Top > Char-Seed_1_第05話
HTML convert time to 0.003 sec.


Char-Seed_1_第05話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:27:08

乗降ワイヤーに足を掛けてMSデッキに降り立つと、メカマン達の歓声がシャアを迎え入れた。
ザフトのMSによって常に劣勢に追いやられていたフラストレーションが、
シャアの鮮やかな戦闘によって解消されたのだ。
第一線で活躍し続けてきたシャアにとって、このような歓迎は珍しいものではなかったが、
それでも何処かむずがゆいような感情からは、依然として逃れることは出来ないのであった。

手厚い歓迎に適当に応えた後、シャアは雑踏をかきわけブリッジへと上がった。

「ん……?」

すらりとした体駆に、金髪の気さくそうな男――
見慣れぬ顔に僅かに戸惑うシャア。

「ムウ・ラ・フラガ大尉であります。先ほどは助かりました」
「ああ、MAのパイロットか。私はシャア・アズナブルだ、よろしく。
ところで、何故あのような場所で戦闘を?」
「自分は、ここに配備されるはずだったMSのパイロットたちの護衛でここまで来ました。
……その結果は……」

視線を力無く落としたムウ。
その姿から、恐らく母艦を落とされたのだとシャアは感じ取った。
でなければ、MA一機で彷徨するはずがないのだ。

「そう気を落とすな、大尉。
戦場とは、そういうものだからな」

軽いフォローを交え、シャアはCIC席のナタルの元へ向かった。

ナタルの報告によると、物資の搬入も始まり、
懸念材料だったブリッジの人手不足も、ヘリオポリスの学生たちの存在によって
最低限のラインではあるが、解消が見込めるらしい。
その飲み込みの早さは、理工系とはいえ、マリューが感服したほどだった。

「出港は出来そうなのだな?」
「はい。あと半日もあればなんとか」
「……それまで敵が見逃してくれたらいいのだが……」

シャアの中にある懸念――
強奪をあれほど見事にやってのけた部隊が、容易に自分達を見逃してくれるとは思えなかった。
なぜなら、彼等は最低でも兵器の破壊を命じられているはずであるからだ。

「ところで、指揮系統はいかがなさいますか?」

形式ばったことだが、一応、しっかりとしておかねばならぬこと故、
あえてナタルはシャアに尋ねた。
もっとも、この男以外に誰がやれようかとナタルは確信していた。

「艦長のことか?
……君がやってみるかね?バジルール少尉?
私はこの艦を良く知らんし、パイロット業務もあるからな」
「……えっ!」

予想だにしない回答に、歓喜と困惑が入り混じった微妙な感情がナタルの中に渦巻いた。

「異存はあるかな、フラガ大尉?」
「ありませんよ。俺も、この艦はよく分からないですから」

肩をすくめながらムウは同意を示した。

――艦長ともなれば、戦術と情勢の熟知が必要となる。
無論、前者には絶対の自信を持っていたシャアだが、
後者は全くと言っていいほど理解出来ていないのが現状であった。
そして、階級的に上位のマリューでなくナタルを推薦した理由は、
技術士官が艦長になってしまえば、現場の不満は募ると考えたからだ。
こういった背景で、シャアは艦長職を辞退したのだった――

降って湧いたような話に、ナタルは、若輩の自分で務まるものだろうかと様々な思慮を巡らせた。
権限は責任を伴うものなのだ。

「……分かりました。慎んでお受けします」

ナタルは結論を出した。
その引き締まった顔付きから発せられた
真摯な言葉からは、強い決意が読み取れた。

「了解した。頑張ってくれたまえ、『艦長』」

激励するかのようにナタルの肩を叩き、シャアは身を翻してブリッジを後にしようとした。

「どちらへ?」

バジルール『艦長』が尋ねた。

「少し、適性を調べにな」

シャアの遠回しな物言いは、その場にいた者を混乱せしめた。
これが新たな火種になることを、予期出来る者は誰もいなかった。