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Canard-meet-kagari_第31話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:35:11

第31話

「どういう事だ!!」
 クルーゼは怒りに震える手で通信回線を開いた。
「こちらはラクス嬢捜索の任に就いてるクルーゼ隊のラウ・ル・クルーゼだ。
 アークエンジェル応答せよ!」
 程なくして、シグーのモニターに若い女性士官が映る。
「私がアークエンジェル艦長のマリュー・ラミアスです」
「先程の通信、あれはラクス嬢を盾にした脅迫と取って構わないのだろうか?」
 クルーゼが、そう言うとマリューの顔に狼狽の色が出てくる。
「これはコルシカ条約に抵触するが、どのようにお考えなのか聞かせて頂きたい」
「それは……」
「これはわたくしの意思です」
 言い返せないマリューに割り込み、ラクスが通信に出る。
「これはラクス様、お元気なようでなにより……して意思とは?」
「わたくしはアークエンジェルによって命を助けられました。
 受けた恩義は返すのが当然ではありませんか?」
「しかし」
「それより戦局は決しました。これ以上、部下の無駄に命を散らさないように
 直ちに兵を引きなさい」
 瞳に込められた力は紛れもなく彼女自身の意思のものだと悟ったクルーゼは渋々、ラクスに従う。
「……了解しました」
「そんなに悲しい顔をなさらないで……救うべき人を救ったら私も必ず戻ります。
 ですから貴方もアスランを頼みます」
 言い出したら聞かないラクスの性分を良く知ってるクルーゼは通信を切り、ヴェサリウスに連絡を取る。
「アデス、撤退だ!アスランも帰投するぞ」
「何があったんです。隊長!!」
 アークエンジェルとの会話の内容を知らないアデスが、血相を変えてクルーゼに問いただす。
「ラクス嬢が人質に取られた」
「なんですと!!ラクス様が……」
「引くぞ」
「了解しました。全軍撤退!!」
 アデスの号令を受けて、半死半生のジンがヴェサリウスに戻っていく。しんがりを努めるのはアスランのイージスだった。
ストライクが追撃に来なかったのがクルーゼには意外だったが、アスランの身に起きた異変に気づくと、それ所では無くなった。
 アスランは出て来ないのだ。イージスのコックピットから……
 不審に思ったメカニックがコックピットハッチを外から強制的に開けると、アスランはぐったりと頭を垂れたまま動こうとしなかった。

 モントゴメリからランチで、アークエンジェルに移ったコープマン達は出迎えに来たマリュー達を先ずは激励した。
「良い戦術だった。こんなにも早くMSとMAの複合戦術を見る事に成ろうとは
 思ってもみなかったぞ」
「ありがとうございます」
「ただ母艦を前に出したのはいだだけないな。あのせいで敵の指揮官機の接近を許した。
 しかも、民間人を人質に取るなどと大西洋連邦の威信に関わる問題だぞ」
 コープマンが言うと、横からジョージが出てきて抑える。
「まあまあ、艦長。今は助かっただけでも良いじゃないか。
 ラミアス君と言ったね?これからはラクス・クライン嬢の身柄は丁重に頼むよ。
 それとヘリオポリスでの戦闘データを早速、見せてくるかな」
 ジョージが言うと、ナタルが報告する。
「はい、準備は既に出来てます。それとアークエンジェルの士官室を御用意いたしました」
「いや助かるよ。これで仕事が捗るというものだ。
 私がアークエンジェルに移りたいなんてワガママを言って迷惑をかけて申し訳ない」
 ジョージが照れながら言うとマリューが口を挟む。
「いえ、お気になさらずに」
「ところでフレイは?」
 ジョージが辺りを見回しながら、アークエンジェルに移ると言い出した理由であるフレイを捜す。
「それでしたら……」
 マリューが言うと、格納庫に涙を溜めた少女が真っ直ぐにジョージの方に向かってくる。
「おお、フレイ!!」
 てっきりフレイが自分の胸に飛び込んでくると思ったジョージは手を広げるが、フレイはジョージの横を素通りし、メビウスから降りてきたばかりのサイの胸に飛び込む。
「サイのバカ!!私すっごく心配したんだから……」
「ゴメン……」
「もういいのよ。サイが戻ってきたんだから」
 二人の熱い抱擁を複雑な表情で見るジョージの肩をコープマンが手を置く
「一杯付き合いますぞ。事務次官殿」

「クッ……ちょっと踏み込んだだけでコレかよ」
 カナードは震える手を押さえながら呻く。
 あの極限の感覚が解いた瞬間に襲い掛かるこの代償のせいで、カナードはアスランを追いかける事が出来なかったのだ。
 そして去り際のアスランの捨て台詞を思い出し、顔をゆがめる。
「まったく、あの女を取り戻すだと?上等じゃないか。今度こそ……」
 カナードは限界まで疲労した体に鞭打ち、自分の部屋に急ぐとカガリが現れる。
「なぁ、ちょっといいか?」
 カナードは答える元気も無いカナードは無視して進む。
「なんだ無視すんなよ!!」
 カガリは走ってカナードの後を追い、しばらくして口を開く
「あのさ、私がした事は良かったのか?
 お前なら、みんなを守ってくれると思った。
 けど、それはMSに乗ってるザフトの人間を殺す事だし、それにラクスを人質みたいにしてしまったし……
 なぁ何とか言ったらどうなんだ!!」
 やっとの思いで自分の部屋の前に来たカナードは足を止め、カガリに向き直る。
「ウルサイ!お前の望みは果たしたんだからそれでいいだろ!グダグダ言うな!」
「でも……こんな事は、まだ続くんだろ!その為にまたザフトを殺すのか!」
「だったらアノ女を、また人質にすればいい」
「そんな……正気なのか!」
「ああ、そうすれば誰も死なない。お前の望みどおりだ」
「でも……」
 煮え切らない態度のカガリにカナードが切れた。

「汚い事をする覚悟が無いのなら、そこで喚いてろ。だが喚いてるだけでは何も解決しない。
 行動を起こしたヤツだけが自分の望んだ結果を得られるんだ、サイの様にな」
 そう言うと部屋に入り乱暴に上着を脱ぎ捨てる。
 そしてベッドの上に寝転がりシーツを被るとそのまま夢の世界に落ちていく。
「待て!まだ話は……」
 カガリがカナードの部屋に入るとすぐに足元に転がっていたペットボトルに足元をすくわれ大きく尻餅をつく。
「痛~ちゃんと部屋のの掃除をしろ!それと脱いだらちゃんと片付けろよな……」
 裏返しに脱ぎ捨てられた上着を拾いながら、カガリはカナードの額にそっと手をやる。自分との約束の為にこんなになるまで戦ったカナードを労う。
「ありがとな……カナード」
「………メ…リオル」
 カガリはカナードの口から漏れた女性の名前に目を白黒させる。
「メリオルって誰だよ?」

「で、どうなのだ彼の様子は……」
 ヴェサリウスの医務室に運ばれたアスランを見ながら、クルーゼは船医に容態を聞いた。
「こんな症状、聞いたこともありませんよ。
 心身ともに疲労の限界ですし、激しいGによって内臓をかなり痛めています。おまけに体中のいたるところの筋組織が断裂を起こしています。
 まったく、どうやったらここまで体を酷使できるんでしょうかね」
「さあな……」
 医者の愚痴をさらりと受け流すクルーゼだったが、その心中は決して穏やかではなかった。
(お前もなのかアスラン……)
 クルーゼは時折、顔に歪ませるアスランを見つつ心の中で呼びかける。
 先程、ヴェサリウスが記録したストライクとの戦闘データを見て、もしやと思い船医にアスランの容態を聞いたのだが、船医の話しを聞き、疑惑は確信へと変わっていた。
(不完全な覚醒による肉体と精神へのダメージ……アスランもまた選ばれし者という事か)
「邪魔をしたな」
「いえ」
 クルーゼは船医に礼を告げると今後の事を話すために彼女と連絡を取るべく自室に戻っていった。

 アークエンジェルのランドリールームでミリアリアは洗濯物を洗濯機に押し込みボタンを操作していた。
「これでよし!!」
 作動ボタンを押そうとしたその時に、カナードの上着を持ってカガリが入ってくる。
「ミリアリア、コレもいいか?」
「いいわよ、けどポケットの物をちゃんと出してね」
「わかった」
 カガリは上着のポケットからクチャクチャの紙幣やコイン、拳銃を取り出ていく。
「うん?内側にもあるのか」
 内側のポケットをまさぐると、中から古ぼけた写真が出てくる。
 カガリは最初、その写真が斜めに破れて半分しかない事から、自分が破いてしまったのかと思ったが、ポケットの中には破れたもう片方は無く、どうやら最初から破れていたようだった。
「赤ん坊を抱いた女の人?」
 写真の中で茶色の長い髪の女性が、茶色の髪の赤ん坊を抱き幸せそうに微笑んでいる。
 だが、なぜだろうカガリにはその女性の笑顔に、どこか陰りがあるように見えたのだった。
 しかし、それ以上にカガリを驚かせたのは赤ん坊を抱く女性の顔だった。
(この人、私に似ている……)
 この写真のに写る女性が誰なのかカガリが知るのはもっと先の話である。

『まったく倒れるなどとはスーパーコーディネイターもだらしないものだな
 ワシなど若い頃はウォッカ一本で冬のシベリアを三日間……』
『そんな過去の武勇伝はいいですから。ともかく当分は彼には休養が必要です』
『わかっている。ジンの方もあんな操縦をしたせいでガタがきてるからな。
 一度、月の工場に持っていって徹底的に整備をしなければな』
『あら?気がついたようですね』
 メガネを掛けた女性士官がこちらに寄ってくる。
 カナードは動けば激痛が走る体を何とか起き上がらせとする。
『あの三つ目はどうした?』
 エース狩りで出合った頭部に人の目が描かれているジンについて訊ねる。
『大丈夫、あの紫のジンはアナタが追い払いましたから、今は安全です』
『そうか……』
『これから月に向かう。途中に何が出てくるか解らんから、今は休んでいろ。
 休める時に休んでおくのも兵士の仕事だぞ』
 そう言うとガルシアは机の上に置いてあった帽子を被り、オルテギュアの医務室から出て行く。
『何か飲み物をお持ちましょうか?』
『そうしてくれ……』
『あんまり無茶をなさらないで、張り詰めすぎると身が持ちませんよ」
『フッ、わかった……メリオル』
 そう言うとカナードはメリオルと呼ばれた女性からカップを受け取り、カラカラの喉を潤していく。
 その様子をメリオルは静かに微笑んで見ていた。

「ック」
 カナードの意識が覚醒し、辺りを見回す。散乱していたゴミやら何やらがキレイに片付いている。
(アイツか……余計な事を)
 カナードは先程脱いだ上着を捜すが、部屋の何所にも見当たらない。
(アイツどこ持って行ったんだ)
 仕方なくインナーだけで部屋を出てカガリを捜す。
(それにしてもアノ時のことを夢に見るとはな)
 カナードは今しがた見た夢を思い出しながら通路を移動する。
(そういえば、あの時はコックピットの中で気を失ったんだったな……)
 だが今は自力でベットに戻れるている分、それだけレベルアップしたという事かとカナードが思ってると、視界にあるモノが入ってくる。
(アレは……)
 カナードは息を殺し、それの持ち主の後ろ側に回りこむ。
 展望デッキでその人物を追い詰める。
「おい、そこで何をしている」
 カナードがそう言うと視界に入ったピンクの球体は元気に跳ね回る。
「ミツカッタ!ミツカッタ!!」
 長いピンクの髪の少女は振り返り、無邪気に微笑んだ。
「お散歩をしてましたの」
 ラクスは笑顔にカナードは若干、気が削がれたがすぐに気を持ち直す。

「どうだかな?大方、通信室でも探すつもりだったんだろ」
「わたくしにそんなつもりがあるのだったら、クルーゼ様を止めたりしませんわ。
 残ったのは、わたくしの意思です」
「そうか……変わってるな。鍵はどうしたんだ?」
「このピンクちゃんが……」
 ラクスの可愛らしい手の上にハロが乗ると耳をパタパタさせながら合成音を出す。
「ハロー」
「この子はお散歩が好きで…というか、鍵がかかってると、必ず開けて出てしまいますの」
「ふ~ん、こんなマヌケな顔をして結構やるんだな」
「ミトメタクナイ!ミトメタクナイ!!」
「ともかく、お前には大人しくしていてもらう……そうすればアスラン・ザラがまた来るだろうからな」
「なぜアスランと戦うのです……」
「ん?知っているのか?」
「はい、アスラン・ザラはわたくしの婚約者です」
「そうか、アイツが言っていたぞ。お前を必ず助け出すと」
「そうですか……」
 カナードのラクスの顔に嬉しさと悲しさが浮かび上がる。
「アナタはどうしてアスランと戦おうとするのです。この艦が安全ならば、それでよいのではありませんか?」
「アイツと戦うのはある男の居所を聞き出すためだ」
「ある男?」
 ラクスが聞き返すとカナードは展望デッキから遥か彼方の宇宙を見詰めながら言った。

「そうだキラ・ヤマト……俺はどうしてもヤツを倒さなければいけないんだ」
 カナードの背後でラクスが一瞬、顔を強張らせるがカナードは気づかなかった。
「そいつ居所をアスラン・ザラが知ってるようだから何としても聞き出してやる」
 そしてカナードは振り返り、ラクスに訊ねた
「お前は何か聞いていないか?」
「さあ、仲の良い御友人としか……思い出しましたわ。アナタが誰かに似ていらっしゃると思ったら、前にアスランに見せてもらった写真に写ってたキラという人にソックリなのですわ」
「そうか……そうなのだろうな」
 カナードが複雑な表情で言うと今度はラクスが訊ねた。
「もしよろしければ、どうしてその人を追ってるのか教えていただけませんか?」
「いいだろう……キラ・ヤマトはある特殊なコーディネイターで、俺はその失敗作だ。
 だから俺は奴を倒し、俺が成功体となるんだ」
 その言葉を聞きラクスは顔を曇らせる。
「そんな事をしても何も変わりませんわ」
「何?」
「アナタはアナタではありませんか。例えその人を倒したとしてもその人に成り代われるわけはありません」
「黙れ!俺はその思いだけを糧に今日まで生き抜いてきたんだ!!
 お前にそんな事を言われる筋合いは無い」
「彼を倒すという目的の為に生きてきたのなら、その代わりになる生き方をアナタに与えましょう」
「代わりになる生き方だと……」
「はい、この世界には自分の過酷な宿命や特異な能力に苦しむ人は沢山います。
 その人たちがもう苦しむ事のない……そんな世界を作るのに協力して下さい」
 突拍子の無い夢のような事を言うラクスにカナードは驚く、だがカナードにはラクスの言葉に何かやってのけてくれる力を感じた。
「お前……一体、何者だ」
「わたくしはラクス・クラインです」

「ハア、ラクス様にも困ったものですわね」
「まったくだな」
 画面の中の少女が憂鬱げに大きく溜め息をつくとクルーゼも同意する。
「けど……これで心配する必要はなくなりましたわ。救うべき者を救ったら必ず戻ると言ったのでしょう?
 だったらラクス様は戻って来ますわね。『五人目の騎士』と共に」
もしラクスがカナードの説得に成功すれば、彼やヴェイア、あの男、そしてクルーゼに続く『五人目の騎士』という事になるのだが……
「果たして、そう上手くいくかな?」
「万が一にも彼を引き込めなかった場合は倒すだけです。既にあの男と貴方の部下を向かわせる準備をしていますわ」
「用意がいいな」
(信用されてなかったという事か)
 ヘリオポリスでの失態があるから当然かもしれないなとクルーゼは思った。
「それより問題になるのはアスラン様の方ですわ。もしもこのまま不完全な力を使い続ければ……」
 彼女の顔が曇っていく。当然だ、メンデルに残されたデータによれば、今のアスランを襲ってる体力や精神の極端な消耗は初期症状なのだ。
 このまま不完全な覚醒を続けてた場合は、体中の筋組織や神経がボロボロになり死に至るか、或いは、思考力の欠如や凶暴化、記憶の欠落などの症状の果てに生きる屍になるのかのどちらかなのだ。
「早く手を打たなければ……アスラン様は計画が達成した後の世界に必要な大事な方。
 今、失うわけにはいきません」
「しかし、アスランに何と説明するんだ……」
「それを考えるのはラクス様からアスラン様を託された貴方の仕事でしょう」
「それは……そうだが」
「兎に角この件は貴方に任せます。私は貴方の不始末を埋めるためにオーブとの交渉で忙しいんです」
 彼女はそう言いい通信を切るとブラックアウトした画面にクルーゼの顔が写る。
「厄介ごとは、いつも私か……まあ好都合だ。選ばれし者となったアスランは私にとっては不要な存在このまま自滅してもらおう。クックハッハァハハハハ」
 クルーゼの高笑いが自室に木霊する。
 しかし途中で笑い声は途絶え、苦しげに呻き声を出す。そして机の中から薬を取り出すと口の中に放り込む。
「ゼェ………ハァ……い、急がなくてはな……アノ子の為にも………」