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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_第15話1

Last-modified: 2008-11-28 (金) 03:28:46

「それは本当なのか、ユウナ!」
 問い詰めるアスランに、モニターの向こうのユウナは自嘲じみた苦笑を浮かべた。
『ああ、本当だよ。君が議長から聞いた【ロゴス】……ボクの父上も、そのメンバーの一人だった』
 オーブ襲撃事件で亡くなったユウナの父、ウナト。彼が先の大戦で焼かれたオーブの復興のためロゴスに接触。数多の物資や資金の援助と引き換えに、最新技術や政治機密などの様々な情報をロゴスへと流していたことが判明したのだ。
『確かに仕方ないとも思うよ、当時のオーブを考えれば。考えてみれば焼かれた上に連合に取り込まれかけてたオーブが、わずか二年でここまで復興したのがおかしな話さ。それだけロゴスの援助に助けられたってことなんだろうね』
「しかし……」
『割り切れない?
 ……ボクも複雑さ。確かに父上はオーブのためなら手段を選ばない人だったけど、まさか裏で世界を支配する秘密組織のメンバーだったとはね』
「ロゴス……か」
 呟くアスラン。彼にはロゴスに対し、未だ実感が沸かなかった。
 世界の裏側に隠れ、ブルーコスモスから果ては国家すらも操る力を持つ利益追求組織、ロゴス。
有り体に言えば金持ちの集団にしか過ぎぬそんな組織に、世界が牛耳られているなどと。
 在り得ない。そうアスランの理性は今も警鐘を鳴らしている。世界とは、そんな単純なものではないはずだ。
 もしそれが事実であるならば──この世界は歪んでいる。アスランはそんな思いに駆られていた。
『けど、今はそれがありがたい。父上の残したパイプを伝って、ロゴスの内部へと切り込める可能性が出てきた。
 そこからメンバーの素性を慎重に調べて、ボクやカガリが接触してこちら側へ引きこもうと思ってる……
 父上の行いは決して手放しで受け入れられるものじゃないけど、オーブを愛していたのは間違いないんだ。
 その思いを無駄にはしないよ』
「ああ。そっちは任せたぞユウナ」
 ウナトの行いに最もショックを受けているのはユウナだろう。だがそんな様子はおくびにも出さず、
ユウナはウナトの残した物を良い形で引き継ごうとしている。
 父の思いを息子が受け継ぐ──それが出来なかったアスランは、ユウナに少しだけ嫉妬を覚えた。
『それと、アスラン。実はもう一つ話があるんだ。こっちは完全に良くない知らせ』
「……何だ?」
 神妙な顔つきで語るユウナ。
 アスランはその言葉を聞き……ついに来たかと、その表情に諦観を浮かべた。

 
 
 

第一五話 The Battlefield of Blades~刃舞う戦場~

 
 
 
 
 

 J.P.ジョーンズの私室で、ネオは仮面をしていても分かるほど渋い顔をしていた。
「それで……なんで自分の記憶は消さないでくれ、なんて言い出した」
 目の前に立っているスティングに向けてネオは問う。スティングは悲痛な表情でネオから顔を背けた。
「前の休暇で何があった? ステラは変に上機嫌かと思えば、アウルはやけに沈んでるし……
 オマケに普段は落ち着いてるお前がこれだ。そのくせ、ステラとアウルの記憶は絶対に消せときた」
 スティングは答えない。煮え切らない態度に、ネオは仮面を放り投げて髪を掻き毟りたい衝動に駆られた。
 やはり休暇に出すべきではなかったか──ネオがそう思い始めた時、ポツポツとスティングが話し始めた。
「あいつらに……」
「ん?」
「あいつらにやらせちゃいけねえことが出来た……だが、俺がそれを覚えていなきゃどうすることも
 出来ないんだ。だから、頼むネオ! ミネルバを倒すまででいい! 俺の記憶を消さないでくれ!」
 必死に懇願してくるスティング。始めて見るその様子にうろたえながら、ネオはその言葉の中にあった単語に気づいた。
「ミネルバだと? あの連中に関わることなのか? どういうことだ」
 スティングは一瞬ハッとし、苦虫を噛み潰したような顔で再び黙り込む。
「話せない、か……」
 どうやら随分とややこしい話らしい。記憶を覗けないのはこういう時不便だなとネオはため息をついた。
「……分かった。科学者連中やジブリール卿には俺が取り成しておく。スティングの士気は高く、
 下手に記憶を消してそれが失われるのは避けたい……とでも言えばなんとかなるだろう」
「っ! すまねえネオ、恩に着る!」
「ただし、二つほどお前に注意しておくことがある」
 声のトーンを低く、強い語気で言葉を紡ぐ。記憶を残しておく以上、これだけは言い聞かせて
おかなければならない。
「お前達に施している記憶操作は特定期間の記憶、もしくは調整を行なう側が把握している特定の人物に関する記憶を消すのが精一杯……と、俺は聞いている」
 人間は未だ、脳や記憶のメカニズムを全て理解してはいない。エクステンデッドに施す記憶操作も脳内をいじるようなものでなく、暗示や催眠術に近い精神面から効果を与える方法が取られている。
 だがその信頼性は決して高くなく、消してしまった記憶と関係する人物や連想させる出来事と遭遇した場合、記憶を取り戻す可能性がある。
 ──絵を描いたキャンパスを白いクレヨンで塗り潰すことはできる。だがクレヨンの下の絵は完全に消えたわけではないし、クレヨンは剥れにくいものではない。
 記憶の空白に不安を持ったり、消したはずの記憶に関係する物に触れてしまうと、自分から記憶を 取り戻したいと思い始めるのが特にまずい。そうすればさらにクレヨンは剥れやすくなってしまう。
「だからアウルとステラに、消した記憶に関わるものは極力見せないようにしろ。これまではこっちで何とかしてきたが、お前にもそれは徹底してもらう。消す記憶がどういうものか知っているならなおさらだ」
「……分かった」
「そしてもう一つ。戦果は上げ続けろ。絶対にミネルバを落とせ。でなければお前の記憶だって
 いつまで消さずにいられるか分からん。科学者連中やジブリール卿は、俺のように甘くはないぞ」
「分かってるさ……やってやるよ。どれもこれも、俺が全部片を付ける……!」
 話が終わり、スティングが退室する。
 一人残された部屋で、ネオは再び大きくため息をついた。
「入れ込みすぎ、か……だが、やっぱりあいつらは人間だな」
 我ながら因果なものだ、と思う。あの三人に人間らしく生きて欲しいと思いつつ、結局自分は彼らを兵器として運用していくしかないのだ。
 いっそのこと記憶や人格を完全に操作できるなら、彼等も苦悩する事はなかったのかもしれないが──
「何考えてるんだか、俺も。そんなの連中は望まないだろうし、何より……」
 出来るとしたら、まさに魔術だ──そんなことを考えて、馬鹿なことをと笑う。
 思考を切り替えて、ネオはデスクに投げていた資料を手に取った。
 送られてくる増援を率いて、スエズへと再侵攻。ザフトに攻撃をかけよという命令書。そこに書かれた増援の詳細を見てネオは苦笑する。
「オーブもご愁傷様だな。好き好んで戦いたいわけでないだろうに……まあ、せいぜい利用させてもらおう」
 机の上に置かれた別の資料に目を向ける。数時間前に届いた最新の情報──ミネルバが単独で、増援との合流地点の近辺を航行中との報告である。この分なら、ダーダネルス海峡辺りでかち合える。
「今度こそ落とさせてもらうぜ、女神様」

 
 
 

 海を往くミネルバの甲板で、刃の打ち合う音が響いていた。
「たぁぁぁぁぁ!」
 シンの振り下ろす刀を、ティトゥスの刀が受け流した。
 慌てて刀を引き戻しながら、シンは後ろへ下がる。下手に前進しようものなら、即座に首筋に刃を当てられて終了だ。
 追い討ちをかける素振りも見せず、ティトゥスは右手に刀を携えて立っている。
(全然攻め込めない……!)
 どんな角度から打ち込んでも、黒装束の剣士は難なくその全てをいなしてしまう。戦闘経験や身体能力、ありとあらゆる点で劣っているのだから当然といえば当然だ。
 しかし、やられっぱなしというのはいただけない。こちとらザフトの兵士、エリートの赤服なのだ。
「どうした。立っているだけでは何も変わらぬぞ。打ち込んで来い。目の前の敵へ、深く斬り込んで見せよ」
 誘うように言うティトゥス。言われるまでもない。ティトゥスへと駆け出すシン。
 振りかぶった刀に反応するように、ティトゥスもまた刀を振る体勢に入る。
 詰まる間合い。刀の有効範囲に入る。ティトゥスが刀を横薙ぎに振り、シンは刀を──振らない。
 ティトゥスの顔に、かすかな驚きが浮かんだ。
 身体を屈めて刀の攻撃範囲から逃れたシンが、そのままティトゥスの懐に踏み込む。密着寸前の距離に来た所で、シンは改めて刀を構え──
「だが甘い」
 その下顎に、鈍い衝撃が響いた。
 硬い膝に蹴飛ばされ、シンが仰向けに倒れる。刀が手から離れ、甲板へ転がった。
「懐に入る踏み込みと思い切り、あえて刀を振らせ後の先を取る判断は良し。しかし、あの間合いでは刀を振るより四肢のほうが早い。武器に固執したのが誤りだ」
 シンは顎をさすりながら上体を起こしながら、頭上から聞こえる淡々とした説明を聞いた。
「イテテ……ナイフだったら突きを決めれたはずなのにな」
「ナイフか。扱いを知っているのか?」
「あ、はい。士官学校で、格闘訓練はナイフを使ってました。一対一なら教官にも早々負けませんでしたよ……
 ティトゥスさんの前じゃ、自慢にもなりませんけど」
「ふむ」
 シンが落とした刀を拾い上げ、ティトゥスはシンに告げた。
「今日はここまでだが……ならば明日はナイフを使ってもらうか」
「ええ!? でもナイフと刀じゃリーチがありすぎて……」
「要はいかに己の間合いを掴むかが肝心。先も言ったように、踏み込みすぎれば刀は使い辛い。
 お主は躊躇なく敵の懐深くまで踏み込み、重い一撃を撃ち込もうとする傾向がある。下手に刀や戦い方全般を教えるより、踏み込みや至近での立ち回りに絞って鍛えた方が伸びるやもしれん」
 ティトゥスはそういうと、少しだけ表情を緩めた。
「まだ迷いは消えぬが……多少は吹っ切れたようだな。ディオキアを出る前よりは切れの良い動きだ」
「そ、そうですか?」
 少し照れながら、ディオキアで出会った、ジャンク屋の友人たちのことを思い出す。
 シンの迷い。それを僅かながら晴らしてくれたのは彼らと、そしてステラだ。
 死の恐怖に怯えるステラと出会い、シンは『守る』という自身の願いにわずかな正当性を見出す事が出来た。
 まだ何を守るべきか、何が守れるのかということは分からない。だが少なくとも、ステラや友人たちが生きる世界は守るべきだと思えるようになったのだ。
 それがわずかながら、シンに活力を取り戻させていた。決して、疑問や悩みが解決したわけではないが……
「やがては迷っている暇などなくなるだろう……精進せよ」
「はい!」
 甲板から去っていくティトゥス。シンはその背を見送ったのち、ぱたりと身を横たえた。
「つ、疲れた……」
 汗がどっと吹き出る。赤服の前を空け、シンは荒い息を吐いた。
 身体を動かしたから、というより極度の緊張感による疲労。ティトゥスとの対峙はそれだけの迫力がある。
 刀は寸止め、打撃も手加減をしてくれている。それでも下手をすれば殺られるという緊張感。
「やっぱり……」
「すごいな、あのティトゥスって人は。マジでコーディネイターも形無しだぜ」
 不意に頭上からかかった声に、シンは慌てて上体を起こした。
 いつのまに近づいたのか、オレンジの髪の男がシンの傍らに立っていた。
 着ているのはシンと同じ赤服だが、その胸元にはエリートの証、『FAITH』の徽章が光っている。
「ヴェステンフルスさん」
「言ったろ、ハイネでいいって。堅っ苦しいのは苦手なんだ」
 ハイネ・ヴェステンフルス。FAITH所属にして──
「あの人が魔術師、ねえ……そんな感じには見えないけど。むしろ本当に剣士って感じ」
 プラントのアイドル、ラクス・クラインの護衛。
 時の人の声を背後に聞いて、シンは慌てて振り返った。
「ら、ラクス、様!? ラクス様までどうしてこんなとこに!?」
「いえ、休憩室でクルーの皆様とご一緒していたのですが、少し外の空気を吸いたいと思いまして」
「サインしてくれだの握手してくれだの、ひっきりなしに人が来るもんでな。あんだけ怒涛のように迫られちゃ流石のラクス様も逃げたくなるってもんさ。ったく、まず仕事しろってのクルーども」
「ちょっとハイネ……べ、別に逃げたかったとか、嫌とかいうわけじゃありませんですのよ?」
 ハイネの良いように少し引き攣った顔をするラクスだったが、ハイネが本気ではないことはシンにも分かった。
 最新鋭の艦単独によるアイドルのエスコート。単なる送迎と考えれば大仰、行軍と考えれば少なすぎる
戦力だが、下手に戦力を揃えると逆に目に付きやすいというのが上層部の言い分らしい。またスエズの情勢が安定し、連合側もこれまでの無茶のため増援を行なう余裕がないと思われたのも理由だろう。
 兎にも角にも、その名誉ある任務を受けたミネルバがジブラルタルまで送り届けることになった二人の存在は、ミネルバに少なからず話題と波紋を呼んでいた。
 ラクス・クラインの人気は艦内でも高い。彼女と触れ合おうとするクルーは後を絶たず、彼女の方も快くそれに応じている。勤務中にまで彼女にかまけているクルーが続出しているのに、艦長のタリアは頭を抱えているが。
 とはいえラクスとクルーが四六時中一緒に居るようでは彼女が保たないし、仕事にもならない。その辺りの整理やスケジュールを担っていたのがハイネである。当初はラクスに近い人間として多少やっかみの目を向けられていた彼だったが、明るく人当たりが良い性格が徐々に受け入れられていた。
「しっかし、面白い奴ぞろいだなこの船は。ここに来る途中ハンガーでカスタムしたザクを見上げて
 ニヤニヤしてる奴はいるし、エースは甲板で魔術師と刀振り回してるし。まさかこの時代にチャンバラが生で見れるとは思わなかったぜ」
「なんですか、人をイロモノみたいに言って」
「あら、ちがうの?」
「ラクス様まで……」
 シンは当初二人に関して堅苦しいイメージしかなく、あまり積極的に話すことはなかった。
 そもそも立場の違いすぎる二人である。それにラクス・クラインの歌は嫌いではないが、別にファンというほどでもなかった。
 だが人懐こいハイネがシンをほうっておくはずもない。気さくに話しかけてくる彼と、シンは少しずつ打ち解けた。
 そして彼の護衛対象であるラクスも、意外と好奇心の強い人間だった。クルーへのファンサービスを欠かさぬ傍ら、ミネルバの中をうろついては始めて見る物に興味を示し、近くにいたクルーを質問攻めにする。特にパイロットやMSについて、ラクスは強い興味を示していた。
 当初の堅苦しいイメージは払拭され、友人とはいかずとも仲の良い知人くらいの感覚で二人に
接することができる様になっていた。無論、相手が自分より立場が上であることは忘れていない。
 だが何よりシンが二人を受け入れられている理由は、同じ【秘密】を共有していることであろう。
「ま、一番面白いのは、この船がオーブと繋がってるってことだけどな。しかもアスランが
 オーブ大使アレックス・ディノときたもんだ。最初聞いたときはマジかよと思った」
「こっちは驚きましたよ。まさかそれを知ってるなんて」
「フフ、これでもデュランダル議長の隠し玉ですからね。それに知ってないと乗せてくれなかったでしょう?」
 悪戯っぽく笑うラクスに、シンは曖昧な笑顔を返した。
 オーブと繋がりがあり、アスランがアレックス・ディノの側面を持っていることを、この二人は知っている。彼らもまたデュランダルが『信頼に値する』と判断した人間なのだ。
「オーブ、か。いい国らしいな。お前もオーブ出身だったよな。どんなとこなんだ?」
「……別に。俺に聞かないで下さいよ」
 そっけなく返すシンに、ハイネはしまったという顔で自分の頭を叩いた。
 今のアスハやオーブは変わりつつあり、かつてのように憎しみを向ける対象ではない。だが表向きは連合と同盟し、敵として存在している。
 シンにとって、オーブに対する気持ちはまだ複雑ものだった。
「やれやれ、アスランには聞いてたがホントにオーブは苦手なんだね、お前さん」
「……色々ありましたから。それよりも、ラクス様はどうなんですか?」
 苦し紛れにした質問。だがその問いに、ラクスは驚くほど狼狽した。
「え!? あた、私っ!? ですの!?」
「そうですよ。オーブとか、アークエンジェルとか……それとアスランさんについて、どう思われているんですか?」
 一度訊きたいと思っていた。ラクス・クラインはかつて三隻同盟を率いた──ひいては、アスランやカガリ、フリーダムと共に戦った人物だ。
 そんな彼女が現状に対してどんな思いを抱いているのか、シンは知りたかったのだが──
「ええと、その、わ、私は……」
 奇妙に思えるほど、ラクスはうろたえていた。訝しむシンに、厳しい顔をしたハイネが詰め寄る。
「おいシン、いくらなんでも不躾だぞ。ラクス様だって連中には複雑な思いを持たれているんだ。
 ちょいとその質問は突っ込みすぎだぜ」
 そう言われてシンは少しうろたえる。思い返せば、オーブへの苛立ちが昂じてラクスに対して
立場を忘れてしまっていた気がする。
 即座に非礼を詫びようとしたシンだったが、それをラクスが止めた。
「構いませんわシンさん。ハイネも、いいから」
 そういうラクスを、ハイネは相変わらず厳しい顔で見つめている。しばし考えるような素振りを見せて、ラクスは口を開いた。
「アークエンジェル、ですか……一言で申し上げれば、悲しいこととしか言いようがありません。
 あの船の皆様を私は存じていますが、何を考えているのかまでは分からない。指名手配されてしまったとはいえ、願わくば彼らと話し合いことの真相を明らかにしたいと思っています」
 ラクスの語りに、シンは違和感を覚えた。表情や声色こそ悲しげではあるが、なぜかその言葉には真剣味が感じられないのだ。
 まるで、書いてある文章をそのまま朗読しているだけのような──
「ですが、オーブについて……アスハ代表とアスランは、敬意に値する人物だと考えていますわ」
 その瞬間、ラクスの声色が突然変わった。
「オーブは今、非常に難しい立場に置かれています。にもかかわらず、アスハ代表を始めるオーブの方々は皆平和の為、未来の為に頑張っていらっしゃる。それこそ、同盟している連合に知られれば危うい秘密を抱えながら、全て覚悟の上で。アスランは一度は去った祖国に戻ってまで、オーブとプラントの橋渡しをしてくれている……あの方々とかつて、共に戦った、仲間として……私は彼らを誇りに思います」
 一部言いよどんだ部分があったが、その言葉に嘘偽りの空気はなかった。言葉の端々ににじみ出る、オーブへ、アスランへの感謝と敬意。真にラクスがそう思っているということを感じさせた。
 どこか安堵したように、ハイネが表情を緩める。
「なあシン、お前はオーブと戦えるか?」
「え?」
「実際、今のところオーブは敵だ。いずれ戦うことがあるかもしれない。だがその時お前さんはオーブに銃を向けられるか? かつての自分の国によ」
 ハイネの言葉に、シンは言いよどむ。
 かつて、何度も言ってきた──あんな国。どうだっていい。今度は俺が滅ぼしてやる。俺は、オーブが憎い。
 だが、今の自分もオーブへの思いも、その当時とはまるで違う。
 今の自分に、オーブと戦えるのか──
「やっぱりな。お前は実のところ、やっぱりオーブが好きなのさ」
 自問するシンに、ハイネは笑いかけた。
「即答できないってことはそういうことだ。色々あったのは知ってるが、祖国を嫌いになれる奴なんて早々いねえよ。アスランだってそうさ。あいつも親父のこととか色々あったが、それでも今ザフトに戻ってくれてんだ」
 そういわれて、シンは初めて思い至る。オーブから逃げてプラントに渡った自身のように、アスランもまたプラントを離れオーブに身を寄せていたのだ。
 その細かい経緯こそ違うが、その点ではアスランは自分と似ているのだとシンは気づいた。
「だがな、一つだけ言わせてもらうぜ……いざという時は、割り切れよ」
 シンはハッとする。真剣な表情で、ハイネがシンを見据えていた。
「今のお前はザフトなんだ。プラントの為に戦うのが使命だ。いざオーブと戦うときに、自分の祖国とは戦えません、なんてのは論外だぜ……でなきゃ、死ぬだけだ。向こうはそんなこと気にしちゃ くれないんだからな」
「ハイネ!」
 諌めるようにラクスが言う。ハイネは頭を振ると、一息ついて何時もの笑みを取り戻した。
「ま、んなことは早々ないと思うがな。オーブだって好き好んでザフトと戦うことなんざ」
「いや、そうも言っていられなくなった」
 その声に、三人が一斉に振り返る。厳しい顔のアスランがそこにいた。
「ブリーフィングルームに集まってくれ。オーブからの情報で、連合がスエズへ送った増援がこちらへ向かってきているらしい……その中に、オーブ軍も組み込まれている」

 
 
 

 オーブ空母タケミカヅチのブリッジ。側面に併走するJ.P.ジョーンズの横目に、ミナが呟いた。
「仮面の司令官とは、センスがあるのか趣味が悪いのか……ファントムペイン。聞きしに勝る特異な集団らしい」
 先ほど会見したネオを思い出す。協力的とは言えないオーブに嫌味の一つでも言ってくるかと思ったが、見た目に反し丁寧な対応をする人物だった。完膚なきまでに言い負かしてやろうと身構えていたミナからすれば、拍子抜けであったが。
「本当にこれでよいのでしょうか、サハク閣下。連合への協力はやむなしとはいえ、まさか初陣の相手がミネルバとは……」
「今更だぞ、アマギ。我等は形だけとはいえ、連合に組する以上、遅かれ早かれミネルバとまみえるのは分かっていた事だ。そして彼奴等がオーブを出るときも言ったな。この程度の苦境を超えられぬなら価値はないと……そうだろう、トダカ?」
 傍らに立つ艦長に目を向ける。こちらを向いたトダカはわずかに考える素振りを見せたが、決意したかのような表情で頷いた。
 それで良い、とミナは思う。タケミカヅチとミネルバ、オーブとザフト。目指す先は同じなれど、そこまでの過程はそれぞれの道を往くのだ。
 とはいえ、ザフトと本気で争う必要もない。軍責任者であるミナの長い交渉と現地への同行という条件で、派遣戦力はかなり抑えることが出来た。あとは、どれだけ上手く立ち回れるか。
「行くぞ、武士達よ。無益で滑稽な戯曲の戦……なれどオーブの為に、その命かけて踊ってみせよ」
 全ては連合を、ロゴスを内側から打ち崩す為に──せいぜい、踊ってやろうではないか。
 静かにして厳かなるミナの言葉に、将兵たちは一分の迷いなく返礼した。

 
 
 

 ダーダネルス海峡に差し掛かったミネルバは、迫る敵艦隊を感知し戦闘態勢に入っていた。
「オーブが、敵……」
 出撃したフォースインパルスのコクピットで、シンが呟く。
 まさかこんなに早く、オーブと戦うことになるなんて。感情が交じり合い、頭が上手く働かない。
 撃てるのか、俺は? オーブを、オーブを守るために戦う人達を。
『シン、あまり深く考えすぎるな』
 インパルスの横にセイバーが併走する。普段より少しだけ硬い声で、アスランはシンに告げた。
『お前は連合との戦いに集中してくれ……オーブ機は、俺に任せろ。お前が業を背負う必要はない』
 未来のために同胞を撃ち、その責を背負う覚悟。一番辛いのは自分だろうに、そんな中アスランは自分を気遣ってくれる。
 そんな中不意にインパルスを追い抜いていく、オレンジ色をしたザクとは違う機体が目に入った。
 グフ・イグナイテッド。ハイネの機体だ。
 割り切れよ──ハイネから言われた言葉が蘇る。
「どうすればいいんだ、俺は……」
 不安定な精神を抱いたまま、シンは目前に迫る戦いへと向かっていった。

 
 
 

 オーブの船から飛び立つ飛行装備のM1アストレイとムラサメ。連合艦隊から出撃したウィンダムの部隊と合流し、ミネルバへと向かう。
「ミネルバか……しっかりしろ自分。自分はオーブの為に戦わないといけないんだ」
 連合と共同でザフトを責めることに乗り気ではないM1のパイロットだったが、全てはオーブのためと気合を入れなおす。
 とはいえ、ミネルバとの距離はまだ十分にある。油断こそないがまだ交戦距離でないと考えていた彼は自機をゆったりと飛行させ……
「ん、今何か……うおっ!」
 ミネルバの甲板上で何かが光ったと認識した直後、アストレイの側面を突き抜けた閃光が飛行ユニット『シュライク』を破壊。制御を失って海面へと落下していく。
 何とか体勢を立て直して無事着水しようと足掻く中、彼は見た。彼だけではなくオーブ機が一機、またもう一機と閃光に主翼や飛行ユニットを破壊され、高度を落としていく様を。
「なんなんだ、一体……」
 呟いた直後着水の衝撃にコクピットが揺れ、彼は舌を思い切り噛んだ。

 
 
 

 攻撃を受け、慌てて回避飛行を取り始める敵編隊。それを見たルナはにやりと笑う。
「ふふ、焦ってるじゃない」
 狙い通り。距離がある状態で飛行ユニットを破壊出来れば動きを鈍らせ、上手くすれば戦線離脱させられる。オーブに与える被害を、多少なりとも少なくする事が出来る。
 シンやアスランにばかり背負わせてはいられない。それに自分も好き好んでオーブと戦いたいわけではないのだ。
「だから、距離がある内に一機でも!」
 ルナのザクが、手に持った風変わりなライフルを降ろした。
 銃身自体は普通のライフルより長めなのだが、飾り気がなく細長い全体像のためコンパクトに見える。
 トリガーのすぐ上に取り付けられたEカートリッジを、左手が外して投げ捨てる。
右肩のシールド内側に備えられた予備パックを装着。ゼロだったエネルギーが最大残弾五発まで回復する。
 再びライフルを構えるザク。右肩にシールドを移し本来シールドのあった左肩にはアビスのシールドを装備。そして背にはスラッシュウィザードのガトリング二門が鈍く光る。
 これこそが、新たな姿に生まれ変わったルナの愛機。その名も──
「スラッシュザクウォーリア・バラージカスタム! 撃ちまくるわよ!」

 
 
 

「ヒュウ! やるねえ!」
 後方から飛んでくるビームが、また一機ムラサメの翼をへし折った。その精度の高さにハイネが口笛を吹く。
 が、いつまでも気を抜いているわけでなく、先行してきた一団と接触しハイネの顔が真剣味を帯びる。
「テメェらの不幸は二つある……ミーアが乗ってる船を襲ったことと、俺に出遭っちまったことだ!」
 グフの左手から伸びた電磁鞭『スレイヤーウィップ』がウィンダムに絡みつき、強烈な電流を流し込む。
機能を麻痺させたウィンダムを鞭で捕らえたまま振り回し、別のウィンダムに叩きつける。
「オーブはまだしも、連合に遠慮する義理はねえ!」
 素早く鞭を戻し、シールドから剣を引き抜く。刀身がスライド、伸長して諸刃状にビーム刃が展開した大剣が、ぶつかって動きの止まった二機をまとめて一刀両断した。
「……あれ? ミーアが乗ってたから俺が居たんであって、んじゃ不幸は一つなのか?」
 などと一人でボケたことを言う間にも、新たな敵が眼前に迫る。今度はウィンダムの三機編隊。
 少し慌てつつハイネが迎撃しようとした時、ビームがウィンダムを貫いた。
『余計なお世話でしたか? ハイネ』
 落ちていくウィンダムを尻目に、白い機体がグフの眼前を横切る。その姿を見てハイネは目を丸くする。
 単体で空を飛ぶ、ザク。グフとは違い単機では飛行できないはずのザクが、である。
 良く見るとブレイズウィザードに翼が生え、更に両足の下腿部にもバーニアと翼が取り付けられている。
 ブレイズザクファントム・エールカスタム。エールストライカーを使いウェストが出力強化、ユンが
バランス調整を行い完成した機体である。
 高出力だが飛行可能なまでには届かなかったブレイズウィザードの推力にエールストライカーの出力と空力効果が加わり、単体による飛行を実現したのだ。
 前もって聞いてはいたが、実際にザクが飛ぶという光景を目にしたハイネは驚愕を禁じえなかった。
『ハイネ?』
「あ、ああスマン。助かったぜ、レイ」
『いいえ。では先に行きます。FAITHの実力、期待していますよ』
 レイの発言に、少しだけカチンと来るハイネ。向こうにそのつもりはないのだろうが、挑発のように聞こえてしまったのだ。
 いくら強化されたザクであろうと、こちとら最新機に乗っているのだ。遅れをとるわけには行かない。
「いいぜ、見せてやる……グフの力ってヤツをよぉ!」
 啖呵を切り、グフは新たに迫る敵機へと剣先を向けた。

 
 
 

 海上での戦いが激化する中、一機海中に潜行するアビスのコクピットでアウルは悶々としていた。
「なんだってんだ、スティングのやつ……」
 テメェは援護に徹しろ、ミネルバには手を出すな──出撃前に、アウルはスティングからそう言われたのだ。
 今回は前のように護衛機は居ないが、それは潜水艦の随伴がない向こうも同じこと。海中からミネルバを攻撃するのは有効な手だと思うのに、スティングはそれをやるなという。
 それ以外にも、最近のスティングには奇妙な点が多い。
 前回の『最適化』から戻ると、自分の持ち物に見慣れぬ服があった。後を引く違和感に首を傾げながらもそれを捨てようとしたアウルだったが、
『わざわざ捨てる事もないだろ。なんでそんなもん持ってるか知らないが、似合ってるんじゃねえか?』
 などとスティングが言い出したのだ。しかもステラも同じように見慣れぬ物を捨てようとし、それをスティングに止められたらしい。
 スティングから服が似合っているなどと、初めてだった。
「なんか悪いものでも食ったのかなあ? まあいいや。手柄を上げちまえば、別にスティングの言うこと聞く必要もないだろ。ミネルバを落とせば……」
 瞬間、アウルの脳裏に嫌な感覚が走った。例えるなら、一瞬ラジオのノイズを大音量で聞いてしまったような感覚。
 顔を顰めるアウルだったがその感覚は一瞬で、首を傾げながらも目的達成に動き出そうとする。
 しかし、レーダーに敵影を感知してその動きは止まった。
「敵!? ……この反応!」
 反応を追ってアビスを前進させるアウル。反応が近くなり、敵機の姿が海水の向こうに浮かび上がる。
 その姿を捉えたアウルは、目を見張った。
 前の戦いで自分を痛め付けた鎧武者が、腕を組んでこちらを睨んでいた──その背中から、
ディープフォビドゥンのゲシュマイディッヒ・パンツァーを生やして。

 
 
 

「船もMSも凄い数……だ、大丈夫なんですか?」
「ご心配には及びませんわ、ラクス様。必ずここを突破し、貴方を無事にジブラルタルまでお送りします」
 心配げに言うラクスを横目に、タリアは極力優しい声で言った。その心中はあまり穏やかでも
なかったが。
 戦闘をブリッジで見たい、などとラクスが言い出したとき、タリアは断固として反対しようとした。野次馬根性で戦闘を見物されて面白いわけもなく、それでブリッジに押し掛けられるのも御免だからだ。
 しかし「自分の為に多くの人が戦っているのに、そんな中ただ部屋に閉じこもっているなんて我慢できない」と言われ、しかも本気でそう思っている目を向けられれば無下にするのも忍ばれる。デュランダルから極力行動に便宜を図ってくれと言われたのもあり、結局タリアは余計な事をいわない、おびえた姿を見せないという条件でブリッジへの同行を許していた。
「オーガアストレイより連絡! 海中で、アビスと接触したとのことです!」
 メイリンの報告にタリアは頷く。恐らく来るだろうアビスを迎撃に向かったティトゥスの読みが当たった。
 これで当面の不安要素は消えた。後はオーブをなんとかしなければ。
「タンホイザー、発射準備! 目標、オーブ艦!」
「えええ!? ほ、本気ですか艦長!」
 アーサーが目を見開いて聞いてくる。タンホイザーはディオキアでの整備で、地上で使っても環境に影響が出にくい新型モデルに換装されている。だが威力は従来のままを維持しており、直撃すれば環境云々の前にオーブ艦を藻屑と消せる代物だ。
 困惑するアーサーに呆れつつ、タリアは説明した。
「本当に当てるわけないでしょ。威嚇よ、威嚇。確かにザフトとして任務は果たすけど、私だって
 シンやアスランに好き好んで恨まれたいわけじゃないのよ。それに、こちらに強力な兵器があるということが分かれば慎重にならざるを得ない。つまりオーブがこちらへの攻撃頻度を減らす理由付けになるわ」
 成る程とタリアの意図を掴むと、仕切りなおすかのようにアーサーはタンホイザーのチャージを
再指示しようとし……
『フフ、ククク……ヒャ~ハハハハハハ!』
 高らかに響いた笑い声に、ラクスをのぞく全員が背筋を凍らせた。

 
 
 

 ミネルバに近づく敵機に、バラージカスタムがガトリングニ門とシールドの二連装砲を乱射する。
いくらを逃げても執拗に回避機動を追ってくるビームと炸裂弾の雨あられに、敵MSはミネルバに
近寄る事が出来ない。迂闊に踏み込みすぎれば即座に蜂の巣にされ、上手くそこを切り抜けても今度はライフルとシールド内側に装備された三連ビーム砲に狙い撃ちされる。
 名前通りの【弾幕】でミネルバを守っていたザクだったが、不意にその弾幕が止まった。
 近寄ってきた一機にルナがライフルを撃ちこもうとした瞬間、巨大なドリルがその敵MSを貫いたからだ。
ドリルはそのまま直進を続け、後方にいた別の敵機を貫いていく。
 凄まじく嫌な予感がしたルナが、嫌々ながら振り向くと──
『トルネード・ドリルブレイカァァァァァ! もう逃げる場所はNo Whereである!』
『光越えた速さで突き抜けるロボ~!』
 目を疑うような異形の機体が、ハンガーから這い出していた。
 ずんぐりむっくりな胴体に太い足。頭部は無く、胴体の中央に四角い顔が埋め込まれている。
 そして左腕は巨大なクレーンアームになっており、右腕は……ない。
『前作スーパーウェ(略)verレイスタを元に造り上げたこの【スーパーウェスト無敵ロボ$奴隷
 ──マネーとドリルならいくらでもくれてやぁるうぅ──】!
 遠隔操作機能を付加した大型ドリルの前では、何処まで逃げようが無駄無駄無駄ぁ!』
『受け流して見せろこのクルピラ野郎ロボぉ!』
 何がなんだか分からない。半分トんだ意識の片隅で、ルナは思った。
『さあ、行くのであ~る!』
 もはやMSの面影を完全に無くした破壊ロボが跳び、更に高度を維持したまま前方に飛ぶ。
どこにそんな推力がと疑いたくなる光景だったが、僅かに前進したところでその動きがピタリと止まる。
『ん? どうしたであるか?』
『あ。そういえば推力のほとんどはドリルに割り振ったから、ドリルがないと飛べるわけ無いロボ』
 一瞬の静寂。
『……ギェアアアアアアアアアア!』
『ロボーーーー!』
 ボチャンと質量にそぐわない軽い水音を上げて、破壊ロボは海へと消えていった。
「……さーて、迎撃迎撃っと」
 何事もなかったかのように、ルナは敵へと向き直った。

 
 
 

「なんだったんだ、今のは?」
 ミネルバでの騒動は知る良しもなく、アスランはセイバーで戦場を駆ける。突然ドリルが後ろから飛んで来て敵機を落とし、そのまま海の中に落ちていったのは驚いたが、嫌な予感がしたので考えない事にした。
 それに今のアスランにはそんなことを気にする余裕もない。
「すまない……!」
 また一機、オーブのムラサメを撃ち抜く。翼を破壊した瞬間はパイロットも生きているだろうが、
そのまま海面に墜落して五体満足でいられる保証はない。
 オーブの兵士達の動きには戸惑いこそ見えるが、手加減はない。数の差もあり、油断すれば一気に押し切られそうなほどだ……そうでなければ、連合に怪しまれる。
 被害を少なくしたいという自分の意思を仲間達も酌んでくれている。だが、どんなに頑張っても
被害は──人死には出る。後の平和のためという理由の下に。
 アスランはミネルバに目を向ける。展開されるタンホイザーが向けられているのは、オーブの艦隊。
 それがベストだ。タンホイザーの威力を見せつけ、それを向けていればオーブが消極的になる理由が立つ。後は何とかミネルバが戦線を離脱するか、オーブが撤退できる状況を作るしか……
「……何っ!?」
 チャージされていたタンホイザーが、側面からの射撃を受けて爆発した。突然の事態に、戦場の動きが一瞬止まる。
 上空を駆ける影、それがタンホイザーを撃ったものの正体。それは戦場へ躍り出ると、その背に十枚の翼を広げた。
「馬鹿な……キラ!?」
 伝説のMSフリーダム。そしてその足元の海中から浮上する、浮沈艦アークエンジェル。
『連合およびザフト、そしてオーブ軍に告げます。今すぐ戦闘を中止してください』
 アークエンジェルから、流水の如く澄んだ声が響いた。
『私は、ラクス・クラインです』

 
 
 

「来たか、来たか! やはり予想通り、希望通り、来てくれたか!」
 闇の中で、ウェスパシアヌスが目を見開いた。同時に計器の光が一斉に灯る。
 海の底から、巨大な物体が浮上を始めた。
「ではとうとう、とうとう私の出番だ! さあ行こう、いざ行こう、いざ参ろう! 【エイボンの書】よ!」

 
 
 
 
 

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