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Fortune×Destiny_第04話

Last-modified: 2007-12-21 (金) 09:55:43

4 アイグレッテ

 

3人はアイグレッテに到着した。
アイグレッテは繁華な街で、グランド・バザールでは客・商人を問わず人の海で溢れかえっていた。
「おおおおおお、スゲー! ロニ、お祭りでもやってるのかな?」
「おのぼりさんみたいなことを言うんじゃない、カイル。」
にぎやかな街並みだ。
グランド・バザールは粗末な掘っ立て小屋が並び、商人たちが笑顔を振りまいて商売している。
「今日は人参が安いよ! 見てって損はないよ!」
「お母さん、あれー。」
「こら、離れないの! 迷子になるでしょ!」
シンは自分の顔が少し緩むのを感じた。
静かな田舎と物悲しい廃墟の街を見てきたので、少し活気がほしかったのだ。
「カイル、離れるなよ! 何なら手をつなぐか?」
「子ども扱いするなよな!」
そんなやりとりにも笑みを漏らしてしまう。
ロニの過保護ぶりは少々いただけないが、本当の兄弟のようなやりとりを見て、彼は昔を思い返していた。
二人から聞いたのだが、カイルとロニは血を分けた兄弟ではない。
元々デュナミス孤児院は捨て子だったルーティが育ったところだ。
騒乱が収まってしばらくした後に、ルーティは経営者の老夫婦から孤児院を譲り受けた。
それをスタンも手伝うようになり、やがて結婚したのだそうだ。
ロニはスタンとルーティがボロボロの孤児院を受け継いですぐに二人に引き取られた。
ロニは二人を敬愛していたし、二人も実の子のように可愛がった。
そんなある日、ルーティが男の子を出産する。
それがカイルであり、ルーティはカイルを孤児院に引き取った子供達と同じように扱うことにした。
そして、大抵はデュナミス孤児院出身の者はデュナミス姓を名乗る。
故にカイルもロニもデュナミス姓なのだ。
孤児院では年上の子が年下の子の面倒を見ることが多かった。
そのため、お互いの結びつきは非常に強い。
特にロニにとっては恩人である二人の息子なのだ。
守りたいという気持ちもあるし、ほんの赤ん坊の頃から世話をしてきたという親心のようなものもある。
ロニの態度はまさしく、父親の取るそれと等しいものだった。
「シン?」
どうやらぼんやりして立ち止まっていたらしい。カイルが目の前に立っている。
「ああ、ちょっと……な。すまん、奥に行こうか。」
彼は石畳を白いブーツで踏みしめながら歩く。
活気があるのはいいが、人ごみが激しく、真っ直ぐ進めない。
「う……苦しくなってきた……。」
「うん、何か……息苦しい……。」
「人ごみに慣れてないから、息しにくいだろ。まあ、そのうち慣れるって。」
彼は、体のあちこちが圧迫されているせいだと思ったが、実は酸素濃度が低下していたのだ。
確かにぼんやりするこの感覚は、酸欠状態を示している。
何とか人の海を掻き分け、ストレイライズ大神殿正門の前までたどり着いた。
この周辺にはグランド・バザールのような人ごみはないが、参拝客がそこここに見られる。
周辺には参拝客のための宿泊施設やレストラン、そして生活用品を売る店などが並んでいる。
「なんつーか、ここに来るのも久しぶりだな。」
そういえばロニはアタモニ神団の騎士だったと聞いている。
何でも、嫌気が差して辞めようと思っていた、と聞いているが、その理由までは聞いていない。
「ロニ、そういえばなんでアタモニ神団抜ける気だったんだ? 別に生活が苦しいわけでもなさそうなのに。」
「ああ……俺は元々人を守るために騎士になったんだ。ところがアタモニの連中は神団関係者しか守ろうとしねえ。
 最近はエルレインとかいう女が神団に入ってな。」
「……エルレイン?」
どこかで聞いたような気がする。
だが、それは気のせいだろうと思い、ロニの話を聞くことにした。
「エルレインが来てから変わっちまった。エルレインには奇跡を起こす力があるらしい。
 そいつを売り物にして信者を増やしてるらしい。それだけならいいさ。けどな……。」
ロニの表情が目に見えて曇りだした。
遣る瀬無さが感じられる。
「エルレインはレンズを集めてる。『人々を幸せにするためだ』ってな。
 けど、レンズを持ってきたやつに特別奇跡を与えてるんだ。平等にって精神が失われちまってる。」
「思いっきり免罪符だな。対価を払って加護をって発想は、腐りきってると思うぜ、俺も。」
「それによお、アタモニのとこの女ってやつは何度も何度も花を送ろうがデートに誘おうが、アタモニアタモニって……
 こんないい男が側にいるってのに見向きもしねえんだよ……くぅぅ……。」
「……………………。」
真面目に免罪符の話を持ち出したシンだったが、ロニの後半の言葉に呆れた。
女にもてなかった方が理由ではないかと、少し疑った。
それにしても、ロニの女好きには頭痛がする。
カイルと離れた隙にナンパしていたほどだ。
「しかし、エルレイン……やっぱり気になる。」
気のせいだと思った。思いたかった。
だが、心の奥底にある何かがそれを否定する。お前は知っているはずだ、と。
「……誰なんだ?」
軽く頭を振り、シンは神殿の正門を見た。
十分に荘厳な彫刻が施されているが、まだ石材や木材をつぎ込み、職人達がせっせと組み上げている。
その隣では別の職人がレリーフを刻んでいた。
「どこまで増築するんだ? 信者の寄進が増えたからなんだろうけど……。」
それにしてもやりすぎではないのか。彼はそう思う。
信者の精神的な負担を減らすのが宗教の役割であり、自らを神の使徒のように見せかけるのは本来の目的から乖離しているものだろう。
妙に煌びやかな衣を纏うことも、華美な装飾を施した神殿も必要ない。
必要なのは心であって、外観ではないのだ。
宗教の概念が失われた世界に暮らしていたとはいえ、それくらいは感じている。
「宗教関連はともかく……芸術には疎いからな……よくわからないな。」
シンは未だ建築中の門を、そう評した。と、彼はここで何か引っかかりを覚えた。
「あれ、俺ってこんな人間だったっけ……?」
モビルスーツの操縦やらゲームに関する知識は問題ないのだが、宗教だの歴史だのと勉強した覚えはない。学校で習ったきりだ。
学校で聞いた内容だとしても、モビルスーツなどの知識と比してそれほど興味もなかったはずだから、あっさり思い出せるのが気にかかる。
「何か、さっきから自分に違和感がありすぎる。どうなってるんだ?」
だが、そのことについて真面目に考える前に、周囲の人間の騒ぐ声が耳に飛び込んできた。
「聖女エルレイン様だ! エルレイン様がいらしたぞ!」
「本当か!? 是非に奇跡を目にしたいものだ!」
「地方を行脚していたって聞いたけど、帰ってこられたのか!」
エルレインの名を聞き、シンは見ておくべきだろうと思った。
ロニが嫌な顔をするだろうと思うと気がひけたのだが。
「聖女!? なあ、ロニ、今から何が始まるんだろ? 見に行こうぜ!」
「こっ、こらカイル! 引っ張るんじゃない!」
今回ばかりはカイルに感謝しつつ、シンは大神殿正門前広場に足を運んだ。

 
 

凄まじい人だかりだ。グランド・バザールの混み具合よりも酷い。
どこからこんなに人間が集まるんだ、とシンは突っ込みを入れたくなった。
ただ、タイミングが早かったせいか、3人とも最前列に並ぶことができた。
間近でエルレインを見ることができそうだ。
「さてと、どういう奇跡を見せてくれるんだろうな……?」
「シン……聖女の奇跡は最早見世物扱いか?」
「あれよりはマシじゃないか?」
シンが指差した先にはカイルがいた。
見ていて目が痛くなるほどはしゃいでいる。
「うわーっ、すっげー人だかり! どんなことが起きるんだろ。俺、わくわくしてきた!」
「…………シン、あれは別格だ。」
「……すまない、比較対象を間違えた。反省するよ……。」
カイルとシンも年齢は15と16で、それほど変わらない。
それなのに、身長でも精神年齢でも明らかにシンの方が勝っている。
「背が低いから余計に子供っぽく見えるんだが……俺も結構精神年齢低いと思うんだけどな。」
かつて生活していたプラントの平均身長は170センチ前後であり、シンは168センチと少し低めだ。
この世界の平均身長はわからないが、カイルは160センチしかない。実に小柄だ。
ロニの話を聞くと、カイルの父親のスタンは172センチとそれなりに背が高かった。
ルーティは157センチでやや小柄というところだろう。
どうやら、カイルは母方の身長が遺伝したらしい。
ロニによると、ルーティには弟が一人いたらしいが、その弟も小柄だったとのことだ。
身長についてはカイルも気にしているので、触らない方がいい。
「シンよ、二度も言わすな。カイルは別格だ……。」
「…………。そうだった。」
何というか、馬鹿馬鹿しい会話だ。
だが、その会話で落ち着く自分がいる。
ここまで楽しく会話できる相手が今までいなかったのだから、ある意味当然だろう。
群衆のざわめきが大きくなった。エルレインが広場まで来たのだ。
シンは少しだけ背伸びし、その姿を見ようとした。
「ん? 見覚えがあるような気がするな。」
彼が目にしたのは、供を2人引き連れている落ち着いた大人の女性だ。
茶色の長い三つ編みで一本に纏め上げ、それをほとんど地面に付きそうなくらいまで髪を伸ばしている。
着衣は思ったより派手さはないが、聖職者を示すアンクベレットとゆったりした白い聖衣は、それだけで彼女が聖なる存在であるように見せている。
しかし、何よりシンが反応したのは、彼女の首にかけられたペンダントだ。
カイルが追っている少女もだが、エルレインもほぼ自分のブレスレットと同じ形状のペンダントをしている。
そう思った次の瞬間、ブレスレットから熱を感じた。
エルレインが近づくにつれて、帯びる熱は強くなっていく。
「エルレインに反応しているのか?」
彼女は一瞬シンを見たようだったが、そのまま笑顔で彼の前を通り過ぎた。
エルレインは広場の中央に着くと、軽く右腕を掲げた。
「この場に集う人々に救済を……。」
掲げた掌から零れるような光が溢れ、周囲に飛び散った。
それを浴びると、何とも言えない幸福な気分になる。
だが、エルレインの力はそんなものではなかった。
「あ、あれ? 目が……目が見える!」
「足が…………僕、歩けるようになったよ!」
「おお……長年苦しめられてきた病が……消えたぞ!」
人の手ではどうにもならない患い、苦しみ。
それが彼女の手にかかればあっさりと消えてしまう。
確かに奇跡とはよく言ったものだ。
「エルレインの力はあんなもんじゃねえ。噂じゃもっとすごいことができるって話だ。」
「あれ以上なのか、なかなかすごいもんだな。」
まだ発熱が続いている。関わりがあるのは確かだが、如何なるものかがわからない。
待てよ、とシンは思う。
規模が違うにせよ、「望みをかなえる」という点においてはシンのブレスレットの力もエルレインの奇跡も変わらない。
おまけにブレスレットとペンダントのデザインも同じと来ている。
力の源はおそらく同じものだろう。だとするなら、何故自分にこんな力があるのか。
何故自分が使えるのか。その説明がつかない。
不意に、彼の頬が大気の揺れを感知した。
カイルがエルレインに食ってかかろうと飛び出したからだ。
「そのペンダントを返せ! それはあの子のだ!」
どうやら、エルレインのペンダントをあの少女のものと勘違いしているらしい。
ただ似ているだけかもしれないというのに。
「えっ?」
さすがのエルレインも少し怪訝な顔つきになった。
それを見て取ったロニはカイルを捕まえ、謝罪した。
「すみません、こいつ田舎から出てきたばっかりで、礼を知りませんで……。知ってる子が似たようなペンダントを持ってたんでつい……。」
シンもカイルの右腕を掴み、一緒になって謝罪する。
「ああ……そうです。似たペンダント持ってました。だから、その、勘違いしてしまったみたいで。どうもすみません。」
まずい、とシンは感じた。
これだけ大勢の群衆の中でエルレインに喧嘩を売ったも同然の状況だ。
このままだと間違いなく信者に襲われる。
だが、エルレインの反応は柔らかなものだった。
「ああ、そういうことですか。はじめに断っておきますが、このペンダントは私のものです。ここにいる教団関係者が証明してくれるでしょう。」
「あ……ごめんなさい。」
いくら過剰なポジティブ思考で、我が道をどこまでも突き進むようなカイルでも、これはまずいと思ったらしい。
エルレインはあくまで柔らかい応対をする。
「いいのですよ。それだけ必死だったのでしょう? もし私があなたの知っている子から奪っていたとしたら、私から奪い返すつもりだったのですね?」
「いや、その……。」
「あなたは優しいのですね。あなたのような優しい者にこそ、神の加護が得られるべきです。あなたの名前は?」
「……カイル・デュナミスと言います。」
「そう、カイル。覚えておきましょう。」
エルレインはゆったりとした歩調でストレイライズ大神殿に戻っていった。
それを見届けた群衆は解散していく。グランド・バザールに戻る者、ホテルに向かう者、様々だ。
「ふぃー、肝を冷やしたぜ。お前、あんなところで飛び出すか、普通。無茶しやがって。」
ロニの説教を、カイルは聞いていなかった。
「エルレインって人……あの子に似てたね。」
「ああ? 冷や冷やしてて顔なんかまともに見てなかったぜ。」
シンはカイルの言葉を聞き、考えてみた。確かに似ている。
顔立ちというより、その雰囲気や周囲に醸し出される空間の種類がだ。
「似てた……って表現にも問題はあるけど、似ているといえば似ているかもしれないな。
 とりあえず、ロニ。宿に泊まろう。今後についてはその後にしよう。」
ロニは黒髪赤目の少年の言を受け入れることにした。
確かに休息が必要だ。特にロニには。
「誰かさんのお陰でどっと疲れが出ちまったぜ。そうだな、宿に行こうか。」
3人は連れ立って宿に向かうことにした。

 
 

アイグレッテの宿はかなり規模が大きく、値段も高い。
聖地巡礼を行う利用客層を考えると当然とも言えるが、財布の中身がどれだけ減るかを考えると溜息が出る。
「そういえば3人でいいのかね? 連れの子は一緒じゃないのかい?」
宿の主人にそう言われ、3人は揃って首を傾げた。
「連れの子? 誰のことだろ?」
「ほら、エルレイン様と同じペンダントを持った女の子だよ。あんたたちの知り合いじゃないのかい?」
それを聞いたカイルが身を乗り出し、宿の主人に問う。
「えっ、その子がどこに行ったかわかる?」
「なんだい、待ち合わせしてないのかい? あの子ならストレイライズ大神殿に向かったよ?」
カイルは聞き終わらないうちに宿を飛び出し、神殿のほうに駆け出していった。
「あっ、こらカイル!」
「あ、すみません! また後で来ます!」
ロニも慌てて飛び出した。シンは宿の主人に頭を下げながら駆け出す。
カイルは神殿正門で足止めを食っていた。
「駄目だ駄目だ、今日は礼拝の日ではない。とっとと帰らんか。」
「でも、女の子が一人、この中に入っていったって話を聞いたんです。通してください!」
「何度言ったらわかるんだ、そんな人間は見ておらん! さっさと帰れ!」
あっさり護衛兵に追い返され、カイルはとぼとぼと戻ってきた。
そして、彼は状況についてロニとシンに説明する。
「来てない? どういうことだ?」
「わからないよ、そんなこと。でも、宿の人が嘘を言っているようにも見えなかったし。」
「どうなってんだかわかんねえが、あの子の目的を考えるとストレイライズ大神殿の中にいるのは間違いなさそうだな。」
「でも、どうやって入るんだ? 正門からはまず入れないよ。」
「飛んでもいいけど、絶対目立つからなあ。俺は今回役に立ちそうにないな。」
シンの飛行能力を使おう、と言いかけたカイルの機先を制した。
疲れるというのも理由の一つだが、やはり目立ってはまずい。
ただでさえ、エルレインとの一件で目立ってしまったからだ。
「待てよ、確か抜け道があるって聞いたことがあるぞ。町外れの遺跡からって話だが……。」
ロニがそう言うと、カイルは思い切り元気な声で言った。
「よし、じゃ、その抜け道を探そう!」

 
 

抜け道はあっさり見つかった。
かつては石畳が敷き詰められていたのだろうが、今では朽ち果てており、蜘蛛の巣や床の窪みなどが目立つ。
「随分と埃っぽいな。管理されてないだろ、この遺跡……。」
シンはプラントで生活していたため、清浄な空気に慣れている。
コーディネイター故に咳き込むことはあまりないが、この手の埃っぽい空気は好きになれない。苦手なものは苦手だ。
「この遺跡の存在を知っているのは教団関係者でも一部の人間だけさ。大神殿の一部なんだろうが、ほとんど忘れられてるからな。」
ほぼ一本道だったので、あっさりと敷地内に出た。
信者から多額のお布施を受け取っているのだから、これほど無用心なことはないのだが。
外部の人間に知られていないのが救いだろう。
「さてと、まずどこから探すか……。」
ゲリラ戦の要領で、シンはあたりを警戒しながらストレイライズ大神殿の敷地に足を踏み入れた。
かなりの敷地面積だ。特定の人物を探すのは難しい。
とはいえ、ここの聖職者達の服装はわかっている。
おそらく、聖職者の着替えを入手するのは難しいだろう。
明らかに浮いた人間を探せばいい。
「うわーっ、でっかい建物だなー。あっ、あっちには石像が……ぐむぅ……。」
ロニがカイルの口を押さえ、声を殺しながらカイルを窘める。
「こらカイル! でかい声を出すな! 俺たちは不法侵入者なんだぞ!」
「むぐぅ……むぐっぐぐぐむぐむぐむぐぐ……。むぐぐーぐぐ……。」
どうやら「わかったから離してくれよ、苦しいだろ。」と言っているらしい。ロニはゆっくりとカイルの口から手を離した。
「……っぷはぁ、ああ、びっくりした。」
「それはこっちの台詞だ、バカカイル。こっそり侵入してるってことを忘れるんじゃない。」
シンは耳を澄ませ、どこかで会話がないかを探っている。
コーディネイターというのは便利なものだ。
このあたりも常人よりも強化されている。
「あっちの大きな白い建物……多分礼拝堂から声がする。様子を窺ってみよう。」

 
 

その礼拝堂では、カイルが追っている少女の姿があった。
彼女はある人物と対面し、対話している。
その相手こそ四英雄が一人、フィリア・フィリスだ。
鮮やかな緑色の髪を二房の三つ編みにし、後ろで垂らしている。
聖衣はエルレインのものよりも簡素で落ち着いたものだ。
ただ、その白さはエルレインのものと変わらない。
視力が弱いのか眼鏡をかけており、混じりけのない水晶を磨いて作ったと思われる眼鏡用のレンズは、かなり高価なものだろう。
「私は英雄を探しているんです。それも、とても強い力を持った……教えてください、フィリアさん。どうすれば英雄に出会えるのですか?」
不思議な雰囲気を持つ少女は必死な様子でフィリアに尋ねる。
フィリアは心の底からの優しげな眼差しで、彼女に問いかけた。
「その前に……リアラさん、と仰いましたね。何故あなたは英雄を求めるのです?」
リアラと呼ばれた少女は続ける。
「英雄には強い力があります。それは歴史すら変えてしまうような……。私は彼らの力の源が何なのか知りたいんです。
 そして、私もそんな力が……ほしいんです。」
「力を求めるのは悪いことではありません。ですが、何のために求めるのです?」
フィリアに理由を尋ねられたリアラはどもってしまう。
言いたくない。言えるわけがない。そんな口調だ。
「それは……ごめんなさい、どうしても言えません……。」
「では…………。」
フィリアが何か言おうとしたそのとき、フィリアは背後の空間が歪むのを感じた。
振り返ると渦巻く闇が徐々に人の形を成していくことがわかった。
その男は何もかもが大きかった。手にした斧、身長、鍛え抜かれた筋肉質の体躯。
青くウェーブがかった髪を伸ばし放題にし、それを後ろに放り投げている。──垂らすというイメージは、どうしても生ぬるく感じる。
「お前が四英雄が一人……フィリア・フィリスだな?」
ドスの利いた、野太い声だ。
それだけで彼が有する凶暴さが剥き出しになっている。
「あ……あなたは?!」
「死に逝く者に名乗っても無駄だ……砕けろ!」
その巨躯からは想像もつかないほどのスピードでフィリアに接近し、斧で殴りつけるようにフィリアを袈裟懸けに切り裂いた。
「きゃあああああああっ! フィリアさん!」
わずかに彼女が身をよじったために、何とか即死だけは免れたが、放置すれば間違いなく死ぬ。
「ぬるい……。これが英雄と呼ばれた者なのか。この俺を満たす強者はいないのか……!」
彼の視界の端で、リアラが治癒の晶術を使うのを見て、この狂戦士はリアラをも切り裂こうと斧を構える。
「貴様……俺の邪魔をするか!」
その刹那、礼拝堂の扉が開け放たれた。
様子を窺っていたカイル、ロニ、シンがなだれ込み、狂戦士を取り囲む。
「そこまでだ! ここからは未来の英雄、カイル・デュナミスが相手だ!」
狂戦士は血走った目をカイルに向け、咆哮した。
叫ぶというレベルを超えている。
「ふっはっはっはっはっはっ……小僧、思いあがるなよ。この俺の前で英雄と口にしたことを……あの世で後悔するがいい!」
シンは肌で知覚していた。間違いなく、勝てる相手ではない。だが、怪我人がいる。
しかも、今は戦いとは関係のない人間を本気で殺そうとした。
「逃げるわけにはいかない……!」
彼はフォース形態を取り、二人の援護のためにと宙を舞った。
夕方のストレイライズ大神殿を舞台にした混迷を極める戦闘が、今幕を開ける。

 
 
 
 

TIPS
称号
 「聖女と関わりがあるに違いない!」
  エルレインに反応したブレスレット。
  彼女とはいったい……?
   TP回復+0.5 攻撃-1.5