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Fortune×Destiny_第34話

Last-modified: 2007-12-02 (日) 16:51:02

34 カタコンベ

 

シンが起きたのは正午を過ぎてからだった。睡眠時間は7時間半摂れたらしく、頗る体調がいい。
「んー、よく寝た……。」
床で寝ていたようだが、ハロルドが毛布をかけてくれたらしい。彼女が何を考えているのかわからないが、こういう単純な気遣いがありがたい。
「どうせ方針はもう決まったんだろう……さっさと起きなきゃ……。」
まず間違いなく10年後に行くことになるはずだ。床で寝ていたせいで血行が悪くなったらしい。軽い柔軟体操をこなしてから部屋を出た。
「あ、おはようシン。」
カイルが部屋の前で待っていた。自分が起きるまで待ってくれていたようだ。
「ああ、すまない、待っててくれたんだ。」
「起きるまで寝かせとけってハロルドが言ってたから。ずっと監視してたんだって?」
「そうだよ。まだ眼が痛いけど、眠気の殆どは取れたから。」
シンは軽い伸びをしながら応える。彼はそのままジューダスを探して視線を彷徨わせた。
「ジューダス。」
「シン、今起きたそうだな。」
「……ああ。」
口を開き辛かった。ジューダスを傷つけたかもしれない。シンはそんな負い目を感じていた。
しかし、ジューダスはそれを予測していたようだ。
「お前の選択は正しい。戦力確保を第一に考えたのだろう?」
「あ……それはそうだが……配慮が欠けていたと思う。すまない。」
「問題ない。シャルのことは気にするな。お前の選択のお陰で、僕はどうやらお荷物にならずにすむようだ。少なくとも、大振りバカの二人よりはな。」
相変わらずの皮肉ぶりだが、シンは苦笑して受け流すことにした。二人のうちの一人は自分だろう。太刀筋の甘さくらいは自覚している。
だが、もう一人の「大振りバカ」は耐えられなかったらしい。
「ジューダス、お前な。シンだってあれこれ考えて、それでお前を傷つけたかもって心配してるんだろうが。それが大振りバカとか、ひでえじゃねえか。」
「僕はシンには感謝してる。……これでいいか? もう一人の大振りバカ。」
「なんだとてめえ!」
「止せよ、二人とも。」
結局シンがロニとジューダスの間に割って入り、どうにか押し留めた。
「で、ロニはあの斧を使うんだよな。」
「ああ、こいつを見てくれ。」
ロニが取り出したのはハルバードだった。ただし、斧の部分だけがバルバトスの斧に挿げ替えられている。
「俺ってやっぱハルバードでないと調子出ないからな。」
「ロニらしいな、その方が。」
明るい笑顔を見せたシンは顔を引き締め、全員の顔を見渡した。
「それで、これからやっぱり未来に行くんだよな?」
「そうね。私たちが一瞬見えた光景のこともあるし……。」
リアラが言ったのは、おそらくは空間が歪んだことで見えた、分岐した未来の光景だろう。
エルレインが何らかのアクションを起こし、別の未来が出来上がる。そして、分岐して発生した未来へと向かおうとしている。そんな状況だったからこそ見えたものだろう。
具体的に何なのかは聞いてみないことにはわからないのだが、大体の予想はつく。
「その見えた光景は……やっぱり破滅か?」

 
 

リアラと一緒にその光景を見たらしいカイルが応える。
「うん、ハイデルベルグ城が歪んで消えてく光景を、俺たちは見た。」
「間違いないな。それに、この世界の時間と空間もかなり歪んでる。歴史改変のし過ぎが原因だ。エルレインをこれ以上放置すれば空間自体の崩壊に繋がりかねない。」
フォルトゥナによって作り上げられたシンだからこそわかる。この神の力はどこまでも不自然な力だ。晶術とは比較にならないほど理から外れている。
レンズというエネルギーを要する点は同じだが、時間を操り歴史を変えてしまうなど、空間に対してかける負担が尋常ではない。
「そんな!」
「未来の光景が見えたってことがその証拠だ。そんなこと、普通は起きるわけがないんだ。俺たちの時間移動もできれば、これで終わりにした方がいいんだが。」
事態はより深刻だった。本当に、これで最後にしなくてはならない。しかし、そのためにはレンズが必要になる。
「あたしが持ってきた高密度レンズは残り一つだけだから、これは帰るときの予備ね。これは使えないわ。」
「じゃあ、俺のアロンダイトとジューダスのシャルティエ・フェイクを使うか?」
「それもやめといたほうがいいわ。ソーディアンほどのエネルギーならともかく、あんたたちのじゃ戦闘能力低下しちゃうじゃない。それに、天地戦争の頃から18年前に行ったときに使ったソーディアンは6本だったでしょ。」
「んじゃ、どうしろってんだよ、ハロルド。」
苛々してロニを制するように、ハロルドは右手の人差し指を立てながら口を開いた。
「あんたたちイクシフォスラー使ったのよね。だったらそのエネルギー使いましょ。あれならエネルギーもばっちりだし。」
しかし、ジューダスが首を横に振る。
「だが、イクシフォスラーがどこに墜落したか、わからないんだ。単に墜落しているだけならまだしも、時空の狭間にでも落下していれば……。」
「だーいじょうぶよ。自動帰還機能つけといたから。元あった場所に戻ってるはずよ。」
用意がいいにも程がある。しかし、ありがたいことには変わりない。一行は地上軍拠点跡地に向かうことにした。
リアラの転移能力を使うと、また時空が歪みそうだとシンが反対したので徒歩だ。これから大きく時空間を歪めることになる。少しでも負担は減らしておかねばなるまい。
その意志を仲間達も汲み取ってくれたらしい。ありがたい限りだ。
道中、ロニがこっそりとシンに話しかけた。
「ところでよ、シン。ハロルドと同じ部屋にずっと籠ってたけど、何もなかったとか言うなよ?」
やはり、とシンは思った。この手の話はロニの大好物だ。エルレインによって未来に飛ばされたとき、カイルとリアラが二人っきりになったことを知ったときも、似たようなことを二人に聞いていたのだが。
「別に何も。俺は俺で解析君2号と17時間にらめっこだったし、ハロルドはハロルドでシャルティエ・フェイク作ってたし。」
それは事実だ。ロニにこの手の疑いを持たれるだろう、ということは既にハロルドには伝えてあるのだが。
「なんだよ、つまらないな。」
「俺がつまらなかったから時間軸測定で見逃さなかったんだから。別にいいだろ。」
真面目な顔で返答するシンに、がっかりしたような視線を向けてロニが言う。
「そりゃそうだけどよ、何つーか色がないってのがなあ。」
こんな危険な旅を続けていると、そういうことがおきてもおかしくはない。心理学的にも間違いないらしい。
シンは「生命の危機による興奮を、性的な興奮と錯覚することが起こり得る。それにより、男女間の交流が発生することになる。」ということをアカデミーの心理学の授業で習っている。
こんなことをアカデミーで教える理由は、おそらく軍隊が命の遣り取りをする場であることを想定し、心理作用を知らせることで、自分にブレーキをかけろ、ということなのだろう。
しかし、この集団は別に軍隊ではないので、規律がどうと言う必要性はほとんどない。故に、シンはロニの発言が鬱陶しいとは思わなかった。これが当たり前なのだ。
「人の色恋沙汰に首を突っ込んだ挙句、嫉妬しそうなんだよな、ロニは。」
「ぐっ……あーあー、その通りだよ。ったく。」
地上軍拠点跡地が崖の下に見えた。シンはショートカットのためにとフォース形態をとり、一人ずつ順番に崖の下に仲間を運んだ。
地上軍拠点跡地のイクシフォスラー格納庫に到着した。イクシフォスラーは主人の帰りを待っていたかのように、その場に鎮座している。
「ほんとに戻ってる……ハロルドの技術は世界一、か?」
シンは呆れながらイクシフォスラーを見るしかなかった。しかし、ハロルドはそれが当たり前だと言わんばかりに彼を見る。
「ふふん、あたしの頭脳は神をも越えるって言ったでしょ。さ、リアラ。お願いね。干渉ポイントは特定しといたわ。あんたたちの時代で言えばカルビオラよ。」
リアラは軽く頷き、次いで深刻そうな瞳をカイルに向ける。
「わかったわ。皆、集まって。……カイル、お願いがあるの。」
「どうしたの、リアラ。」
「必ずエルレインを止めるって誓って。」
そんなの当たり前だ。カイルの眼はそう言っている。
「何言ってるんだよ、そんなの当たり前じゃないか。」
しかし、リアラは何かを心配するように言葉を紡ぐ。
「お願い、約束して。」
「わかった。必ずエルレインを止める。約束するよ。」
リアラにはここまで苦労をかけている。だから、彼女の望みを叶えたい。それがエルレインの阻止だというのなら望むところだ。
それがカイルの思いだった。
「ありがとう。それじゃ、皆、行くわ!」
一行は光に包まれて未来のカルビオラへと向かった。

 
 

カルビオラは相変わらず現実感のない場所だった。砂塵に覆われた場所にあるのにも関わらず、ごみ一つない。
「いい気分はしないな、ここは。」
シンは改変世界のドームの中の空気を思い出していた。あれほど作り物めいた場所は、そうはない。よく考えると、ここもあのドームに似ているのだ。
「エルレインはここにいるはずなんだが……。」
何故かいるはずの神官たちの姿がない。どこかへ引き上げたのだろうか。よくわからないが、足止めを食わずにすんだ。
「ねえ、シン。世界を破滅させるのって、やっぱりレンズを使った儀式みたいなのだよな? どこか広いとこ、それも地下空間とか、考えられない?」
珍しく鋭い意見を言うカイルに、シンは少々感心しながら返事をする。
「……そうだな。ここの大広間にはいなかったから、いるとすれば、やっぱり地下空間の方ってことになるかな。」
地下空間ということは、隠し通路が存在していることになる。それらしい入り口が堂々と存在しているとは考えにくかった。
「シン、あのレンズ保管庫はどうだ? あそこなら入り口を隠すのに適していると僕は思うのだが。」
レンズで覆われたあの場所なら、確かに容易に隠せよう。ジューダスの意見に頷いた一行は、レンズ保管庫へと足を向けた。
一面レンズで覆われていたレンズ保管庫は、既に空だった。時間転移に使用したということもあるが、おそらくは残るレンズを全てエルレインが持ち去ったのだろう。
「レンズを使って何をする気だ? レンズ単体で世界を滅ぼせるわけがないし……。」
レンズは生体エネルギーが結晶の殻の中に詰まっているものだ。単純にレンズを砕くだけではエネルギーが拡散する。晶術を使える人間を介したとしても、人間の方に限界がある。
ベルクラントのように、レンズのエネルギーを増幅する構造があれば可能かもしれないが、あんな大規模な破壊兵器を作るのは、いかにエルレインといえども時間がかかるはずだ。
時間をかけずにレンズのエネルギーだけで大規模な破壊をもたらす方法。そんなものがあるのかと、シンは考える。
「まさか……あれと同じことをするのか? いや、しかし……。」
馬鹿げている、と自分の考えを振り払った。
「皆、ここが入り口じゃないのかい? カーテンの先に階段があるよ。」
ナナリーが地下空間への入り口を見つけたらしい。行かねばならない。一行は決意を固め、先へと進んでいく。
徐々に空間が不気味な装飾と雰囲気に包まれたものへと変わっていく。どうやらカタコンベ、つまり地下墓地らしい。
聖地カルビオラは墓所でもある。神の下に埋葬され、転生して天国や豊かな家へと生まれ変わりたい。そう願った信者たちが棺の中で眠っているのだ。
しかし、この場所はそんな明るい願望より、もっと禍々しいものを感じる。それこそ死者の怨念を感じてもおかしくないほどに、瘴気に満ちている。
「何か、息苦しいね、ここ……。」
「ええ、不気味なところだわ……。」
自分達は所詮招かれざる客であり、生ける者だ。死せる者にとっては目障りであり、破壊対象である。各所の棺からレンズの力を得た死者が腐敗した姿で蘇り、一斉に7人に襲い掛かった。
「来たか! カイルは爆炎剣と閃光衝で対処! ロニは雷神招、ジューダスは月閃光だ! リアラ、ナナリー、ハロルドはエンシェントノヴァ! 俺も詠唱に回る!」
死者には火か光が効果的と相場が決まっている。シンには光属性が存在しないが、火なら使える。
しかも、デスティニー形態では具現結晶こそ使えないものの、ブラスト形態と同じくエンシェントノヴァを扱えるのだ。
「古より伝わりし浄化の炎よ……落ちよ! エンシェントノヴァ!」
「古より伝わりし浄化の炎よ……食らえ! エンシェントノヴァ!」
「古より伝わりし浄化の炎よ……消えろ! エンシェントノヴァ!」
リアラ、ナナリー、ハロルドの上級晶術が各所で炸裂する。微妙に詠唱が違うが、死に損ないの亡者には効果的であることには変わりない。
しかし、やはりシンだけは妙な迫力がある。背中から狂気が姿を変えた血光の翼を放っているのもあるが、その詠唱が主な原因だ。
「古より伝わりし浄化の炎よ……消し飛べ! エンシェントノヴァ!」
「落ちよ」「食らえ」「消えろ」に対してシンは「消し飛べ」である。
全体的にシンの戦闘時の口調はかなり乱暴だ。罵りはしないが、暴力的になってしまうらしい。
「シン、飛ばしすぎるな。カタコンベ自体を破壊してしまってはまずい。」
「ジューダス、わかってるって。ここからは接近戦に移るか!」
ジューダスの指摘を素直に受け入れ、エンシェントノヴァの爆風を耐え抜いた亡者に斬りかかる。
しかし、ここで彼は頭痛と願望の声に襲われた。以前に感じたものよりも規模が大きい。思わず左手で頭を抱えた。
「ぐ、っう……。」
他人の願望を聞かされるというのは心地よいものではない。エルレインしか実現できないものがほとんどなら尚更だ。
しかも彼は真面目な性格の持ち主だ。真面目といえば聞こえはいいが、受け流すということが下手である、ということでもある。
願望の声に引っ掛かりを覚えては苦しんでいる。シンにとっては一番厄介な力の代償だ。
さらに、苦しんでいるシンにヴァンパイアが向かってくる。
「まずい……!」
反撃に閃翔牙を放とうとアロンダイトを構えた。しかし、その前にヴァンパイアは火達磨になり、光で切り裂かれていた。
カイルの爆炎剣とジューダスの月閃光だった。
「また力の副作用か? シンは大変だな。俺たちがフォローするよ。」
「すまない……肝心なところで役に立てないな、俺は……。」
「構わん。それ以外のところでお前は十分役に立っている。」
止むを得ない。フォース形態に入れ替え、敵の攻撃を押し留めることにした。この形態は敵の行動を妨害するのに適している。
狂気は感じられない。制御と放出が効いているらしい。冷静に戦える。
結局1時間ほど戦うことになり、死者の大半を灰にして消し去った。

 
 

「バチ当たりなことしてるよな、俺たち。」
奥に向かって歩きながらカイルがぼやいた。確かに死体損壊など罰当たりもいいところだろう。しかし、シンが苦笑しながら応える。
「何言ってるんだよ、神様に喧嘩仕掛けてる時点で罰当たりだろ。何を今更ってところだな。」
「まあ、俺たちはずっと罰当たりなことばっかりしてるわけだしな。アタモニ神団が目をつけたレンズを奪おうとしたり、脱獄したり、ストレイライズ大神殿に忍び込んだり……。」
ロニに続けてシンが再び口を開く。その口調はふざけたものだ。
「カルビオラのレンズを奪ったり、ストレイライズ大神殿の護衛兵殺したりと、本当に罰当たりな集団だな。」
今度はハロルドがあっけらかんとした口調で言い放った。
「いいじゃない、人の生き方勝手にコントロールするような手合いだもん、罰当たりだって問題ないわ。」
「ま、俺たちがエルレイン相手に戦うときはこう言ってやるさ。『神にでも祈るんだな』ってな。」
「それはまた過激な皮肉だな、ロニ。だが、そういうのも悪くない。どうせ僕たちは神に刃向かう集団だ。それくらいの方がいいだろう。」
「ジューダスも過激だねえ。ま、あたしも同じ意見だよ。生きる意味なくさせることが救いだと勘違いしてるしね。」
「……絶対に、エルレインを止めないと……!」
リアラの思いつめたような言葉で、この会話は終わった。目の前に不気味な祭壇が姿を現したからだ。
「これは……転生の門、だな。地獄であるここに留まるか、天国に行くかの選択ってところだろう。」
アタモニ神団に所属していたロニが言う。彼だからこそ知っている。この手の話は散々聞かされているからだ。
「こっちの石版を見ろ。何か書いてあるぞ。」
ジューダスが指し示した石版は、祭壇がある部屋の入り口の、すぐ横にあった。

 
 

罰を受け、罪を償い、死を迎えて、闇に堕ちよ

 
 

「どういう意味だ、これは……。」
石版に張り付きながらシンが唸る。抽象的過ぎて理解できないらしい。
「ふんふん、謎解きってやつね。祭壇の四隅に蝋燭4つあるでしょ。それぞれが罰、罪、死、闇に対応してるのよ。順番に撃てばいいんじゃない?」
ハロルドが何でもなさそうに言い、シンからソーサラーリングを借り、罰、罪、死、闇の順に熱線を放った。しかし、何の変化も起きない。
「……何がおかしいのかしら? シン、もっかい石版調べてくんない? 文字が隠されてるかもしれないわ。」
見たところはそれしか書かれていない。しかし、よく目を凝らすと別の文字が書かれているようにも見える。
「かすれてて見えないな。ソーサラースコープで確認しようか。」
レンズ3枚を挿入し、眼鏡を合わせてスイッチを入れる。すると、擦れた文字が姿を現した。

 
 

闇に堕ち、罰を受け、罪を償い、死を迎えよ

 
 

「この表に見える文字はトラップというわけか。そして、これが本当の順番というわけだな。」
ジューダスが冷静に言葉を紡ぐ。しかし、問題は蝋燭の火をどうやって消すかだ。
「水かけたらまずいよなあ……。風も。」
シンがぼやいているのは晶術の話だ。確かにどちらの属性の晶術も問題がある。他の属性などもってのほかだ。
「んじゃ、シン。あんたが吹き消してきなさい。飛べるでしょ?」
「了解……。」
こういうときにだけシンは重宝される。地上軍拠点跡地に向かうときのショートカットといい今回のことといい、飛行能力を当てにされることが多い。
「まあ、役に立てるのはいいけどさ……。」
彼は灯った蝋燭に近づき、ふっと息を吹きかけて火を消した。
「それじゃ、撃つわよー。」
全ての火が消えたのを確認したハロルドは、闇、罰、罪、死の順に蝋燭に火を放つ。すると、石版が入り口を塞ぐようにスライドし、代わりに新たな通路が姿を現した。
「行こう!」
カイルの叫びが全員に火を点けた。7人は通路を疾走し、奥にいるであろうエルレインの許へと急ぐ。
しかし、大広間で彼らの前に立ちはだかったのは、シンたちも見知ったエルレインの部下、ガープだった。
「エルレインさまの崇高な理念……。」
陶酔したように語ろうとしたガープが言い終わる前に、シンはデスティニー形態をとり、斬りつけていた。
「黙れ! 何が崇高な理念だ、ふざけるんじゃない!」
「人の話を邪魔……。」
ざっくりと袈裟懸けに斬りつけられて尚、語ろうとしたガープに、今度は大上段から額に向けてアロンダイトを振り下ろした。
額から血を流してガープが倒れこむ。
「何が人の話の邪魔だ! 他人の都合も考えずにただ自分の理想だけを語るな!」
しかし、ガープはゆらりと立ち上がった。先程の剣戟が効いていないように。
「お前たちこそ、誰かの意志を背負っているのか? 誰かの意見を聞いてのことか?」
「聞いてはいない。ただな、俺たちは自分の意思で生きていこうとする人間を山ほど見てきた。お前達は彼らに絶望を与えることしかできない! だから討つ!」
「ならば是非もない。我らの救いで彼らを染めるまでのこと……。」
また最後まで言わせなかった。今度は胸にアロンダイトの突きを放って突き飛ばした。
「そいつは救いじゃない、支配だ!」
アロンダイトから闇が放たれ、背中のマントから狂気が姿を変えた血光の翼が放出される。凄まじい怒りがシンを満たしていた。
自分の色に全てを染めることは、正しく支配そのものだ。完全統制化の下の幸福など、幸福ではありえない。
だからと言って、全てが自由であってもならない。規律と自由のバランスが取れなくてはならないのだ。
かつて、シンの周囲には、どちらか一方に偏った人間ばかりだった。
しかし、カイルたちは均衡がそれなりに取れている。だから、彼は信じることにしたのだ。自分とカイルたち仲間を。
「ならば、私の手でお前達を葬り去ってやろう。それが救いとなろう……!」
ガープの体がふわりと浮いた。全身が鎧に覆われる。これがガープの本来の姿なのか、それとも力を得てこの姿をとっているのか。
シンにはわからなかったが、今の彼にはどちらでもよかった。ただわかっていることは一つだけ。ガープは討つべき敵だということだ。
「はああああああっ!」
ガープは飛行可能らしい。しかし、シンにとっては無関係である。彼は飛べるのだ。さらに、全長2.5メートルの大剣を完全に使いこなすためには空中にいる必要がある。
というのも、このサイズの剣を地上で振り下ろすと、間違いなく地面に突き刺さる。大上段から振り下ろす場合など、敵から離れなくてはならないのだ。
結果、薙ぎ斬りや斬り上げなど、剣に振り回されたり力が入れにくかったりと、効率の悪い戦闘になってしまう。
しかし、地面のない空中では好き放題振り下ろせる。さらに、今回の戦場となる場所は大広間だ。通路や天井の低い場所ならともかく、広い空間が存在するならばデスティニー形態はその真価を発揮できる。
「ぬうっ!」
シンの気迫の籠った一撃が、ガープを仰け反らせる。シンの脳内で願望の声が荒れ狂うが、逆にシンの怒りを増幅するだけだった。
激しい怒りが血光の翼へと昇華し、幾重にも残像が作り出される。

 
 

「皆は晶術で対応! 俺が抑える! ナナリーは弓で攻撃してくれ!」
大剣を振るっているはずなのに、見た目の速度は単なる長剣のものと変わらない。
切っ先の速度が尋常ではない。掠っただけでガープの鎧に傷がついていく。ガープはせめてもの反撃と、素早く詠唱する。
「やらせん! フォトンブレイズ!」
縛り上げるような炎が出現し、シンを襲う。だが、毛ほどの傷もつかなかった。体中を覆う闇が炎を弾き返したのだ。
「効くかああああああああ!」
逆に穿風牙と暴風抉空を放ち、ガープに攻撃を仕掛ける。しかし、穿風牙は効果があったというのに、暴風抉空は効いていないようだ。
「対晶術バリアみたいね、疲労したら使えなくなりそうだけど!」
ハロルドが叫んだのが聞こえる。ロニも続けて叫ぶ。
「ダメージ一点ならどんどんかましてくれ、シン!」
「わかった! ナナリー、援護を頼む!」
今回はシンとナナリーの対空コンビがメインになりそうだ。ナナリーの牙連閃がガープを足止めし、シンが闇の膜で盾を形成しながらガープを突き飛ばした。
次の瞬間、対晶術バリアが解除される。
「今だ! 晶術を使ってくれ!」
バリア解除を待ち、詠唱待機していたハロルドが晶術を解き放った。
「氷結は終焉、せめて刹那にて砕けよ! インブレイスエンド!」
巨大な氷の塊がガープの頭上に出現し、押し潰そうとのしかかる。その様はまるで大きなシャンデリアが落下するかのようだ。
「ぐぬぅ……!」
氷が砕け散り、破片が撒き散らされる。視界が開け切る前に、シンが突撃していた。
「でえやああああ!」
さらに激しさを増した大剣がガープに命中する。斬撃そのものは鎧で防げても、大剣が生み出す衝撃までは完全に防げない。
さらに、鎧の隙間を縫うようにナナリーが放った矢が突き刺さり、ガープを苛む。
「おのれ……滅せよ!」
額からパルスレーザーが放たれた。シンは残像を利用して直撃を免れたが、右頬に直線状の火傷が作られる。
「っちい!」
この程度で済むならいい方だ。直撃していれば体に焦げた穴が開いていたはずだ。
「なら、全力で叩き潰す!」
シンは全力で飛翔し、ガープの脳天に直接斬撃を炸裂させた。ガープの体が大広間の床に叩きつけられる。
「よっしゃ、今だ!」
狂戦士のハルバードを引っさげ、ロニが突撃してくる。起き上がる寸前のガープを狙い、斧頭を叩き付けた。ガープの動きが一時停止する。
「はっ、てっ、てっ! 蒼破刃! 逃がすか!」
さらに、そこに狙いを定めたカイルが剣から衝撃波を放ち、追撃に斬撃を加える。
ここまで、ガープに反撃らしいものは与えさせていない。本来なら、空中から攻撃を仕掛けることと対晶術バリアで攻撃手段を弓のみにさせるガープだ。しかし、飛行能力を持つシンの存在が、ガープの戦闘プランを破壊してしまった。
「エルレインさまのために……!」
ガープは足元から風を放ちながら突撃し、カイルとロニを弾き飛ばした。その言葉で、シンは完全に堪忍袋の緒が切れた。同時に知覚が一気に拡大した。SEEDが発動したのだ。
「何がエルレインさまのためだ! 黙れ、この狂信者がああああああ!」
血光の翼がさらに拡大し、幅100メートルはあろうかという大広間の端から端まで到達する。翼の大きさは怒りと狂気に比例する。シンの激しさがそのまま形となって現れている。
「はああああっ! 大爆掌!」

 
 

電光の如くガープに接近し、反撃する暇も与えずに兜に覆われたガープの顔を、赤く発光した左手で掴んで爆発を叩き込む。
いかにガープといえど、炎症を引き起こすこの攻撃が効かない、というわけにはいかない。シンと出会ったが運の尽きだ。戦闘における相性は最悪だ。
再び床に降りてきたガープに、今度はジューダスがシャルティエ・フェイクを引っ提げて斬りかかる。
「幻影刃! まだだ! 散れ! 魔人滅殺闇!」
斬りつけとすり抜け、幻影回帰によって再びすり抜けて戻ってくる。さらに、それに連係して軽い斬りつけと共にガープの足元に闇を生み出して下から吹きつけるように体力を奪う。
一連の動作が流れるようだ。シャルティエを喪ったダメージがなかったかのように戦っている。
ならば、自分も魅せる戦いをせねばなるまい。シンはそう思った。彼は素早くソード形態をとる。
「いくぞ! 影殺撃!」
アロンダイトを核にしたクレイモアによる斬りつけと同時に、黒い鎗がガープを襲う。しかし、シンは一切容赦しなかった。
ハイデルベルグでロニの阻んだのも、リアラが捕らえられたときの神殿護衛兵の指揮官もガープだった。飛行竜での妨害をしたのも彼だ。
赦すわけにはいかない。ブラスト形態に入れ替え、手にした鎗を構えて突きかかる。
「ふっ、はっ、くらえ!」
右手の鎗で突き、左手の鎗で払う。それに続けて右手の鎗を全力で振り下ろした。
「ぬぐぅ……!」
ガープが重いダメージに耐えかねて仰け反っている。シンはフォース形態に入れ替えた。
「まだまだ! 鏡影剣! 鏡影閃翔!」
左手のサーベルでガープの影を刺し貫き、身動きを封じて長剣形態のアロンダイトで斬る。ガープの全身を覆っていた鎧が罅だらけになっていく。
逃がしはしないとばかりに、飛翔力を使った突撃を受け、さらにガープの鎧が破損する。
「うおおおおおっ! 翔牙月影刃!」
シンの場合、各形態一つずつしか奥義を扱えないはずだが、このデスティニー形態だけは別だ。これは閃翔牙を発展させたもので、残像を生み出しながら大剣を構えて突撃するのは同じである。
しかし、さらにそのまま大剣を振り上げ、黒い三日月を生み出しながら振り下ろす。これだけでも十分すぎるのに、シンは秘奥義まで発動させた。
「夢幻の世界に惑いて滅びろ!」
彼はガープの周囲を円を描きながら飛び回り始めた。同時に残像がシンを象り、どこか幻のような8人のシンがガープの周りを飛びながら包囲するような光景が作り出される。
ガープは逃げようとして飛ぼうとするが、分身したシンはどこまでも同じような軌道を描きながらついてくる。
「八方! 幻月牙!」
おぼろげな姿の8人のシンが、一斉に大剣を振り下ろした。8方向から黒い三日月が生み出され、全てがダメージとしてガープに伝わる。同時に8人のシンは全て消え去った。
しかし、それで終わりではなかった。ガープの真上に、本体のシンがいつの間にか移動していた。彼は大剣形態のアロンダイトを逆手に持って、落下の勢いと飛翔力を使ってガープの脳天にアロンダイトの切っ先を炸裂させた。
ガープの兜が割れ、硬い床に叩き付けられた。
「ナナリー! 止めは任せた!」
ナナリーはシンが単独八連繋を炸裂させている間に晶術を詠唱していた。最早、対晶術バリアを張る暇すらないと判断したためだ。
「はいよ! バーンストライク!」
天井付近から飛来する火炎弾を、ガープはかわすことも受け止めることもできなかった。ナナリーはさらに秘奥義へと繋ぐ。
「あたしに任せな! 炎よ……潰す!」
ナナリーが有する唯一の秘奥義、ワイルドギースだ。
赤いエネルギーの矢が無数に発生し、尚も浮遊して反撃しようとしていたガープを滅多撃ちにして貫く。
エルレインの思想に染まり、狂信者と化した者の末路だった。
「さあ、行こう。エルレインを止めなければ。」
シンは感情をやや抑え気味にそう言い、黒い服を元の赤いものに戻し、奥へと歩を進めた。

 
 
 
 

TIPS

 翔牙月影刃 ショウガゲツエイジン 武器依存→闇
 八方幻月牙 ハッポウゲンゲツガ 闇→武器依存

 

称号
 バトルアーティスト
  4つの形態を純正個人八連繋に組み込んだ者に与えられる称号。
  戦闘中の形態変更は困難を極めるというのに……。
  あなたは芸術家です!
   攻撃-1.0 クリティカル+4.0 SP回復+0.5