Top > DESTINY-SEED_118 ◆RMXTXm15Ok氏_001話
HTML convert time to 0.005 sec.


DESTINY-SEED_118 ◆RMXTXm15Ok氏_001話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:41:07

 人の形をした金属の塊の上。思わず飛び出したから、ここにいる。でも何も出来ずに知らない誰かと、いっしょに居ることしか出来ない。
 赤いスーツを着た何かが向かってくる。兵隊さんならきっと、迎撃とか反撃とか考えるんだと思う。けれど、そのときの私は、それが誰なのかが気になっただけ。逃げようともせず、観察するように、その人を見つめた。仕草が似ていたのかもしれない。
 それは私の前まで駆けてきて、一歩二歩の距離の所で突然立ち止まった。透明な半球の向こうに、思い出の中で優しく微笑む瞳と重なる目があった。
 驚きの言葉は、一つの単語を紡ぎ、私の口から漏れた。
「お兄ちゃん!?」
 同時に、それも呟いた。
「マユ」
 声は届かない。だけど、唇は確かに、その言葉を示すように動いていた。

-C.E.71-
 激化したナチュラルとコーディネイターの戦争を他所に、ヘリオポリスは平和でした。

 私の名前はマユ・アスカ。ひょんな事情から家族と別れ、ヘリオポリスのカレッジに通うことになった。いつか離れ離れになってしまったお兄ちゃんと会えると、夢に見ていた。また同じ屋根の下暮らせるようになったら、今まで一緒に居られなかった分、お兄ちゃんといっぱい遊ぶんだって思った。
 けれども、私が出会った運命は、待ち望んでいた物と大きくかけ離れていた。
 再会は戦場。そのときは、まだ民間人の私と、すでにザフトの一員になっていたお兄ちゃん。
 遠くで聞こえる爆発の音は、私たちという歯車が、戦いの元に噛み合い、動き出すための合図だったのでしょうか。

==========================

 まだ、服に火の粉がかかることなんて考えもしなかったころ。

「昼寝のジャマをして済まないね。カトー教授が呼んでいるよ」
 優しい声が私に囁きかける。せっかく、ぽかぽかの陽気の下にいるんだから、このまま寝かせてほしい。
「お姫様一人起こすのに何を手間取っているんだ。ジブリール」
 声が増えた。落ち着いた低い声。この声は誰だったかな。起きて確かめればいいけど、やっぱり眠っていたいのが心情。
「“お姫様”だから起こせないのだ。デュランダル、キミなら、どうする?」
 じぶりーる? でゅらんだる?
「では、猫を貸して貰えるかな」
 私の頬を何かが触れてきた。冷たく小さい丸が三つ、ちょんちょんと。首筋には、ふさふさしたモノが、まさぐる様に撫でてきた。
「やだ。くすぐったいよぉ」
 思わず、顔を上げることになった。そうしたら、目の前に長い毛を持つ黒猫が居て、話しかけてきた。
「おはよう、マユ。カトー教授がお呼びだにゃん」
 私をお姫様と呼ぶ男の人の声。“にゃん”は無いんじゃないかなぁと思っていると、黒く長い髪の向こうに控えていた人が、口をとんがらせて、私の代わりに言った。
「いい歳して“にゃん”とか言うものではないな」
 目覚めたばかりのぼんやりとした頭で、情報を整理。
 向こうに見えるオールバックにした短い薄紫の髪と切れ長でつり目の男の人。あれはジブリールさん。雅でありながらも、自分を律しっているみたいで、いつも張り詰めた空気を纏っている人。初めの頃は、わりと厳しくて、一人称の“マユは”を“私は”に強制、他にも色々直されたような……。最近は、すっかり優しくなったように感じる。単に馴れただけかもしれないけれど。
 続いて、艶やかでクセの入った黒く長い、肩まである髪を持つ男の人。これはデュランダルさん。上品さを匂わせながら、ちょっと卑猥な雰囲気を併せ持つ謎めいた人。冗談をいうときでも、落ち着き払って言うから、どこまでが本気なのか判断しづらいんだよね。
 二人は研究室仲間であり、猫さん好きのサークル仲間。それぞれ、ここのカレッジの院生さん。一人でヘリオポリスに来ている私に、“お兄ちゃん”の代わりになって、色々世話をしてくれる。
 私からすると、二人は“お父さん”の方が近いんだけど、『出来れば、お兄ちゃんと呼んでほしい。子供もいないのに父娘感覚には抵抗がある』だって。

「しかし、猫の語尾は、昔から“にゃん”だろう?」
 語尾の“にゃん”に、こだわるデュランダルさん。その言葉に、眉間にシワを寄せて、悩ましく首を振るジブリールさん。
 っと、このまま猫語の話を続けてもいいんだけれど、さっき何か重要なことを言ってなかったかな。確か、誰かが私を呼んでいるって。
「えっと。デュランダルさん、ジブリールさん、お早うございます? 今、私に何かしら用件があったように思うんですけど」
 首をかしげながら尋ねたら、思い出したようにジブリールさんが伝えてくれた。その言葉は、今の私に余計な事が追加されますよ、と言っているように聞こえた。
「そうだった。デュランダルの猫語など、どうだっていい。マユ、カトー教授が呼んでいるよ」
 大きくため息が漏れた。
「解析の追加かなぁ。今やっているのでも手一杯なのに」
 この一言にデュランダルさんから、フォローとも皮肉とも取れる一言をもらった。
「仕方あるまい。君は、それほど優秀なんだ」
 そう。どういうことかよく分からないけれど、私に対する周囲の評価は、とても良かった。結果として、私は四つ上の兄を飛び越して進級。一人でL3にある宇宙コロニー“ヘリオポリス”にあるカレッジに来てしまった。
 柔らかい日差しと、しなやかな芝生。軽い色彩と優しく風が通り抜けるように構築された建物、羽が舞うように楽しむ学生たち、そして二人が優しくしてくれるのはありがたいんだけど、同い年の友達も欲しかったな。さすがにカレッジともなると、同い年の子なんて見当たらない。

 ため息を尽きつつも研究室に到着。外とは、うって変わって、風通しの悪い室内では、虎柄の半袖服を着た褐色肌の男の人が、PCとにらめっこしていた。
 この人は通称“虎さん”。
 虎さんは、いかにも研究室内だけで生活してきました風の青白い肌のデュランダルさんやジブリールさんと違って、野性味のある風貌を持っていた。実際、その体は、引き締まっていて、わりと格好の良いおじさ……、お兄さんだと思う。
 普段は飄々としていて、デュランダルさんとは別の意味で得体の知れない人。陽気で渋く、コーヒーへの愛情が深い。何をどう道を間違えて、工業系のカレッジに来ているのか検討も付かない。
 そして、この人が真剣な目をしているときは、研究内容とは全く関係ないことをしていることが多い。試しに視線の先であるディスプレイを覗いてみると、半壊のコンクリートのオブジェ群から、黒い煙が流れ出ている動画を見つめていた。
「研究そっちのけにするほど、興味深いニュースでも入ったのかね?」
 私の肩越しから、虎さんへデュランダルさんが話しかけた。
「華南の映像だよ。二週間前のことらしいけどね」
 虎さんは、そう言うと、コーヒーカップを持ち上げ、口元で、それを傾けていた。
 戦争の映像。緊迫感も危機感もまるで感じられない。始まった頃は、そうでもなかったんだけど、いつのまにか遠い世界での話になっていた。でも、華南というのは聞き流せない。本土から結構近いはずだよ。
 つい、本土、大丈夫かなぁ、と不安が口から漏れた。問題ないさ、と虎さんは笑いながら、サイフォンで入れたコーヒーを勧めてきた。私は黙って首を左右に振り断った。
 虎さんには悪いけれど、コーヒーの苦味は、私には、まだ早いと思うんだ。
「ところで、あの入り口の前にいる子は?」
 ジブリールさんの声が後ろから聞こえた。いつもなら、足早に自分の机に向かっていく、彼には珍しい行動。そんなに気になる人がいるのかな? 振り返ると、戸棚で仕切られた、教授のいる部屋へ続く入り口の方へ、視線を投げかける彼の横顔がある。
 視線の先。確かに女の子がいる。ジーンズと、大き目のコートを着て、ぼんやり立っている。ナスのヘタを被ったような髪型。でも、髪の色は綺麗な金色。意外とボリュームのあるサイドの髪が邪魔して、顔は、よく見えない。
 自分の髪もあんな色だったらなぁと、右側のおさげを、つまんで観察してみる。どれだけ見ても、私の髪の色は茶色。
 そのとき、衝撃が走った。振動が床や天井を伝わっていき、窓ガラスを大きく振るわさせた。
 これは地震? 違う。さすがにコロニーにおいて地震は無い。だったら、今のは何?

 虎さんが、何事だ、と声を上げると、職員から、ザフトの襲撃です、と返答された。
「これは驚いたな」
 こんなときでも冷静なデュランダルさんに尊敬しつつも、ため息一つ。彼の呑気さ加
減が癇に障ったらしく、ジブリールさんはコメカミに筋を浮かばせながら、図太いにもほどがある、と叱咤していた。
 それに同意。慌てすぎなのも迷惑だろうけれど、この場で冷静すぎるのも違和感がある。
 職員の指示にしたがって避難する私たち。ぞろぞろと羊の群れみたいになって歩いていく。どことなく緊張感に欠ける動き。映画だと、みんな混乱して、騒ぎ立てるものだけど、平和暮らしが板について、危険に対する想像力が一部抜け落ちているのかもしれない。
 っと、誰かが踵を返し、群れから離れ走り出す。つい、私もつられてしまう。それは、教授の部屋への入り口前に立っていた女の子。
 マユ! と呼び止めるジブリールさんに、後で行きます、と大声で返事して、彼女を追う。後で、いっぱい怒られるんだろうなぁって思いながら、私は彼女に導かれるまま、避難する方向とは、正反対の工場区の方へ走る。

 見失うようなことはないんだけど、身長差からかな。なかなか追いつけない。運動部の人だったのかな? 捕まえられないのなら、彼女の行く先まで付き合うしかない。
 その間に考えてみる。とりあえず、この先にある工場区内といえば、いつの間にか学生立ち入り禁止になっていたかな?
 もし、彼女の目的が、そこで造られている何かにあるのならば、混乱は、そこへ進入するための好機。避難を後回しにして、踵を返したことに筋は通る。
 でも、そうすると、彼女って何者? 余計に分からなくなった。
 彼女が立ち止まっている。ここからじゃまだ距離があって分かりづらいけれど、彼女のシルエットは、手すりに手をかけているように見える。
 追いつき彼女に並んでから、改めて場所を確かめる。高い天井、前横の壁が遠くに見える。とても広い空間。そして、私の居る場所は、その格納庫のキャットウォーク。
 ドンッと後ろで大きな音がした。振り返ってみると、通路の奥の方から、煙が出てくる。
 “襲撃”って、この建物が襲われていたの? 早く逃げないと。
 隣の彼女の腕を掴んで引っ張るけど、手すりに体重を乗せているみたいで、動いてはくれない。まるで、この下に、何かがあるみたいに体をくの字にしている。彼女が見入る何かが気になって、私も、視線を平行に合わせる。
 そこには、メタリックグレイの四本角を生やした鬼が横たわっていた。
「これ、ひょっとして機動兵器? でも、いったいどこの?」
 何気なく漏らした疑問の答えは、隣の彼女の呟きにあった。
「地球連合軍の新型きど……」
 そう言い掛けたとき、格納庫の下の階、向こう側正面の扉が爆発。直後始まる銃撃戦。扉から色とりどりのスーツを着た人が、すばやく入ってきて、もう一体の鬼を盾にしながら、陣取っていくのが見える。
 明らかに押されている。ここに長居すると不味いことになる。何とか彼女を動かして逃げ出さなければ。そう思ったのも束の間、いつの間にやら逆に自分が腕を引っ張られ、通路を走っていた。
 退避シェルターにつき、彼女がインターフォンで呼びかけると、一杯だと返答された。
左ブロックの37シェルターに、という言葉を聞きながら、一人くらい大丈夫でしょと、私が反論したら、インターフォンから、子供? という驚きの声がこぼれる。
 しばらくして、ロックと書かれた下にあるランプが赤から青に変わる。そして扉が開く、つまり、受け入れてくれるということだね。
 私を乗せようとする彼女の足払し、バランスを崩させて、むりやり扉の奥へ押し込んだ。自分がどうなるかということより、避難と反対の行動をする彼女を一人にする方が怖かったから。彼女が体を起こす間など与えず、扉を閉めると、宅配便よろしく下層のシェルターに運び去られていく。

 さて、私は、どうしよう。左ブロックの37シェルターとやらに行くしかない。それは、あの銃撃戦のある場所を横断するわけだけど。判断誤ったかな?
 でも、やるしかない。幸いなことに、私は、今、建物を攻め込んでいる人たちと同じモノ。ナチュラルと比べて、運動能力、判断力を遥かに凌ぐと言われているアレらと同じモノ。出来るかもしれない。
 私は覚悟を決めて、元いたキャットウォークの所まで戻る。
「X一○五、三○三を起動しろ! 早く!」
 声が聞こえる。格納庫内に大きく響き渡る男の人の大きな声。気になり、視線を再び下方へ向けると、作業服姿の藍色の髪をした男の人が、鬼を盾にアサルトライフルを構えている。
 ここからじゃ、よく分からないけど、お兄ちゃんと同じくらいの人。同時に、彼を狙うフルフェイスの侵入者が視界に入った。危ないと思い、うしろです、と叫びながら、つい、ここから飛び降りて、鋼色の鬼の上に着地。
 この瞬間、私に銃弾が当たらなかったのは幸運だと思う。ただし、このことで双方に、余計な驚きを与えてしまった。
 作業着の彼は、私の言葉に反応して、すぐ様後ろを振り向き、侵入者を返り討ちに。結果、私の着地場面を見ることはなかったわけ。でも、他の人たちは、少女の突然の登場に呆けて、体を少しばかり、遮蔽物になっていた鋼色の鬼から、出してしまった。
 私の前後で、一つ二つ、苦悶の声が上がる。名前を呼ぶ声が響く。撃たれた人の物だと思う。藍髪の彼が向き直すと、私と目が合う。
「子供? 何をしている。早くこっちへ」
 驚きつつも即座に指示。ただし、それを言うために上体を起こした所を狙われたみたいで、その瞬間、彼の肩に鮮血が舞う。
 いけないと思い、ハンカチを取り出し、彼に近寄る。それと、同時に、背後から金属を叩き付けるような音が聞こえる。振り返ってみれば、赤い何かが近づいてくる。その異質なものに、懐かしさを感じる。
 でも、なぜ?
 魅入るように、それを見つめる。それは、あと一歩二歩で手が掛かりそうな距離まで近づいてきている。フルフェイスヘルメットの透明部分。光のあたり方が変化し、その向こうにある表情が見える。喰らい付かんばかりに、するどく赤い目をしていたけれど、私と目が合うと、どこかで見た覚えのある驚いた顔に変わる。
 そう、昼寝をしているお兄ちゃんを無理やり起こしたとき、たまにそんな顔をしてた。
怒ったような困ったような、それでいて優しい顔。
「お兄ちゃん!?」
 赤いスーツの人は構えた右手を力が抜けるように下げる。その人の唇が、マユと動いているように見える。

 近づいて確認しようとする私に対し、その人は思いっきり飛び引く。追いかけようとすると、銃声が鳴り響く。弾丸なんて見えないけれど、その人が居た場所を銃弾が抜けていったんだと感じた。
 そして、私の体は、誰かに思いっきり後ろへ引っ張られた。まるで落とし穴のようなものに落とされた感覚。突然、四角い窓から天井を隠すように、目の前を何かが閉じていく。
「そんな! 待って! お兄ちゃんが」
 外へ出ようとすると、お腹を腕におさえつけられ、私はシートの後ろへ追いやられた。
 駆動音が聞こえる。周りが明るくなっていく。暗い壁だった部分が外の風景を映し出す。そこに、赤いスーツのあの人が、もう一体の鬼に乗り込んでいく姿が映る。
 違うよね。お兄ちゃんのはずないよね。お兄ちゃんは今ごろ、本土でお昼寝してるはずなんだから。
 シートの肩に掴まりながら、エレベーターに乗ったときに、少し重くなるのと同じ感覚が体にかかる。時折感じる微震は、多分、この鬼を封印していたボルトを無理やり弾き飛ばしているから。滑らかさのない動きで、ゆっくりとモニターの映像が高い視点になり停止したとき、この鬼が立ち上がったのだと分かった。

続く。