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Fortune×Destiny_第38話

Last-modified: 2007-11-27 (火) 21:51:39

38 運命の輪の中で

 

7人の前に現れた光は人の姿へと変わっていく。光が収束し、その中から現れたのはカルビオラで一度だけ目にしたことのあるフォルトゥナだった。
「我が聖女リアラ。そして、シン・アスカ。残念ながらエルレインの目指した方法では全ての人々を幸せに導くことはできませんでした。今度はあなた達の番です。さあ、私にあなたたちの答えを聞かせてもらいましょう。」
エルレインとリアラを生み出し、シンを呼び出した存在、フォルトゥナ。彼女の行為に悪意はあるまい。エルレインですら悪意が感じられなかった。
しかも、フォルトゥナは人々の願望の思念の集合体である。人の願いが凝集した存在である以上、どんな形であれ楽になればそれでいいのだ。
しかし、それは人を堕落させる。堕落しては苦痛はなくとも幸せもあるまい。シンはそう思い、口を開く。
「まずはこのグノーシスを元の軌道に戻してほしい。できるか、フォルトゥナ。一応停止させたけど、そのうち、俺たちがいた惑星に命中するかもしれないからな。そうなったら救いも何もない。」
「いいでしょう、あなたの望むままに。」
フォルトゥナが力を解放し、グノーシスを本来の小惑星帯へと転移させた。
さすが神、としか言いようがない。
「他にすべきことは? さあ、あなたたち二人は結論を出したのでしょう?」
「ああ、出した。俺やあんたがすべきことは、もう何もないんだ。」
「どういう……ことですか?」
「人の歴史は神によって守られる必要はないってことだよ。消えろとまでは言わない。どこかで見守ってくれればいい。それに、手出しは無用だ。何とか人は人としてやっていけるってことがわかったからな。」
フォルトゥナの存在まで否定することは、シンにはできなかった。
フォルトゥナは人が幸せになりたいという願いから生まれた存在だ。
彼女を否定することは誰もが持つその思いを否定することになる。
自分にもそういう部分はある。故にできなかったのだ。
しかし、フォルトゥナにしてみれば、することがないということ自体が存在否定として捉えられてしまう。
彼女の立場からすれば、人に対して何らかの形で力を行使することが存在意義である。
そこまではシンにはわからなかったのだ。フォルトゥナはリアラへと視線を移す。
「……リアラ。あなたの結論はどうです?」
「私もシンと同じ意見です。私はカイルたちと一緒にここまで旅を続けてきました。その中でわかったんです。人は神がいなくても自分の力で未来を切り開いていける強さを持っているということを。」
「なんという……。あなたたち二人は人の手に全てを委ねるというのですか? それはあなたたちの存在を否定することになるのですよ?」
嘆くように語るフォルトゥナに、シンは感情を抑えて言う。
「俺たちが存在した意味はあった。俺は多くの仲間や強い意志を持つ人々に出会えた。そして、それをあんたに伝えることができた。神の力がなくても人は生きられると。それに、俺たちのことを思ってくれる人間にも出会えた。これ以上何が必要なんだ?」
続けてリアラも口を開いた。
「私たちが感じたこと、フォルトゥナにもわかってほしいの。人間がそれだけ素晴らしい存在だということを。」
しかし、フォルトゥナには二人の行動が自分への反乱だと捉えられたらしい。そして、人間全てに対しても絶望を抱いた。
「何故です!? 何故人の思いから生まれた私を他ならぬ人であるあなたたちが否定するのです!」
「待て、フォルトゥナ! 俺はあんたの存在まで否定してない! ただ存在することに理由なんかないはずだ!」
だが、シンの言葉が聞こえていないらしい。床が揺れた。グノーシスが再び加速して移動を始める。
「これは……まさか僕たちの惑星に向かって……!?」
「せっかく止めたって言うのにまた天体衝突の危機かよ!」
慌てる保護者コンビに応えるように、フォルトゥナは淡々と言った。
「安心なさい、この歴史は間違っていたのです。それが一度消え去って新たな歴史が始まるだけ……。1000年前にあなたたちの惑星に彗星が落ちた時に新たな歴史が始まったように。」

 
 

こうなったら是非もない。カイルは決然と叫ぶ。
「ふざけるな! 歴史はそんなに軽いものじゃない! 多くの人が生きて積み重ねてきた証が歴史だ! それを間違いの一言で済まされてたまるもんか! 俺は迷わない! 皆、フォルトゥナを斃そう!」
「俺たちは勝つ! 全ての支配から人を解き放つ!」
シンは血光の翼を放ち、全力でフォルトゥナに斬りかかる。フォルトゥナはそれを左腕で受け止めた。
「私が呼び出したというのに……お前は逆らうばかりか私に刃を向けるのですか!?」
「俺たちが出した結論が気に食わないからと、歴史を消し去るようなことをするからだ! 二度と同じことはさせない。そのために討つ!」
「私は私の力を行使することを前提に調べよと言ったのです。だというのに……。」
「その前提を覆した方がいいと、俺たちは結論を出した。あんたが力を行使するせいで人が苦しむ様も見てきた。俺はあんたの存在まで否定はしたくない。けどな、こうまでするなら存在否定せざるを得なくなるんだよ!」
人に絶望したからと、天体衝突を引き起こすのではエルレインと何の変わりもない。神といっても、結局は世界に追従すべき存在なのだ。その範囲を超え、歴史や人の存亡にまで手を伸ばす。
それは許されざる行為であり、断罪すべきものだ。
「あんたに作られた俺が、あんたを討つ! それだけだ!」
全力を振り絞り、彼はフォルトゥナを薙ぎ払う。フォルトゥナが弾かれ、さらに追撃を加える。
「大爆掌! 爆撃炎斬!」
左手でフォルトゥナに掴みかかって爆風を直撃させ、掴んだまま火を纏った大剣を叩き付けた。さらに技を繋ごうとシンは構える。しかし。
「食らえ! 翔牙月影……ぐはっ!」
大剣を構えて突撃しようとしたシンに、フォルトゥナは右腕を軽く振った。
たったそれだけでシンの体が宙を舞い、弾き飛ばされる。
「くっ……気をつけるんだ皆! フォルトゥナの力はただごとじゃないぞ! 多分、結界みたいなものがあるんだ!」
シンは最後に奥義を放つときに違和感を覚えていた。何かエネルギーが拡散していくような感じだ。
どう考えても結界があるとしか思えない。
「神を相手にしてるんだ、そのくらいの無茶は承知の上だ! いくぜ、どぅりゃあ!」
今度はロニがフォルトゥナに一撃を叩き込んだ。その重い一撃がフォルトゥナに命中したその瞬間に、ロニがシンと同じように弾かれる。
「これは……何なんだ!?」
「どけ!」
ジューダスがロニに代わって突撃する。ジューダスは真正面からではなく、フォルトゥナのやや左前から斬り込む。
「はっ、はっ、はっ! 幻影刃! そこだ!」
斬りつけとすり抜け、さらに戻りながら刺突を放つ。さらに戻った地点から奥義を放とうと身構えた。
「粉塵裂……うはっ!」
だが、二人と同じように左手で薙ぎ払われた。奥義を出す間もなく攻撃を受けてしまう。
「奥義から先が出せない! ナナリー!」
「わかってる! 牙連閃! まだまだ! 龍炎閃!」
ナナリーのメテオストライクから連射された矢は、フォルトゥナに届く前に放たれた火炎弾によって撃ち落された。さらに、龍の頭部のような炎も右手で払われてしまう。
「さすがに神とはよく言ったものだ。ダメージがまるで与えられない!」
ダメージを与えられないのでは斃すことはできない。
しかも、属性攻撃に対する耐性もかなりのものだろう、とシンは見当をつける。
「だったら直接斬る! 技に頼っていられるか!」
一般的な晶術によるダメージも当てにならない以上はどうしようもない。前衛4人が一斉に斬りかかりに行く。しかし、フォルトゥナが放った火炎弾で全員弾き飛ばされた。
「何て奴だ……攻撃というものを全く寄せ付けないとは……!」
「どうするよ、シン。俺たちじゃ勝てねえのかよ!?」
しかし、シンは少々残酷な笑みを見せた。何かを待っていたらしい。
「そろそろ時間だな。ハロルド、頼む!」
神のような桁外れの敵にはこれしかないだろうと、ハロルドはある禁術を詠唱していた。
究極の無属性晶術、クレイジーコメットだ。
「準備オッケー! クレイジーコメット!」
クレイジーコメットは回復晶術の「如何なる状況の傷をも生命力を活性化させることにより回復する」機構を攻撃に転用したものだ。
つまり、使い手の生命力を活性化し、それを増幅して攻撃力へと変化させている。
生命力そのものには属性が存在しないため、属性耐性を持つ敵には最大威力を発揮する。
ただし、詠唱から発動までには時間がかかるため、通常は前衛の支援なしには使用できない。
「あれに巻き込まれたらまずい! 皆は下がってるんだ! 俺は詠唱支援に回る!」
シンのものに限らず、使い手は晶術にある力を込めることができる。
その力とは、与えたダメージを吸収したり、精神力を消費してスタミナを回復したり、逆にスタミナを消費して精神力を回復したりと、多種多様だ。
晶術を介して自分や味方の体調をコントロールできる、ということだ。
彼の場合、自分の生命力や精神力を味方に分け与えたりもできる。所謂自己犠牲型というもので、シンの性格をそのまま表している。
ハロルドの禁術、クレイジーコメットは連続晶術の入り口に過ぎない。凄まじい破壊力の代償として支払われる精神力が持たないのが当たり前なのだ。
そこで、シンは自分の精神力を提供しようとしているのだ。
「行くぞ、ネガティブゲイト! 俺の力を使ってくれ、ハロルド!」
歪んだ暗黒の空間の出現とともにシンの精神力が体外へと放出され、味方全員に流れ込む。ハロルドの精神力が注ぎ足され、連続する禁術の発動を阻害する壁が全て取り払われた。
「あーりー。さらにっ、トゥインクルスター!」
目くるめく生命の光が放たれ、フォルトゥナのダメージを広げていく。だが、禁術はこれで終わりではない。
「さらにっ、ミックスマスター!」
凄まじい生命の光が放たれ、陽光を見つめた時に見える楕円形のようなものが連続してフォルトゥナを襲う。さすがに禁術は伊達ではない。そして、禁術最終段階が放たれた。
「さらにっ、プリンセスオブマーメイド!」
青白く渦を巻いた光がフォルトゥナを飲み込み、完膚なきまでに叩きのめす。
神やそれに準じる者を除けば、ハロルドのみが使える最強の晶術だ。この攻撃でフォルトゥナを守っていた結界が破壊される。
「今がチャンスだ、タイミングを逃すな!」
シンがフルブーストを使い、一気に間合いを詰める。残像を駆使し、フォルトゥナに狙いをつけさせない。
「ふっ、はっ、せいっ!」
今度は衝撃が吸収されるような感覚はない。確実に命中している。
しかし、精神力を削ったために技へと繋げない。已む無くカイルと交代する。
「すまない!」
「さっき回復に力を使ったんだ、仕方ないって! はっ、てっ、てっ!」
しかも、血光の翼を拡大し残像を生み出すフルブーストも使用している。怒りの感情を極限まで高めて翼に変えるのだから、スタミナも精神力も消費する。
その上、精神力の回復が遅い体質である以上はどうしようもない。
今はカイルの攻撃が途切れそうになった瞬間を狙って、フォルトゥナに斬りこむくらいしかできないだろう。
「爆炎剣! 燃えろ! 牙連蒼破刃!」
カイルが足元から吹き上げる火と火炎を纏った一撃、さらに連撃に加えて飛ぶ斬撃を叩き込む。そこに逃がしはしないと、シンが大剣を振るってダメージを与えていく。
「こんのおおおおおっ!」
シンの重い一撃がフォルトゥナに直撃し、床を滑るように後退させられる。しかし。
「無駄です……。」
フォルトゥナの背に白い翼が生じた。ふわりと浮き上がり、エネルギー弾がシンに向けて放たれる。だが、彼は極めて冷静に対処する。
「守れえええ!」
闇の膜が形成され、盾となって攻撃を防ぐ。さらに、シンも空中へと舞い上がり、フォルトゥナに向かっていく。
敵が空中にいるとなれば、同じように飛べる者でなくてはまともに攻撃できまい。しかも、単に空中から武器を振るって攻撃するならともかく、主体となる攻撃がエネルギー弾ではどうにもならない。
「はああああああっ!」
足場がないために破壊力が減殺されている。決定的なダメージを与えられない。
「くっ……!」
こうなったらフォルトゥナの動きを封じつつ、味方の晶術に頼らざるを得ない。攻撃し続けるしかない。
「俺が抑えられるのにも限界がある! ナナリーは援護射撃! 皆は晶術を頼む!」
しかし、攻撃の手が緩んだその隙に、フォルトゥナは素早く詠唱を完了させた。
「インブレイスエンド!」

 
 

シンの頭上に巨大なシャンデリアのような氷塊が出現し、彼を押し潰さんがために落下する。
シンは避けようとはせずに、あえて破壊する手段に出た。
「ちっ、穿風牙! ぶっ壊れろ!」
巨大な氷塊は風の槍と荒れ狂うカマイタチに切り刻まれた。妖しい輝きを放ちながら八方へと氷の破片が飛び散る。
次はフォルトゥナに攻撃を仕掛けなくてはならない。彼は視線を彷徨わせてフォルトゥナの姿を探した。
だが、フォルトゥナがシンの視界に入った瞬間、彼は目を見開いた。
「何であんなところに!」
フォルトゥナはいつの間にかハロルドの前に現れていた。ハロルドは詠唱中らしく、身動きが取れない。
「詠唱中くらい守んなさいよ!」
自分を慰めてくれたハロルド。自分に愛情を抱いてくれたハロルド。そのハロルドを傷つけさせるわけにはいかない。たとえ自分を作り出した存在であってもだ。
「フォルトゥナ! それだけは絶対に許さない! うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
フルブースト起動と同時に閃翔牙を繰り出し、フォルトゥナを突き飛ばす。さらに、シンのSEEDが覚醒する。
「逃がさない……! ふっ、はっ、せいっ!」
残像がシンの怒りの表情を増幅するかのように揺らめき、シンの動きとアロンダイトの太刀筋が読めなくなる。フォルトゥナはなす術もなくシンの三連撃を受けた。
「まだまだ! 大爆掌! 爆撃炎斬!」
左の掌が赤く輝き、フォルトゥナの右肩に接触した。炎症を引き起こす爆発が発生し、フォルトゥナを弾き飛ばす。シンは追撃に超高熱を発する剣を振り下ろしてダメージを増やす。
「今度は食らえ! 翔牙月影刃!」
再び巨大な剣を構えて突撃し、そのまま剣を振り上げて闇の三日月を生み出しながら振り下ろした。そして。
「夢幻の世界に惑いて滅びろ! 八方! 幻月牙!」
8つのシンの幻がフォルトゥナを取り囲み、一斉に大剣を振り下ろして闇の三日月でダメージを与える。
その瞬間に幻が全て消え去り、フォルトゥナの真上に移動したシンが剣を構えて落下の勢いを加えた突きをフォルトゥナの脳天に炸裂させた。
「まだまだ! はっ、はっ! 扇氷閃!」
シンの秘奥義を受けてふらつくフォルトゥナに、さらにナナリーが追い撃ちをかける。メテオストライクから放たれた矢がフォルトゥナの翼に刺さり、氷の矢が弧を描いて命中する。
しかし、彼らの攻撃はまだ続く。ハロルドの詠唱が完了した。
「裁きの時来たれり、還れ虚無の彼方! エクセキューション!」
暗黒の魔法陣が出現し、闇の力がフォルトゥナの力をそぎ落としていく。ついにフォルトゥナの翼が散り、着地した。
だが、この程度では斃れない。人の思念の集合体とはいえ、神であることに変わりはないのだ。
「エンシェントノヴァ!」
この攻撃からは逃れられなかった。7人全員が爆風で吹き飛ばされた。
「くっ……さすがに甘くない……。」
飛行能力は奪い去ったが、まだ力を隠し持っているはずだ。油断できない。シンは疲れた自分の体に鞭打ち、フォルトゥナに向かっていく。
「はああああっ!」
だが、巨大な剣がその動きを止めた。フォルトゥナはかざした左手でその攻撃を受け止めたのだ。
「なっ……!」
「これ以上は時間の無駄です。ラストヴァニッシャー!」
陰と陽のエネルギーの塊が7人の両脇に出現し、それが激突する。
凄まじいエネルギーが放たれ、7人全員を襲った。
「が……ぐああああああっ!」
このラストヴァニッシャーでは命こそ奪われることはないが、死ぬ寸前まで追い込まれる。このまま晶術の詠唱でもされたら一巻の終わりだ。
「……絶対に俺が全てを守りきってみせる! 誰もあんたに殺させない。殺されて……たまるものかああああああああああああ!」
一撃でも受けたらおしまいだというのに、あろうことかシンは血光を放ちながらフォルトゥナに向かっていく。
「でやああああああっ!」
渾身の一撃がフォルトゥナに命中し、彼女の体が宙を舞って弾き飛ばされた。荒い息遣いの中、シンはさらに向かっていく。
「絶対に……俺が……斃す!」
フルブーストを使う余裕などなかった。
普段と変わらぬ血光を放ちながらではあったが、それでもフォルトゥナにとっては信じがたい光景だった。
半殺しにすれば諦めるだろうと思っていた。次の一撃が掠りでもすれば終わりだというのに。
「何故お前はそこまで戦えるのです!?」
「俺が人間の心を持っているからだ!」
シンの性格における最大の特徴は、折れない心だ。そして、それは人間だからこそ持てるものなのだ。
本能に支配されている野生動物は自らの生命を保存するために、圧倒的に力の差がある敵には立ち向かうことはない。不屈の闘志を持てるのは理性を備えることができた人間だからこそだ。
「あんたは人間の思念から生まれたんだろうが、その人間のことを理解せずに救いを実行しようとした。それが全ての失敗の原点なんだよ!」
シンの紅の瞳が炎のように燃え上がる。黒い大剣が再びフォルトゥナを弾き飛ばした。
「あんた無茶しすぎよ! キュアー!」
ハロルドの回復晶術の詠唱が完了し、シンの体力が戻ってくる。怪我の大部分も消えた。
「リザレクション!」
リアラのリザレクションも発動し、全員の治療が完了する。ここからが本番だ。
「人の手に人の歴史を取り戻すんだ!」
疲労したシンに代わってカイルがフォルトゥナに向かっていき、ピュアブライトを振り下ろした。いかに神とはいえ、消耗しているのだ。強化されたピュアブライトの一撃を食い止めることはできなかった。
「うっ……。」
「まだだ! 閃光衝! そこだ!」
突き上げと同時に放たれる光でダメージを広げ、フォルトゥナの抵抗力を奪っていく。そこにロニが突撃してくる。
「代われカイル! どぅりゃあ! 双打鐘! ふっ、はぁっ! 割破爆走撃!」
裏拳からハルバードで斬りかかり、さらに跳び蹴りを炸裂させた。
続けて斧の部分でフォルトゥナを引っ掛けて引き寄せ、全力で体当たりを仕掛けた。パワータイプのロニの攻撃を防ぎきれず、再び吹き飛ばされた。
「どけ! はっ、はっ、はっ! 双連撃! まだだ! 散れ、魔人滅殺闇!」
ロニの横を素早くジューダスが駆け抜け、目にも止まらぬスピードで斬りつけていく。与えられるダメージこそ少ないが、確実にフォルトゥナの体力を消耗させている。
ジューダスが闇を使ってフォルトゥナを浮かせたところを狙い、今度はリアラの詠唱が完了した。
「恐怖と共に消えよ、哭け! 極限の嵐! フィアフルストーム!」
恐慌を呼ぶ空気の渦が生み出され、フォルトゥナの体がきりきり舞う。だが、それだけで済まさなかった。
「我が呼びかけに答えよ! 舞い降りし疾風の皇子よ、我に仇なす、意志を切り裂かん!」
風の精シルフィスティアを召喚し、さらに複雑に渦巻く風の刃でフォルトゥナを切り刻む。
しかし、それでも完全に斃すことはできなかったらしい。エネルギー弾が散弾となってばら撒かれ、前衛3人を弾き飛ばした。
「愚かな……神である私に勝てるわけがない……。」
「驕りだぞそれは!」
間髪入れず、散弾に巻き込まれなかったシンの斬撃が炸裂し、フォルトゥナは大きく仰け反る。さらに、無事だった後衛のハロルドの詠唱が完了した。
「聖なる意志よ、我が仇なす敵を討て! ディバインセイバー!」

 
 

フォルトゥナを包囲するように電撃が発生し、包囲を狭めて追い詰める。もう防ぐことはできなかった。
ハロルドは追撃にと具現結晶を使った。
「具現せよ精霊の結晶! ソルブライト! 至高の意志よ、我らに力を! 願わくば、浄化の光、彼らを救わん!」
白と金の鎧を纏った戦乙女が現れ、追尾する光が炸裂する。
さらに、津波のように溢れかえる光がフォルトゥナを飲み込み、凄まじい破壊力を生み出した。
「っ……あなたたちは自分の行動が何をもたらすかわかっているのでしょうね? わかるなら……。」
「何を寝言を言っているんだフォルトゥナ! 俺たちの行動の結果はな、あんたの支配から人間を解き放てるってことさ! そして世界は世界本来の秩序で動く。もう神は必要ない!」
シンの全力の斬撃が炸裂し、フォルトゥナが弾かれた。しかし、それで終わるような相手ではない。
「ま……まだ……インディグネイトジャッジメント!」
ウジャド眼の浮き彫りがなされた刃根元を持つ剣が落下してくる。エルレインも使用した最強の術、インディグネイトジャッジメントだ。しかし。
「何度も同じ技が通じると思うな! 穿風牙! ぶっ壊れろ!」
風の槍と荒れ狂うカマイタチが落下中の剣を破壊し、完全にインディグネイトジャッジメントを止めて見せた。
「な……!」
「今だカイル! 止めを刺せ!」
インディグネイトジャッジメントを止められて驚いているフォルトゥナに強襲をかけるべく、カイルが突撃する。
「はっ、てっ、てっ! 岩斬滅砕陣!」
ピュアブライトが床に振り下ろされ、凄まじい量の岩の破片がフォルトゥナに襲いかかる。
そして、カイルの持つ最強の秘奥義が発動した。
「飛翔せよ、疾空の刃! 奥義! 翔王! 絶憐衝!」
2回斬りつけ、床を滑ってすれ違いざまに切り裂き、さらに同じように背後から斬りつける。
そして、ジャンプと同時にフォルトゥナを強烈な気迫のエネルギーで浮かせ、背からオレンジ色のシンが作り出すのと似たような翼を放ちながら急降下してフォルトゥナに止めを刺した。
憐みを絶つ、とはよく言ったものだ。この激しい攻撃に、ついに神は屈した。
「消える……消えると……言うのかああああぁぁぁぁああああ…………。」
人の欲望から生み出された神、フォルトゥナはその姿を散らし、光の粒子へと昇華して虚空へと果てた。
これでフォルトゥナの大部分は討ち取った。放っておけばレンズに宿る残る部分も消滅するだろう。
しかし、完全に神による歴史の干渉を消し去るためにはレンズの破壊が必須条件だ。
さらに、放置すればリアラは消滅するフォルトゥナに捕らわれたまま完全に消え去ってしまう。
彼女を解放しなくてはならなかった。
「カイル、最後の仕事だ。カイルにしかできないことだ、頼む。」
シンに促され、カイルはピュアブライトを構えながらレンズに近づいていく。
「これを砕けば全てが……。」
しかし、カイルはレンズに向かったまま動けなかった。
「……カイル?」
リアラの呼びかけに応えるように、カイルは声を絞り出すように言葉を紡いだ。
「できるわけないだろ。いくら世界を救うためだからって、リアラやシンを殺すようなこと……俺が……この……俺が……。」
リアラは悲しみと迷いにゆれるカイルの背に抱きついた。
その暖かさをいとおしむように、そして、カイルを慰めるように。
「お願いだリアラ、一言でいい、たった一言、消えたくないって言ってくれ。消えたくないって……頼む、言ってくれ、リアラ!」
そうすればレンズを砕くのを思い留まれる。そして、リアラと共にいることができる。
最後の最後まで決断に迷う。
シンはカイルに心が弱いと責めることはできなかった。
二人の結びつきの強さはよく知っている。失いたくない思いも理解できる。
だが、それは許されない迷いだった。
「……カイル、私、消えていくことは怖くないの。本当に怖いのはこのまま神の一部として消滅すること……でも、あなたがレンズを砕いて私を解放してくれれば、今度生まれたときには同じ人間としてあなたと出会えるかもしれない……だから……。」
カイルは耐えられなくなり、シンの方を向いた。
「シン、シンもか!? シンも消えたっていいのか!?」
しかし、シンはあえて笑顔で返事をする。
「俺は十分に楽しませてもらったし、生きる意味も見出せた。こんなに素晴らしい人間がいるってわかっただけで満足してる。……カイル。俺がそのレンズを砕いても構わない。けどな、それをしたらカイルが自分でレンズを砕くよりももっと後悔することになる。」
「シン……。」
「カイルには後悔の少ない選択肢を選んでほしい。そして、それが自分の手でレンズを砕くことだ。わかるよな。」
「……うん。」
シンはリアラと目配せをし、二人同時にほぼ同じ言葉を発した。それがカイルの背を押すことになるだろうと思いながら。
「レンズを砕いて、カイル!」
「レンズを砕くんだ、カイル!」
「くっ……うああああああああああ!」
ピュアブライトから斬撃が放たれ、グノーシスの核となるレンズの最も脆い部位、接合部中央に命中した。
神の眼ほどのエネルギー密度はない。しかも、シンがグノーシスの運動を停止させるためにエネルギーを使っていた。故に、この攻撃で簡単に破損した。
罅割れが広がり、レンズが砕ける。レンズが内包したエネルギーが籠の外、宇宙空間へと流れ出した。シンはレンズのエネルギーでカイルたちに影響が出ないようにと、結晶体から闇の膜を作り出して防ぎきった。

 
 

静寂の後、剣が落ちる乾いた音がして、さらに誰かが倒れこむような音がした。カイルだった。
先ほどまでカイルの背に存在していた暖かな温もりと、柔らかな重みは消え失せていた。それはリアラが消え去ったことを意味していた。
「…………っぐ……ぅ……。」
拳を握り締め、必死に悲しみに耐えている。
愛する者を自らの手で殺したも同然なのだ。悲しくないわけがなかった。
カイルを非難する声と共に、淡い紅の光の塊がカイルの頭上に現れていた。
フォルトゥナの最後の思念だった。
「苦しいか、辛いか、悲しいか? 神がいればこそ人はその苦しみから救ってもらえるのだ。だが、お前達は神を殺した。もう二度とお前達に安らぎはない。愛と繁栄に満ちた未来は訪れないのだ。」
「違う……。」
カイルの声は弱弱しかった。しかし、意志だけははっきりしていた。
「神の導きを失ったお前達に未来はない。」
「違う……。」
「今ならまだ間に合う。神に願え。神を求めるのだ。神こそが全てを癒す。大罪人のお前の苦しみですら。お前達人間の願いのはず。」
「違う……この俺の胸の痛みも苦しみも、全部俺のものだ。神になんて癒せない。癒されて……たまるもんか!」
フォルトゥナの誘惑をカイルは撥ね退けた。自らの意志で、自らの力で歩んでいくと決めたのだ。それは長い間考え、仲間達と接し、出した結論だった。
覆してはならない。そして、神の救いを否定すると誓ったのだ。彼の悲しみは忘れてはならないものであり、後々まで生かしていくべきものなのだ。
癒すとは忘れ去るということだ。そして、リアラのことも、仲間達と接したこともだ。そんなものはカイルが本当に望むものではない。
カイルは足に力を込めて立ち上がった。
「だから、全てを委ねられる神なんていちゃいけないんだ。俺たちの未来はお前に作ってもらうものじゃない。俺たちの未来はここにある。ここから始まる!」
フォルトゥナの残留思念が力を失い、光が弱まっていく。
「消えろ!」
カイルが振り払うように叫ぶと同時に、残留思念が完全に弾けて消えた。
代わって、別の残留思念が姿を現す。
フォルトゥナから解放されたリアラだった。シンの秘奥義で作り出される幻のように儚く、透けて見えた。
「そう、未来への時の糸は人の手によって紡がれるもの……。だからこそ無限の可能性が生まれるの……。」
彼女の声はどこか遠くから響くような声だった。消えていく彼女は脳に直接声を送り込んでいるのだった。
「リアラ! 俺は……俺は……!」
悲しみに満ちた瞳がリアラの残留思念へと向けられる。幻のようなリアラはそっとカイルの頬を撫でながら言う。
「だから、信じてる。あなたの作る未来を。あなたと出会う未来を信じて……いるから……だから……私……!」
リアラの表情は悲しげな笑みを浮かべたものだったが、その目から涙が零れる。
「リアラ!」
思わずカイルはリアラを抱き締めようとするが、彼女に実体はなく、その腕は虚しく通過してしまった。
「ありがとうカイル。あなたと出会えて……本当によかっ」
全てを言うことが出来なかった。リアラの姿が消え去り、残されたのは闇だけだった。
「……リアラ……。」
その一部始終をシンは見ていた。そのシンの体も少しずつ失われていく。
幻が消えていくように足から順に薄れているようだ。
「俺もここで消えるか……。中途半端な存在だけに、消え方も中途半端だな、俺は……。」
怖くはなかった。自分はシン・アスカのコピーなのだ。リアラのように分身のようなものではない。リアラのようにフォルトゥナに取り込まれて消滅することはない。
「シン、シンまで消えていくなんて……俺……。」
「大丈夫だよ、カイルなら。俺がいなくなっても何とかやってけるさ。それに、リアラと一緒に願ったんだろ。もう一度会うって。リアラを信じてやれよ。相思相愛、なんだろ?」
「けど、俺、ずっとシンに助けてもらってばっかりで何もできなくて、それに、こんなことになるなんて……。」
消えていくシンの顔には優しい笑みが浮かんでいた。それは彼の心からのものであることは、カイルにはわかった。
だが、シンが消えてしまうのは、いかにレンズを砕くことが必要なことであったとしても悲しく、苦しい。
「いいんだよ。俺の方こそ色々助けてもらったし、何より俺から孤独を奪って仲間の暖かさをくれたんだ。十分すぎるくらいカイルから受け取ってる。」
体の大半が消滅している。話せる時間ももう残り少ない。
「俺、本当に皆といられて嬉しかった。感謝してるよ。リアラは勿論、カイル、ロニ、ジューダス、ナナリー、それに……。」
彼はハロルドに目を向けた。
「俺は皆が大好きだ。皆が幸せになれるように願ってるよ。」
そのシンに、ハロルドが声を嗄らさんばかりに叫ぶ。
「シン! あんた絶対に戻ってきなさい! 別にあたしの時代に戻ってこなくたっていいわ! どの時代にいようとあたしがあんたを見つけ出して捕まえてやるんだから! リアラに便乗してでも戻ってきなさい!」
シンの顔が緩み、そして彼の左の頬を雫が伝っていく。
「そうだな、わかった。約束するよ。必ず戻ってくる。この世界に。この世界は暖かくて優しいから。だから、それまでのお別れだ。」
「シン!」
「じゃあ、また会おう、皆……!」
最後まで残っていた顔の輪郭が薄れて消えていく。彼の意識も薄れていき、そして拡散する。
人の未来を信じた聖女、リアラと、仲間達を守ろうとした英雄、シン・アスカの消滅という犠牲を払い、歴史を巡る戦いは幕を閉じた。