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DEMONBANE=DESTINY_rqMQ9OXgM6_02

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:48:04

怪しく、それは堕ちて逝く。
空より来たる数多の星星、宵闇に光線を描く。
遥か高き頂、淀む深遠の海溝、阻むものの無き草原、霧に隠れた街、生命を焼き尽くす砂漠、あらゆる場所にその『光』は堕ちる。
流星群、人々は堕ちる星に魅入った。
七色に光るその星の瞬き、人々は気づいただろうか。
それが、本当に流星群かどうか気づいたものがいただろうか。
それが在り得ぬ角度に捻じ曲がり堕ちたことに気づいたか。
ある少年は、それに明日を祈った。
ある少女は、それに想い人のことを祈った。
ある青年は、それに戦争の終結を祈った。
ある女性は、それに夫の帰還を祈った。
誰も気づかない。
皆が皆、この吹き荒れる嵐に疲れ果てていた。
C.E71年、「血のバレンタイン」。
始まった地球とコーディネイターの争い。
殺し、殺され、途絶える事の無い殺意の螺旋がそこら中で渦巻いていた。
世界が憎悪と怨嗟、拒絶と殺戮で満ちていた。
故に、誰もその堕ちる光の意味するところは知らず、ただ、その流星が行く先を見届ける。
人々は知らない、宇宙より飛来する未知の虹色が彩成す真実を。
異界の七色と無色が内包する異形を。
時は大戦争時代、変質した世界に気づいた者は、数少なく。

 

***

 
 

辺りは闇、しかしコクピットに刻まれた魔術紋様が淡く輝く。
「ん……着いたのか」
己という存在の固定を認識する。
次元跳躍、世界に自己という存在を広げ、ゲームワールド間を渡る術。
かつて、混沌のゲヱムに挑んだ時以来の大魔術。
あの時はド・マリニーの時計台を利用してのものだったが、よもや、異形の力で強制的に転送されるとは。
「ふぅ」
九朔は立ち上がり下方の――いや、今は前方に視線を移す。
「生きてるか?」
「頭ぶつけたぁ……」
頭を押さえてこちらにやってくる紅朔、次元跳躍の際にでもぶつけたか。
「んもう、跳ぶのは良いけど、いきなりこの体勢はないわよ」
確かに、九朔はコクピットを見回す。
自分と紅朔のいるコクピット、先ほどから丁度90度回転している。
「仰向けに倒れているようだな」
「そうやって冷静に答えるのやめてよ」
不機嫌な顔をしつつ紅朔は九朔を押しのける。
パネルに手をかざし、目を閉じる。
「何をする気だ?」
「この子を起こすの」

 

そして、デモンベインの術式に介入する。
指先から零れる血液、コクピットと繋がった血の筋がデモンベインの中へと潜る。
彼の巨体を巡る術式へと枝葉を伸ばし、絡みつく。
「血は我が魔術の源泉也、血は我が存在の証明也、血は我が魔術也……」

起動式確認、魔術回路再起、水銀(アゾート)循環開始
機械器官鼓動確認、術式活動確認、動力起動確認、
銀鍵守護神機関運転開始、術式運転確認

 

・・・ALL GREEN

 
 

大モニタに浮かび上がる無数の文字列、デモンベインの再起動を示す。
コクピットが再び息を吹き返した。
唸る魔術の迸りが空気を伝って身に届く。
「これで良しっと」
口端が緩む。
と、同時
『こちら、オーブ陸軍師団。そこのMS、所属と官姓名を名乗れ』
スピーカーから聞こえる聞き覚えの無い単語。
モニタを見れば、そこに映し出されているのは空を飛ぶ鋼鉄の巨人群。
赤と橙、白で彩られたその巨人の額には黄色の左右に張り出す角。
見た目からしていかにも正義の味方風な出で立ち。
あの、■■◆■の作るアレとは違うようだが、紛れも無くそれはロボットだった。
そして、それはどうやらデモンベインを囲んでいる。
手に持った銃と思しき武器をこちらに向けて。

『そちらの所属はどこだ?応答が無い場合、そちらを拿捕する権利が――』
「こちら覇道財閥所属、デモンベインの大十字九朔だ。こちらに交戦の意志なし。 応答願いたい」
こういう事態に何度も遭遇している者ならではの貫禄を持って応える九朔。
そもそもは、ゲヱムで培った経験と言うものだったが。
『ハ、ハドウザイバツ……?』
困惑した様子がスピーカーを通して伝わる。
「やはり、か」
思ったとおりだが、ここは――
「んー、やっぱり別世界?別の場所じゃなくて?」
「だな……仕方ない――応答願う。我らは現状を掴みかねている。済まないが責任者はおられるか?話がしたい」
しばしの間が空く。
交信を行っているようだがその間、機械人形は手に握った銃らしきものをこちらに向けたままだ。
モニタを拡大すれば引鉄が指にかけられているところが見ることができる。
何時でもこちらを撃てる算段といったところか。
「ねえ騎士殿。いきなりドバババって撃たれたらどうする?」
隣で、緊張感ゼロな調子で仰向けに寝転がる紅朔が声をかける。
「そうならない事を祈ろう――と、言いたいところだが撃つなら斬るまでだ」
直立不動の瞳がモニタを見つめる。
「怖ぁい。騎士殿ったら血の気が多すぎね。あーそうそう。血の気が多いと言ったらこの前だって置いておいたプリンを私が食べたからってロイガ――」
「何なら今すぐにでも貴様の頭に拳を振り下ろしてやるが、どうしてほしい?」
モニタからは目を離していないのだが、背中に鬼の形相が浮かんだ気配。
「冗談だってばぁ。そんな、自分の息子を良い餌だとか言っちゃう鬼みたいな気配漂わせて怒らないでよ」
冗談の通じない半身に嘆息する紅朔。
と、砂嵐のようなノイズがスピーカーに走った。
「あ、ようやくね」
『……こちら、レドニル・キサカ一佐だ、用件は?』
「我は大十字九朔。すまないが貴方達が持つ情報が欲しい。我らも今、ここに置かれている現状を把握しかねている」
『……ならば、まずは姿を見せてもらえないだろうか。武装はないようだが、君の乗っているMSは我々も見たことが無い型なのでな。
 こちらとしても、何もなしには話は出来ない』
「了解した」
特に断る理由も無い。パネルを操作し、ハッチを開ける。
規則的な音を立ててハッチが外に向かい開放されていく。
外から入り込む陽光、拡がる青が眩しい。
「ねえ九朔。私はどうする?」
「汝も来い。これは信用の問題だからな」
「んもう、面倒臭い」
仰向けに寝転がっていた体を起こし、紅朔も立ち上がる。
並び、紅朔/九朔は異世界へ降り立つ。
「っ………」
まず、視界を埋め尽くしたのは眩い光、世界は白一色。
それが、白一色から様々な色に彩どられていく。
そして、全てが明確になったその世界、埋め尽くすのは一面の蒼穹。
地平まで広がる、青と蒼と藍。
澄み渡る青は天空高く、澄み切る海の青は心を透す。
気づく、デモンベインがその海の上に浮かんでいることに。
おそらく、シャンタクの魔力が浮力となってくれていたのだろう。
さもなければ今頃海の底だ。
見上げると、上空30メートルほどか、そこに凡そ10ほどの同型の巨大ロボットがデモンベインを中心に囲んでいた。
大きさはデモンベインより遥かに小さく、20メートルかそこらのサイズ。
デモンベインと比べれば半分かそれ以下だ。
成る程、確かにデモンベインは彼らのものと比べれば見たことも無いものだ。
警戒するのも無理あるまい。
そう得心する九朔の前にその中の一体が下りてくる。
『……確認させてもらった。君達に攻撃の意志はないとみて、これより本部に連絡を取る。待機してもらいたい』
その返答に首を立てに九朔/紅朔は頷く。
「小さいわね、ここの巨大ロボット」
「少なくとも、機械人形を作る技術があるという情報は得た」
戻ったコクピットの中、互いのシートに座り暇を潰す二人。
「そうね。でも、あの機体からは魔力を感じなかったわぁ」
「ああ。恐らく、この世界では魔術は進んでいないのだろう」
「じゃあ、私たちってここでは楽してズルして無敵モードって感じ?」
「どうだかな。彼らの機体自体が、我らの世界のものより高性能と言う可能性もないとは言えぬだろう?」
「んー、見た感じデモンベインより弱いと見たっ」
「だから、そういう問題ではない」
「でも、小さいわよ?」
「小さいが――」
「ちっこいわよねぇ」
「……」
「ミニサイズ♪」
「なあ、殴っていいか?」
「何で?」
確信犯めいた笑みを浮かべる紅朔。
拳を握り締めたい衝動に駆られるが押し留める。
乗る気はないが、というか乗ったら負けだが、凄まじく悔しい気分。
「えへっ♪」
『待たせた』
スピーカーから降る声、紅朔と九朔はそれぞれのモニタへ瞳を移す。
銃を収めた機械人形、彼等がムラサメと呼ぶ機体群がデモンベインを囲む。
『これより貴君らにはオーブ軍基地へと向かってもらう。君達のMSは動くか?動かないのならば牽引するための船を呼ぶが……』
「否、必要はない。すまないが少し離れていて欲しい」
『了解した』
九朔の言葉に従いムラサメが間合いを広げる。
互いにコクピット内の装置を起動させる九朔と紅朔。
「紅朔、シャンタクの起動は?」
「問題なしよ騎士殿――シャンタク起動!」
紅朔の声、それを鍵にデモンベインの全体に魔術の光が奔った。
魔術紋様を伝い飛行ユニットへと流れ込む魔力、唸る魔術。
爆砕する海面、鋼鉄の鱗を幾重に重ねた羽根が魔力を迸らせる。
瞬時、加速。
爆音を伴い、海面にあったその巨体が一瞬にしてムラサメと同じ高さまで上昇する。
「「「「なッッッッッ!!!???」」」」」
キサカ達はその凄まじい光景に目を剥いた。
現存の技術では決して成し得ない、不可能なその加速力に息を呑む。
『こちらは準備完了だ。では、案内を頼む』
「あ、ああ……」
唖然とした彼らの思いを知らぬまま、デモンベインは一路オーブへ向かう。
物語の幕は開いたばかり。

 

***

 

「綺麗だね」
少女は立つ。
波の立たぬ凪の平穏、鏡のようなその水面の上に立ち、少女は拡がる蒼穹の下、ありのままの世界を見据えた。
それは、ある世界にて嘲笑う神々に陵辱され続け、然りて解放された少女の呟き。
絶望さえも枯れ果ててしまう永劫の果てに終ぞ訪れた終焉。
彼女は、その世界で『終わった』はずだった。
「ああ、その通りだ」
少年は少女の後ろに立つ。
波の立たぬ凪の平穏、鏡のようなその水面の上に立ち、隣に黒の少女を伴い、彼は眼前に立つ彼女を優しく見つめた。
それは、只一人絶望と云う言葉でも表しきれぬ凄まじい想いを永劫の間、胸に抱き続けた少年の科白。
優しき世界を知り、星となり、比翼の鳥となった終焉。
彼の物語はそこで終わり、始まった。

 
 

「君も、来たんだ」
少女は、振向き少年の瞳を覗いた。
「どうして?君はあの世界で優しい人達に囲まれてただの人として生きることができたのに」
「あはは。うん、それは考えた。でも、僕はこうやって誰かの物語に加わるのが大好きなタチみたいだから」
「それは、『あの』無限螺旋の影響?」
「どうかな?僕の本来の性格がこうだったのかもしれない。それに、僕は彼と彼女のことは気に入ってるんだ。多分、彼と同じくらい」
「そっか」
少女は微笑む、かつての物語に思いをめぐらせる。
少年は微笑む、かつての物語に思いをめぐらせる。
共に、奪われた世界から己を救い出した、あの優しく、朗らかで、陽気で、ただのお人よしの、彼に思いを馳せた。
「彼が私たちに教えてくれた。世界がどんなに理不尽だとしても、決して諦めず、たとえ地に身を伏してもなお立ち上がることの意味を」
「そして、それは継がれ、人々の心を照らす。
 それは非力だけど無力ではないことを教えてくれた彼らの誓い」
「絶望の淵で抗い続ける人々の祈りに応え」
「ほんの小さな正しき怒りなのだけれど」
「それは、決して砕けぬ想いだから」
「だから、今、僕たちはここにいる」
少年と少女はこの世界に根付く闇を見る。
憎悪の輪廻が作る無限螺旋、そこで流される血と嘆き。
正義が正義を喰らい、悪が悪を喰らい、滅びの道が滅びの道を生み、破壊のために破壊が為される。
ああ、何という尾喰いの蛇の様か。
このような物語、非常に後味が悪い。
理不尽も理不尽、大理不尽の大判振る舞いだ。
だからこそ、きっと、彼らの存在が必要なのだ。
そのために、彼等がいるのだ。
なぜなら、彼らもまたデウス・エクス・マキナ(荒唐無稽な御伽噺)なのだから。
「じゃあ、頑張って。私もどうなるのか分からないけど、それなりにはこの世界で役割を果たすつもりだから」
「ああ、そうするよ。僕は僕なりに影の助っ人として舞台をかき回す。
 おっと、これじゃあ、助っ人じゃなくて道化か」
「あの混沌みたいなことは勘弁だよ?」
「それは皮肉だ」
少年は片眉を上げて笑む。
世界から隔絶された、誰も存在しないその場所。
遥か果て、水平の先まで続く鏡面が揺らぐ。
「じゃあね、また会うかもしれないけど……えっと、今は何て呼べばいいかな?」
「ペルデュラボー」
金色の瞳が優しく、そして強くその言葉を紡ぐ。
「僕は、救われた者だ。奪われた可能性が、因果を超えて実在を結んだ証だ。 僕は辿り着いたという証だ」
隣に控える少女の手を取り、彼は謳う。
「僕は識っている。闇黒神話を撃ち破った御伽噺を。
 神様でさえ消せない、いのちの歌を。
 それは希望だ、世界を信じられるということだ。
 だから僕は威風堂々と、この名を名乗るんだ」
少女の瞳が優しく、眼前の彼を――息子を見つめる。
「そう。だから君は名乗るんだね、ペルデュラボー《我、耐え忍ばん》と」
揺らぐ、凪。
世界が、終わる。
母と子は別れる。
「じゃあ、母さん。僕は、彼らの物語に会いに行くよ」
「分かった。でも、私は『ほんとうのおかあさん』じゃないけどね」
「そうだね。でも、貴女は紛れも無く僕の母さんだ」
「そ………っか」
互いの体が薄れていく。
これから始まる物語のために、己の役割を果たすために。
「うん、嬉しいよ」
「僕もだ」
「マスター……」
「ほらほら、女の子を泣かせちゃダメだよ?お母さんから忠告」
「ああ」
共に背を向け、物語へ歩き始める。
「ねえ、ペルデュラボー」
「なんだい、ネロ」
少女は最後の言葉を紡ぐ。
これから始まる物語の中で、彼に出会えないことを予期してか。
その言葉だけは伝えねば、と思った。
彼の顔を見ることなく、謳う。

 

―――私は、君を愛してるよ

 

少女の姿が消える。
そして、少年は振向く。
「ああ。僕も愛してるよ、母さん」
消えた彼女の姿に向かって、彼は呟く。
無限螺旋で終ぞ聞くことの無かった子を想う親の愛に触れ、金色の少年は涙を零す。
そんな彼を、黒の少女は優しくその胸に抱きしめる。
「マスター……どうぞ、今は私の胸で」
「……ありがとう、エセル」
ただ、その想いの大きさに包まれ彼は泣く。
だが、それもすぐに終わる。
終わらせねばならない、これから始まる物語のために。
「さあ、エセルドレーダ、彼の物語へと行こう。彼らの愛する物語のために僕らは尽力しよう。それは決して大きな力じゃないけれど」
「イエス、マスター。私たちは彼らという太陽に照らされる月です。
 だから、私たちは寄り添うように彼らを見守りましょう」
互いの手を取り、少年と少女は向かう。
「「何故なら、我らは耐え忍ぶ者故に」」
さあ、物語の幕は開いたばかりだ。

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