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Fortune×Destiny_第16話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 10:03:15

16 力の源

 

4人はホープタウンに到着した。
ナナリーはロニとジューダスがいるという長屋に残る3人を連れて行った
「ここが皆で住んでるとこさ。親のいない子なんかを引き取って育ててるんだよ。」
「……まるっきり孤児院だな。けど、こんな砂漠地帯によくこんなオアシスがあったね。」
ホープタウンの中央には湧水がある。海岸地帯に近い砂漠によくぞあるものだ、とシンは言う。
「ここは28年前の騒乱のときに外殻が落っこちてさ。地殻変動が起きてオアシスが出来たんだよ。
あれのせいで大勢の人間が死んだらしいけど、まあ、一つくらいはいいことがあったってわけだね。」
こんなところにもあの騒乱の「恩恵」がある。
10年前のノイシュタットといい、このホープタウンといい、エネルギッシュなところだ。
「これだけ元気があって、『生きる』気持ちがあるなら、確かにアイグレッテに行く必要はないな。」
前述したが、シンはハイデルベルグの図書館で歴史を確認している。
だから、アイグレッテでは人々がナンバリングされ、子供が3歳まで親から引き離されて生活していることを知っている。
生存することは出来ようが、このホープタウンを見ているとアイグレッテでの生活は生活というより飼育に近い。
生きているだけで、人間らしさが全くない。
それは、実際にアイグレッテの様子を見てきたカイルも同じらしい。
「暑くて不便かもしれないけど、皆生き生きしてるね。」
「生きてる実感があるって感じの顔だ。こういうの、俺は好きだな。」
ただ、リアラは俯いている。何かに迷っているらしい。
自分の考えるものと違う現実を見せられたような感じがする。
「リアラ? どうしたんだ?」
「え、ううん、何でもないの。何でも……。」
どうやら彼女もシンと同じように話せない秘密というものがあるらしい。
それについて彼女を責める事など、シンはできなかった。
「カイル、カイルじゃねえか!」
シンは顔を上げた。色黒銀髪長身の男、ロニだ。
その後ろから仮面を被ったジューダスがやってくる。
「ロニ!」
「無事だったか!」
ロニはそれこそはぐれた我が子を見つけたように喜んでいる。
ジューダスはやれやれという表情を見せたが、内心では喜んでいるに違いない。
「ロニ、ジューダス! 心配をかけた。何とか全員合流できたらしいな。」
シンは笑顔を見せてそう言う。ジューダスはシンを見遣り、言った。
「お前が戻ってきてくれて少しは助かりそうだ。何しろ、あの馬鹿へのツッコミは僕一人で処理し切れん。」
「あはははははは、さすがにジューダスもツッコミに疲れた?」
「僕は十分に突っ込んだんだからな、後はお前一人で全部やれ。」
シンは苦笑交じりに頷いた。これで少しは愉快な仲間と戯れていられそうだ。
「おお、カイル! 俺の可愛いカイルゥゥゥ!」
ロニはカイルに抱きついて、頬擦りしている。愛情表現にしても過剰だとシンは思う。
「うわー、やめろ、くっつくなって、気持ち悪い!」
「何言ってんだ、お前だってこの俺に会いたくて仕方なかったくせにぃぃぃ!」
笑顔のまま、まだ頬擦りを続けている。
「そんなことないよ!」
「なんだよ、冷たいやつだな。ジューダスなんかお前に会いたくて夜な夜な寝言でお前の名前を呼んでたんだぞ!」
「出鱈目を言うな!」

 
 

ツッコミを全て押し付けると言ったのに、既にツッコミを入れている。
真面目であり、誤解は即座に訂正したい。それがジューダスである。
「ジューダスはツッコミから逃げられないらしいな。」
「う、うるさい!」
本当に、楽しい。一緒にいて飽きないし、頼ることも頼られもする。
自分が何かできるというのが嬉しかった。
だが、失うことへの恐れが裏面に存在する。それも、刻一刻と迫っている。
今のうちに笑っておこうかとも思ったが、それは殺すことを前提とするのと同じだ。
「負けられないんだよな……絶対に。」
シンは誰にも聞こえないようにそう呟いた。
ふと気づくと、ナナリーの姿が消えていた。どこに行ったのかとシンは周囲を見回す。
「ナナリーなら多分あそこだな。毎度毎度律儀なこった。」
「?」
ロニは黙ってついてくるように言い、ある場所へと向かった。それは、オアシスの畔にある墓地だった。
ナナリーはその墓の一つの前に座っている。彼女はその墓に話しかけている。
「今日はいいことがあったんだ。食料が手に入ったんだよ。ちゃんとルーの分も持ってきたからね。
それからね。ほら、前にスケベロニとむっつりジューダスっていただろ?」
もの凄いネーミングだな、とシンは思ったが、それ以上に彼女が話してる相手が一体誰なのかが気になった。
「その二人が探してるっていう3人が見つかったんだよ。カイルとリアラとシン! 3人ともいい子ばっかりさ。ルー、あんたが生きてたらカイルくらいの歳なんだね。」
ナナリーは楽しそうに喋っているが、どこか寂しそうだった。
「ロニ、あの墓は?」
カイルがロニに聞いた。ロニは応える。
「ありゃナナリーの弟の墓だそうだ。食べ物が手に入ったときやらいいことがあったりしたら、ああやっていつも報告してる。普段のガサツさが嘘みてえだ。」
シンの胸に、新しい痛みが走った。兄弟姉妹というものは家族の中でも特別だ。
親にも友人にも出来ない隠し事を共有したり、好き放題話せたり、時には喧嘩相手にもなる。
それを失ったとき、虚脱感は大きい。特に子供の時期はそうだ。
自立できない時期での兄弟姉妹の死はその人間へのダメージが大きくなる。
そう、シン自身もそうだった。両親と同時に妹のマユを失った。
年下の弟や妹はさらに痛手だ。ただでさえ自分より長く生きていないのに。そう思ってしまうものである。
「あ、皆そこにいたのかい。ごめんよ、待たせちゃって。」
「弟さんの墓だって聞いたけど……?」
少し遠慮がちにリアラが聞くと、いつもの調子でナナリーは応える。
「ああ、そうだよ。あたしがちっちゃい頃、病気で死んじまってね。」
「治せなかったの?」
カイルがそう言うが、ナナリーは頭を振った。
「普通の方法じゃあね。」
「普通の方法って……普通じゃない方法ってあるの?」
カイルの問いにはリアラが応えた。
「あるわ、フォルトゥナ神団に帰依すれば、奇跡の力で治してもらえるはずよ。」
「でも、あたしもルーもそれは選ばなかった。」
「どうして? フォルトゥナ神の力を使えばどんなことでも……。」
「でも、その代わりに一生をアイグレッテで過ごさなきゃいけない。安全で清潔だけど、生きてるって実感が湧かない場所でね。」

 
 

「それは……。」
リアラはそれ以上言えなかった。彼女にはそれが効率的でいい方法だと思っていた。
だが、そのあり方の矛盾を衝かれた。反論できない。
「だから、ルーと一緒にここに来たんだ。死ぬまでの間、短い時間だったけど、あの子はいつも笑顔でいた。
村の皆も、本当によくしてくれた。だから、あたしは後悔してないし、この村を誇りに思ってる。」
硬くなりかけた空気を混ぜ返すように、ロニが少し大きめの声で独り言を言う。
「あーあ、何か喉が渇いたぜ。なあ、飯の前に雑貨屋で何か飲んでかないか? 結局、お互いの報告もまだ済ませてないんだしよ。」
「なんだ、そうだったのかい。じゃあ、長屋の方に行こうか。」
「ついでに、軽く腹に入れといた方がいいかもな。こいつの出すものが食えたもんじゃなかったら、晩飯食いっぱぐれるわけだし。」
今日はナナリーが夕食をご馳走してくれることになっている。
ナナリーの料理を食べるのはロニ達も初めてらしく、少々警戒しているらしい。
「別に構わないよ。あんた抜きでカイルたちと楽しく飯にするからさ。」
二人は言い合いながら長屋へと入っていった。
「もう、ロニったらわがままなんだから。」
「……まったく、わざとらしい。」
ジューダスは首を振り、半ば呆れた調子で言う。
「え?」
「気を遣ったんだろう、リアラとナナリーに。」
ロニはああ見えて空気の読める男だ。自分を馬鹿に仕立てて場の空気を変えることくらいはする。
「あ……。」
「おーい、お前ら! ぼけっとしてると置いてくぞ!」
リアラは何か言おうとしたらしいが、ロニの大声に遮られた。
「あ、待ってよ!」
カイルは長屋へと向かい、ジューダス、シンも続く。
リアラはその後ろから目を伏せたままついていった。

 
 

長屋は少々手狭な場所だった。あちこちに布が敷かれていたり、生活用品が雑然としている。
清潔というものはあまりなさそうだが、代わりに生活臭がはっきりする場所だった。
シンはどちらかといえば清潔な場所に生活していたのだが、こんな生活臭溢れる場所も悪くはない。
「おばちゃーん、お茶ちょうだい、お茶。」
ロニは最早勝手知ったる他人の家、とばかりに長屋の管理をしている女の人からお茶を貰った。
「んじゃ、まずはお互い何をしてたか話すか。どうせ話したいことは山ほどあるだろ。」
「うん、勿論。」
彼らはしばらくの間話を続けた。まず、カイルからはアイグレッテの様子が報告された。
人々が管理されて生活していること。それに関して全く疑問を持っていないこと。
そして、彼らの口調や表情にどこか違和感があること。
シンは予め本で確認していたが、カイルの口から聞いたアイグレッテは、どうしても納得できるような状況ではなかった。
次に、シンの報告だ。彼はハイデルベルグやノイシュタットの住人の無気力さ、フォルトゥナ神団の配下の者の素行の悪さ、無にされたイレーヌの思い。
それらを語った。信者殺しや商人殺し、そして自分の未来については伏せておいたが。
シンは言う。全てがフォルトゥナ神団のせいで起きたことではないだろう。
だが、フォルトゥナ神団が掲げる「幸福」とやらのために、今まで幸せに生活してきた人間の希望を奪っている。
幸福の均等配分のつもりかも知れないが、わざわざそれなりに生活しているというのに、その幸せを壊すような真似は許せない。
これでは「幸福」の押し付けだ、と。

 
 

「ひでえな、ハイデルベルグとノイシュタット……。イレーヌさんの思いを壊したあの商人は許せねえ。けど、その引き金引いたのはフォルトゥナの連中だな。」
「うん、俺も許せない。神様って何でもお見通しのはずなのに、子供を親から離して育てたり、ノイシュタットの人を苦しめたり。こんなことするなら、神なんていらないよ!」
普段ふざけているロニとカイルも、この世界の状況には納得がいかないらしい。だが、カイルの最後の言葉にショックを受けたのは、リアラだ。
「神が、いらない……?」
「うん、そんなことされるくらいなら、俺、ナナリーと一緒にホープタウンで生活する方がいいよ。」
シンも同意見だ。だが、それを口にはしなかった。リアラのことが気になったからだ。ここでそれを言えば、彼女が完全に孤立する。
先にフォルトゥナ神団の文句を言いはしたが、「神がいらない」という発言からは明らかに様子が違う。だから、彼は控えることにしたのだ。
しかし、仲間達はリアラの様子に気がつかないのか容赦なくフォルトゥナ批判をし続ける。
「効率で安全な生活……確かに理想的なもののように見える。だが、どこかに違和感があるのも確かだ。」
「自分で生きることを放棄した連中への違和感か……。」
「あたしだって、生きてる実感が湧かないあそこよりはって、ルーをここに連れてきたんだから。あたしも神はいらないと思うけどね。」
話をしているうちに太陽が傾いてきた。西向きの窓が多いこの長屋に、眩しく赤い光が差し込んでくる。
「それじゃ、あたしんちで晩飯にしようか。」

 
 

ナナリーの家は少々奥まったところにあり、半分地下にある家だった。
暑さを凌ぐために、涼しい地面の下に居住スペースを確保したのだと彼女は言った。
手に入った野菜や肉をワイルドかつ繊細に捌いていく様子は、最早プロフェッショナルだ。
「ナナリー、お前凄かったんだな。」
「なんだよ、ロニ。邪魔するつもりなら向こうで待ってなよ。」
「いや、俺もそれなりに料理には自信があってな、手伝いに来た。」
「……変なものは作らないでおくれよ?」
「俺は一人暮らしの期間が長かったんだっ、飯には自信がある!」
「そりゃあんたはふられマンだしね、一人暮らしも無理ないか。」
「んだとぉ!? ……ったく、とりあえずこっちのスープは俺がやるから。残りは任せる。」
「はいよ。」
口論しつつも、シンの目からすればロニとナナリーは仲がいい。
ただ、生きていた時代が違うのだから、お互い元の立場に戻ったときはどうするのだろう、とは思う。
「へえ、ロニとナナリーって仲がいいんだね。黙ってればお似合いなのに。」
「喧嘩するほど仲がいい、って言うだろ? あの遣り取りもお互いを信頼してるからじゃないかな。」
リアラは終始俯いたままだ。やはり、何らかの痛手を受けたのだろう。
その理由まではわからないが、彼女の表情が痛々しいことくらいはわかる。
夕食が出されてからもこの調子だ。
十分においしいご飯だったが、リアラはあまり手をつけなかった。

 
 

夜が明けた。ナナリーの家で一行は体を休めた。
昨日の夕食の場で、一行はカルビオラの神殿に向かうことになっている。
カルビオラはかつてカルバレイスの首都だったが、外殻の落下によって壊滅し、現在ではフォルトゥナ神団の聖地へと姿を変えている。
リアラが言うには、時間転移をしようとすると、自分一人だけならともかく、これだけの人数を一度に転移させるためには大量のレンズの力が必要らしい。
カルビオラに行けば、信者達が寄進したレンズが山ほどあるので、それを奪って現代に戻ろうというわけだ。
窃盗というか何というか、犯罪もいいところだが戻るためだ。どうしようもない。
しかし、問題はそのカルビオラへ向かう手段だ。通常の参拝の道は信者以外は使えない。
そこで、トラッシュマウンテンと呼ばれる古代のゴミ捨て場に向かうことになった。そこに抜け道があるらしい。

 
 

トラッシュマウンテンはホープタウンの東、山に接するように存在している。
「トラッシュマウンテン……まさにゴミの山だな。……これは飛行竜の残骸だ。
それに、故障した機械……適当に修理したら再利用できそうなものが多いな。」
シンは足元に転がったものを拾い上げた。
それは何かの製品らしいが、よくわからない。
ただ、必要な部品と知識があればすぐに直せそうに見える。
「ここは天地戦争時代のゴミ捨て場さ。天上人たちが使えなくなった物をここに捨ててたんだよ。」
「天上軍、というより天上人たちがいかに豪勢な暮らしをしていたかがよくわかるな。使えなくなったら捨ててしまえばいい。そういう感覚だったんだろう。」
しかも、どうやらきちんとした処理をしていないらしい。
あちこちで化学反応を起こし、低濃度の毒ガスが漂っている。
すぐに死にはしないが濃いのを吸えば昏倒くらいはするだろう。
「こっちからは枯れ草っぽい臭いがするな。……ってこれはホスゲンか! なんて危ない物質が……。」
「ホスゲン?」
シンが放った言葉に対し、カイルが疑問を投げかける。
「ああ、窒息性の毒ガスさ。結構工業的に有効な物質なんだけど、吸ったりすると肺水腫を引き起こしたり、ひどいと死んでしまう。このくらいなら死にはしないけど。」
ホスゲンの工業的な利用法としては、ポリウレタンの高分子構造を作り上げるときに用いる、反応開始剤があげられる。
反応性に富む物質だからこその利用法だ。
これが生体に作用すれば、毒になるのは当たり前だ。
反応性が高いということは、同時に生体分子を破壊することを意味するのだから。
だから、ポリウレタンの製造工場では工場の中でホスゲンを作り、それを絶対に敷地から持ち出さず、漏れないように細心の注意を払って使用している。
そんな危険な物質がここの空気には存在しているというわけだ。
「濡れたハンカチで口と鼻を押さえたらいいよ。少しはマシになるはずだ。」
ホスゲンは加水分解によって塩酸が発生する。
肺水腫になるのは、肺の中で塩酸が発生し、それが内部を刺激するからである。
そのため、濡れた布で呼吸器を守ろうというわけだ。
こんなものでは完全に防げないが、気休めにはなるだろう。
「早いところ抜けるに限るな。」
シンは辺りを見回し、少々高いところにある山肌にあいた穴を見つけると、飛翔能力を使って全員を引っ張り上げた。

 
 

一行は穴を抜け、カルビオラに到着した。
砂漠の真ん中に存在する割には、この建物には砂塵が積もっていない。
それに、空気も妙に澄んでいる。
6人は毒ガスの影響で朦朧としていたが、ロニとリアラのヒールで解毒し、どうにか立ち直った。
この世界の回復晶術は、解毒や麻痺の解除などの効果がある。
戦闘中に急いで使う場合も、意識して使えばコンディションの改善は行えるらしい。
「俺がプレイしてたゲームじゃ別々だったんだけどなあ。」
とはシンの言である。
まあ、一応剣と魔法の世界ではあるが、ゲームではないのでこれが普通なのかもしれないが。
「それにしても、随分と現実感のない場所だな。」
「塵一つない。ここだけ外の世界と切り離されてるみてえだ。」
ジューダスとロニが口々に言った。確かに、この異様な感触は普通ではない。
結界のようなものが存在するのだろうか、とシンは思った。
礼拝が終わり、神殿から出て行く聖職者達をやり過ごし、彼らは神殿の奥へと足を向けた。
道中、誰にも見つかることはなかったので、あっという間にレンズ保管庫までたどり着けた。
そのレンズ保管庫に、「それ」は存在していた。
美しい、そして現実離れした顔立ち。
背中から翼が生えた姿をした、それこそ人が神と評するような姿。フォルトゥナだった。
確証などなかったが、シンにはこの存在こそがフォルトゥナだろうと思った。
「よく来ましたね、我が聖女よ。そして、私が異世界より呼び出した者よ。」
シンの瞳が見開かれた。
この10年後の世界に実在すると言われる神、フォルトゥナの手によってシンは呼び出されたのだ。
「な、なんだ、こいつ……。」
カイルがそう漏らすのも無理はない。本物の神を目にするのは彼も同じなのだから。
その存在の不自然さ、そして放たれるプレッシャーを感じているのだろう。
「フォルトゥナ。この世界に存在する、本物の、神よ。」
リアラはそう言った。
シンはやはり、と思う。
「リアラ、ここに来た理由はわかっています。私の力であなたの願いを叶えましょう。ですが、一つ聞いておかなければなりません。」
フォルトゥナはリアラを慈しむように言葉を投げかける。
「はい。」
「エルレインは既に己がすべき事を見定めています。そして、そのために動き、多くの人々の信頼を得ています。」
「それは、そうかも知れません。でも……。」
「わかっています、あなたがエルレインとは異なる道を歩いているということは。二人の聖女、二つの道。それはあなたとエルレインに私が与えた運命です。そして、シン・アスカ。あなたにも。」
急に自分の名前が出された。シンは驚き、フォルトゥナを問い質す。
「どういう意味だ? 俺はただの異世界の住人のはずだぞ?」
「お前は忘れてしまっているだけです。私がお前を呼び出したのは、お前が元の世界で持った無念さを生かし、この世界を幸福へと導いてほしいからなのです。」
「なんだと!?」
「お前は多くの大切なものを戦場で失った。その度に力を求めた。だから、私はあなたをここに呼び出して力を与えたのです。」
フォルトゥナはそこまで言い、さらに衝撃的な言葉を続けた。
「半分の戦う者の思念ともう半分の幸福を望む者の思いを集め、作り上げたそのブレスレットとして。そして、戦う者としての観点から人々を幸せにしてほしいのです。」
「戦う者の観点からだと……!?」
彼は気づいた。あの狂気の正体だ。
戦う者の思念といえば聞こえはいいが、その内の3分の2くらいは「殺人願望」「戦闘願望」、もっと端的に言えば「破壊願望」で占められている。
どうやら、それがブレスレットを通してシンに伝わっているらしい。
ろくでもない力だが、死にたくない、そしてカイルたちを死なせたくないのだから、使うほかなさそうだ。
「そう。人々は戦う者を賞賛し、己の幸福として受け取ることもあります。その内の何が最も効果的な方法なのか。お前にはそれを探ってもらいたいのです。そして、必要になったら私があなたを手助けしましょう。」
シンは思う。このフォルトゥナはおそらく、人間の「幸せになりたい」という思いの集合体なのだろう、と。
神と言うものは、大抵は人間の想像力が作り上げるものである。
それが集団単位になるとお互いのイメージが重なり合って、性質や容姿を作り上げていく。
何のことはない、合同で作り上げられた小説の登場人物のようなものなのだ。
現実に現れる神もそれは変わるまい。期待やイメージ、思念が集まって構成されるという意味では。
ならば、と彼は問う。
「あんたは俺に力を与えたって言ったよな。それは俺が持ってる戦う力なのか?」
「その通りです。」
「何故、俺のかつての乗機をモデルにしているんだ? そんなことをする必要はなかったはずだ。
この世界の形式に当てはめたってよかったはずだ。」
「シン・アスカ。お前がイメージしやすい力はお前のかつての乗機。
イメージしやすければ扱いも容易い。実際、お前は何の戸惑いもなく使いこなせているでしょう?」
確かにその通りだ。最初にフォース形態をとったとき、自由自在に飛行できた。
ブラスト形態のときなど、完全に自分の能力を把握できていた。
イメージが力になる。それがシンの持つ力らしい。
「……ならば聞く。俺がもし、あんたの目的を達成したとき、俺は元の世界に帰れるのか?」
「それはできません。」
「……なんでだ!? 俺は元の世界に戻って、しなくてはならないことがあるんだ! 世界を好き勝手に弄くる連中を排除しなきゃいけないんだ!」
「……いずれわかります。」
これ以上、何を言っても無駄らしい。シンはやむなく引き下がる。
フォルトゥナはリアラに語りかける。
「リアラ、あなたとエルレインの道は違えど思いは同じのはず……。リアラ、私達の目的、ゆめゆめ忘れぬように。」
「はい……。」
「ま、待ってよリアラ!」
全く話についていけないカイルはリアラに問う。
「二人の聖女だの人々を導けだの……いったい、何のこと?」
「それは……。」
リアラは答えられない。フォルトゥナが代わりに答える。
「二人の聖女は私の代理者。人々を救いへと導く存在です。」
「神の……代理!?」
カイルの声からは信じられない、という思いが滲み出ている。
「人々の救いを求める思いが、私を、そして、二人の聖女を生み出したのです。一人はエルレイン、そしてもう一人はそこにいる、リアラ。
二人は違う道を歩み、それぞれ人々の救いの姿を捜し求める旅に出たのです。」
「じゃ、じゃあよ、エルレインがやろうとしていることは、人々を救おうってことなのか!?」
納得できない。そう言いたげなロニの言葉が保管庫の中に響く。
「そんな、嘘だ! だってあいつは、ウッドロウさんをバルバトスに襲わせたり、レンズを奪ったりしてたじゃないか!」
「エルレインは、結果としてそれが人々の救いに繋がると思ったのでしょう。」
カイルは、狂っている、と思った。
「そんなの、間違ってる! 現にウッドロウさんは傷ついてるじゃないか!」
「間違っている? 何故、そう思うのですか? アイグレッテを見たのでしょう? 人々は安全で快適な街の中で幸福に暮らしています。」
フォルトゥナは首を傾げたようだった。エルレインのしていることには不満がないのだ。
「確かに、なんにも知らなければあれでも幸福かもしれないね。けどさ、親から子を奪うのが幸福だってのかい!? 生きてるって実感をなくしちまってるのに、本当に幸福なのかい!?」
ナナリーに同調し、カイルは再び声を張り上げた。
「そうだ、やっぱり間違ってる。エルレインも、フォルトゥナも、おかしいよ!」
「俺も同意見だね。俺に与えられた力が何のためかは別にして、エルレインのしてることは『大儀のために小さな犠牲は仕方ない』でしかない。そういうのは気に食わないな!」
シンの言葉に、カイルはさらに自信を持ったらしい。
「リアラも言ってやれよ、あんなのは全然幸せじゃないって!」
リアラは何も言えない。
自分の力と使命、そして、カイルたちの言葉。それらに行き場を失い、悩んでいる。
「……私だって……。」
「えっ……?」
「私だってエルレインは間違っているって思うわ! みんなの話を聞いていればそう思うもの。でもエルレインには力がある! 
あの人のお陰で幸せだって感じてる人たちもいる! けど、私には何の力もない、英雄だっていない……。」
リアラの大きな瞳から涙が零れた。
自分の無力さに嘆く心はシンにも伝わってくる。
かつての自分がそうだったから。
「誰一人幸せにしていないしどうやれば幸せに出来るのかも……わからないもの。」
「そんな、そんなことない! だってリアラはすごい力を!」
「やめて! 何もわからないくせに無責任な事言わないでよ!」
「わからないって……俺は!」
「あなたには何もわからないわ! 使命を負うことの重さも、本当の力がどんなものかも!」
「そんなことない!」
「わからないわ!」
永遠に続くかと思われた言い合いは、次の彼女の言葉で断ち切られた。
「だってカイルは聖女でも……英雄でもないじゃない!」

 
 

英雄を目指すカイルにとって、これは一番大きく響く、そして一番衝撃を与える言葉だった。
英雄ではない。全てを否定されるも同然の言葉だった。
「……!」
カイルが押し黙った。リアラは涙を振り払いながらフォルトゥナに言う。
「フォルトゥナ! 私達を10年前の時代に送って。」
「いいでしょう、お行きなさい、私の聖女よ。あなたに幸運があらんことを。
全てが終わった後、また会いましょう、リアラ。そして、シン・アスカ。」
フォルトゥナが周囲のレンズの力を解放し、光球を作り出す。
その中に6人は飲み込まれ、この時代から姿を消した。