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Fortune×Destiny_エピローグ

Last-modified: 2007-12-04 (火) 18:57:28

エピローグ 暖かく優しい……

 

それから10年の月日が流れた。
カイルはリアラを連れ帰った後、リアラの手助けもあって、完全に記憶を取り戻した。
彼は自らが体験したこと、努力することの素晴らしさ、そして歴史の大切さを知ってもらいたいと思い、自らの冒険の記憶を6年の歳月を費やして本として世に出した。
慣れない作業ではあったが、リアラやロニ、スタン、ルーティ、そしてシンの助けもあり、無事完成した。
これが大いにヒットし、さらにはハイデルベルグの劇場で上演され、多額の印税を手にした。
だが、孤児院の改修や世界中にいる孤児たちへの支援に全てを費やし、彼の手元には1ガルドも残らなかったという。
「まあ、俺がそんな大金持ってても仕方ないし。それに、俺は英雄でもなんでもないけど、同じ人として困ってる人を助けたいしな。」
快活な顔を輝かせるカイルはそう言い、孤児院の運営資金を稼ぐために日々モンスターを狩り続ける毎日だ。
リアラはデュナミス孤児院に留まり、ルーティによる運営法の特訓を受けた。
現在では孤児院の金勘定を一手に引き受けており、彼女が首を縦に振らなければ何も買えないという有り様だ。
彼女は聖女としての力を失いはしたが、治癒の晶術だけは健在で、孤児院の子供達やクレスタの住人の怪我を治したりもする。
ただし、それも割安とはいえ有料なので、孤児院の運営資金の足しになっているらしい。
ロニはあの後一人旅に出かけ、そのままホープタウンに留まっている。
彼の便りによれば、ナナリーと再会し、彼女の弟、ルーの病を治すことに成功したそうだ。
ベルクラントに使われていた鉱石の力がなければ咲かないというベルセリアの花。
これが咲かなければルーは助からないと言われていた。
ロニは自分のおぼろげな記憶を頼りに、オベロン社廃坑へと向かい、ベルセリアの花を咲かせた。
その薬によって助けることができたのだ。
その後も何となくナナリーとルーが気になり、そのままホープタウンにデュナミス孤児院の姉妹院を設立した。
彼のパンを焼く腕前や、ナナリーの料理の技量もあり、二人の特技を組み合わせた料理店の売り上げで、どうにか経営できているという。
そして、シンはというと。
彼はあの後すぐに、再会を喜ぶのもそこそこに、「ちょっと旅に出てくる。守るためじゃない、共に歩くためになんだ。」と言い残してクレスタを出て行った。
無論、それはポーズであり、本当はハロルドを探す旅だった。
シンは世界各所を旅して回り、同時に剣術の修行も積んだ。
フォルトゥナの力である形態変更能力は完全に喪失したが、剣を振るった経験は残されていた。
「あれはろくでもない力だったし、全てが終わったら破棄するつもりだったんだから、別にいいや。」
と、彼は前向きになり、新たな剣術をいくつも編み出した。
そして、彼は傭兵となり、主に賊の討伐に精を出した。
彼はファンダリアの国王に雇われていた頃、イクシフォスラーを譲渡された。
さすがにこればかりはシンも度肝を抜かれたが、譲渡の際に、ファンダリア国王ウッドロウからこう言われた。
「1000年後にいるはずの黒い髪、白い肌、赤い目をしたシン・アスカという人間に譲渡するように、というハロルド博士の文書が見つかってね。私はその通りにしただけだよ。」
ハロルドはシンに時を越えても、イクシフォスラーを渡すように仕向けていたらしい。
その上、指紋認証などのロック解除はシンにしかできないようになっていた。
どこまで自分のデータを覚えているんだ、とシンは突っ込みたくなったが、ありがたく受け取ることにしたらしい。
ハロルド探しの成果が得られないまま、5年の旅を終えたシンはクレスタに戻った。
そして、カイルの妹、レオーネと結婚することになった。
レオーネはカイルと二つ違いで、エルレインの介入がなければ生まれていたはずだった。
歴史の改変の愚かさを、シンは一つ見たような気がした。
現在ではクレスタの駐在のような仕事をしている。
近くのモンスターを狩ったり、犯罪者を取り締まったりするのが彼の仕事だ。
しかし、クレスタではモンスターはともかく、犯罪は滅多に起きないので、レオーネの「仕事」の手伝いに忙殺される毎日だ。

 
 

今日は孤児院の子供達をホープタウンの姉妹院に連れて行く日だ。
孤児院の子供達は、これからホープタウンで一週間寝泊りすることになる。
この二つの孤児院は3ヶ月に一度、交流を持つようにしている。
カルバレイスと他国の人間の摩擦を少しでも緩和しようという、スタンやルーティの進言があったからだ。
その送迎にはシンが宛がわれた。何しろ、イクシフォスラーで行き来するのだから。
ぼんやりと回想に浸っていたシンの背後から、ショートカットの黒髪と父親譲りの青眼の女が声をかける。
レオーネだ。
母親によく似た美人だが、モスグリーンのワンピースの上に、何故か研究者用の白衣を身に纏っている。
「シン、早く戻ってきてね。こっちの仕事があるから。……考え事してた?」
シンは10年前より精悍さが増した顔を向けながら返事をした。
「ああ、ちょっと5年前にレオーネに会ったときのことを思い出してたんだ。」
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべ、シンの赤い目を見た。
「……びっくりしたでしょ?」
「ああ、びっくりしたよ。まさか中身がハロルドだとは思わなかったさ、あの時は。しかし、機械を使ってまで自分の魂を保存しておくか、普通?」
呆れた顔でシンは言う。
あの神のたまごの決戦の後、ハロルドは自分の時代に戻った。
彼女は全てを忘れ去るだろうと思っていたのだが、逆に全ての記憶が残っていたらしい。
そして、ハロルドは自分の時代から1000年後にシンが戻ってくることを時間軸測定の結果から解析した。
彼女はその時代まで自分の魂を保存する研究に、残る生涯を全て使った。
何度か実験を重ね、完成したその装置を使って1000年間待っていたらしい。
その間ずっと思考実験を重ねて、いくつもの理論を打ち立てており、それを体現したいと願っていたそうだ。
そして、スタンとルーティの娘、レオーネとして生まれてきた、というわけだ。
彼女はレンズに頼らない技術の開発を続けている。
人を堕落させない程度の道具を開発するのは大変だと毎日ぼやいているが、不可能といわれる方程式を解くのが面白い、のだそうだ。
「いいじゃない。あんたと一緒で、あたしは言ったことは実行するの。」
「『どの時代に戻ってこようが、必ず見つけ出して捕まえる』だったな。……俺たちはお互いに力を尽くしたからこそ、再会できたんだよな。」
「そうね、あんたは時の吹き溜まりからの脱出、あたしは魂の保存。どっちが苦労したかと言ったら、多分どっこいどっこいね。」
本当にそうかな、という顔でシンは口を開く。
「待ってる時間が長かった分、レオーネの方が大変だったと思うけど。」
「でも、あたしは別に消滅の危機と戦ってたわけじゃないし。それに、1000年の間の歴史も見られたし、時間は無駄にしてなかったわよ。」
本人がそう言うのなら間違いはあるまい。シンはふっと笑みを浮かべ、軽く手を上げながら言った。
「その集大成の開発をしてるんだよな。それじゃあ、俺はカイルとリアラと孤児院の子供達を送ってくる。すぐに戻るから。」
「はいはーい、いってらっしゃーい。」
シンは孤児院から少し離れた空き地にあるイクシフォスラーに乗り込み、機械の調整をする。
急がないと子供達が乗り込んでくる。そうこうしているうちに、にぎやかな子供達の声が聞こえ出した。
「シン、皆を連れてきたよ。」
「こーら、押さないの!」
カイルとリアラもすっかり大人だ。あの旅が終わってから一番成長したのカイルだろうな、とシンは思う。
歴史の重みと英雄と呼ばれることの責任を知ったからだろう。
旅を始めた頃には自分の方が精神年齢が高いと思っていたが、すっかり追い越された気分だ。
「ん、シン、どうしたんだ?」
「いや……。」
彼は苦笑しながらイクシフォスラーのエンジンを起動し、安全を確認してから加速して、ホープタウンへと向かった。

 
 

ホープタウンは、以前と変わらず活気に溢れていた。
貧しくとも自分の意思で生きることを選択した人々はエネルギッシュだ。人間全てがこうなれるわけではない。だが、これを伝播させることはできるはずだ。
それはかつて、自分たちが戦いの中で出した結論だ。
「これでよかったんだよな……。」
誰にも聞こえないように呟くシンに、誰かが背後から忍び寄る。
「根暗なこと、やってんじゃねえええええい!」
ロニだった。30代になったとは思えないほどの若々しさだが、よく見ると年齢が目元に刻まれている。
「……なんだよロニ。びっくりしたじゃないか。」
「おいおい、3ヶ月ぶりなんだから楽しくやろうぜ。なあ、カイル。」
シンはふっと笑顔を見せ、しばらくロニやナナリーと語らうことにした。
ナナリーはあの旅をしていた頃に近づいてきた。あの旅の記憶も、おぼろげではあるが覚えているらしい。
どうやら自分たちの絆は、どんな切断する道具でも切れそうにない、とシンは思った。

 
 

「それじゃあ、俺はクレスタに戻るよ。レオーネが待ってるし。」
シンの見送りにナナリーがやってきた。少々残念そうな顔をしている。
「そうかい? じゃあ、一週間後にまた。その時は話をしようよ。」
「あのレオーネだぞ? そうしたくてもまた拘束されそうだよ。」
彼は苦笑しながらもナナリーに向かって手を振り、イクシフォスラーに乗り込んだ。
「シン・アスカ、イクシフォスラー、行きます!」
誰にも聞かれることはない掛け声だが、これを言うと調子が出るのはモビルスーツパイロットの性なのだろう。
イクシフォスラーの進路をクレスタに向けた。溢れるような陽光が風防ガラスを通して機体内に射し込む。
シンは光量調整のシステムを起動しかけてやめた。そのままホバリングしながら日光を見つめる。
ガラスを通して彼の顔に当たる日の光は、暖かく、そして優しい。
「暖かくて優しい世界……か。」
この幸せが永遠に続くわけではない。
しかし、今ある幸せを噛み締め、命がある限りはずっと記憶に残していこう。
彼はそう思った。

 
 

 <了>