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G-Seed_?氏_第四話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:43:10

プラント極軌道側、小惑星の影に身を潜めるように数機の戦艦が停泊して
いた。どれも地球連合軍、アガメムノン級である。この艦には、数十機の両肩
に巨大なミサイルランチャーを背負ったウィンダムが収容されている。ミサイル
ランチャーの中には核ミサイル。このウィンダムの編隊は『クルセイダーズ』と
呼ばれており、この編隊による核攻撃こそ、作戦の肝である。
 ネタニヤフ及びその僚艦は、油断無く周囲を索敵していた。
 突如、ネタニヤフの索敵担当官が叫んだ。
「一機のMSが接近中。熱門照合。アンノウンです!」
 アンノウン、の響きにネタニヤフのブリッジに緊張が走った。

 ――もしや

 という思いが全員の心を駆け抜ける。
「くっ! 対MS戦闘用意! MS発進!」 
「了解!」
 護衛用のダガーL、ウィンダムが次々と飛び立っていく。
「『クルセイダーズ』部隊はいつでも発進できる体勢を維持せよ! 月基地と
通信繋げ!」
 気づかれたからには、計画は修正を余儀なくされる。司令はごりっと奥歯
を噛み締めた。

 *         *
 
 迫ってくるMSの編隊を、ドモンは鋭い眼差しでねめつけた。
「抗う力をもたぬ者達に力を振るうとは言語道断! ファイターの風上にも
置けぬ奴等め!」
 風雲再起の背で、ゴッドガンダムがビームソードを抜き放った。
「行くぞ! ゴォォォッドスラァァァッシュ!! 面面突き突き面面面面面突き突き
面突き面面面面! ひじ撃ち裏拳正拳裏拳正拳正拳正拳裏拳正拳正拳正拳!
とぉりゃあぁ! せぇりゃぁぁ! でやぁぁぁ!!」
 まさに鎧袖一足。
 風に舞う落ち葉の如く、MSの群れと戦艦は、ゴッドガンダムという颶風に吹き
払われていった。

 *         *

地球軍月基地は混乱の極みにあった。
「司令官閣下! 別働隊から通信です。すべての艦が戦闘能力を消失! MSも
全て戦闘不能とのことです!」
「な、何ィィ――ッ!?」
「司令官閣下! ザフト軍事ステーションに向かって移動中であった囮部隊も全て
戦闘不能です! 」
「な、何ィィ――ッ!?」
 月司令は決して無能ではなかったが、『たった一機』に艦隊とMSが『分』
単位で全て戦闘不能にされてしまったという驚天動地の状況に、まともな判断
力を宇宙の彼方に放り投げ、絶叫マシーンと化していた。
 予想外の状況にどう対応できるかで、指揮官の器量が問われるというが、
流石に常識から一光年ほど外れていては、どんな器も砕けたであろう。
「司令官閣下!」
「な、何ィィ――ッ!?」
「・・・正体不明のMS、高速で基地防空圏内に接近中って・・・。はええ!?
何だよこれ!? し、失礼。たった今、突入! ・・・映像! 来ます!!」
 固唾を呑んで見守る司令室の幕僚達の視線が集中する中、メインスクリーン
に映像が映し出された。
 『馬』に長刀を引っさげたガンダムが騎乗しているという光景に、またも
司令の意識は宇宙の彼方に飛んでいきそうになったが、何とか土俵際で踏み
とどまった。
「迎撃だ! 迎撃しろ!」
 言われるまでも無く、敵のMSを討ち果たすべくウィンダム、そして新型
MA・ザムザザーが出撃していく。
 だが、敵MSが消える度に、味方機が何機もまとめて四肢や頭部や武装を
失って吹き飛ばされるという非常識きわまる光景に、
「ふざけるな! 誰がヒーロームービーを流せといった!? 今は戦闘中だぞ!」
 司令の脳は現実から遠ざかることを選択した。
「司令官閣下! これは現実です!」
「こんな現実があってたまるものかぁ!?」
「そうだそうだ!」
「落ち着け、落ち着かんか!」
 混乱が狂乱を生み、ヒステリーの波が幕僚達の精神を押し流そうとする。
理性の堰がそろそろ限界に達しかけたまさにその時。
「・・・敵、MSから通信!」
 深海よりも深い静寂が司令室を支配した。
モニターの中で、敵のMSが堂々とこちらを見下ろすように停止している。
「何と言っている?」
 ようやく理性の岸に這い上がった司令が汗をふきふき尋ねた。
「これ以上の戦いは無益であるから、軍を引けと」
「・・・それだけか?」
「それだけです」

 ――降伏しろというのなら分かるが、軍を引くだけで良いとは?

 意外な要求にざわめきがおきた。
 敵は圧倒的にという言葉では間に合わないほど圧倒的に勝っているという
のに!
「プラントおよびアメノミハシラ首長国が、これ以上の戦いを望んでいな
いことの証である、とお考え願いたい」
 涼やかな、しかし威厳に満ちた女の声が突如通信に割り込んだ。同時に
一機のMSが、馬に乗ったMSの隣にぬっと姿を現す。漆黒の空に舞う蝶
を思わせるそのフォルムは、優美さと妖しさを同時に感じさせた。
「お初、お目にかかる。私の名は、ロンド・ミナ・サハク。アメノミハシラ
首長国の元首である」
 驚きが収まると、同時に司令の脳に疑問符が浮かんだ。
「アメノミハシラ首長国・・・とは?」
「汝が知らぬのも無理はない。我が国は出来て日が浅い。しかし、確かに
プラントの承認を受け、軍事同盟を結んでいる。同盟に従い参戦したまでだ」
「れ、連合が認めておらぬ国など・・・」
「黙れ」
 女の語調が急激に変化した。
 圧倒的な『威』が、圧迫感を伴って基地司令の身体を締め上げる。喉が
カラカラにに乾き、司令はゴクリと唾を飲みこんだ。
「連合が我が国を認めているかどうかなど、この際どうでも良い。軍を引く
のか引かぬのか、今の問題はそれにつきる。潔く引くなならばよし。引かぬ
とあらば・・・」
「――引かぬと言ったら?」
 恐る恐ると言った風に訊ねる司令に
「汝らを、基地ごと消滅させてくれる!」
 過激極まる脅しが返ってきた。硬直する司令に追い討ちをかけるように
女の言葉は続く。
「私の言が大言壮語でない証を見せよう」
 女の言葉が終わるか終わらないうちに、光輪を背負ったガンダムが黄金に
輝き、眩い光柱が天頂に向かって伸びる。
 そして、構えを取った白いMSから光の奔流が炸裂した瞬間。

 ――遠慮仮借ない大揺れが基地全体を揺るがした
床が波打ち、人体が宙を舞う。
 誰も立っていることはできず、転げまわり、揺れが収まった時は全員が、
床で呻いているという有様であった。
 それでも職務を果たそうと、頭をふりふり席に戻った索敵担当官が、絶句
して凍りついた。
「どうした!」
 ようやく起き上がった司令が、腹立ちを込めて怒鳴る。
 ぎぎっ・・・とブリキ細工の玩具のような音がしそうなほどのぎこちなさで、
索敵担当官は振り返った。
「これを・・・」
 メインモニターに映像が映り、今度は全員が絶句して凍りついた。
 モニターに映ったのは、

 ――月面基地よりも大きい、真新しい巨大クレーター。

 魂をぬかれてしまったように誰もが立ち尽くしている中、
「――返答を。終わりにするか! 続けるか!」
 冷厳とした女の声が、司令室の人間達を打ち据えた。
 司令は凍りついたまま、目だけで周囲の人間を見渡した。
 周囲の人間の目の中にあるものが、自分の目の中にも浮かんでいるであろう
ことを、確信しつつ、
「・・・全軍、撤退」
 司令は、生気の消え失せた表情で言葉を発した。

*         *
 
 通信画面に映る、どことなく鬱々としたドモンの表情を見て、
「何だ? その顔は。まさか、自分の力が国同士の争いに利用されたよう
で気に入らん、などとタワけたことを言うつもりではなかろうな?」
 どこか揶揄するようにミナは言った。
 だが、ミナの瞳には、揶揄ではすまない色も含まれているように見えた。
(この期に及んで失望させるようなことを言ってくれるなよ、ドモン)
 ミナが見守る中、
「そんなつもりはない。俺達の世界のガンダムファイトとて、代理戦争で
あり自国の優位性を証明する手段。今更そんなことでどうこう言ったりは
せん! よくぞ上手く纏めてくれたと感謝しているくらいだ。この世界でどこの
国にも属さぬ俺では、ああはいかなかっただろうからな」
 ドモンの言葉にミナは安堵をおぼえた。
「それにしてもミナ。一体いつからアメノミハシラは、国になった?」
「お前が攻撃を仕掛ける少し前だ。独立宣言をし、プラント議長に承認を
受けると同時に条約を締結。地球軍に宣戦布告。全部略式で済ませた故、
これから、正式なものを作らねばな。それにしても、ギルバート・デュラン
ダルめ。あそこまで独断で進めてくれようとは、なかなか話せる男だ。今頃、
プラント評議会で絞られているだろうがな」
 可笑しそうな笑い声を立てるミナとは対照的に、ドモンの顔はやはり沈んで
いた。
「・・・お前の望みどおり、核によって民間人が死ぬこともなく、戦いも止めた。
喜び踊り狂えとも言わんが、もう少し明るい顔をしたらどうだ?」
 ドモンは嘆息の息を漏らした。
「武闘家の拳とは、ただ相手を倒すためだけにあるのではない。己の歩んできた道を、
魂を、表現するものだ。そしてファイトとは、その心を、魂をぶつけ合うもの! 
全力を出さず、四肢を奪って戦闘不能にして済ませるなど、猫が鼠をいたぶるが如き
醜悪な行為! 師匠が今日の俺の戦い方を見れば、きっと怒るだろう。そう思うと、
どうも喜ぶ気にはなれんのだ」
 しかし、ドモンが乗るゴッドガンダムとこの世界の相手との間に天と地の戦力差があ
る以上、ドモンが全力で戦えば大量殺戮にしかならない。それもまた、ドモンの望む
所ではないのである。
「仕方あるまい。お前とそのMSの強さは、この世界においては唯一神に等しい。

あくまでも、今の所は、だがな」
「ミナ・・・。お前何を考えている?」
 いつの間にかミナの顔に不敵な笑みが浮かんでいた。その双眸には、生気が満ち、
情熱が夜空の星のごとく煌いている。
「竹林の賢者を気取って傍観者に徹するのはいささか飽いた、ということだ。
付き合ってもらうぞ、ドモン。お前はもうこの世界に十分すぎるほど関わった。
もう逃げることなど許されぬ!」
 勝算はある。
 だがこの途方もない――というよりは馬鹿げているとすらいえる――この
構想を、果たして世界が受け入れるかどうか、やはりそれは博打と言えよう。
 だが、
(後世に稀代の愚者として名を残すもまた一興よ!)
 ミナは凄絶な笑みを浮かべ、深遠なる宇宙を見据えた。

 
 ロンド・ミナ・サハクによって『ガンダム・ファイト構想』が世界に向けて
提唱されたのはこの一週間後のことであった