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Fortune×Destiny_第25話

Last-modified: 2007-12-05 (水) 10:01:37

25 狂科学者ハロルド・ベルセリオス

 

一行は雪の中にいた。
どうやら元の世界でいうファンダリアからは動いていないのではないかと思われた。
「ここはどこだろう?」
シンは周囲を見回してみる。
何か大型の弓──バリスタと呼ばれる強力な設置式の弓だろう──が空に向って配置され、木製の塔、布で覆われた入り口などが見受けられる。
粗末ではあるが、軍事拠点の雰囲気がある。
「おそらくは地上軍拠点だろう。跡地だったところは確認しているが、元はこれだけしっかりした造りだったというわけだ。」
ジューダスの言葉を聞き、シンはあの跡地を思い返していた。確かにあのときよりは荒れていない。
1000年もの間、それなりの形を保ち続けていたのは、元が頑丈に造られていたからに相違ない。
「人がいないか探そう。まずは手掛かりを集める必要がある。」
「ちょっと待った。」
シンはジューダスを制止した。他の4人もシンの方を見る。
「なんだい、何かあるのかい?」
「ああ、俺たちはエルレインに夢を見せられてただろ。けど、順番に回っていったから全員が全員の分を把握できたわけじゃない。俺、ナナリーやジューダスのを見といて、自分のを見せないのは、何か卑怯だと思うからさ。」
彼は二人の記憶を見たが、自分のものを彼らに見せてはいない。申し訳ない気がしたのだ。
「特にジューダスなんか俺たちに記憶の中に入られたけど、誰のものも見てないし。不公平だと思ったから。」
「お互いに心の傷を見せ合うのか。別に僕は何とも思わんぞ。」
ロニはシンのしたいことがわかったらしい。
「いいじゃねえか。お互いに弱み見せ合ってよ、ここらで俺たちの団結を強めておこうじゃねえか。」
「俺も賛成! 俺とロニなんか、全員の見て回っただけで見せてないし。シンの言うとおり不公平だからね。」
「あたしも構わないよ。と言っても、あたしはジューダスに教えるだけになるけどね。」
どうやら問題なさそうだ。まずは言い出した本人から、とシンが口を開く。
「じゃあ、俺が見せられた夢の中身だけど、俺は俺が生まれ育った国で死んだ家族と守れなかった女の子のステラ、それから死んだ戦友と元の世界においてきた戦友と一緒に平和に暮らしている、という夢だったな。」
「平和、かあ……。守れなかった、とか、平和がほしいってことは戦争やってたわけだ。前にあんたが異世界から来たことは教えられてたけど、戦争ばっかりだったんだ、その世界。」
「ああ。その後カイルたちが来て、何とか記憶を取り戻したんだけど。まあ、家族が死ぬところとかステラが殺されるところとか、俺がどうしても止めたかった連中に負けるところの記憶を見せられて。それから……。」
「それから、どうした?」
「俺自身も気付かないうちに封印してた記憶なんだけど。俺はどうやらフォルトゥナによって作られたシン・アスカのコピーらしい。つまり、異世界から転移したわけじゃないんだ。」
ナナリーとジューダスが息を呑むのを感じた。かなり衝撃的な事実だからだ。
「……お前は随分とついてないやつだな。だが、僕はお前が何者であれ、チームに必要な人員だと考えている。気に病む必要はない。」
「ああ、気にしないつもりさ。俺が俺であること、俺が皆の仲間であることに変わりはないんだし。」
シンは笑いながらそう言った。心からの笑顔だった。無理に笑顔を見せているわけではない。
それは、シンの持つ仲間への思いがそのまま反映されている証拠でもある。
「あんたも大概ポジティブだねえ。カイルのは底抜けだけど、あんたのは逆境のときに発動するって感じだね。」
思い返してみれば、余程でない限りは完全に折れてしまったことはあまりない。
シンはそれを自分の意固地のせいだと思っていたが、物は言いようだ。
いい意味で捉えれば逆境に強いということになるのだろう。
「お前もカイルと同じだ。その逆境を跳ね返せる力があるからこそ、僕たちはここまで来られたはずだからな。」
「……ジューダス。それは買い被り過ぎだよ。さてと、俺が言えることは言ったと思う。次は……。」
シンが視線を彷徨わせると、カイルが軽く挙手した。
「あ、俺が。俺とロニは同じ夢を見せられてたんだ。中身は……うん、父さんが帰ってくる夢だった。もうちょっとで帰ってくるところだったんだけど。」
「そこで私がカイルのところに行ったの。そしたら、思い出してくれて。でも、その後……カイルが小さい頃に忘れてた記憶が戻ってきて。」
何かあるな、とシンは思った。
カイル、リアラに代わり、ロニが続けた。
「実はよ、シン。俺はカイルがあまりのショックで忘れてたみたいだったから黙ってたんだが……スタンさん、実はあのバルバトスに殺されてたんだ。」
「なっ……!」
「あの英雄スタンが!? それは本当なのかい、ロニ。」
「…………!」
シン、ナナリー、ジューダスがそれぞれの反応で驚きを見せる。
特にジューダスの驚きようは大きかった。
「ああ、昔あのインパクトのある顔見てたけど、もう十何年も前のことだからな。全く変わってねえあいつを見て、あの神殿でやりあったとき、あのときのあいつと結びつける事は出来なかった。」
無理もない。時間転移できることなど、リアラやエルレインと出会うまで知る由もなかったのだ。
いかに特徴あるバルバトスでも、それが存在しないと思っていれば、十数年前にスタンを殺した同一人物とは思えないだろう。
「けど、あの記憶見せられてはっきりしたぜ。やっぱりスタンさんをやったのはバルバトスだったんだ。」
そしてバルバトスはルーティにも怪我を負わせ、さらに現代でフィリアとウッドロウを襲った。英雄と呼ばれる者を狙い、殺そうとする。
余程の英雄嫌いなのだろうが、その動機がわからない。とはいえ、一つだけはっきりしてることがある。
「……敵討ち、しなきゃいけないな、カイル。俺も、手伝わせてほしい。それが、皆だけの英雄である、俺にできることだと思うから。」
「ああ、けど、俺は敵討ちというより、歴史を取り戻すために、そして父さんを越えるためにバルバトスやエルレインと戦うんだ。きっと、バルバトスを倒せたら、俺は父さんを越えられたと思うから。」
敵討ちは、要するに私怨でものを言うわけだ。冷静さを失わせる元になりかねない。それをカイルは示唆したのだ。
「お前にしては冷静な判断だ。スタンもそれを望むだろう。少なくとも僕はそう思う。」
むしろジューダスの方が敵討ちをしたかったらしい。
スタンを裏切ったとはいえ、仲間だった人間を殺されるのは、やはり気分のいいものではない。
しかし、その息子がそう言っている。自分如きが口出ししてはならない。ジューダスはそう思ったのだ。
「それじゃ、次はあたしの見たものだね。あたしはホープタウンで皆がしっかりご飯を食べられて、それで弟が生きてる夢だった。あたし、何だかんだ言ってて、結局弟のこと生きてたらいいなって思ってたみたい。」
ナナリーは、自分がバカだった、とでも言いたげに言葉を紡ぐ。
ジューダスはいつもの調子で、しかしどこか気遣うように言った。
「それは止むを得ないことだ。身内の死はそう簡単に割り切れるものではないからな。」
「うん、そうだね。でも、ロニが散々あたしが忘れかけてたこと、思い出させてくれたから。何とか立ち直れたんだけどね。」
ナナリーはそれで黙ってしまった。どうやら言うべきことは言ったという事だろう。
「それじゃあ、改めて人と情報を探しに行こうか。」
6人がいるのは拠点の外れのためか、人の気配がない。しかし、そこに何かが接近してくる。人間ではない。
浮遊するリングの中央に目玉がついたようなマシンだ。
「何だありゃ?」
「さてね……。」
保護者コンビもよくわからないらしい。謎のマシンの後ろから人がやってくる。相当に慌てているようだ。
「こら、待ちなさい! 待ちなさいってば!」
その声からすると、どうやら女のものらしい。よく目を凝らすと、近づいてくるのは確かに女だ。
妙に背が低く、童顔だがかなり色の濃いアイシャドーと口紅を使っており、無理矢理老け顔にしている感じがする。
色の薄い赤毛はかなりの癖毛らしくあちこちが撥ねている。
袖口に黒い毛皮のようなものをつけた、やや胸元が開いた服を身につけている。
異様に腰がくびれているように見えるのは、服自体がコルセットのような役割を果たしているからだろう。
ナナリーと同様、腰布を巻きつけており、大腿部の真ん中辺りまであるロングブーツはガーターか何かで吊っているらしい。
よくよく考えてみればどうにも妙なファッションであるが、1000年前の世界であることを考えるとこんなものなのだろう。
「こーらぁ! あんたのマスターはこのあたしなのよ、あたしの命令を聞きなさい!」

 
 

この言葉を聞く限り、この妙なマシンの開発か、もしくは運用に関わっている人物らしい。
よくよく見ないとわからないが、各所に小型のキャノンのようなものや、晶術を使用できるように加工されたレンズのようなものが見える。
つまり、軍用マシンだ。
その開発・運用に関わっているのなら地上軍関係者であることは間違いない。
ただ、彼女がそう見えないのが問題なのだが。
しかし、散々追い掛け回しているうちに、逆に追われ始めた。
どうも戦闘用AIを組み込んでいるマシンのようだが、反乱を起こしたらしい。
これが自動マシンの恐ろしいところだが、考えようによっては反乱を起こせるほどのマシンを開発した人間がいるということでもある。
その開発者は時代から鑑みてハロルド・ベルセリオス博士ではないか、そして彼女はその関係者ではないか、とシンは思った。
色々と考え事をしているうちに、マシンに追われた彼女がいつの間にかシンの背後に回りこんでいた。
「あれ? あんた、何してるんだ?」
「あれ、片付けちゃって!」
ハロルド博士の関係者と思われる女性は戦闘ロボットを指差して言った。
「なっ、何言ってんだいきなり!」
だが、その戦闘ロボットはシンたち6人を敵性対象と見なしたらしい。体の各所から炸薬弾を放った。
「ええい、面倒な!」
素早くシンはフォース形態をとり、さらに左手のサーベルを盾に変えて砲撃を受け止めた。
「…………!」
ジューダスはシンが形態を変えたことに対して興味をもったその女の様子が気になったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
彼もシャルティエを抜き払い、戦闘マシンに挑む。短剣と共に素早く突きを放ち、注意を自分に向けさせる。
その隙にナナリーが弓を引き絞り、カメラアイと思われる機体中央部に取り付けられた目に狙いをつけて矢を放った。
戦闘マシン、HRX-2型が今度はレンズのエネルギーを使って晶術を放った。ネガティブゲイトだ。
機械が晶術を使うなど、普通は想像できない。
襲い掛かろうとしたカイルとロニが、歪んだ空間に巻き込まれた。
「ぐっ!」
「ぬわっ!」
「カイル! ロニ!」
リアラは急ぎ回復晶術を詠唱し始める。
その間に彼女を攻撃されぬよう、ソード形態をとったシンはHRX-2型に向かい、大剣を振り下ろす。
「でやあああああ、地裂斬! 地裂鉄鎚!」
さらに、雪が邪魔をして難しいながらも地面を抉りながら斬り上げ、土砂と共に剣の面の部分を叩き付けた。
そこにジューダスが突っ込んでくる。
「月閃光! 散れ!」
光と闇の二つの刃がマシンのボディに炸裂する。
この素早い攻撃により、体の各所に設置されたキャノンが潰される。その間にリアラの詠唱が完了した。
「リザレクション!」
聖なる魔法陣が出現し、カイルとロニを纏めて回復した。体力を回復させた二人も攻撃に参加する。
「このっ!」
「一発食らえ!」
カイルとロニの斬撃が同時にHRX-2型に命中した。
これが決定打になったのか、このマシンは雪上に沈んだ。
「やれやれ、やっと片付いたか。あんた、大丈夫か?」
だが、そのシンに地上軍に関係があると思われる女性は軽い蹴りを放った。
丁度弁慶の泣き所に当たり、彼はその場に倒れた。
「うっ……な、何だよいきなり!」
「あんた、あたしのHRX-2型壊したでしょ? だからお返し。」

 
 

わけがわからない。
自分で片付けろと言っておいて、それはあまりにも横暴だろう。
ロニの怒りが沸騰し、彼女に食ってかかる。
「無茶苦茶言ってんじゃねえよ、大体なあ!」
「言っとくけどHRX-2型は軍のものよ。この程度で済んだんだから感謝してよね。」
この女性が言うことが正しければ、間違いなく地上軍の関係者だ。
そして、エルレインの歴史改変を防ぐためには地上軍上層部と、それとなく接触する必要がある。
地上軍の女性から距離をおき、それを相談している間に、ジューダスはこう言った。
彼女はハロルド・ベルセリオス博士の関係者であり、その双子の兄のカーレル・ベルセリオスは地上軍の軍師だ。
故に、嫌でも何でもこの奇妙な女性と接触し、ハロルドと面会しなくてはならない。
しかし、その会話を聞きつけた女性は、さらに奇妙なことを言った。
「ん? さっきからあたしの名前が出てるけど。呼んだ?」
「呼んでねえよ! 大体、俺たちが話をしている中に女物の名前なんか出してねえっての。」
「そんなことないわよ? だってハロルド・ベルセリオスって言ったでしょ? それあたしの名前だもん。」
6人はぎょっとして彼女を見た。ハロルドといえば男の名前だ。
しかし、どう見てもこのハロルドを名乗る人物は女だ。
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
ロニの反応は当然のものだが、未だに信じられないジューダスは冷静に言い放った。
「お前がハロルドだと? そんなはずはない。」
「あんたがさっき使ってたの、シャルティエでしょ? 細身の曲刀で刃渡り67.3センチ、全長81.7センチ、重量は2.64キログラム。柄はシャルティエ自身の手に合わせて若干の膨らみを持たせてる。レリーフはジェルベ紋様。」
ソーディアンを知る者は多くても、この時代でこれだけ詳細なスペックを言える人物はそういないだろう。間違いなく開発者であるハロルドだ。
「でも、なんでまた男の名前なんだ? だってよ……。」
「男の名前にしておけば後世の人間騙せると思ったのよねえ。他にも23の理由があるけど。ふふふ、私の計算どおり!」
シンはこの会話で違和感を覚えた。まるでこれは。
「ハロルド博士。あんた、まさか俺たちが未来から来たこと知ってるのか?」
「そうよ。時空間のゆがみやあんたたちの言動、服装、それに猫の欠伸の仕方まで、48パターンの角度からそうじゃないかって思ったけど、やっぱり当たってたのね。ぎゅふ、ぎゅふふふふふふ……。」
何とも怪しい笑い方だ。こういうのをマッドサイエンティストとでも言うのであろう。
「さてと、あんたたちを兄貴に紹介したいけど、その前に、誰かあたしの実験台になってもらえない? そしたら会わせたげる。」
6人は表情を引きつらせた。先程のマシンといい、マッドサイエンティストぶりは凄まじいものがある。
下手をすれば解剖されるかもしれない。
というよりも、間違いなく解剖されると思っている。しかし。
「いいぜ、俺が実験台になる。ただ、仲間には妙なことしないでくれ。」
シンが名乗りを上げた。彼にも思惑がある。自分の体の構造を知っておきたいのだ。
フォルトゥナによって作り出されたコピーというからには、普通の人間とは違うのではないかと思ったのだ。
その上でハロルドの欲望を適当に満たし、さらに仲間を守ることが出来る。
シンにとっては何ら問題のない状況だ。
「それから、俺が死んだり、へんてこなマシンを埋め込んだり、俺が俺でなくなるような投薬はしないでくれよ。俺だって命は惜しいんだからな。」
ハロルドは目を輝かせ、シンを見た。
何か自分にとって一番興味があるものが手に入ったような、それもかなり子供っぽい表情だ。
「あんたの自己犠牲精神には感謝するわあ。だって、あたしが一番研究したかったのはあんたですもの。さ、ちょっと拠点の外にいらっしゃい。」
ハロルドは残る5人にこの場で待っているように告げ、シンを連れて拠点から少し離れたところにやってきた。
「あんた、もしかしてあたしをだしにしようとした?」
「よくわかったな、ハロルド博士。俺も自分自身のことを知らなきゃいけないからな。」
「とりあえず、博士はやめてよ。ハロルドでいいわよ。……あんた、自分の持ってるあの能力のこと、完全に把握してないわけ?」
シンは軽く頷く。それだけではないが、と思いながら。
「ああ、俺は仲間達を守りたい。そのためにこの力を使いこなさなきゃいけない。それにはやっぱり知らなきゃいけないと思うんだ。」
「ふーん、勤勉ねえ。それにあんたはどこか自分自身すらわかってないって感じもするのよねえ。」
天才とはよく言ったものである。こちらの考えていることが筒抜けだ。
元々目の色で感情を読み取られてしまうシンである。どうしようもない。
「あんたとしては、俺たちのしようとしていることを自分で当てたいって感じだからな、情報は出し渋らせてもらう。」
ハロルドは心から嬉しそう、というよりも無邪気に喜んでいる。
「んん、あんたもあたしのこと、よくわかってんじゃない。さてと、それじゃあんたの性能をチェックさせてもらうわ。」
つまり、シンの持つ形態変更能力を見たいと言っているのだ。確かに目を引くだろう。
武器を何もないところから出現させ、さらに形態別の戦闘能力を示すのだから。
シンは天上軍が派遣した自動殺人マシンを相手に、各形態で使用できる技や晶術を全て見せた。
秘奥義や具現結晶も隈なくだ。その度にSEEDを発動させなくてはならない。
「くっ……! 飛礫戈矛撃!」
「もっかいちゃんと秘奥義を見せなさい! こっちはデータ録ってるんだから!」
「うう……。」
シンのスタミナは無限ではない。コーディネイター故、少々人よりは持久力があるのだが、もう26体は破壊している。
この自動殺人マシン、メイガスはアラストルによく似ているが、ネガティブゲイトなどの晶術や火炎弾を放てる強力なものだ。
気を抜けば間違いなくダメージを受ける。その上、シンを襲うのは何も殺人マシンだけではない。強烈な狂気もシンの敵だ。
「ぐう……。」
破壊衝動を全てメイガスや、その兄弟機であるアヴェンジャーに向けているため、今は何とかなる。
しかし、このまま戦っていればハロルドに剣を向けるかも知れない。
「ハロルド、適当なところで戻らないと。俺はこの力を使うと狂気に取り憑かれてしまう。いつハロルドに襲い掛かるかわからない。」
シンはそう言った。ハロルドはそれをどうやら「性的な意味で」捉えたらしい。
「ん、そんときは本気で殺しにかかるから。覚えててくれればいいわよ。」
シンは「殺意を向ける」という意味で言ったのが伝わったと思ったらしい。
それが仇になった。

 
 

「う……きゅ、休憩させてくれ……。」
シンはふらふらになり、左手で額を擦っている。しかし、ハロルドはそんなことはお構いなしに声をかける。
「まだあんたのブラスト形態の具現結晶を完全に把握してないのよ。もうちょい頑張ってくんない?」
「死ぬ……何だこのスパルタ……。」
そう不平を漏らしても、シンの体はハロルドの言うとおりにブラスト形態をとる。
彼はハロルドの奴隷になっていないか、と思った。
「ほい、んじゃあのメイガス潰してね。」
ハロルドが指を指した自動殺人マシンに対し、シンは上級晶術の詠唱を開始する。
「……古より伝わりし浄化の炎よ……消し飛べ! エンシェントノヴァ!」
火柱と共に爆炎が発生し、その一撃だけでメイガスは本当に「消し飛んだ」。
「一撃で消し飛ばしちゃったら具現結晶出せないじゃない。調整できないわけ?」
「俺の技量じゃ……。」
「適当に場所ずらすとか。」
「爆風で飛んでしまう。それじゃ具現結晶をだすことはできない……。」
「不便ねえ……。」
シンは目眩がしてきた。ふらふらする。
それに、先程から狂気が頭の中で渦を巻き、ハロルドを殺しかねないほどの破壊衝動が全身に満ちている。
「……駄目だ……もう……。」
ブラスト形態が解けた。狂気が頭から消え去る。殺人衝動がなくなっただけで十分だ。
しかし、最早持久力は限界に達していた。
そんなシンにハロルドが近づいてくる。
「うーん、あんたの根性もなかなかのもんよ。普通の人間の数倍はあるわね。ふんふん。」
どうやら持久力についても測定していたらしい。
どこまで実験データを取るつもりだ、とシンが思ったその矢先、彼のブーツが雪を噛み過ぎたのか、スリップした。
「あっ……まっ……!」
彼は倒れまいと無意識の内に右手を伸ばしていた。その先にあったのは。
「あ……。」
「あっ……ハロ、ハロルド、ごめん!」
シンはハロルドの胸を掴んでいた。
その上、そのまま服を引っ張ったためにハロルドは、うつ伏せに倒れた自分の背中の上に乗っている。
「……さてと、襲っちゃったみたいねえ。」
「あ、いや、襲うってそういう意味じゃ……!」
ハロルドは問答無用とばかりに立ち上がり、詠唱を始めた。
「裁きの時来たれり、還れ虚無の彼方!」
「ほっ、本気か!?」
シンがまごついている間に、ハロルドは詠唱を完了させていた。
「エクセキューション!」
死刑執行の名を持つ闇の魔法陣がシンの足元に出現した。逃げる間もなかった。体力が根こそぎ奪い去られる。さらに。
「具現せよ精霊の結晶! ルナシェェェェェェェェェイド! 汚れなき断罪の意志、思い知れ! 刻み込め! ここに散れ!」
闇の具現結晶、ルナシェイドを呼び出した。あまりにも過剰な反応だ。
闇の晶術は総じて外傷をもたらさず、体力だけを奪い去ることが多い。このルナシェイドも同じである。
呼び出された闇の騎士によって滅多切りにされても切り傷一つつかなかったが、凄まじい闇の力で死ぬ一歩手前までダメージを受けている。
「ありゃ、とどめ刺しちゃったか。」
ハロルドはけろっとした顔でライフボトルを取り出し、彼の顔にかけた。
シンはゆっくりと目を開け、そしてハロルドから逃げようと手足をばたつかせる。
「もーなにもしないわよー。」
「い、いや、だって……。」
「よくよく考えてみたらあんたがあたしを『性的な意味で』襲うわけないもん。あんた、戦ってる最中無茶苦茶狂ってたし。殺人衝動の方言ってたんでしょ。」
ハロルドはどうやら自分の勘違いに気付いたらしい。
しかし、シンは攻撃を受けた衝撃からまだ立ち直れていない。
「そりゃそうだけど……。」
「今回は許してあげる。今度やったら次はソルブライトね。」
光属性の攻撃の耐性が極端に弱いことを知っているらしい。シンは想像しただけで身震いがした。
「も、もうしないよ、うん。」
「それから、あんたをあたしの助手にするわ。あんたは機械に詳しそうだし、いつでも実験対象にできるし。」
実験が一体何なのかが恐ろしくてたまらないが、自分のことを色々知りたい上に、仲間を実験対象にされても困る。
「あ……ああ、わかった。よろしく頼むよ、ハロルド。」
どうやら、天地戦争時代での歴史改変阻止は前途多難のようだった。

 
 
 
 

TIPS
称号
 ラッキースケベ
  意識しないのに何故かシンについて回る。
  ハロルド「次やったら本気で死んじゃうかもよ~。」
  シン「ごめんなさいごめんなさい、もうしません!」
   TP回復+1.0 TP軽減+1.5 回避-2.0