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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_04_2

Last-modified: 2013-12-22 (日) 05:23:14

 虚空の宇宙、その広大な海を行く、一隻の船──ザフトの新造戦艦『ミネルバ』。この艦は現在、進宙式が行われる筈だったアーモリーワンを襲ったガーティー・ルー──ザフト側からはコード『ボギー・ワン』と呼ばれている──の追撃という、なんとも多難な処女航海の中にあった。

 数日前、既に一戦を交えたが、お互いに被害を受けつつも最終的にボギー・ワンを取り逃がし、現在は各方面と連絡を取りつつその足取りを探っていた。

「怪我をしているところ、無理を言って来てもらってすまないね、ミスターティトゥス」

「お気になされるな議長殿。こちらに来れたのは拙者にとっても僥倖。むしろ感謝しております。怪我については拙者も傭兵の端くれ、この程度で音を上げるような身体はしておらぬゆえ、心配は無用」

 そのミネルバの艦長室で、デュランダルと立ったままのティトゥスがデスクを挟んで対峙していた。

 デュランダルの傍らには本来の部屋主であるタリアが立ち、ティトゥスの側にはカガリとその傍らに立つアレックスの姿もある。

 アーモリーワンに居たティトゥスが今現在何故ミネルバに居るのか、それはミネルバやインパルスの予備パーツを運んできたアーモリーワンからの輸送艦に同乗していた為である。更に回収されたツヴァイダガーも一緒だ。

 しかし本来なら護衛対象のカガリが同乗しているとはいえ、最新鋭艦に部外者であるティトゥスが後から乗り込むなど簡単に出来るはずがない。何故このようなことがまかり通ったのか、それはティトゥスについての報告を聞いたデュランダルが、何故かティトゥスの輸送機への同乗を許可したのが理由であった。

「……無礼を承知で率直にお聞きする。何故拙者のような何者とも知れぬ人間をこのような場所へ呼ばれたのか? 機密だらけの船に部外者を招くなど、とても国一つを背負う人物の判断とは思えぬ」

「お、おいティトゥス! それは流石に失礼だろっ!」

「いえ代表、彼の言うことは尤もです。お気になされずに」

 ティトゥスの遠慮ない言葉にカガリが慌てて止めに入るが、デュランダルは片手を上げてそれを制する。

「ではティトゥス君、君の疑問に答えよう。君をここに呼んだ理由の一つは、まあ簡単に言えば謝罪として、といったところかな」

「謝罪、と申されると?」

「うむ。新型強奪の件に加え、アスハ代表や君等を襲ったという正体不明の襲撃者達……これらの事件は一重に我々プラント側の防衛能力不足による落ち度だ。そのためにそちらに多大な迷惑をかけてしまった。これで済む様な話ではないが、改めてアスハ代表、そして君等護衛の方々に頭を下げさせてもらいたい」

「議、議長やめてくれ! そんな……」

 席を立ち、深々と頭を下げるデュランダルにタリアとティトゥスは僅かに眉をひそめ、カガリは対照的に激しくうろたえる。アレックスもカガリほどではないが困惑の表情を浮かべていた。

「頭を上げてくれ議長! 悪いのは事件を起こした連中だ、議長が我々に頭を下げる必要など無い!」

「有難う御座います代表。しかし我等にも責任があるのも事実、とはいえこの状況では謝罪を形にするのも難しい。出来ることといえばそちらの行動に極力便宜を図ること程度……ティトゥス君、君を此方に呼んだのはその一環と思ってもらいたい。君がアスハ代表との合流を希望しているのはアーモリーワンからの報告で聞いていたのでね。勿論全てが済めば改めて、プラント評議会議長として正式にオーブへは謝罪の意を示させてもらうつもりだ」

「あ、いや……分かった。事件についてはそちらの責任ではないと思うが、ティトゥスの件について便宜を図ってくれたことには感謝する、議長」

 会話に割って入ってきたカガリの言葉に、ティトゥスは改めてデュランダルを食えない男と感じていた。

議長がああも簡単に頭を下げた時は怪訝に思ったが、用はカガリには威厳を示すより素直に謝意を示し、細かい気配りをするほうが益を取れると判断したのだろう。とりあえず国家元首のカガリが今回の問題に対し「プラントに責任はない」という旨の発言をしただけでもかなり大きい。実にシンプルな方法で小さな利益だが、まだまだ未熟なカガリに対しては有効な手段だ。彼女の好印象も勝ち取れる。

「さて、君にも納得してもらえたかなティトゥス?」

「……最初の無礼の数々、謝罪致す。しかしまだ疑問が。先程理由の一つと申されたが、それは一体?」

「ああ、あれはそう深い意味があるわけではないよ……単純に、私が君と直接会ってみたくてね」

 ティトゥスの言葉にデュランダルはニヤリと笑みを浮かべて返した。

「その身を挺してアスハ代表を逃し、なおかつそのまま襲撃者を撃退してのけたという君に、私もどんな人物なのか興味を持ってね。直接目にしてみて流石だと思ったよ。今も油断なく、常に周囲に意識を向けている──まるで研ぎ澄まされた刃のようだ。アスハ代表の護衛というのも頷ける」

「……しがない傭兵の身にそのような言葉、光栄の極み」

 背後でアレックスが僅かに身体を振るわせたのを感じながら、ティトゥスはただそれだけ返した。確かに食えない男だが、今の段階ではデュランダルが何か裏で考えていたとしてもどうしようもない。今は ただ、カガリの護衛という仕事を完遂する事だけを考えることにした。

「さて、長話に付き合わせてしまってすまなかった。十分なもてなし、とはいかないがゆっくり休んでくれ。

 アスハ代表もお手間をとらせて申し訳ない」

「いや、こちらの都合を通していただいたのだ。こちらこそお手数をかけていただきすまなかった」







 カガリと護衛二人が退室し、部屋に残っているのはデュランダルとタリアだけになる。少々の間を置いてタリアが、恋人だったころの砕けた口調でデュランダルに話し掛けた。

「本当にあんな理由だけで彼をここに呼んだの、ギル?」

「タリア、アーモリーワンで強奪と同時に起きていた港への襲撃、君も詳細は聞いているだろう?」

「え? ええ……正直信じられない話だったけど」

 質問に答えず逆に質問してきたデュランダルに困惑するものの、タリアはその件の報告を思い出す。

 強奪事件と時を同じくして、襲撃を受けていたアーモリーワンの宇宙港。それを行ったのは数機のダガータイプMSと、何か奇妙な宇宙服を来た二人の人間だったらしい。その二人は信じられない事に、通常の人間と変わらぬサイズにMS並みの火力と機動力を持ち、港を瞬く間に壊滅状態に追い込んだという。現場で生き残った人間からは「あれはヒトではなくバケモノだ」などという声すら上がっているそうだ。

「代表達を襲ったのもどうやらその怪物達と同じ装備をしていたらしい。そして彼……ティトゥスはその怪物を刀二振りで二人、撃退したと言っているそうだ。あくまでナチュラルのみでありながら、ね」

「何の冗談、それは……つまり、彼は嘘の証言をしていると?」

「嘘ならもう少しマシな嘘をつくと思うがね。彼の証言に食い違いは無いそうだし、直接会って感じた限り、私には彼が嘘をつく人間だとは思えなかった」

「どうかしらね、まあ変わった人物ではあるみたいだけれど……けど全てに嘘が無いとしたら、彼は一体何者なの?」

 答えようの無いタリアの問い、それにデュランダルは一呼吸おいた後、突然これまでの流れとはまるで関係ないかのような話をタリアに語りだした。

「『ティトゥス』という名は、太古の地球に存在した古代ローマ帝国の歴代皇帝の中にあるそうだ。帝位に就いていた期間こそ短かったものの、病死するまでの功績は名君と呼ばれるに値するものだったらしい」

「……貴方が地球の古代史にも興味があったとは知らなかったわ。てっきり奇特な趣味はオカルトだけで済んでいたと思っていたのに」

「はは、手厳しいな。まあこれは友人から又聞きしただけの断片的な知識さ」

 冷めた目を向けるタリアに苦笑しながら答えるデュランダル。その態度にこれ以上の詮索は無駄だと直感し、タリアは溜息をついた。

 そして数十分後、通信士であるメイリン・ホークが慌てて伝えてきた情報に、タリアの気分はどん底まで叩き落されることになる。







「それじゃ最後に右手のチェックだ。始めてくれ」

「承知した」

 ハンガーに繋がれたツヴァイダガー、その開いたままのコクピットに乗り込んでいるティトゥスは両手を忙しなく動かして操縦桿やコンソールを操作する。その操作に合わせ、ツヴァイの右手は素早く屈伸をしたり、手首や指の関節をウィンウィンと鳴らしながら動かす。動作が正常なのを端末で確認しながら、ミネルバの整備班班長であるマッド・エイブスは満足げに頷いた。

「異常なし。駆動系のチェックはこれで終了だな」

「うむ……しかしよろしかったのか?部外者が持ってきたMSの整備などに手間を割いていて」

「構わんさ。こっちのMSはどれもチェックは終わってたし、連合製のMSに直接触れる機会ってのは滅多にない貴重なもんだからな。やはりデータで見るのと実物を見るのは違う。それに外来だろうとなんだろうと、モノがあるなら整備は完璧に、それがメカマンってもんよ、お客人。気にすることはない」

 ティトゥスが今ここに居るのは、ツヴァイを調整しておこうとハンガーに来た際エイブスに捕まったからだ。どうやら彼以下メカニック達は一応連合製と言えるツヴァイに興味を持ったらしく、データを見せる代わりにツヴァイの整備を引き受けてくれたのだ。

「しかし本当に、よくこんなOSでこいつを操縦できるな。ここまで動作がマニュアル化されてちゃ、コーディネーターだって動かすのに苦労するぞ」

「自動化が過ぎると行動の幅が狭まるのでな、せめてこの程度柔軟に動けなければまともな格闘戦は出来ぬ。扱えるかどうかは単純に鍛錬の問題よ。ナチュラルだろうとコーディネーターだろうと、精進無しに何かを為す事など出来ぬ」

「はは、もっともだ。ウチの若い連中にもそれくらいの気骨があればいいんだが。どうにも最近の若いコーディネーターは才能に頼りすぎて努力を怠る傾向があるからな、困ったもんだ」

 周囲でツヴァイや他のMSの整備に掛かっている若いメカニック達に目をやりながら、エイブスは苦笑する。

 元々ナチュラルへの偏見が小さかった彼は、構造や改修の痕跡から技術屋の思いが感じられるツヴァイと、それを最大限に操っているティトゥスが気に入っていた。ティトゥスもエイブスの腕と職人気質な性格に、知り合って間もないながらも好感が持てていた。

 しかし和やかな雰囲気は、突然響いた館内放送によって掻き消されることになる。

『緊急事態、艦内全区画に緊急連絡!現在、ユニウスセブンが地球へ落下中との連絡が入りました!』

「んなっ!?」

 若い女性の叫びから間を置かず、ハンガー内で一気に驚愕と困惑の声が広がる。その喧騒に関係なく、艦内通信は続く。

『これより本館は任務を一時中止、先発隊と合流し、ユニウスセブンの落下阻止作戦に協力を行います!繰り返します──』

 ユニウスセブン──それは、かつて連合軍過激派将校の独断による核攻撃を受け壊滅した農業コロニーである。それが当時の連合、ザフト間戦争の激化を呼んだ『血のバレンタイン』と呼ばれる事件だ。

 今ではその残骸はその犠牲となった人々の墓標として、デブリ帯で安定軌道に乗っていた……筈であった。

 残骸とはいえコロニー一つ、その大きさは並の隕石などとは比べ物にもならない。もしそんなものが、そのまま地球に落下した日には──

「……とんだ大事になってきたな」

 ざわめきの広がる中、それまで無言でコクピットに座っていたティトゥスはそれだけ呟いた。

 その胸にほんの少し、とても小さな不快と憤怒の炎が灯った事には気付かずに。







 シンの怒りは頂点に達していた。

 事の発端であるヨウランの軽口──掻い摘んで言えば「地球が無くなっても俺達には関係ない」という内容の発言には、正直不快感を覚えた。突っかからなかったのはヨウランがアカデミー時代からの友人なのと、友人であるから彼の言葉が本気ではない、単なる軽口以上のものではないと理解していたからだ。

 だが、そこにあのアスハがしゃしゃり出てきた。喚き散らすその姿に、収まったはずのイラつきがまた胸中に湧き上がってくる。

「別に本気で言ったわけじゃないさ、ヨウランも。そんなことも分かんないのかよ、バカじゃないのか?」

 漏らした嫌味を口火に始まった、怒声と罵りの応酬。周りの皆が止めようとしたが、その声は殆ど届いていなかった。そして護衛だというアレックス・ディノ──アスラン・ザラの介入と同時にイラつきはとうとう怒りに変わり、即座に限界点を超えた。

「俺の家族はあんた等のせいで死んだんだ! アスハの人間のせいで戦争に巻き込まれて、挙句オノゴロで暴れまわってたフリーダムに殺された!」

 今度はこちらが怒りに任せて叫ぶ。アスハの奴は驚いた顔でこちらを見ていた。

「あんた等の都合で、誰が死ぬことになるかってちゃんと考えたのかよ! 何も分かってないくせに分かったようなことばかり言って、そんなこと言う資格があるとでも思ってるのか、あんたに!」

 その表情を見て余計に腹が立った。自分達のしたことで生まれた犠牲の事など、今まで考えたこともなかったということか。知らなかったで済むと思ってでもいたのか!

「俺はもう信じない、そして絶対に許さない……俺達を裏切ったオーブを! 家族を殺したフリーダムを! 絶対に!」

 吐き捨てて休憩室の出入り口へ向かう。アスハと同じ場所にもう居たくなかった。早足ですぐに部屋から出ようとする。

「うわっ!」

「むっ……」

 ドン、と誰かにぶつかった。ロクに前方確認すらしていなかった自分が悪いと頭はちゃんと理解できていたが、高ぶった感情に押され、目の前の人物にすぐさま怒声を発してしまい、

「くそっ! んなトコでつっ立ってんじゃな……」

 誰かを確認して、声が出なくなった。

 所々がボロボロになった黒装束に、腰に二振りの長刀を差した男性。こちらを見つめる、刃のように鋭い瞳。

 忘れるはずもない。二年前に見た『あの人』だ。

「お主は……」

 その目がわずかに驚きの色を見せたことにも、シンは気付けなかった。あなたがなんで、どうしてこんなところに……混乱しすぎて、言いたい事は山ほどあるのに口が動かない。

「……ぶつかってすいませんでした」

 だから、なんとかそれだけ言って、逃げるようにその場を駆け出した。







(二年前にオーブに居た、あの童か?)

 駆けて行くシンの後姿を見ながら、ティトゥスは驚きと懐かしさを感じていた。まさかこんな所で、この世界に来て最初に出会った少年と再会するとは思ってみなかった。しかもあの赤い軍服はザフトのエリートパイロットに与えられるというものではなかったか。

(あの時の小童が兵士とはな。男子たるもの二年も経てば見違えるのは当然か)

 一見して分かった。コーディネーターという点を差し引いても、彼の身体は二年前とは見違えるほどに鍛え上げられている。ザフトに入って並々ならぬ鍛錬を重ねたのだろう。

(……しかし、少々危ういな、あれでは)

 あの時の出来事は今も彼の心に傷を残しているらしい。アスハやフリーダムを憎むのも分かる。だがあの怒りにティトゥスは一つの疑問を感じずにはいられなかった。

「同僚が失礼をして、申し訳ありませんでした」

 シンが去った方向を向き続けていたティトゥスは、その呼び掛けに我に返った。見ると長い金髪の赤服を着た少年がこちらに頭を下げていた。

「ミネルバMS隊所属、レイ・ザ・バレルです。シンが無礼を」

「いや、構わぬゆえ頭を上げられよ……シン、というのかあやつは」

「ええ、シン・アスカです。ところで、あなたは……」

「む、これは失礼した。拙者はティトゥス、そこにいるアスハ代表の護衛を引き受けている傭兵だ」

「ああ、ちょっと前に補給物資と一緒に来た方ですか。どおりで見覚えない人だな~と思った」

 名乗っていないのに気付いて自分もレイに名乗りを返すと、今度はピンクの髪の少女が声をかけてきた。着ている赤服は何故かミニスカートに改造されている。

「けどビックリですよ、『あの』シンが素直に謝るなんて……あ、すいません。同じくMS隊所属のルナマリア・ホークです」

「確かに。しかも感情が高ぶっていた状態のシンが謝るとは俺も意外だった。ある意味ユニウスセブンが落ちると聞いた時以上の驚きだ」

 うんうん、とルナマリアとレイは神妙な顔で頷く。ふと周りを見ると、部屋に居たメカニックらしき少年二人も似たような反応だ。シンがどういう性格なのか、先程の騒動もあってティトゥスはなんとなく想像が付いた。

「まあともかく、あやつの態度については別段気にしておらぬゆえ謝罪は無用だ。それよりもアスハ代表」

 とりあえず探していた相手に声を書ける。突然話を振られ、シンの言葉を聞いて半ば茫然自失していたカガリはハッとしながらティトゥスの言葉に答えた。

「あ……ああ! な、なんだティトゥス?」

「折り入って頼みたいことがある。護衛の仕事を受けている身で非常に身勝手な願いではあるのだが──」

 まだ困惑が顔に残るカガリに、ティトゥスは淡々と用件を告げ──その内容にカガリは更なる困惑にすっとんきょうな叫びを上げ、アレックス他その場に居た人間は例外なく絶句した。







 インパルスのコクピットの中で、シンは戸惑っていた。

 ユニウスセブンの破砕作業を行う、これには何の疑問もない。パイロットには既に機体のコクピット内での待機が命じられている。これもいい。

 しかし、何故あの二人まで自分達と同じことをしているのか!?

『アスランさん、本当に大丈夫なんですか?』

『ああ、二年間のブランクはキツイが、足手まといにはならないつもりだ』

『宜しくお願いします、ティトゥス』

『うむ、此方こそ宜しく頼む』

 アレックス──アスランと、ティトゥス。彼等が破砕作業に協力するというのだ。アスランはザクを借り受け、ティトゥスは自分の物であるツヴァイダガーに乗り込み、レイやルナマリアと会話している。

 アスランは別にどうでもいい。アスハの護衛をしているというのは気に入らないが、それだけだ。気にすることもない。

 だが、ティトゥスは。彼は、シンにとって──

『ちょっとシン! あんたも黙ってないで挨拶ぐらいしと着なさいよ!』

「……宜しくお願いします。これでいいだろ、ちょっと考え事があるから切るぞ」

『え、ちょ、ちょっと待ちなさ』

 ルナの言葉を最後まで聞かないまま、彼女のザクとの通信を切る。更に別の機体との回線も閉じ、コクピットを静寂が包む。しばしその中で自分の考えをまとめ、意を決してシンはツヴァイとの通信を繋げた。

「あの……ティトゥス、さん」

『む、シン・アスカか?』

「は、はい! えと、その、ちょっと話、いいですか?」

 緊張でガチガチになっているシン。上手く動いてくれない口で何とか用件を伝える。

『ああ、構わぬ。丁度他の者達との話も終えた所だ……しかし時の流れとは早いものだ。あの時の童が今や見た目だけなら一端の軍人か』

「あ……って、な、見た目だけはってどういうことですか!?」

 覚えていてくれたことに少し感動するも、その言葉の内容を顧みてシンはつい声を荒げてしまう。ティトゥスはシンの態度に何か言うこともなく、ただ淡々と答えた。

『そうすぐに感情をむき出しにするところが甘いな。熱くなるなとは言わぬ。が、戦士ならば感情に流されるな。感情を理性で制御し、支配せよ。これは何も戦士に限ったことではない』

「は、はい……」

 ティトゥスの言葉は正直上手く理解できなかったが、シンはその言葉を素直に聞き入れた。普段の彼ならまず反発しているところだが、今回は相手が相手である。

 シンにとって、ティトゥスは特別な存在だった。

 家族を失い、自分もまた命を失いかねなかった瞬間に見た奇跡。生身の人間がMSを圧倒するという、常軌を逸した光景。その手の二刀で強固な装甲を斬り裂いた、漆黒のサムライ。

 誰かに話しても夢幻としか思われない、だがこの目で確かに見たティトゥスの姿は、シンの心に刻まれた、今も求めて止まない『全てを守れる絶対的な力』の体現そのものだった。

 ──しかし、だからこそ納得のいかないことがある。

「どうして、あなたがあんな奴の為に……」

『何?』

「どうしてアスハのお守りなんてやってるんです!?あなたみたいな人がなんでオーブの為なんかに!」

 沸き上がる感情をそのまま叫ぶ。彼が自分の否定するアスハを守る、オーブの為に力を尽くすということを、認めたくない。ガキみたいなワガママだと頭の片隅では理解できていたが、それでもシンは納得できなかった。

 そのシンの声を聞いて、ティトゥスは小さく溜息をついてから言った。

『随分とオーブが嫌いになったようだな、お主は』

「ええ大嫌いですよあんな国! 奇麗事ばかり言って、それを実現出来もしないくせに他人に押し付けて! それで苦しむ人なんて知らないって顔して! あんな女!」

『拙者は別に嫌いではない』

「っ!?」

 ティトゥスにそう言われ、シンは驚きに口を止めた。

『少々暑いが気候は過ごしやすく、入国手続きも比較的容易に済む。全員などとは言わんが国民の気風も穏やか、国柄ゆえにナチュラル、コーディネーター間の差別意識も少なく、制限もほぼ皆無。骨休めをするには悪くない国だ……アスハ代表を始めとする政治屋達の才覚があるか否かはともかくとして、な』

 間違っているか? と問う声が聞こえる。間違いではない、とシンは思った。確かに自分が、自分達家族が暮らしていた頃のオーブはそうだった筈だ。畳み掛けるようにティトゥスは続けた。

『質問に答えてなかったな。拙者が代表の護衛をしているのは至極単純、仕事だからだ。知り合いのオーブ軍人に頼まれ、報酬も頂く。国としてのオーブの良し悪しは関係ない』

「それは、でも、だからって!」

 食い下がろうとしたシンの言葉は、非常警報とブリッジからの通信で遮られた。

『コンディション・レッド発令!先行していたジュール隊からの入電により、ユニウスセブン周辺にアンノウンを確認、敵対行動をとっている模様とのことです!MS隊は戦闘装備でただちに発進願います!』

「なっ、アンノウンだって!?」

『……どうやら、ユニウスセブンを落としたい連中がいるということか』

「そんな……くそっ!」

 シンの心に怒りが再び湧き上がる。人為的に大量殺戮を行おうとする者に対する怒り。罪無き人々を無差別に殺そうとする者達への憤り。

『話の続きは後回しだ。全て終われば時間も取れよう』

「ええ、分かってます! 今は……」

『コアスプレンダー、発進どうぞ!』

 発進許可を受けて、シンは操縦桿を強く握り、スラスターの火を入れた。

「ユニウスセブンを砕きゃいいんでしょう! シン・アスカ! コアスプレンダー、行きます!」







(ふん、拙者らしくもない)

 シンが飛び立つのを見ながら、ティトゥスは自嘲気に唇を歪めた。彼が家族を失った瞬間に居合わせただけの関係だというのに、ついつい小言まで言ってしまった。

「もっとも、こんなことをしている時点で今日の拙者は既におかしいか」

 ツヴァイを歩かせながら思案にふける。ユニウスセブンが落ちると聞いてから、ティトゥスは自分自身ですら己の考えを図りかねていた。

 ユニウスセブンの破砕作業に、自分が手を貸す義理はない。護衛としても任務放棄に近い逸脱した行為だ、話した時にカガリやタリア艦長が渋い顔をしたのも分かる。そもそも力のない自分に何が出来る。

 しかし何かが、ティトゥスの胸中で行動しろと訴えていた。とても小さな、だが徐々に大きくなる感情が、ティトゥスを駆り立てる。なのにそれが何かを理解できない。不安、憤り、不快、憎悪──それらと似ているようで、でも何か違う、奇妙な感覚。まるで使命感にも似た、抗い難い衝動。

(……今更迷っても仕方があるまい、既にやることは決まっているのだ)

 そう、もう取り消しはきかない。三機のザクも飛び立ち、次はもう自分の番だ。

『ツヴァイダガー、発進準備をお願いします!』

「うむ、発進の合図は任せる」

『はい!あ、ミネルバ通信士のメイリン・ホークです。ティトゥスさん、破砕作業頑張ってくださいね!』

「……承知」

 モニターに映った少女がハキハキと、しかしどこか緊張気味に言った言葉に、ティトゥスは苦笑しながら呟く。

 ツヴァイをカタパルトに乗せる。自分から首を突っ込んだ戦場、しかし今の自分とこのMSの力で、どこまでの事がやれるのか。

(余計な事は考えるなティトゥスよ、今はただ自分の為せることのみを……)



 ──簡単なことだ、『力』を解放し、全てを斬り伏せれば良い──



「っ!」

 忽然聞こえた『あの声』に、胸元に収めていた屍食教典儀を引っ張り出す。変化はない。声ももう聞こえない。

「……気のせいか?」

『ツヴァイダガー、発進どうぞ!』

 メイリンの声に、頭を振って意識をハッキリさせる。深呼吸し、開いたハッチの先に広がる宇宙を見る。

「ティトゥス、ツヴァイダガー……参る!」







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