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Fortune×Destiny_第39話

Last-modified: 2007-12-02 (日) 17:05:11

39 再び出会う約束のために

 

拡散したはずの意識が戻ってくる。
シンは目を開けた。どうやら自分は倒れているらしい、とシンは体を起こす。
頭痛のする額をさすりながら周りを見ると、何故かリアラとジューダスが倒れていた。
「ジューダス、リアラ! 起きてくれ!」
急いで二人の体を揺すって起こしながら、彼は周囲を見回した。
「ここはどこだろう? 俺は消えたはずなんだが……。」
荒れ果てた原野が広がっている。
そして、遠くにはいつか見たことのある、ヴァンジェロの青いドームが存在していた。
「改変世界なのか!? いや……違うな。クレーターの位置が微妙に違う。」
シンは自分の記憶を辿り、思い浮かべてみた。改変世界ではもっとドームと海岸線の距離が遠かった。
この距離感の違いが何なのかを考えてみる。そして、一つの結論を出した。
「そうか、この世界の正体がわかったぞ。歴史改変の影響でできた枝分かれした複数の世界が混在してるんだ。」
この差はベルクラントの攻撃によるクレーター形成の違いによる。
つまり、ドームの位置は同じでも抉られた位置が違うため、海岸線との距離が違うのだ。
そして、クレーターの場所から察するに、改変前の世界のものによく似ている。
これは、エルレインが存在していた改変前の世界と、エルレインによって改変された世界が混在しているということだ。
考えてみれば、自分も歴史の枝分かれによって存在しているはずだ。
そして、神の消滅と共に歴史は変化する。
何しろ数々の干渉はシンがいた時代で神が降臨するからこそ起きる事象なのだから。
そうなると全ての分岐した歴史が本来の流れから切り離されて剥がれ落ち、それが集まった世界が構成されたとしてもおかしくない。
シンはこの歴史の分岐が剥がれて集まった世界のことを、プレイしたことにある、とあるゲームでの呼び名を使うことにした。
「時の吹き溜まり」と。ゲームでは時の吹き溜まりは非常に不安定な場所とされている。
この世界も同じだろう。一刻も早く脱出しなければならないだろう。
「ということは、ここから脱出しなきゃな。とりあえず……リアラ、ジューダス! 早く起きてくれ!」
リアラとジューダスがゆっくりと体を起こす。やはり二人とも、この世界の現状に驚いているらしい。
シンは二人に自分の推論を語った。ジューダスがさもありなん、という様子で頷く。
「確かにそれはあり得ることだろうな。それに、僕のように復活させられた上に歴史に大きく関わった人間なら、ここに流れ着いてもおかしくないな。」
「でも、それはエルレインやバルバトスも同じってことよね……。」
「また連中と戦うことになるのは仕方ない。とにかく、ここから脱出しないことにはリアラは勿論、俺も約束を果たせない。」
しかし、リアラが不安そうに言う。
「問題はどうやって脱出するかってことよね。こういう空間なら空間の切れ目から脱出するものだけど……。私がペンダントに願ったから切れ目があってもおかしくないわ。」
シンはそこまで甘く考えてはいなかった。
物事を悪い方へと考えるのはよくないことだが、最悪の状況を想定できなければ軍人など務まらないからだ。
「リアラのペンダントは最終決戦の前にはもう持ってなかった。ということは、あっちの世界に放置してきたはずだ。あの手のものは歴史回復の影響で消えたりはしなさそうだしな。」
彼は一度言葉を切る。そして、続けた。
「俺が思うに、この時の吹き溜まりの世界とのリンクがないと、空間に切れ目は入れられないんじゃないかな。」
「そんな……それじゃあ、どうすればいいの……?」
「大丈夫、そのリンクの鍵は俺が持ってる。」
彼は自分の左手のガントレットに嵌め込まれた結晶体を指差した。
リアラのペンダントによく似たもので、機能も酷似している。
実際、膨大なエネルギーの裏付けさえあれば、物体の運動くらいは停止させることができた。
さすがに空間に穴を開けることができるかはわからないが、やってみなければわからない。
「そうか……。お前のそれも、確かに可能だろう。次に必要なのはレンズのエネルギーだな。」
時の吹き溜まりと言えど、エネルギーはある。
歴史の分岐によって剥がれ落ちるときに、エネルギー資源だけが消失することはない。
それが起きるなら、そもそもシンやリアラ、ジューダスが身動きできるはずがないのだ。
彼らも生体エネルギーを持っているのだから。
「どこにあるかが問題だが……。」
シンは空を見上げ、考えに耽ろうとする。
しかし、彼はすぐに空に浮かぶあるものを見つけた。ダイクロフトだ。
エルレインがいた世界と改変世界が混在しているなら、ダイクロフトがあってもおかしくはない。
「そうか、ダイクロフトがあった! ダイクロフトには神の眼があるはずだ。それを使えばいい!」
同時に彼の脳裏にはリスクも算出されていた。
エルレイン、という最大の敵がいるはずなのだ。
そして、一番いる確率の高い場所があのダイクロフトであろう。戦いは避けられそうにない。
「……しかし、どうやってあそこまで行くつもりだ? イクシフォスラーはどうだ?」
シンは首を横に振った。
「無理だろうな。改変世界では地上軍拠点のあった場所は完全に水没していた。つまり、ベルクラントで跡形もなく吹き飛ばされてる。この一帯は改変前の世界がベースになってるが、ファンダリアがどうなってるかはわからない。使える保証はないんだ。」
「じゃあ、どうやってあそこまで……?」
「俺の飛翔力を使う。一番手っ取り早い方法だろう?」
確かにシンの飛行能力の加速力をもってすれば、あの遥か天空に浮かぶダイクロフトまで行くことはできよう。
できるのだろうが、なんとも乱暴な話だ。
密林の毒草を焼き払うためにブラストインパルスを召喚するようなものだ。
しかし、その引き合いに出した例は既に実行している。そして、今度も実行する気だ。
「俺とリアラはもう一度会うという約束があるしな。絶対に行かないと。」
「そうか。なら、僕はお前達の手伝いをしよう。お前達だけでは少々心許ないからな。あのバルバトスやエルレインは7人がかりで斃せたんだ。二人だけで挑ませるわけにはいかない。」
ジューダスの申し出に、シンはただ感謝することしかできなかった。
自分たちを心配してくれるジューダスも、ついでなら一緒に元の世界に連れて行こう、とシンは思った。
「それじゃあ、リアラ、ジューダス。二人ともしっかり掴まっててくれよ。」
彼はアロンダイトを抜き放ち、デスティニー形態をとる。
どうやらアロンダイトもついてきたらしい。接触していた装備は時の吹き溜まりに持ち込めるようだ。
ジューダスが右腕に、リアラが左腕に掴まったことを確認すると、血光を放ちながら加速する。
加速中、ジューダスはシンに向けて言葉を放った。
「シン、言っておくが歴史の自己修復作用によって、向こうの世界では何も起こらなかったことになっている。あいつら全員は全て忘れているはずだ。それは覚悟しておけ。」
「そんなことだろうと思ったよ。けど、俺たちの絆はそんなものだって乗り越えられると、俺は信じてる。記憶なんかなくたって、どこかで覚えてるはずさ。」
この辺りは希望的観測でしかない。本気で言っているわけではないだろう。
しかし、ジューダスは苦笑し、さらに言った。
「カイルも似たようなことを言っていたな。自分たちの絆は決して消えないと。お前とカイルは型こそ違うが、やはり似た者同士のようだ。」
「それはそうだろうな。俺とカイルの属性の差は闇と光だけだし。属性が似ていれば考え方も似るんじゃないか?」
「それを言い出したらお前とリアラも闇と水だけの違いだ。それに、僕とお前でも光と火だけの違いしかない。」
シンは笑顔を見せながら応えた。
カイルだけではない、リアラともジューダスともシンはよく似た相手だと思っていた。
「結構、お互い似てたから結び付きが強くなったんじゃないのか? ハロルドと俺の場合は……足りないものを補ってもらうって感じの関係だけどな。」
「それもある種の理想の型だな。」
特に妨害もなく、3人はダイクロフトに到着した。壁面に穴を開けて侵入しても、全く迎撃がない。
シンにはそれがかえって不気味に思えた。
「どうなってる……? 所謂不自然な存在がここに送られてるはずなんだから、改変世界の住人はいてもおかしくないはずなのに……。」
今まで以上に嫌な予感がする。3人は神の眼のある部屋へと急いだ。

 
 

「やはり来たか……。」
神の眼の前に佇んでいたのは、やはりエルレインだった。そして、その脇にはバルバトスもいる。
「久しいな、シン・アスカ。お前と会いたかったぞ!」
「やっぱり二人ともいたか。今度は何をする気かな。この時の吹き溜まりの世界は不安定だ。崩壊なんて簡単に起きる。そうすれば全員この場から消えてしまうだけだ。何をしたって無駄だ、エルレイン。」
しかし、シンの考えを見透かすようにエルレインは言う。
「お前達はここから脱出するために来たのだろう? そのための鍵を持っていることも私は知っている。」
「……ちっ、ばれてたか。」
「これからお前達の命を奪い、そしてお前たち力を取り込めば私は元の世界へと戻れる。私の力のみでは拒絶されたが、お前達の力を媒介にすればリアラが残した扉を開くことができるのだからな……。そのために多くの力を集めたのだ。」
シンは思い切り顔を顰め、エルレインに向けて言い放つ。
「戻って何をする気だ? それに、力だと? 神の眼の力を取り込んだとでも言うのかよ。」
「愚問だな。私は再び人々に救いをもたらすのだ。……神の眼の力は使っていない。神の眼の力全てを使わなければ私とて戻れる保障はないのだからな。」
先ほどの「拒絶された」とは、つまり応答拒絶ということだろう。
リアラが残したペンダントに込められた思いが、エルレインの力を跳ね返したということだ。
それならば神の眼の力を使う以前の問題だ。エネルギーは残されているのは間違いないだろう。
「なら、どうやって力を集めた? まさか、地上にいるモンスターからレンズを根こそぎ奪い去った、とでも言うんじゃないだろうな?」
それはあまりにも非効率的な話だ。それをするくらいなら部下に任せてレンズを集めた方が早いだろう。
「簡単な話だ。まず私は散りばめられた神の力を集め、そしてこの世界にいる、全ての人々から生体エネルギーの形で力を抽出したのだ。そう、そしてお前達の生体エネルギーも私のために……。」
吐き気がした。自分の目的のために、いかに本来存在しない人間とはいえ、生体エネルギーを奪うとは。
生体エネルギーを奪われた人間は死んでしまう。
つまり、何百万、何千万という人間の命を奪ったということになる。
おそらくは強引に空間に穴を開けるために、エネルギー集めのために行ったのだろう。
しかし、力を増幅させるうちに精神の均衡を失ったらしい。
力を得ることによって精神が崩壊するなど、少なくはない。力に取り込まれたと言ってもいい。
レンズに内包される力も生体エネルギーだから、エルレインのようにレンズの力を吸収することができるのならそれは可能だろう。
しかし、可能だからといって実行していいことにはならない。シンは怒りを滾らせて叫ぶ。
「なんてことを……救いのために人の命を奪うだと!? 人を堕落させ、歴史を改変し、天体衝突を目論んだと思ったら、今度はこれか!? エルレイン! あんたに救いを語る資格などない!」
同じように、リアラとジューダスも怒りを含んだ声を放つ。3人の決意は固まった。
「救いは人間あってこそだというのに、あなたは完全に道を踏み外しているわ! もう絶対に許せない!」
「お前のような勘違いした者に、元の世界に戻る資格などない。このまま消えてもらう!」
その3人の前に、バルバトスが立ち塞がる。その手には大振りな血塗られた斧がある。
「ここでお前達を殺せば俺も元の世界に戻れる……。そうすればまたカイルと戦うことができる! その前哨戦だ! さあ、俺の渇きを癒せええええい!」
バルバトスの斧が振り下ろされ、衝撃波が発生する。さらに、エルレインが晶術を放つ。
「プリズムフラッシャ……!」
天井付近から光り輝く剣が落下してくる。3人は一斉に散開し、二つの攻撃を避けた。
「リアラは後衛から支援を頼む! 俺はエルレイン、ジューダスはバルバトスを!」
「了解!」
「いいだろう!」
リアラは近接戦に向いていないので当然として、シンはこの組み合わせの方が効率的に戦えるだろうと判断した。
神に作られた者同士の戦い、復活させられた者同士の戦いは意図したものではない。
だが、この組み合わせは因縁が強いものだ。感情が強く浮き出てしまう。
「エルレイン! 俺が絶対に討つ!」
シンが猛然とアロンダイトを振り下ろし、エルレインに挑む。
エルレインは虹色の両刃剣でその攻撃を受け止めた。
「多くの人間の力を取り込んだ私に勝てると思っているのか……?」
「苦労もせずに楽して力を身につけたあんたに……仲間と戦い続けてきた俺が負けるかあああああっ!」
シンの腕の力が爆発し、エルレインを弾き飛ばした。さらに彼は血光の翼を広げて襲いかかる。
「あんたは簡単に幸せを欲しがる人間の権化らしいな。本当の幸せは苦労によってもたらされる!」
幾重にも折り重なる残像により、シンの位置をつかめなくする。そして、重い一撃をエルレインに放った。
「こんのおおおおおおおおおお!」
しかし、エルレインはシンの攻撃をいとも簡単に受け止めた。そして、そのまま鍔迫り合いになる。

 
 

「言ったはずだ、私と戦うということは数千万の人間を相手にするのと変わらないのだ……。」
「それがどうした、俺たちの思いはそんなものを跳ね返す。力が絶対だと思うな! そこに人の意思がなければ何も働かない!」
「私は私の意志で動いている!」
シンの紅の瞳が、さらに燃え盛るように鮮やかな色へと変わっていく。
「言ってやるぜ、あんたは人じゃない! 人じゃないだけじゃない、人の心も持ってない! 人の心があるなら、救いのための破壊だの救いのための殺戮だのを行うわけがない! あんたは人間の心なんか持っていないんだ!」
いくら人の意志から生み出されたとはいえ、エルレインはただ「人の欲求を満たす」ことがプログラミングされているだけだ。
リアラのようなはっきりした感情を持っているわけではない。
そして、欲求を満たすためにはいかなる行動をも厭わない。
その結果が歴史改変であり、天体衝突であり、そしてこの殺戮だ。
「俺たちはカイルたちの意志も背負ってる。それに、俺たちと同じように自分の意思で歩き続けようとする人たちの意志もだ。ただ楽をしたいだけの人間の意思如きが何になるって言うんだ!」
「それはお前達の独善だ……!」
シンはにべもなく言い返す。彼の口から放たれたのは、これまでの戦いの中で固めた意志そのものだった。
「ああ、そうだろうな、俺たちもそれを考えた。けどな、人間は楽になり過ぎちゃいけないんだ。人は人と協力し合って生きていくものなんだ。そのためには自分の意思で歩いていくことが必要なんだよ。あんたはそれを人から奪ったんだ!」
「必要ないからだ。私の力をもってすれば、そんなものがなくても人は幸せになれる……。」
「いいや、それはまやかしの幸せだ! そんなものに意味はないと散々言ってるだろうが!」
「お前達は何もわかってはいない……。」
「わかってないんじゃない。結局は互いの主義主張を認められないだけさ。それを自分だけわかったように言うな!」
「私は神の御遣いだ。全てを知っている。」
「あんたを生み出した神も人間がどういう生き物かわかってなかったぜ。俺もおぼろげにしかわかってなかった。だから人間と同じ視線で接してきたんだ。その上で出した結論だ。あんたは神の代理人として行動しているだけで、人間の視点で考えなかったらしいな。」
「神の力は何よりも完全だ。そして、完全な形の幸福をもたらすことができる。」
「言ってろ! 同じ視線に立てないやつが、人間を理解することなんかない! これ以上、あんたの勝手にはさせない! あんたはここで果てろ!」
見下した視線で物事を処理しようとするからろくなことが起きないのだ。
物事をうまく処理しようとすると、対象となる相手の視線でものを見なければならない。
それは果てしなく難しく、完全にあわせることなどできない。
しかし、それを厭うと乖離は激しくなり、何の処理もできなくなる。
さらに、自分の視線だけで物事を実行すれば反発も起きる。それをわかっていないのだ。
「俺は勝つ! 俺は人として人が生み出した欲望の塊であるあんたを討つ!」
シンとエルレインが対決するのと同時進行で、バルバトスとジューダスの対決も行われていた。
「バルバトス! これ以上世界の歴史に関わらせるものか!」
ジューダスは左手にシャルティエ・フェイク、そして、右手にシャルティエを握り締め、バルバトスに挑む。
シャルティエもまた、この時の吹き溜まりに流されていたらしい。
『坊ちゃん、僕のコピー品の方が強いんですから、そっちを利き手に持ってください!』
「馬鹿を言うな! シャルの方が使いやすいんだ、黙って僕の好きにさせろ!」
『……出過ぎたことを言いました。僕、また坊ちゃんと戦えて嬉しいです。頑張ってシンとリアラを元の世界に戻してあげましょう。ね?』
「そうだな。」
素早く繰り出されるジューダスの双剣を、バルバトスは斧で弾いて防ぐ。
「俺は歴史に名を刻めるほどの力を十分に持っていたのだ! だというのに、誰も認めようとしない! 無力な奴らに俺の存在を刻み込んでやる!」
「本能のままに人を殺してきたお前に、歴史に名を刻む資格などありはしない。自分を制御できもしない奴に、未来はない!」
猛然と接近したバルバトスの攻撃を回避し、ジューダスはシャルティエの力を解放した。
「ストーンウォール!」
石の壁が床から迫り出し、バルバトスの視界を塞ぐ。さらに、一瞬途惑ったバルバトスの横に回りこみ、素早く右腕に斬りかかった。
「はっ! 飛連斬! 逃がさん!」
飛び上がりながら2回斬りつけ、さらに着地と同時に斬り上げる。
素早い連撃を繰り出してすぐに、ジューダスは離脱した。
「ふん、それがどうした!」
離脱したジューダスにバルバトスが追い付き、大振りな斧を振り下ろした。
しかし、それをリアラの晶術が阻む。
「フレイムドライブ! フォトンブレイズ!」
3つの火炎弾がバルバトスの右腕に命中し、続けて縛り上げるような赤い光がバルバトスを襲う
。ジューダスへの攻撃が停止した。
『坊ちゃん、行きますよ!』
「よし! 月閃光! 散れ! 千裂虚光閃! はっ、はっはっはっ!」
斬り上げと共にシャルティエの軌道が眩い三日月を描き、振り下ろしによってシャルティエ・フェイクの軌道が闇の三日月を生み出す。
さらに、二つのシャルティエが交互に繰り出され、バルバトスを滅多刺しにする。
しかし、その攻撃もバルバトスには通じない。
「リオン・マグナス。貴様ごときの貧弱な攻撃など、この俺には効かんわ!」
横殴りのバルバトスの攻撃を、ジューダスは二つの剣をクロスさせて防いだ。
「所詮戦うことしか能のないお前にはわかるまい。僕は僕の存在意義を果たす!」
「今はその戦いのときだぞ? ぶるああああああああ!」
下から抉り込むように斧が接近する。
ジューダスはそれを紙一重でかわし、振り上げきったところで素早くバルバトスに一太刀浴びせた。
「ぬうっ!」
しかし、与えられたダメージはごく僅かだ。先に疲労で消耗してしまう。
「このままでは埒が明かん!」
ジューダスはバルバトスから離れ、シンの援護に向かう。その彼にバルバトスは晶術を放った。
「男に後退の二文字はねええええええい! 絶望のおぅ、シリングフォール!」
ダイクロフトの天井が崩壊し、ジューダス目掛けて落下する。
ジューダスはその俊敏性を生かして攻撃をすべて回避した。
さらに、これを逆手にとって視界を塞ぎながらエルレインに急接近する。
シンが鍔迫り合いでエルレインを押さえ込んでいる間に、背後から斬りつけた。
「ジューダス、すまない! なら! 穿風牙! ぶっ壊れろ!」
エルレインの動きが停止したのを見計らい、シンはバルバトスに向けて風の槍を放ち、さらに荒れ狂うカマイタチの渦を叩き込んだ。
詠唱のない術扱いの攻撃だ。バルバトスは一瞬仰け反ったようだ。
さらに、その隙を狙ってリアラは詠唱を完了させる。
「氷結は終焉、せめて刹那にて砕けよ! インブレイスエンド!」
巨大な氷塊がエルレインの頭上に出現する。
バルバトスと違って、すぐにエルレインは行動できるようになるだろうとリアラが判断したからだ。
事実、エルレインは身動きの取れないシンに両刃剣を振るおうとしていた。
しかし、エルレインはインブレイスエンドの処理を優先せざるを得なかった。
その間にシンは大剣を引っ提げてバルバトスに向かう。
「はああああっ!」
入れ替わり立ち代わり、それも一定のペースにならないように攻撃を仕掛けることで、敵の攻撃リズムを崩そうとシンは考えた。
それはジューダスも理解しているらしい。強敵相手に対しては多少姑息な方法も採らざるを得ないのだ。
「シン・アスカ! お前と戦いたかったぞ! あの貧弱なリオン・マグナスでは物足りなくてなあ。」
バルバトスの斧とシンのアロンダイトが激突し、再び鍔迫り合いになる。
「ジューダスは俺より強いぞ。」
「そうか、やつは俺にダメージをほとんど与えられなかったがな。」
「どうかな?」
シンはアロンダイトを握る腕と、体重を支える脚に力を込め、バルバトスを押しにかかる。
バルバトスの右の二の腕に血が滲んだ。
「ジューダスはあんたの攻撃力を殺いでおいてくれたよ。これが協力する力ってやつさ!」
鍔迫り合いの均衡が崩れる。大剣が押し返され、床に接触する。
しかし、その間にシンは左にステップを踏み、赤く輝く左手を突き出していた。
「大爆掌!」
ジューダスが作った切り傷に直接、この炎症を引き起こす炎を叩き込んだ。
バルバトスの右の二の腕が腫れ上がった
「ぐぬぅ……!」

 
 

「まだまだ! ふっ、はっ、せいっ!」
そのまま左足を突き出しながらスライディングタックルをバルバトスの左足首に命中させ、コサックダンスをするように左足を曲げつつ右足を突き出してダメージを増やす。
続けて左足を軸足にしながら円を描くようにバルバトスに水面回し蹴りを炸裂させて体勢を崩させる。
自重を支える両足を攻撃されては、さすがのバルバトスも攻めあぐねるものだ。
シンは回転しながら剣を鞘に収め、さらに右手に闇を生み出しながらその掌をバルバトスの胸部に叩きつけた。
「闇縛掌! でやあああっ!」
闇によって金縛りと強い衝撃を与え、バルバトスを突き飛ばす。
そのまま一気に接近し、左アッパーカット、左膝蹴りと闇を纏う右手刀を同時に行うクロスチョップを続けて放った。
だが、それで終わりではない。
「獄炎掌鎗撃!」
左の掌から炎を放ちながらバルバトスに向かって突撃し、さらに右手の闇を叩き込む。
バルバトスが仰け反ったところでシンはジューダスの様子を窺う。
ジューダスは二つのシャルティエを振るいながらエルレインと戦っているようだ。
しかし、エルレインの攻撃を防ぐだけで精一杯らしい。
「くっ……ジューダス! 俺が行く!」
しかし、そのシンにバルバトスが斧を振り下ろした。炎症から立ち直ったらしい。
「ぶるあああああああああああ!」
間一髪というところでバルバトスの攻撃を避けたシンは、両手に小太刀を出現させた。
「行けっ、双地輪!」
シンの手から放たれた小太刀は、巡航ミサイルを思わせる軌道を描きながら一本はバルバトスに、もう一本はエルレインから少し離れた位置へと向かっていく。
「止めるまでもないわ!」
バルバトスは眼前に迫った、小太刀を叩き落すでもなく、軽く首を捻ってかわした。
しかし、それがシンの狙いだったらしい。
「戻れ!」
天井方向へと舞い上がった小太刀が、再びバルバトス目掛けて回転しながら戻ってくる。
双炎輪の追加特技でもあった双輪還元だ。
この戻ってくる力があってこそ、この双地輪は成り立つ。
地属性エネルギーを纏った小太刀はバルバトスの首の付け根に命中した。
常人なら首を刎ねられて即死だろうが、生憎バルバトスは常人ではない。
しかし、一瞬意識が遠のいたらしい。
その隙を狙い、シンはジューダスの背後を経由してエルレインの左側に立った。
もう一つの小太刀が自分目掛けて戻ってくるはずだ。
そして、その軌道の上にエルレインが入るように調整するための移動である。
エルレインの右腕を狙って小太刀が接近する。
エルレインはそれに気付いたらしく、両刃剣を旋回させて弾き飛ばした。それもシンの計算のうちだった。
小太刀を弾く間にエルレインの体が泳ぐ。そこを狙ってシンとジューダスがそれぞれ愛剣を構えて突撃する。
「でやあああああ!」
「はっ、はっ、はっ!」
エルレインの左から接近したシンの重い一撃が、エルレインの背中に直撃する。
さらに、シンの攻撃した勢いを加算すべく、ジューダスは正面から二つのシャルティエで斬りつけた。
「……トリニティスパーク!」
しかし、二人の猛攻を耐え切ったらしい。エルレインの手から電撃が放たれ、ジューダスを襲った。
正面から仕掛けていたジューダスは避けられなかった。
「くっ……!」
「ジューダス、代われ! 俺がエルレインを相手にする。その間にジューダスはバルバトスを! リアラ、ジューダスの回復を頼む!」
慌ててシンはジューダスを突き飛ばすようにエルレインの正面に回り、大剣を力の限り振るう。
ジューダスは何も言わずにバルバトスに向かって行く。さらに、リアラは急いで詠唱を開始した。
バルバトスの意識が戻れば詠唱を妨害されてしまう。
「このっ!」
とはいえ、多くの人間の命を吸ったエルレイン相手では、シンも攻撃を食い止めるので精一杯だ。
せめてバルバトスを斃さないと勝ち目はない。
一方のジューダスは、意識を取り戻しかけたバルバトスの妨害をすべく、シャルティエの力を解放した。
「ピコハン!」
赤いピコピコハンマーが出現し、バルバトスの脳天に命中する。バルバトスの体がぐらりと傾いた。
その隙にリアラの回復晶術の詠唱が完了する。
「ヒール!」
ジューダスが負った傷の大部分が消失した。しかし、バルバトスに勘付かれた。リアラに向けて晶術を放つ。
「回復晶術だと!? 貧弱すぎるわ! 断罪のおぅ、エクセキューション!」
リアラの足元に闇の魔法陣が出現する。
シンはいち早くそれに気付き、リアラを突き飛ばして魔法陣の外へと放り出す。
だが、代わりにシンがエクセキューションの直撃を受けた。さらに、そこにエルレインが接近する。
「ぐっ……黙ってやられるかよ!」
しかし、そこは闇属性耐性が極端に強いシンだ。
エクセキューションのダメージなど見せずに、逆に閃翔牙を放ってエルレインを突き飛ばした。
続けて閃翔旋刃で弾き飛ばし、エルレインとの距離をおく。
「ジューダス、こっちは気にするな! 早いとこ斃して合流してくれ!」
この戦いに勝ち目などほとんどない。だが、約束を果たさなくてはならない。
「何をおいても負けられない。負けて……たまるかあああああああ!」
エルレインに攻撃させないように、シンは再び間合いを詰めて斬りかかる。
詠唱する暇を与えず、大爆掌をエルレインの喉を狙って放つ。
しかし、エルレインもシンの狙いがわかっているらしく、床を滑るように離脱し、素早く詠唱を完了させた。
「プリズムフラッシャ……!」
飛翔能力があるシンだからこそ避けられた。普通に走り回るだけでは攻撃を避けきれまい。
「早く頼む……!」
要所要所でシンに助けられながら、ジューダスはバルバトスに再び挑む。
俊敏性に優れたジューダスとパワーファイターのバルバトスでは、ジューダスの方に分があるはずなのだ。
だが、バルバトスは圧倒的な防御力を誇るため、ダメージを与えられない。
しかも、ジューダスはスタミナに乏しいという欠点がある。
「どうしたリオン・マグナス。もう終わりか? ならばこちらから行くぞ! 破滅のグランヴァニッシュ!」
床が砕けて地属性のエネルギーの海がジューダスを襲う。
ジューダスは持ち前の足の速さを生かして晶術を回避し、シャルティエの力を解放しようと詠唱する。
「術に頼るか雑魚どもが!」
しかし、それはただのポーズだったらしい。
ジューダスはエアプレッシャーが発動したことを確認するまでもなく、一気にバルバトスに向かっていく。
さらに、バルバトスが晶術を発動させたことを確認したリアラは、急ぎ詠唱する。
詠唱妨害をされる前に、一刻も早くだ。
「大地に秘められし破壊の力よ! グランヴァニッシュ!」
バルバトスが発生させたのと同じように、強烈な地属性のエネルギーの海を作り出し、狂戦士を攻撃する。
さらに、リアラは具現結晶を放った。
「我が呼びかけに応えよ! 荘厳なる意志は今ここに! 来たれ、大地の煌き!」
地の精霊、アーステッパーだ。地の力を持つ小人たちの行進に巻き込まれ、バルバトスの体が泳ぐ。
隙が大きくなったところで、天井から水晶の槍が雨のように降り注ぎ、さらに傷口を広げた。
「貴様ら……! 微塵に砕けろおぅ!」
だが、バルバトスは斃れなかった。斧を一振りし、蛇のようにうねる闇、ジェノサイドブレイバーを放った。
ジューダスはそれを回避できたがリアラが巻き込まれる。
「うっ……!」
これ以上の追撃はまずい、とシンは判断し、エルレインから少し距離を置いてから穿風牙と暴風抉空をバルバトスに向けて放った。
「シン・アスカ……どこまで俺の邪魔をするか!」
シンの体が硬直し、その隙を狙ってエルレインがトリニティスパークを彼に炸裂させた。
しかし、この程度で死ぬようなシンではない。

 
 

攻撃を受けながら彼は声を張り上げていた。
「ジューダス! 今がチャンスだ!」
バルバトスの体勢を崩したものの、いつ体勢を立て直すかわからない。
自分が犠牲になってでも、勝たねばならない。
「わかっている! そして、無理はするな! 魔人滅殺闇!」
ジューダスは通常の技を使用せずに、一気に奥義から炸裂させた。
そして、彼の持つ最強の秘奥義へと繋ぐ。義憐聖霊斬だ。
「交わらざりし命に……今もたらされん刹那の奇跡……。」
右手に握られたシャルティエが発光し、霊的な力を帯びる。
ジューダスはそれをバルバトスに振り下ろし、続けて素早く斬り上げてから袈裟懸けに薙ぎ払う。
さらに、突きながらやや跳躍して再び斬り上げる。
秘奥義を放つ彼の心の中で、彼の決意を否定する声が沸き起こる。
『血が血を拒む……心が心を砕く……。』
しかし、ジューダスはそれを振り払うように剣を振るい続ける。
「時を経て……ここに融合せし未来への胎動!」
霊的な力を帯びた剣が闇を纏い、バルバトスの左脇腹から右肩へかけて斬りつけ、舞うようにそのまま振り下ろした。
『奇跡は訪れない……。夢など……そこには存在しないのだから……。』
それに留まらず流れるように突きを放ち、剣を下向きに払うと同時に闇をぶつけてバルバトスにダメージを与える。
「義! 聖! 剣!」
『抗うか!』
彼は渾身の力を込めて剣を振り下ろした。そして、自らの決意を否定する声を完全にねじ伏せた。
同時にジューダスの仮面が弾け飛んだ。彼の素顔が露になる。ジューダスの最終奥義、真神煉獄刹が発動した。
「僕は……過去を断ち切る! 散れ!」
シャルティエに宿る闇が色濃くなる。
ジューダスは一気にバルバトスとの間合いを詰め、シャルティエ・フェイクを逆手に持って斬り上げた。
「真神煉獄刹!」
そして、闇と霊的な力を宿したシャルティエを構えて全力で突撃するように突きを放つ。
「おのれ……リオン・マグナス……!」
シャルティエの刀身が深々とバルバトスの心臓を刺し貫いていた。
バルバトスの全身から力が失われ、ずるりと倒れこむ。そのままバルバトスの体は闇となって消滅した。
「残りはエルレインだけ……! ジューダスは晶術を頼む! リアラは回復に回ってくれ!」
敵の戦力が減った。最後の敵であるエルレインを討てば、元の世界へと戻る障害は完全に取り払われる。
しかし、逆に敗北すれば、再びエルレインによってカイルたちの世界が歪められてしまう。
何としてもそれだけは防がねばならない。
「絶対に負けられるかああああっ!」
「愚かな……。」
旋回する両刃剣と激しさを宿す黒い大剣が激突し、火花を散らす。
シンはエルレイン相手に一騎討ちを挑むつもりはなかった。
ここまで仲間とともに戦ってきたのだ。
一人で戦えば、彼らと共にしてきたことが無意味になるような気がしたからだ。
「こんのおおおおおおお……!」
シンの力が作り出した大剣が削られ始めた。旋回する両刃剣の勢いが激しいのだ。
一度修復する必要がある、とシンはバックステップを踏み、アロンダイトの形態を一度長剣に戻し、再び大剣へと変化させた。
その次の瞬間。
「神の裁きを受けよ……ディバインドラグーン……!」
旋回していた両刃剣から10本の光が散り、虹色に輝く騎兵と化した。
その騎兵が一斉に銃を構え、上空を動き回りながらシンたち3人を狙い撃つ。
3人はどうにか全ての攻撃を避けきったが、次にこの術を使われて逃げられる保証はどこにもない。
「竜騎兵か! 厄介な真似を……!」
竜騎兵は竜に乗った騎士のことではない。
ヨーロッパでは火打石を使った銃の研究が進んだころ、馬上で銃を撃つことが可能になった。
元々は馬で移動し、射撃するときに下馬するのが普通だったが、馬から降りずに機動性を維持したまま銃による攻撃を行うようになったのだ。
これが竜騎兵、ドラグーンである。
銃の技術が進展し、銃口から弾薬を詰めるマズルローダーから、薬莢を使用するブリーチローダーに置き換わると、いよいよ竜騎兵は各国の主力部隊と化した。
結局、戦車や機関銃の登場と共に姿を消したが、実に第一次世界大戦初期まで見られた部隊なのだ。
エルレインが使用したこのディバインドラグーンは、術による制御により光のエネルギーを竜騎兵へと変えて、各所から攻撃を仕掛ける、分離型の全方位多角攻撃兵装のようなものだ。
オリジナルのシンのいた世界にもこの手の兵器があり、それもドラグーン、分離式統合制御高速機動兵装群ネットワークシステムという名前だった。
偶然なのか、それともエルレインが意図したのかはわからない。
しかし、エルレインの明らかに攻撃手段が増えている。
断片的に神の力を吸収したからだろうが、どこまでも面倒な敵だ。
「二度はやらせん!」
晶術の詠唱を邪魔されたジューダスは二つのシャルティエを構えてエルレインへと向かっていく。
「無駄だ……!」
エルレインの両刃剣が空を切り裂き、ジューダスの剣を弾く。
続けて両刃剣を旋回させて彼を薙ぎ払いにかかる。
しかし、それをシンの大剣が阻んだ。そのまま鍔迫り合いになる。
「あんたに誰かの幸不幸を弄ぶ権利などない。誰が許そうが、俺が許さない!」
「人は私を待ち望む……私は人々の元に行かねばならない……。」
「一度世界を滅ぼしかけたお前が言うべきことじゃない!」
「誰がそれを知っている……?」
「実行しようとした事実は消えないぜ、エルレイン。たとえ歴史を改変しようと、あんたの罪深い行動が存在したこと自体は消えたりはしない。だからこそ、リアラのペンダントはあんたを拒絶したんだ!」
「私は間違ってなどいない……。そう言ったはずだ……。」
「誰だって間違いは犯す。意思を持つ者なら尚更だ。自分だけが完璧だと思うな!」
リアラの回復晶術がジューダスの怪我を消し去った。
さらに、鍔迫り合いの呼吸を見計らい、シンがバックステップを踏んだところでジューダスがエルレインの背後から襲いかかる。
「はっ、はっ、はっ! 月閃光! 散れ! まだだ、千裂虚光閃!」
シャルティエとシャルティエ・フェイクの二振りの剣が炸裂し、エルレインの姿勢が崩れる。
そこを狙ってシンが大剣を振るってエルレインに追撃をかけようとした。
だが、そのエルレインの姿が掻き消え、危うくジューダスを斬りそうになる。
何とか踏みとどまり、ジューダスを斬るという事態だけは避けた。
「転移したのか? まずい!」
シンは一瞬視線を彷徨わせたが、もう遅かった。光のエネルギーで構成された竜騎兵を放っていた。
「ディバインドラグーン……!」
エルレインは浮いていた。
転移したのではなく、背中からシンのものによく似た淡紅色に輝く翼を生み出し、素早く飛翔したのだ。
「くそっ!」
シンは急ぎジューダスとリアラを抱え、飛行能力を全力で使用しながら攻撃を避け続ける。
しかし、その間にエルレインに詠唱する時間を与えてしまった。
「ディバインセイバー……!」
包囲するような電撃がシンたち3人を取り囲み、包囲網を狭めてくる。
再びシンはフルブーストを使って電撃の包囲網から脱し、二人を床に下ろして上空へと舞い上がる。
こうなったら空中での格闘戦を行うより他はない。モ
ビルスーツで行っていたような戦いを、今度は自分自身がすることになるとは、シンも思ってはいなかったが、もう方法がない。
時間を与えてしまえば攻撃を畳みかけられる。

 
 

「はあああああっ!」
猛然と質量のある大剣を振るい、そのまま空中で幾度となく繰り返された鍔迫り合いになる。
血のような紅の光と淡紅色の光が互いに拡大し、互いの翼から放たれるエネルギーが接触しあってダイクロフトの神の眼の部屋中にスパークが起こる。
「諦めの悪い……私に勝てるわけがなかろう……。お前たちは7人がかりでなければ私に勝てなかったはずだ……。たった3人で何ができる……?」
「生憎、俺の長所がその諦めの悪さでね、あんたみたいに、簡単に努力を諦めて力を行使したりはしないんだよ!」
底の見えないエルレインの力だが、少しずつでも消耗させるしかない。
僅かずつでも前進する。それがシンの生きる決意でもある。
それが通じなければならないのだ、とシンはさらに血光の翼を拡大させた。
「でやああああああああああ!」
拮抗していた力の均衡が破られた。シンが押している。エルレインの顔に戸惑いの表情が浮かぶ。
それを待っていたリアラが、待機していた晶術を解放する。
「氷結は終焉、せめて刹那にて砕けよ! インブレイスエンド!」
エルレインは一度シンから離れてリアラの晶術から逃れた。だが、それを予測していたシンに回り込まれた。
「逃がすか!」
背後から大剣の一撃を炸裂させ、リアラの生み出した氷塊の下へと誘導する。
エルレインはインブレイスエンドの直撃を受けた。
「くっ……!」
ガラスが砕けるように、床に叩き付けられた氷塊が砕け、その中からエルレインがゆらりと姿を現す。
それを狙ってシンは加速をつけ、剣を構えて突撃する。
「閃翔牙!」
飛翔力を生かした強烈な一撃がエルレインに命中し、再びエルレインが弾き飛ばされた。
しかし、エルレインはすぐに体勢を立て直し、左の掌をシンに向けた。
「……私の救いを受けよ……。」
掌底が輝き、凄まじい光の束がシンに向かって放たれる。彼はそれを闇の膜を作り出して防いだ。
さらに、エルレインの行動を先読みしていたのか、ジューダスがエルレインに接近する。
「ふっ、はっ、はっ!」
エルレインの左から接近し、素早く斬りつけた。さらに、エルレインが反撃に出る前に素早く後退する。
「すまない、ジューダス! これでも食らえ!」
シンは足に力を込め、全身の捻りを加えた重い斬撃をエルレインへと叩きつけにかかる。
エルレインはそれを両刃剣で受け止めた。
しかし、シンはそのまま鍔迫り合いにしようとせずに後退し、右にステップを踏んで、やや下から薙ぎ払うように再び斬りかかる。
エルレインはそれを受け止め、両刃剣を旋回させて、手首を捻った。
シンの大剣が弾かれ、彼はやや仰け反った。
そこを狙い、エルレインは滑るように後退して両刃剣の旋回速度を上げた。
少なくともシンにはそう見えた。しかし。
「待てよ、そういうことか!」
彼は自分の持つ飛翔能力を最大限まで起動し、回転する両刃剣に大剣と化したアロンダイトをねじ込んだ。
凄まじい火花が散り、旋回速度が低下していく。
その中でシンは自分の予測が正しかったことがわかった。
やはりこの旋回は、ディバインドラグーンの前段階の動作だったのだ。
両刃剣の旋回と同時に刀身の数を12本に増やし、その内の10本を射出して竜騎兵へと変えていた。
「なら、この段階で破壊するまで!」
回転方向と反対向きに力ずくで大剣を振るった。水晶が砕けるような音がして、エルレインの両刃剣が砕けた。
「まだまだ!」
武器を再生させる暇を与えずに斬撃を命中させ、エルレインのダメージを広げていく。
「俺は約束を果たす! 絶対に! 閃翔牙! こいつを食らえ!」
全力で飛行しながら突撃し、一気にエルレインを追い詰める。
続けて閃翔旋刃で回転の勢いを乗せた一撃をぶつけた。
「許しはしない! 獄炎掌鎗撃!」
左手から炎を放ちながら突撃し、右手のアロンダイトを鞘に収めた。
さらに右手に闇を生み出しながら構える。
しかし、それでもなおエルレインが左手に光を纏い、先ほどの光の束を放とうとしている。
シンの瞳が鋭い光を放った。
「来いエルレイン! あんたの人の命を吸った光と、俺の意志を込めた闇とで決着をつけてやる!」
「お前達に救いを……!」
エルレインの光芒と、シンの掌の闇が激突し、再び周囲にスパークの嵐が巻き起こる。
「私の救いこそが……。」
「人の意志を信じてみろ!」
彼は一瞬、エルレインの光に押されそうになった。
だが、シンの背から今までにないほどの血光が放たれ、エルレインの光を押し返した。
彼の掌がエルレインの掌に接触したと同時にシンのSEEDが覚醒する。
そして、この奥義をシンの持つ最強の秘奥義へと昇華させた。
「闇に堕ちて光を消し去る!」
両手に闇を纏い、腰を屈めて突き上げるように拳を連続して20発叩き込む。
それに連繋して右回し蹴りを顔面に炸裂させ、その回転の勢いのまま左踵回し蹴りを同じ場所にぶつける。
さらに、飛翔力に物を言わせてムーンサルトキックを顎に命中させて、一回転しながらエルレインに両方の掌を突き出す。
「黒拳! 護闇掌!」
瘴気すら漂うほどの闇がシンの掌から放出され、一気にエルレインの体力を奪い去る。
これで勝ったはずだった。しかし、なおもエルレインは両刃剣を出現させて斬りかかる。
シンは秘奥義を使ったばかりで身動きが取れない。
だが、リアラはそれを予見していたらしい。待機していた晶術を解放した。
「スラストファング!」
渦を巻く風がエルレインの全身を切り裂き、シンが与えた打撃をさらに拡大させた。
同時にリアラは、この晶術を介してシンとジューダスの体の疲労を回復させる。
「すまない、リアラ! こいつで止めだ!」
シンは腰のアロンダイトを抜き払い、全力で斬りかかる。
しかし、エルレインはどこにそんな力が隠されているのかと思うほど、シンの剣を受け止め、そのまま鍔迫り合いになった。
「エルレイン……しぶとい!」
「お前ほどではない……お前達の力を奪い去るまでは……私は……。」
そのエルレインの背後に変化が起きた。ダイクロフトが崩壊している。
いや、ダイクロフトではなく、空間そのものが崩壊しているのだ。
エルレインもそれに勘付いたらしい。崩壊する空間に巻き込まれれば、確実に消滅する。
エルレインは離脱しようと両刃剣に力を込めるが、さすがに消耗しているらしく逃げ出せない。
「エルレイン、あんたは消えるんだ、今日、ここで!」
シンはエルレイン崩壊する空間に巻き込もうとアロンダイトに力を込める。
「私は消えはしない……人々に完全なる救いを……。」
「いいや、消えてもらうさ。何故なら、あんたのは救いなんかじゃないからだ!」
エルレインの力が途切れたのか、両刃剣が再び崩壊した。
シンはアロンダイトで突きを放ち、崩壊する空間にエルレインを押し込んだ。
エルレインの姿が薄れ、消えていく。
「わた……かい……かんぜ……る救……たらすた……め…………。」
最期まで自分の救いを実行するべく神の力を取り込んだエルレインは、完全に空間の果てへと散っていった。
シンは形態を解除し、急いで神の眼の元へと駆けつける。そこにはリアラとジューダスが既に待っていた。
「急げシン! このままではお前たちまで飲み込まれるぞ!」

 
 

「わかってる! リアラ、本当ならカイルが一緒にするべきなんだろうけど、頼む、俺に力を貸してくれ!」
「わかったわ!」
シンは結晶体の嵌ったガントレットを装着した左手を神の眼にかざし、意識を集中させる。
その結晶体にリアラが触れる。
「お願い……!」
僅かに神の眼の像が揺らいだが、まだ空間が歪んだ程度だ。空間は崩壊し続け、虚空が迫っている。
シンは自分の思いの丈を叫びへと昇華させた。それで元の世界への扉が開くのなら、何度でも叫んでやる。
そんな思いが込められていた。
「頼む、開いてくれ! リアラと俺の約束を、再会する約束を守らせてくれ! 再び出会う約束のために……元の世界に通じる扉よ、開けえええええええええええええええええええええっ!」
結晶体が発熱している。左手に火傷ができたかもしれない。だが、シンにはそんなことはどうでもよかった。
火傷をしようが手が千切れようが、戻らなくてはならないのだ。
どの時代にいても必ず自分を捕まえるとハロルドは言った。
だが、それはカイルたちと一緒にいた、元の世界に戻ることが最小限満たすべき条件なのだ。
そのための代償なら、いくらでも払う。
「お願い! 私の思いに応えて! カイルともう一度会わせて! シンにハロルドともう一度会わせてあげて!」
それはリアラも同じ思いだった。カイルは自分が消えることを嘆き、世界を捨てようともした。
そこまで追い詰め、自分の存在の抹消を無理に迫った。
ならば、せめてこれからはカイルと共に歩みたい。一緒に暮らしていきたい。
そして、再び奇跡は起きた。リアラとシンの強い思いに応えるように、空間が歪んで穴が開いた。
カイルたちのいる世界への扉だ。
二人にもたらされたのはエルレインが起こすような奇跡ではない。
苦難の末に掴み取った奇跡だ。何物にも変えがたい、本当の奇跡だった。
「よし、リアラから!」
いつまで扉が開いたままなのかは、シンには見当もつかない。
リアラの奇跡に便乗するようなものなのだから、自分が先に行くわけにはいかない。
「シンも急いで!」
「ああ!」
リアラが扉に身を投じ、シンも彼女に続く。そして、ジューダスが扉へと駆け込むのを待った。だが。
「……ジューダス?」
ジューダスはその場に立ったままだった。動こうとしない。
「ジューダス、ジューダスも一緒に来てくれ! その資格は十分にあるはずだ!」
しかし、ジューダスの顔には満足したような表情が浮かんでいた。
「カイルたちにも言ったが、僕は一度死んだ男が得るには十分すぎるほどの幸せが手に入った。それで満足している。」
「馬鹿なこと言うなよ! ジューダスとして十分に生きたんだろ。なら、これからカイルの叔父として生きればいいだろ!」
一瞬、ジューダスは扉へと踏み出しかけたが、しかし、彼は踏みとどまる。
「リオン・マグナスとしても、ジューダスとしても十分に生きた。これ以上はごめんだ。それに、僕がそっちに行ったら、また不自然な存在が発生したと、時の吹き溜まりに逆戻りさせられかねん。お前達もな。」
「俺はこれ以上仲間を失いたくないんだ、頼む……!」
シンはカイルたちの世界へと引きずり込まれる力に逆らいながら、ジューダスに向かって手を伸ばす。
ジューダスはシャルティエを構え、シンに向けて晶術を放った。
「くどいぞ! デモンズランス!」
漆黒の槍がシャルティエから放たれ、シンに命中した。
シンの体勢が崩れ、引きずり込まれる力のままに、カイルたちの世界へと落下していく。
「ぐあっ……ジューダス……ジューダスウゥゥゥゥゥ!」
シンの声は扉の消失と共に引きちぎられた。ジューダスは溜息を一つ吐く。
『坊ちゃん、よかったんですか?』
「ああ、これでいい。僕の役目は終わった。未来はあいつらにある。そして、あいつらから始まるんだ。過去の人間である僕が作るべきじゃない。」
シャルティエは少々皮肉めいた調子で言う。
『でも、ほんとはシンの言うとおり、戻りたかったんだと思ってましたけど。』
「お前まで馬鹿なことを言うんじゃない。……お前まで巻き込んでしまったな、シャル。」
『それこそ、過去の人間の人格を投影した僕が行くべきじゃないですね。』
「そうか……。」
空間の崩壊は、ジューダスのいる位置にまで達した。
ジューダスは自分の存在した意味はあったのだろうな、と思いながら、ゆっくりと意思が拡散していく感覚を覚えていた。

 
 

「さてと、カイルの奴は一人で行っちまったし、俺はどうしようかなあ。とりあえず待つか。」
ロニは手近にあった石に腰を下ろした。
彼は「大切なものを探しに行く」という理由で旅に出たカイルについてきたのだが、肝心のカイルが向かったのはクレスタの近くにあるラグナ遺跡だった。
元は空中都市だったというこの遺跡に、カイルは見覚えがあるという。
近くまで来たことはあっても、中に入るのは初めてのはずだ。
にも拘らず、カイルは内部の構造を知っているかのように、迷わず奥へと進んでいった。
ロニも来たような気はしていたが、何故かカイルを一人で行かせた方がいいと感じ、入り口で待つことにしたのだ。
「にしても、結構時間かかってるよな。もうちょっとしたら様子を見に行くか。」
色黒で長身の彼は、ゆっくりと腰を上げた。
その次の瞬間、彼は何かに押し潰されそうになり、柔らかい草むらに倒れ込んだ。
「あーっ、いってえ。な、なんだぁ?」
「いたたたたた……あ、すまない、ロニ。」
ロニの上に降ってきたのはシンだった。ガントレットに嵌った結晶が砕けている。力を使いすぎたせいだろう。
ロニは頭をさすりながら起き上がり、何の意識もせずに口を開いく。
「ったく、お前はどうして同じようなことを……ってちょっと待て。何か前にあった気もするけど、いつのことだ? それに、初対面のはずの人間なのに知ってるような気が……。」
シンは草むらに座り込み、瞼に右手を当て、何か喋ろうとする。
「あは……あははははははは、ははははははははは……。」
だが、彼の口からは笑い声しか出てこなかった。それは安堵と喜びの笑いだった。

絆は、消えてはいなかったのだ。