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G-Seed_?氏_第五話

Last-modified: 2008-09-16 (火) 13:50:48

「ガンダムファイトかあ・・・。まだピンとこないわよね」
 ルナマリアが汗を拭いつつ、隣を歩くレイに話しかけた。
 コーディネーターでも、山のような荷物を背負って山道を行くというの
はやはり艱難辛苦であるのか、多少息を切らしている。
「ピンとこなくても、事実は事実として受け入れるしかない」
 レイが平易な声で答えた。
 こちらは山のような荷物を軽々と背負い、周りの景色に目をやる余裕すら
見せており、日ごろの彼の鍛錬が尋常ではないことが垣間みえていた。
「そうだよ! ていうか、ルナは何のためにここに来てるか忘れたのかよ?」
 シンが少し語気を荒くして、割って入った。
「忘れてないわよ! でも、普通に考えたらありえないでしょ? だから
つい、ね」
 
 ――そう、世界はガンダムファイト構想を受け入れたのである。

「・・・ガンダムファイトに参加を表明した地域には、『ゴッドガンダム』
から得られた知識を提供する、この餌は大きかったな」
「そりゃそうよ。核融合炉、モビルトレースシステム、精神力って言ってい
いと思うんだけど・・・のフィードバックシステム」
 ルナマリアが一つ一つ指を折ってみせる。
 これらの知識を得なければ、世界からあっという間に取り残されてしまう
のは明白であり、世界の国々が雪崩を打って参加したのも無理なからぬ話
であった。
「ガンダリウム合金だけでも、おそらく参加国の数は今と変わらなかっただ
ろう。あの硬度は常識を超えている。・・・と言っても、第一回大会までに
実現できる可能性がある、と言われているのがモビルトレースシステムと
フィードバックシステムだけとはお寒い限りだが」
 レイは苦笑を浮かべた。
「それにしたって、レイン・ミカムラ博士っていう超が何個もつく天才が
わかりやすーく書いた解説書が、ゴッドガンダムの中に残っていたからだも
んね・・・。他の技術は、取っ掛かりの糸口すら分からないって話だし」
 レイン・ミカムラがルナマリアの話を聞けば驚いたであろうが、C.E世界
とF.C世界では技術力において桁が二つ三つ違っている。彼女が超天才と
言われるのは無理もない話であった。
 その分かりやすい解説書が誰のために作られたかは言うまでもないが、その
『誰か』は、一度もそのレインの苦心作である解説書に目を通すこと無く、
コアランダーの中に放り込んで忘れていたのであった、
 もっとも、そのために解説書は捨てられることも無く、こうやって日の目
をみることが出来たのであるから、世の中何が幸いするか分からないもので
あった。
「だけどさ・・・。考えたら、その技術だけもらってガンダムファイト条約
を破棄しちゃうってこと、できるんじゃないか?」
 シンがふと思いついて言うと、ルナマリアとレイがやれやれと頭を振った。
「シン。そのための防止措置として、ガンダムファイトへの参加を取りやめ
た国は、アメノミハシラから得た技術、および技術によって作られた物を全
て破棄しなくてはならない。破棄しない場合、その国家は自動的にアメノミ
ハシラに宣戦布告したものとみなされる、という条項がある」
「・・・そうだったのか」
「条項にぐらい目ぐらい通しておきなさいよね! でも、考えたらすごい話よ。
たった一人、たった一機のMSが全世界に対して抑止力になってるんだから」
 
 ――全世界

 シンは拳をぐっと握った。

 ――その力があれば、俺は・・・
 
 サハク首長の言によれば、この世界の人間の身体に異変が起きているという。
『――理由は分からぬ。異世界からドモン・カッシュが来たことと関係して
いるのかもしれぬし、そうでないかもしれぬ。だが、いずれにしても、
一ついえることは、この世界の人間の肉体の限界値が跳ね上がっていると
いうことである』
 この言葉が事実であることは、全世界からの報告で裏付けられた。
 ドモン・カッシュがこの世界に来た日と、日を同じくして、限界まで肉体
的なトレーニングを積んでいる人間達――例えばアスリート達――の記録が
伸び始めていたのである。全世界同時に、ナチュラル、コーディネーター問わず、
である。
『ドモン・カッシュ本人の数値も伸びている。これは意味することは何か!?
我等ヒトに新たな可能性が生まれたということことである! 遺伝子改造によら
ずとも己が限界に挑み続ければ、遥か高みに到達できる可能性が生まれたという
ことだ。 第一回ガンダムファイトの勝利者の姿、それは我等人類の切り開くこ
とができる新たな世界の姿だと私は確信するものである!』

 この世界の人間が、本当にドモン・カッシュの領域に辿り着けるのか、それ
は誰にも分からない。
 だが、あの力こそシンが求め続けていたものだった。
 世界を相手にしようが負けない力。
 あの力があれば。
 
 ――守ることができる。どんな敵からでも

 公開されたゴッドガンダムの映像をシンは見た。
 連合軍の艦隊とMSを蹴散らし、月に大型クレーターを穿つ力。
 欲しい。
 心の底から欲しいと願った、渇望した。
 故に、上司であるタリア・グラディスの制止を振り切って休職願いを出し、
地球へ降りたと噂のドモン・カッシュを探し歩いているのだ。
しかしまさか・・・
(レイとルナまで着いて来るなんてなあ・・・)
 シンは隣を歩く二人に視線を送った。
 始めは鬱陶しい、と思った。
 だが、アテもなく世界を一人でさ迷ってもどうにもならなかったであろう
ことを考えると、どこからともなく情報を仕入れてくるレイの存在はこの上なく
有難い。
 また、見通しの不透明な旅で、明るくて闊達なルナマリアの存在は、
結構救いになっていた。
 
 ちなみに、プラント人である彼等が自由に地球を往来できる理由は、『ガ
ンダムファイトに参加する地域は等しく、ガンダム・ファイトへの参加を表明
した他の地域を、全て独立国であると承認しなくてはならない。そして、加盟
国から加盟国へのガンダム・ファイターの移動を妨げてはならない』という
条項が理由である。
 
 なにはともあれ、空振りし続けることはや一月。
 他国のファイター達が、訓練に明け暮れているであろうことを考えると、
無駄なことをしている気がして、流石に三人とも焦りを覚え始めていた。
 三人で時間を見て、組手等も行っていたが、そんなもので足りるはずはない。
 そもそもドモン・カッシュと出会うことができても、師事できるかすら
分からない。このギアナ高地で会えないなら、本気で再検討をすることも
考えねばならないのだ・・・。
 眉間に皺を寄せつつ、シンは視線を前に戻した。
「すまない。君たち、旅行者か?」
 突然後ろ声がかかり、三人はすさまじい勢いで飛びすさった。
 持っていた荷物がこぼれ、地に落ちて鈍い音を立てる。
 三人ともザフトレッドに名を連ねる軍人である。その自分達が誰一人、接近さ
れるまで気づかぬとは!
「・・・旅行者ではなさそうだが、俺は敵じゃない。ただ、ちょっとした
頼みがあるだけだ」
 少し困ったように両手を挙げてみせる目の前の男に、射抜くような視線を
シンは叩きつけた。
 赤いハチマキ、黒いマント、黒髪に鋭いがどこか繊細さを感じさせる光を放つ瞳・・・
 シンの目が徐々に大きく見開かれていく。
「ド・・・ドモン・カッシュ・・・さん?」
 ルナマリアの声が聞こえた。その問いに、
「ああ。そうだ」
 ごくアッサリと、目の前の男は返答を返したのだった。