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G-Seed_?氏_第八話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:43:58

 ――15日目
 
 夜の登山道を三人は駆けていた。
 夕食後のトレーニングの一つ、キャンプ地から指定場所までの1往復。
 ルナマリアは必死で足を動かしていた。どうにも、自分は前を行く二人
に比べて足腰が弱い。疲労で足がもつれそうになる。
 視界が動いた拍子に、ルナマリアの瞳に星空が映った。
 宝石を散りばめたような夜空。心から美しいと思う。
 あの星星と、地球の間に、自分の故郷であるプラントがあるのだ。
(メイリン、どうしてるかな・・・)
 この15日間。まったく連絡を取る暇がなかった。
(ヤキモキしてなきゃいいけど・・・。あの子、心配性だからなあ)
 唐突に。

 ――足を取られた

 迂闊。
 登山道とて決して平坦な道ではないのだ。最後だと思ってどこかに心の
緩みがあったか。
「くっ!」
 足を踏み出し、ルナマリアは体勢を立て直そうと手を泳がせる。
 だが。
 無理に体勢を立て直そうとしたことが最悪の結果を生んだ。かなりのスピード
が乗っていたため、足は勢いと体重を支えきれなかったのだ。
 右足首に激痛。
(あっ・・・)

 ――終わった

 ふとそんな考えが浮かんだ。
 地面に叩きつけられ、一呼吸遅れて、衝撃。
 立ち上がる気になれず、ルナマリアはそのまま仰向けになった。夜空の
星星が視界の中で滲んだ。
「ど、どうしんだよ!」
「どこか打ったか?」
 駆け戻ってきた二人が、次々と声をかけてくる。
「足・・・。やっちゃったみたい」
 二人の身体が、動きを止めた。
「――これ以上は無理か?」
 レイの感情を排した声音が、今のルナマリアには心地よかった。
「ええ・・・。それに、これじゃ明日二人と戦うなんて、無理よ」
「そうか」
 レイが「お、おい!?」
 シンは思わず抗議の声を上げる。
「シン。ルナマリアを抱えてキャンプ地まで戻った後、残りのメニューを
片付ける時間が残っていると思うか?」
「だけど!」
「どっちみち・・・。残れるのは一人だ」
 レイが走り出し、しばらくためらったような顔をした後、ルナマリアが
頷いてみせると、シンも意を決したように走り出した。
 二人の足音が消えると、ルナマリアはもう一度地面に横たわった。寒さが
背中から這い登る。でも、起きる気にはならなかった。
 その時。
「何してんだよ!」
 威勢のいい声に驚いて目を開くと、シンの顔が闇に浮かんでいた。
「ちょっ・・。あんたこそ、何やってんのよ!」
「このランニングの後のメニューって、足使うの、残ってないじゃん、
考えてみたらさ。まずそっち、片付けちゃおうぜ。で、ランニングは最後。
最後に回した方が多分俺、力出るから」
 シンが言いながら、拳立て伏せを始める。
「だけど・・・。仮に今日脱落しなくても、あんた達と戦って勝つのは・・・」
「『残り4日間が終わった時点で脱落しなかったもの同士』ってあの人は
言っただけで、『明日』戦うとは言ってなかった!」
「そ、そりゃそうだけど・・・」
 無茶なことを言い出すシンに、ルナマリアは少し呆れる。
「それに・・・」
「それに?」
「片足でも、実際にやってみなくちゃ分かんないだろ!」
 今度こそルナマリアは本当に呆れた。
「へえ・・・。あんた、自分が片足の私に負けるっておもうわけ?」
「誰がルナに負けてたまるかよ!!」
「言ってることが無茶苦茶なんだけど・・・」
「でも、ひょっとしたら負ける『かも』しれない」
 ルナマリアは額に手を当て、天を仰いだ。
(こいつ・・・。馬鹿っぽいトコあると思ってたけど・・・)
 でも。
 シンは、戦うだろう。どんなに不利でも実際に負けるまで、諦めない。
負けたとしても、次は勝つ、と言って闘志を燃やすだろう。自分の知ってい
るシン・アスカはそういうヤツ。
 ルナマリアの顔に笑みが浮かんだ。
「そうよね! レイは分かんないけど、シンは、開始と同時に転んで怪我
するかもしれないし」
「無駄口叩いてないで・・・」
 言いかけて――
 ルナマリアが拳立て伏せを始めているのを見たシンは、笑みを浮かべた。立ち上り、踵を返した。
「っつ・・・」
「頑張れ!」
 ルナマリアに肩を貸すシンの顔にも汗が滲む。
「やっぱ、先行ってよ! このままじゃシンまで」
 やはりどう考えても時間が足りない。歩くよりも遅いスピードでは無理だ。
「ありがとう、シン。でも、もういから・・・」
「よくない!!」
 言うなりシンはルナマリアの懐にさっともぐりこみ、おんぶの要領で一気に
持ち上げた。
「きっ・・・きゃあっ!」
 悲鳴を上げるルナマリアにかまわず、シンはそのまま山道を駆け上がり始める。
「これじゃブレスレットが認識しないんじゃない?」
「距離さえ移動すれば認識するシステムなの『かも』しれないだろ!」
「また、『かも』?」
 シンの息が荒い。シンの身体だってとっくに限界を超えているはずだ。
「どうしてよ!?」
 疑問に駆られてルナマリアは叫ぶ。
 どうしてここまで?
「勝ち残り戦なら仕方ないけど・・・。それまでは、見捨てるとかしたくない
んだよ! ルナだろ・・・友達だって・・・言ったの」
 最後の言葉はとても小さかったけど、ルナマリアの耳にはしっかりと届いた。
「それよりしっかり掴まれよ! すっげえ、運びにくい!」
「うん・・・」
 ルナマリアはぎゅっと、シンの首に腕をからめた。
 その瞬間、びくっとシンの身体が震えた。
「どしたの?」
「・・・な、何でもない!!」
 怒鳴るように言うシンの顔は、耳たぶまで赤くなっている。
(やっぱり、男の子なんだなぁ)
 シンの背中で、ルナマリアは小さく笑った。
 後はひたすら無言で二人は山道を駆け抜けた。
 そして――
(後、少し・・・)
 シンは歯を食いしばった。時間は押している、どう見積もってもギリギリだ。
「ル・・・ナ・・・。後少し・・・した・・・ら・・・」
 息が切れて言葉にならない。
 苦しい。目が眩む。
「降・・・りてく・・・れ。そんで、肩・・・に・・・」
「分かった。ドモンさんに見られたりしたら、意味ないもんね」
 頷く力も惜しい。シンは無言で答えを返した。
 だが。
「ほう? 俺がどうしたと?」
 凍りつく二人。
 ドモンが木の上から冷然と二人を見下ろしていた。

「シン・アスカよ。貴様その格好、何のつもりだ!?」
「待ってください! シンは――」
「貴様は黙っていろ!! シン・アスカよ。何かいいたいことはあるか!!」
 雷鳴の如きドモンの声が、大気を震わせた。
 
 ――どうしよう?

 ルナマリアは泣きそうになった。
「ルナ・・・。悪いけど、降りてくれ」
 静かなシンの声がした。
「シン・・・」
 ルナマリアに、気にするな、というように笑うとシンはドモンに向き直った。
「何もないです!」
「何も無いとはどういうことだ!!」
「確かに誤魔化そうとしたのは・・・。男らしくなかったって思います。
でも俺は、どんな時だって、友達を見捨てるような真似をして進むことは
できないし、正しいって思わない!」
「ほう・・・そうか。自分は間違っていないとぬかすかぁ!!」
 ドモンの眼光が鋭さを増し、覇気が暴風となってシンに襲い掛かった。
だが、シンは必死で足を踏ん張るとドモンの目を見返した。
 その真紅の瞳に曇りがないのを見て取り、ドモンはふっと破顔した。
「合格だ!」
「・・・・・・は?」
「合格だ!シン・アスカ! 友を思うその気持ち、見事なり! 確かに
お前には東方不敗を学ぶ資格がある」
 呆気にとられているシンの肩をポンと叩くと、ドモンはルナマリアに
歩み寄った。
「足は大丈夫か? ルナマリア」
 この修行を始めて以来、ついぞ聞いた事のなかった優しい声に、ルナマリア
は戸惑う。
「ルナマリア・ホーク。お前も合格だ! 自分の道が閉ざされる可能性があると
知りつつ、それでも道が分かたれる最後まではと、仲間と助け合う道を選んだ
その心、見事!」
「・・・ホント、ですか?」
「嘘ではない!」
 もう一度力強く断言すると、ドモンは後ろを振り返った。
「どこへ行く! レイ・ザ・バレル!」
 レイが茂みから姿を現した。
「・・・あなたの基準で言えば、友を見捨ててきた俺は、不合格でしょう」
「いや、お前も合格だ!」
 レイの目が大きく開かれた。
「友を、肉親を、背負った大事な何かのため、断腸の思いで犠牲にしなければ
ならぬ時もある。それに耐えることができるのもまた、強さの一つよ!
それに俺は、あれほど辛そうに何かに耐えている人間を、あまり見たことが
無いぞ」
 レイの白磁の頬がさっと朱に染まった。
「今日は一日休みとする。しっかり身体を休めるといい」
 歩き去ろうとするドモンの背に
「あの! 勝ち抜き戦・・・は?」
 シンの声が飛んだ。
 まだ、シンは半信半疑といった様子だ。
「・・・やりたいのか?」
 三人はそろって首を横に振った。
「では、取り止めだ!」
 後ろで上がる歓声を聞きながら、ドモンは歩を進めた。
 ドモンの視線の先で、朝日が登り、東の方角から茜色に染まり光が
闇を切り裂いていく。
(東方は・・・赤く・・・)
 ドモンは心の中で呟いたのであった。

*         *

 この日、プラントはドモン・カッシュを得た。
 だが、他の国々も眠っていたわけではない。
『超人』を探せ、を合言葉に、世界各国で人知を超えた強さを持つ武道家の
捜索と熾烈なスカウト合戦が行われていたのである。

「ア、アルゴ特別顧問! どうしてメンテナンスベッドを? あれでは修復
は不可能です!」
「戦いの最中に無駄口を叩くヤツは素人だ」
「こ、答えに・・・」
「うるさい」

「ヘイ、ガール。そんなにブルーな顔じゃあ、山は答えてくれないぜ?」
「・・・誰だ、お前?」
「ん? そうだな。夢と希望を掴む男・・・。いや、掴ませる男さ」

 第一回ガンダム・ファイト
 この史上空前のイベントを巡り、世界は大きく動いていた。