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Fortune×Destiny_第08話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 09:43:57

8 父の記憶

 

リアラは倒れそうになったが、意識を失うほどではなかった。
ひとえにシンが力を貸したからだろう、ジューダスは評した。
そのシンもふらふらしている。
気分が悪くなったと彼はいい、その場に座り込んでしまった。
さすがにシンはリアラのような力は持っていない。
今回船を浮かせるために貸せた力は、必要な全エネルギーの内の1割にも満たないだろう。
戦いにしても、決定的な打撃はあまり与えられていない。
多分、今回は役に立っていないだろうとシンは思う。
「うう……とにかく休まないと。特にリアラは……。」
リアラはその奇跡の力を使ってアルジャーノン号に乗る人間全員を助けたが、助けた本人は空っぽもいいところだ。
意識はあるし、話すこともできるのだが、歩くためには支えが必要だ。
一応ベッドに寝かし、今後について船長と話をすると、この近くのリーネの村に5人を降ろすので、彼女には休養を摂ってもらいたい、
この船はノイシュタットのドックで修理しながら待つ、と言った。
「応急処置は致しますが、それほど長い時間は航海できませんから。
 聖女様と聖女様を守る英雄の皆様は皆様のペースでノイシュタットまでいらしてください。」
大げさだな、とシンは思ったが、反論するだけの体力と気力はなかった。
それに、次のロニの言葉でシンはリーネに行くことそのものには反論を持たなくなった。
「リーネか。ちょっとラッキーかもな。カイルにスタンさんの生まれ故郷を見せてやれるってのも悪くない話だ。」

 
 

5人はすぐ近くにあるリーネの村に向かった。
リーネは外から見てもわかるほど田舎ということがわかる村だった。
そこここで牛や鶏が鳴き、老人が畑を耕している。
「ここが父さんが生まれ育った村かあ。クレスタよりも田舎なんだなあ。」
カイルは目を輝かせながら言う。その背中にはリアラがいる。
彼女は心地よいカイルの背の温かみに触れていた。
「随分と田舎臭い村だな。いかにも田舎という匂いが漂っている。」
ジューダスが皮肉めいたことを言う。ただ、本気で貶したいわけでもなさそうだ。
ジューダスの目には、どこか懐かしむような色があったからだ。
「ここがスタンさんの育った村かあ。いいとこじゃねえか。」
ロニにとっては憧れの存在で、親代わりの恩人の故郷だ。聞いたことしかないのだが、スタンが話してくれた通りの村だ。
長閑な雰囲気がロニにはたまらなく嬉しかった。
「……平和そのものだ。俺、こういうのは好きだな。」
シンは平和なものを見るのが好きだ。
ずっと戦い続けてきた彼にとっては、それが何よりも癒してくれる。
少々ふらつく足取りだが、歩けないわけではない。平和な光景を力に変えて歩き続ける。
リーネの村にあるスタンの妹、つまりカイルの叔母であるリリスの家にたどり着いたときには、リアラはぐったりとしていた。
彼女には何をおいても休息が必要らしい。
「叔母さん、話は後でするからリアラを寝させてくれない?」
リリスはカイルのものよりも幾分かくすんだ色合いの金髪で、それを長く伸ばしている。
白いエプロンの下に鮮やかなピンク色のワンピースを着ており、35歳という実年齢よりも若々しく見えた。
こう見えてもかなりの武術の達人で、手にしたおたまでモンスターを一撃で撃沈できるほどの腕前だという。
18年前にはノイシュタットの闘技場で兄とも対決しており、僅差でスタンが勝った。
ロニがこっそり話してくれたところ、彼女には娘が一人いるらしいが、リリスに似たのか剣を携えての武者修行に出ているらしい。
何とも元気に溢れた家系だ、とシンは思った。
「あらあら、大変。それじゃあ、私のベッドを使って。」
彼女が使っているベッドは二段ベッドである。
かつてスタンと二人で使っていたのだが、スタンがルーティと結婚してからは、このベッドを使うのは彼女一人きりだ。
まずはリアラをベッドに寝かせ、事情を説明した。
微妙にオブラートに包んでいる。フォルネウスに襲われて危うく沈みかけたことは伏せておいた。
あまり驚かすのはよくないと思ったからだ。
「そう、大変だったわね。今日は泊まっていくんでしょう? 晩御飯の準備をしておくから、
 村の皆に兄さんの話でも聞いてらっしゃいな。いろいろ楽しいことが聞けるはずよ。」
一行はリリスの言葉に甘えることにした。
まずは村長の家に向かおうとカイル、ロニ、それにその後ろからジューダスがついていく形でリリスの家を出て行った。
シンはリリスの家に残った。
「あら、あなたは行かないの?」
「疲れてますし、内容はカイルから後で聞きますよ。」
本当はついていきたかったのだが、足が動かないのだ。
ここまで消耗しているとは思わなかった。
シンの戦闘能力は、エルレインやリアラが持つ奇跡の力を利用したものだ。
小規模で引き出しやすく扱いやすいのだが、一つ欠点がある。
この能力は膨大な力を消耗する。
しかも、飛行能力以外、使っている当人はほとんど気付かないという有り様なのだ。
彼はお構いなしに連続して技を使い、秘奥義を放ち、さらにはリアラに力を分け与えてしまったのだから当然だ。
それが今になって疲労という形でシンを襲っているのである。
あれこれ経験を積めば問題は解消するのだろうが、今の彼には辛いものがある。
そもそも、四つの属性のうち、風属性はシンにとって一番比重の少ない属性であり、その秘奥義を全力で使った以上、こうなるのは必然と言える。
「あら、そうなの。それじゃあ悪いんだけど、リアラさんのことを見ていてくれない? 
 これから近所の人から野菜を分けてもらわないといけないの。
 こんなに大勢でいらっしゃったんだもの、家にある分じゃ足りないわ。」
「あ、すみません。いきなり何の前触れもなく押しかけてしまって。」
「いいのよ、ここは田舎でしょ。これくらいのトラブルがたまにあった方が楽しいわ。」
申し訳なさそうに頭を下げるシンには、リリスが心の底から楽しそうに見えた。
それが眩しく、シンはあまり見せない笑顔を漏らした。

 
 

一方のカイルは少しショックを受けていた。
カイルにとって父親は半ば神格化された存在で、英雄として称えられているものだった。
ところが、この村の住人からは、ねぼすけだのやんちゃ坊主だのという答えが帰ってきた。
ショックと言っても悪い意味ではない。
父親に対して、親しみやすい、そして等身大の印象を持った。
カイルは世間一般のスタンのイメージとは違う、のびのびと平和に暮らしていた頃のスタンの姿を見ることが出来た。
「あ、ブランコだ。」
カイルはリリスの家の横にあるブランコを見て、このブランコの縄の縛り方が、孤児院にあるブランコのそれとよく似ていることに気付いた。
「ああ、スタンさんが言ってたな。何でも、おじいさんがこのブランコを作ったの覚えてて、うちの孤児院にも作ってみようってことらしいぜ。」
おそらくはスタンが参考にしたのは、このブランコだろう。
カイルはこのブランコに腰かけ、少し揺られてみた。
何となく、遥か記憶の彼方にある父親の匂いを感じた。
「ちょっと思い出すな……父さんのこと。ずっと昔に旅に出ちゃったけど、でも何となく覚えてる。」
ロニの胸に鋭い痛みが走った。
だが、それを押し隠してカイルの話を聞く。
「うーんと、そう、俺、父さんの膝に乗せられてさ、ブランコに乗ってるんだ。
 それで、後ろ向きに揺られるときに金色に光るものが見えるんだよ。
 多分……父さんの髪の毛だと思う。あったかくて優しい匂いがするんだ。」
ロニは思った。そんな光景を見たような気もする、と。
幼いカイルを膝に乗せて、父親らしい笑顔を見せるあの日のスタン。
その姿はありありと思い出せる。
「ああ、あったなあ。あの頃のカイルは可愛かったんだけどなあ……。」
「何だよ、今だって子ども扱いするくせに!」
カイルとロニのやりとりを見ているジューダスは、まるで子供だと思った。だが。
「スタン……カイルはお前によく似ているな……。」
ジューダスはふと漏らしてしまい、軽く頭を振った。
その口調は、スタンをよく知っている者のそれだった。
「僕らしくない……。」
彼はそれだけ言うと、カイルたちの後ろにつき、リリスの家に戻った。
もう、晩御飯のいい匂いが漂っていた。
「はあい、皆さん、ご飯が出来ましたよ。」
リリスのおいしい晩御飯にありつけたため、4人は疲れから解放された気がした。
リアラだけは眠り続けている。消耗の次元が違うので、食事も出来なかったらしい。
「リアラ、食べられないのか。こんなに美味しいのに。」
「仕方ないだろ。寝込んでいるのに起こすわけにはいかないからな。」
シンはカイルにそう言い、昼間に聞いたスタンの話をカイルから聞いた。
わかりやすいほどカイルの父親だということがよくわかり、シンは腹を抱えて笑ったものだ。
「人の畑から野菜を引き抜いて食べるって……どんな悪戯だよ……。」
呼吸困難になるかと思うほど彼は笑った。
憎めない悪戯だ。シンの笑いは嘲笑ではなかった。
その楽しさに対する笑いだった。

 
 

「お前は疲れてるんだから、今日はソファで寝ておけ。いいな?」
と床で寝ようとしたシンはロニに言われ、申し訳なさそうにソファの上に寝転がった。
寝転がると眠りの世界が足音を立てて近づいてくる。
彼は毛布を被り、目を閉じた。
暖かく心地よい眠りが彼を包み、シンの意識は沈んでいった。
だが、その意識の沈み方はどうやら浅かったらしい。
ふと彼は目を覚ました。
すっかり夜は更けていた。
声を殺した話し声が聞こえる。カイルとロニだ。
「……父さん、俺くらいの頃にはもう英雄になる特訓とかしてるんだと思ってた。」
「そんなわけがあるか。」
「でも違ったんだね。悪戯したりとか、今の俺とあんまり変わらないことしてたんだ。」
「けど、そこからは違ったんだ。わかるな、カイル。」
「うん。父さんはその強い力で世界を守ったんだよね。」
「確かにそうなんだが、でもな、カイル。あの人は力が強かっただけじゃない。心が強かったんだ。」
「心が……。」
「『どこまでも人を信じ続けること。それが本当の強さだ。』スタンさんはそう言ってた。
 人は大抵途中で裏切っちまったり信頼が揺らいだりしちまう。
 けど、スタンさんはそうしなかった。こりゃ並大抵のことじゃないぜ。」
シンは思った。
どこまでも信じ続けるというのは、ある意味馬鹿のすることだ。
だが、人を裏切ったり、信頼が揺らいだりするのは自己保身のためなのだから、それは逃げの姿勢であり、臆病なのだろう、と。
確かに並大抵のことではない。
裏切り癖のある元上司はともかく、シンはデュランダル議長やレイを最後まで信じることは出来なかった。
レイと二人で議長に面会して以来、彼は孤独を感じるようになっていた。
それは正しく、スタンの言う本当の強さを持っていないからだろう。
ただ、ラクス・クラインにしろ、デュランダル議長にしろ、どちらにも主義主張に欠点を抱えているような気はしていたのだ。
「俺一人では何も出来なかったな……あの時は……。」
誰にも聞こえないように呟く。こんなことを考えていても寝付けない。昔の家族のことを考えてみた。
最初に思い出したのは12歳の頃だ。
自分の誕生日に近くの山に行ってバーベキューパーティーを開いた。
あの山はまるで自分の誕生日を狙ったかのように紅葉し、大量の葉が地面に降り積もっていた。
シンの父によれば、かつて日本経済の影響を受けていたオーブに、世界再構築戦争の際に宗主国の国民である
日本人が大量に流れ込み、そのままオーブ国民となったのだそうだ。シンの家系もそうらしい。
彼らは故郷の季節を思い、遺伝子操作を行って春に紅葉する落葉広葉樹を作り上げ、本来火山島で不毛の島だったのを植物だらけにしたのだという。
そのため、南半球にあるオーブで9月に紅葉するのだと教わった。
勿論、この遺伝子改良技術がシンたちコーディネイターを作り上げる技術にも繋がったらしい。
シンは何となくこの山の木々に親近感を持ったのを覚えている。
食事が終わって、シンは一人で本をアイマスク代わりにして寝ていた。
そこを狙って、妹のマユが大量の落ち葉を顔にかけ、そのまま鬼ごっこに突入したこともはっきりと思い出せる。
幸せだった日々。最早シンの手に戻ってくることはない。
世が世ならレイやルナマリア、そしてできればステラを家族に紹介したかった。
ただ、この3人は軍に関係する中で手に入った知り合いなのだから、本末転倒なのだが。
それでも、と思ってしまう。
「家族、か……。」
また目の周辺が湿った気がした。
シンは悲しさを振り払うように目を閉じ、眠りの世界へと沈んでいった。

 
 

シンは早々に目を覚まし、伸びをした。
まだカイルとロニは寝ているが、ジューダスの姿はない。
「あれ? どこに行ったんだろ、ジューダスは。」
さらに、リアラの姿もない。村からは出ていないはずだが。そう思い、シンはリリスの家から外に出た。
「ジューダス。」
表にジューダスがいた。普段は背に隠し持っている剣を振るい続けている。
時折独り言のようなものを呟きつつ、訓練をしているらしい。
「ここにいたのか、ジューダス。」
「……シンか。」
ジューダスはシンの存在に気付くと、一度手を休めてシンのいる方向に顔を向けた。
「何をしている……ってのは愚問だな。訓練、続けてていいよ。」
「何をしに来た?」
ジューダスは再び剣の素振りを始めた。その腕はかなりのものだ。
フォルネウス相手にダメージを与えられなかったが、対人戦では間違いなく無敵を誇るはずだ。
「いや、別に。外の空気を吸いに来たんだ。あ、そうだ、ジューダス。」
「何だ?」
「稽古つけてくれないか? 所詮我流だから効率よく戦えそうにないし。」
シンを見遣るその目は冷たいが、それは仕方ないことだろう。
「僕は手加減なんかしないぞ。それでもいいのか?」
「構わない。俺は強くならなきゃいけないからな。」
シンは素早くフォース形態をとった。ジューダスが斬りかかってきたからだ。
ジューダスの一太刀を回避し、サーベルを抜き放った。
「ハッ、ハッ!」
無駄のない動きで斬りかかるジューダスの斬撃を、シンはサーベルで受け続けた。反撃する余裕がない。
「もたもたするな! お前のサーベルは擬似刃だろう、手前に引く動作を忘れるな!」
サーベルというものは騎乗用の剣であるため、馬上で敵を斬ることを想定しており、大抵が片刃か、擬似刃(フォールスエッジ)と呼ばれる形態をしている。
特にフォールスエッジは刀身のうち先端から3分の1が両刃で、残りが片刃という構成であり、刺突、斬撃の両面に優れた特性を持つ。
この手の武器は軽めに作られるため、手前に引かないとターゲットを切断できない。
それをジューダスの指摘されたのだ。
「こうか!?」
シンは脳内でシミュレートしながら戦うタイプだ。
特定の状況に対してどう動くかを考えておき、敵に合わせた動作を行うのである。
モビルスーツが登録された動きしか出来ないのと同じだ。
故に、型を覚えなければならないと考えるのは当然である。
アドリブだけでは限界があると感じた。
「まだ引く動作が鈍い!」
「くっ!」

 
 

1時間ほど続いた稽古は、シンがジューダスに冷やりとする剣を首筋に押し付けられるという結果で終わった。
なかなか課題の残る稽古だった。
「まだお前は伸びる可能性が残されている。これからの戦いでも気を抜くなよ。」
とはジューダスの言である。
「わかった。また機会があったら頼むよ。」
シンは形態を解除し、リリスの家に戻った。
どうやら訓練の間にロニは起きたらしいが、カイルはまだ寝ている。
「こら、カイル! 起きろ!」
「うーん……もうちょっとだけ……ぐぅ……。」
止むを得ない、とシンがカイルに近づこうとしたが、その前にリリスが言う。
「こんなところまで兄さんに似ちゃったのね、仕方がない、久しぶりにあれをやるか! 
 あ、皆さんはちゃんと耳を塞いでいてくださいね。」
彼女はお玉とフライパンを持ってきた。何をするのかは想像がついた。
まずい、とシンは全力で耳を塞ぐ。
「秘技、死者の目覚め!」
シンはリリスの手を見ようとしたが、それは叶わなかった。
異様なスピードでフライパンを乱打するお玉が、最早閃光を放っているように見えた。
その上、しっかり耳を塞いでいるにも拘らず、その振動が頭蓋骨を通して耳に伝わる。
「ぅん……おはよう……あれ……母さん、なんか感じが……。」
ルーティはスタンと結婚するにあたり、リリスからこの死者の目覚めを伝授されたのだという。
リリスは兄の低血圧を起因とする熟睡から叩き起こすためにこの秘技を編み出したのだ。
カイルは父のスタンに似たのか酷い低血圧で、叩こうが抓ろうが、何をしようが起きられない。
軍隊で訓練を受けたシンの往復ビンタは一応効果があるが、それでも一応でしかない。
やはり親子なのか、カイルもこの死者の目覚めでやっと起きられるくらいなのだ。
リリスの死者の目覚めはさすがに開発者本人のものだけあり、威力は絶大だ。
耳を塞いでいてもシンは耳鳴りが治まらない。
「さあ、起きた起きた。朝ごはんにしましょう。」
リアラがいないことに気付いたカイルは、外に出て彼女を探すことにしたらしい。
眠気覚ましの散歩も兼ねて、リリスの家から出た。
「うう、頭が……くらくらする……。」
シンはソファに座り込み、頭を抱えた。
ロニも似たり寄ったりの状況らしい。ジューダスは相も変わらず無反応だ。
「何で無反応でいられるんだ……機械か、ジューダスは。」
「僕は生身の人間だ。勝手に機械にするんじゃない。お前達の鍛え方が足りないだけだ。」
ジューダスの皮肉屋ぶりは衰えていない。どうやら本当に堪えていないらしい。
恐るべしジューダス、とシンとロニの二人は同時に思ったものである。
しばらくしてカイルが戻ってきた。
リアラを連れている。少し時間がかかったところを見ると、少しばかり話をしてきたのだろう。
「うーん、今日のスープも美味しいねえ。リリスさんの料理は最高!」
「うん、美味しい。昨日のシチューも美味しかったけど、今日の朝ごはんもいいですねえ。」
「はぐはぐ……むぐむぐ……リリス叔母さん、おかわり!」
「お前はもっと落ち着いて食え!」
楽しい朝食も終わり、5人は早速ノイシュタットへ向かう準備を始めた。
リリスはもっとのんびりしていけばいいのに、と惜しんだが、あまり船を待たせるわけにもいかない。
リリスは5人の気持ちを察して、保存の利く食料と方位磁針を渡した。シンがそれを受け取り、リリスに問う。
「方位磁針? 何でまたこんなものを?」
「この辺りは霧がよく出るのよ。だから、外に出歩くときはそれがどうしても必要になるの。
 なくしちゃ駄目よ、霧の中で迷ったら大変なんだから。」
リリスの温かい心遣いに感謝しつつ、5人はリーネの村を出た。
次の目的地はフィッツガルドの首都、ノイシュタットである。