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Canard-meet-kagari_第29話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:34:45

第29話

 その時カズィは、マードックに頼まれてストライクのコクピット周りの電気系統の再チェックをしていた。
(あの坊主は使い方が荒いから、念入りにチェックしとけよ)
 マードックの言葉を思い出だしながら操縦桿を見ると、ロールアウトして一ヶ月も経っていないとは思えないほど使い込まれているのが一目で分かった。
「毎日、いじってるのは知ってたけど……どうやったら、ここまで出来るんだろ」
 愚痴りながら、全ての機器が正常に作動するかを確認し終わるとサイが幽鬼の様にふらりと現れる。
「カズィ、ちょっといいか?」
「え、なに?」
 普段と違うサイの雰囲気に戸惑いつつカズィが答える。
「いや、カガリさんがランドリーの乾燥機の調子が悪いから見てくれないかって……」
「ああ、わかったよ。」
 カズィがコクピットを出た一瞬の隙を突いて、サイがストライクのコクピットに潜り込む。
「え?」
「ゴメン……」
 そう呟きながらサイはストライクのコクピットハッチを閉めた。先程までカズィが調整していた為、OSは立ち上がったままだ。
(大丈夫、やれる。ゼミで作業用MSを動かしただろ?基本は変わってない)
 そのMSのOSがカトウ教授の開発していたナチュラル用のOSだと知らないサイは、自分に言い聞かせながら、両手をスロットルとレバーに掛け、ゆっくりと押す。
「うわっ!!」
 ゆっくり左腕を動かしたつもりが驚異的スピードで左腕が上がり、可動式キャットウォークにめり込む。
「ひぃいい!!」
 カズィが慌てて操作し、キャットウォークをストライクの正面から移動させる。
「カズィ!!このっ!」
 今度は歩かせようと右足を動かそうとするが、なぜかストライクはハイキックをしてしまい、バランスを崩したストライクは、その場に倒れこむ。
「……歩かせる事すら出来ないのか」
 悔しさで涙が溢れ、サングラスに水溜りを作る。
(やっぱり、オレは何も出来ないのか…)
 諦めかけたサイの脳裏にカナードの言葉が蘇る。
――――やれる事をしないで喚いてるだけじゃ何も解決しない
「そうだよな……諦めるわけにはいかない。でも、オレに出来る事は……」
 その時メインモニターに、かつて彼を救ったモノが写っているのにサイは気付いた。
「アレなら」
 正直、サイにはPS装甲を持たないアレが戦場のど真ん中に出て生き残れるとは思えない。しかし、躊躇している時間は無い、ストライクを動かしたせいで、近くに人が集まってきている。
 サイはコクピットハッチを開くと、一目散に目標物に向かって走りだした。

「ストライクが動き出したって……どういう事だ!!」
 ブリッチで先遣艦隊への救援へ行くべきだとマリュー達に掛け合っていたカガリは、報告していたマードックに訊ねた。
「まさか……カナード・パルスか!?」
 ナタルが訊ねるとマードックは首を横に振り答えた。
「あのボウズだったら、あんな風に倒れたりしないって」
 マードックが親指で倒れたストライクを指差すとカガリが質問する。
「じゃあ誰なんだ!?」
「知らねえよ。カズィのボウヤがコクピットに居たはずだが……」
「じゃあ、カズィ君が動かしたの?」
「違うな。今、ボウヤはキャットウォークの上で震えてるよ」
 マリューの質問に画面の中のマードックはチラリと拉げたキャットウォークの方を見上げながら答えた。
「とりあえず、ボウズを呼んでくれ。ストライクを動かした奴を捕まえるにしても、ストライクを動かすにしても……お!」
 画面の中のストライクのハッチが開き、中から飛び出したサイが脱兎の如く走っていく。
「サイ!!」
「サイがどうして……」
 トールとミリアリアが驚くのを他所にサイの走る方向に在る物に気づいたナタルがマードックに命令を出す。
「今は、そんな事言ってる場合じゃないでしょう!マードック軍曹、止めろ!!」
 ナタルの命令は少し遅く、サイはデブリベルトで回収したメビウスに乗り込んでいき、しばらくすると格納庫内にメビウスのエンジン音が響き渡った。

「サイ、何やってるんだ!!答えろ!!」
 映像を見ていたカガリはミリアリアからインカムを引っ手繰ると通信機を弄り、サイのメビウスと連絡を取ろうとするとサイから通信が入る。
 モニターに映る人物の顔は紛れもなくサイ本人であったが、何故かブリッチクルーには普段の気の弱そうな彼とは別人に見えた。
「ハッチを開けて下さい」
「馬鹿な事を言うな!!」
 開口一番にサイの口から飛び出した言葉にナタルが憤慨する。
「お前、一人が出た所でどうにかなるわけないだろう」
「そうかもしれないけど……もう止めたんです流された生き方は……黙ったり何もしなかったら状況は変わらない。
 だったら、例え変えれないにしても何かしたいんです」
「いいから今すぐに降りて来い。これは命令だ!」
「僕は地球連合の軍人じゃない!オーブの民間人です。貴方達の命令に従う理由はない……
 ハッチを開けないんだったらストライクを壊しますよ!!」
「艦長!!」
 サイの脅しを聞いたナタルがマリューを仰ぎ見ると、マリューは戸惑いながら命令を出す
「絶対に開けないわ!死に行くようなものよ!!」
「なら撃ちます……」
 サイは静かに宣言し、トリガーを引くとメビウスに搭載された対装甲リニアガンが火を噴き、ストライクの右足首の装甲を破壊する。
「開けないんだったら今度はコクピットを打ち抜きますよ」
「正気なの!?」
 マリューが驚愕する横で、ナタルが指示を出す。
「ハッチを開けろ!早く!!!」
「バジルール中尉!!」
「ここでストライクを失ったら先遣艦隊は無駄死になってしまいます!」
「わかりました……ハッチを開けます」
 マリューが苦々しく言うとカガリが叫ぶ
「止めろ!サイ考え直すんだ!アークエンジェルを救援に向かわせるように頼めば……」
「これは僕のワガママなんだ。船を巻き込む訳にはいかないんだ」
 サイがそう言い切るとハッチが開ききりる。
 サイのメビウスは漆黒の宇宙に飛び出し、反転すると小さく見える火球と火線の光を目指して真っ直ぐに進んでいった。
「艦長!!追いかけよう。サイを死なす気か!!」
「でも彼が選んだことなのよ……自分のワガママを通すために」
「人でなしめ!だったら私も自分のワガママをするだけだ!!」
 カガリが席につき、端末を操作し艦内に放送を流す。
「カナード!聞こえているか!!サイがMAで先遣艦隊を助けに出た……助けてやって欲しい」
「貴様!何を言ってる!?」
 ナタルの言葉を無視してカガリの言葉は続く
「この前の約束を今果たしてくれ!
 サイを……いや、サイを含む、この船に乗ってる全てのオーブ国民を守って欲しい」
「勝手な事を言うなというのが分からないのか!!」
 ナタルが実力で止めようとしたその時にアークエンジェルが大きく揺れた。ノイマンのサポートをしていたトールが艦の舵を奪い、絶妙なタイミングで急旋回したのだった。
「トール!!」
「続けなよ」
「すまない……」
 ウインクするトールに感謝しつつカガリは自分のワガママをさらけ出した。
「本当なら私がしなければならない事だ!しかし私にはその為の力はない……だから私はお前に頼む」
「そんなワガママを!!」
 ナタルが体勢を直しながら言った。
「そう!これは私のワガママだ!その為にお前を使う、お前との約束を利用する。
 私は、私のワガママを……」
 最後の肝心な決意を言おうとした時にナタルが放送を切り、カガリを拘束する。
「ストップだ」
「クソッ!!」
 カガリの顔が曇る。
 カガリには今の放送だけでカナードを動かす事が出来るか不安だった。しかし、それはすぐに杞憂に終わった。
「いいだろう、お前への借りを返す」
「カナード!」
 カガリの顔に安堵が広がる、メインモニターの中のカナードはストライクのコクピットで不敵に笑っていた。
「おい、敵の数は?」
「ジンが4、でも敵の母艦はこの前のナスカ級だから、イージスが出てくるかも」
 カナードの質問にミリアリアが端末を操作し答える。
「ほう、やっと来たか。それなら……ストライカーパックはエール……それとランチャーのショルダーを付けろ」
「え?……わかったわ」
 カナードの要求の意味がわからなかったミリアリアだったが、カナードに従い、通常のエールストライカーの装備に加えてランチャーストライカーの肩アーマーをストライクに取り付ける。
「やめろ、これは命令だ!」
 ナタルが止めるがカナードは聞く様な男ではない。
「お前達、大西洋の命令に従う義理は無い」
 そっけなくカナードが言うとミリアリアも同意する。
「私もオーブの学生なんだから、何でもハイハイって従う理由は無いわね」
「貴様らは!……何をしている止めろ!!」
 ナタルが他のブリッチクルーに止めるように命令するがもう遅い、換装を終えたストライクは電磁カタパルトで加速し、飛び出していく。
「カナード・パルス、ストライクガンダム出るぞ!!」