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Fortune×Destiny_第20話

Last-modified: 2007-12-05 (水) 09:45:59

20 散りばめられた破片

 

シンは頬に冷たい雫が当たるのを感じ、目を覚ました。
つい先ほどまでイクシフォスラーを操縦していたはずなのに、それがなくなっている。
どうやら洞窟の中にいるらしい。霞む目を擦りながら周囲を見ると、仲間たちが倒れていた。どうやら全員無事のようだ。
「うう……皆、起きてくれ。」
カイルをはじめとして、仲間たちは頭をさすりながら身を起こした。
「皆大丈夫みたいだな。それにしてもここはどこなんだ?」
こんな洞窟は見たことがない。
どうやらリアラが空間の歪から脱出するために転移させてくれたらしいが、場所をはっきり指定しなかったらしい。
「リアラ、今度は僕たちをどこに連れてきたんだ?」
「わからないわ。ただ、皆を安全なところに連れて行って、って願っただけだもの。」
「ということは、時間転移はしてないってわけか。けど、あの空間の歪はいったいなんだったんだろうな?」
「こんなところで話をしてたってわかりゃしないよ。とにかく、外に出てみようよ。」
6人は洞窟の外に出た。眩しい光を浴びながら、シンはふと空を見上げた。そして、そこにあったのは。
空中に山のようなものが浮いている。そして、その下に巨大な剣のようなものが突き出していた。
「あれは……ダイクロフト! それに、ベルクラントじゃねえか!」
ダイクロフトは天地戦争時代の空中都市群の首都で、天上人たちの本拠地だった。
このダイクロフトは18年前の騒乱の時に破壊されたはずだった。そして、ベルクラントも既に存在するものではない。
だというのに、今現在存在している。
どういうことなのか、シンには見当もつかなかった。念のためにシンはリアラに聞いてみる。
「リアラ、本当に時間転移はしなかったんだな?」
「え、ええ。時間転移するようにはしていないわ。けど……これは……。」
ベルクラントから光が放たれた。それはどこかにぶつかり、光が3方向に散っていく。
どうやら何かにエネルギーを供給しているらしい。
ベルクラントは地殻にエネルギーを放ち、強烈な破壊力で吹き飛ばす兵器だ。
ベルクラントは過去に2度歴史に登場しているが、エネルギーを供給するような使い方はされていない。
つまり、間違いなく過去ではない。シンは一つの仮説を頭に置きながら、ジューダスに問いかけてみる。
「過去でもないのにダイクロフトが浮いている。これはどう解釈するべきかな、ジューダス。」
「……おそらくここは現代だ。ただし、どこかで歴史を改竄されているようだ。」
「歴史の改竄だと!? んなことができるのか?」
ロニの叫びは尤もだ。そんなことができるとは思えない。
しかし、自力でタイムトラベルをし、残る5人も時間転移させたリアラが応えた。
「できるわ。過去の歴史を変えれば。過去が変われば未来も変わる。誰かがどこかの歴史を変えたからダイクロフトがあるのよ。」
シンは少々皮肉めいた口調で言葉を吐き出した。
「誰か、か。それは一人くらいしか思いつかないんだが、俺には。……多分エルレインの仕業だろうな。
あいつは俺たちをレンズの力も借りずに未来へ送ったくらいだからな。自分だけ過去に飛ぶなんか空気を吸うようなもんだろう。」
「僕もシンと同意見だ。ダイクロフトが浮いている時点で、かなり大掛かりな歴史の改竄が行われたことは間違いないだろうな。とにかく、情報を集めなくては。」
洞窟の周辺はジャングルのような状況になっていた。人の手が入った形跡はない。
「うーん、こりゃはすげえな。かなり荒れている、というより人が住んでいるようには見えねえぞ?」
「こんな場所、俺だって初めてだよ。これはちょっと歩きにくいな。」
ロニとカイルが会話をするのを聞きながら、シンは先ほどから引っかかっていた疑問を口に出した。
「そういえばさ、因果律はどうしたんだろう?」
因果律とは簡単に言えば「原因と過去が存在するから結果と未来が存在する」ということである。
過去から未来へと向かう時間の流れを語る上で絶対に外せない問題だ。
この世界では過去が変われば未来も変化するらしい。
そうすると、この手の問題で有名なもの、「親殺しのパラドックス」やそれに類似したものが発生することになる。
これは自分を生む前の親を殺したら、自分も存在できなくなるというものだ。これに似た現象が起きていてもおかしくない。
シンは異世界の人間なのだからこの問題が当てはまらないとして、歴史が書き換わっているのならここにカイルたちは存在しないはずなのだ。
何故なら、歴史の流れが変わった場合、人間の生き方も当然のように変わる。
そうすると、誰と結ばれるか、どういう風に子供を育てるのか、どんな教育をするのか、全てが違ってくる。
仮に同じ遺伝情報を持った人間が生まれたとしても、確実に生活環境が違うのだから、性格も違ってくるはずなのだ。
それなのに、カイルたちには変化がない。
「おそらく、リアラのお陰だろう。リアラは安全な場所にと願ったはずだ。この時点で僕たちは因果律の変化から守られたらしい。」
「私の力だけではとても……シンのブレスレットも共鳴してたのを見てるから、シンも助けてくれたみたいね。」
シン自身は歪に巻き込まれた時点で気絶していたのだから、彼が力を貸したとは言えない。
ブレスレットを介して無意識のうちに力を貸していた、という方がより正確だろう。
「あー、まあ、結果的にそういうことになったんだろうな。」
生返事をしつつ、シンはフォース形態をとり、サーベルで行く手を阻む草を薙ぎ払い、道を作る。

 
 

開けた場所に出た。海の浅瀬を挟んだ遠くに、ドーム状の建築物がある。
青い縁取りにレンズのような天井は、シンの持つブレスレットのようにも見える。
「あれは……街、なのかな。行ってみよう。」
カイルはそう言い、残る5人もそれに同意した。
明らかに人工物である。人工物の近辺、またはその内部に人間がいるはずだ。
人間がいればそれなりに情報は集められる。そして、エルレインが何をしたかを探らなくてはならない。
「でかい……というか遠いな、意外と。」
ドーム上の建物に到着したのは夕方だった。
シンとジューダスは入り口を探した。その途中で、二人は同じ違和感を抱いた。
「なあ、ジューダス。この建物、コケが生えていないか?」
「ああ、建てられてから時間が経っているようだ。」
入り口を見つけた。シンは少々既視感を持った。どこかで見たような構造だ。
「入り口に何か書いてるな。『蒼天都市ヴァンジェロ』……このドーム一つが都市そのものというわけか。これはまた見たような光景だぞ……。」
自動ドアのスイッチを押し、待つこと5秒。合成音声のアナウンスが流れる。
『生体認識、コードグリーン。ロック、解除されました。』
どうやら、人間以外の生物が作動させても開かないように設計されているらしい。
6人が扉の中に入るとまた自動ドアがある。こちらは開かない。そう思っていると、入り口が閉まった。
「閉じ込められたのか!?」
ロニが慌ててハルバードに手をかけたが、シンは落ち着いてロニに言う。
「待ってくれ。多分、この後……。」
薬品のような匂いのする風が吹き付けられた。何らかの理由で消毒をしているのだろう。そして、内側の扉が開いた。
そう。シンが見たような感じがしたのは、この入り口がコロニーやプラントに見られるエアロックに似た構造だったからだ。
エアロックはコロニー内部の空気を外に出さないようにするための構造物だ。
人間が生きていくためには1013ヘクトパスカル前後の気圧が必要になる。
しかし、宇宙空間には空気の分子などほぼ存在せず、気圧はないに等しい。
この気圧差のために直接扉を開けると内部の空気が吸い出されてしまう。そこで、エアロックが開発された。
エアロックでは、宇宙空間から内部に入るときに、まずエアロック内の空気を抜き、外の扉を開ける。
そして、内部に入りたい対象がエアロック内に入った時点で外の扉を閉めて空気を入れ、内側の扉を開ける、というわけだ。
出るときは反対に、エアロック内に入ってから内扉を閉めて空気を抜き、外の扉を開ける。
空気を失わないため、密封するための構造なのだ。
この二重扉も意味するところは同じだろう。内部と外部を完全に切り離すための構造だ。
だが、そこまでする必要はないように思える。
6人は普通に外を歩くことが出来たのだ。
別に粉塵が漂っているわけでも、危険な病原体が存在するわけでも、ましてや毒ガスがあるわけでもない。
「こんなことをする理由が……どこかにあるはずだ。」

 
 

内部の空気は異様に澄んでいた。プラントの中にいるのとあまり変わらない空気だ。
さらに、透明なドームを通して入ってくる夕日から熱をあまり感じない。
それに、気温もどうやら調整されているらしい。ざっと20℃から25℃の範囲に設定されていることだろう。
徹底的に人間に対して害がないようにしているらしい。
この分では紫外線も完全に排除していることだろう。
しかし、この空気は異常だ。プラントでもそれなりに人間が生活している匂いはあった。それが全くない。
人間が住んでいるのかどうかすら疑いたくなる。
「プラントの中はガスだの細菌だののテロ攻撃に備えるって意味で空気清浄機を使ってたみたいだが……ここはまるで無菌室の中みたいだな。」
快適といえば快適だが、どこか居心地が悪い。
雨の降り頻るダリルシェイドや太陽が照りつけるホープタウンはあまり快適ではなかったが、そこに人間が存在する感覚がした。
「さてと、人を探さないと。」
シンは周囲を見渡してみた。小さな草原があり、ところどころに木もある。
少々離れたところには近未来的な建造物が存在している。生きていくだけなら、何の問題もない場所だ。
ただし、シンにはカイルから聞いたアイグレッテが、さらに進化したようなものではないだろうかと思った。
エルレインが歴史に介入したのだ。それくらいやりかねない。
向こうから人がやってくる。
かなりゆったりした服を着ているが、それ以上に驚いたのはその人間がレンズを額に貼り付けていることだった。
「ああ、あんたたち外からやってきたのかい!? レンズをつけてないようだが、大丈夫なのかい?」
「あ、あんたこそレンズなんか頭に貼り付けて。どうしたんだ?」
ロニは尤もなことを言う。しかし、このヴァンジェロの住人と思われる人間は、さらに言う。
「なんてこった。レンズをなくして外気に触れて、気が狂っちまったのか。」
どうやら、この世界ではレンズを頭に貼り付けているのが普通らしい。
そして、外気に触れて気が狂った、ということはまず外に出ることはないということだろう。
ジューダスは素早く切り返し、情報を引き出すために記憶がなくなったように振舞う。
「そうなんだ。どうやら僕たちはレンズをなくして色々と忘れてしまったらしい。よかったらこの世界について教えてくれないか?」
何とか聞き出せた情報によると、このドームはどうやらエルレインが作ったものらしい。
そして、彼らの頭に貼り付いているレンズは「命のレンズ」と呼ばれるもので、外で行動するためには欠かせないものなのだそうだ。
エルレイン自身はダイクロフトにいるとのことだ。
そして、ドームで生活している人々を見守っている、というのがヴァンジェロの住人の言葉である。
6人はヴァンジェロの中にある噴水の前に座り、状況について語らうことにした。
「さて、この世界のことが大体わかってきたが、まず僕とシンが気付いたことを言っておかねばならんだろう。」
ジューダスはそう言いながら居住まいを正した。そして、続ける。
「まず、このドームはかなり昔に建てられたものだ。外のコケの生しようといい、内部のツタの貼り付き具合といい、百年単位のものだ。」
シンはその後を受け、自分の持っている知識と現状を頭の中で比較しながら述べる。
「それに、あの入り口の構造は間違いなく外気を一切中に入れないためのものだった。
つまり、外界とドームの中とは完全に別世界と言っても過言じゃない。」
「つまり、どういうことになるんだ?」
ロニの質問にジューダスが応えた。
「この世界の歴史改変が行われたのはかなり前からということだ。
その間に人々の免疫機能が低下していったのだろう。あまりにも快適すぎる環境だからな。」
「めんえき?」
カイルには聞きなれない言葉だったらしい。シンが説明する。
「カイルはわからないか。免疫っていうのは、人間が生まれつき持ってる、病気の元になるものを排除するシステムみたいなものさ。
適当に病原体に触れていないと抵抗する力は減るんだよ。」
「このドームが建てられたときから、この外気を遮断する機構があったというわけだ。
建てられた当時は外が荒れていたということを示しているのだろうが。」
シンは少し考え、言葉を選びながら言葉を紡ぐ。
「……歴史改変によって荒れるような状態になった、ということか? まあ、理論が飛躍してるかも知れないけどさ。」
「そこまではわからん。とにかく、他に街がないか探してみよう。
ここの住人が言うには、他にも都市が存在するという。ヴァンジェロだけでは情報不足だ。探してみよう。」
ジューダスはそう言って立ち上がったが、ロニが止めた。
「ちょいと待った。もう遅いんだからヴァンジェロで寝ていこうぜ。適当に休まねえと。」
「それに関しては同感だ。だが、寝るならヴァンジェロの外で野宿にするぞ。」
ジューダスの放った言葉はかなり冷酷だ。カイルは異を唱える。
「えー!? どうして?」
「こんなところにいると免疫機能が落ちる。ここが快適だからと居ついて、その後に外に出たときに病気にでもなられたらたまらん。」
確かに一理ある。しかし、シンにはジューダスの真意がわかっていた。
やはり彼もこの空気が落ち着かないのだ。作り物めいた空気はどうしても好きになれないらしい。
不平を漏らしていたカイルとロニだったが、ヴァンジェロの外に出ると、二人の表情がやや明るくなった。
「んー、ヴァンジェロの中の空気は綺麗だけど居心地悪かったなあ。」
「外の空気の方が、何か落ち着くや。」
「出るときは不満を漏らしてたのに、カイルったら。」
「まあ、そんなもんさ。あたし達はやっぱりこういうのがいいんだよ。」
夜の帳が下りた。6人は焚き火を囲み、雑談をしながら時を過ごした。
歴史の流れから大きく外れた6人だ。歴史が改変される前の世界への思いも時折口から出てくる。
「この世界から10年後に飛んでも、やっぱりあたしの世界には戻れないんだね。」
「多分、な。ナナリーがいた世界は俺たちの知ってる世界の10年後だから。
今から10年後に飛んでもやっぱりドームの中で人間が生活している世界に行くだけだと思うぞ。」
「ということは、あたしも帰るべき世界がなくなったってわけか。やれやれだね。」
ナナリーは首を竦めながら言った。
とにかく、エルレインが何を操作したのかを調べないと対処のしようがない。
次の街でどれだけ情報を仕入れられるかが鍵となるだろう。
「今日は俺が番をするから。皆は寝ているといい。」
シンはそう言い、真っ暗な空を見上げた。
彼は少々考え事がしたかった。エルレインはかなり大規模な歴史改変を行った。
しかし、それは自分にも言えることなのではないかと思ったのだ。
シンは10年後の自分からカイルたちを殺すかも知れないということを知った上で行動していた。
そして、どういう手段を用いるのか、対応策はどうすればいいのか。
それをずっと検討していた。結局考えはまとまらなかったが。
しかし、彼は歴史を変えた。未来を知った上で行動し、歴史を書き換える。
それは自分もエルレインも同じだ、と。
わずかなぶれに見えるが、シンはあのままカイルを殺していた場合、血飛沫の騎士としてかなりの人間の命を奪っていることになる。
つまり、存在していないはずの人間がそのまま生き残ることになる。
これが長い時間をかけると、大きく流れが変わってしまうこともある。
些細なことで歴史の流れというものは、あっという間に変化するものなのだ。
エルレインはそれを悪用したのだ。放置するわけにはいかないのもわかる。
とはいえ、自分も似たようなことをした以上、エルレインのしたことに口を差し挟むことは出来ない。
「人のこと、言えないんだろうな、きっと。」

 
 

夜が明けた。
途中でジューダスが交代してくれたので、一応睡眠時間は確保できた。
少々疲れが残っている気もするが、気にしていてはいけない。まずは先に進まなくてはならない。
彼らは荒れ果てた大地を踏みしめ、周囲を確認しながら進んでいく。
「ふう、都市と呼べるようなものは見当たらねえなあ。」
「山の向こう側かも知れんな。向こうに回ってみるか。」
ロニとジューダスが言い、6人は二人の言う方向に足を向けた。
その途中、彼らは地上に打ち捨てられたあるものを見つけた。
「これ、何だろう?」
獣の足のようなものが生えた船だろうか。
中央から折れてしまい、何らかのエネルギーを受けたのか黒く煤けている。
シンはどこかで見たような気がしたが、すぐには思い出せない。
「何だっけ……確か歴史書の挿絵にこういうのがあったと思うんだが……。」
シンが唸りながら思い出そうとすると、ジューダスが驚いたような表情になった。
それも、戦慄を含んでいるようだ。
「まさか……これは……。ラディスロウか!?」
「ラディスロウ? ラディスロウって確か地上軍の旗艦で……。」
ロニがそこまで言ったところで、シンが一気に思い出した。
「地上軍の旗艦で、元は輸送艦……。ダイクロフト突入作戦に使われたり、18年前の騒乱の際にも出現したって書いてたな。
そのときに木っ端微塵に吹き飛んだはずだぞ!?」
「それがここにあるってことは……。天地戦争に介入したってこと?」
カイルの言葉は真実味を帯びていたが、状況証拠でしかない。
「そう結論付けるのはまだ早い。もう少し手がかりを探さないことにはな。」
冷静な仮面の少年の言葉を受け、6人は手がかりとなる都市を探さなくてはならないと、足を動かし始めた。

 
 
 
 

TIPS

 

称号
 歴史改変者
  未来を予め知って行動した者。
  人はそれをフライングという。
  シン「俺は……エルレインを批判できない……。」
  防御+0.5 回避+1.0 命中-1.5