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Fortune×Destiny_第06話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 09:41:20

6 アルバイト

 

カイルたち5人はフィリアを彼女の私室に連れて行き、ベッドに彼女を寝かせて起きるまで見守ることにした。
念のためにロニとリアラがヒールをかけ、深い部分の怪我を治す。
表面の止血が出来ても、内出血が酷ければ治癒は無意味なのだから。
「フィリアさん、大丈夫だよね?」
「彼女……リアラが俺たちが戦っている間に必死になって治癒してたんだ。助かるよ、きっと。」
シンは確証のないことを口にしたが、彼女の努力が無になることは避けたいと思った。
彼はもしかしたらあのバルバトスが戻ってこないかと警戒していたが、どうやらフィリアを殺すことを諦めたらしい。
内心ほっとしながらシンは自分のブレスレットを見た。どの形態もとっていないので何も表示されていない。
このブレスレットをリアラに見せてみようと思い、シンはリアラの横に歩み寄る。
「リアラ、といったかな? これなんだが、見覚えはないかな?」
シンは彼女にブレスレットを見せた。
リアラは驚いたように彼の顔を見、ついでブレスレットの結晶を見つめた。
「これ、私のペンダントにそっくり! どうしてあなたが?」
「気付いたら身につけてたんだ。俺にもよくわからない。ただ、リアラが似たようなものを持っているみたいだから聞いてみたかったんだ。」
「これは……今は言えないけど……。でも、あなたも薄々感じてるんじゃない? どんな力があるか。」
確かにシンはある程度の範囲で理解していた。
願望を叶える力だと。
自分の持つ力ではそれなりに制御できる範囲で、自由に出し入れできるようだ。
リアラの場合は不安定でそれなりに強い力が扱えるのだろう、とシンは見当をつけている。
エルレインともなると、かなり強力な効果を有し、その上で自由に扱える。
並大抵のことではない。
フィリアの顔色がよくなってきたのを確認したカイルが、リアラに話しかける。
その声には賞賛が多く含まれている。
「ねえ、君。リアラっていったよね? フィリアさんを助けられた君の力はすごいんだな。」
「そんなこと……私なんかまだまだで……。」
「でも、人一人助けるのって結構大変なんだ。リアラはそれができたんだ。だから、やっぱりリアラは凄いよ。それにさ、母さんが言ってたんだ。」
カイルは腕を組み、目を閉じて続ける。
「反省するのは大事だけど、後悔はよくないって。」
「あ……。」
「その人の言うとおりですよ、リアラさん。」
その場にいる全員がベッドの方向に目を向けた。
そこにはベッドに腰掛けるフィリアの姿があった。
「フィリアさん、駄目ですよ。まだ寝てないと。」
リアラが寝かそうとしたが、それをやんわりと押し留めた。それが出来るくらいまで回復させることが出来たということだろう。彼女の治癒能力はなかなかのものだ。
「大丈夫ですよ、もう心配ありません。」
「よかった……。」
「……リアラさん。あなたは英雄を探している、と仰いましたね。私にも探し方はわかりません。
 ですが、一つだけ言えることがあります。」
フィリアは昔を懐かしむように語る。
18年前の騒乱では、自分はソーディアン・マスターとして戦い、そして、平和を手に出来たと。
しかし、それにはあるものがなければ為せなかったと言う。
「それは仲間です。苦しいとき、悲しいとき、あの人がいたから私は戦い続けることが出来たのです。
 私はあの人に感謝しています。どこまでも前向きで一途な……。」
シンには誰のことを言っているのかは大体わかった。
おそらくは、自分の左に立ってフィリアの話に聞き入っているハリネズミの父親のことだろう。
カイルの馬鹿馬鹿しいほどの前向きさを考えれば、その父親も似たようなものだろうという、単純極まりない推測だ。
「仲間……。」
リアラのその言葉を聞いたカイルが彼女の横顔を見つめる。
その顔には「一緒に行こうよ」と書いているようだった。
カイルにとっては「英雄を目指す」旅、リアラにとっては「英雄を探す」旅になるだろう。
お互いの条件としては悪くはあるまい。
「フィリアさん……。」
「答えは出ているのでしょう?」
この前向きな少年なら、確かに懸命になってくれる。
それに、一緒に旅をしている二人もなかなか心強い。
頼ってもいいかもしれない。彼女はそう思った。

 
 

「じゃ、じゃあ、お願いしていい?」
「勿論! 俺カイル・デュナミス。こっちがロニで、もう一人が……。」
「シン・アスカ。よろしく、リアラ。」
シンは微笑を顔に浮かべてそう言った。
その表情は間違いなくぎこちない。
カイルたちに出会うまでほとんど笑うということをしなかった。
というよりもできなかった。
無理もない。彼が14歳を間近に控えた時に、家族はシン一人を残して死んでしまった。
プラントに渡ってからは我武者羅に訓練に明け暮れていたし、戦いの最中に出会い、
守りたかった少女は目の前で殺され、挙句の果てには自分自身も殺されかけた。
笑えと言われれば間違いなく窮する。
ここ最近は笑う回数も増えたが、それでもぎこちないものはぎこちないのだ。
「あっ、待ってよジューダス!」
カイルの声に反応して振り返ると、仮面の少年が背を向けて外に向かっていた。
そういえばジューダスには礼も言っていない。
カイルは既にジューダスを追って駆け出している。
「あっ、カイル!」
慌ててロニがカイルを追う。
シンは2人が忘れた挨拶を忘れなかった。
「あ、フィリアさん、いろいろありがとうございました。失礼しますっ!」
彼は精神力を使い果たしているのでフォース形態をとることが出来ない。
走って3人を追いかけた。
「それじゃ、私も……フィリアさん、ありがとうございました。」
リアラもその場を立ち去ろうとしたが、フィリアに呼び止められた。
「待ってください。リアラさん、こちらに。」
フィリアはリアラの頭を抱えるようにし、彼女の耳を自分の胸に軽く押し当てた。
「聞こえますか? 私の心臓の鼓動が……私は生きています。あなたが守った命です。
 それは何よりも大事なこと……リアラさん、それだけは胸に留め置いてくださいね。」
「……はい。」
リアラは急ぎ、カイルたちの後を追った。
一人取り残されたフィリアはカイルの言動や容姿が、かつて共に戦った人物によく似ていることに気付いた。

 
 

「待ってくれよ、ジューダス!」
ジューダスは振り返り、カイルたちを見遣った。
4人とも息を切らせている。
「何だ、まだ何か用か?」
「ほら、さっき助けてくれたでしょ? お礼言ってないからさ。ありがとう、助けてくれて。」
「ただ通り掛かっただけだ。」
「タイミングが良過ぎると思うぞ、ジューダス。大体、正門が塞がってるし礼拝の日じゃないのにどうやったら通り掛かれるんだよ。」
シンの言葉にむっとし、ジューダスは皮肉めいた口調で返事をする。
「だったらどうしたというんだ。」
「可愛くねえやつ。」
ロニが毒づいたが、ジューダスはいっこうに表情を変えない。
「今回手を貸してやったのは、遠くから見ていてお前達の要領の悪さに苛々しただけだ。」
門の方から誰かが来る。警備兵だ。二人いる。
先程揉めた人物ではないようだから、どうやらあの後交替したらしい。
ジューダスは警備兵二人に背を向けた。
「お前達、怪しい者を見かけなかったか?」
シンは内心で「一番怪しいのは俺たちだよな。」と思ったが、それは口に出さないことにした。
そして、心にもないことを言う。
「いえ、特に見てませんよ。何かありましたか?」
「神殿に賊が侵入したらしい。礼拝堂が荒らされたそうだ。」
ある意味、賊は自分達だろう。不法侵入したのだから。
礼拝堂を荒らしたのも間違いなく自分達だ。
「へえ、賊ですかあ、それはおっそろしいですねえ。」
ロニが何とも調子のよさそうな口調で言う。
こんな見え透いた嘘がどこまで通じるかわからない。
「ところで、お前達はここで何をしている? 今日は礼拝の日ではないし、どうやって入った?」
来た、とシンは思った。ここは適当に切り抜けるしかない。
「あー、ちょっと道に迷ってしまいまして。俺たち、山歩きが趣味なんですけど、途中で道が途切れてしまいましてね。
 迷っているうちにここについてしまったんです。」
ありがちな上に、見え透いている。
こんな理屈が通るかどうか。
「ふむ……おい、そこの者! 何故こちらに顔を向けない!」
警備兵がジューダスに声をかけた。
仮面を被っているのだから、確かに怪しい。
「あ、そいつ俺たちの仲間なんです。なあ、ロニ。」
ジューダスの肩がぴくりと動いた。
カイルの言葉を受けたロニがさらに続ける。
「ええ、腹が痛いって休んでるんですよ。なあ、リアラ。」
「え、ええ、そうなんです。」
「こいつ、苦しがってるときの顔を見せたがらないんですよ。勘弁してやってください。」
ロニ、リアラ、シンが続けてこう言うと、不審そうな表情をシンたちに向けた。
まずい、と内心で冷や汗をかきながら、次の言い訳を考えた。
「あー、あそこに怪しい人影が!?」
ロニが門の外を指差して叫んだ。
「そういえばあいつ、さっきここから逃げ出してましたよ!」
「どっ、どこだ!」
「ほら、あっちあっち!」
「よ、よし、追うぞ!」
警備兵が二人とも門の外に走っていった。
この場合は一人残してもう一人が確認に行く、というのが警備の基本のはずなのだが。
「未熟な警備兵だな……。」
馬鹿馬鹿しい限りだ、とシンは思った。
どうやら少々武器が使えるだけの能無しを雇っているらしい。
これでは抜け道となる遺跡の存在を知ろうともしないだろう。
「ねえ、ロニ。あやしい人影ってどこ?」
「バカ。お前まで本気にしたのか? ああでもしないと面倒だろ。」
シンは鳩が鳴くような声で笑いを噛み殺し、左手で胸を押さえた。
あまりの馬鹿馬鹿しさに堪えていた笑いが限界を超えたらしい。
「あー、シンひでぇ。」
「カイル……何故僕を仲間だと言ったんだ?」
感情の起伏が少ないジューダスだが、今度ばかりは少々揺らいでいた。
「え? だってジューダスは俺たちの仲間じゃん。」
「そうそう、さっきカイルが俺たちの仲間だって言ったときに否定しなかったしな。」
ロニの発言は屁理屈もいいところである。
だが、ジューダスを引き込もうという意図を察して、それは黙っておくことにする。
シンはこの得体の知れない仮面を被った少年を少々気に入っていた。
皮肉屋ではあるが、実際のところはカイルのことを守ろうとしているのではないかと思ったのだ。
わざわざつけてきて、カイルのピンチに現れ、あれこれ誤魔化そうとするあたりは可愛げを感じさえする。
「それに、遠くから見ているから苛々するんだろ? 近くにいれば苛々せずにすむよ、きっと。」
逆に頭痛が酷くなるのではないか、とシンは心の中で突っ込みを入れた。
おそらくジューダスはかなり前からカイルを保護者のような視線で見ているに違いない。
最後の一押しにとシンは口添えする。
「この面子、常識知らずが多いからな。多分ジューダスが舵取りをしたら少しはマシになるんじゃないか?
 そうすれば、遠くから見ていて苛々っていうのはなくなると思う。
 正直、俺たちはジューダスのような人間が必要なんだと思うから。」
必要とすること。
この言葉は一匹狼体質の人間には効果が薄いのだが、シンの言葉に嘘はない。
実際、常識に欠ける面々ばかりが揃っている。
単純バカに女好き、英雄探究しか頭にない人、そして究極の迷子。
自分を含めてこの世界での旅に向いていない。
「僕と一緒に旅をするとろくなことがないんだ、止めておいた方がいい。それでも、というのなら……。」
「大丈夫。もう既に厄介ごとには巻き込まれてるし。
 これ以上の厄介ごとが起きても気にしたところでどうにもならないから。」
「……後で悔やんでも知らんぞ。」
ジューダスは渋々といった様子で承知したらしい。
斜陽に染め上げられた神殿は、徐々に濃藍色の闇に包まれ始めている。
「よろしく、ジューダス!」

 
 

「さてと、仮面ストーカーのお陰で助かったわけだが、これからどうする? 宿に泊まろうか?」
ロニの発言に鋭く突っ込みを入れつつジューダスが言う。
「仮面ストーカーとは僕のことか? ……まあいい。この時間にアイグレッテ港からスノーフリア港へ向かう船はない。
 一泊しなければならないだろうな。」
「よおし、それじゃあ宿に…………あれ?」
カイルは元気よく宿に行こう、と言おうとしたらしいが、歯切れの悪い言葉に変わった。
その表情を見たロニが怪訝そうに問う。
「どうした?」
「お金を入れてた袋がない!」
「何いぃぃ!?」
バルバトスとの戦いで落としたわけではなさそうだ。
この世界のガルド通過は金色をしているのでかなり目立つ。
もしそうならすぐに気付くはずだ。となると可能性は一つしかない。
「グランド・バザールで掏られたな、カイル。」
掏られる機会は二回ほどある。
グランド・バザールの猛烈な人ごみか、エルレインの奇跡を見物に行ったときだ。
ただ、タイミングや集まってくる人間の層を考えればグランド・バザールが一番怪しい。
「ええええええええええ? どうしよう!?」
「どうしよう、はこっちの台詞だバカカイル!」
混乱しているカイルたちに、ジューダスは冷静な声をかけた。
「何をしている。さっさと宿に行くぞ。」
「え、でもお金が……。」
「僕が出す。いいからついてこい。」
遠慮がちに4人はジューダスの後に続く。
そして、ジューダスは5人分、二部屋の代金を全て払ってくれた。
「だが、これで僕の手持ちの資金も尽きた。金がない以上、船にも乗れんぞ。」
「うーん……どうしようかなあ……。」
「参ったな、こりゃ。」
「どうしよう……。」
4人の反応を見ていたシンは、思い切って口を開いた。
「なあ、皆。明日半日使ってバイトしてみよう。この宿のレストランで募集してたし、
 少し離れたところにも倉庫の在庫整理のアルバイト募集があったからさ。」
その稼いだお金で明日の最終便に乗ってスノーフリアに向かおう。
シンはそう言った。
「それに、レストランの従業員にうってつけの人間が4人もいるんだ。
 無駄に明るいのと、逞しいのと、結構可愛いのと、クールでかっこいいのと。」
「……僕は倉庫の方がいいんだが。」
「ソード形態の俺と腕相撲して、勝てたら倉庫に行っていいけど。」
ジューダスは沈黙した。ソード形態での腕力は彼も目にしている。
素早い連撃と剣技で戦うジューダスでは重い荷物は運べない。
「正直、俺は愛想が悪いから。それに、フォース形態とソード形態を随時入れ替えればなんとかなるし。」
「まあ、他に方法もないんだし、やるっきゃねえなあ。」
ロニはもう厄介ごとには慣れたと言わんばかりの口調でそう言った。
カイルも半分項垂れながらも同意したし、リアラでさえも先に進むためには、という顔をしていた。

 
 

夜が明けた。
一行は早めにチェックアウトを済ませた。
ねぼすけのカイルの顔に往復ビンタ炸裂させて叩き起こしたシンは、グランド・バザールに程近い商業用倉庫に向かった。
「すみません、募集の紙見て来たんですけど、今日の夕方まで雇ってくれませんか?」
かたやカイル、ロニ、リアラ、ジューダスの4人は宿に残り、レストランのアルバイト従業員として雇われることになった。
服はそのままでいいとはいえ、服についた埃だけはしっかり払っておかなければならないし、武器もロッカーに入れて鍵をかけておかねばならない。
「よし、頑張るぞ!」
「俺の華麗な皿運びのテクニックで、お嬢様方の視線を釘付けにしてやるぜ。」
「……私に勤まるかな……。」
「……いらっしゃいませ……何名さまでしょうか……かしこまりました…………慣れんな、こういうのは。」
非常食で腹を満たした5人だ。
さっそく朝食のアルバイトから始める。
「店員さーん、お願いしまーす。」
「はーい、ご注文は?」
「オリエンタルライス1つと……。」
「……はい、かしこまりました。」
「とんかつ定食まだですかー?」
「今参ります!」
一方のシンはフォース形態を使って軽いものを素早く運び、重いものをソード形態で運んでいた。
シンは気付いていなかったが、今ソード形態で運んでいる物はなんと300kgある。
倉庫の持ち主は唖然とした様子でシンを見ている。
彼の体格はほっそりしており、55kgしかない。
カイルより身長が高くて体重が同じなのだから、シンはかなり痩せていることがよくわかる。
そんな彼がそれだけの荷物を持って歩くのだから、到底信じられない光景だ。
「よいしょ……次はこれか。すんませーん、この荷物はこっちの棚でいいんですよねー?」
「あ、それは反対側。頼める?」
「はーい!」
軽々と荷物を担ぎ、何ともないように歩いていく。
現実離れした光景だが、目の前で起きている事象を否定しても意味がない。
「資金が足りないんだから、人の五倍は働かないと。
 ……次はこれなんですけど、伝票貼ってませんよ? 何かわかりますか?」
「ああ、それは私個人の荷物だからおいといていいよ。」
「では、その旨だけ書いた紙を貼っておいて下さい。間違ってしまってはことですし。」
そう言いながらゆっくりと荷物を降ろし、別の伝票が貼り付けられた箱を抱えて倉庫に向かった。

 
 

カイルたちはというと、こちらもなかなかいい売り上げだ。
カイルはその明るさとあどけなさからご老人に人気があるらしい。
わざわざカイルを呼んで注文を頼む客も少なくない。
「はい、今日のスペシャルですね? か、かしこまりました。」
使い慣れない言葉故に舌を噛んでしまうが、それがまた可愛いのだろう。
わざわざ用事もないのに呼びつけられ、その度に水を注ぐのだから大変だ。
「はい、お待たせしました。B定食です。」
ロニは孤児院で大量の食器を運んでいた経験を生かし、一度に4つの皿を持って運ぶ。
その手さばきと逞しい体つきから奥様方に人気がある。
若い女の子に人気がないのは悲しいが、これも旅の路銀のためである。
そもそも仕事中にナンパは出来ない。
ナンパしたいという欲求を押さえ込み、せっせと料理と空いた皿を運んでいる。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
鈴の鳴るような声で応対するのはリアラだ。
あまり女性的な発達をしていない彼女は子供好きの男性客(ロリコン)から人気がある。
リアラが窓の近くで仕事をする姿につられて店に入った者もいるようだ。
「ご注文は……はい……はい、承りました。」
しかし、なんと言っても売り上げを引き伸ばしているのはジューダスだろう。
奇妙な仮面を被っているが、そこから覗く端正な面持ち、喋り方、すらりとした体格から女性客を引き寄せている。
ジューダス本人はあまり嬉しくないらしいが、ロニからは猛烈に羨ましがられた。
カイルがロニに放った言葉、「今の女の子はジューダスみたいなタイプがいいんだよ。」
はロニをマイナス273.15℃の世界に叩き込んだものである。
朝食の時間が終わると、今度は店内の清掃だ。
パンくず一つ、糸くず一本残さず掃除しなければならないが、カイルとロニの孤児院組が頑張ったので、早く終わった。
さらに、食器洗いもこの二人が懸命に働いたので、すぐに片付いた。
いつも孤児院で手伝わされているからだろう。
そもそも「全員で助け合わないと生活できない、年長者はお手本になれるようにする」なのだから。
昼もこんな調子で、14時を過ぎた頃に遅い昼食を食べ、4人は給金を貰った。
少々多いのはジューダスが客を引き寄せたからだろう、とカイルは思った。
「それじゃ、シンの様子を見に行こうよ。そろそろ仕事も終わってるだろうし。」
4人は連れ立ってシンが向かったという倉庫へ向かおうと宿を出た。
そこで待ち構えていたのは、迎えに行こうと思っていた本人だった。
「やあ、お疲れ様。俺のところは結構早く終わったんだ。それで戦果はどうだった?」

 
 

手持ちのお金を計算すると合わせて15000ガルド稼げたらしい。
当面はお金に苦労せずにすみそうだ、とはロニの言である。
「それじゃあ、まずジューダスに利子つけてお金を返すことにして……。」
「シン、それは無用だ。仲間になった時点で僕の手持ちの資金など考える必要はない。」
「ジューダスがそう言うのならそれでいいけど。
 えーと、リスクを分散させるために、ロニとジューダスにそれぞれ7500ガルドずつ持ってもらおう。」
「俺には持たせてくれないの?」
いつもの調子で明るく言うカイルに、シンは世にも嫌な顔をカイルに近づけながら言った。
「……カイル君。君には学習という言葉はないのかね?」
「あ、いや、ごめん……。」
「わかればよろしい。まあ、もう一段階リスク分散ってことで、ロニとジューダスに7000ガルドずつ、
 それからカイルに1000ガルドを預かってもらおうかな。これならカイルの分を掏られても、それでスリは満足するだろうし。」
「ひでえ……。」
シンの言っていることはある意味本気だが、カイルを傷つけようとは思っていない。
冗談で言っていることくらいはわかっているはずだと思うのだが。
「シンって酷いやつだ……。」
「……本気にしたのか?」
「じゃあ、もっとお金預けてくれる?」
「だめっ!」
カイル以外の4人が声を揃えてそう言ったので、カイルはしょんぼりしながら頭を掻くしかなかった。