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DEMONBANE=DESTINY_rqMQ9OXgM6_05

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:50:49

ユニウスセブン、それが何を意味するかはこの世界に来てから大体のことを聞いていた。
しかし、それがよもやこの地球に落ちてくるとは。
「最悪だ。カガリは無事だったみたいだが、このままじゃあの子が帰ってくる前にこっちがあの世に行きかねない」
ユウナは頭を抱えて目の前に置かれた現実を嘆いていた。
それもその通りだ。
今現在もザフトがメテオブレイカーを用いてのユニウスセブン粉砕をおこなっているが、それが成功したとしても世界中にもたらす被害は計り知れたものではない。
戦争の傷跡いえぬ世界がどうなるか、想像するだに恐ろしい。
だが、そんなユウナに反して九朔/紅朔の感じたのは嘆きや悲嘆ではなかった。
怒りだった。
大狂気によって為される大理不尽が目の前に迫っている。
それがもたらすのは想像絶無の大破壊。
四百余州が灰燼に帰すとも考えられるその現実に堪える怒りなどありはしない。
元より同じ者でありながらまったく違う二人、それが今この時共に胸に抱いたのは憎悪、理不尽を許さぬ正しき怒りだった。
「許せぬ」
「許せない」
呟いたのは同時、ユウナの顔がその声にゆっくりと上がった。
一言の呟きにもかかわらず、彼はその声を無視することが出来なかったのだ。
その余りにも真直ぐで、正しくて、絶望さえも打ち壊してしまうような憎悪の叫びに胸を震わされたのだ。
「ユウナ殿、我らをデモンベインの元へ連れて行ってくれ」
「な、何をするつもりなんだ……?」
「決まってるじゃない、そんなこと」
不敵に笑む紅朔。
指が伸ばされ、ユウナの眉間へと指される。
「私はね、こんな理不尽なお話なんてだいっきらいなの」
「ああ。このような大理不尽、決して捨て置けぬ」
「だから」
「だから」
二人の声が重なった。
「「デモンベインで打ち砕く!!」」
凛と胸を打った。
確かにユウナ自身もこのようなことは許せなかった。
これは大虐殺だ。
相手などお構いなし、全てを巻き込む大破壊だ。
これを赦せるものなど誰もいない。
だが、ここまで真直ぐにその言葉を言えるだろうか。
恐怖を持ちながらも、ここまで怒れるだろうか。
恐れに脚を震わせ、呼吸もままならぬまま、怒れるか?
その絶望に押し潰されぬまま持てるか、その怒りを?
無理だ、きっと無理だ。
そんな絶望耐えれるわけがない、恐怖に打ち勝てるわけがない。
目を閉じて、耳を塞いで、それに怯えるのだ。
死が訪れるとしてもそれに逃げ隠れするのだ。
現実から逃げ去ってしまうのだ。
だが、今はどうだろうか?
ユウナは目の前にいる青海の少年と夕紅の少女を見る。
ただの少年と少女、なのに、熱い。
「怖くないのかい?」
「そんなの、もちろん怖いわよ」
「じゃあ、何故?君達の機体でアレを壊せるとでも?きっと無理だ。
 そんなこと分かりきっているのに、何故なんだい?」
「後味が悪いからだ」
「は?」
「うん、それそれ。御父様の言ってた後味悪ぃってやつね」
「どういう……ことだい?」
自然と聞いていた。
彼等が、異世界からの訪問者という事もある。
だが、それだけではない。
彼ら自身の奥にあるものに心が揺さぶられているのだ。
「余り口では説明できぬのだが、そうだな……」
一呼吸置いて九朔の翡翠の瞳がユウナを貫く。
「我らは理不尽が目の前で行なわれているのに、それを見て見ぬ振りができるほど器用にできているわけではないのだ」
「別に世界を救おうとかそんな大それた事を考えてる訳じゃないのよね。
 ただ、やっぱりああいうのを放っておけないだけ、それだけなのよ」
「………はは」
呆気に取られてしまった。
何でもない風に言ってしまう二人に。
だが理解した、それはとっても単純な事なのだと。
誰かが泣いていたら無視できない、そんなお人よし。
彼らはきっとそれなのだ。
たとえ、それがどんなに強大で絶望的なものでも構いはしない。
誰かを守ることに全力になれるのだ。
そしてそれを当然のようにいえてしまう彼等が果てしなく眩しい。
それは決して蛮勇ではない。
それはきっと誰の心の中にもある人が持っているモノなのだ。
どんなに怖くても、絶望しても、そこに一握りだけ、それがどんなに非力でも、それさえあれば人は簡単に立ち上がれる。
ほんのちっぽけな善意。
それはきっとどんなことになっても最後まで足掻き続けることのできる、人間が持つちょっとした力なのだ。
ユウナの中で何かが吹き抜けていった。
それはとてもさわやかで心地の良い風だった。
「じゃあ、聞くけど」
これは、ちょっとした冗談。
彼らなら、答えてくれる。
「君達ならあのユニウスセブンを木っ端微塵できるかな?」
「もちろんね」
「至極当然だ」
その返答にユウナは確信した。
そして、思う。
自分もこうありたいと。
空気を胸いっぱいに吸い込む。
政治家の息子らしからぬ感情が燃え上がった。
「運転手君、コースは変更!!目的地、デモンベイン!!」
魂が叫んだ。

 

*****

 
 

其は宇宙(ソラ)を漂う海月。
其は嘆き悲しむ魂たちの墓場。
其は人には過ぎたる力を持って行なわれた罪の証。

 

其れは争いの狼煙であり
憎悪機構の歯車の一つであり
調停の場であり
共に生きることを謳った人々の誓いの場

 

人は、それを『ユニウスセブン』と呼ぶ。
2年前の対戦の果てにそこは、宇宙(ソラ)へと昇った人たちの鎮魂の場となり、地球(ダイチ)に住む人には大戦の記憶を忘れさせぬ追憶の場となった。
それはいつもそこにあって人々の中にとどまっていたのだ。
だが、今、其れが堕ちる。
怨嗟に焼かれ、全てを憎悪する人達の哀しみによって。
無窮の空間にて花が咲く。
赤い花、白い花、血の花、断末魔、呪詛、咆哮。
赤い花、白い花、血の花、断末魔、呪詛、咆哮。
彼岸花、白百合、脳漿、タスケテ、ウバエ、ユルサヌゾ。
人の心がそこで捻じ曲がり、交差し、悲鳴を上げていた。

 

堕ちる破壊を止めるために先立ったザフトの大援軍は自軍機体であるジンハイマニューバ2型の軍勢に襲撃された。
人は愚かである。
愚か故にその思いに殉じる。
人は愚かである。
愚か故に間違いを知りつつも止まる事が出来ない。
襲撃者である彼等は各々の思いを破壊という言葉でしか表すことができなかった。
失った者が抱く哀しみは憎悪へ、憤怒は暴力へと。
怨嗟の憎悪に焼かれた彼らに届く言葉はなく、牙を剥くだけ。
それは純粋なる悪意の衝動。
放たれる閃光の連なりが超弩級構造体を破砕しようとする兵士達に降り注ぐ。
爆散、ビームカービンに穿たれたゲイツはその四肢を虚空へとばらまく。
爆散、斬機刀で上下に分かたれたゲイツは二つの血花を無窮に撒き散らす。
押されつつあるジュール隊への救援へ向かったミネルバもまた、MSを出撃させるも先のアーモリーワンで強奪された機体による襲撃もあいまって破砕活動の援護はままならない。
「何だって言うんだよ、こいつらは!」
シンは旧式機体であるはずのジンの熟練した動きに惑わされていた。
新型のセカンドシリーズに乗っているはずの自分がこうまで翻弄されてしまっている。
それはアーモリーワンで強奪された機体との戦闘が生ぬるく感じてしまうほどにだ。
遠くのほうではルナマリアがガイアと、アスランだという青年の乗ったザクがカオスと交戦している。
それを確認しながらもシンは眼前の敵へと向かい合う。
落とさせてはいけない、力を持たぬ人を傷つける行為だけは許してはならない。
それは2年前からの彼の中での誓い。
脳内に奔るあの日の光景。
潰され臓腑を撒き散らした父、砕かれ上半身と下半身が歪な方向へ捻じ曲がった母、腕を失いぼろぼろになっていた妹。
あの光景は二度と見たくは無い。
決して誰も自分のような目にあわせてはいけない。
あのアスハのように口だけでなく、自分の力で。
「アンタ達はァァッ!!!」
無音の宇宙(ソラ)に少年の咆哮が轟く。

 

――無窮の空に刃金はまだ見えず

 

「メテオブレイカー8番セット、調整入ります!」
そんなやり取りをしている間にもジュール隊の面々は破砕作業を続けていた。
「奴ら、かなりできるみたいよイザーク」
「ああ。既に我が隊のうち六機が落とされているからな」
砲を構え、襲い掛かってくるジンへと寸分違わぬ精密射撃で落としていくディアッカの言葉に歯噛みするイザーク。
「くっ……!」
宇宙(ソラ)に浮かぶ亡骸は全て自分の隊のものだ。
己の罪が重く圧し掛かる。
それはかつてシャトルの民間人を打ち落とした事実。
亡き上司であるクルーゼに命令されたとはいえただの民間人をこの手で殺した。
これが彼の罪。
友のディアッカは自分のようにはいかずザフトレッドを剥奪された。
自分もザフトへの裏切りを働いたのに彼だけが、だ。
これもまた彼の罪。
決して自分の罪は消えない。
だからこそ、今この時に与えられた職務を遂行する。
「隊長、メテオブレイカー調整完了です」
「おっおぅ。さすがシホちゃん、仕事が速いね!」
「エルスマン、ふざけるのもいい加減にしてください」
通信機から聞こえるその声に己を奮い立たせる。
今自分がすべきことを成すのだ。
「グゥレイト!やったぜ!!」
「馬鹿者!まだまだ細かく砕くんだ!!ハーネンフース、行くぞ!」
「了解しました隊長!」
眼下で真っ二つに割れた墓標へ、無音の宇宙(ソラ)を男が駆ける。

 

――無窮の空に刃金はまだ見えず

 

「酷く苦々しい光景だな」
「私もそう思います」
問われ、思ったがままを答えるタリア。
モニタの向こうで斬り結び合うジンとゲイツ、アビスとジン、ザクとガイア、ザクとカオス、ジンとインパルス。
全てが自軍の兵器だった。
奪われたMS、この艦のMS、突如襲撃してきたMS、全てがザフトのMSだ。
いったい何が起きているのか。
それは艦長である彼女自身もまだ理解し切れていない。
ただ分かっているのは今尚、あの巨大な墓標が地球に落ちようと動き続けている事実だけだ。
それだけは止めなければいけない。
これが落ちればプラントと地球連合との間に再び戦渦が起きる。
そうなればプラントに済む息子が、そして隣にいる彼が傷つく。
それだけは絶対避けなければいけない。
燃え滾る決意が胸に炎を灯す。
「アーサー!」
艦内を矢継ぎ早に指示が飛び交う。
無音の宇宙(ソラ)に女傑の意志が飛ぶ。

 

――無窮の空に刃金はまだ見えず

 

閃光がモニタに咲く。
酷い様だ。
「このままじゃ……」
悲壮な表情を浮かべるカガリ、だが彼女を眼中に入れるものはこの場には誰もいない。
彼女は唯この場に独りきりだった。
アスランが側にいない、自分を支えてくれる者が誰もいない、独りだ、ちっぽけだ、矮小だ、邪魔者だ。
気丈に振舞おうにも今の彼女は余りにも弱すぎた。
結局のところ彼女は国を背負おうにもただの少女だったのだ。
堕ちる破滅を止めようと懸命になる彼らの前において彼女は木偶もいいところ。
故に、彼女はこの場で独りきりだった。
デュランダルは眼前を睨みつける。
モニタの向こうで交戦するジン、それは彼の知るところだった。
大いなる失態、彼はそれを過小評価していたのだ。
故に対策を講じ損ねた。
しかし、それを誰にも言う事は叶わない。
自分は議長なのだ、己の失敗が全てを破綻させる。
だからこそ、何も言わずこの行く末を見守らねばならない。
たとえ、それがどのような事態を引き起こすとしても。
苦渋の決断だった。
無音の宇宙(ソラ)、弐国の将は各々の耐え難き苦悩に苛なまれる。

 
 

――そして

 

「か、艦長!!」
メイリンの声がブリッジに響く。
「どうしたの!?」
「あの、その、信じられないんですが……」
「どうしたのと言ってるの、簡潔に答えなさい!!」
「あ、はい!!その、地球から巨大な熱反応が来ます!!!」
「なんですって!?」
「むっ!?」
到底ありえないその応えにその場にいた全ての人が、それを見た。
それはあおい星。
それはいのちの星。
それは青く輝く、母なる惑星。
その星の中心から何かがやってきた。
それは一体何なのだろうか。
パイロットたちはまだレーダーにも映らないそれを感じた。
ブリッジにいたものはそのモニタでそれを見た。
整備士たちは聞こえるはずのない唄を聞いた。
その他のクルー達もまたその唄を聴いた。
それは陽気で暖かで、優しくて心地良くて。
誰の心にもある小さなそれを奮い立たせるものだった。
連合の船に乗っていたものもまた同様だった。
3人の少年少女もその唄を聞く。

 
 

「なんか……俺、あったかいんだけど……スティング」
「ああ、俺もだ……」
「ら、ら、ら。とっても……やさしい。きもちいい……うた」
傷つける事のみを教えられてきた彼らにそれは深く染む。
知らないはずの気持ちが心の奥で震える。
「なに……これ?」
ふと頬を伝うそれにそれぞれが気付く。
「お、おいおい。どうしてこんな……」
「涙だと?」
そう、それは。
「くる」
ステラの声に二人がその方を向く。
そちらだと言われた訳でもないのに、それを見た。
その場にいた全ての、ありとあらゆる者達がそれを知った。
それがあの、『いのちの星』から来るのだと。
ソレは輝いていた。
いのちの光に輝いていた。
青き地球(ほし)を背に、それは来る。
鋼鉄の翼に明日を乗せて、瞳にいのちを灯して。
正しき怒りと切なる祈り、人の小さな善意と意志をその身に秘めて。
「おっきい………かみさま?」

 
 

――無窮の空に刃金が来たる

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