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DEMONBANE=DESTINY_rqMQ90XgM6_06

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:51:45

「議長、あれはザフトのMSなのですか……」
その光景に圧倒されていたタリアはそれだけを口にする。
「いや……私はあんなMSを造らせた覚えはない」
デュランダルもまた圧倒されていた己を取り戻し、どうにかのことで返答する。
モニタに映るその機体、地球を背に腕を組み仁王立つそれはどの国家にも見た事の無い、実に奇妙なMS。
「副長……あれってなんでしょうか」
放心した表情のまま、メイリンは隣で惚けたように口を開けているアーサーに声をかける。
「ああ、うん。なんだろうなぁ………」
二人は地球を背負うそれに見惚れていた。
目が離せぬそれは、命の星に輝く星を背負う巨躯。
「綺麗だ……」
カガリは見ていた。
それが放つ光が今まで見たどの輝きよりかけがえのないもので出来ていることを魂のうちに識った。
それは、愚直なまでに真直ぐ過ぎるが故の彼女だからこそ見ることの出来た優しいひかり。
「あ、艦長!あのアンノウンから全周波帯に向けて通信です!!」
「え?あ………ああ、分かったわ。こちらにまわして!」
「はい!!」
つながれた通信、ブリッジに人の声が響く。
それは若い、少年のようでいて少女のような凛々しい響き。
その響きの意を知りその場にいた者は更に驚愕することになる。
それは無窮に響く、憎悪を断つ誓い。

 
 

場所は変わりガーティ・ルー、そのブリッジにいた全員も驚きを隠せなかった。
「すごいことを言うねぇ、あのMSのパイロットは」
ネオはその発言にどう反応してよいのか分からず苦笑いを浮かべる。
「ええ、まったくです。だが何故なのでしょうか、私にはあれがそれをやってのけると思えてしまうんですよ、大尉」
「ああ……俺も何でかねぇ…………そう思う」
モニタの向こうに聳えるMSを凌駕した威容を誇る巨人を見据え呟くネオ。
地球から来たにも関わらずアンノウン反応を示すそれ、連合にもロゴスにもあんな巨大な機体は存在しない。
故にザフトのものかと思った。
しかし、あれはそうではないと彼は識っていた。
だが、どういうことだろうか、彼の胸中に何かが引っかかる。
あれを何処かで見たような既視感に襲われる。

 

――ネオ、君には

 

「ぐっ!?」
言葉が浮かび、消える。
「大尉、どうかしたんですか!?」
急に倒れこむように頭を抱えた自分に寄ろうとする副官のリーをネオは手で抑える。
「大丈夫だ。俺は……」
彼の耳には今もなお声が響いている。
それは無窮に響く憎悪を断つ誓い。

 
 

その正しき怒りを大地より聴く者が在る。
そこは花に囲まれた海を臨む墓標。
誰が植えたか分からないが、真新しい花が揺れている。
そこに立つのは金色の獣と歌われた少年とそれに付従う黒の少女である。
「やはり、彼の息子だね九朔」
まるで息子を見守るように彼は優しい微笑を湛える。
「マスター、ですが彼らの行動は……」
「これで良いんだよエセル。これから訪れる物語において彼らのこの行動は確かに誰かを救うんだ」
「しかし、それでも………」
「エセル、だから僕らがいる」
ペルデュラボーを名乗って以来つけている伊達眼鏡を外し、彼は夜空を見上げた。
「これより起きる出来事、その結末は誰にも分からないけれど、それがもたらすものを僕らは識っている。
 だからこそ僕らがここにいる」
その瞳は真直ぐと、彼らがいるだろう其処を見つめる。
風が彼を包む深い黒紫のコートを揺らす。
「これは彼らの物語。僕らは助言を与える御伽噺の魔法使いだ。
 その役割を果たすだけだよ、僕らはさ」
自分に微笑む主に、その顔を朱に染めて少女はうなずく。
「わかりましたマスター……」
「よし。では、エセル。彼らのためにその力を振るおう」
その手が少女に伸ばされる。
その瞳に秘めるかつての大魔導師の焔が揺らめく。
「イエス、マスター。我らの力は月の如く」
黒曜石の瞳が輝く、それは美しく気高く。
彼らの耳には確かに響く、彼らの声が。
それは無窮に響く、『憎悪を断つ刃』の、正しき祈りである。

 
 

通信を切る。
これで、この場にいる者には自分たちの目的を知らせることができたはずだ。
下層と上層に分けられたコクピット内で二人の『クザク』が眼前を見据える。
そこに聳えるのは超弩級構造体、想像以上の巨大さを誇る。
先に破砕活動を行なったザフトという組織のお陰とはいえ、二つに割れたこれを昇滅せしめるには並の威力では絶対不可なり。
そう、並の兵器群では。
だが、
だが、しかし
「「このデモンベインが、在る!!」」
シャンタクが唸る。
ヒヒイロカネが唸る。
弐対の鬣が唸る。
四肢が唸る。
魔術紋様が唸る。
水銀(アゾート)が唸る。
デモンベインという存在全てが唸る。
ふと、アラームが鳴った。
「デモンベインに近づく反応が数機。多分、こいつらがこれを 落とそうとしたお馬鹿ね」
半身の声に、九朔もまたそれをモニタにて視認した。
刀を携えた機械人形と小銃らしきものを抱えた機械人形が約壱拾機、
一直線にこちらへと向かってくる。
「騎士殿、どうする?」
「決まっておるさ―――」
翡翠の瞳に焔が燈る。
「拳を持って、黙らせる!!」
飛行ユニットに魔力が奔る、シャンタクが輝き叫ぶ。
「紅朔、脚部シールドも同時解放だ!!」
「了解!断鎖術式壱号ティマイオス、弐号クリティアス――」
シャンタクによって展開したそれが更に唸る。
「解・放!!!」
鋼鉄の翼の根元、シールド状のそれの周囲、空間が歪んだ。
まさしくそれは文字通りの空間を捻じ曲げる論外の術、歪曲された時空間が元に戻ろうと莫大なエネルギーを発生させる。
そして、それが遂に極限へ達し、
「霊子断鎖(エーテルダンサー)!!」
空間爆砕(ブラスト)、虚空においては強大すぎる推進力とシャンタクの飛行制御が物理法則を無視した軌道を描く。
無理矢理に曲げられた時空間反発力、一瞬で壱拾数機との距離を詰め、零にする。
『なっ!?き……貴様ぁぁっ!』
回線を通じて響く憤怒の声。
「纏めて捕らえる……アトラック=ナチャ!!」
宣言される術式、宇宙空間に霊糸の花が咲く。
鬣が翻り、魔術の糸がその場の六機をまとめて捕縛する。
ツァトグアの洞窟底深くに巣を張る蜘蛛の神性を模したそれから逃れる術はない。
魔術のない世界においてこれを破る術は皆無である。
『訳の分からぬ者がっ!!……いきなり現われて我等を邪魔するかっ!!
 赦さぬ……我等の邪魔は赦さぬぞおおおぉぉぉぉッッ!!』
逃れた数機が刀を同時に己の二倍はあろう巨体へと勢い良く振り下ろす。
それをデモンベインは己が強靭なる装甲で受け止める。
『な、何ぃぃぃぃぃ!!??』
折れる刃、打ち込まれた剣から想いが伝わる。
それは凪の水面を揺らす波紋。
冷たく燃え、焼き尽くすように凍りつく。

 

それは子の明日を護れなかった父の嘆き
それは愛する女性(ひと)を奪われた男の怒り
それは己を育てた父母を喪った息子の憎しみ
それは皆、そこに喪失を抱える誰かのこころ
それは憎悪、デモンベインに宿る想いと似て、だが決して違う想い。
それは怨嗟だ。
涙を流し、血を流し、歩く事を止めてしまった諦観という奈落。
熾烈なる命の叫びを絶望という焔にくべて燃え上がらせる、明日に続く道を焼き尽くす呪詛なのだ。
それは真なる彼等の想いなのだ。
しかし、だがしかし、それが彼等の真なる願いであろうとも、それを許すわけには決していかない。
怨嗟の焔は怨嗟しか生み出さない。
故に、彼らを止めなければいけない。

 

「……聞け、我が道を塞ぐものよ」
ユウナから受け取った通信装置から彼らへ語りかける。
「我はこれより眼前墓標を砕く―――故に疾く去ね」
『き、貴様アアアァァァァァ!!』
それは彼らを激昂させるに充分の言葉である。
「もう一度言う!」
胸深く霊子(アヱテュル)を取り込み、先ほどの宣誓を高らかに謳う。
「こちらはデモンベイン!!これより破壊もたらす墓標を砕く!!
 この場におる者全て去ねッッッ!!!」
『死ネエエエエェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!』
唸る怨嗟の刃がデモンベインに向かう。
折れた刃を携え、傷の刻まれた刃を携え、脇に抱えた銃でそれを狙う。
巨躯をものともせずに彼等は立ち向かうその姿、それは彼等の信念深きが故か。
「ロイガーッ!!ツァールッッッ!!!!」
咆哮(ウォークライ)双子の卑猥なるもの、双振りの左右非対称の刃が顕現する。
構え討つ刃と弾丸数多、この大岩塊を落とそうとした者達全ての怒り。
五の銃口はデモンベインの眼窩、手首、腕部関節、脚部関節、動きを封ずる一撃を狙う。
六の刃はデモンベインの胸部、コクピット、脇間接、首、致命の一撃を狙う。
『おいアンタ!!何突っ立てるんだ!!早く逃げろ!!!』
入る通信、それは自分たちと変わらぬ少年の声。
『貴様!!そのままでは落とされるぞ!!』
再び通信、それはやや高圧的な青年の声。
だが心配御無用、デモンベインは怨嗟の叫びを止める為にもあるのだ。
「勝機!!」
見える太刀筋、白々と輝く殺意を九朔は翡翠に捉えた。
祈りを受けるデモンベインの刃は何者より疾い。
「―――仕る!!!」
それは一切容赦なしの無音の剣舞、だが、そこには熱がある。
それはあらゆる哀しみ溶かす、命の煌めき。
それは祈り、刃(ツルギ)に籠められた明日を生きる人々の祈り。
「破アアアアァァァァ!!!」
剣閃は疾り、闇にそれは綺羅綺羅と輝く。
収められる双刃、刹那の後に機械人形は裂かれた。
咲いた四肢、虚空に浮かんだ。
「過ぎ去りし時は二度と還らぬ。抱いた想いも、言葉も、温もりも」
「どんな言葉でもってもその哀しみは癒せない、喪失は消せない」
「だけど、それだけではないのだ。哀しみだけが世界ではないのだ」
「どんなに哀しみや絶望があったとしても、それだけが世界じゃない」
「「何故なら、それは世界の一部でしかないのだから」」
呟き、人形達を静かに蜘蛛糸に捕らえ、護り、船へと還す。
振向く、見据える。
虚空に聳えるの超弩級構造体、デモンベインは翔ける。
明日に続く希望を守るため。

 

****

 

虚空の揺り篭の中、彼等は涙を流していた。
破壊の鎚を下ろそうとした彼等はその熱い想いをただ胸に掻き抱いた。
サトウもまたその一人。
コクピットに貼られた家族の、大事だった娘と妻の写真を手に取る。
「なあ、お前たち………」
呟く、胸に過去が去来する。
あの日、大切な二人の為に買ったプレゼントを思い出す。
帰りの宇宙船、窓から見た閃光、消えた命、焼き尽くされたコロニー。
叫び、叫び、叫び叫び、ただ叫び続け、泣き続けた。
優しい妻だった、仕事で忙しい自分を慰め癒してくれた。
愛を誓った永久の花嫁だった。
愛しい娘だった、まだ幼く花のような笑みを浮かべていた。
腕(かいな)に抱いた愛の結晶だった。
彼女たちを全て奪われた。
慟哭は虚空に消え、腕の中に在ったはずの暖かさも失った。
残った憎悪だけを燃やし続け、ナチュラルと闘い続け殺し続けた。
戦争が終わった後もその怨嗟を焚き続けた。
胸にある憎悪を消さないように、亡き子等のために墓標を落としそうとした。
彼等の罪を裁くため、娘たちを奪った罪を償わせるために。
それが己の宿命と思った。
それが己の役割だと思った。
それが己の為すべき天命と思った。
しかし、
「間違って………いたんだな」
気づいてしまった。
あの巨躯に四肢を斬られた時、自分は気づいてしまったのだ。
娘の、妻の無念を晴らそうと振るったこの剣。
もはや悲しむ事の出来ぬ彼女たちの怨念を晴らそうと絞ったこの引鉄。
それらはただ、自分の怨嗟を晴らすためだけだったのだと。
ただ、やり切れぬ怒りを誰かにぶつけたかっただけなのだと。
自分もまた娘を奪ったものたちと同じ者になろうとしていたのだと。
今思えば愚かだった。
だからこそ、そんな己の憎悪を祓ったその巨躯を見て彼は思う。
―――それは『憎悪を断つ刃』だったのだと。
剣に籠められた命の暖かさ、伝わったその熱さ。
凍り付いた己の心を溶かす苛烈ないのちの叫び。
失った悲しみは消えない。
だが、それ以上に自分には哀しみだけではなかったことを思い出す。
哀しみを癒そうとしていた人たちの顔を思い出す。
脚折った己を支えてくれた人たちの肩を思い出す。
暗闇を照らす灯火をくれた人たちの手を思い出す。
嗚呼、嗚呼、自分はこんなにもたくさんの人々に包まれていたのだと。
妻と娘の写真を抱き、彼は嗚咽を漏らす。
それは彼が本当に彼女たちを悲しむ事が出来た瞬間だった。

 
 

ただ、今だけは、彼の涙を止める者はない

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