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G-Seed_?氏_第二十二話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:47:46

「避けること、もしくは防御することが一番だが、万が一避けきれぬ時は、筋肉を締めてダメージを軽減する。これは当然だな?」
 ドモンは三人の弟子を見渡した。三人が神妙な顔で頷く。
「だが、流派東方不敗にはさらにその上がある。体内に流れる『気』を集中し、それによって敵の攻撃を防ぐというものだ」
「それって・・・」
 思わず声を上げるシンに、ドモンは頷いてみせた。
「『気』を操るのは東方不敗の専売特許にあらず。概念、呼び方は異なっても、一流のファイターなら必須の技術だ。鍛え上げられた肉体と『気』とが合わさった時、そのファイターの体は、鋼など遥かに超える強度を持つ。シンを倒した者達を指導している、アルゴ・ガルスキーという男の肉体はまさにそれよ。何せ、俺の拳が通用しなかったからな・・・」
 ドモンの言葉に、シン達は驚愕する。MSの装甲ですら破壊するドモンの拳が効かない男がいようとは。そして、その男に教えを受けている者達がいようとは。道理で強いはずである。
 焦燥感が、三人の心に込み上げた。ドモンに指導を受けいてる自分達に敵はいないと思っていたが、ドモンと同じ世界の人間、それもドモンと肩を並べるファイターに教えを受けている人間がいるとなれば話は変わってくる。しかも、そのうちの一人はシンは一蹴してのけるほどの力を既に身につけているというのだ。
「師匠! 俺・・・」
「焦るな、シン」
 ドモンはシンを制した。
「お前たちが今までやってきたように、気には流れがある。その流れを操るのが周天だ。しかし、『気』の集中とは、その流れに逆らい、もしくは止め、自分の意図する場所に集めることだ。当然、生半可な修行では体得できぬ」
 一度、言葉を切りドモンは、目の前の3人の顔を順々に見渡した。その瞳に決意が宿っているのを見て、ドモンは微笑を浮かべた。
「決意は固いようだな。では・・・。修行だ!」
「「「はい!!!」」」
 3人は揃って唱和した。

 目に映るものは荒涼とした大地。遠方の針葉樹林の群れは、寒々しさをより際立て、鉛色の空は人の心を憂鬱の色に染める。吹き荒れる風は狂ったように吼え、風に混じる雪は肌に氷の牙をつきたてる。
 そんなシベリアの大地に、動く4つの影。
 仮にその影を凝視する者が驚愕で目を見張ったであろう。その4人は防寒具を一切見に纏っていなかったのだから。
 極寒のシベリアで防寒具を纏わず外に出るなど、気が狂っているか、熱烈な自殺志願者以外にはありえまい。
 だが、4人の目には、自殺するものが浮かべる空虚さなど皆無であり、その瞳には灯る意志の光は爛々と輝いていた。
「『気』を体の外に放出して、体を守れ! さもなくば凍死するぞ!」
 ドモンが荒れ狂う風の音に凌駕する怒鳴り声を上げた。3人は歯を食いしばり、氷と風の刃に対抗せんと体に力を込め、『気』を放出しようと試みた。
 だが、気を放出しつつ、新しく加わった剣術の修行を行うことは難易度が極めて高いといえた。
「そんな剣の振り方では、大根すら斬れんぞ! 腕で振り回すな! 体全体を使え! 重心は体の中心だ! ――いいぞ、ルナマリア。その調子だ!」
 ドモンの怒声に押されるように、3人は気合の声と共に、刀を目の前の丸太に向かって叩きつけた。だが、目の前の丸太は3人の持つ刀が粗悪品であることも相まって、容易に斬れてはくれない。文字通り大根でも切るように切っていくドモンとは違い、3人の形相は鬼のようである。
 食いしばった歯が軋み、漏れ出る息が一瞬で凍結して白いモヤとなって風にさらわれていく。
 流した涙すら凍りつき、足の指が真っ先に感覚を失い、耳はとうに感覚を失って存在すら分からない。
「角度が悪い! 刃は対象に向かって垂直にせよ。さすれば、斬れぬものなど・・・。
ない!!」
 ドモンの気合と共に超速の太刀筋が発生。だが、丸太はそのままの状態を保っている。ドモンが軽く刀の先で押す。するとどうだ、ゆっくりとズレていくではないか! そのままゴトンという音を立てて丸太が落下するまで、3人は手を止め、寒さも忘れて瞠目していた。完全に錆び付いた刀ですら、丸太を両断することができる。できるのだ。寒さで凍えそうな体に活を入れ、3人は手と足に力と『気』を集中させた。
(・・・頑張れよ、シン、レイ、ルナマリア)
 気の流れを操る術を見につけている以上、ゆっくりと身に着ける方法もある。だが、現時点でのアルゴの弟子達との差を考えると、やはりもう一度臨界行を行う必要がある。
 ドモンは、視線を目の前の丸太に戻すと気合と共に斬撃を放った。

 ○ ● ○ ●

 すべてが純白に染まり、天地の境は掻き消え、雪の女王の嬌声が響き渡る外とは対照的に、小屋の中は静まり返っていた。
(眠らねば・・・)
 レイは寝返りをうった。 
あまりの猛吹雪にこのまま修行を続ければ自分はともかく既に体が衰弱の域に達し始めている弟子達が間違いなく死ぬというドモンの判断により修行は切り上げられ、12時に床につくという望外の休息が与えられる事となったのだ。この機会に寝て体力を回復しておくにこしたことはない。
 シンとルナマリアはすぐさまヒュプノスの御許へと旅立っていった。
 だが、レイは眠れなかった。
 原因は分かっている。カナード・パルスとのディオキアのホテルでの邂逅、そしてその時発せられた彼の言葉が心に引っかかっているのだ。
(『誰もが何かを決められて生まれたりはしない』・・・」
 この言葉を思い出すとき、レイの頭には同時に浮かぶ言葉あるのが常だった。
 
 ――君もラウだ。それが君の運命なんだよ

 遺伝子を同じくするラウは自分と同一の存在。自分はラウであり、ゆえにラウと同じ道を歩むべき存在。
 ラウの、そして自分の望みは、

――この腐りきった世界を終わらせること。

 顔も知らぬ男の欲望によって創られ、その遺伝子とともに残り少ない寿命を受け継いだ自分達。
 人の持つ夢の果てに作り出された存在が自分なら、

 ――人の夢とは何だ?

 その『夢』を、持つとことを禁じなければとても生きて行けない、自分のような命を生み出すことか?

 ――誰が悪い? 

 おそらく誰も悪くない。
 悪いのは。

 ――世界。

 自分達はこの世界の結果の子供なのだから。
 不完全で間違った世界。
 自分のような生まれるべきでなかった命を生み出す世界。
 こんな世界は終わらせなくてはならない。
 世界は生まれ変わらなくてはならない。
 故に自分は、

 ――ギルの創る新しい世界を切り開く剣になる。

 自分はそのために力を欲した。そのために強くなろうとした。強くなるためにはあらゆる努力をおしまなかった。
 その結果として、アカデミーではザフトレッドに名を連ね、今、こうして最強の男に師事している。自惚れでは無く、力を増しているという自覚もある。
 すべては間違った世界を終わらせるために。
 新しい世界を切り開く剣となるために。
 それが自分の全てだった。全てだと思っていた。

 ――少し前までは

 揺らいだのはいつからだろう?
 揺らぎの萌芽は、アカデミーの時代にすでにあった気がする。
『ねえ、ランチ一緒にどう?』
 同年齢の人間達で溢れる初めての環境に馴染めず孤立していた自分に、物怖じすることなく声をかけてきた紅い髪の少女に半ば強引に連れられ、同じく半ば強引に連れてこられて仏頂面の黒髪の少年と、そして少し顔を引きつらせていたヴィーノやメイリン達と昼食を共にしたあの日から、何かが変わった。
 凍てついた世界に温もりが生まれた。
 汚らわしいと思っていた世界がに光が刺し始めた。

――競い、妬み、憎んで、その身を喰い合う。

 ・・・本当に?
 レイは隣で眠るシンとルナマリアを見た。
 ラウは人を、世界全てを憎んで死んでいった。ならば、自分も憎まなくてはならない。何故なら、自分もラウなのだから。
 
 ――憎む。全てを。
 
 メイリンを、ヨウランを、ヴィーノを・・・

 ――シンとルナマリアまで?

 彼らまで否定するのか。
 間違った存在であると断じるのか。
 そして・・・

――他者より先へ、他者より上へ

 この思いこそが全ての元凶のはずだ。
 シンは想像もしていなだろうが、シンが誰よりも強くなることは、シンの思いと間逆なことを証明することになる。
 ギルはきっと喜ぶ。
 戦闘に最適な遺伝子を持つシン・アスカという人間が、最適な環境を得たことにより、最大の成果と最大の幸福を得る。それにより、彼の提唱する計画の正しさをこれ以上内ない形で証明できる。
 それを自分は喜ぶべきなのだ。ギルの理想は自分の理想なのだから。
ギルの望む世界こそ自分の望む世界なのだから。
 それなのに自分は――

(俺は、勝ちたいと思っている。シンより上へ行きたいと思っている)
 シンのことは好きだ。友人だと、親友だと思っている。
 だが、それとこれとは話は別だ。
 勝ちたい。負けたくない。 
 
――生まれで全てが決まってたまるか!

 心の何処かで何かがそう、強くそう叫ぶ。
 恵まれたものはすべてを手に入れ、不幸な生まれ方をしたものは、恵まれて生まれたものの踏み台になるしかないのか。
 分をわきまえ、諦めて生きるしかないのか。

 ――冗談ではない
 
 レイの心に幾多の思考と思いが乱流となって吹き荒れる。ラウとして生き、ギルの理想のために生きると誓っていたはずの自分が、ギルの理想を否定しかねないことを考えている、揺らいでいる。
 そのこと自体がさらに混乱を呼びレイの心に暴風をもたらす。
 レイの心の中の嵐は、外で吹き荒れるシベリアのブリザードよりも激しく荒れ狂っていた。
「眠れんのか? レイ」
 闇の中に響いた静かな響きに、思わずレイは体を硬化させた。

「・・・申し訳ありません」
「いや、謝ることはない」
 再び沈黙が満ちた。風の唸り声だけが遠くに聞こえる。
「何か、悩みがあるのか? レイ」
 疑問の形式を取ってはいたが、その口調にはかなり多量の確信の成分が含まれていた。
「・・・分かってしまいますか?」
「拳は正直だ。お前の拳は今、繰り出す先を求め、さ迷っているように感じられる」
 レイは沈黙した。自分の悩みはあまりにも自分の根幹と、ギルの計画に関わりすぎている。話すわけにはいかない。
 自分の思考に嫌悪感と罪悪感を感じつつも、レイは沈黙を続けた。
「悩むのは悪い事ではない。存分に悩んでもがくといい」
 「修行中に他のことに気を取られるとは何事だ」といった類の叱責が飛んでくると思っていたレイは、意外な師の言葉に思わず身を起こし、師のいるであろう方を凝視した。
「何のために強さを求めるのか、誰がために闘うのか・・・。難しいものだな。なかなか見えてくるものではない。気づいてもすぐに忘れ、揺らぎ、果ては自分で自分を誤魔化し、その『誰か』まで傷つける」
「・・・師父は、東方不敗の力を超えたいと思ったから強さを求めたのではなかったのですか?」
 闇の中、ドモンが苦笑を漏らした気配が伝わってきた。
「嘘ではない。武闘家として東方不敗を超えたいという思いは常にもっていたし自覚もしていた。だが同時に、・・・」
 急にドモンの歯切れが悪くなった。何やら困まったように頭をかいているのが分かる。
「手に入れた力で得た勝利が、友とただ一人の・・・・」
 ドモンの声がさらに弱まった。
 レイは何だかおかしくなった。今のドモンは、いつものような厳格で妥協のない師ではなく、ただの不器用な好青年にように感じられる。
「・・・女のためにあったと気づくのに時間がかかったという話だ!」
 ドモンが怒ったように言った。照れ隠しが見え透いているその語調に、師が赤面している姿が目に浮かぶようで、レイは必死に、笑いの波を心の奥底に押し戻した。

「・・・とにかく、だ。悩みもがいて、思いを突き詰めた時、心に映る人間の姿こそ己にとって共に生きたいと、勝利を分かち合いたいと思う人間なのだと、俺は思う。それが見えてくるまでは悩み、もがくしかあるまい。他にも方法はあるのかもしれんが・・・。俺はそのやり方しか知らん」
 ドモンの話し方は雄弁とは程遠く、確信に満ちてもいなかった。自分が出した結論が相手にも当てはまるかどうか自信が持てず、迷っているようにすら聞こえる。
 だが、レイはドモンの一言一言が心に染みていくのを感じた。東方不敗を教える時とは違い、ドモンは生き方を語る時、自分達と同じまだ生き方を模索している者になる。押し付けるのではなく、共に思いをぶつけ合い語り合おうという、ひたむきで真摯な心で話す。だから、心に響いてくるのだろうとレイは思った。
「ありがとうございます、師父。何だか、心が軽くなった気がします」
「そうか・・・。参考になったのなら何よりだ」
「はい。では、お休みなさいませ」
「ああ」
 いつの間にかレイの胸の中は嵐は収まり、ほのかな暖かさで満ちていた。
その暖かさに身を委ねるように、レイは眠りに落ちていく。思いを突き詰め時、自分の心に浮かぶのは誰なのだろうと考えながら・・・。