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DEMONBANE=DESTINY_rqMQ90XgM6_11

Last-modified: 2008-05-03 (土) 21:10:51

虚空の大海に漂う黒鳥の屍。眼前にして、ボルテールの艦内にいた者達は息を呑む。
それはユニウスセブンで見た六の威容と似た黒い大鷲の巨人。
ユニウスセブンを一瞬にして灰燼に帰した恐るべき巨大なMS、否MAだったのか、それを
またも一瞬のうちに大破させた黒の巨人が今そこにいる。だが、あれとは何かが違う。
誰が思ったかは分からないが、それを見たものはそう思った。
黒く澱んだ、底冷えのするような吐き気と冷気が【それ】にはなかった。
鋼のヒトガタを彼等は見る。
四肢は左腕と右足が欠け、装甲は剥がれ落ちたか最初からなかったか内臓機関は剥き出しで。
頭蓋は人と似て、眼球はその容れ物から零れ落ちていて。
まるで襤褸だった、瓦落多だった。
それは傷つき朽ちた墓標に見えて、だけど生まれ出でる途中の赤子にも見えた。
――しかし、それはただの赤子ではない。
星の海という、外なる神々の悪意に晒された蟲毒の子宮に抱かれ、その毒を喰らい、
毒を己が物とし、その毒を以て宇宙的存在を駆逐する忌子だ。
異様にして圧倒的なる存在を狩るために、滅ぼすために、それは生み出されたのだ。
忌子は眠る、魔を断つその時まで静かに。
地球にて眠りにつく戦友に思いを馳せて。

 
 
 

回収に向かうためボルテールから出撃するイザーク達。鋼の巨人に近づくにつれ、それが
どれ程にふざけた威容を誇っていたのかを知る。
その全長、優にザクの二倍はあろうか。腕一本が自分たちの乗っている機体と同じ程度の
大きさ。腕を一薙ぎすればそれだけで大抵のMSが襤褸屑になるのは想像に難くない。
「こんなもの、何処のどいつが造ったんだかね」
「それは分かりませんがディアッカ、これが大破した状態でここに在るのを見過ごす
 わけにはいきません。 ――ジャンク屋に回収させるわけには、特に」
ヘルメットの奥、シホの端正な顔が歪み、苦虫を潰した表情になった。
ジャンク屋――それはシホにとって決して相容れることのない存在であった。
ザフトと連合の戦闘があるところに必ず彼等は現れる。理由は唯一つ、『ジャンク』の回収。
本来はスペースデブリを回収しそれをリサイクルしていたはずのジャンク屋達はあの
ヤキン戦役時の間に戦場跡を嗅ぎ回るハイエナへと変わった。
全ては一つの国際法、『ジャンク屋が廃品とみなし回収したものはその時点で彼らのものに
なる』――普通の神経では到底在り得ない法律ではあるが――が存在するからであった。
その国際法の庇護の下、彼等は戦場跡に残されたザフト・連合が回収するはずの軍の兵器を
『ジャンク』として勝手に持ち去るのだ。
彼らからすれば自分たちの仕事をしているだけなのであろうが、少なくともそれは軍の
技術士官達からすれば苦心して創り上げたものを横から掻っ攫う火事場泥棒と同義。
自分たちの努力の結晶が彼らに奪われるのは耐え難い屈辱だった。
「さすがシホちゃん、やっぱジャンク屋との因縁は忘れられないってわけかい?」
そこで割り込んできたディアッカの通信にシホの額がひくりと引き攣る。同時、今その
瞬間思い出していたあの時の屈辱的な記憶が脳裏に鮮明に浮かび上がった。
地球上で、赤いGタイプにシグーディープアームズを大破させられた苦い思い出だ。
「ディアッカ……もし、貴方が場を和ますつもりでそのことを話題に出しているのならば
 今すぐ止めるように助言しておきます」
語調を荒げる事はなかったが、それでもこちらの感情を理解したのか、ディアッカがひゅぅと
口笛を吹くのが通信機越しに聞こえた。どうにも腹立たしい。
「冗談だってシホちゃん。いや、マジで怒らないでくれよ」
「分かっていますディアッカ。だから黙ってください」
「ほら、やっぱり怒ってんじゃない。もう少し方の力を抜いて行こうぜ?」
「貴方には関係のないことですディアッカ!」
恐らくこれも場の空気を和らげるつもりで言っているのだろうがどうにも耐え難い。元々
このディアッカという男に対して好感情というものを抱いたことがない事もあるだろうが
それにしてもこの軽い口ぶりは癇に障った。
ユニウスセブンでの疲労の蓄積、技術屋としての屈辱的な記憶と相まって棘のある口ぶり
になるのが自分でも分かる。
「ハーネンフース」
そんなシホの耳にイザークの声が届く。
「っ……はい、隊長」
「お前が地上にいた頃の話は聞いている。ジャンク屋の存在についても俺ははっきり言って
 信用ならない人種だという事については同意見だ。だが、今は眼の前のこれに集中しろ」
「了解しました……隊長」
イザークの言葉に、この男への思慕の情を抱くシホは素直に頷いた。冷静さを失っていた
自分への悔しさと恥ずかしさに唇を噛む。
「おお、イザークにしては至極まともな事言ってるじゃない」
「うるさいぞディアッカ。貴様も集中しろ」
「はいはい、隊長殿」
尚も軽い口ぶりで呟くディアッカだが――しかし、内心は違う。
今眼前に横たわる黒の巨人に対する不安感、それが喉に小骨が刺さったような違和感として
先ほどからずっとまとわりついている。それはシホに対して冗談を言ってみたところで
払拭できるような類のものではない。
装甲に刻まれた不可解な紋様、ザクの凡そ二倍を誇る巨体。MSと同じ人の造ったもので
あるのに違いないはずなのに、何故だろうか、まるで人が造った物でない様に思える。
胸の奥で何かがざわめくような、酷く落ち着かない感覚が消えなかった。
それは奇しくもイザークとシホが同様に感じていたことだったが。

 
 

MMI-M633ビーム突撃銃をコクピットと思われる部分に照準をあわせつつ、三機のザクは
黒の巨人を囲むような隊形を取りつつそれに近づく。
大破はしているがもしかするとまだ動く可能性は充分にありえる。
まったく未知のアンノウンである【これ】にどのような武装があるかは分からない、それこそ
ユニウスセブンを一瞬で蒸発させるほどの破壊力を持つ武器を内蔵しているとも
限らない。それを考慮すると自然と緊張は高まっていく。
「―――」
深い深呼吸、脳を真っ白にしてイザークは眼前の巨人を見据える。
この機体を見たときから感じている得体の知れないもやのような物は未だ全身にこびりついて
いる。だが、それを理由にして何もしないという選択肢はありえない。
義勇軍ではあるがザフトは軍隊、軍人である己が行うべき事は把握している。
喉の奥に物を突っ込まれたような息苦しさ、呼吸の乱れに脈拍が上がっている事に気づきつつ
もイザーク達は確実に包囲網を狭めていく。
二次元三角形、各頂点にディアッカ、シホを配し巨人を挟み、イザークはコクピットへと
銃口を向けた。
果たしてこの中にいるのは何者か、予想され得る最悪の結果にイザークの額を汗が
流れ落ち――ノイズが、耳を聾した。
「っ!?」
まだ開いていないはずの通信回線が突如として機能した。
それは三者同時、互いのコクピットから驚きの声が漏れるのを三人が聞く。
「馬鹿な!」
知るはずのない回線の周波数をどのようにして探り当てたというのか、イザークは
即座にモニタへと視線を向け――そこで二度目の驚愕がイザークを支配した。
回線の状況を示すモニタ、先ほどまで踊っていた文字は全て消えていた。
そしてブラックアウト、沈黙した通信モニタ、機械の故障と思った次の瞬間左上に
文字は現れる。

 

――AEON

 

点滅する緑色に彩られた電子情報、イザークの脳内で浮かぶその単語の意――永劫。
死すら凍りつき、時すら死する意を持つ言葉の意を脳内に構築した時、イザークのヘルメット
の中には声が響いていた。
『よぉ、聞こえてんだろ? おい、何とか言え』
それは荒々しく、獣性を秘めた若い男の声。
『隊長……!?』
『イザーク!?』
そして、それは、同時答える二人の言葉に知る、自分と同じ声。
「貴様、何者だ? 奴等と同じ機体に見えるが……返答次第では容赦はせんぞ」
だが、同じ声としてもこの男が何者かまでは知ることは出来ない。眼の前の機体はあの
ユニウスセブンで目撃した6機の巨大MSと同じ外観を持つのだ、油断はならない。
隊長としての責務、効果があるか分からないが銃口を再びそれへと向け警告する。
『奴等? アイオーンと同じだと? 奴等……ああ、なるほど、なるほどなぁ……』
何かを思案する声がぼそぼそとヘルメット内のスピーカーに響く。暫し空く間に、何が
起きたのかと疑問に思いイザークが声をかけようとした瞬間――

 

『ヒャハハハハハハハハハハハハハッッッ!』

 

歓喜と憎悪の入り混じった歪な哄笑がスピーカーを震わせた。それはつんざく大音量、
鼓膜を破らん限りの大音声。
『聞く前からこれか! やってくれるじゃねえか、嗚呼、マジにやってくれたぜ! 最高だ、
 マジ最悪だぜ! よりにもよってアイオーンの模倣品(コピー)か、糞がッ!』
『なあ、シホちゃん。これって酸素欠乏症でアレっぽくなってんのかな?』
『同意しかねます……と言いたい所ですが』
何が可笑しいのかは知らないが笑い続けるその男、途切れることなく哄笑はスピーカーから
流れ続ける。
知性も品性も感じられず、常軌を逸しているようにしか聞こないそれに抱く感情は恐らく
もなくディアッカもシホも同じものであった。
そしてその哄笑は、自分の質問を無視されたイザークの気分をも大きく害していた。
「おい、貴様! 俺の質問に答えろといっているのが分からんか! お前は奴等の仲間か
 と俺は聞いている! もし違うのであれば所属と官姓名を答えろ!」
『ああン?』
暫く笑い続けていたイザークと同じ声の男だったが、その怒声に気づき、小馬鹿にしてか
ハっと鼻で笑う。
『はっはァ! 言ってくれるぜ、坊ちゃんよ! 俺が奴等の仲間だと? そりゃたいした
 冗談だ、ありえねェ!』
「坊ちゃんだとォ!? き、きさ――」
『んなことよりだ』
言い切る前に男の声が遮る。その後続く言葉は更にイザークの神経を逆撫でした。
『テメエ、俺の質問に答えろ』
「な、なんだとォォ!? 言うに事欠いて……ッ!貴様が先だ、先に答えろッッ!」
『ヒャハハハッ! そりゃお断りだ、テメエに答える義務なぞねェからな!』
「貴っ様ぁぁ……!」
完璧に人を馬鹿にした態度にコクピットの中、イザークの手が怒りで小刻みに震えた。
そもそもが気の短い性質、堪忍袋の尾が切れるのも一瞬だった。
「外に出ろ! その機体はザフトが回収する!」
『隊長!?』
『いやいやイザーク。隊長なのに手順とか無視してとかはダメじゃなくない?』
「黙れ! 貴様、聞こえてるな? 出ないというのならば抗戦の意志ありとみなし
 攻撃する用意があるぞ!」
『はっはァ! 回収……回収ねぇ!』
「何だ、何が可笑しい!」
さも愚かだと言わんばかりの声色、既に昂っているイザークを余計に怒らせる。
――だが、それまでだ。

 

『悪ィが、そりゃ―――無理な話だからな』

 

そして、彼等は怪異を目撃する。声を発する事すら許さぬ人外驚異の超現象。
それは、人智領域で決して目視する事叶わぬ神の、否、外道の智の奇跡。
黯黒の大海、尚それより漆黒であった巨人は彼らの眼の前で熾烈の輝きを発した。
輝きは胸部を中心に広がり全身へと走る。
刻印された魔術紋様が煌めく。装甲に走る魔力が顕現を在るべき姿へと分解、圧縮する。
解ける巨人。威容は光の粒へ変じ、圧縮術式のもとに数十行の文字へ変換された。
そして、銃数行の術式を魔導書に収め、『彼』は虚空に現る。
自分を取り囲むようにある三機のヒトガタを一瞥し、彼は笑い声を上げた。
真空に響くはずのない声は、だがしかし宇宙空間にはっきりと響いていた。
それは産声。

 
 

今此処に『彼』――エドガーは黄泉還った

 
 
 

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