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DEMONBANE=DESTINY_rqMQ9OXgM6_04

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:49:32

朝が来る。
それはどの世界においても同じである。
しかし、ここにいる者達に朝が来ることは無い、二度と。
そこは静かな場所だった。
誰も彼らを傷つけるものが無いようにと、静寂が其処を護っていた。
そこは墓所だった。
「これが、か」
「ああ。2年前の戦争……その犠牲者達が眠る場所だよ」
やってきた3人、ユウナが指し示す先にあるのは墓碑。
臨む海は太陽光を反射し煌めく。
それは、かつての彼らの日常を回想しているようで。
「済まないなユウナ殿。我らの情報収集に付き合わせてしまい」
「構わないよ九朔君。君達は異世界から来たんだ、知りたいことにはそれなりに協力はしたいつもりだし」
「ありがと、ユウナん」
「お嬢さんに言われると嬉しいね」
でも、と呟く紅朔に軽薄な笑みを浮かべるユウナの視線が動く。
「どこの世界に行っても戦争をしたがる馬鹿はいるものなのね」
紅朔の紅の瞳は微かな怒りを湛えていた。
それは、半身である九朔も同様だった。
大嵐の時代(グレート・ウォー)を生きる彼らにとって、この世界で起きた戦争は彼らの感情を大いに害していた。
いや、それだけではない。

「国を率いる者が民を死なせる、それは決して在ってはならぬ事だ」
その怒りに悲しみは混じる。
ユウナもまた、その感情を抱く。
覇道財閥という街を動かす者達のもとで生きた九朔/紅朔、ウナトのもとで政治を学んだユウナ、共に政(まつりごと)を識る者は共通の哀しみを識っている。
「国は民があってこそだもの。耳にたこができるくらい聞かされたしそれくらいは私でも分かるわ」
「うん、それには僕も同じ意見だよ。2年前のあの時、僕たちはこの土地を焼く必要なんて無かったんだ」
ユウナの心は『あの時へ』跳ぶ。
2年前、あの戦争時代にオーブは中立国であった。
オーブの理念、『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』
という見渡す限りの奇麗事を題目にして。
戦争当初は良かった、その奇麗事が民を護ったのだ。
しかし、その理念も時と場合によりけり、状況により最善は変化するのだ。
戦争末期に近づき、連合からの侵攻があった。
それは喉元にナイフを突きつけられているのと同義だった。
確かにオーブの理念は正しい、綺麗すぎるくらい正しい。
だが、それは国を犠牲にして護るべきものだったのか?
いや、違う。
絶対に違う。
国は民あってこそ、そこに住む人が居るのなら、理念を捨ててでも彼らを守ることを最初に考えるべきだったのだ。

だが、彼は、ウズミはしなかった。
その時の策として、プラントと手を組むと言う手段を講じる事は出来たのに、『指導者である』ウズミはオーブの理念を守る事に終始し、絶望的戦力差を無視して戦闘に突入したのだ。
それは愚策だった、愚の骨頂だった。
そして招かれたのは――――悪夢だ。
戦後、この国に帰ってきたときの事が今でも鮮明に思い出せる。
燃え尽きた家屋、倒壊したビル、モビルスーツに踏み壊された道路、道の脇に並んだ夥しい数の死体袋、泣き叫ぶ国民達。
悔しかった、あのオーブが、美しい国土を持ち、人々が平和に暮らしていたオーブがこんな状態になってしまった事が。
あの時の出来事はユウナの心に消えぬ傷を作った。
それは、きっとこの国に住む者なら誰もが持っているものだ。
「……ユウナん?」
紅朔の声に彼の意識は現在へと戻ってくる。
「ああ、悪いねお嬢さん。昔の事を思い出してしまったよ」
いつもの軽薄な笑顔を浮かべて彼は何でもない振りをする。
「国を守るべき者がこのような愚を招く。嘆かわしいな」
九朔の言葉は果てしなく冷たい。
それは、ユウナも思うことだ。
「その通りだ。だからこそ僕達は、同じ過ちを繰り返してはならないんだよ」
風が吹く。
穏やかな風、それは沈黙の丘に吹く鎮魂歌。
植えられた花が微かに揺れる。

「さて、こんな湿っぽい話はもう止めだ。君達の知りたいことはまだまだあるんだろ?案内するよ」
「ありがとぉ、ユウナん」
「あはは……どういたしまして、お嬢さん」
人懐こく腕をとり引き寄せる紅朔に気恥ずかしくなり、その軽薄な笑みが引きつる。
「じゃ、向こうで運転手君と護衛君が待ってるだろうし、行くかい?」
「うん。ほら、騎士殿行くわよ」
半身に声をかける紅朔だが、彼は動こうとしない。
「ねえ」
「……済まぬ。先に行ってくれぬか?少し考えたいことがな」
「そ。じゃあ、私とユウナだけで観光するわよ、良いの?」
「ああ」
淡白過ぎる会話。
だがそこは元より同じもの、余計な詮索はしないのが常である。
「九朔君、護衛はいるかい――ってかいらないか、君には」
先日の護衛との組み手を思い出し、その提案を下げる。
護衛を瞬時に倒してしまう技量を持つ人間に護衛は不必要だろう。
身元不明の不審者を一人で行動させるのも問題ありなのだが、逆にあれほどの技術を眼前に晒した事が信用材料ともなりそれを許していた。
無論、そうは言っても尾行はつけさせていただいているのだが。
「ああ。我一人で充分だ。夕方には戻る」
「了解だよ。それじゃ、夕食の時間にまた」
「じゃあね、騎士殿」
別れ、ユウナと紅朔は墓碑を去る。

一人取り残された九朔は彼らを見送り、再び其処へと戻る。
「さて、どうしたものか」
九朔はこれからの事を思案する。
この世界への到着から既に2週間が過ぎていた。
その間に得られた大きな情報といえば、この世界が自分たちのいる世界とは異なり魔術関連の技術進歩が無く、科学だけが特化して進歩した世界であること、ナチュラルとコーディネイターという二つの種族に別れて戦争をしていたという事くらいだ。
「そう、それだけなのだ」
それ以外に全く情報が無かった。
自分たちの世界と共通する事項がほぼ皆無だったのだ。
彼の経験則上、世界観には緩くとも繋がりはあった。
例えば、ナイ神父のしかけたゲヱム。
あれは分断された世界を一つにもどすためのものだった。
そのため、個々の世界は邪神の手に落ちかけていたし、魔術は存在した。
魔術と言う形を取らずとも、それに類する何かがあった。
数多の世界を渡り歩いた全てにその息遣いを感じていた。
しかし、
「この世界にはない……」
これはどういうことなのか。
存在した世界、存在する世界、存在するであろう世界、あるべき世界、あらざる世界、ありえない世界、並行する世界、捩れあう世界、乖離する世界。
世界というもの全てをあわせたとしても、ここはそのどれとも違う。
オカルトという形の存在を見てもそれは根本的に違った。

魔術師独自の勘とでも言うべきか、九朔の胸の奥で何かがそう言っていた。
「まさか、ここは邪神が存在しない世界だとでも言うのか?」
ありえるのか?
あの、無限に存在する千の無貌が存在しない物語(セカイ)などあるのか?
宇宙を観測する外宇宙の神々を持ってしても捕らえることの出来ぬ世界が存在しうるのか?
世界は書割、全ての世界は彼ら邪神のプロットの上に物語られる道化芝居だ。
それにまんまと乗せられ、危うく世界を滅ぼしかけた自分だからこそ理解できる。
あれはそんなに生易しいものではない。
しかし、それでも、ここは、違う。
「何が違うのだ?いったい、何がおかしいというのだ」
靄がかかったように捕らえきれぬ思考。
螺旋を描いて沈んでいく。
「――あの」
悩む九朔の耳を女性の声が聾した。
振向けば、そこにいたのは自分より少し年下の少女。
風にゆれる黒髪はきめ細かく、その服装もまた黒一色だ。
「貴方も、ここにお墓参りですか?」
「あ……うむ、そういったところだ」
「そうですか」
微かに微笑み、少女は静かに墓碑の前へと進む。
しゃがみ、腕に抱えた花束を供え少女は手を合わせ瞳を閉じる。
「………」
死者への礼、それを邪魔する事は誰もあってはならない。

彼女の祈りを九朔は見守る。
「………よし」
祈り終えた少女は立ち上がり九朔に向き合う。
「すいませんでした。何か考え事していたみたいで……」
「そうでもない。我も、貴女の邪魔をして申し訳なかった」
「良いんです。私も、家族にはずっと会えてませんでしたから」
「ずっと?」
そう言う彼女の瞳は深海の闇を見せる。
「はい、ずっとです。家族が戦闘に巻き込まれて死んだ時に私も大怪我をしてずっとずっと治療を受けていたんです」
自分に起きた事を初対面の九朔に話す少女。
それは、目の前の少年が同じように誰かを失った境遇にあると考えたからであろう。
それに対し九朔は申し訳なく思う。
「今回初めてお墓参りできたんです、私。 私だけが生き残ってごめんなさいってずっと言いたくて。 父も、母も、兄も、皆死んじゃったのに、私だけが生き残ってって」
口端を噛み締める少女にいたたまれなくなる。
「でも、今日こうやって家族に謝る事が出来てよかったと思ってます」
その笑みは切なくて、どこか空虚で。
それを見てるとどうにも歯がゆい。
こんな風に誰かが悲しんだりするのは酷く嫌だった。
それはきっと父親の血なのだと九朔は思う。
「己を責めるな」
言葉がついて出ていた。

「え?」
「汝は生きておる。それはとても素晴らしい事だ。 汝は生きることの出来なかった家族の分まで生きることが出来るのだ」
「生きる……」
「ああ。我が親なら子には長く生きて欲しいと思う。血のつながりを持つ者に悲しまれるのは辛いことだ」
我ながら臭い科白だ。
言っている自分でも背中がむず痒くなるような衝動に駆られる。
「お兄さん、恥ずかしい事言いますね」
「我も思う」
「ふふ」
それまでの暗い表情ではなく、心からの微笑。
「そうですよね。分かってはいるんですけど、やっぱり人から言われるとそうなのかなってちゃんと考えますよね」
「そういうものだ。辛くとも、家族のために精一杯生きなければならない。
 それが生きる者の役目だ」
「ええ」
その少女の微笑みは年相応のあどけないものだった。
沈む夕陽の下で彼女の横顔がオレンジ色に染まっていく。
それは、酷く赤い色をした血のような夕焼け。
そして、
「でも、そんな資格もうないんです、私」
少女の笑みが酷く凄惨な微笑みに変わった。

それは絶望、それは憎悪、それは怨嗟。
それは、この世界の悪意の発露。
「汝?」
「私、もう戻れないんです」
自虐を超越した、己への悪意。
そして放たれる他者への憎悪。
気づく、彼女はもはや癒える事のない傷を抱えてしまっているのだと。
それは、未だ見なかったこの世界が抱えた深すぎる業。
「家族には悪いと思ってます。でも、私は皆を殺した奴を許す事ができない。
 きっと……私はきっと皆のところへいけない、だから最後にここに来たんです」
「それはつまり、復讐か」
「はい」
強い意志を秘めた瞳が真直ぐに九朔を射抜く。
「後悔はしていないんです。それが私の選んだ選択ですから」
「終わりに待つものはなにもないぞ」
「分かってます、でも止められない」
「……」
「あはは。初対面の人なのに何色々話してるんですかね、私。
 ごめんなさい、お兄さん」
自分らしくない、そんな感じでぺこりと頭を下げる少女。
それだけは年相応のもので。
「きっと、最後の私を誰かに聞いて欲しかったのかもしれません……
 ご迷惑をおかけしました」
「ああ、酷い迷惑だな」
「ですよね」

何も知らない自分が彼女を止める術はないのだろう。
自分には彼女を見送る事しか出来ない。
それが、酷く歯がゆい。
「ありがとうお兄さん。
 私に精一杯生きろって言ってくれて嬉しかったです」
少女はそう言って九朔の目の前から走り去っていった。
「これが、この世界の歪みか」
溜息が漏れる、どの場所でも戦争がもたらすものはこんな悲惨さだけだ。
たまらなく、むなしい。
これ以上ここにいることもない、帰ろうと思った矢先、
「騎士殿!!」
観光に行ったはずのユウナと紅朔が九朔のもとに走ってきた。
「ユウナ殿、紅朔、いったいどうしたんだ?」
その表情には鬼気迫るほどの必死さが。
「九朔君来てくれ!!!大変な事になった!!」
どこかで劇の幕開けを告げるブザーが鳴り響いていた。

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