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Fortune×Destiny_第07話

Last-modified: 2007-11-28 (水) 09:45:01

7 リアラの奇跡

 

一行はアイグレッテ港から出る夕方の最終便に乗り込んだ。
この便は定期航路を取るという話なので、まずはカルバレイスにあるチェリク港を目指すのだそうだ。
さらにチェリク港から南進してフィッツガルドの首都ノイシュタットに向かい、そこから中央大陸南部の海岸線伝いにスノーフリアに至る。
地図上で確認すると、セインガルドとファンダリアがある中央大陸をほぼ一周するルートだ。
何故こんな航路を通るのかとジューダスに聞いてみると、以下のような答えが帰ってきた。
「アイグレッテ港からスノーフリア港にかけての海域は浅瀬や岩礁が多い。
座礁を避けようと遠回りすると、補給もままならないし、風向きの問題もある。
結果的に遠回りの方が安全かつ確実ということだ。」
シンは大いに納得し、「急がば回れ」という言葉を思い出した。
夕方の乗船ということで、宿泊可能な部屋が用意されている。
船上での夕食の後、ここでも二部屋確保し、カイル、ロニ、ジューダス、シンで一部屋、もう一部屋をリアラにあてがった。
ただし、男部屋にベッドは3つしかない。
シンは野宿の訓練を受けているからと、毛布だけ貰って床で寝ることにした。
軍人としての訓練を受けているのは便利なものだと思いながら、シンは睡眠の世界へと落ちていった。

 
 

夢の世界で、シンはディオキアの海にいた。
岩場の上で踊る儚い少女、足を滑らせた彼女を追って海の飛び込む自分。
溺れて怯える彼女を抱き締めた柔らかな感触、洞窟の中で爆ぜる焚き火の音。
ありありと彼の目の前でリプレイされる。
そして、彼女、ステラとあの道路で別れた。

 
 

いつの間にかシンはインパルスのコックピットの中にいた。
飛翔する機体の足元ではあちこちで火事が起き、かつての都市の姿はない。
目の前には黒く巨大なモビルスーツ、確かデストロイという名前だったはずだ。
彼は叫んでいた。全周波放送だった。誰かに聞かれようと構わない。
自分の思いがデストロイのコックピットの中にいる彼女にさえ伝わればいい。
そうすればこんな酷いことはやめてくれる。
そうとも、あのとき機械や薬品の調整を打ち破って自分のことを思い出してくれたじゃないか。
今度だってそうに決まっている。シンはそう思った。
「やめるんだ、ステラ! 俺が! 君を守るから!」
デストロイの動きが止まった。やったんだ、わかってくれたんだ。そう思った矢先。
カメラで見る限り、コックピットの中のステラは怯えていた。
自分の後ろにいる何かに。
彼女が懐いていたネオ・ロアノークのウィンダムを撃墜した存在、フリーダムがいたのだ。
その存在に気付いてさえいれば。夢の中にいる自分とは別の自分がそう言った気がした。
フリーダムのビームサーベルがデストロイの複列位相エネルギー砲に突き刺さっていた。
エネルギーチャージしている途中だった。誘爆が誘爆を呼び、デストロイが崩壊する。
それはステラの命が崩れ去ることをも意味していた。
「ステラ……ステラアアアアアア!」

 
 

「うわあああああああああ!」
悪夢から覚めたシンは、自分が涙を流していることに気付いた。そうだ、自分は夢の世界にいた。
夢の世界では自由に動き回れると聞くが、シンには無理だった。
結果はどうしても変えられない。同じことの繰り返しだ。
「今は……前に進むしかないんだよな、ステラ……。」
シンは自分の声で起こしてしまったロニとジューダス、それにあれだけの大声でも起きなかったカイルをつれてリアラを起こしに行き、5人で食堂に向かった。
寝ている間にチェリク港に泊まり、ノイシュタットに向けて出航したところだという。
それを船員から確認したシンは、テーブルに向かった。
悪夢を見ようが何をしようが、朝食を食べたいのは変わりない。
朝食は一日の資本だ。パンと牛乳、それにサラダと干し肉をお代わりを繰り返して食べた。
さらに、食後の運動にと後部デッキに行き、剣の素振りをする。
少しくらいは訓練しないといけないだろう。
ザフトのアカデミーにいたときも、誰にも負けるものかと訓練を繰り返していた。
今の彼を突き動かすのは元の世界に戻りたいという意志、そしてバルバトスがまた襲ってきたときに対応できなければならないという、力への欲求だった。
「くっ……はっ……でやあ!」
幸い乗客はそれほどいない。
後部デッキにやってくる人間も多くはないので、ありがたい限りだ。

 
 

「シン、ここにいたんだ。」
カイルだった。どうやらシンを探していたらしい。
シンは何となく嬉しくなった。
「ああ、あんまり剣に慣れてないから、練習してたんだ。疲れたから一休みしようと思ってたんだけどな。」
彼は形態解除すると、甲板に座り込んだ。その隣にカイルも腰掛ける。
「あのさ、ロニが言ってたんだけど。シン、寝言で『ステラ、ステラ』って言ってたらしいけど、誰?
 ロニはシンが振られた女の子の名前だって言ってたけどさ。」
「振られてはいないよ。ただ、わかれざるを得なかった子の名前だよ。そう、彼女は……ステラは俺の目の前で殺されたんだ。」
ふっとシンは最初顔を緩めたが、同時にその表情は曇りだす。
彼は、覚悟を決めて口を開いた。
「俺は……13歳のときに戦争で家族を亡くした。そのとき10歳だった妹のマユも……。
 俺は攻めてきた連中と、その背後にいる組織、それに俺たちを守ってくれなかった母国を恨んだ。」
「……。」
「何としてもやつらにでかい口を叩かせないために、俺は俺と似たような人間が集まってる国……プラントの軍隊に入った。
 我武者羅に訓練して、エースになれた。けど、また戦争が起きて……。」
シンの瞳の赤さが強みを増したように見えた。
彼の目は色素が極端に少ないため、血の色そのものをしている。
そのため、感情が昂ると目の血流が増えて瞳の色彩が濃くなるのだ。
「俺たちはコーディネイターって言って、生まれる前にちょっと操作して、普通の人間より努力が報われやすい体質なんだけど。
 プラントはそんな人間の集まりだ。その技術を敵対国に盗まれたんだ。」
技術を盗まれるというのは一大事だ。
知的財産という面は勿論、軍事機密ならばパワーバランスを崩す元になる。
「その戦いの最中に出会ってしまったんだ、ステラとは。あれは俺が休暇のときだった。
 ちょっと遠出をしてたら、ステラが楽しそうに海の岩場で踊ってた。ああいうのが平和で幸せなんだって思った。
 そうしてたら、足を滑らせて……。」
「海に落っこちちゃったの?」
「ああ。それを助けたんだ。その後さ、問題は。その後の戦いで、彼女がエクステンデッド……
 普通の人間をあれこれ改造した生体兵器だってことがわかった。それも、敵対国の。」
カイルははっきりした嫌悪感を抱きながら言った。
「……ひどいな、それ。同じ人間が人間にすることじゃないよ……。」
「俺もそう思う。捕まえたはいいんだけど、一定の処置を受けないと生きられない体だった彼女を救うために、敵国に引き渡した。
 あったかくて優しい世界に帰してくれるように頼んだ。」
カイルは黙っている。
シンの瞳が明らかに濡れてきたからだ。
「こんなことしたら俺は間違いなく死刑になるはずだった。けど、俺は必要な戦力だからってことで死ねなかった。
 そして……彼女はまた戦場に送り込まれた。今考えれば当たり前のことだったと思う。でもさ……。」
彼は続ける。
「もっと考えてみれば、別にステラが出なきゃいけなかったわけでもなかったと思うんだ。
 後になって『あれ』がやたら出てきたこと考えると……。
 ステラは馬鹿でかい兵器に乗せられてた。街一つ丸ごと破壊できる、そんな兵器だ。」
「そんなものが……。」
「俺は命令を受けて出撃した。最初はステラが乗っているとは気付かなかったんだけど……けど、乗ってることがわかってしまった。
 それで、俺は躍起になって止めようとした。俺のことを思い出してくれる。そうすればやめてくれるって。」
「……そんなこと、できたの?」
「ああ、できた。確かに俺が叫んだとき、動きは止まったから……。」
シンの瞳の怒りの色彩がより濃くなっていく。
同時に涙が溢れた。
「でも、あいつが邪魔をした! 俺たちの邪魔をし続ける連中が! ステラがあいつのために錯乱したところ狙って、
 あいつは……あいつはエネルギーをチャージしてるその兵器を壊したんだ。そのショックで……ステラは死んでしまった。」
彼の脳裏には、あの10枚の翼を広げた死の天使が焼きついていた。
戦争に介入し続け、自分達が正義だと言わんばかりに。あの傲慢さが許せない。
「シン……。」
「俺……どんどん冷たくなってくステラに何言われたと思う?
 『好き』だって! 自分のことを好きになってくれた女の子一人すら守れなかった! 俺は……俺は……!」
涙が止まらない。
甲板に塩を含んだ、暖かい雫が零れていく。
「俺は……ステラを近くの湖に葬った。誰にも手出しされたくなかった。ほっとけば解剖されたりするから。
 俺は……あの死の天使を斃した。斃したつもりだった。けど、またやってきて……。」
シンの涙は枯れていた。
そこに残されたのは虚空だけだった。
「結局俺はやつらに負けた。プラントは……やつらの手に渡った。俺が覚えてるのはそこまでさ。
 その直後くらいに俺はこの世界に来たんだ。」
「シン、結構大変だったんだな。俺……。」
シンは何かに気付いたように顔を上げた。
「お、俺、なんでこんなこと話してるんだろ? ちょっと、泣きすぎたから顔洗ってくるよ。」
彼はそのまま船内へと駆け込んで行った。
強気なところを見せ、元の世界に戻ろうと前向きになるあのシンが、ここまで弱気なところを見せたのが、カイルには不思議でならなかった。
「でもシン、俺たちがいる。俺たちはステラって人の代わりにはなれないけど、元の世界に帰る日まで一緒に戦うから。」
カイルはそう言いながら空を見上げると、マストの根元にリアラがいるのを見つけた。

 
 

シンは顔を洗いながら思った。絶対に自分らしくない、と。
ただ、宗教関連の話をしたときよりは違和感はなかった。
おそらく、カイルには人を信用させる何かがあるのだ。
だからこそ、秘めた思いを吐き出す気になったのだろう、とシンは思う。
「英雄か……もしかしたらカイルは英雄になれるかもしれないな。」
そのためにはそれを助けることができる人間がいる。
ロニやジューダスなどは申し分ない。
自分も可能な範囲で手助けしようと思う。
リアラはどうだろうかと思うが、何かのきっかけでカイルを認めるかもしれない。
「気長にリアラがカイルを認めるのを待つか。」
シンがそう口にした次の瞬間、船が大きく傾いた。
岩礁に衝突した衝撃ではない。
まさか、と思ってシンは外に出た。
赤い海蛇が船に3体も纏わりついている。かなり大型のモンスターだ。
「うわああああ、フォルネウスだ! このアルジャーノン号も沈められてしまう!」
船員達が慌てて逃げ出し、乗客たちも怯えている。
このままでは海の藻屑となるか、フォルネウスの食料になるかのどちらかだ。
「こんなところで死ねるか!」
シンはフォース形態をとった。今回ソード形態は使えない。
重量の変化によって船が脆くなってはいけない。どうやら他の仲間も気付いたらしい。
「なんだありゃ? あんなのと戦うのかよ?」
「このまま死にたくなかったら戦わねばならんだろう、文句を言うんじゃない。」
ロニとジューダスが口々に言いながらフォルネウスに向かっていく。
「雷神招!」
「飛連斬!」
雷を放つロニのハルバードと素早く飛び上がって切り刻むジューダスの剣。
型こそ対照的だが、フォルネウスが後退するほどのダメージを与えられたのはさすがだ。
「俺もいく! 火炎斬! もう一発、炎衝対閃!」
振りかぶって火炎を叩き込み、さらに火を纏った左手のサーベルを逆手に持って、下から抉り込むように突き刺した。
相手が海洋生物だけに、火は効果的だ。
「何なんだよ、これは!」
カイルが遅れての登場だ。リアラも一緒らしい。
「いいから手伝え! 乗客を死なせたくなかったらな!」
ロニの声を受け、カイルは赤い海蛇のような生物に斬りかかる。
リアラも晶術を詠唱し始めた。
「ええい、鏡影剣! 鏡影閃翔!」
シンは影を射抜く剣で動きを止めさせ、斬りつける。
さらに、影を纏ったサーベルを飛行能力と組み合わせて突きを放った。
「……?」
彼は気付いた。自分が狙っていたのは一体の海蛇のはずだ。
だというのに、全ての海蛇の動きが停止したのが気にかかる。偶然ではなさそうだ。
「これは……まさか!」

 
 

うねうねとくねり、襲い来る鞭のような一撃を避けながらシンは考える。
おそらく、この複数の海蛇のような生き物は、全て一つの体で繋がっているはずである。
さらに、このフォルネウスの外観を完全に見た者はいないらしい。
つまり、どんな姿をしているのかはまだわからないのである。
その上、「このアルジャーノン号も」と言っているということは、もう何隻もの船を海に沈めているらしいが、
この程度の海蛇が絡みついただけでは沈まない。
下に重い体があっても、水の中に棲む生物なのだから、まず水とほぼ同じ密度のはずである。
こうなると浮力が働き、重みをかけて沈めることは不可能なのだ。
水を上向きに噴射してもいいが、船の浮力はそんなもので沈めることは出来ない。
「となると考えられる方法はただ一つ……そうか、これはガルナハンのときと同じ戦法なんだ! くっ!」
シンは慌てて船底へと向かった。
そう。船を沈めたいのなら、船底に穴を開けるのが一番なのだ。
表面に囮を配置して重要な部分を下から攻略する。
彼自身がローエングリンゲート攻略戦の時にとった戦法だ。
「こっちが水に潜れない以上は攻撃してくるところを狙うしかない! 早めに斃して、被害を最小限にしないと!」
混乱に乗じて乗り込んできたモンスターを一閃して葬り、乗客たちを部屋に押し込んで鍵をかけさせた。
そして、船底部へと向かう。
「すみません、通してください! 俺の勘が正しければやつは!」
シンの剣幕に驚いたのか、船底の倉庫の番をしていた船員が飛びのく。
シンはひらりと船底に着地し、振動の強い部分を探した。
「来たか!」
フォルネウスの本体が船底を突き破って姿を現した。
頭足類の腹部に顎を備えたような怪物で、多くの目がシンを睨んでいる。
うねうねとうなる海蛇のようなものは、フォルネウスの腕だったらしい。
「でえええええやあああああああああああ! 地竜閃! 地竜乱斬!」
地竜閃そのものは地面に働きかける技だ。
船上の戦いでは船を傷つける恐れがあるが、そこは戦闘センスを持つシンだ。
直接地竜閃をフォルネウスの脳天に炸裂させた。
さらに、そのまま素早く地のエネルギーを纏うサーベルを振るい、4回斬りつける。
ダメージを受けたフォルネウスが暴れ、周辺に木材の破片を撒き散らす。
フォルネウスは触手の先端から高圧の水をシンに放った。
「やられるか!」
シンは飛翔能力を利用して攻撃を避けた。
だが、中級晶術、スプラッシュは避け切れなかった。
各所に水柱が発生し、木でできた船底に叩きつけられる。
「くっ、六連衝! 三連追衝!」
連続で突きを放つこの技を受けてもフォルネウスはびくともしない。
目から放たれた閃光がシンを再び叩きのめした。
「ぐあああああっ!」
フォルネウスがさらに触手を何本か伸ばし、別々の方向から水を高圧噴射してくる。
シンは転がりながら攻撃をかわし、ソーサラーリングを放って一本の触手の噴射口を潰した。
「火炎斬!」
さらに縛り上げようとした触手を焼き払い、再び飛翔する。厄介な敵だ。
軟体動物だろうと考えていたが、どうやらこのフォルネウスはコウイカの一種らしい。
腹部の甲が装甲化し、さらに顎の形状を持ったのだろう。
元々この甲は貝殻の名残なのだから、それが再び発達すれば強力な装甲となるのだ。
頑丈なのも頷ける。
「く、鏡影剣! 鏡影閃翔! 奥義、飛天千裂破!」
影を左手の剣で貫いて身動きを封じて斬りかかり、さらに一度後退して飛行しながら突いた。
それに繋いで仕掛けるのは奥義の飛天千裂破だ。
一度上空に舞い上がり、急降下しながら突きを放った上に着地してから計12回突きを放つ。
飛翔能力を持つフォース形態特有の奥義だ。
しかし、それだけでは済まさなかった。シンの中で何かが弾ける。
SEEDが覚醒したのだ。知覚が鋭敏になり、相手の行動がはっきりわかる。
こうなると、さらなる技が使える。秘奥義だ。
「風に舞い散れ! 剣時雨……。」
右手のサーベルを顔の前に構え、フェンシングの突きの体勢をとる。
同時に彼の周囲に風の剣がいくつも出現し、突きを繰り出すと風の剣が一斉にフォルネウスを襲う。
「風葬!」
両手の剣を交差させて振るうと切り裂く風が生み出され、フォルネウスの触手を切り裂いていく。
これがフォース形態が有する秘奥義、剣時雨風葬なのだ。
凄まじい風の連続攻撃によって敵を切り裂くのだが、一発当たりの破壊力には欠ける。
フォルネウスの甲は異様に固かった。
この秘奥義を以てしてもフォルネウスを斃すことはできなかったらしい。
「駄目か……!」
秘奥義を使うと疲れ果ててしまい、まともに剣を振るうことも、飛翔することも出来ない。
フォルネウスの触手が何本も伸び、シンの体を締め付ける。
「ぐ、う……。」

 
 

その頃、カイルたちは甲板から船底に向かっていた。
いつの間にかシンが消えていたことに気付いた4人だったが、途中で動きが鈍ったフォルネウスの触手を
全て斃し終わると、船員からシンが船底に向かったことを聞いた。
それで4人は納得したのだ。シンは先回りし、少しでも早く被害を食い止めようとしたということを。
「カイルも単純な馬鹿だが、やつは冷静さに欠けるバカだな。」
「あいつは熱いやつだからな、こういうときこそ助けてやらなきゃな!」
「シン、今助けてやる!」
「無事でいて、シン!」
船底にたどり着いた4人が目にしたのは、傷だらけになり、フォルネウスにもダメージを与えたと思われるシンが締め上げられる姿だった。
顔が紅潮しているところを見て、まだそれほど時間は経っていない。
「シン、無茶しやがって!」
ロニのハルバードが唸りを上げてフォルネウスの触手を切断し、シンを助け出す。
「ご苦労だった、シン。ここからは僕達がやる。お前は下がって休んでいろ。」
ジューダスがシンの後ろ襟を掴んで引きずり、フォルネウスから離れさせる。
シンは朦朧とする意識の中で応えた。
「俺のフォース形態は……援護するためのものだ……。
 だから……足止めできたってのは……俺の特色生かせたってことだからな……嬉しい限りさ……。」
「そうか。ならいい。お前がそうやすやすと死ぬわけがないからな。そこで僕達の戦いでも見ていろ。」
ジューダスはすぐにフォルネウスに双連撃を仕掛けて斬りかかる。
だが、その固さから剣を弾かれてしまう。
「大丈夫? シン!」
リアラが駆け寄ってきた。彼女は杖を片手にヒールを唱えた。
ロニのものと比べて治癒力も詠唱速度も速いそれは、あっという間にシンの体から傷を消し去ってしまう。
「うおおおお! 爆炎剣! 燃えろ!」
うねる触手を避けながら接近したカイルは、レーザーを放つ目を爆炎剣、そして爆炎連焼によって焼き払った。
これで攻撃力が低下した。
「まだまだ俺もいくぜ! 穿風牙! 終局穿風!」
離れた位置からシンが風の槍を放ち、さらに接近して斬りつけて斬り上げた。
さらに浮いたフォルネウスの体の下にもぐりこみ、風の槍を3発放った。
どくどくと銅分を含む青い血が撒き散らされる。
「とどめは俺だ! 割破爆走撃!」
シンが脱出したのを確認すると、ロニがフォルネウスを斧で引っ掛けて引き寄せ、体当たりをする。そして。
「貴様を屠る、この俺の一撃! クリティカルブレードォ!」
ロニの強烈な打撃を胴にめり込ませ、フォルネウスは盛大に青い血を流しながら自ら開けた穴から深海へと沈んでいった。

 
 

フォルネウスは斃したものの、船底に穴が開いている以上は沈んでしまう。
応急処置にと船底の貨物室を封鎖し、空気の漏れを最小限にしたのだが、依然として沈み続けている。
「このままじゃ皆死んでしまう。どうにかならないのか?」
「男はともかく……。」
ジューダスの言葉には、女子供が泳ぎきれるような距離と深さではない、という意味を多分に含んでいる。
救命ボートもあるのだが、全員が乗れるほどの大きさではない。
「シン、君の飛翔力は使えないのか?」
「駄目だ、二人くらいならともかく、最低でも70人はいる乗客と乗組員全員を助け出すなんてことはできない……!」
「ああ、もう、ここで全員海の藻屑かよ!」
ジューダスはつとめて冷静にリアラに言った。
「一つだけ全員助かる方法がある。……リアラ、力を使え。」
びくん、とリアラの表情が凍りついた。
その表情は、自分にはそんなことはできないと書いてあるようだ。
「でも……。」
「命を助けられるその力……今使わずにそのまま沈むのか?」
ジューダスの言葉に、ついに決意を固めたらしい。
「わかったわ……。」
リアラはペンダントに意識を集中する。
強烈な発光とともに、船に衝撃と揺れが走った。
「っう……ああ……!」
「リアラ!」
カイルがリアラの下へと駆け寄る。
何も出来はしないが、カイルはリアラの手を握り締める。
せめて、自分がついていると。その姿勢は間違いなく英雄のそれだった。
「これは……!」
シンのブレスレットが彼女のペンダントに反応し、発光している。
もしかしたら、とシンはリアラに近づいた。
「俺の力を貸せるかもしれない! リアラ、ペンダントに集中してくれ!」
確信などなかった。
今は自分の勘を信じ、シンはブレスレットに意識を集中させる。
「頼む! リアラに力を分けてあげてくれ!」
シンのブレスレットから一筋の光が放たれた。
それはリアラのペンダントに伸びていき、ペンダントの結晶の表面に光の波紋が生まれる。
「これは……デュートリオンビーム……いや、それに似たものなのか!?」
その途端に、船に宿る振動が激しくなった。
「お願い、飛んで!」
それはまさに奇跡だった。
海面に塩水の雨が降った。その真上には雲ではなく、大きな船がある。
船底に開いた穴から水が滴り落ち、それは飛沫となって進路を描く。
ゆっくりと水面の上を滑るように飛びながら、フィッツガルド大陸北部沿岸に向かっていく。
そして、比較的浅い海にたどり着くと、ゆっくりとその巨体を揺らして砂地に降りた。
乗客たちはその光景を夢ではないかと思った。
だが、実際にたどり着いてしまった。助かった。
彼らは喜び合った。涙を流しながら。
「やった、リアラ! 俺たち助かったんだ! リアラのお陰で助かったんだ!」
自分のことのように喜んでくれるカイル。
リアラはある思いをカイルに持った。
だが、それは英雄を探す自分が持ってはいけない感情である。
彼女はそれを隠した。その方がいいのだと。
そして、彼女はその場でふらりと倒れかけた。
おそらく、自分のことを大事に思ってくれるだろう少年に支えられながら。

 
 
 
 

TIPS

炎衝対閃:エンショウツイセン 火
鏡影閃翔:キョウエイセンショウ 闇
地竜乱斬:チリュウランザン 地
終局穿風:シュウキョクセンプウ 風
飛天千裂破:ヒテンセンレツハ 武器依存
剣時雨風葬:ツルギシグレカザホムリ 風

 

称号
 努力家
  環境が変わっても戦い続けたい。負けるわけにはいかない。
  もう、大切な人を失いたくないから。
  だから、そのために訓練はするさ。
   攻撃+0.5 命中+0.5

 デュートリオンビーム照射人間
  リアラにエネルギーを供給。
  でも、疲れたりしない?
  シン「疲れるに決まってるだろ!」
   TP軽減+0.5 TP回復+0.5