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Fortune×Destiny_第36話

Last-modified: 2007-12-18 (火) 09:59:16

36 神のたまご

 

仲間たちはカイルの決意を聞かされ、全員腹をくくった。
「行くぞ皆、準備はいいか!?」
拳を握り締めて叫ぶカイル。
「おう!」
狂戦士のハルバードを引っさげたロニ。
「これで終わらせる……!」
固い決意を示すリアラ。
「いつでもいいよ!」
強い意志を全身から放出するナナリー。
「やつらの好きにはさせない!」
普段は見せない熱血さを発露させるジューダス。
「それじゃあ、はっしーん!」
ハロルドの号令の下、コックピットのシンはイクシフォスラーのエンジンを起動する。
「シン・アスカ、イクシフォスラー、行きます!」
この叫びは最後になるだろう。勝とうが負けようが、自分はここには戻ってこれまい。しかし、やらねばならない。
VTOL機能を起動し、安全な高度まで上昇する。そして、一気に加速した。
「15℃における音速に到達……対衝撃波バリア起動……地表との相対速度マッハ2、マッハ3……。」
常人が死なずにすむ加重限界は11Gだ。さらに、リアラやハロルドなどはそこまで耐えられまい。
レンズ式慣性力制御装置はあるのだが、これは航宙用エンジンの起動が発動条件になっているので今は使えない。
フルブーストをかければあっという間に大気圏を突破できるが、彼はあえて時間をかけて第二宇宙速度、気温15℃の音速換算でマッハ32.3を出すことにした。
強化されたイクシフォスラーの性能テストという意味合いもあるが、これが一番安全かつ確実だからだ。
「第一宇宙速度に到達……マッハ24、25、26、27、28、29、30……第二宇宙速度に到達、地球の重力圏から離脱……防塵バリア、対放射線バリア起動……気密正常。」
イクシフォスラーはカイルたちの惑星の重力を振り切り、宇宙空間へと足を踏み入れた。
「ここが宇宙か……うわ、体がふわふわする!」
「遠足じゃないんだぞ、バカカイル。」
「わかってるって!」
カイルとロニの相変わらずの遣り取りに苦笑しながら、シンはコ・パイロット席のジューダス、さらに自分の後ろの席にいるハロルドと次の段階について話し合う。
「……俺、何回かリアラの時空転移見てて気づいたんだけどさ。あれって慣性運動してる物体の運動エネルギー、0にしてないか?」
「そうね、してるわ。」
「エルレインも同じ方法で転移させるとするなら、高速移動中の彗星を転移させてもスピードが足りなくなるか。ということは、小惑星帯から選んだ天体を、僕たちの星との間に引力を発生させて……。」
この世界の太陽系にも、シンのいた世界のように小惑星帯がある。
ただし、この小惑星帯はレンズを含んだものもあり、天地戦争終結後、レンズの需要を見越して小惑星を牽引することも考えられたらしい。
しかし、レンズの恐ろしさを知っていた人々は、レンズの力を頼ろうとは思わなかった。
それに、牽引するだけの技術はまだなかった。
結局、レンズの技術はオベロン社が復活させるまで封印されていたのだ。
「そのほうが現実的ね、きっと。」
「それに、太陽を挟んだ反対側はありえないだろうな。太陽の重力に引き寄せられてそのまま蒸発しかねない。それに、引力を発生させたとしても、太陽と小惑星の重力で軌道描いてるわけだから、そっちの運動が完全に切り離せるわけじゃないし。」
「つまり、ちょっとした螺旋運動しながらあたしたちの惑星に向かうルートを描くってことでしょ。それに、レンズ含んだ小惑星はそんなにないわ。」
「その上、軌道を外れてる小惑星を探せばいいわけだし……。」
シンの言葉を聴きながら、ハロルドは解析君2号のキーを叩き、該当する小惑星がないか探し出す。
「……一つだけあったわ。小惑星グノーシスよ。質量はそれほど大きくないけど、レンズ含有率が極端に多いとされてるわ。あんなもんが衝突したら、確実に人類は絶滅ね。」
ハロルドが解析君2号でグノーシスの画像を呼び出す。籠のような構造の球体の中に、脈を打つように発光する球体が二つある。
「グノーシスの加速度は?」
「1メートル毎秒毎秒。既に結構な速度で動いてるから、あと12時間で落着するわね。レンズ破壊による阻止限界は残り9時間。」
グノーシスの構造上、内部のレンズを砕けばレンズのエネルギーは外へと放出される。
しかし、惑星に近づきすぎては漏れ出したエネルギーだけで惑星に影響を与えかねない。
この程度の加速度でも、放置すれば恐ろしい速度になる。それを計算した上での9時間だ。
だが、それでも太陽系外から飛来するものよりもスピードが極端に大きい。
グノーシスの密度が大きくないのが唯一の救いだろう。
ハロルドによれば、レンズさえ破壊すればばらばらに砕け散り、地表に与えるダメージはそれほど大きくなくなるそうだ。
「イクシフォスラーの航宙用エンジンの加速度考えると、グノーシスまではあれこれ作業して40分か。タイムリミットは8時間20分、ってことになるな。」
「大丈夫っしょ。あんたたちがいれば何とかなるわ。」
相変わらずのあっけらかんとした口調でハロルドは言う。シンはため息を吐きたくなったが、何とかするしかない。
「それじゃ、加速するからな、皆掴まっててくれ。」
航宙用エンジンを起動し、彼は目的の小惑星、グノーシスへと針路を向けて加速した。
「あ、そうだ。カイル、ロニ、ジューダス、ナナリー。あんたたちの武器も強化しとくわ。ほら、レンズのエネルギー増幅する鉱石あったっしょ。あれ、まだ残ってるから。」
「ベルクラントに使われていたというあれか。確かに、あの鉱石なくしてこのイクシフォスラーの出力はないだろうが……。」
「俺たちの武器がまた物騒になっちまうな。」
保護者コンビのぼやきは尤もだが、武器の強化は必要だ。しかも、40分で全て強化できるというのだからありがたい。
「あたしのも強化するのかい?」
「うん、ナナリーの弓はこの鉱石とレンズとベルセリウム使うから。レンズとベルセリウム連携させて張力コントロールして、矢の初速度を上げとくわ。それから、矢自体にも推進力を持たせる機構もつけて、少ない反作用で高出力にするから。」
「……あたしには難しすぎて何言ってるのかわかんないけど……でも、強化してくれるってのはありがたいね。お願いするよ。」
ハロルドはなにやら道具を取り出して、電撃を放ちながら4人の武器を改造していく。
カイルのピュアブライトやロニのハルバードにもレンズは使われている。鉱石の力を使えば十分強化できるのだ。
その間、イクシフォスラーを操縦するシンに、ロニが話しかける。それも、ロニの大好物の話だ。
「なあ、今度こそハロルドと何かあったんだろ? 朝帰りだったしなあ。」
「なっ……! 朝帰りだったのは騒音で夜中に起こすのはよくないと思ったからで……。」
ロニはにやけながら尚も言う。
「まあ、そいつも事実だろ。けど、それだけじゃねえか。さあ、質問に答えろ。何かあっただろ。あれか、お前が襲ったのか?」
「俺が襲うわけないだろ! ハロルドが無理やり実験とか言って……あ……。」
言ってしまった。それも、かなりの大声でだ。むきになったために、仲間全員に知られることになってしまった。
「……。」
「…………。」
「………………。」
「……………………。」
「…………………………?」
カイルだけは気づいていないらしいが、他の仲間は何が起きたか理解したようだ。
「な、何だよ、皆。その沈黙は!」
「シン。やっぱそうなんだな?」
からかうようなロニの視線が、シンの首筋を焼く。
「うう……。」
「いいじゃねえか。カイルとリアラはそりゃもうプラトニックだが、お前らみたいなのもありだろ。」
「だから! ……ああ、もう!」
顔を真っ赤にして風防ガラスの向こう側にある真空の空間に目を向けた。彼はそこで、あるものを見つけた。
「……ハロルド。あそこの発光してるの、あれがグノーシスか?」
わずかな光点でしかなかったが、進路の真正面にある脈動するような光が見える。
「そうね。あれが多分。まあ、神を孵化させるためのたまごにみたいなものよね、あれ。」
「神のたまご、か。」
本当なら、何らかの破壊力を持つエネルギー砲を使ってグノーシスごとエルレインを消し飛ばすのが確実なのだ。
だが、ベルクラント100発叩き込んでもレンズのコーティングのせいで外の殻は破壊できないだろうとハロルドは言った。
しかも、ベルクラントはチャージに時間がかかる。撃っている途中で地表に到達するだろう、とのことだ。
「さてと、全員分の武器の改造は終わり! ナナリー、あんたの弓、もう別物みたいになっちゃったけど。」
手渡された弓は、前と後ろにベルセリウムを含んだ合金のプレートが貼り付けられ、両側の弭(弓の末端部)に二つの中密度レンズが設置されている。
「こりゃすごいね。持っただけでわかるよ。」
「新しい名前も考えてあるのよ。その名もメテオストライク!」
「……ハロルド、洒落になってないよ?」
これから天体衝突を止めに行こうというのだ。それなのに「隕石の襲撃」とは縁起でもない名前である。
しかし、ハロルドは相変わらずの調子で言う。
「いーじゃない、毒をもって毒を制すって言うでしょ。」
「ハロルド、それは意味が違うと思うぞ……。」
コックピットからぼそりとシンが呟いた。
「いいからあんたは操縦に集中しなさい。」
「了解……。」
どこか不満そうな表情を押し隠し、シンは操縦桿を握りなおした。

 
 

7人の目の前に、巨大な天体が存在していた。グノーシスだ。
神のたまごとなったグノーシスは徐々に接近しているらしい。
しかし、相対速度をあわせて接近したため、見た目にはそうは見えない。
「早くすませないとな。」
シンは神のたまごの表面に接近し、アンカーを打ち込む照準装置を引き出した。
「どこかに入り口があると思うんだが……。あった!」
照準装置で覗き込むと、入り口らしき穴が見える。ハロルドがそれを見て、解析君2号のキーを叩いた。
「ふんふん、屈折率の違いからして、あそこには空気があるみたいね。気体流出防止のバリアが張ってあるみたいだけど。」
「ということは、対真空対放射線防御バリアは出るときだけか、必要になるのは。」
「そうね。それに、酸素供給システムもね。さあ、乗り込みましょ。」
アンカーの狙いを入り口から少し離れたところに付け、アンカーを射出した。
アンカーはシンが狙った場所に突き刺さり、神のたまごに固定された。
「さあ、皆。これで本当に最後にしよう。そして、神の支配から世界を解き放とう。」
カイルの言葉が全員に心に火を点けた。
ウインチで巻き上げられ、接地したところでハロルドは全員に先端部にボタンがひとつだけついた、掌に納まるくらいの棒を渡した。
「宇宙空間生命維持装置よ。これ起動してから外に出ること。いいわね?」
「わかった!」
イクシフォスラーについては、ハッチで気体流出防止バリアがあるので、エアロックがなくても問題ない。
しかし、一歩外は真空の海だ。
生命維持装置がなければ放射線で全身を焼かれるか、血液が沸騰しながら凍結するか、肺胞が破裂するかのどれかが待っている。
それを防ぐための装置だ。どうしても必要になるからとシンはハロルドに開発を要請しておいたのだ。
一行は神のたまごの表面に降り立った。いつものカイルなら飛び跳ねるところだが、今は真剣そのものらしい。
「よし、行こう!」
生命維持装置には、どうやら擬似重力発生装置もセットになっているらしい。
この程度の天体で、カイルたちの住んでいる惑星ほどの重力があるわけがない。
ただし、内部は違うらしい。
ハロルドが解析したところ、ハロルドが作り出したような擬似重力が内部にいる者にだけ作用するように作られているのだそうだ。
入り口は階段になっていた。7人は一気に結晶質の階段を駆け下りていき、最深部にいるであろうエルレインを目指す。
「もう維持装置切って大丈夫よ! この中の空気は何の問題もないわ!」
生命維持装置を解除したが、必要になる可能性も考えて全員懐に収めた。
「侵入者だ! 排除しろ!」
護衛兵がシンたちを見て叫ぶ。神のたまごに人員を連れてきたのかと最初は思った。だが、どうやら違うらしい。
額にレンズを貼り付けており、目つきも何かが違う。
「これは……エルレインが作り出した新しい人類とやらだな!」
「あんなのに取って代わられるの、少なくともあたしなら願い下げだわ!」
後から後からぞろぞろと出てくる。形態をとらないまま、シンはアロンダイトを振るって斬殺する。しかし、他の護衛兵には恐怖の色がない。
しかも、護衛兵は斃すと何故か砂へと姿を変えた。
「完全に防衛マシンだな、これは。気分はよくないが、このまま退くわけにはいかないな!」
自分も作られた存在とはいえ、それなりに自我がある。だが、目の前にいるのは人間の姿形と戦闘能力だけを備えた、人形のような存在だ。
気分が悪くなる。しかも、排除しなくては先に進めない。
「まとめて壊す! 穿風牙! ぶっ壊れろ!」
シンのアロンダイトの切っ先が風の槍を生み出し、さらにカマイタチを伴う暴風で、護衛兵を纏めて削り去る。
彼が攻撃を開始したのを見て、不気味に思いながらも、他の仲間達も一斉に攻撃を開始する。
「よし、俺たちも行こう! 爆炎剣! 燃えろ!」
「よっしゃ! 放墜鐘! さらにっ!」
「月閃光! 散れ!」
前衛3人組みがそれぞれの技を使い、一気に護衛兵を蹴散らす。
ここまで戦い抜いてきたという経験、戦いへの決意、そして、強化された武器、全てが噛み合い、すさまじい破壊力を生み出している。
「あたしも行くよ! 烈火閃! まだまだ! 墜陽閃!」
ナナリーは自分に接近しかけた兵士に火矢と、それに続けて矢を連射した。
発射された矢の勢いで兵士は吹き飛ばされ、さらに連射した追尾性のある矢は突き抜けて後方の敵にも命中する。
メテオストライクとはよく言ったものだ。どの武器の威力も尋常ではない。
「リアラ、一気に晶術で蹴散らしてくれ!」
大剣を振り回して敵兵をなぎ払いながらシンは言う。この数が相手では晶術で吹き飛ばすほうが効率がよいと判断したためだ。
「了解! 氷結は終焉、せめて刹那にて砕けよ! インブレイスエンド!」
さらにリアラは具現結晶を発動させる。
「我が呼びかけに応えよ! 静かなる意思、粛清の力に変えて!」
インブレイスエンドから連携して発動するのはアクアリムスだ。トライデントを手にした水の精が大波を作り出し、護衛兵の大群を押し流す。
「正義の心、我らに!」
敵兵の大半を消し去ったが、未だ800人を超す兵力が残されている。
しばらくリアラは動けまい。となると、とシンは考え、ハロルドの近くに行き、言う。
「ハロルド。エクセキューションを使ってくれ。」
「……あんた、大丈夫なわけ?」
「俺に向けて言わなきゃ大丈夫。今まで戦闘中にエクセキューションを一度も使わなかったの、そのせいだろう? けど、心配は要らない。俺も一緒に詠唱する。」
本来なら、ハロルドの主体属性である闇の上級晶術であれば最大威力を発揮できるはずなのだ。
しかし、それをこれまで敵対者相手の戦闘で使おうとしなかった。
それは、シンがハロルドのエクセキューションの直撃を受けたせいでトラウマになっていることを知っているからだ。
普段ならシンをからかったり、お仕置きに使ったりするこの言葉だが、命の遣り取りをする場では決して使わなかった。
シンを死なせたくない、傷つけさせたくない、という思いからだった。
どうやら、彼はそれをわかっていたらしい。
「あんたって人はもう……わかったわ。あんたも急いで詠唱しなさい。同時に唱えるわよ。」
「了解!」
ハロルドは杖を顔の前に構え、シンはアロンダイトを真っ直ぐ眼前に立てて詠唱を開始する。
「裁きの時来たれり、還れ虚無の彼方!」
シンもこの晶術は使用できる。全く同じタイミングで唱え、詠唱を完了させた。
「エクセキューション!」
兵士が集中している場所に二つの闇の魔法陣が発生し、一気に生気を奪い去る。
二つの魔法陣が出現した場所が、砂丘のようになった。
「よし、残りは接近戦で仕留める! リアラ! ハロルド! 二人は休憩しつつ警戒! 可能なら回復も頼む!」
「うん、ありがとう!」
「オッケーオッケー。気にせず暴れててねー。」
思わず彼は笑みをこぼす。シンは背中から血光を放ちながら残る敵兵に向かって突撃していく。
しかし、真っ先に敵兵と接触したのはカイルだった。
「散葉塵! はっ、てっ、てっ! 閃光衝! そこだ! 屠龍連撃破!」
素早い三連撃と、振り下ろし、薙ぎ払い、袈裟懸け斬りを繋ぐ。
それに続けて閃光を放つ突き上げと閃光の放射、素早い斬撃と斬り上げを炸裂させた。
ただでさえピュアブライトが強化されているというのに、これだけ叩き込むと一般兵士並みの能力しか与えられていない護衛兵に全く勝ち目はない。
あっという間に砂へと姿を変える。
連撃を終えて着地したカイルに、別の兵士が接近する。しかし。
「どぅるあああああああ!」
ロニが狂戦士のハルバードを振り回し、一撃で護衛兵を葬り去った。そのまま振り返りざまに別の兵士を蹴散らす。
「どーよ! カイル、きぃつけろよ?」
そのロニの頬を掠めてナナリーの放った矢が通り過ぎ、ロニに斬りかかろうとした護衛兵を屠った。
「あんたもだよ、まったく。」
「ナナリー、お前あぶねえだろ!」
「助けてやったのになんだい、その態度は!」
「お前たち、話をしている暇があると思っているのか。刻一刻と衝突までの時間は近づいているんだぞ。」
そう冷静に言い放つジューダスは、舞うようにシャルティエ・フェイクを操って次から次へと作られた護衛兵を砂へと変えていく。
結局、最初に飛び出したはずのシンは何もできなかった。自分の武器も強化されているというのに、面目が立たない。
「まあ、あんたは初っ端にぼんぼこ攻撃してたし。いいんじゃない?」
とはハロルドの言であるが。
「……こういうの、竜頭蛇尾っていうんじゃないのか……?」

 
 

護衛兵の大群を退けて奥へと進むと、鏡が張られた部屋にやってきた。足元には何かの魔法陣のようなものが描かれている。
「この鏡は……。」
シンが近づくと、そこに映し出されたのは過去の自分や怒り狂う自分、嘆く自分、恥ずかしがる自分など、いくつもの自分だった。
「ただの鏡じゃないな……。」
気分が悪くなったので、振り返って仲間の方を見る。リアラはこの鏡に心当たりがあるようだ。
「これは精神を映し出す鏡よ。ほら、皆エルレインに夢を見せられたことがあるでしょう? あれと同じものよ。」
「床に描かれているのはデリスエンブレムね。時空の歪みを正す紋章。」
ハロルドが床をつつきながら言う。そして、再び口を開いた。
「つまり、この中に精神世界が広がっていて、そこでデリスエンブレムを使って歪みを正せということでしょうね。」
「どこまで歪められているのかはわからないが、行くしかなさそうだな。」
ジューダスの言葉を皮切りに、7人は鏡の中へと飛び込んだ。
その先の部屋は、今まで何かの結晶と、渦を巻く空間で構成されたものだったのに対し、石造りでひんやりした場所だ。
「俺たち全員の記憶がごちゃ混ぜになった部屋、か。」
シンがふと目を向けた先には石版があった。彼はそれを読み、同時に怒りが沸騰した。

 
 

ハロルド・ベルセリオス:神を欺く異端の知識に染まりし者。故に断罪。
ナナリー・フレッチ:神の威光を否定する不信心者。故に断罪。
リオン・マグナス:神の恩を忘れし裏切り者。故に断罪。
ロニ・デュナミス:神への信仰を忘れた愚か者。故に断罪。
カイル・デュナミス:神に仇なす危険なる者。故に断罪。
シン・アスカ:神に作られながら神に刃向かう痴れ者。故に断罪。


 
 

「ふざけた真似を……。二度とこんな口を叩かせるか!」
シンはアロンダイトを手にし、全身を捻って渾身の一撃を石版に叩き付けた。石版は一瞬のうちに粉砕される。
「だったら、お前に挑戦状を一つ書いといてやる。」
彼は石造りの壁にアロンダイトでこう彫り付けた。

 
 

エルレイン:自分の思い通りにならないことに腹を立てて歴史を改変した、自己中心的で支配欲の強い馬鹿者。故に討つ。

 
 

「人のことごちゃごちゃ言う前に、自分の行動を省みろ!」
シンの怒りは仲間にも伝わった。猛然とシンが怒ったのは、自分に対して文句をつけられたことではなかった。
望まぬことを他人に押し付けるエルレインに、命と誇りをかけて戦う仲間が貶されたことが、シンには耐えられなかったのだ。
「……行こう。向こうに部屋があるらしい。」
7人は奥の部屋へと足を踏み入れた。円形の床にデリスエンブレムが描かれている。さらに、その先には5つの部屋がある。
しかも、デリスエンブレムと同じ輪郭を持った窪みが、少し離れた壁にある。
「5つの部屋に、それぞれ分割されたデリスエンブレムがあるってことだな。……でも、なんで5つなんだ? 多分、一つ一つが俺たちのメンバーに対応したもののはずだ。リアラにはこの手の幻術は通じないとしてもだ……。」
5つの部屋には5つの光景が映し出されている。オベロン社廃坑、トラッシュマウンテン、地上軍拠点跡地、ストレイライズ大神殿、ラグナ遺跡だ。
どうやらこの部屋には一人しか入れないらしい。
それぞれ対応するのはジューダス、ナナリー、ハロルド、ロニ、カイルだろう。しかし、幻術が通じるはずの自分に対応するものがない。
「どういうことだ……?」
シンが考えを巡らせている間に、どうやらハロルドを残してデリスエンブレムの欠片を取ってきたらしい。
「後はあたしだけか、でもちょっと面倒かも!」
欠片を取りにいった他のメンバーと違い、彼女は武器の攻撃力が高くない。しかも、破壊力のある晶術は詠唱に時間がかかる。
「しかも自動回復するし、このマシン!」
彼女が相手をしているのはインクイジターというマシンだ。
見た目はHRX-2型そっくりだが、どうやら回復システムを搭載しているらしく、かなり面倒なマシンだ。
「えいっ!」
ハロルドが力を込めて杖を振り下ろす。インクイジターの左腕に命中し、スパークした。
「残念ねー。せっかくくっついたのに、また砕けちゃった。」
余裕があるように見せかけているが、実際は一杯一杯なのだ。もう一度修復されては厄介だ。
ハロルドは反撃させる間を与えまいと、左手のナイフを抉り込むように切り払う。
「はっ!」
普段ならワイヤーのついたこのナイフを投げつけるのだが、投擲では確実にダメージを与えられないだろうと判断して、直接斬りかかったのだ。
しかし、ハロルドのナイフはうまく当たらなかった。逆にインクイジターのクローのついた右手で払われてしまう。
「わっ!」
危ういところで避けることができたが、これでは回復されてしまう。
「こうなったら……とうっ!」
ハロルドは杖で殴りかかり、まず一発命中させる。さらに、カメラアイのある中心部にナイフを突き立てた。
それでも飽き足らず、彼女はインクイジターをナイフで滅多刺しにする。
回復システムのコアの位置は大体わかっている。そこを狙ってナイフを突き立てている。
効率よく、確実なのかもしれないがシンは頬を引き攣らせてしまう。
インクイジターのオイルが、返り血のようにハロルドの顔に付着したせいもあるだろう。
少々目付きも危ないように、シンには見えた。
「どこかで見たような光景のような、初めて見る光景のような……。」
ほとんど抵抗力が失われたことを確認したハロルドは、バックステップを踏み、とどめにと晶術を詠唱する。
「古より伝わりし浄化の炎よ……消えろ! エンシェントノヴァ!」
火柱がインクイジターに直撃し、爆風へと姿を変える。インクイジターのボディが粉々に吹き飛んだ。
「ハロ、ハロルド。何か……物凄く怖かったんだけど。」
「んー? 別に誰か殺して高笑いしてるわけじゃないし、足の骨か頭の骨かどっちを先に砕くか聞いたわけでもないし。そんなに怖い?」
ハロルドは何らかの装置を使ってオイル汚れを消し去っていた。いつもどおりの姿に戻ってはいたが、シンの表情はまだ引き攣っていた。
「怖いものは怖い……。」
ハロルドはいつもの調子だが、シンの身震いが止まらない。
「あたしのエクセキューションの詠唱と比べたらどっちが怖い?」
「どっちもどっちだよ……。」
ハロルドが部屋の奥からデリスエンブレムの欠片を持ってきた。
5人が持ち寄ったパーツを壁の窪みに嵌め込む。これで道が開けるはずだった。
しかし、床に描かれたデリスエンブレムから、一人分の人影が現れた。
それはかつて、シンが守ると約束した相手であり、そして、守れなかった少女だった。
「ステラ……なんだってここに!?」
柔らかな金髪と菫色の瞳、そして愛らしく幼い顔立ちは、間違いなくステラのものだ。
部屋の光景が変化し、砕けたアスファルトと燃え盛る街並みが現れる。ステラの終焉の地、ベルリンだ。
目の前にいるステラは何も言わずにシンを睨み続けている。
「これは……俺の記憶の世界? まさか、もう一度ステラを殺すような真似をしなきゃいけないのか、俺は……!」
目の前にいるのは、おそらくあの護衛兵と同様に作り出された、それもシンの記憶をベースに作られたものだ。
だが、彼の心の奥にいる誰かが戦意を鈍らせる。戦いたくない、ステラを殺したくない、と。
「俺は……どうすればいいんだ……!?」
シンの悲しく苦しい戦いが、今また繰り返されようとしていた。

 
 
 
 

TIPS
称号
 宇宙経験者
  以前宇宙に住んでいた。
  宇宙の危険をよく知る凄いやつ!
   知性+3.0 詠唱速度+1.0 TP回復-0.5