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Fortune×Destiny_第05話

Last-modified: 2007-12-03 (月) 09:53:37

5 狂戦士バルバトス・ゲーティア

 

「ぶるあああああああああああああああ!」
狂戦士の雄叫びが礼拝堂一杯に広がり、反射して共鳴する。
強烈な裂帛と共に放たれた斧の一撃は衝撃波を巻き起こし、カイルたちを打ちのめした。
「ぐっ……なんてやつだ!」
「カイル、俺が空中から援護する! 俺が攻撃したら突っ込め!」
シンは穿風牙を放ち、さらに間合いを詰めた。
だが、自分で言ったように武器同士での戦いは上にいる者の方が不利になる。
危うく脚を斬られそうになり、一時弧を描いて穿風牙をものともしなかった狂戦士から離れた。
その次の瞬間。
「男に後退の二文字はねええええええい! 絶望のぉぅ、シリングフォール!」
突如として崩落してきた天井がシン目掛けて降ってくる。
空中で体を捻っても無駄だ。自分が有する推進力だけが頼りである。
「うおっ! 危ないな!」
何とか体勢を立て直し、今度は床すれすれを飛行しながら突撃する。
だが、接地していないことには変わりない。
狂戦士の斧の一撃をサーベルで受けたが、そのまま弾き飛ばされ、礼拝堂の長椅子に激突した。
「ぐぅ……。」
シンが攻撃を受けている隙を狙い、カイルが狂戦士の背後に回り、斬りかかろうとした。
だが、それも無駄だった。
「俺の背後に立つんじゃねええええええええええええい!」
カイルは胸倉を掴まれ、力の限り放り投げられた。
カイルの体重は55kgで、このむくつけき狂戦士よりも遥かに軽い。
彼も離れた床に叩き付けられる。
「こんなものか? ならばこちらから行くぞ! 破滅のグランバニッシュ!」
床が崩壊し、カイル、シン、ロニがまとめて地のエネルギーの海に叩き込まれる。
その恐るべき破壊力は、礼拝堂の長椅子の大部分を崩壊させた。
「まっ……マジでやべえぞ、こいつ!」
ロニは比較的軽傷だが、残る二人はそうもいかない。
ロニはハルバードを構え、大斧を携える狂戦士に斬りかかる。
「でりゃっ!」
斧と斧が激しくぶつかり合い、耳障りな金属の擦れ合う音が響く。
鍔迫り合いだ。
だが、180センチはある長身のロニよりもさらに高く、体重も勝る狂戦士にロニは押されている。
「ぶぅぅぅぅぅああああああああ……。」
ロニの脳裏に、あることが蘇った。
それはカイルには絶対に話してはならない。

 
 

血を流して倒れ伏す慣れ親しんだ者の姿、血塗られた斧、巨躯の男、狂気に満ちた血走った目。

 
 

「あのとき」の男に酷似していた。
だが、もう十数年も経っているのに全く同じ姿だ。
そんな考えを巡らせていたせいか、ハルバードを握る彼の手の力が抜けた。
それを見逃すほどこの狂戦士は甘くない。
「虫けらがあああああああああ!」
ロニの手からハルバードが弾き飛ばされた。
さらに即死級の一撃をロニに叩き込もうと斧を振りかざした狂戦士だったが、今度はシンが離れた位置から地竜閃を放ち、狂戦士の対応を鈍らせる。
「ロニ、カイルの回復を頼む!」
「シンは大丈夫なのか?」
「何とか!」
シンは駆け出しながら穿風牙を放った。
狂戦士が風の槍を斧で叩き落したところを確認すると、一気に間合いを詰めて斬りかかる。
「でやあああああああああああ!」
しかし、この狂戦士のパワーは桁外れだ。
斬りかかったはいいが右手のサーベルを斧で叩き折ってしまったのだ。
「なっ……!」
再び狂戦士の一撃が降って来る。
左手のサーベルで受け止めようとしたが、これも折れてしまうかもしれない。
せめて盾があれば、と思った矢先、シンは奇妙な感覚を覚えた。
折れたはずの右手のサーベルが戻っている。
同時に、左手のサーベルが中央に尖った十字が描かれた、赤い縁取りの黒いヒーターシールド(腕部固定型騎乗用盾)に変わっていた。
「よし、これなら!」
よくわからないが、防御できるというのは心強い。
斧の一閃を受け止め、さらに反撃しようとした。
だが、狂戦士の猛攻が激しく、盾を頼みに何とか持ちこたえることしかできない。
しかも、それに乗じて狂戦士は追い撃ちをかけてくる。
「縮こまってんじゃねえええええい! 灼熱のぉぅ、バーンストライク!」
強烈な火炎弾が炸裂する。
構えた盾でバーンストライクを受け止めた。
が、狂戦士の猛攻によって脆くなっていたのか、すぐに崩壊してしまい、直撃を受ける。
「ぐあああああっ、まずい!」
さすがに大ダメージだ。已む無くシンは後退する。
シリングフォールも漏れなく付いてきたが、それは何とか回避した。
その間にロニがカイルの回復を終え、シンの回復に移る。
今度はカイルが狂戦士に挑む。
「でえやあっ! 空翔斬!」
素早く斬りつけ、さらに飛び上がって体重をかけて斬りにかかる。
だが、やはりこの程度の攻撃では狂戦士には通じない。
狂戦士の血走った目がさらに狂気の色を濃くした。
奥義が一つ、三連殺を使おうとしている。
「カイル、離れろ!」
シンが体勢を立て直し、狂戦士に向かおうとしたが、遅かった。
「死ぬかぁ!」
狂戦士が炎の波を纏った斧で大きく斬りつける。
カイルは直撃だけは避けたが、ダメージは決して小さいものではない。
「消えるかぁ!」
上昇気流を伴う斧のカチ上げを食らい、カイルの体が宙に浮いた。
狂戦士はさらに追撃をかける。
「土下座してでも生き延びるのかぁ!」
浮いたカイルの体を掴んで、膝で蹴り付け地面に叩きつけた。
その衝撃で床の一部が割れて破片が飛び散る。
「うっ……。」
カイルはぴくりとも動かない。
死んではいないようだが、ダメージが濃いために気絶している。
「カイル!」
シンはロニから受け取ったライフボトルを取り出した。
こういう状況で使うものだということらしい。
栓を抜き、カイル目掛けて投げ付ける。
ライフボトルの液体を浴びたカイルは、虚ろになる目を瞬かせ、素早く離脱した。
だが、この行動こそが狂戦士にとって一番の癇の障りどころだったらしい。
「アイテムなぞ……。」
いきなりシンにシャドウエッジが炸裂した。
刺されても外傷はできないが、ダメージを受けることに変わりはない。
さらに狂戦士は続けて追加晶術を放つ。
「使ってんじゃねええええええええええええええええい!」
炸裂したシャドウエッジが哭きながら黒き十字架へと姿を変えていく。
ブラッディクロスだ。
四方に闇が飛び散ったその形は正しく十字架であり、シンは空中で磔にされたも同然だ。

 
 

「っぅぐはあっ!」
磔刑台から引き摺り下ろされ、床に体が叩き付けられた。
全身が猛烈に痛む。
「ま、まさかこいつ……。」
シンは気付いた。
この狂戦士の持つ属性は、優先順位はともかく、シンが有しているものと全く同じだ。
属性は性格と大きな関わりがある。
火なら熱くなりやすい性格で、水なら冷静な性格、という具合だ。
似たような属性を有していると性格は似てくる。
まさか自分もこうなるのでないか、という不安がシンの胸を過ぎる。
だが、それ以前に勝たねばならない。
深く考えるのは後回しだ。
「本気でまずいぞ、これは……。このままじゃ……もっと俺に、強い力があれば……。」
ふらつきながら立ち上がったシンは、再び両手にサーベルを構え、狂戦士に向かっていく。
「もうお終いか。耐えぬ方が身のためだぞ?」
「まだまだあああ、でやあああああああ!」
シンは狂戦士に六連衝を放った。
それは全て斧に弾かれ、この巨躯の男には届かない。
「ぐっ、まだだっ、三連追衝!」
飛翔しながら一発、降り立って一発、下から抉り込むように一発突きを放った。
一発ずつの間隔は異様に短い。
浮遊力をフル加速させたり、逆向きに発生させたりすることで徹底して連撃を途切れさせないようにする。
それが六連衝の追加特技、三連追衝なのだ。
この攻撃はさしもの狂戦士も防ぎきれなかったらしい。
かすり傷とはいえ、傷つけることには成功した。
「ほほう、やるな。だがこれまでだ。砕けろ!」
斧が強烈な衝撃波を生み出した。ターゲットはシンだ。
だが、避けられない。
丁度背後に傷を手当てしているリアラと、未だ目が覚めないフィリアがいるのだ。
「耐えてくれ、俺の盾!」
シンは左手のサーベルをシールドに変化させ、衝撃波を防ぎきった。
その隙を狙って突撃してくる狂戦士に、シンは火炎斬を叩き込んだ。
狂戦士に炎は届かなかったが、火の粉は飛んだらしく、少し後ずさりしたようだ。
「カイル、頼む!」
「わかった!」
カイルは素早く散葉塵を使って狂戦士に斬り込み、さらに追加特技の散葉枯葉を使った。
さらなる素早い連撃を繰り出し、狂戦士を翻弄する。
自分が軽い場合、下から攻撃すると効果的だ。
多少狂戦士の体が泳いだようだ。
「今度は俺が行く! ロニ、忙しいだろうけど頼む!」
ロニは先程から詠唱を続けている。
2人ともやたら怪我をするので、とにかく忙しいのだ。
「わかってるって。あんま怪我すんじゃねえぞ!」
「無茶言うな!」
だが、実際問題全員の精神力を使い果たす事態は避けたい。
ロニは唯一の回復要員であり、カイルは一番の攻撃要員だ。
そして、シンは唯一空中からの支援ができる攻撃要員であり、全員、全く替えが利かない。
無茶でも何でもやる他ない。
「……ここでやられてたまるか、俺は生き延びてやる!」

 
 

シンがそう叫んだ瞬間、両手に持ったサーベルがV字の鍔と鍔の先端に4つの輪の飾りがついた大剣、クレイモアに変化した。
同時に、彼は自分の皮膚が頑丈になるのを感じ取り、さらに全身に溢れるような力が宿っていく。
ブレスレットの結晶体にはZGMF-X56S/βという文字が浮かんでいる。
「ソード形態か! いくらかあいつの攻撃を受け止められるか……!」
先程までの俊敏さはない。
だが、漲る力を剣に伝え、そのまま振るうと剣を斧で受け止めた狂戦士の体が振動したように見えた。
「何ぃ……この力は何だ!?」
「俺の望む力だ!」
シンは全身を捻り、力任せにクレイモアを振りかざした。
狂戦士は斧で弾いて攻撃をかわす。
「そうだ、この感覚だ! この俺を楽しませてくれるとはありがたい限りだ! ぶるあああああああああああああああああ!」
剣を弾かれたためにシンの体勢が崩れ、一瞬の隙を見せる。
狂戦士はその隙を逃さず、斧を振るった。
それでもシンは何とか反応し、鋭いバックステップを踏んで斧自体の攻撃は避けた。
だが、衝撃波までは避けられない。
シンの体に衝撃波が炸裂し、吹き飛ばされる。
そう、吹き飛ばされると思った。
だが、シンはダメージがないわけではないが、その場で踏みとどまり、狂戦士に反撃の一太刀を浴びせていた。
「俺の攻撃を受けても踏みとどまるだと? さっきは簡単に飛んでたのにな……。面白い!」
フォース形態が風を強調した形態なら、ソード形態は地を強調した形態だ。
攻守両面でインパクトの瞬間に自重を増やすことで、攻撃を受けたときにはのけぞらず、攻撃を放つときには重量のある攻撃を行える。
さらには防御能力の向上もそれに伴うものだ。
溢れる力も同じ理屈で、持ち上げるときにかかる重量を減らし、振り下ろす瞬間に元に戻している。
動きこそ鈍くなるが、最前衛で戦うには申し分のない能力だ。
しかし、彼はそれだけではない。
ここからがシンの力の見せ所だ。
「いくぜ!」
シンはフォース形態に戻り、空中に舞い上がる。
その状態で穿風牙を放ち、さらに狂戦士に接近する。
「そんな子供だましが通じると思っているのか!」
狂戦士は穿風牙を回避するまでもなく斧で叩き落して止めた。
だが、その選択が間違いだった。
シンは空中でソード形態に入れ替え、左手のクレイモア放り出して右手のものを両手で大上段に構えて振り下ろした。
「そんなものが……ぐふぅ!」
ソード形態では重量が変化する。
重量とは重力加速度9.81m毎秒毎秒前後を基準に測定した質量であり、物体にかかっている重力の強さを示す値だ。
この重力加速度が変化すると重量も変化する。
つまり、ソード形態はシンの体や武器にかかる重力を操作しているのだ。
剣を振り下ろした瞬間、シンにかかる重力が増大する。
つまり、落下スピードが通常より速くなってしまうのだ。
落下速度は余程空気抵抗が変化しない限り変化しないのだから、普段のタイミングと一致しない。
故に、狂戦士にダメージを与えられたのだ。
「どうだ!」
「俺に正面から傷をつけたことは評価しよう。だが、ここまでだあああああああああ!」
狂戦士の斧が唸りを上げた。
シンはクレイモアを構えて受け止めた。
インパクトの瞬間に重量を増加させたというのに、それを物ともせずにシンの体を礼拝堂の壁に叩きつけた。
「そんな……! こうなったら……カイル! 俺の後ろから突っ込め! ロニも頼む!」
シンはフォース形態をとり、飛行する。ただ飛行しているのではない。
頭が下に、足が上という体勢だ。
「空中で逆立ちだと? 奇を衒ったつもりか!」
別に奇を衒ったわけではない。武器戦闘における上下の優劣関係を消すための行動だ。
上にいると足を狙われやすいが、これならどちらも同じ位置しか狙えない。
結果として、飛行能力を生かそうと思うとこの方法しかないのだ。
「でえやあああああああああ!」
シンはサーベルを振るい、狂戦士の斧とぶつかり合う。
だが、この形態では弾き飛ばされてしまう。
だが、それも彼の狙いのうちだった。
「鏡影剣!」
飛ばされる瞬間を狙い、シンは狂戦士の影をサーベルで射抜いた。
逆さ向きの方が影を狙いやすいのだ。狂戦士の動きが一瞬停止する。
「ぬうっ!?」
「今だ! カイル、ロニ!」
「任せろ!」
ロニのハルバードが唸りを上げ、狂戦士の体を叩きのめし、双打鐘で衝撃を加えていく。
さらにロニの後ろからカイルが飛び出した。
「爆炎剣! 燃えろ!」
振り下ろした剣が床に到達すると同時に狂戦士の足元から火が吹いた。
さらに爆炎連焼を使い、炎を纏った剣で狂戦士を一閃する。
「こいつら……。」
どっと狂戦士の体が折れ曲がり、片膝をついた。

 
 

「やったか?」
カイルは一度バックステップを踏み、狂戦士から離れる。
だが、その瞬間狂戦士の目がぎらりと殺意を剥き出しにした。
「なるほど、礼を失したようだ。ならば本気を出してやろう!」
「カイル、離れろ!」
ロニの声が届く前に、狂戦士の斧がカイルを襲っていた。
何とかカイルはその一撃を避けたものの、剣を弾き飛ばされてしまった。
「残念だったな、くっくっくっくっ……ぶぅっはっはっはっはっはっはっ!」
狂戦士が斧を構えたその瞬間、礼拝堂の入り口から何者かが侵入した。
さらに、その人物は短剣を投げ付け、それを狂戦士の脇腹にクリーンヒットさせる。
「ぬぐぅ!? 何者!」
「カイル、受け取れ!」
カイルが弾き飛ばされた剣を、その仮面を被った少年、ジューダスがカイルに投げて寄越した。
間髪いれず、カイルは剣を手にし、狂戦士に一太刀浴びせた。
「やああああああ!」
「ぐはぁ!」
まだまだ力を隠している様子だが、これ以上は戦うつもりはないらしい。
狂戦士は脇腹に刺さったままの短剣を放り投げ、自らの周囲に闇を生み出しながら咆哮した。
「強いなあ、カイル・デュナミスよ。俺の名はバルバトス・ゲーティア。
 今度会うときは……もっとこの俺を楽しませてくれよ……ふぅっはっはっはっはっはっは……!」
狂戦士バルバトス・ゲーティアは高笑いしながら闇に包まれ、そしてその場から消えた。
「……ふう。」
生身での戦いに余り慣れていないシンだ。
極度のプレッシャーからか、その場にへたり込んでしまった。
カイルは剣を鞘に収め、リアラとフィリアの様子を見に行ったらしい。
ロニもシンと似たり寄ったりの状況らしい。
この礼拝堂でまともに立っていられるのはジューダスくらいのものだろう。
「シン、ロニ、ジューダス! フィリアさんは無事みたいだ!」
ジューダスの表情が仮面の奥でぴくりと動いた気がしたが、シンはそれが何なのかはわからなかった。
「フィリアさんの怪我は君が治してくれたんだよね? ありがとう。」
「あ……うん、ありがとう。」
リアラはカイルの眩しい表情を見て、少しだけ顔を綻ばせた。
「とりあえず、フィリアさんをフィリアさんの部屋に運ぼう。この子一人じゃ連れてけないからな、全員で協力しよう。」
ロニの言葉の同意したシンは、適当な棒と布を探してきて、簡単な担架を作り、それにフィリアの体を載せた。
傷口は塞がり、呼吸も安定しているらしい。
「まずは目を覚ますまで待たないとな。」
それにしても、とシンは思う。何故フィリアを襲ったのだろうか。
あの様子だと殺すこと自体が目的らしく、金目当てというわけでもなさそうだ。
しかも、あの剥き出しの憎悪と殺意は尋常ではなかった。
フィリアの方にも見覚えがなさそうだから、彼女への復讐にも見えない。
「あの様子だとまた俺たちと戦いそうだな。今度問いただしてやる。」
そのときには苦戦などするものか、とシンは胸に秘め、眠り続けるフィリアの意識が戻るのを待っていた。

 
 
 
 

TIPS

三連追衝:サンレンツイショウ 武器依存

 

称号
 子泣き少年
  ソード形態で戦う間は重量が変化する。妖怪子泣き爺のような少年。
  誰かに負ぶってもらうわけではない。
  シン「なんだこの称号は!」
   防御+2.0 回避-1.5