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Fortune×Destiny_第21話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 10:14:26

21 箱庭の世界

 

ロニとジューダスの選択は正しかったらしい。
山をぐるりと回るとドームのような構造物が見えた。
しかし、その構造物とこちらの間には深い森が横たわっている。
人が通った形跡は、当たり前のように存在しない。
「この密林を掻き分けていけっていうのか。厳しいこと言ってくれるじゃねえか。」
「文句を言ってもあのドームには向かえんぞ。歴史改変の手がかりが欲しかったらさっさと歩け。」
他に通れるルートも無さそうだ。一行は深いジャングルへと足を踏み入れた。
「それにしても、海岸線のところよりも深いな、ここの森は。」
「誰も通らないみたいね。街と街の交流はないのかしら?」
カイルとリアラの会話を聞き、シンが口を挟んだ。
「あの様子では、他の街が存在していることは知っていても、積極的に交流しようという気はないらしいな。何かの都合で移動することになったら、それこそエルレインが転移させるだろうし。」
「つまり、まず道が整備されることはないってことだな。それでこの密林か。ったく……。」
鬱陶しそうにロニはハルバードで草木を薙ぎ払い、先に進んでいく。
しかし、その先に妙に毒々しい色合いの植物が絡み合っていた。
棘もあり、見るからに毒がありそうだ。下手に薙ぎ払うと毒でやられるかも知れない。
「これはどうすればいい? ソーサラーリングで燃えそうにないし。」
「何か燃料があればいいとは思うが。しかし、僕はそんなものを持っていないぞ。」
「ダイナマイト、一本くらい残しておけばよかったな。」
オベロン社廃坑で作ったダイナマイトは、飛行竜の撃墜と脱出のために全て使ってしまった。
後悔しても意味はないが、言いたくはなる。
「晶術で燃やしてみるか?」
「レンズがいくらあっても足りん。フランブレイブをすぐにでも具現できるなら話は別だが。」
リアラはまだエンシェントノヴァそのものを使えない。
フランブレイブはエンシェントノヴァから連携して放たれる具現結晶だ。
エンシェントノヴァそのものが使えないのならどうしようもない。
シンはエンシェントノヴァこそ使えるが、SEEDが覚醒しない限りはフランブレイブの代わりとなるブラストインパルスを召喚できないのだから、今のところ手詰まりだ。
あれは自分でコントロールできるようなものではないのだ。
「はいはい、ちょっと待ちな。ふむふむ……。」
ナナリーは毒草を眺め、口を開いた。
「この毒草は中途半端な火じゃだめさ。熱に対して耐性があるらしいからね。んで、やっぱり燃料を持ってきて燃やすしかないよ。燃料は……そうだね、ここの森の犬みたいなモンスターがいたろ? あいつの牙を使えばいいと思う。」
確かに、やたら走り回っている犬のようなモンスターを見かけたが、かなり足が速そうだ。
「まあ、捕まえられるだけ捕まえて牙を頂くとしようか。」
犬のようなモンスター、ガルムは密林の各所を走り回っている。かなりのスピードだ。
「あれを捕まえるのは至難の業だぞ。とりあえず、フォース形態で追いかけるよ。」
シンはフォース形態をとり、ガルムを空中から追いかけて攻撃をしかけるが、ガルムはシンの攻撃を悉くかわした。
「何やってるんだよ!」
「機動性は俺の方が上だが、運動性は向こうの方が上なんだ、どうしようもないだろう?」
機動性と運動性を混同する人もいるのだが、意味は全く違う。
機動性は直線的な速度や一定時間あたりの航続可能距離を示す。
どれだけ移動できるかという意味合いだ。
一方の運動性とは、簡単に言えば小回りのことだ。
いかに相手に自分の移動する軌道を読まれないか、どれだけ早く進路を切り替えて動けるか、というようなことを意味している。
どうやらカイルもその当たりを区別できていないらしい。
「とりあえず、カイル! 俺は上から、カイルは下から追い詰めるぞ!」
「わかった!」

 
 

一匹のガルムを、植物が入り組んだために出来た、天然の袋小路に追い詰めた。
逃げ道を失ったガルムはカイルに牙を剥く。
「くっ、爆炎……!」
カイルが攻撃する寸前、シンはソード形態に入れ替え、カイルの頭をクレイモアの面の部分で殴った。
「いてぇ、何すんだよ、シン!」
「今から燃料を採ろうとしている相手に火を使うな!」
ガルムはその隙に逃げ出そうとしたが、そこはリアラのアクアスパイクとジューダスの斬撃が遮る。
「そこのバカ二人! 逃がすんじゃない! 月閃光!」
光を帯びた剣の軌道が三日月のように輝く。カイルは今度こそ、と詠唱を始める。
「よし、フレイムドラ……!」
またもやシンの大剣の面がカイルの頭に炸裂した。
カイルは目から火花が出たかと思うほどの衝撃を受け、ふらつきながらシンの方を見る。
「な……また叩くなあ……シンひどいぞ……。」
シンはカイルに顔を近づけながら説教をする。
「カイル。俺が10秒ほど前に言ったことをもう忘れているじゃないか! 燃料を採ろうとしている相手に火を使うんじゃない!」
言っていることは尤もなのだが、ツッコミが暴力的だ。
一方のガルムはナナリーの矢で仕留められていた。
「あんたたち、もっと真面目にしなよ!」
「……ごめん。」
「すまん。」
ナナリーは慣れた手つきで牙を抜き取る。そして、さらなるターゲットを探して視線を彷徨わせた。
別のガルムを見つけた。6人は一斉に向かっていき、攻撃を開始する。
ガルムにとっては迷惑な限りだが、このままでは先に進めないのだ。
「でやあああああ、鏡影剣!」
サーベルがガルムの影に刺さり、ガルムの動きが止まった。
さらに、影を纏った斬撃を浴び、ガルムが仰け反る。
「扇氷閃!」
ナナリーの弓から氷の矢が放たれ、分裂して降り注いだ。
逃げようとしたガルムはこの矢で行く手を阻まれる。
そこに追い討ちをかけるようにロニのハルバードがガルムの頭部に炸裂した。
確かに仕留められたわけだが、死骸がかなり無残な姿になっている。
あまり見たくない。砕けた頭蓋骨に吐き気を催しながら、シンは何とか牙を抜き取った。
「うええ……強烈だな。」
「よし、あと2匹分もあればなんとかなりそうだね。」
その後、逃げ回るガルムを追いかけ、何とか牙を集めることができた。
シンが牙を預かっていたのだが、牙の中から油がとろりと零れそうになり、あわてて切り口を上に向けた。
「で、これをさっきの毒草のところに仕掛ければいいんだな?」
「そういうことになるね。」
毒草が絡み合っている場所に戻ってきた。
牙の中に詰まった油を振りかけ、ソーサラーリングの熱線をぶつけて火をつけた。
毒草が嫌な臭いを放ちながら燃えていく。
だが、途中で火力が弱まった。そして、完全に燃やしきれないうちに火が消えてしまった。
「……何で? ホープタウンの近くにこの手の毒草が生えたときに同じように処分したんだけど、そのときはうまくいったんだけどねえ。」
「ガルムの牙が足りなかったのか? 俺はもう嫌だぞ、あんな連中と追いかけっこするのは。」
無残な死体から牙を取り出したシンとしては、もう勘弁してほしいのだ。
他の5人も走り疲れたらしい。
シンの堪忍袋の緒が切れたらしい。目付きが変わった。
鎗を両手に持ったブラスト形態に姿を変える。
「……古より伝わりし浄化の炎よ……消し飛べ! エンシェントノヴァ!」
苛立ち紛れにシンはエンシェントノヴァを炸裂させてみた。
しかし、この程度の火力で焼けるような毒草ではない。それがシンの癇に障ったらしい。
「……古より伝わりし浄化の炎よ……消し飛べ!! エンシェントノヴァ!」
「うわあ……『消し飛べ』にアクセントつけちゃったよ、シン……。」
「馬鹿の一つ覚えだな。」
カイルとジューダスはそう評した。
だが、どうやらこの苛立ちでシンのSEEDが覚醒したらしい。
「我が呼びかけに応えよ! 我が乗機よ! 我が前に来たれ!」
ブラストインパルスを召喚してしまった。たかが毒草ごときにむきになるシンも大人気ない。
「これがシンの具現結晶……こんなの見たことないわ。」
「おそらくはシン特有のものなのだろうな。」
リアラとジューダスはシンの背後に現れた、巨大なモビルスーツを感心したように見ている。
「っていうかお前ら! 毒草相手に具現結晶使ってることにツッコミは入れないのかよ!」
どうやら、ロニのツッコミは誰にも聞こえないらしい。
当のシンはというと、さらにブラストインパルスに攻撃の命令を下していた。
「我が前の敵を全て打ち砕け! 爆砕せし蛍! 地を駆け抜けしノアの洪水! 貪り尽くす地獄の番犬!」
ビームライフル、ミサイル、レールガン、高出力ビーム砲と、順次攻撃が炸裂する度に毒草が消し飛んでいく。最早密林そのものを破壊しかねない勢いだ。
「……よし、これで道は開けたぞ。……皆、どうしたんだ?」
「お前なあ、そんなに破壊力のある技使えるなら先に言え! あの犬と追いかけっこして、走らされて疲れてんだよ!」
ロニのヘッドロックがシンの頭に決まった。
ぎりぎりと締め付けられ、シンはしばらくの間ダウンすることになった。
「ぐう……結構痛いって……!」

 
 

シンが立ち直ったところで一行はドーム状の建物へと向かった。
ヴァンジェロによく似た構造の建築物だ。
ただ、ヴァンジェロの壁面が青かったのに対して、このドームは赤い。
「入り口はどこだろう?」
「多分これだな。ここの名前は……『紅蓮都市スペランツァ』だそうだ。」
ジューダスはそう言い、入り口にあるスイッチを押して反応を待った。
スペランツァとはイタリア語で「希望」を意味する言葉である。シンにイタリア語がわかったなら、都市の名前にしては大層な名前だ、と思うだろう。
『生体認識、コードグリーン。ロック、解除されました。』
またこの合成音声だ。そして、エアロックのような構造や薬品の霧を吹き付けるシステムも全く同じだ。ヴァンジェロと比較しても、色以外はそう変わらないのではないかと思った。
「二重扉に薬品の噴霧……この念の入りようは呆れてくるぜ。」
ロニのぼやきは尤もなものだ。
ここまで徹底しなくてはならない理由がかつてはあったのかも知れないが、シンたちには必要のないものだ。
その上、これはエルレインによって作られたものだ。それもあまりいい気分はしない。
しかし、ヴァンジェロも勿論だが、ここの住人は平和に暮らしている。
穏やかに話をし、閉じ込められながらも幸せを噛み締めているらしい。
「みんな、幸せそう……。」
リアラはそう言った。それは確かに事実なのだろう。
「幸せか。エルレインが作り上げた箱庭の中で、ではあるがな。」
「箱庭の中の幸せか。ジューダスもうまく表現したもんだね。」
そうなのだ。ヴァンジェロといい、スペランツァといい、エルレインが作り上げた世界の中で暮らし、外の世界には目を向けようともしない。まさしく箱庭の住人だ。
それで幸せなのは結構な話だが、しかし、彼らは元々あった世界を知っている。
政策や生活する上での矛盾もあったし、悩みもあった。
しかし、外を歩くことはできた。世界のことをそれなりに知ることもできた。
この状況をそのまま放置するわけにはいかないのだ。
とはいえ、シンはそれについて言うことはできなかった。
前述のとおり、シンは10年後の自分から聞いた情報を基にして未来を変えたことを、ずっと負い目に感じているのだ。
シンは黙ったままだった。いや、黙らざるを得なかった。
「とにかく、地図を探そう。ここにあるかもしれない。」
ジューダスの言葉に頷いた5人は、スペランツァの中を歩き回る。そして、それを見つけた。
「映写機か何かみたいだな。ちょっといじってみるか。」
ロニが指し示したそれは、確かに映写機のように見える。
ボタンもいくつかあり、ジューダスが操作してみた。
映写機から光が放たれ、宙に浮いた映像、ホログラフィだった。
そのホログラフィが映していたのは、カイルたちがよく知る世界地図だった。
シンは手持ちの世界地図を取り出し、比較してみる。
ベルクラントで吹き飛ばされた痕跡の位置は違うが、どうやら同じ地図らしい。
「山も川も、あたしたちが知ってる位置にある……。」
「これではっきりしたな。間違いなくここは僕たちがいた世界だ。そして、やはりエルレインによって歴史が歪められているんだろう。」
「でもよ、街の位置や名前は全然違うぜ。クレスタもアイグレッテもハイデルベルグもない。」
確かに、そんな名前は表示されていない。
表示されている名前はたった三つだ。「蒼天都市ヴァンジェロ」「紅蓮都市スペランツァ」「黄昏都市レアルタ」。これだけだ。
シンは、中央大陸以外はどうだろうかと他の部分も確認した。
しかし、手持ちの地図にある名前、リーネもノイシュタットもチェリクもカルビオラも、アクアヴェイルにあるはずのトウケイもモリュウもない。
手持ちの地図とホログラフィとして映し出された地図に書かれた都市の名前など、一つとして一致しなかった。
「天地戦争が終結してから、国家や都市の再構築がなされたはずだ。しかし、どうやらこの世界ではそれが行われていないらしい。」
「どういうこと? ジューダス。俺には何がなんだか……。」
カイルは首を捻りながら唸る。
ジューダスは内容の詳細を語った。
「ヴァンジェロもこのスペランツァも、そしてもう一つこの地図にある都市、レアルタも天地戦争時代以前に存在した都市の名前だ。天地戦争が終わったところで名前や位置が変わったはずなのに、ここでは全く変わっていない。」
1000年も前の地名と都市の位置をどうして知っているのかはわからない。
だが、ジューダスの歴史に関する知識は桁外れなので、それについては深く追求する気はなかった。
「じゃあ、エルレインは天地戦争時代に何かしたのか? だってよ、天地戦争が終わってから弄くったとしてもだ、わざわざ昔の地名つける必要はねえじゃねえか。」
「僕もそう思う。それに、ラディスロウの残骸が墜落していたということは、おそらくは……。」
「地上軍は敗北した、というか、エルレインによって敗北させたってところだな。けど、これも推測の域を出てねえ。せめて歪められた歴史を知ることが出来ればなあ。」
その後、6人はそれらしい施設がないか確認したが、どこにも見つからなかった。
さらに、シンはソーサラースコープを使ってあちこちを調べてみたが、全く見つからない。
「このスペランツァにはない、ということか。ならば残る手がかりはレアルタということになるな。」
レアルタはカイルたちが生きた歴史の流れの中では、ハイデルベルグに相当する。
勿論ハイデルベルグと同じ位置だからといって即、それが情報源になるとは限らない。
しかし、スペランツァから陸路で向える、そして手掛かりが残されている可能性のある都市はもうレアルタしか残されていない。
「よし、皆、行こう、レアルタへ!」
カイルは努めて明るく言ったのだろうが、どこかに決意のようなものが窺える。
英雄になりたい、という思いだけではなくなった。本当の英雄に近づいている。
シンにはそれが頼もしくもあり、同時に辛くもあった。
シンは負い目から、自分では決められなくなってしまっていた。
決断の責をカイルに押し付けてしまうかも知れない。それシンには怖かった。
しかし、今は前進するしかない。シンはそう思った。

 
 

またもやスペランツァの外で野宿をし、疲れを癒した一行はレアルタへと向うことにした。
スペランツァからレアルタまでの道は、本来の歴史でのファンダリアの国土が大部分なだけに、雪が降り積もって険しい道のりだった。
一歩踏み出すたびに足が雪に深々と突き刺さり身動きができなくなる。
「う、歩きにくい……。」
歩きにくいからと飛行能力を使いすぎると後で疲れ果ててしまうので、シンは控えることにした。
雪に突き刺さった足を無理矢理前に押し出し、雪原を抉るようにして進むしかなさそうだ。
それだけならまだいい。レアルタに近づくにつれ、吹雪が強くなり始めた。
シンは断熱服を着ているから問題ない。ジューダスは見たところ平気のようだ。
カイル、ロニ、リアラはスノーフリアで購入した防寒具を用意している。
問題はナナリーだが、彼女はスペランツァから出てすぐにモンスターを狩って毛皮を剥ぎ取り、簡単なコートを設えてしまった。
ジューダスを除く全員が感心していたが、ナナリーは「このくらいできないとホープタウンじゃ生活できないからさ。毛皮だって買い取ってもらうためにはちゃんと剥ぎ取れないとね。」と応えた。
しかし、スペランツァからレアルタまではかなり距離がある。
どこかで休める場所を探さないと、凍死することになる。
「だが、こんなところに休める場所はないだろう。どこかで雪を掘って、その中で休憩するしかない。」
そうは言っても掘る道具はない。
少しでもレアルタに近づくようにしなくてはならない。
しかし、雪のせいで数日かかる道のりであることも確かなのだ。
「このまま凍死なんて俺は嫌だぞ……。」
シンは白い息を吐き出しながら呟く。そのシンの赤い瞳にあるものが写った。山肌に開いた洞穴だ。
「た、助かりそうだな……。」
「やれやれ、今日はあそこで休憩か。いいけど焚き火しとかないと死ねるぞ、この気温。」
ロニのぼやきを聞き、シンは周囲を見回した。
丁度良さそうな枯れ木がある。高さは3メートルもないだろう。
これならソード形態で運ぶことが出来そうだ。
「そこの枯れ木から薪を調達しよう。俺一人で何とかなるかな。」
斬衝刃を放ち、根元から破壊する。彼は剣を放り出し、倒れた枯れ木の幹を直接抱えた。
「ちょ、ちょっと重いかも知れない……。」
その上足場は安定しない雪原だ。
ロニも手伝ってはくれたが、それほど負担を軽減してくれはしなかった。
というよりも無理なのだろう。
「重いって……どうすりゃそんなもん持てるんだよ。」
「さあ、どうしてだろうか?」
至近距離ならともかく、1.5メートルも離れてしまうと重力軽減の効果が薄れてしまうからだ。
その上、それだけ近づくとモーメントの問題から、二人で持つ意味がなくなる。
どうしようもないらしい。結局は幹の中央部を肩に乗せることにした。
丁度バズーカを構えるような感じだ。
何とか洞穴に木を運び込み、ロニがそれをハルバードで適当な大きさにしてくれた。
そして、それを薪にして燃やした。
ほっとするような暖かい熱に誘われ、6人は座り込んだ。
6人中4人はすぐに倒れこんで寝てしまった。
起きている二人というのはシンとリアラだった。
どちらかと言えば珍しい組み合わせだが、丁度いい。
起きているなら、少し話し相手になってくれるかも知れない。
「眠れないのか、リアラ。」
「うん、ちょっと考え事。」
「俺も考え事があってさ、眠る気になれないんだ。」
しかし、お互いに自分が思っていることを言い出す気分にはなれなかったらしい。
それとは関係のないことをリアラは口にした。
「ねえ、シン。シンはどうしてあの戦う力を使えるの?」
「どうしてかは俺もわからないよ。フォルトゥナが俺のために調整した力だからじゃないか。」
「そうじゃなくて、狂気に取り憑かれるの、わかってて使ってるでしょ。怖くならない?」
シンは少々表情を曇らせ、そして重い口を開いた。
「……怖いよ。でも、俺が今持ってる力はこれしかない。そりゃ、ちゃんとした力はほしいさ。けど、それを手にするのには時間がかかるし、悠長なこと言ってたら守れるものも守れないから。」
「守りたい、もの?」
「今の俺が一番守りたいのは、ここにいる仲間全員だよ。カイルも、ロニも、ジューダスも、ナナリーも、それにリアラも。」
「……うん。」
それはわかる。
リアラはカイルが自分の英雄だとわかってからカイルから離れようとしなかったが、カイルだけが大切なのではない。全員大切だ。
大切だと思える比重が大きいのがカイルに少々偏っているだけである。
「大事だと思うものを守りたいと思うのは、多分普通の感覚なんだと俺は思う。けど、俺の場合はちょっとその考え方が強すぎるらしいんだ。」
「どういうこと?」
「俺が守りたいものは次から次へと奪い去られていった。だから、それが苦しいから余計に守りたくなる。その繰り返しのせいで、多分守りたいって思いが強くなりすぎてるんだ、きっと。必要ないときでも……。」
ステラを守りたいと思ったのもそれだろう。
彼女の行動や雰囲気そのものが保護欲をかきたてるところがあった。
シンの場合はそれに加えて、家族、特に妹を亡くしてしまっていた。
こうなると守りたいものの範囲が「自分よりやや年下気味の雰囲気を持つ女の子全て」になってしまう。
代わりのものを守ることでかつての無念を癒そうとする、人間の無意識下における防衛反応の一つだ。
しかし、ステラはシンの目の前で殺された。
防衛反応が仇になり、さらに守りたい意識だけが肥大化してしまっている。
それがシンの現状だ。
「……。」
「これはいい傾向じゃないとは思う。でも、止められない。止めたくないんだ。これ以上失いたくないって思いの方が強いから。」
シンは思う。自分は失うことを恐れているのだと。
そして、彼らを守ることは自分の義務である、とも思っている。
彼は5人の仲間によって仲間だけの英雄と呼ばれている。
そして、それは彼らを守ることによって維持されるはずのものだ。
英雄の称号が惜しいわけではない。前述のように柄ではないのだ。
しかし、自分を英雄と称し、慕ってくれる。打算も何もない。純粋なものだ。
守りたいに決まっている。
「リアラ、またこの雪の中を歩くんだ。俺がまた火の番をしておくから寝ておいた方がいい。眠くなったらロニを起こすことにするから。」
「うん……シン、お休み。」
「お休み。」
色素が抜けきった赤い瞳が洞穴の入り口に向いた。
この色素のない目のお陰で闇の中をどこまでも見ることが出来るのだが、今は雪の帳を通して漆黒の闇だけが外を支配している。
シンは不安そうな溜息をついた。
彼はロニが解体してくれた薪を焚き火の中に放り込み、火を見つめた。
ちょっとした振動や風で揺らめく炎が、いくらかシンの心を満たしてくれた。
ふと、カイルを見遣る。どこまでも幸せそうな顔で寝ている。
相変わらず楽しい夢でも見ているのだろうか。
赤い目の少年は、カイルたちに出会ってから何度となく漏らした笑みを、その口元に浮かべた。

 
 
 
 

TIPS

 

称号
 SVTK
  スーパー・バイオレンス・ツッコミ・キング。
  クレイモアの面の部分をハリセン代わりに使用。
  しかし、これはいくらなんでも暴力的過ぎる……。
   攻撃+6.0 命中-3.0