Top > DEMONBANE-SEED_種死逆十字_第12話4
HTML convert time to 0.010 sec.


DEMONBANE-SEED_種死逆十字_第12話4

Last-modified: 2008-07-10 (木) 00:05:56

 海面のミネルバの艦底部へと、水を掻き分けて無数の魚雷が突き進む。
 回避しようと舵を切るミネルバ。だが直撃軌道から外れても魚雷は近距離で自動起爆し、ミネルバの船体を傷つける。
「そらそら沈めちゃうぞ~! ──なんちゃって。やっぱカンタンすぎるのもつまんないな」
 無抵抗の獲物を追い立てるアビスの中で、アウルがぼやく。最初こそ敵の抵抗もあったが、今は無抵抗の船を沈めるだけの単調な作業だ。
 好き放題暴れられるゲームも、飽きてしまえばつまらない。もっと歯応えが欲しいなどと考えてしまう。
 ふと、スティングの顔が頭に浮かんだ。普段は冷静ぶってる割に、ちょっと強い敵に出くわすと熱くなって戦いを楽しみだす、我等が長兄。
「いやいや、スティングじゃないんだし。あんな暑苦しいのは僕のキャラじゃ……ん?」
 レーダーに反応、それも後方から。攻撃をディープフォビドゥンに任せ、反応がある方向をズームアップ。
 少々濁った海の先に捉えたのは、敵の姿。
「アイツは……あのデカブツのパチモンかよ!」
 全身に鎧を纏ったサムライのようなMS。どうやら包囲を抜けて援護に来たらしい。
 ユニウスの魔神を模したMS──双剣を手に戦場を駆け、敵を次々と斬り倒していくその凄まじい戦いぶりは、オーブ襲撃事件やオーブ沖会戦などを通じ細々ながら連合にも伝わっている。恐らく、いや間違いなく強敵だろう。
 だがそう思いながらも、アウルはその姿を見て笑った。緊張を誤魔化すかのようで、どこか嬉しそうな笑い。そしてゆっくりと海中を進むオーガアストレイの姿を、見下すような哂い。
「いいじゃん、歯応えがありそうなのが来たよ……けどさぁ!」
 後方のディープフォビドゥンにミネルバへの攻撃を続けるように言って、機体をMA形態に変形させ先行。一直線にオーガアストレイへと突き進む。
「そんなチンタラした動きで、僕のアビスに追いつけるのかい!?」

 
 
 

 一方ティトゥスは、慣れない水中での行動に戸惑っていた。
「やはり水の中では機体が重い……」
 アビスのように海中戦闘前提の設計でもなければ、フォビドゥンシリーズのように水圧、抵抗を低減するゲシュマイディッヒ・パンツァーも装備していないオーガアストレイは、水中行動に適してはいない。むしろ平均より大振りな機体は水の抵抗を強く受けてしまう。
 四肢は水という鎖に絡み取られ、視界も濁った海水に覆われている。そんな劣悪な状況の中、コクピットに警報が響いた。
 前方からMA形態のアビスが、オーガアストレイ目掛け迫る。回避不可能な速度と位置。
「破っ!」
 迎撃しようと、刀が水を裂いて振られる。その動きは並のMSよりはずっと速いが、通常のオーガと比べればずっと遅い。動きを遮る海水が、珍しくティトゥスに機体の操作を誤らせた。
 振り下ろされた刃を、小さな軌道の変化で易々とかわすアビス。そのままシールドに覆われた機首から突っ込んで来る。鯨の突進にも等しい衝撃が、オーガアストレイとティトゥスの身体を突き抜けた。一瞬、呼吸が止まる。
 オーガストレイを弾き飛ばしたアビスは機首を上に上げ海面方向へ上昇。かと思えば素早くMS形態を取ると、ランスを構え足から降下してくる。ランスの穂先が狙うは頭部、更にその下のコクピット。
 だが、いくら不自由な状況でも一方的にやられるティトゥスではない。
 咄嗟に振り上げた刀でランスを受け止め、軌道を変える。側面にも刃の伸びたハルバードタイプの実体刃が、仮面状の顔をかすめた。
 すぐさまランスを引こうとするアビスに、もう一本の刀を振るう。海の色と調和したブルーの装甲に刃は当たり……斬り裂くことなく弾かれた。二機の間にわずかながら間合いが広がる。
「やはり真っ向からは斬れぬか……」
 ティトゥスの言葉に戸惑いや落胆はない。
 PS装甲に実体兵器は通用しない。更に海中ではPS装甲に効果のあるビーム兵器も瞬く間に減衰し、ほとんど威力を維持できないため、実質破壊は不可能だ。
 体勢を立て直したアビスは一気に攻勢に転じてきた。ランスと両肩シールド先端に装備した連装砲四門を組み合わせた連撃で、オーガアストレイを攻め立てる。
 距離を詰めての攻撃をオーガアストレイはかわし、もしくは刀で捌く。強引で深い踏み込みは早く決着を付けたいという意図もあるだろうが、何をしようが装甲を傷付けられはしないだろうという自信、傲慢の表れでもあるのだろう。先ほどの刀の一撃が通じなかったのも、それにより拍車をかけた。
 しかし、その思い込みこそが命取り。
 確かにオーガアストレイの武装では装甲を斬ることは出来ない。だがそれはあくまで『PS装甲の破壊』は不可能というだけの話。『撃破されはしない』というのは驕りでしかない。
 横薙ぎに振られたランスの一撃を、刀で受ける。直後槍を振り払った体勢のまま、アビスがシールドの連装砲を放った。刃の防御を掻い潜った炸裂弾が、装甲にぶつかり弾ける。肩装甲に亀裂を走らせ、大きく体勢を崩すオーガアストレイ。
 それを好機と見て、アビスがランスを深く引いた。コクピットを一刺しで貫かんとする構え。無防備なボディへと、パワー全てを乗せた穂先が突き出され──
「──甘い」
 穂先は空を……否、海を斬った。オーガアストレイはランスの軌道から逃れ、突き出された腕のすぐ横に移動している。
 体勢を崩したように見せたのは、フェイク。全ては必殺の一撃、その直後の決定的な隙を突く為に。
 ──今こそが、好機。
「斬!」
 海中で剣閃が煌く。降り下ろされた一刀の元に、ランスの柄ごとアビスの右腕が断たれた。
「このまま、攻め斬る!」
 敵は素早く、海中で逃げ回られると追いつけないだろうとティトゥスは考えていた。ミネルバや仲間達が危機に瀕している今、時間は掛けていられない。
 故に、攻撃が通じぬように見せて敵を懐に踏み込ませ、決定的な隙を曝け出させた。その瞬間、一気に勝負を決めるために。
 左の刺突。突き出された刀が右足の装甲を貫く。内部で爆発が起きたのか傷口から無数の泡を噴出し、アビスの体勢が崩れた。
 たとえPS装甲とはいえ装甲に覆われていない関節部や、装甲と装甲の隙間──フレームへの外装装着時に出来る『継ぎ目』を狙えば、破壊できないことはない。
「御首級、頂戴する!」

 
 
 

 ナンダコレ? 迫ってくる刃を制止した思考で捉えつつ、アウルは自問する。
 死ぬ? 死んじゃうのか、僕は? スクリーンに映る刃は徐々に大きくなっていく。
 ──ざけんな。
 刃がコクピットハッチの隙間に滑り込み──
「ざっけんなぁぁぁぁっっ!」
 思考を現実に引き戻し、アウルが吼えた。反射的にトリガーを引く。アビス胸部に開いた複相ビーム砲から、光が放たれた。
 先述したとおりビーム兵器は海中ではすぐさま減衰し威力を発揮しせず、それはいくら出力が高くとも大差はない。だからこそアビスは地上用のビーム兵器とは別に、海中でも使用できる実弾兵器を数多く持っているのだ。当然、今発射した複相ビームとて同じことで、ダメージはないに等しい。
 だがわずかばかりの衝撃と至近距離での発光は、一瞬とはいえオーガアストレイの刀を止めることに成功した。
 瞬時の判断、というよりは本能に突き動かされているかのように、アウルは素早くアビスを操作する。バインダーシールドの角度が変わり、オーガストレイへと向けた四つの発射口から魚雷が一斉に放たれた。
 近接信管内蔵の魚雷は発射とほぼ同時に至近距離のオーガアストレイを感知し、爆ぜる。爆発はオーガアストレイだけでなくアビスをも吹き飛ばすが、それが両機の距離を開く結果となった。
「クッソ……クソッ! なンなんだよドチクショウがぁ! この、この僕に、テメェェェ!」
 重たい緊張から解放されたアウルは、息も絶え絶えながら怒り狂う。ここまで追い込まれたのは、エクステンデットとして戦場に出てから初めての経験だった。
 いかなる相手であっても、戦闘兵器であるエクステンデットに敗北は許されない。敗北はすなわち、存在価値の全否定と同義。受けた屈辱に、アウルは憎悪を燃やすが……
「アビスさえイカレなけりゃ、ズタボロにしてやったのに!」
 アラームのなるコクピットの壁を、アウルは殴りつける。
 先ほどの刀はわずかとはいえ、コクピットを覆う装甲に突き立っていた。その傷に魚雷の爆発が作用した結果、フレームに異常が発生、コクピットの耐圧限界が一気に迫ってきていたのだ。
 もはや悠長に遊んでいる時間はない。急いで目的を達成し、帰還せねば。
「こうなりゃ海上に出て、フルファイアでミネルバをぶっ壊す!」
 アビスを変形させるやいなや、すぐさま反転し海面方向へ突き進む。後方からオーガアストレイが追ってくるが、ミネルバを攻撃していたディープフォビドゥンを呼び、足止めさせる。
「指でも咥えて、大事な艦が壊れるところを見物してな、バーカ!」
 憎悪を嘲りに変え、振り向きもせず吐き捨てるアウル。海面は目前へと迫り、差し込む日の光がアビスを照らした。
「コンニチワ、そしてサヨウナラってなぁ! 沈めぇ!」
 飛沫を散らして、アビスが海中から海上へと空高く躍り出る。飛び出した場所は、ミネルバの眼前。
 空中でホバリングしながら一回転、素早く変形して武装をミネルバへと向ける。背部のビーム砲ニ門が装甲を穿ち、シールド内側の三連装ビーム砲計六門が砲門を潰していく。
 そして最大の威力を持つ胸部の複相ビーム砲が、ブリッジへと向けられ──
「──うおわ!?」
 瞬間、アビスの頭部をビームが貫いた。顔の右半分を抉られ、体勢を崩したアビスの発射したビームはブリッジから逸れる。
 何が起きたのかと、ノイズの走るモニターへ目をやるアウル。ビームの飛んで来た方向には
ライフルを構えたザクの姿があった。
「クソッタレ! どいつもこいつも──!」
 ザクを攻撃しようとするアビスの足元で、水柱が上がった。そこから飛び出したものを見てアウルは一瞬呆然とし、直後驚愕の表情を浮かべた。
 最初に見えたのはディープフォビドゥンの後姿。そしてその裏から、ディープフォビドゥンの胸部辺りを左手で持ち上げながら、右の刀を構えたオーガアストレイが現れたのだ。
 斬り上げの一撃が左シールドのマニュピレータを斬り落とし、続けざまに放たれた蹴りが半壊していた頭部を粉砕する。
「ウワアアァァァァ!」
 絶叫を上げる中、アビスは再び海中へと叩き落された。 

 
 
 

『止めには至らぬか……仕方あるまい』
「ティトゥスさん!」
 ミネルバへ着艦したオーガアストレイへ近寄ろうとしたルナだったが、甲板へと無造作にディープフォビドゥンを放り投げられ、ビクリと身をすくませた。
 コクピットには突刺の切り口と亀裂が入っており、パイロットは生きてはいないだろう。だがそれ以外には大きな傷はなく、動力も無事なようで未だゲシュマイディッヒ・パンツァーも動いているようだ。
「まさかティトゥスさん……敵のゲシュマイディッヒ・パンツァーで海中から急浮上してきたんですか!?」
『細かい話は後だ、ルナマリア』
 オーガアストレイが左手に持ったアーマーシュナイダーを構え直し、空へ向って投擲した。放たれたナイフはこちらに向かって来ていたウィンダムへと飛び、ジェットストライカーの翼部分を貫く。破損部分から翼がへし折れ、ウィンダムがガクンと体勢を崩した。
『急ぎシン達の助太刀に行かねばならぬ。手早く片付けるぞ』

 
 
 

『オラオラどうした! その程度じゃなかったろ、ええ!?』
「くそっ、うるさい!」
 サーベルをシールドで受け止め合う中、シンは接触回線から聞こえてくる声に苛立ちながら叫び返した。
 自分がカオスに抑えられる中、レイやアスランは無数のウィンダムに攻め立てられ満身創痍だ。援護にいこうにも周囲を取り囲むウィンダムが邪魔をする。
 それに正直、援護に回るほど余裕はない。
 拮抗状態からカオスを弾き飛ばし、ライフルを構えて撃ちこむ。だがカオスは右方向へ一気に加速、ビームの火線から素早く外れる。加速停止と共に素早く身を翻し、ライフルと肩の機動戦闘ポットからビームを乱射してくる。閃光は幾度となく装甲をかすめ、ダメージは蓄積していく。
 手強い。今更ながらシンは敵の強さを痛感する。カオスを駆る敵は、これまで戦ってきたときよりもずっと
強くなっていた。
 中距離では手数を生かした高火力の攻撃を駆使し、その中にサーベルと両足のビームクローによるヒット&アウェイを組み込んでくる。機動ポッドの補助による瞬間加速力も厄介極まる。カオスの特性を熟知し、もはや完全に自分のものとしているようだ。
 小回りとパワー、そして運動性はある程度インパルスが勝っている。懐へと踏み込み、格闘戦に持ち込めば勝機はある。
 だが、その隙を見出す事が出来ない。
「周りのウィンダムさえどうにかなれば……!」
 ウィンダムからの攻撃が幾度となくシンの動きを遮り、決定打を打たせない。その時の隙を突きカオスも攻め立ててくるが、何故かそういう場合はどこかカオスの動きがぎこちなくなり、なんとか今まで耐えられた。しかしこのままでは時間の問題だ。
 そんな時、後方から高出力のビームがインパルスの側面を通り抜けた。ビームはウィンダムの包囲網を突き抜け、哀れな一機がその奔流に貫かれて爆散した。

 
 
 

 グゥルの上に乗ったザクウォーリアが、装備変更したガナーウィザードを構えて包囲網へと駆ける。そのコクピットの中で、ルナは必死に仲間達へと呼びかけていた。
「シン、レイ、アスランさん! 誰でもいいから応答して! 聞こえてる!?」
『ルナマリアか!』
『ルナマリア、ミネルバは無事か!?』
「こっちはなんとかなりました! ティトゥスさんとも合流してます!」
 レイとアスランの声が返ってきたのにルナは安堵するが、まだ気を抜く時じゃないと頭を振り、気合を入れ直す。彼女のザクの横には、エールストライカーを装備したオーガアストレイが併走している。
「それよりもそっちです! 状況は!?」
『正直マズイ、な……クッ! 隊長機以外にも、ウィンダムの中に厄介な奴が二人か三人混じっている……そいつらの判別が……っ!』
『シンもカオスに抑えられている。援護に行きたいところだが、こちらにも余裕がないっ……!』
「やっぱり、さっきの連中と同じ……アスランさん、レイ! 思いっきり包囲してるウィンダムに攻撃して、とにかく連中を揺さぶって頂戴!」
 突然の提案に、アスランとレイの戸惑う様子が通信機越しに伝わってくる。確かにいきなりこんなことを言われれば困惑するのは当然だろう。
『どうする気だ、ルナマリア!?』
「説明してる暇なんてないでしょ! ……お願い、あたしを信用して!」
 押し黙るアスラン。だが沈黙は数秒と続かなかった。
『……分かった。頼んだぞ──レイ!』
『了解です──ルナマリア、任せるぞ!』
「……ありがと、二人とも!」
 わずかに微笑み、そう返すルナ。二人の信頼に答えるためにも、この作戦を成功させなければならない。
「ティトゥスさん、フォローお願いします!」
『承知した……アテにしているぞ』
「了解!」
 ルナが返事をした瞬間、状況が動く。ザクファントムが残った誘導ミサイル全弾を、セイバーが残っている左背部ユニットのビーム砲を、同時に包囲網へと解き放ったのだ。
 複雑な軌道を描く十発近いミサイルが煙を引きながらウィンダムへと迫る。何発かが迎撃され、その誘爆で他のミサイル数発も弾けて消える。だが残った数発のミサイルが敵陣で爆ぜ、ウィンダムが吹き飛ばされる。内一機が致命的な損傷を受けたのか、真っ逆さまに海面へと落下していく。
 本来破壊された右ユニットに回される筈のエネルギーをも集中させ、照射時間を若干延ばされたビームが右から左に薙ぎ払われた。一瞬巨大なビームサーベルのような姿を見せた奔流は、その刃に二機のウィンダムを引き裂いた。
 包囲された状態からの無理な攻撃ゆえ、ほとんどのウィンダムがその攻撃を回避していたが、その瞬間包囲網は外方向へと広がり、密集していたウィンダム同士の距離がわずかながら離れた。
 それに合わせて、ザクウォーリアがガナーウィザードを構えた。狙うのはいち早くアスラン達の攻撃を避け、後ろに下がった一機。その手にはライフルが構えられ、今にもセイバーを撃とうとしていた。
 その機体が紛れ込んだ凄腕であることをルナは見抜いている。あまりに高いその能力が、ルナの眼には非常に『目立って』視えていた。
「そこぉ!」
 その目立つウィンダムを狙い、トリガーを引く。ビームがウィンダムへと伸びるが、ウィンダムは既にビームの軌道から逃れていた。
「っあ~! なんでまた外れるかなこんな時に!」
『任せよ』
 ビームを避けたウィンダムの横を、風が通り過ぎた。フルブーストで接近したオーガアストレイがウィンダムの胴を斬り抜いたのだ。そのまま周囲を飛び回っていたウィンダムにも、オーガアストレイは剣を振り下ろしていく。
『もう一機は!?』
「えっと……あそこ!」
 すぐさま周りを見渡し、目標を探す。徐々に少なくなってきたウィンダムの中、他の機体にうまく隠れながら後退しようとしている一機を見つける。
「逃がすかあ!」
 ウィザードを収納し、ライフルを構える。これまでの経験上、ライフルの方が信頼が置けた。
 逃げる敵を追いかけるように撃ちまくる。ウィンダムを何度もビームが掠めていくが、当たらない。
 ルナの攻撃を止めようと、周囲に残るウィンダムから攻撃の手が浴びせられた。ザクの装甲が抉られ、グゥルもライフルに撃ち抜かれる。
 しかし既に、ルナの目的は達せられていた。
「誘い出し成功……ティトゥスさん、あいつです!」
『承知!』
 ライフルの弾幕から逃げる内、すっかり包囲網から離れていたウィンダムにオーガアストレイが向かっていくのを、ルナは見た。
「ちゃんと、あたしも仕事したよね……」
 満足気にルナは呟く。半壊したグゥルから放り出されたザクが、海面に落下し盛大な水柱を上げた。

 
 
 

「三機ともやられただと!?」
 最後の映像がブラックアウトするのを見て、ネオは舌打ちする。これで三つのディスプレイ、全てが消えた。
 自分が『直接指揮』し、戦闘の基点となっていた三機の消失。これにより雑兵ばかりの包囲網は完全に瓦解し、次々とウィンダムが確固撃破されていく。
 既にアウルがJ.P.ジョーンズに撤退しているのも彼に伝えられている。もはやこれまでと、ネオは作戦の失敗を確信した。
「仕方ない、スティング引くぞ!」
『簡単に言うな! こっちも立て込んでんだ、よ!』
「……ええい!」
 いつの間にかカオスがインパルスと共に戦場の中心から離れている。もはや頭を抱えるしかないネオ。移動しているのが基地の方向なのはマズイが、同時に不幸中の幸いでもある。
「スティング! ほどほどで撤退しろよ! ついでにステラも連れて帰れ、基地の連中は無視して構わん!俺は少し足止めしてから戻る!」
 何かスティングが喚いているように聞こえたが無視し、通信を切る。もうくだらない事に神経を回している余裕はない。
 グゥルに乗ったザクファントムがウィンダムを撃ち抜き様、果敢にもこちらに向かってくる。ザクもグゥルも満身創痍だが、分かる。その闘志は衰えていない。
「その気概は評価するがね、白い坊主君……そんな機体じゃあな!」
 リミッターを解除しているジェットストライカーをフルスロットルで噴かせる。激しいGが身体を襲うが、耐えられないほどではない。
「駒が無くなったのは痛いが、おかげでようやく一パイロットとして全力が出せる!」
 連射されるライフルを紙一重で避けつつ、急上昇から急降下という無茶な軌道を取る。瞬間放ったライフルの光がグゥルに上下から迫り、エンジン部分を正確に撃ち抜く。飛行能力を失い落下していくザクはなおライフルを撃ち追いすがってくるが、一気に距離を詰めて上から蹴りを入れる。落下速度が速まったザクへライフルを向けるが、後方から悪寒を感じて振り向き様に飛びずさる。ザクはそのまま海へと落ちた。
 オーガアストレイの刀を回避できたことに、胸を撫で下ろすネオ。しかし集中は途切れていない。
 鎧武者の後方からライフルが放たれる。それをかわしたネオの目に、飛び出したセイバーがビーム砲を展開する姿が映る。
「流石にこの二機を纏めて相手はキツイな……撤退しますか!」
 あまり悔しげには聞こえない声でそう言うと、ネオは敵に背を向ける。ビームの激しい光がウィンダム目掛け迫るが、ネオは振り向きもせずに回避。そのまま全速力で、戦場から離脱していった。

 
 
 

「うおおおおおお!」
 攻める、攻める、攻める。両手にサーベルを構えたインパルスがカオスに対し、凄絶な剣戟を展開していた。
 切り上げ、振り下ろし、薙ぎ払い、突く。途切れることなく続く、光刃の舞。反撃する暇を一切与えない。その猛攻にカオスは海上から、陸地の上空まで押し込まれていた。
 見よう見まねの二刀流。だがずっとティトゥスと格闘主体の模擬戦を行い、かつティトゥスの動きを訓練中ずっと見ていたシンの経験が、ここに来て活かされていた。
『シン、何をやってる!? 戻れ、深追いは危険だ!』
 アスランの声が聞こえた気がしたが、シンは些細な事と無視した。
 包囲網崩壊に動揺し隙を見せたカオス。このチャンスは逃せない。全ての攻撃に必殺の気迫を乗せ、シンは攻撃を続ける。息が乱れ汗が額を流れるが、これも無視する。
「落ちろおぉ!」
『ウェェェェェェェイ!』
 渾身の一撃を放とうとした瞬間、奇声と共に何かがインパルスに激突した。その際にフォースシルエットを破損し、大きく吹っ飛ばされたインパルスが地面へと落下していく。
 グルグルと回る視界の端にカオスと、今まで姿を見せなかったガイアが地面に着地するのが見えた。
「ガイア!? くっ──!」
 木々の密集した大地に叩きつけられるインパルス。シンはクラクラする頭を押さえつつ、壊れたシルエットをパージしてインパルスを立たせる。随分距離が離れてしまったが、カオスたちが追撃してくる様子はない。眉を潜めたシンだが、ふとその時視界の隅に奇妙なものを捉えた。
 気になってそちらにインパルスを走らせるシン。その目に映ったのは、信じられない光景。
 岩と森林だらけの陸地には似合わない機械的な施設。走り回る兵士。そして──強制労働に駆り出されたと思わしき現地人達がフェンスに遮られ、基地内に捕らわれている光景。
「あれは……!」
 家族や同胞達のいるフェンスの向こうへと逃げようとしている労働者達。連合兵は制止を聞かない彼らに銃を向け、射殺した。
 それを見た瞬間、シンの怒りは一気に沸点にまで到達した。

 
 
 

 目の前でインパルスが大きく弾き飛ばされる。追撃をかけるのがセオリーだろうが、突然の乱入者にスティングもまた困惑を隠せないでいた。
「ステラ!? お前なんで!」
『スティングが押されてたから、助けようと思ったの……それに一人でお留守番、暇だったから』
 スローテンポなステラの声が通信機から聞こえる。敵に対しては苛烈なくせに、普段はどこかボケッとしている妹分。いつもこちらのペースをかき崩すこの娘に、スティングは苦笑する。
「ったく、まあとにかく助かったわ。サンキュ……っておい!」
『何?』
「お前がいるってことは……ヤベえ、基地に近寄りすぎたか!」
 そうスティングが言うのが早いか、基地の方向から爆発音が響く。舌打ちして、スティングはステラを連れて基地へと向かう。
 ──そこで繰り広げられていたのは、凄惨な光景だった。
 インパルスが建設中の基地を、走り回る戦車や車両を、放たれる砲台を次々と破壊していく。頭部から放たれる機関砲が、施設の全てを容赦なく蹂躙する──無論、生身の兵士も同様だ。抵抗しようがしまいが巨大な弾丸で殲滅されていくその様は、まごうことなき虐殺。
 だが一方で、インパルスは命を救おうとしていた。基地を囲うフェンスを引き千切り、捕らえられていた現地人を解放していく。
「強制労働なんてやってたのかよ、ここの連中……!」
 基地に出向いたことのないスティングや今日ガイアで乗りつけ待機していただけのステラは、強制労働の行なわれている事実を知らなかった。
 胸糞悪い、とスティングは思った。確かに戦争に情けもへったくれもないだろうが、建前でもルールというものがあるはずではないのか。戦闘兵器たるエクステンデットといえど、その心はまだ青く潔癖な、十代の若者のそれだった。
 故に卑劣な行為を行なっていた連合に同情はなく、むしろ心情的には現地人を救おうとしているインパルスに共感するものがあった。
 しかし。しかしだ。インパルスのあの行いは。あれでは結局のところ──
『助けようとしてる……でも、怖い……怖いよ……』
「……クソッタレ!」
 吐き捨てて、スティングはインパルスへと一気に近づいた。再び基地を破壊して回るインパルスの背後に回り、その身体を両手で羽交い絞めにする。
「やりすぎだこのバカヤロウ! こんなところで暴れまわって、どうなるのかも分からねえのか!」

 
 
 

 突然自分の操るインパルスが、背後からカオスに拘束された。接触回線から聞こえたパイロットの怒鳴り声が聞こえる。
『やりすぎだこのバカヤロウ! こんなところで暴れまわって、どうなるのかも分からねえのか!』
 何を言ってるんだこいつは。民間人を顎で使うようなふざけた真似をしたのは、お前等連合だろう!
「俺の邪魔を、するな!」
 カオスを引き剥がそうと、背中のスラスターを全開する。よろめいたところに肘撃ちを当て拘束を外し、そのまま大きく前に出る。振り向き様にライフルを構え、カオスへと向けた。
 ライフルの銃口から逃れようとして、不意にカオスがその動きを止めた。シンがトリガーを引く。咄嗟にシールドで放たれたビームを受け止めるカオス。
(……なんで避けなかった?)
 カオスの一連の動作に疑問を抱き、シンの思考にわずかながら冷静さが戻った。まるで何かを庇うかのように盾を構えたカオス。その後ろの光景を認識した瞬間、シンは驚愕に顔を歪めた。
「あっ……」
 そこにはまだ破壊していなかったフェンスと、集まった現地人達の姿があった。皆一様に震えながら、インパルスとカオスを交互に見上げている。
 もしカオスが攻撃を避けていたら──
「そんな、俺は、そんな……」
 インパルスが銃を下げるのを見てカオスも銃を下ろし、フェンスを破壊すると空へと浮上した。そのままガイアを回収し、海の方向へと消えていく。
『シン! 返事しなさいよ! シン!』
 炎に包まれた基地で、インパルスはただその場に立ち尽くす。通信機から聞こえる声、怯えた目を向けてくる現地人、そしてかすかに聞こえる悲鳴や、嗚咽──その全てを拒絶するかのようにシンは俯き、震える手で己の頭を押さえていた。

 
 
 

 鈍い音が、ミネルバのMSハンガーに響いた。
 シンの身体が床に倒れ伏す。その頬は真っ赤に腫れ、唇が切れたのか口元に血が滲んでいた。その目の前で、アスランが握りこんだ拳を突き出している。
 シンから何をしたのかある程度聞いた後、いきなりシンを殴り倒したアスランに、遠巻きに見ていたルナやレイ、メカニック達が驚愕の表情を浮かべる。
「……いきなり何しやがる!」
 顔を拭ったシンが声を荒げてアスランに食ってかかる。先ほどまで民間人を手にかけそうになったショックで気落ちしていたが、いきなり殴りつけられて黙っていられるシンではない。
 対するアスランは涼しげな顔だが、その目は笑っていなかった。
「抵抗したければしろ。今の俺はアレックス・ディノだ。上官云々やザフトは関係なく、一人の人間として、お前の行動が許せない」
「な……巫山戯るな!」
 立ち上がったシンがアスランに殴りかかるがアスランはシンの拳を払い、逆にシンの腹へと拳を突き刺した。呻き声を上げて、シンはその場にへたりこむ。
「アスランさん!」
「黙っていろ!」
 見ていられず非難の声を上げたルナをアスランは一喝した。激しい怒気のこもったその声にルナだけでなく、メカニックの多くもその身を震わせる。
「どうして殴られたか、分かるか?」
「っは……俺は正しい事をしたんだ……俺はあそこに捕まってた人達を、助けるために……っ!」
 息も絶え絶えにそう言うシンを、アスランは胸倉を掴んで無理矢理立たせる。反感に満ちたシンの目と、怒りに満ちたアスランの視線が交差する。
「だから殺したのか。助けようと行動したのだから、どれだけ人が死んでも構わないと?」
「そうさ! 連合の奴等は逃げようとした人を殺したんだ! あんな奴等、死んで当然の……」
「あそこにいた現地人も死んで当然だったのか?」
 唐突なアスランの言葉に、シンの表情が消えた。
 この人は一体、何を言っている?
「民間人を誤射しかけたところをカオスに止められたと言っていたな。では聞くが、それまでに一度も誤射しなかったのか? 基地を造るために集められていたんだ、建物の中に現地人がいなかったかどうか、ちゃんと確かめて破壊したのか? お前の攻撃や、お前を狙った攻撃の流れ弾はまったく基地の外に周囲に被害を及ぼさなかったのか?」
「それは……違う、俺は、俺は……」
 思い出されるのはあの時の光景。暴れまわる自分の周りから聞こえる、断末魔の叫び。怯えた目でこちらを見上げる現地人達の顔。
 シンの目から怒りが消え、代わりに焦燥と困惑の色を映し出す。そんなシンからアスランは手を離すと──その表情を憤怒に染め上げた。
「助けようとした、なんてのはお前の都合でしかない! お前がしたことは独りよがりの虐殺だ! あそこで力を奮えばどうなるか、お前は少しでも考えたのか! 死んで当然だと!? どの口がほざく! お前にそんな事を決める権利があるとでも思っているのか! お前の身勝手な行動が、失われなかったはずの多くの命を奪ったんだ!」
 先ほどの一喝とは比べ物にならないほどの怒声。その言葉が一つ一つ、シンの心に突き刺さっていく。
 ──そして、決定的な一言が、告げられる。

 

「お前のせいで家族を失った人もいる筈だ! お前は……お前はお前の心底憎んでいるフリーダムと同じことをやったんだっっ!」
「……っっっ!」

 

 オレガ、フリーダムト、オナジ?

 

 膝を折り、その場に項垂れるシン。全身がガクガクと震え、それを抑えようとするがごとく両手で己の肩を抱く。
 それを見下ろすアスランは背を向けると、震えるシンへ吐き捨てるように言い放った。
「戦争はヒーローごっこじゃないっ! 力を奮うなら、その力がどういう結果を招くのかを自覚しろっっ!」
 そのままシンから離れ、ハンガーを出ようと歩いていくアスラン。それを合図にしたかのようにルナやレイ、ヨウランやヴィーノら若いメカニック達がシンに駆け寄る。
 友人達の声はシンに届かない。放心状態のシンの頭には、アスランが最後に言った言葉が幾度となく
反芻されていた。

 
 
 

「すまぬな。お主一人に面倒を押し付けた」
 横から声をかけられアスランが止まる。オーガアストレイの足に背をもたれたティトゥスが、閉じていた目を開いた。
「構わないさ、俺が言いたくて言ったことだ……しかし、殴ったのはやりすぎだったかな?」
「問題なかろう」
 ティトゥスが腕を組み、軽く息を吐くと、言った。
「拙者なら殴りつけて終わりだった」
 一瞬キョトンとしたあと、アスランは微笑む。そして再び歩き出し、そのままハンガーを出て行った。
「……シンよ。お主は折れず、堕ちず、己の答えを見つけ出せるか?」
 項垂れたままのシンに目をやりながら、ティトゥスは呟いた。

 

】【戻る】【