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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_第12話3

Last-modified: 2008-07-09 (水) 23:56:03

 こちらに向かってくる二十機以上の地球軍部隊。メインモニターに映る飛行MS以外にも、海中に五機前後の水中用MSをニーラゴンゴが確認している。
「あんな数が、いったいどこに隠れていたというの……!」
 艦長席のタリアが唇を噛んだ。未だニュートロンジャマーの影響力は健在とはいえ、今の今まで敵の動きを察知できなかったのは失態以外の何物でもない。
『グラディス艦長、今は愚痴を垂れている時間すら惜しい。水中用MSの進路から察するに、ニーラゴンゴの存在も敵には筒抜けのようだ。こちらも全機を出して迎撃する』
 ニーラゴンゴの艦長がモニターの向こうで言った。険しい表情が、状況の厳しさを物語っている。
 敵軍の中にはカオス、そしてアビスの反応が確認されている。これは敵が先の新型強奪を行なった、もしくは関係のある部隊だということだが……この場合アビスが脅威となる。
 アビスの水中戦闘力は旧式のグーンやゾノなどとは比べ物にならない。ニーラゴンゴが搭載したMSは六機、そのうち二機は新型量産機のアッシュだが、それでも太刀打ちできるかどうか。
「こちらもアッシュとゾノを一機ずつ、カーペンタリアで受領しています。そちら援護に……」
『必要ない。水中戦に不慣れなパイロットをよこされても足手まといにしかならん』
 高圧的だが嘲りは混じっていない口調でそう指摘され、タリアは二の句が告げなくなる。ニーラゴンゴの艦長が言うとおり、ミネルバはカーペンタリアでパイロットを含む人員の補充は受けられなかったのだ。
 これはミネルバがオーブとの連携により、数多くの機密を抱えてしまったことに起因する。情報漏洩を避けるため人員の選別基準は厳しくならざるを得ず、先のカーペンタリア寄航時にはその基準に叶う者を選定出来なかったのだ。
『貴公等は己の身を護ることだけを考えていればいい。そちらの任務はマハムール基地への到着、そして我等の任務はミネルバをマハムールへと送り届けること──お互いに義務を果たせ』
 どこまでも突き放した言い方だが、裏を返せばミネルバだけでも先に進めということ。己より年配の艦長に決意を示され、タリアが出来るのはただその任務を果たすことのみしかない。
「……了解しました。御武運を」
『言われるまでもない』
 モニターから顔が消える。タリアは数秒ほどモニターを凝視した後、艦長の表情を取り戻しクルーたちに指示を再開する。
「総員、戦闘準備急げ! MS隊は準備が出来次第全機発進、乗り換えの必要は無い! ニーラゴンゴに遅れを取るな!」

 
 
 

「乗り換えは無し、ね。こっちは助かったけど、ホントにいいのかな?」
『ニーラゴンゴが言ってきたことだ。確かに不慣れな我々では足手まといだろう』
 ザクウォーリアのコクピットの中でルナマリアが心配げに言うと、レイがそう返してきた。
 もしアッシュとゾノを使うなら、乗換えるのは彼等二人になるはずだった。流石にザクで水中戦を行なうのは無謀すぎる。
「けど不慣れって言うならこっちもでしょ……グゥルかぁ、シミュレーターで少しは慣らしてるけど」
 ミネルバには予備MSの他に、MS補助用の無人航空機であるグゥルが二機補充されている。飛行が出来ず海戦では動きが大きく制限されるザクも、グゥルの上に載ることで多少の空戦能力が確保出来る。
「よおーし! 今日こそはガンガン当てまくってみせ」
『少し待て、ルナマリア』
 気合を入れようとしたルナの言葉を、オーガアストレイをカタパルトに移動させているティトゥスが遮った。
 オーガアストレイにはエールストライカーに代わって、先日の戦闘でウェスト他メカニック一同が回収、修理したジェットストライカーが装備されていた。滞空時間はエールストライカーと比べ大幅に上がっている。
「ふえ!? な、なんですかティトゥスさん?」
『ルナマリア。悪いが今回、君にはガナーウィザードではなくスラッシュウィザード装備で出てほしい』
 問われたティトゥスではなく、今度はアスランがルナに言う。
「…………ええーーーーっっ!?」
 その言葉の意味を噛み砕き、理解した瞬間ルナは叫びを上げた。
「なっな、なんでよりにもよってスラッシュなんですか!? あたしにグゥルの上であのバカデカイ斧振り回せと!?」
『ああ、それもあったな。君にはグゥルに乗らず、前回のオーブ戦と同様艦上に待機して貰いたい』
「はい!?」
 理解が追いついていないルナに、ティトゥスが落ち着けと声をかける。
『お主には艦の守りを頼みたい。全員が全員、この艦を離れるわけには行かぬ。あの数だ、我等とてあれら全てを抑えることは不可能。かなりの数がミネルバに取り付くであろうことは必死。なればこそ、艦上に構え艦を守る者が必要となる』
 淡々とした説明。ゆっくりとルナは落ち着きを取り戻すが、困惑を全ては拭えない。
「それは、まあ分かります。けどなんでいきなりスラッシュウィザードなんですか?」
『オーブ戦では水柱の目眩ましがあったが、今回は丸裸の状態だ。前のように水柱の合間から大砲を狙うだけでは捌き切れぬだろう。広い攻撃範囲、かつ絶え間ない攻撃が望ましい』
『現在その条件を最も満たす武器はスラッシュウィザードのビームガトリング砲だ。連射性と面のカバー範囲は広いからな。目標さえしっかり見据えれば、当てるのは簡単だ』
 ティトゥスの言葉を途中で引継ぎ、アスランが言う。その言葉は説得力があり、ルナも納得しかける……が、肝心なところにルナは気づく。
「確かにそう言われれば……ってそれじゃ、あたしは留守番ってことじゃないですかー!?」
『仕方ないだろう、レイにはこっちの援護をしてもらわないと。流石に数が足りない』
「じゃあせめてあたしもグゥルに乗せてください! 飛んでた方が有利だし、そうすればそっちの援護だって!」
『……グゥルは堕とされやすいぞ? ミネルバの周りをユラユラ飛んでたらいい的にしかならない。速度を出して飛び回ってる分にはまだマシだが』
『アスラン、不安にさせるようなことを言わないでください……しかしやけに実感がこもってますね』
 ぐっ、と黙るルナを他所に、グゥルに乗ることが確定しているレイが抗議の言葉を上げるが、
『……昔、自分や仲間がグゥルを壊されて何度も海に落ちたからな……知り合いなんて『ウワアアァァァァ!』って叫びながら背中からまっ逆さまだ』
『…………』
 どこか憂いを帯びた返答に、レイも黙ってしまう。昔何があったんだろうとルナは思った。
『とにかく、ミネルバの防衛機構やエルザだけじゃ手が足りないのは事実なんだ。頼む、ルナマリア』
「……分かりました」
 腑に落ちないが、隊長に頼むと言われてしまえば仕方がない。換装の指示をメカニックに伝え、ザクの背中にスラッシュウィザードを接続。格闘戦にはならないだろうから、役に立ちそうにない大振りなビームアックスは外す。
『ルナ、ミネルバのことは任せたからな』
「当然でしょ。アンタこそティトゥスさんやアスランさんの足引っ張るんじゃないわよ」
『では後は任せるぞ、ルナマリア。お前なら出来る』
「オッケー。そっちはお願いね、レイ」
 シンやレイの言葉に、努めて明るく返す。向こうは気遣ってくれているのかもしれないが、内心をナーバスな気分が占めてくるのは止められなかった。
(当てられない奴は前に出ないで、とにかく数だけ撃ってろってことかなあ……)
 今までの自分の戦績を省み、そんなことを考える。全ては自分の自業自得ではあるが、言外にそう言われたと思うとやはりショックだった。
『ザクウォーリア、発進準備に入ってくださ……ってお姉ちゃん、どうかした?』
「え? あ、ううんなんでもないわよ」
 心配げなメイリンに、笑顔を取り繕って返す。表情に出したつもりはないが、気づかれてしまったのはやはり姉妹ゆえか。
『お姉ちゃん、無理しちゃダメだよ?』
「分かってますって……ルナマリア・ホーク、スラッシュザクウォーリア、出るわよ!」
 ミネルバの甲板に出るスラッシュザクウォーリア。ライフルと背中のニ門のガトリングが、陽射しを受けて鈍く光った。

 
 
 

「お、来た来た」
 向かってくる四機。アーモリーワンからの腐れ縁になるインパルスと、グゥルに乗った白いザク。それと赤い戦闘機に、かの『ユニウスの魔神』に似た鎧武者風の機体。
『ネオ、俺はインパルスをやらせてもらうぜ』
「分かってる。しっかりやれよ」
『そっちこそ。けど俺が言うのもなんだが、本当に残りをアンタだけで抑えられるのか?』
「俺一人じゃないさ。回り見りゃ分かるだろう」
『実質、一部除いて空気みたいなモンだろう? ──まあいいさ。俺の邪魔だけはしないでくれよ!』
 加速したカオスが集団から頭一つ飛び出す。背負った二基の機動兵装ポッドは地上では切り離し出来ないが、補助推力機及び固定兵装としての機能は生かすことが出来る。地上でもその総火力と速度は十分だ。
「張り切っちゃってまあ。さて、こっちも気合入れますかね。 ──全機に通達! 積極的に攻める必要はない。落とされないことだけに専念しろ! ただし、ミネルバの方に逃げられないようにしろよ!」
 そう言いながら、ネオは仮面の下の表情を歪ませる。多分に自嘲が混じった笑み。
 すぐさま笑みを消し、全機との通信を一端カット。新規に取り付けられた計器を操作し、一部の回線のみを再び繋ぐ。すると同時に、正面モニターの隅に新たなウィンドウが三つ表れた。
 映る景色は三つ全てが違っているが、それらは間違いなくウィンダムの周囲の映像だった。
「視界リンクはオールオッケー……さぁて、それじゃ行こう!」

 
 
 

「カオス……やっぱりこいつら連合だったのか!」
 アーモリーワンでの強奪事件はまだ記憶に新しく、ミネルバのクルーにも彼らの手にかかった者がいる。それが連合の仕業とは予想の範疇だったとはいえ、シンにとって衝撃だった。
 敵陣からカオスが先行し、仕掛けてくる。大型のライフルと同時に、肩の後ろから覗く機動ポットのビーム砲とミサイルの同時発射。迫る砲火に、シンは慌ててインパルスに回避行動を取らせる。
 直後カオスはMA形態に変形、更に加速。手足を持つ戦闘機、もしくは四肢を持つ魔鳥とも取れるシルエットがインパルスに迫る。爪先から生えているのは、光を放つビームクロー。
「うわっ!」
 咄嗟にシールドをかざしてクローを防ぐが、スピードに乗ったMSに蹴られるような形になり弾き飛ばされる。すぐさま体勢を立て直すシンだったが、その耳に警告が滑り込む。
「シン、油断するな! 敵はカオスだけじゃない!」
 アスランのセイバーが援護射撃を行い、カオスをインパルスから引き剥がす。カオスはすぐさま反転、迫ってくる本体へと合流する。
 正に『大部隊』という表現が相応しい、二十を越えるウィンダムの大編隊。その先頭に陣取るのは、紫に塗装された隊長機らしきウィンダムだ。
 合流したカオスを入れて、総勢二十五機。それらが一斉に攻撃を仕掛けてくる。無数のビームを回避するシン達だったが、そんな中自分達を追い抜き、ミネルバへと向かう六機のウィンダムが目に付いた。
「あいつら、ミネルバへ!?」
 シンが追いかけようとしたとした瞬間、インパルスへの攻撃が強まる。四方八方に飛び回るウィンダム達が、退路を断つように弾幕を張り巡らせていた。
『我等をミネルバには返さず、この場で殲滅する腹か』
 ティトゥスの淡々とした呟きが聞こえた。
 ウィンダムが囲むようにこちらの周囲を飛び回る中、ウィンダム隊長機とカオスだけが包囲の内側に躍り出た。周囲のウィンダムと連動し、再び放たれた無数のビームがシン達を襲う。
「こいつらぁ!」
 飛び交うビームの中、シンはカオスにライフルを向けた。

 
 
 

「来たわね……!」
 ミネルバの迎撃を掻い潜り取り付こうと迫ってくる敵機を、ルナマリアが艦上で目に捉えた。
 ブリッジの喧騒が、通信機越しに聞こえてくる。
『ランチャー一番から七番まで全門バルジファル装填! 残りはディスパール! CIWSもっとよく狙って、って来てる来てる敵が来てるって!?』
『副長お静かに!』
『イゾルデ、撃ぇ! ……突破されるわ! ルナマリア、エルザ、頼んだわよ!』
「了解!」
『了解ロボ!』
 ルナマリアと共に迎撃に当たるエルザの元気な声。艦首で身の丈を越える魔砲を構える姿は非常にミスマッチだが、どこか可愛げがある。
『ハデにぶっ放すロボ! 『我、埋葬にあたわず』、ファイア!』
 魔砲から強い光が迸る。一条のビームは拡散、幾重にも分かれて不規則な軌道で目標へと迫らんとする。
 光に射抜かれんとするウィンダムだが、陣形の中心に居た一機がふと手榴弾を取り出し、軽く頭上へと放り投げる。
 爆発すれば確実に自分や味方を巻き込むであろう位置で手榴弾は炸裂し、爆発が発生……しなかった。
「何っ!?」
 手榴弾が発したのは爆風ではなく、光だったのだ。淡い光──どこか『我、埋葬にあたわず』に似た色のそれが、ウィンダム達を照らし出す。
 反射的にルナは手を顔にかざすが、目が眩むほどではない。何のつもりかと訝しんだ瞬間、眩まなかった目は驚愕の光景を見た。
「ウソッ!?」
『ロボッ!?』
 『我、埋葬にあたわず』のビームを、ウィンダム達が真っ向から受け止めたのだ。しかも攻撃を受けた部分は多少焼け焦げるか歪むかに留まり、対したダメージを受けてはいない。
 これまで幾度も敵MSの装甲を貫き、四肢をもぎ取った『我、埋葬にあたわず』が、通用しない。その事実にルナは愕然とする。ふと見ればエルザも少なからずショックを受けているようだ。
「な、なんで……?」
 不意にルナは気づく。ウィンダムの装甲表面が淡い輝きを放っていることに。そしてそれが、先ほど手榴弾が発した光とほぼ同じであることに。

 
 
 

「なななな、ぬぁぁぁにぃぃぃ!? あ、あれはもしや!?」
「何ぃ!? 知っているのかウェスト!?」
 エルザの攻撃が防がれるのをメカニック陣も目の当たりにする。そんな中ギターを掻き鳴らしうろたえるウェストに、エイブスが問い詰める。
「うむ。我輩、かつて起爆と共に防御魔術式を展開する術式手榴弾を造ったことがあるのだが……あれもおそらく原理的には同種のものであろう。ただ同じように防御を目的としつつも、術式の形態が違うのである。我輩の作品は特定方向に物理的な防御壁を生み出す形だったが、あれは一定範囲の物質に一時的な魔術耐性を付加[エンチャント]するものと見た」
「じゃああれもアンタたちの世界の、魔導技術の産物ってやつなのか?」
 エイブスの言葉に、渋い顔でウェストが頷く。
「我輩の傑作『我、埋葬にあたわず』とはいえ、対人サイズの拡散モードでは対した効果は上げられまい……おそらくはウェスパシアヌス辺りの差し金であろう。忌々しいのである」
 淡々と考察するウェスト。一目で敵の兵器の効果と本質を見抜くその観察眼に、メカニック一同はウェストが自称どおりの天才科学者だということを再認識する。
「うぉのれあのゲテモノ大好きなヒゲ男爵めが! 今度会ったらワイングラスに黒酢を並々と注いだあと叩き割りつつ、特許料金を請求したろか~であ~る!」
 ──でもやっぱり紙一重の■■■■であるという認識も変わらなかったが。

 
 
 

「こんのー!」
 接近してくるウィンダムへ、ライフルとガトリングを連射するザクウォーリア。ビームの弾幕に、ウィンダムが接近を諦め離れる。
『拡散モードがダメなら、収束モードでぶっ飛ばすロボ!』
 エルザの砲撃。今度は光は分かれず、一条の太いビームとして放たれる。ビームはシールドに受け止められるものの機体は弾き飛ばされ、シールドには目に見えてダメージの痕跡が残っている。
 ウェストの考察は、すぐさまルナ達にも伝えられた。彼の予想ではあの魔術式は通常兵器にはおそらく効果はなく、術式の規模からして『我、埋葬にあたわず』でも収束モードなら多少効果はあるだろう、とのことだ。
 結局のところ、やることは変わらない。とにかく迎撃し、敵を撃退し、艦の被害を抑える。それだけのことと、ルナは己を叱咤する。
「任された以上、やらなきゃなんないのよ!」
 自分に言い聞かせるような叫び。突出した一機のウィンダムに、ビームガトリングを浴びせる。舞い散るビームの飛礫が装甲を抉るが、低出力のビームは貫通するまでには至らない。だが動きを止める分には十分だ。
(こいつら、大したことない……いける!)
 どうやら敵はあまり実戦経験がないようだ。動きがぎこちなく、攻撃の勢いも弱い。現に数の優位がありながら、ミネルバへの攻撃はどこか消極的だ。
「これなら、あたしにだって!」
 ガトリングで動きの鈍った敵を、ルナはライフルで狙い撃ちしようとし──
『ルナマリア、八時方向ロボ!』
 不意の警告。反射的に左肩のシールドを言われた方向に向けた瞬間、ビームがシールドに直撃する。
 慌ててそちらを向けば、一機のウィンダムがその場にいた。不意を突かれたお返しにと、ガトリングの火線をいったんそちらに集中させる。
 だがそのウィンダムは、軽やかな動きで火線の隙間を掻い潜った。しかもその動きに合わせて放たれた、エルザの攻撃までも避ける。
 他のウィンダムとは、まるで違う動き。すぐさま他のウィンダムと合流すると、一斉にライフルを連射し始める。ビームがザクやその周囲──すなわちミネルバの装甲に降り注ぐ。
「くうぅ!」
 攻撃をシールドで受け止めながら、ルナは敵を見据えた。
 やはり一機だけ桁違いの腕がいる。他の連中はデタラメに撃っているだけだが、あの一機だけは自分のザクやエルザ、ミネルバの武装などをピンポイントで狙ってきている。
「アイツ、強いじゃない……!」
 認識をルナが改める──その瞬間、ミネルバが大きく揺れた。
「ちょ、なにこれ!? メイリン、どうなってるの!?」
 突然の事態に、ついブリッジの妹に怒鳴り散らしてしまうルナ。だが通信モニターに映ったメイリンの顔が蒼白になっているのを見て、一瞬で冷めた頭に嫌な予感がよぎる。
『お、お姉ちゃん! それが、それが……』
『ル、ルルルナマリア! マッマズ、マズイことになったぞ!』
『落ち着きなさいアーサー! 貴方が焦ってもどうにもならないでしょうっ!』
「副長に艦長!? 何があったんですか!?」
『……ニーラゴンゴが、落ちたわ』
 ルナは一瞬、意識を手放しかけた。

 
 
 

 アッシュのコクピットへと、ランスが深々と突き刺る。球形のボディ内部から爆発を起こし、藻屑と消えていく機体から素早く離れるアビス。
「ゴメンねぇ、強くてさあ!」
 敵が壊れる様を眺めながら、アウルは興奮気味に笑った。戦闘時の強い高揚はエクステンデット化の影響なのか、はたまたアウルの生まれ持った気性なのかは、本人にも分かっていない。
 ディープフォビドゥンを一機撃破した最後のアッシュも、残ったディープフォビドゥン二機から同時にトライデントを突き立てられ、撃破される。
 アビスがMA形態に変形し、残ったニーラゴンゴへと一直線に向かう。ニーラゴンゴも魚雷を発射し迎撃するが、水中を縦横無尽に駆け巡るアビスは魚雷をかわし、そのままニーラゴンゴの背面に回りこむ。
「落ちちゃいなよ、デカブツ!」
 丸っこいラインに覆われた、なんともいえぬ姿──強いて例えるなら小型の鯨に見えなくもないフォルムの側面から、魚雷が四発放たれる。更にニーラゴンゴ前方からも、ディープフォビドゥンが魚雷を発射。
 前後から迫る魚雷を回避する術は、ニーラゴンゴにはない。魚雷は全弾命中。機関部に直撃したのか装甲が大きくひしゃげ、弾ける。
 爆発が海水を押し広げ、衝撃がアビスやディープフォビドゥンを襲った。衝撃が収まると、その周囲には無数の泡と装甲の破片しか残っていない。それらも海底に沈んでいくか、海面へ浮上していくかしてすぐさま消えていく。
 海中に静けさが戻る。だがまだ海上では戦いは終わっていない。
「上じゃまだハデにやってんだろうね……んじゃま、こっちもさっさと終わらせないと」
 ディープフォビドゥンを率い、アビスが機体を海上方面へと向ける。目標は、ミネルバ。

 
 

#br 
「ニーラゴンゴが……!?」
 ミネルバからの報告にアスランが愕然とする。アビスを含む水中用MSがいたのは分かっていたが、真逆こんなに早く落とされようとは。
『クソ! このままじゃミネルバが!』
『だが、こちらにも援護に行くほどの余裕は……』
 シンとレイの声が通信機越しに聞こえる。戻りたい気持ちはアスランも同じだったが、危ういのはこちらも同様だった。
『──拙者が海中の敵を何とかしよう』
 ビームを刀で捌き続けるオーガアストレイから、ティトゥスが言った。
『拙者の機体には実体剣がある。ビーム主体のお主等よりは水中でも戦えよう。それにこの場では、
 飛び道具を持たぬ拙者は役に立てそうにもない故。厳しいだろうがこちらは任せる』
「……了解した、離脱を援護する」
『承知』
 直後、オーガアストレイがジェットストライカーを切り離した。海面へまっ逆さまに落ちていくその姿にウィンダム部隊が一瞬唖然とするが、すぐさまライフルを落下するオーガアストレイに集中させる。
「させるか!」
 セイバーがウィンダム部隊に仕掛けた。展開した二門の背部ユニット先端から放たれたプラズマ収束ビームが、逃げ切れなかった一機を捉える。咄嗟に構えたシールドに受け止められたが、セイバーは立て続けにユニット中程から覗くビーム砲を連射する。
 ウィンダムが頭部とジェットストライカーを破壊され、海面へと落下していく。そのままアスランは勢いに乗り、周囲のウィンダムに追い討ちをかけようとする。
 だが展開していた背部ユニットの片側へと、鋭い一撃が撃ち込まれた。ビームに貫かれ、右ユニットが中程から爆発し千切れる。
「くっ!?」
 機体を安定させながら、アスランは撃った相手の機体を一瞬目に留める。追撃しようとするが、狙い済ませたようなウィンダム隊長機の射撃に意識を逸らせてしまう。視線を戻した時には、既に撃った相手は多数のウィンダムに紛れて判別が出来なくなっていた。
「くそ、厄介な!」
 敵部隊の単体能力は、はっきり言って低い。攻撃の精度も悪く、動きも逃げ腰だ。
 だがそれも圧倒的な数の差と、ウィンダム隊長機やカオスとの連携によって脅威となる。
 速力と多数の遠距離武器を持つカオスに、トリッキーな動きの中に正確な攻撃を織り交ぜてくる隊長機。この二機が正面から戦いを挑んでくる中、周囲のウィンダムはその援護に徹している。
 普段なら強敵といえど引けを取るMS隊ではないが、ここで周囲の大部隊が問題になってくる。
 飛び交うビームはこちらの動きを牽制し、動きを鈍らせる。数と威力だけは十分なため無視するわけにもいかない。そうして周囲へ集中力が分散すればカオスや隊長機への集中は散漫となり、結果押されてしまう。逆もしかりで、周囲から一掃しようとすればカオス達の攻勢が強まり、満足に敵を落とせない。
 その連携を更に磐石なものとしているのが、ウィンダムに紛れている『伏兵』の存在だ。
 烏合の衆のはずのウィンダム部隊の中に、何人か凄腕が隠れている。稚拙な攻撃に混じって、急所を狙った射撃や大きな隙を誘発する牽制が飛んでくるのだ。そう、先ほどセイバーを貫いた一撃のように。
 織り交ぜられたそれらがアスラン達を更に翻弄し、未熟なウィンダム隊をフォローしている。機体を特定しようにも、動き回る他のウィンダムに紛れられては難しい。
 シンはカオスと一騎打ちの様相を呈しており周りに目が向いていない。アスランとレイは互いをフォローしつつ紫のウィンダム相手に立ち回っているが、攻撃に転じるチャンスがつかめない。流石のティトゥスも逃げ一辺倒な敵の動きと圧倒的な物量からのビームの雨に、その格闘能力を発揮出来ていなかった。
 だからこそティトゥスを海中に向かわせたのだが、攻撃対象が絞られた分攻撃は更に苛烈なものとなるだろう。
「どうやってこの状況を打破する……?」
 強敵に大部隊、そしてその中に潜む狩人──眼前を覆う脅威を前に、アスランは歯噛みした。

 
 
 

「ナンバー1、右翼を防御しろ。……一機逃したか。まあ海中装備でもなかったようだし、アウルならなんとかするだろ」
 通信機に指示を出しながら、ネオは己のウィンダムを操る。オーガアストレイのことはすぐ意識の隅に捨て置き、眼前の敵──白いザクファントムを側面からライフルで狙い撃つ。
 横からの攻撃にザクファントムは素早く反応すると、グゥルを大きく旋回させてギリギリで攻撃を避ける。まるでこちらの位置が分かっていたかのような動き。小回りの効かないグゥルでこちらの攻撃をことごとく避ける姿に、ネオは前々からの違和感を強くする。
 何故か分からないが、あの機体のパイロットの存在を自分は強く感じる──それはもしかしたら、向こうも同様なのではないか?
「気持ち悪い話だ。訳が分からんが、とりあえず厄介ではある」
 一度距離を取り、意識をディスプレイに映った三つのウィンドウに向ける。その内の一つに、ザクファントムが映っている。
「だが、こいつらの動きまでは流石に感じられないようだな──ナンバー2、撃て」
 その言葉と共に、ウィンドウのザクファントムにビームが飛来した。左腕を撃ち抜かれたザクファントムが態勢を崩す中、そこに周囲のウィンダムからビームが集中する。必死に立て直そうとしているようだが、落ちるのも時間の問題か。
「さて、ミネルバの方も限界かな? ウェスパシアヌスのジジイが持たせた玩具も役に立ったな……ナンバー3、攻勢を強めろ。海中の友軍と協力して一気に潰せ」
 そう命じるネオの視線の先には、三つのウィンドウの一つがある。そしてそこには己の居る位置からは見えるはずのない、ミネルバの姿が映っていた。

 
 
 

 連続する爆音に、ミネルバの船体が震えた。海中から魚雷が撃ち込まれているのだ。
 揺れる足場の上で、ルナマリアは必死に上空の敵機を迎撃し続けていた。
「この! このっ! このおっ!」
 とにかく撃ちまくるザクウォーリア。しかし頭上を飛び越していくウィンダムを追いきれず、ビームが空しく空に散る。
『ルナマリア、かな~りマズイロボよ~!』
 エルザの切羽詰った声。彼女も善戦しているが、防御術式のかかったウィンダムに決定打を撃ち込めない。
 ニーラゴンゴが落ち、海中からの攻撃がミネルバを襲いだしたのと合わせるかのように、上空のウィンダムもその攻勢を強めていた。
 応戦するルナだが、撃てども撃てども敵を落とせない。そうこうする内にミネルバはもちろん、自身やエルザのダメージも積み重なっていく。
 このままでは、やられる。
「堕ちてよ、堕ちなさいよ……お願いだからぁ!」
 必死で迎撃するルナマリア。その声は既に半泣き状態になっている。
 追い詰められたこの状況でも、自分はこんな無様しか晒せないのか。やはり自分はシンやレイとは違う、凡庸な、才能のない人間なのか。まともに敵を落とす事も出来ない、落ちこぼれに過ぎないのか。
 そんな中編隊を組んだウィンダムが、急降下しながら一斉にライフルを乱射した。その内の一撃が、遮蔽したブリッジのすぐ傍に着弾した。
『キャア!』
「メイリンッ!?」
 妹の叫びがルナの耳を打った。ブリッジは無事なようだが、攻撃を受けた箇所から煙が上がっている。
「あ、ああ……」
 ルナの頭の中が、真っ白になる。
『ルナマリア!?』
 不意に攻撃の手を休めるルナに何が起きたのかと周囲から声が上がるが、ルナは反応を返さない。
 ウィンダムの編隊が、一斉にライフルを構える。ルナのザクは、無防備なまま。
『お姉ちゃん!? どうしたの、お姉ちゃん!? 私は大丈夫、大丈夫だから! ねえ、お姉ちゃん!』
 メイリンの声が聞こえる。たった一人の妹、大切な家族。失ってはならないもの。
 ──失うところだった。このままじゃ、それすらも守れない。
(あたし、あたしは……何やってんのよ……!)
 ヘタクソ。
 役立たず。
 足手まとい。
 自分を罵る。罵り続ける。
 己を卑下する心がエスカレートし、罵声が頭の中でリフレインする。
 ──ルナにとっては無限に等しい、ほんの一瞬が過ぎた。
「……ざっけんじゃないわよ……!」
 罵るだけ罵った後、ルナの心に残ったのは、己への激しい憤りだった。
 何を今更。分かりきったことをウジウジと悩んだところでどうなる。そんなこと今まで散々してきたでしょうに。
 自分を卑下して罵るなんて無駄なこと。そんな暇があるなら──動け、あたし!
「あたしは……あたしだってぇ!」
 叫びと共に、ビームガトリングが火を噴いた。ビームの飛礫が広い範囲にばら撒かれるが、それらは全て編隊の中の一機に集中して放たれていた。
 慌ててそのウィンダムは足を止め防御行動を取るが、その瞬間、編隊の足並みが乱れた。
「アンタが大将なのは分かってんのよ!」
 散発的な攻撃を繰り返す中、ウィンダム達は忙しなく動き回り新たな陣形を組もうとする。だがガトリングの砲門はその中の一機だけを追いかけ、弾幕を集中する。そのたびに他のウィンダムは逃げ腰となり、陣形は脆くも崩れ去る。
「アイツさえ落とせれば……!」
 一機だけ混じっている凄腕に、ルナは攻撃を集中した。どうやらあの一機が指揮をしているらしく、周囲の機体はあの機体の追従、サポートに徹しているようなのだ。
 ルナは狙ったその一機から眼を離さない。どんなに動き回ろうと、他の敵に紛れようと、彼女の眼はその機体を追いかけ、ガトリングを撃ち続ける。
 だが広範囲に低威力の弾をばら撒くガトリングでは、なんとか当てる事は出来ても確実な致命傷は与えられない。
 勢いこそ削げたが、このままでは結末を先送りにしただけだ。敵を落とせなければ、どうにもならない。
 ガトリングと平行してライフルも狙っているが、素早い動きの中にフェイントまで混ぜてくる。銃口を向けてロックしている内に標準から逃げられ、撃っても当たりはしない。
(目で追った後じゃ、遅すぎる!)
 銃口を向けたときには、もう敵は動いている。目で捉えていても、標準から外れてしまえば狙えない。
 けど敵の動きを先読みするなんて芸当は、あたしには無理だ。それが出来るなら、こんな苦労していない。
 どうすればいい? どうすれば当てられる?

 

 ──速く。

 

 眼では、追える。ならば腕が、銃口がそれに追いつけるなら。

 

 ──速く。

 

 完全に、同時に、眼と銃口を連動させることが出来れば。

 

 ──もっと、疾く!

 

 標準が、敵の中心をロックオンしようと敵機の上で震える。うざったい。マニュアルに変更。
 出来ないはずはない──だってあたしは何度も『同じことをやってきた』!
「任されたんだから……アスランさんに、ティトゥスさんに」
 簡単な射撃も満足に当てられない、ヘタクソでも。
「シンに、レイに、守るって約束したんだから……」
 シンやレイには及ばない、落ちこぼれでも。
「この船には、仲間が、メイリンが──あたしの大事な人達が乗ってるんだから!」
 守ってみせる。頼みも、約束も、この船も──それがあたしの意地。最後の、プライド。
「あたしは……」
 敵を視る。トリガーを引く。
「あたしも……っ!」
 敵を視る。トリガーを引く。

 

「あたしも……赤なのよっっ!」

 

 三度眼が敵を捉えると共に、三度トリガーが引かれた。三条の閃光が銃口から立て続けに飛び出し、急上昇するウィンダムを追う。
 ビームは無慈悲にウィンダムの頭をもぎ取り、ジェットストライカーを引き千切り、コクピットを貫いた。
 空から落下しながら、爆ぜるウィンダム。破片が周囲の海面へと降り注ぐ。
「あ、あたし……あたしが、落とした……?」
 ルナの思考が急速に冷静さを取り戻していく。先ほどまでの光景が、夢だったかのように思える。
 呆然と甲板に佇むルナ。メイリンや他の誰かの声が聞こえるが、思考に捉えることはできない。
 彼女の意識を現実に引き戻したのは、突然ミネルバの側面で上がった水柱だった。

 

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