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Fortune×Destiny_第09話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 09:44:57

9 白雲の尾根

 

5人は白雲の尾根に突入し、ノイシュタットに向かっていた。
白雲の尾根は18年前の騒乱の際にベルクラントの攻撃を受けたために、フィッツガルド大陸の地形が変わってしまったことを起因とする。
地形の変化が起きれば気流も変化する。
霧が溜まり易い地形へと変化し、さらに海からの湿った空気が流れ込みやすくなったため、ほぼ一年中霧がかかった状態になってしまったのである。
それについて説明してくれたロニに、何故そんなことを知っているのかと聞くと、
「ストレイライズ大神殿の図書館の受付の女の子に取り入ろうとして躍起になって覚えたんだけど、こんなところで役に立つとはなぁ。あはははは……。」
なのだそうだ。
つまり、その後ふられたのだろう。
ふられマンなどという不名誉な称号を持つロニだ。ありそうな話である。
「さてと、この霧の中でモンスターに襲われたら大変だ。さっさとノイシュタットに行こう。」
人間というものは外部の情報の大部分を視覚に依存している。
霧の中というのは周囲の様子が見えないだけではなく、光が散乱してどこも光っているように見える。
これが一番のネックで、光の刺激そのものはあるのだから、他の感覚に切り替えるというのが難しくなる。
闇の中では聴覚が物をいうのだが、霧の中ではそうもいかないのである。
しかも、霧が溜まり易い地形というのは大抵が気流が安定しているため、風の音が発生することが少なく、聴覚ですら危うい。
闇の中に放り出されるよりも危険な場所なのだ。
「リリスさんにコンパス貰っておいて正解だったな。」
シンは方位磁針を取り出し、方向を確認する。
とりあえず南西の方角に進んでいけばいいはずだ。看板も参考にしつつ進んでいく。
「なんか……吸い込まれそうな場所だね。」
「ねえ、方角はこっちであってるの?」
カイルとリアラが不安そうな声を上げる。
合っているはずだが、とシンも少々不安になる。
「大丈夫だよな、ロニ。」
「シン、なんで俺に言うんだ?」
「ほら、この辺の地形の勉強したって言ってたじゃないか。」
「霧の発生原理だけ勉強したんだよ。他は知らねえよ。」
馬鹿馬鹿しいやりとりに疲れるのか、ジューダスは歩調を速めた。
「……さっさと行くぞ。」
「ジューダスはこの辺の地理は大丈夫なのか?」
「僕だってこんなところを歩くのは初めてだ。」
つまり、全員この霧の中を歩いたことはない。
迷えば餓死して即日白骨死体になる。
シンは周囲の様子を窺ったが、やはりモンスターが自分達を狙っているらしい。
「まずいな、迷ったら間違いなく死ぬな、これは。」
「いざとなったらモンスターを狩って調理すればいい。モンスターと言っても元はただの生き物だ。レンズさえ抜ければ元に戻る。」
ジューダスはあっさりと言い放った。
前にそうやって食べたことがあるのだろうか、とシンは思った。
「僕は肉があまり好きではなかったからな、僕の知り合いが狩ったモンスターを食べているのを見たことがあるだけだ。」
知り合いの少なそうなジューダスの知り合いがどんな人物なのか、とても知りたいところだが、早くこの憂鬱な空間から抜け出したい。
だが、そうもいかないらしい。
「……あれは食えないよな? ジューダス。」
ゾンビだ。4体いる。
通常は負傷兵にレンズを埋め込むことでゾンビになるのだが、餓死寸前の人間が持っていたレンズに取り込まれてもああなる。
レンズは貴重なエネルギー資源だ。誰でも見つければ拾いたくなるものだ。
それが仇となってモンスターになるのだから、皮肉なものである。
「食えるわけがなかろう。……霧の中ではぐれるなよ、カイル!」

 
 

霧の中での戦闘は危険極まりない。
前述の通り、戦闘中に方向感覚を失うのは勿論のこと、戦闘を行うと大抵は向いていた方向と違う方向を向くことになるため、その後に迷う可能性があるのだ。
「互いに位置関係を確認しつつ戦うぞ! いいな!」
ジューダスはそう言いながらゾンビに素早く斬りかかる。
やはり、この手のヒューマノイドタイプのモンスター相手には強い。ゾンビには打撃耐性があるので、一撃で仕留められないが、かなりの手傷を負わせることが出来たのは間違いなさそうだ。
「ふっ、はっ、せいっ! 火炎斬! 炎衝対閃!」
間髪いれず、シンのサーベルが三連撃と火を放った。
ジューダスがダメージを与えていたゾンビが火達磨になり、黒焦げになった。
「よし、カイル、大丈夫か!」
位置関係を把握するために、シンは声を張り上げた。
その彼の背後からゾンビが迫る。だが、その前にリアラがその存在に気付いていた。
「フレイムドライブ、フォトンブレイズ!」
火炎弾と、相手を縛り付けるような高熱の輝きがゾンビを襲う。
瞬時にして火葬してしまい、レンズがその場に残された。
「リアラ、助かった! 残るは2体……!」
シンは上空に舞い上がった。ロニとカイルが一体ずつ相手にしているらしい。
ここは一つ援護しよう、とシンは思った。。
彼は穿風牙をゾンビ一体ずつに放った。見事に狙いは的中し、体勢が揺らいだ。
カイルは爆炎剣、ロニは雷神招でそれぞれ仕留め、ゾンビ相手の戦闘は一先ず終わった。だが。
「増援か!」
今度はハーピィだ。ハーメンツバレーに棲んでいるものよりも幾分動きが鋭い。
しかも数も多い。6体はいるだろう。
「空中戦には慣れてるけど……霧の中でそれは止めたほうがよさそうだな。」
人間というものは地面を歩く生き物だ。
前後左右の感覚はあっても、上下の感覚は鳥などに比べると鈍い。
この霧の中で空中戦でもしようものなら、あっという間に仲間とはぐれてしまう。
シンはひらりと着地し、ソード形態をとった。
フォース形態より接近戦におけるリーチは長いので、空中から攻撃を仕掛けてくるタイプのモンスターには有効なはずだ。
「穿風牙!」
この技はどうやらフォース形態と共通らしい。ハーピィは風に耐性のあるモンスターだから効果は薄いが、離れた位置に攻撃できるというのは心強い。
「シン、いけるか?」
「ジューダス、ちょっとだけ援護を頼む! 双炎輪!」
シンの手にある大剣が小太刀に変わった。
彼はそれを思い切り回転力を与えながら投擲する。同時に、2つの小太刀の刀身が火を吹いた。
ハーピィは鋭いカーブを描いて回避した。
しかし、それもシンの計算の内にある。
「双輪還元!」
直進したはずの小太刀がハーピィの背中目掛けて戻ってきた。
ハーピィはそれを避けきれず、背中を切り裂かれた。
さらに追い撃ちをかけるようにジューダスの晶術詠唱が完了する。
「ストーンザッパー!」
地面から放たれた石飛礫がダメージを受けたハーピィに命中し、そのまま地面に叩き付けられた。
「うっ……風神招!」
リアラが空中からの攻撃に梃子摺っている。
何とか風で反撃したらしいが、うまくいかないようだ。
「ええい、地裂斬!」
手元に戻ってきたクレイモアで地面を抉りながら、強烈な斬り上げでリアラを攻撃していたハーピィを攻撃する。
ハーピィの狙いが自分にシフトした。
「斬衝刃!」
二本の大剣を地面に向けて切り払った。
その斬撃が衝撃波に変化し、急降下してきたハーピィを撃砕する。
系統的にはカイルの父親であるスタンの魔神剣に近いが、扇状に広がること、射程が4mと短いこと、生み出された衝撃波が
最終的に彼の身長の高さまで到達することなどの違いが挙げられる。
残るハーピィ4体が一斉にシンに襲いかかる。
弔い合戦らしい。
「こっちから仕掛けないのに来るからだろうが! 影殺撃!」
シンは飛び上がりながらハーピィに斬りかかった。
同時にハーピィ自身の影から黒い槍が伸び、ハーピィを突き刺す。
それを見た別のハーピィがシンの後頭部に蹴りを入れた。
さすがのシンも体勢を崩し、地面に落ちた。
「くう……。」
しかし、このシンの攻撃も時間稼ぎに過ぎなかった。
カイル、ロニ、リアラの晶術詠唱が完了する。
「デルタレイ!」
「アクアスパイク!」
「バーンストライク!」
3つの光弾、高速回転する水、さらに多数の火炎弾を浴びたハーピィはまとめて絶命した。

 
 

「やれやれ、結局怪我したのはシンとリアラだけか。すまないな、わざわざ囮になってくれて。」
ロニがすまなそうに言い、ヒールをかけてくれた。さらに、リアラにもヒールをかける。
「いや、ソード形態は最前線で敵に殴り込みをかける形態だし。仕方ないさ。」
「その度に回復が必要となると、ロニやリアラの精神力が持たなくなるぞ。
 確かに形態別の用途を考えるのはいいが、ダメージを受けないことに勝るものはないからな。」
「一応、わかってるつもりだよ。ソード形態だと逃げにくいから、頑張んないといけないけど。」
5人は坑道跡を通り、山岳地帯を抜けた。
下手に霧のかかる場所を通るよりは、ルートが確定している坑道跡の方が確実だということだ。
「とりあえず、この地図で見る限り、途中に小屋があるみたいだぜ。今日はそこに泊まることにしようや。」
ただでさえ視界を塞がれて疲れる山道だ。
適当に休息を摂った方がいい。
「えーと、この辺りのはずなんだけど……あっ、あった!」
坑道から出たカイルが、早速その小屋を見つけたらしい。
存外頑丈そうな小屋だ。この街道を使う人のために設置されたのだろう。
中も意外と居住性に優れており、薪や非常食、毛布も用意されている。
「これで一休みできる……。霧の中を延々歩くのは疲れる……。」
シンの赤い瞳が色褪せている。
目の血流が減っているのだ。余程疲れているのだろう。
「一晩寝よう。それからノイシュタットに向けて出発だ!」
どこまでも元気のいいカイルを横目に、シンはぐったりと座り込み、毛布を被って寝てしまった。

 
 

目を覚ましたのは、それからしばらくしてからだ。ロニの怒鳴り声が聞こえたのだ。
「何でもねえよ!」
状況がつかめない。寝たふりをして様子を窺うことにした。
「あ、すまねえ。いや、何でもないから寝ていてくれ、リアラ。」
怒鳴りつけた相手はリアラだったらしい。
あのロニがリアラに怒鳴りつけるなど、珍しいこともあったものだ。
「うーん、リアラぁ……。」
カイルのぼんやりした声をきっかけに、空気に緊張が走ったようだった。
だが、彼の次の言葉に、一気に緊張はなくなった。
「リアラ……ずっと……一緒……ロニも……ジューダスも……シンも一緒……へへ……。」
寝言らしい。どうやら5人で終わらない旅を続けている夢でも見ているようだ。
「ジューダス、もうやめようや。この脳天気な寝言聞いてたら、お前が何者かなんてどうでもよくなっちまった。」
「……お前がそれでいいなら僕はそれでいい。」
シンは納得した。ロニはジューダスの正体を知りたがったのだ。
確かに得体の知れない人物なのだから、いつ寝首を掻かれるかと思っても仕方ない。
ただ、これまでにもチャンスはあった。
本当に寝首を掻くつもりなら既に実行しているに違いない。
「ジューダス、お前は休めよ。目が覚めちまった。まだ夜は長いんだ、この辺で休んどけよ。」
「ああ、すまない。」
誰かに心配されるというのは気持ちいい、と言いたげな口調でジューダスは毛布に包まった。
寝るときまで仮面を外さないというのは奇妙だったが、それだけ正体と内面を知られたくないのだろう。
「ごめんね、ロニ。」
「いいってことよ、俺も目が覚めちまったしな。」
「そうじゃないの、変なこと言っちゃって……。」
「気にすんな。さ、リアラも寝てろ。な?」
どうやら一件落着、らしい。曖昧な遣り取りだったが、お互いに納得できたのならそれでいい。
カイルの脳天気さに感謝しつつシンは再び眠りに就いた。

 
 

夜が明けて出発だ。
ロニがやや疲れたような顔をしているが、気にしないでおくことにした。下手に言うと余計に疲れるだろう。
「次の坑道を抜けて、南下して海岸線にぶつかったら東だ。坑道内部で分かれ道があるが、間違えるなよ。」
ジューダスが地図を確認し、きびきびとルートを決める。
決断の早いジューダスがいることで、この5人の旅は効率的なものとなった。
「ジューダスが仲間でいてくれて、俺たち助かってるよなあ。」
カイルが何の気なしに言ったその言葉に、ジューダスはどこか鋭い痛みに耐えるような顔になった。
過去の古傷なのだろうか。
「本当に……ジューダスがいなかったら、今頃野垂れ死にしていると思うぞ。」
「お前達が頼りないだけだ。」
皮肉屋は相変わらずだ。だが、世間にはツンデレなる言葉がある。
ジューダスはまさにそれではないか、とシンは思う。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか濃霧の領域から脱出していた。
じめじめした空気から解放され、目に見えて5人は生き返った。
「ふう、やっとか。真っ直ぐ行けばノイシュタットなんだな。」
何度かモンスターの妨害にも遭ったが、あっさり撃退できるレベルで助かった。
なんとか消耗する前に到着できたらしい。
「早速港に行ってみようよ!」
レンガ造りのアーチをくぐり、5人はノイシュタットに入った。
この街はかつて貧富の格差が激しく、子供の売り買いさえあったという。
そんな街の状況に心を痛めていたのが、オベロン社のノイシュタット支社長であるイレーヌ・レンブラントなる人物だった。
彼女はフィッツガルドの発展と、格差是正に真剣に取り組んでいた。
しかし、彼女はその状況を早く打開したかったがために、ヒューゴと共に地上の破壊を目論んだ。
一度破壊しつくし、新たに世界を作り直そうと。
結果、彼女はアタモニ神団の暴走によって各地を巡っていた頃に親しくしていたスタンによって討たれることになった。
ただ、フィッツガルドの住人は彼女のことを忘れていない。
外殻が降って来たために市街地の多くが破壊され、ノイシュタットも大きな被害を受けた。
それでも彼女が感謝されているのは、それによって格差がほとんどなくなったからだ。
貧困層にあった人々はそれまで労働に従事していたため、災害復興を素早く行えた。
一方の富裕層は、金を使うことしか考えていなかったために復興が遅れた。
結局富裕層は散財し、貧困層は力をつけることが出来た。
だから、かつての貧困層にあった人々は外殻の落下を「イレーヌさんからの贈り物」と呼ぶ。
彼女が本当に慕われていたことがよくわかる。

 
 

そんな話をジューダスから聞き、シンは何故そんなことを知っているのかを知りたくなったが、それを口にすれば不機嫌になるだろうと黙っておいた。
「活気があるな、この街は。なんていうか、人から活力が感じられる。」
シンはそう評した。道行く人々の笑顔が絶えない。商人たちの声にも張りがある。
カイルにせがまれたロニが露天に寄ってバナナを人数分買ったが、そのバナナすら活気を帯びている気がした。
「いいところだな。」
彼は近頃、元の世界に帰ることに対して悩みはじめていた。
この世界はあまりにも心地よい。
戻ったところで荒れ果てたプラントと地球、それにろくな政策も期待できないラクス政権が待っているだけだ。
だが、この世界は18年前には大混乱があり、これまでの苦難を越えて来たはずである。
ならば、荒れ果てた元の世界を正さねばならない。具体的な方法は帰ってからにしよう。
シンはそう思った。
港はすぐ近くにあった。荷物を積みおろしする人々の顔にも笑顔がある。
その中に、あのアルジャーノン号の船長の顔があった。
「船長、こんにちは。」
「おお! 英雄のご一行!」
相変わらず大げさだとシンは思ったが、カイルは大喜びだ。
シンは可能な限り冷静に船の修理について聞いてみた。
「どうです、作業の方は。」
「それが……なかなか。もう少し時間がかかるようです。意外と傷が深いようで。竜骨には影響はないようですが、浸水の被害は……。」
「そうですか……。」
シンは状況を仲間に説明する。手持ちの資金も少しばかり増やしておきたいところだ。
いざという時のためにはやはり、資金は大事なのだ。
「つってもなあ、何をすりゃいいんだ?」
その様子を窺う者がいた。じっとりと値踏みするような視線だ。
シンは少し首筋が痒くなった。
リアラが少し身震いする。どうやら視線を感じているらしい。
不審さを感じた5人は、全員がその方向に視線を向けた。

 
 
 
 
 

TIPS

双炎輪:ソウエンリン 火
地裂斬:チレツザン 地
斬衝刃:ザンショウジン 武器依存
影殺撃:エイサツゲキ 闇
双輪還元:ソウリンカンゲン 火