたないだろう、我々のために……先遣艦隊は囮役を買って出てくれたのだ」
 苦々しく言うナタルに尚もサイはマリューに向き直る。
「ストライクなら、助ける事だって出来るはずでしょう!!」
「そうかもしれないけど……」
 サイの気迫に気圧されたマリューにナタルが進言する。
「敵の詳細も解らずに迂闊に飛び込む訳にも行きません!!
 それに艦長、最後の通信を思い出して下さい。
 我々は沈むわけには行かないのだと……」
「どういう事ですか?」
「それは……」
「良いわバジルール中尉、私から話します。
 現在、ヘリオポリス崩壊の責任は地球軍にあるという風に言われています」
「そんな!どうして……」
「プラント側の提出した大量の物証に対して、地球連合側は何一つ関係資料を提出できなかったのが主な原因ね……」
「そうか!だからアルスターの小父さんが来たんですか!?」
「そう、アルスター外務次官は、この問題の解決する為にヘリオポリスでの戦闘記録を持つ私達に一刻も早く接触したかったの……
 けど、こうなってしまったら私達は何としても戦闘記録を地球軍本部に届けなければいけないのよ」
「そんなので納得できますか!?貴方達にとっては単なるオエライさんなんでしょうけど、フレイにとっては、たった一人の肉親なんです」
 サイはインカムを叩きつけると一人ブリッチを飛び出して行った。

(そろそろだな……)
 先遣艦隊を目前に迫ったヴェサリウスのブリッチでクルーゼは、自分の仕掛けが動き出す時を待っていた。
「足つきへの暗号通信を傍受!」
(来たな!)
「直ぐに解析するんだ!」
 クルーゼは、何食わぬ顔でオペレーターに既に知ってる内容の暗号文の解析を命じる。
「これは!!……『アークエンジェルはラクス・クラインを連れ直ぐに、この宙域を離脱せよ』」
「何だと!?隊長!!」
「分かってる、出撃準備だ。まず目の前の艦隊を叩き潰し、返す刀でラクス嬢を捕らえた足つきを墜とす!」
「MS隊、発進準備だ」
 慌しくなるブリッチでクルーゼは一人、ニヤリと唇を歪ませる。
(まったく、こんな所で彼の作ったプログラムが役に立つとはな)
 クルーゼは以前にヘリオポリスに現れたシグーと通信した時に使ったハッキングプログラムを使い、ヴェサリウスのコンピューターを操り、ラクスの所在を伝える通信データを潜ませておいたのだった。
 そして時が来れば、アークエンジェルへの通信を傍受した風に装い、用意していた暗号データがヴェサリウスクルーの前に現れるという寸法だった。
(アスランならカナード・パルスを押さえる事ができるだろう、その隙に……)

「断る!!」
 ストライクで先遣艦隊を助けに行って欲しいと懇願するサイの手をカナードは払いのける。
「頼むよ、君がフレイの事を良く思ってないのは知っている、けどアルスターの小父さんを助けて欲しいんだ」
尚も目の前に立ちふさがろうとするサイを突き飛ばしカナードは言った。
「俺の知った事じゃない!そんなに助けたければ何故、自分の力で何とかしようとしない!
 他人にすがるな!!」
 それでもサイはカナードの足に縋り付き懇願する。
「出来るならやっているよ!けどオレには……直接フレイを守ってやる事も出来ない、フレイの親父さんを守ってやる事もできない……オレには何一つ出来ないんだよ……」
 サイは声を裏返らせながら、感情を発露する。しかし、その姿はカナードにとってはこの上なく不愉快な物だった。
「最初から出来ない出来ないって言って諦めるな!やれる事をしないで喚いてるだけじゃ何も解決しない!!」
 カナードの強烈な蹴りがサイの鳩尾に叩き込まれる。
「うう……」
 呻くサイを尻目にカナードが、その場を去ろうとすると通路の角からカガリが現れる。
「なんだいたのか?盗み聞きとは趣味が悪いぞ」
「そんな事はどうでもいい!!オマエ最低だな!誰もが、みんなオマエの様に力を持ってる訳じゃないんだぞ!!」
「フン、俺が例えコーディネーターでなかったとしても、俺はソイツの様に無様に這い蹲ったりしてはいない。
 本当に何かをしたいんだったら、それを何があってもする決意があるのなら、なりふり構わずに成し遂げるだけだ!!」
 そう言い残しカナードはカガリの横を素通りしその場を後にする。
「っ!!ちょっと待て!おい!!」
 カガリは、自分の声を無視して進むカナードを追おうとするが、サイの存在を思い出し、慌てて介抱する。
「おい、大丈夫か?すぐ医務室に…」
「だ、大丈夫だよ……」
 サイはカガリの手を振り払うと、頼りない足取りでその場を離れる。しかし、その足は一歩一歩、確実に前へ向かっている。絶対に果たす目的はある、覚悟は固まった。
「後は……実行するだけ」