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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_第18話1

Last-modified: 2009-08-04 (火) 18:25:44

 闊歩する巨人の足が、逃げ惑う人々を悲鳴ごと踏み潰す。
 全身に施された火器から無数のビームとミサイルが放たれ、美しき街並みを火の海へと変える。
 街も、人も、MSも、戦艦すらも。巨人の行く先全てが焼き尽くされ、夜の闇を炎で染め上げる。
 巨人の名はデストロイ──その名の通りの、破壊者。
「ユーラシアもバカなことを。下手に反抗してジブリール卿の怒りに触れなきゃ、こんなことにはならなかったろうに」
 巨大MSデストロイの後方上空で、ウィンダムに乗ったネオが独語した。
 せっかくの初陣の相手がザフトでも反連合国でもなく、連合内の内輪揉めの報復とはなんとも情けなくなる。だが命令は命令、忠実に実行するしかない。
 それにこれまでの失敗が、かなりジブリールの顰蹙を買っている。そろそろ挽回しておかなければ、自分もあいつらも、未来はない。
『ケッ、派手にやりやがって……おいネオ、なんであんなのがデストロイに乗れて俺は乗れないんだよ!』
「適正らしいから仕方がないだろう。お前はカオスなだけマシだと思え」
 スティングの舌打ちにネオは苦笑しつつ、一抹の哀しみを胸の奥で押し殺した。
 強制的に記憶を消したスティングは、もう何も覚えていない。アウルのことも、友人たちのことも。その代償として、大量の記憶を消されたスティングの精神はかなり不安定になっていた。
 いや、スティングだけではない。
『ネオ! 敵が、敵がっ! 怖い、怖い、怖い!』
「大丈夫、大丈夫だステラ。お前は強い、お前の乗ってるのはとても強いんだよ。それに乗ってさえいれば敵なんて怖くない」
『ホント? ホントに?』
「ああ、ホントさ。だからそれで、敵を倒してくれ。怖いモノは全部消さなきゃな」
『うん、ステラ、頑張る……消えろ! 敵はっ! 敵は全部消えろぉぉー!』
 半泣きだったステラは突如豹変し、搭乗したデストロイの全火力を再び解放する。半ば常に恐慌状態でいる今の彼女には、味方以外の全てが敵に見えてしまう。
「それでいい。全部消してしまえ。それがファントムペインの……お前達が今生きている理由なんだからな」
 後のことは、終わって考えればいい──そう結論付け、ネオは戦闘以外の一切の思考を止めた。

 
 
 

 連合による西ユーラシア、ベルリンへの攻撃。これはザフトだけでなく地球の諸国にも強い衝撃を与えた。
 ブレイク・ザ・ワールドの被害が大きいという理由で、地球連合の一部でありながら対ザフトに消極的な姿勢だったユーラシア。元々連合内部で大西洋連邦と折り合いが悪い歴史があったが、近日において欧州へのザフト駐留を許したことがついにジブリールの逆鱗に触れた。
 ジブリールは子飼いのファントムペインにユーラシアへの攻撃を支持。最新の大型可変MSまで投入し、主要都市の殲滅を図ったのである。
 この行動が同盟諸国だけでなく連合の内部、そしてロゴス内でもジブリールへの恐怖と不信を喚起し、カガリらオーブの反戦交渉に皮肉にも有利に働くことになる。
 そしてザフトは友軍及び非戦闘員への虐殺行為を阻止するという名目で、ベルリンへの戦力追加投入を決定。
 その中には当然のように、ジブラルタルに駐留していたミネルバも含まれていた……

 
 
 

第十八話 BEYOND THE VESTIGE

 
 
 

「……まさかシンをインパルスから降ろしておいて、あたしにこれに乗れなんてね」
「おいおい、気持ちは分かるが俺たちに当たるのはカンベンしてくれよ」
 ぎこちない笑顔をするヨウランに嫌味っぽい口調になったことを謝り、ルナは先ほどまで調整していた機体に目を向ける。
 右腕にスレンダーライフルを持って佇む、修復されたアビス。その姿にルナはため息を付きたくなった。
「でもカートリッジマウントしないといけないとはいえ、本当にランス省いてよかったのか?」
「大丈夫よ、近づかれないよう弾幕張って、それでも接近してくる奴にライフルってのがあたしのやり方なんだから。欲を言えば背中はレール砲じゃなくてガトリングが良かったけど」
「まあ連射は利くし、砲門の数も火力も上がってるから大丈夫なんじゃないの?」
 曖昧に同意しながら、アビスから目を背けて格納庫を出ようとする。ふと振り返り、横目でアビスの向かいに鎮座するエールカスタムとインパルスに目を向けた。
 エールカスタムのコクピットシートに座るシンに、外から身を乗り出したレイが何かを喋っている。だが話を聞いている筈のシンは、遠目にも無気力で生気が感じられないのが分かった。
 居た堪れない気持ちでルナは目を背けると、早足で格納庫から出て行った。
 インパルスを降ろされたシンは、レイと交代でエールカスタムに乗ることになった。この配置換えにルナはもちろん、インパルスに乗ることとなったレイも抗議したが、デュランダル議長の決定と聞けば文句を言えるわけがない。一切文句を言わないシンと何か言いたげで言えないレイの顔が、ひどく印象に残っている。
「何考えてんのよ、あのオタ議長は……」
 つい言葉にして、聞かれなかったかと慌てて周りを見る。幸い通路に人影はなく、誰の耳にも入らなかったようだ。
 今のルナには、デュランダル議長が今一つ信用できなかった。
 魔術に精通していると知って多少の胡散臭さこそ感じていたが、ディオキアでの会食で気に入らない点こそあるが議長としては流石の人物だと認識を改めていた。
 だがここ最近の行動は、ルナにとって許せるものではなかった。議長として、プラントを統べる者としては当然なのだろう。だが友人たちを──アウルやステラを躊躇なく実験台にしようとしたことに、相手がプラントの長とはいえ憤怒の念を禁じえない。
 そして何よりも、ルナの腹に据えかねるのは──
「あ、お姉ちゃんおかえり……」
 自室に戻ったルナに、ベッドの上に座ったメイリンが微笑みかける。だがその笑みの空虚さに、ルナは笑い返しながら泣きたくなった。この時間帯は普通にブリッジ勤務だったはずだが、艦長あたりが心配して休みを命じてくれたのだろうか。
 アウルが連れて行かれてから、メイリンはずっとこの調子だ。活発さは鳴りをひそめ、口数も少ない。友人を何も出来ず、結局見殺しにしたも同然なことがショックで仕方ないのだろう。
 こんな酷い状態のメイリンやシンを目にして、デュランダルを責めたくなる感情をルナは抑えられない。
「ねえ、お姉ちゃん……アウル君、どうしてるかな? ステラも、ちゃんと元気になったかな?」
 ここしばらく何度もされた質問。いつもルナは黙ったまま、メイリンも追及しない。
 だが、今日は少し違った。
「……なんで、こんなことになっちゃうんだろうね? 友達同士で殺しあって……戦争なんかして」
 ベッドの隅に腰掛けたルナがメイリンを見る。メイリンは布団を抱きしめ、虚空を見つめる瞳に涙を浮かべていた。
「戦争だからってなんでもしていいの? 人の身体や命を好き勝手して、相手を殺して、殺されて……ナチュラルもコーディネイターも、どっちも最低だよ。どっちも戦争ばっかり……誰だって幸せに、平和に生きていたいだけのはずなのに」
 居た堪れなくなって、ルナはメイリンから視線を外す。
「……嫌い……戦争なんて、大っ嫌い……!」
 背中越しに聞こえる啜り泣き混じりの声に、ルナは顔を抑えて天井を仰いだ。
「……ホント、そうだよね」
 自分でも意識せぬまま、ルナは呟いた。
 戦争はいけないこと、あってはならないこと、悪いこと──そんなのは幼年学校の子供だって知っている常識。
 だがこの時ルナは初めて、そして心から戦争が嫌いだと、憎いと思った。

 
 
 

「まったく、人がいない間にとんでもないことをしてくれたもんだ」
 バルトフェルドは顔こそ笑っているが、その目も口調も周囲を咎めるものだった。
 アークエンジェルのブリッジクルー、とりわけ艦長のマリューが申し訳なさ気に項垂れる。
「ラクスという旗印とターミナル、ファクトリーがあるからこそ、僕達の行動は正当性こそないが一つの組織的行動として成立してた……端から見ればテロリストなんだろうけどな。だが今回の行動はなんの意味もないどころか最悪だ。勝手に戦場に出て行って主張一つせず、無差別に攻撃を仕掛けておいて返り討ちときた。それだけならただの馬鹿だが、アークエンジェルは一度ラクスの名前を使ってるんだ。もう一挙一動がラクスの評価に繋がるってのに、キラの先走りのおかげでその評判も右肩下がりだ」
「バルトフェルドさん、何そこまで言わなくても……」
 ミリアリアが擁護しようとするが、バルトフェルドはとうとう上辺の笑みすら消して言った。
「僕だってこんなこと言いたくもないが、事実は事実だ。その張本人のキラは部屋に引き篭もってだんまりというんだから当たり散らしたくもなる……大体君らも、なんでキラを止められなかった?」
 ブリッジを見渡すバルトフェルドから、クルーの誰もが視線を逸らした。バルトフェルドは厳しい顔のままだったが、やがて深いため息をつく。
「……ま、僕も人のことを言えるかどうか微妙だがね。キラもそうだが、ラクスに対してもこのところ
 頼りっぱなしでいるからなあ」
「そんな、バルトフェルド隊長はキラくんやラクスさんにもちゃんと意見していましたよ……けど、私たちはそうじゃなかった。最近の私たちは、キラ君やラクスさんに何もかも任せすぎていたのかもしれません。大人びているように見えるけど、あの子たちはまだ若いのに」
「そうだな、大人としちゃ情けない限りだ。ラクスを担ぎ上げて、キラの力に頼らなきゃ何一つ出来ないんだからな。けど勘違いしちゃいけない。重い物を引き受けてくれているあの二人には頭の下がる思いだが、だからって何もかも二人に任せたり、好き放題させるのが許されるわけじゃない……間違えるのは僕等も、あの子達も同じなんだ。それを互いに補い、助け合っていかないとな」
 はい、とマリュー含め、ブリッジクルーが頷く。満足げな笑みを浮かべるバルトフェルドだったが、ブリッジのモニターを見上げてすぐに表情を引き締めた。
「さて、とりあえずこの話はそこまでとして……ます、これをどうするかだな」
 モニターに映る、焼き払われたベルリンの街。死と破壊を撒き散らすのは連合のMS部隊と、その中心に立つ巨大なMSだ。
「連合がユーラシアを攻撃なんて、まさかと思いましたけど……こうやって目の前に現実を突きつけられると、否定の使用がないですね……ここまでの暴挙に出るなんて」
「しかしタイミングが悪いな。正直今の僕らじゃどうしようもない」
「そんな、こんな酷いことを放っておくんですか!?」
 ミリアリアの非難じみた声に、バルトフェルドは難しい顔で頭を振った。
「何とか出来るならしたいさ。だが如何せん相手も状況も悪すぎる。今までの介入はフリーダムの一対多数におけるアドバンテージやキラの能力の高さでなんとかなった。けど忘れちゃいけないのは、フリーダムも所詮旧式の機体だってことだ。核動力で誤魔化しちゃいるが、機動性も攻撃力も最新MSに劣ってる。あのデカブツ相手の場合、攻撃力不足がおそらく致命的だろう。逃げ回れば負けやしないだろうが、勝てもしない。アークエンジェルやムラサメで支援しても、それは変わらないだろう」
 悔しげに顔を歪めるバルトフェルドに、反論できぬままミリアリアは押し黙った。
「正直惜しいよ。これはどう考えたって連合に非がある。こういう状況にこそ介入して少しでも世界にアピールしたいところなんだが、戦場にいらん介入をして昨日の今日だ、下手な手出しは更にこっちの評価を下げる……無論それだけじゃなく、人道的にもこんな虐殺は許せないさ。だが、今は耐え忍ぶべき時──」
 最後までバルトフェルドは言い切れなかった。轟音とともに激しく艦が揺れ、立っていたバルトフェルドがたたらを踏む。
「なっ、何事!?」
『おいブリッジ! 誰でもいいから何とかしてくれ!』
 格納庫との艦内通信が繋がり、モニターに整備士のまとめ役であるコジロー・マードックの厳つい顔が映った。
「マードック曹長、いったいどうしたの!?」
『坊主が修理の終わったフリーダムに乗り込んだかと思ったら、出撃するとか言い出してカタパルトに乗り出したんだ! 出せ出せ言うからまずブリッジに許可を取れって言ったんだが、そしたらあいつ、カタパルトゲートをぶん殴り始めやがった!』
「なんですって!? ミリアリアさん!」
「は、はい! キラ、キラ返事して! ……ダメです、応答しません!」
 誰もが耳を疑う中、凄まじい鐘切り音が艦内に響き渡る。不快感に歪む一同の耳に、更に信じがたいマードックの叫びが響いた。
『あ、あの大バカヤロウ! よりによってゲートをサーベルでぶった切りやがった!』
 言い切るのが早いか、海中を映すミネルバの窓の隅に、ゲートから飛び出していくフリーダムが映った。海面へ上昇していくフリーダムに誰もが目を奪われる中、我に返ったマリューがマードックに叫ぶ。
「曹長、浸水は大丈夫!? すぐに格納庫から避難を……」
『心配するな、カタパルトはとっくに閉鎖してるよ! しかし坊主のやつどうしたってんだ!? なにやら思いつめた顔で、ラクスの譲ちゃんがなにやらベルリンがどうやらブツブツ言ってたけどよ』
 怒りと疑問の混じった表情をしたマードックの言葉に、全員が返すべき声を失っていた。

 
 
 

 アークエンジェルからフリーダムが飛び立ったのとほぼ同時刻。ミネルバのブリッジクルーもまた声を失っていた。
 眼前に広がる焼け野原。あらゆる建物は瓦礫に、あらゆる人間が死体となって、転がり、積み重なっている。なお燻り続ける炎がそれらを焼き、炙り、焦がしていく。
 ──現世に顕現せし煉獄の光景が、彼らの前に広がっていた。映像で見るものと現実で見るものでは、その悲惨さと惨たらしさには天と地ほどの差があった。
「こ、ここまでやるのか……」
 アーサーの声は震えていたが、これまでのように情けないものではなかった。食いしばった口から漏れる声を震わせるのは、怒りだ。
「酷い……酷すぎる!」
 メイリンも目を潤ませながら、身を震わせている。気落ちしていても、この光景を前に黙ってはいられないようだ。
「こんなことを、許すわけにはいかないわ……なんとしてもあの暴虐を止める! 総員、奮起せよ!」
 タリアの号令にクルーが力強く答える。これ以上の惨劇を阻止しなければと思う気持ちは、タリアとて同様だった。
 全員の視線が怒りを燃やし、煉獄の鬼共──巨大MSデストロイを中心に展開する、連合のMS部隊へ向けられた。
 ミネルバからMSが飛び出す中、既に展開していた他のザフト部隊が攻撃を開始する。
 地上からはバクゥハウンド、空からはバビが攻撃を仕掛け、更に後方に布陣した地上戦艦からの援護砲撃が上乗せされる。無数のビームとミサイルと砲弾が、デストロイに迫る。
 砲火が迫る中、デストロイはゆっくりと両腕を眼前に掲げた。両手の甲に装備された盾のような形状のビーム砲、その中心に備わった結晶体が光ったかと思うと、その結晶体を中心に光の壁が広がった。
 広範囲をカバーする光の壁──陽電子リフレクターの前に、あらゆる攻撃が受け止められ、無力化されていく。いくらかは隙間を縫ってデストロイに命中するが、その巨体が誇示する硬い装甲はたかが数発が当たったところではビクともしない。
 あれだけの攻撃を受けて平然としているデストロイに、ザフト全軍は一瞬時を止め……直後、その身に災厄は降り注いだ。
 頭、口、胸、背、腕、指──デストロイの全身からビームの光が迸った。バクゥハウンドが次々と閃光に貫かれ、バビの編隊が奔流に呑まれ消滅する。大小合わせ二十門近いビームが、周辺のありとあらゆるモノを破壊し尽くしていく。
 その中でも、背中の円盤状ユニット上部からせり出した超巨大ビーム砲の威力は凄まじかった。二連装砲が一対、計四門の砲口から放たれた高エネルギービームは進行方向にある全てを焼き払い、命中した地上戦艦とその周辺を一瞬で蒸発させる。
 展開していたザフト軍の半数以上の戦力が、瞬く間に消失した。あまりの出来事に、先ほどまで高ぶっていたミネルバクルーたちの心が一瞬で凍りつく。
 だが、連合は待ってはくれない。もはや茫然自失で立ち尽くすしかない残存戦力に、デストロイの後方に控えていた通常MSたちがトドメの一撃を加えていく。半ば戦意を失い逃げ惑うザフトの機体が、大した抵抗も出来ぬまま次々と落とされる。
「あ、ああ! そんな……!」
 次々と味方を狩り尽くしていく連合のMS達、その中にカオスの姿を見たメイリンが、認めたくない現実に何度も首を横に振った。

 
 
 

「……そんな……」
 巨大MSの周辺で飛ぶカオスと紫のウィンダム。その姿を認めた瞬間、シンの脳裏にネオの言葉が思い出された。
(ステラは殺すぞ! 敵を、コーディネイターを、民衆を! 連合に逆らう全てが、目の前に立つ全てのモノが、ステラによって殺される! 敵を全て消し去ったあとにしか、ステラに幸せが訪れる事はない!)
 あの時の言葉、それが示すのは──
(ステラの手にかかって、多くの人が死ぬ! だがその責任はステラではなく、お前にある! お前がステラ一人を助けたために、ステラによってそれ以上の人間が殺されるんだ!)
 今あの言葉が、現実に行なわれているとすれば──
「あれに乗っているのは……ステラ、なのか……?」
 見開いた目が、街と人々を焼き払った悪魔のMSを凝視する。嘘だ、そんなはずはないと呟きながらも、確信が揺るぎないものとして存在する。
 デストロイを見つめるその視線の間にネオのウィンダムが割り込んできた瞬間、シンの心を激情が支配した。
「……うわあああああっっ!」
 エールカスタムがビームサーベルを抜いてウィンダムへと突撃した。気づいたウィンダムが、シールドでサーベルを受け止める。そのまま機体をぶつけたシンは、繋がった直通回線に怒号をぶちまけた。
「ネオ・ロアノーク! お前、お前はあぁ!」
『白い坊主っ、だがいつもとパイロットが違う……!? その声、シン・アスカか!』
「あんたは! よりにもよって、あんなものにステラを!」
『ほう、察したか。さすがとでも言っておこうか……だが貴様に怒鳴られる筋合いはないな!』
「なんだと!?」
『言ったはずだ! ステラは全ての敵を殺すと! そしてそれはステラを助けた貴様のせいだとな! 貴様がステラを助けなければこんなことにはならなかった! この惨状を呼んだのは、他ならぬ貴様だよ、シン・アスカ!』
「お前がっ! ステラにあんなことをさせてるお前が、よくもそんな口を!」
『だったらどうするね? 俺を殺して、スティングを殺して、ステラも殺すか!? そうだ! ザフトとして、軍人として、それが正しい行動だろう! さあ殺してみろ! ザフトのため、世界のために、友達を殺して勝利と栄光を掴んでみせろ!』
「……! お、俺は……俺は……!」
『……だから甘いんだ、貴様は……命を奪う覚悟一つ持たないで、戦場に出てくるんじゃあねえよ!』

 
 
 

 ウィンダムがエールカスタムを突き飛ばし、ライフルを構える。態勢を崩したエールカスタムに、コクピットを正確に狙ったビームが放たれた。
『シン、突出しすぎだ! 何をやっている!』
 命中の寸前、割り込んだインパルスのシールドがビームを受け止めた。ウィンダムが追撃を仕掛けようとするが、地上から放たれたレール砲の連射に阻まれ、後方へと離脱する。
 都市の瓦礫に身を隠しながら戦っている、ルナが乗るアビスからの援護だ。
『二人とも下がって! デカブツがこっち狙ってるみたい!』
 ルナの言葉通り、デストロイがシンたちがいる方向を見据えていた。凶悪な面構えの中でカメラアイが輝き、こちらへと一歩歩みを進める。
 その時、デストロイに変化が起きた。頭部が胴体の中に引っ込んだかと思うと、背中の円盤状ユニットが胴体の上に被さるよう移動する。腕部が持ち上がって円盤とドッキングすると、円盤四方に備わったホバースラスターがうなりを上げて機体を持ち上げる。下半身が百八十度回転、脚部が逆関節型の形状に変化する。円盤の正面で、単眼のカメラアイと陽電子リフレクターの結晶体が光る。
 デストロイMA形態。可変すると噂には聞いていたが、あの巨体がスムーズに、かつ大きな変化を遂げたことに多くの者が驚きと恐怖を抑えられない。
 敵対者の心理を知るよしもなく、デストロイが巨体を宙に滑らせながら迫る。そのスピードはMS形態の比ではない。
『くっ、ミネルバに近づかれる前に迎撃するぞ! ルナマリアとティトゥスは残骸に隠れながら牽制および周辺MSの排除を! 俺とシンはスピードで撹乱しながら攻める!』
『オッケー!』
 そう指示して飛び出そうとするレイと、答えるルナ。だが反応のないシンとまったく動かないエールカスタムに気づき、揃って困惑した声を上げる。
『ちょっとシン、どうしちゃったわけ!? 落ち込んでる場合じゃないの分かってるでしょ!』
『シン、しっかりしろ! あの機体を落とさなければ……』
「だめだ……ダメなんだ……」
 シンが叫ぶ。無理矢理搾り出したようなか細い声の告げる内容は、二人の声を失わせるに十分だった……。
「あれには……あれにはステラが乗ってるんだ……!」

 
 
 

「なん……だと!?」
 その言葉に一瞬凍りついたレイだったが、接近してきた気配にすぐさま意識を集中させた。
 振り向き様にビームサーベルを振りながら、敵のサーベルをシールドで受ける。果たして敵も、同じ動作でレイの攻撃を受け止めた。
『ハッ、やるじゃねえかよコイツ!』
「……スティング!」
 インパルスに襲い掛かった相手──それは、スティングのカオスだった。
『ああ? だれだてめぇは? 俺はザフトになんざ知り合いはいねえぞ!』
「……! スティングお前、記憶が……」
 レイの顔に驚愕と悲嘆が走った。なんということだ。どうやらとうとうスティングも記憶を消され、自分たちの事を忘れてしまったらしい。
『気安く俺の名前を呼んでんじゃねえ、コーディネイターが!』
 激昂の叫びとともに、カオスがインパルスを弾き飛ばした。一瞬だが完全に放心していたレイは、タックルをモロに受け機体の飛行バランスを損ねる。
 必死の建て直しを図る中、カオスが足にビームエッジを展開しながら蹴りを仕掛けた。エッジが機体前面をかすめ、装甲に亀裂が入る。
『なんだか知らないが、あのミネルバとかいう艦やお前等を見てると気分が悪くてしょうがねえ! ……速攻で潰させてもらうぜ!」
『それは……許容できない相談だ!』
 フォースシルエットを全開にし、無理矢理態勢を戻しながらカオスに切り付けるインパルス。それを避けたカオスは、両足のエッジとビームサーベルを展開してインパルスを攻め立てる。
『はっはぁ! やるじゃねえか……死ぬほどウゼェ!』
「こんな……こんなことが許される世界は変わらなければならないんだっ……だから!」
 空を駆けながら、二人は互いに命を奪わんとその刃を友人へと振るい続ける。

 
 
 

 デストロイとその周辺のウィンダムに、アビスがレール砲と連装砲を乱射する。ウィンダムにはある程度のダメージを与えられるものの、硬い装甲とリフレクターに守られたデストロイには今のところ傷一つ付けられていない。
「牽制にもなりゃしない……どうしろってのよこんなバケモノ! なんでよりによって、こんなのにステラが乗ってるのよ! ふざけるなぁ!」
 悲鳴に近い叫びを上げつつ弾幕を張るルナ。その視界の正面から、弾幕を抜けたウィンダムが迫る。
「あんたたちがぁぁぁぁぁ!」
 スレンダーライフルを向け、胴体を寸分の狂いなく貫く。爆風を超えてデストロイまで達したビーム弾は、リフレクターに弾かれて虚しく消えた。
「ああもう……! しまっ、マズッた!」
 瞬間、ウィンダム二機がアビスの頭上から飛来し、挟み撃ちにするように左右を取った。右か左か、一瞬の迷いに視線を彷徨わせてしまったせいで、敵の動きを読み取るのが遅れる。
 片方にライフルを向けると決めた時には、両方の敵が既にライフルの発射態勢に入っていた。片方を撃ち抜けても、双方の攻撃を防ぐ手立てがない。
(やられるっ!?)
 そんな悲観思考に捕らわれながらも、ルナは最速の動きでライフルを構え、撃ち放った。
 二つの発射音と一つの【切断音】が、ルナの耳に響いた。

 
 
 

(くだらぬ……)
 飛来したウィンダムを、オーガアストレイが一刀両断する。次いで二機が背後から迫るが、
「……真、くだらぬ」
 振り向きもせず突き出した刃が、ウィンダムの頭部を貫いた。瓦礫の中を歩くオーガアストレイの背後で、二つの爆発音が響く。
 戦いながらも、ティトゥスの心はその戦いになんの感慨も持ち得なかった。心は震えず、得るものなど何一つない。
(あの巨人に剣を向けるか……いや、無駄だな)
 あれに勝負を挑んでも、何にもならないだろう。あの鈍重さだ、攻撃を避けるのは容易い。しかしこちらが奴を倒すとなれば容易ではない。幾度となく斬り裂き、斬り裂き、斬り裂き──途方もない斬撃を与えなければ屠ることはできないだろう。
 命を危うくすることもなく、ただ無為な時間を掛けて斬るだけの泥仕合──そんなものになんの価値があろうか。
 少し前なら、ティトゥスはこのように考えることはなかっただろう。だが今のティトゥスには全ての行動が無意味に思え、無気力が心と身体を動かすことを億劫に思わせていた。
 かつて忌み嫌った【怠惰】がゆっくりと、確実に、再びティトゥスを侵しつつあった。
 そんな時ティトゥスの視界に、両翼をウィンダムに挟まれたアビスの姿が映った。アビスは片方のウィンダムに銃を構えるが、もう片方にがら空きの背中を向けてしまう。。
 ティトゥスはすぐさまオーガアストレイを走らせ、アビスが背を向けた側のウィンダムへと斬りつけた。ビームを撃つことなく、ウィンダムは沈黙する。
 いくら怠惰に蝕まれていようと、仮にも仲間である者を【やる気がない】などという理由で放置するティトゥスではなかった。
『ティトゥスさん、ありがとうございます!』
「……気づいていたか」
 ルナが礼を述べながら、アビスをオーガアストレイに振り返らせる。先ほどのウィンダムと同時に撃ち合う形となったようだが、幸いアビスは相手のビームを肩のシールドで受け止め難を逃れたらしい。
『けどこのままじゃジリ貧……ティトゥスさん、なんとかあのデカブツ止める方法とかありません!?』
「……さてな」
 ない、とそのまま答えるのは憚られ、ティトゥスはそれだけ答えた。
『……? ティトゥスさん、なんか変じゃありません? そりゃ普段から静かな人だとは思ってましたけど、なんだか今もの凄くやる気がないっていうか、緊張感を感じないっていうか……』
 わずかな一言でそこまで感づかれ、ティトゥスは舌打ちを抑えた。変なところで感のきく娘だとは思っていたが、今気付かれるのは煩わしいだけだ。
『ティトゥスさ……?』
 なおも問おうとしてきたルナマリアの言葉が、不意に止まった。怪訝に思ったティトゥスが見ると、アビスの視線が大地に向いて彷徨っている。
 その視線を追ったティトゥスは、ルナマリアが何を見ているのかに気づいた。
 建物の残骸や瓦礫の隅に潜む、いくつかの影。あれは──
『……どれだけ……どれだけ人を不幸にすりゃ気が済むのよ! 戦争ってやつは!』
 ルナの憎悪に塗れた叫びを聞きながら、ティトゥスはその光景に見入っていた。
 怠惰によって揺れ動かなくなりはじめた感情に、ほんの僅かな小波が起こっていた。

 
 
 

 円盤に備わった無数のビームとミサイルが全包囲に降り注ぐ。都市の残骸ごと、味方機が次々消えていく。
 エールカスタムのバーニアをフルに使い、シンは降り注ぐ雨のような攻撃の隙間を掻い潜る。
 デストロイの左に回りこむように飛び、ライフルを構える。シンはトリガーに指をかけ──
「……くっ!」
 撃てない。ステラを撃つなんて、できない。
 ──何をやってるんだ、撃てよ。撃つんだよシン・アスカ。撃ってステラを止めろよ。あの巨体だ、何発か当たったところで簡単に死ぬもんか。それよりもあのデカブツを止めてステラを助けろよ。そうしなきゃステラは今以上に人々を殺し、人々は殺されるんだぞ。お前のせいでステラが苦しみ、罪のない人々が死んでいくんだぞ!
 頭の中でシンの意識自体がシンを叱咤し、動けと促す。だが、出来ない。指が硬直し、トリガーを引けない。
「俺は……」
『シン! レイ! みんな! デカブツを、ステラを止めて! 止めなきゃ……止めないと!』
 唇を噛み締めるシンの耳に、ルナの半狂乱じみた叫びが響いた。
『ルナマリア、どうした!?』
『ステラですって……? いえそれより、どうしたのルナマリア!?』
 通信機からレイだけでなく、タリアの声も響く。
 返されたルナの涙声の叫びに、シンの背中に凄まじき悪寒が降りた。
『まだ……まだ街には生きている人がいるの! 逃げ遅れた人や、瓦礫に閉じ込められて逃げられない人たちがいっぱい! このままじゃ……このままじゃみんな死んじゃう!』
 誰もが声を失う中、一際大きい戦慄と絶望がシンを襲った。
「……同じ……同じだ、何もかも……」
 理不尽な侵略。理不尽な恐怖。そして、理不尽な死──
(あ、ああ……父さん……母さん……マユ……)
 ここは、あの時のオーブだ。両親が、妹が死んだあのオーブの再来じゃないか!
『くっ……MS隊! 敵機を極力、生存者がいないと思われる地点まで誘導させるよう戦いなさい! どこまで人死にを抑えられるか分からないけど、それしかないわ!』
『他にないとはいえ、だがこの状況で……!? シン、どうした!?』
『え、ちょっと……シン!? シンッ!』
 完全に動きの止まったエールカスタムに、誰もが狼狽した声を上げる。
 シンは、もう動けなかった。全身を苛む悪寒に身体が震え、力が入らない。歯がガチガチと鳴り、吐き気がする。とても寒いのに、頭だけは高熱を発したように熱を持って考えが何一つ定まらない。
 デストロイがMS形態に変わり、ただ立ち尽くしゆっくり下降していくエールカスタムに凶相を向けた。口部に備わった砲門に光が集まるのを見ながらも、シンは身じろぎ一つできない。
(ステラに殺される……報いかな。これで、楽になれる──)
 光の奔流が放たれる。死が形を持って迫る中、歪んだ思考でシンはそんなことを思った。
 だがその思いは機体を揺らす衝撃と、視界に飛び込んだ影によって吹き飛んだ。
「え……」
 頭が一気に冷え、目の前で起きた現実をゆっくり理解していく。
 ビームが届いた。機体にダメージはない。射線から押し出されたからだ。なんで? 別の機体が前に出てぶつかってきたから。そしたら俺は助かって、その機体が貫かれて──その、機体は──アビス!
「あ、あ……ル、ルナァッ!」
『こ、このお馬鹿……何ボケッとしてんのよ……!』
 フルブーストで宙に跳んだアビスが、体当たりの形でぶつかってシンをビームから救っていた。だがその代償に、左肩から先が完全に消失している。
 腕の付け根からスパークを発しながら、アビスが重力に引かれる。その機体を抱くようにエールカスタムが受け止めるが、今度こそ仕損じまいとデストロイが胸部の三連砲口を二機に向ける。
「ダメだ、ステラ……くそぅ!」
 ルナを巻き込むわけには──そう思っても、未だにシンの体が動かない。
 このままルナまで犠牲にするしかないのかと思われたその時、空からビームと砲弾の雨がデストロイの左半身に降り注いだ。リフレクターを展開する間もなかった奇襲に、デストロイが一瞬うろたえる。
「あ、あれは……」
 顔を上げたシンは、攻撃した存在を捉え目を見開く。
 フリーダムが翼を広げ、全武装をデストロイに向けていた。
 先の戦いで受けた損傷は修復され、これまでと同じ姿を完全に取り戻したフリーダム──だがシンはその姿に、これまでとは何か違う危うい雰囲気があるように感じた。

 
 
 

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