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KtKs◆SEED―BIZARRE_第10話

Last-modified: 2008-06-28 (土) 00:04:02

 『PHASE 10:ブラッディオーシャン』





 オーブは臨戦態勢を取っていた。

 ウナト・エマ・セイランは緊張に唾を飲み込む。

 目の前の海には連合軍の艦隊が存在している。オーブの回答……『連合との同盟は行わない』という答えは今送ったばかりだが、攻撃開始までに五分は待たないだろう。


(カガリ・ユラ・アスハが最初から連合軍と組むことに納得していれば……)

 カガリが反プラントの過激派に暗殺されかけることもなく、民の反対もなく連合と手を結べたかもしれない。

(いや、そんなものは結果論だ。そうなったときは、また違う問題が出たかもしれんし、彼女の意向を潰して連合との同盟を押し通せなかったことは、私の責任でもある)


 過去を思い煩っても仕方ない。今は今のことのみを考えよう。

「諸君、これより、オーブ防衛戦が始まる。二度も国土を焼かせるな」

 ウナトは飾り気のない言葉を口にした。さほど独創性があるものではなかったが、『二度も国土を焼かせるな』のみで、オーブ軍を奮い立たせるには充分であった。



 ウナトの言葉はミネルバにも届いており、彼の言葉に心ならずも奮い立っている者がいた。

「ちぇっ」

 その男、シン・アスカは舌打ちする。やる気になっている自分が少し悔しかったからだ。

 いまだ許せぬ国と政府なれど、住まう民まで死ぬことを黙って見ていられるはずがない。

「やってやるさ、こんちくしょう」

 複雑な感情を少々持て余しつつも、シンの士気は最大限に上がっていた。

「準備はいいようだな」

 傍らのレイが言う。大規模な戦闘の前であっても、いつもどおりの冷静な顔だ。

「ああ、俺はな。ルナは……」

「私もOKよ」

 ルナマリアは両の拳を握って、明るく言う。最近、彼女は前よりも活き活きしているようだった。

 妹のメイリンなどは、姉が両手をじっと見詰めて頬を赤らめているのを時折見かけ、何があったのかと首をひねっている。

 そんなパイロットたちの輪に、形兆だけは入らないのはいつもどおりだった。

 彼はただ、敵と戦いに思いをはせ、

「オーブも……後戻りすることはできなくなったなぁぁ」

 そう呟くのみだった。



「クルー諸君、これよりミネルバはオーブ軍と協力し、連合軍艦隊との戦闘を行う。戦闘の終了後、艦に大きな被害がなければそのままオーブを出港する」

 グラディス艦長の声が艦内に響く。

 この一戦にのみ協力するというのが、ミネルバ修理に力を貸してくれたオーブに対する借りの返却である。



 そして直後、戦闘は開始された。







 黄金のMS、アカツキを旗印としたMS部隊が空を舞う。

 キサカの操縦するアカツキは、ビームを弾き返しながら次々と敵MSを屠っていく。

 これは順当な結果である。アカツキの戦闘力はあのフリーダムにも匹敵する。

 パイロットの腕も高かった。オーブ陸軍第21特殊空挺部隊の一佐の肩書きは伊達ではない。

「カガリも目覚めぬうちに、オーブを陥落させてたまるものか!」

 暗殺が行われる前のカガリは、よい方向に変わりつつあるように見えた。その芽をここで絶やしたくはない。

 レドニル・キサカはかつてのキラ・ヤマトにも迫る活躍を見せていた。



 ムラサメを中心に構成されたMS部隊も、連合軍MS部隊に対して優勢のようであった。

 ユウナにとっては不本意だが、ウズミ・ナラ・アスハの遺したMS、アカツキの士気上昇効果は予想以上のものだったということだ。

 実直な軍人たちとは別に、下級氏族たちも出世のチャンスとばかりに働きを見せる。



 それらは予想と大きく変わらない結果であったが、予想以上の力を発揮したのがウェザーの駆るムラサメであった。

 ウェザーのMS操縦技術は平均である。戦士としての経験と胆力を加味したところで、並みの兵士よりは上という程度のレベルだ。

 にもかかわらず、彼の操縦するムラサメは、平均を遥かに上回る撃墜数を記録していた。

「なぜだっ! あの程度の動きなら、こちらのビームが当たらないはずがないぃぃ、当たらないはずがないのにィッ!!」

 連合軍のウィンダムパイロットが叫ぶ。彼の言うとおり、ウェザーのムラサメに当たるはずのビームは紙一重で当たることはなかった。





 その秘密はウェザーのスタンドにあった。

 敵から放たれるビームは、ウェザー・リポートの作り出す空気の層によって射線を歪められる。

 ほんのわずかなズレによって、ビームはあさっての方向に飛んでいってしまうのだ。

 業を煮やしたパイロットは、直接切り伏せようとウェザー機に接近する。だが、

「なんだ!? スピードが落ちる……機体の温度が急激に上昇していく!?」

 ムラサメに接近すればするほど機体に抵抗がかかっていく。

 ウィンダムのパイロットは突如、機体に発生したわけのわからぬ現象に焦った。

「これはまるで……宇宙から大気圏に突入したときのような……!?」

 過去の経験から似たような状況を探り出し、なお状況がわからなくなる。

「と、とにかく、この場を離れなければ!」

 ウィンダムは接近を断念し、今一度ムラサメと距離をとる。

 だが、それも寿命をほんの十秒ほど長引かせるだけであった。

「九機目……」

 ウェザーの放ったビームによって撃墜された。

 ウェザーは命中率もまた並みより上というところだが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。

 十本近くのビームの幾本かが、ウィンダムを貫き破壊した。

 本来ならこうもビームを撃つことはできない。すぐにエネルギーが尽きてしまう。だが、ウェザーに限ってはいらぬ心配であった。

 バッテリーの容量が少なくなると、ウェザー・リポートがムラサメ内のバッテリーの一部に触れる。

 それは、通常のバッテリーにはない装置であった。

「『ウェザー・リポート』!」

 雷が発生し、バッテリーに吸収された。これこそがセイラン家が子飼いの技術者たちに造らせた新機能『ミチザネ』。

 ウェザー・リポートの雷をエネルギーとしてバッテリーの充電を行うシステム。(ちなみに名称の第二候補は『デロリアン』であった)

 ウェザーの精神力が持つ限り、エネルギー切れになることはない。従って、ビーム兵器を大量に使うことができるのだ。

 規格外のスタンドをフル活用することで、ウェザーはエースの一人という地位を獲得しつつあった。



 ミネルバの方も、期待通りに善戦してくれている。

 連合軍のMSは海岸まで近づくのがやっとであり、内陸にまで進出することはできずにいた。







「妙だな……敵の兵力が少なすぎないか?」

 この圧倒的なほどの優勢な戦況に、見守っていたユウナは呟いた。

 ユウナがいる所は、軍本部である。とはいえ、あくまで責任者の一人としているのであって、口出しをする気はない。

 ユウナは軍人ではなく政治家だ。専門外のことにでしゃばるようなことはしない。

 以前ならともかく、今は多少なりとも自分をわきまえているのである。

 だが、連合の出方が今ひとつ不自然に見え、思わず口に出してしまった。この程度の戦力でオーブを落とせるわけがない。

 これでは本土に被害を与えることはできない。海岸辺りですべて撃退可能だ。

「これでは見せしめにもならない……何を考えている?」

「確かにそうですが……ザフトに対抗するため、オーブにまで戦力を裂けなかったのではないでしょうか?」

 軍人の一人、ソガ一佐が答えるが、ユウナは納得しきれなかった。

 いざとなったら不自然であってもウェザーに嵐を起こさせ、敵戦艦を転覆させてしまおうと考えていたユウナはこの勝ち戦に喜びよりも胡散臭さを感じていた。

 そのとき、

「敵艦より、MAが発進しました!」

 オペレータの一人が叫ぶ。モニターには暗緑色の蟹のようなMAが映っていた。





「なんだ! あれは!」

 ミネルバ副長アーサーが声をあげる。驚くのも無理はない。

 誰も見たことがない、全長47メートルもの新型巨大MAである。だが驚いてばかりもいられない。

「形兆! あれをミネルバに近づけさせないで!!」

 タリアは、ザムザザーから最も近い位置にいる形兆のザクファントムに命令を下す。

 形兆はすぐさま命令に従った。踊るような動きで空中を飛び、ビーム突撃銃を放つ。

 その攻撃は正確にMAへと突き刺さった。

「ちっ、効かないか」

 形兆は不愉快そうに呟く。

 MAは力場を発生させて、ビームを弾き返したのだ。

 陽電子ビームリフレクターシールド、戦艦の陽電子砲すらも防ぐ高性能のシールドである。

 ビームが効かないまでは予想していた形兆だったが、次の予想はできなかった。

「ぬぅっ!」

 MAがその巨体からは思いもよらぬ速度によって、形兆のザクに急接近してきたのである。

 巨大な鉤爪がザクを襲う。

 右肩の盾によって身をかばうが、物理的な衝撃によって盾は凹み、ザクは吹っ飛ばされる。

「まずいっ……こいつは小細工が通用する相手ではない……!」

 単純に力押しで強い相手というのは厄介だ。単純であるだけに弱点らしい弱点がない。

 ザクはファイヤビー誘導ミサイルを発射した。これで倒せるとは思わない。

 煙幕を張って目をくらまそうというのだ。

 だが、煙幕を貫いて発射されたビームにより、ザクの右腕が破壊される。

 その衝撃で、ザクのコントロールが一時鈍った。

「狙ったものでないものに当たるとは……俺もいよいよ、運が尽きたか?」

 形兆はこの期に及んで不敵な笑みを浮かべた。煙幕を突き破り、MA本体が姿を現す。

 MAの巨大な鉤爪がザクを凪ぎ砕くために振るわれた。

 だが、鉤爪の軌道上から、形兆のザクは突如外れた。何者かに突き飛ばされて。

 急に移動させられた衝撃からすぐに立ち直った形兆が見たものは、さきほど自分がいた位置にいる白いザク―――レイ・ザ・バレルのザクであった。



「レイーーーーッ!!」

 形兆の支援のために彼の元に向かっていたシンは、形兆をかばい、危機にさらされているレイの姿を見て、絶叫をあげていた。

(また、失うのか? 連合軍の理不尽な暴力によって、同じこのオーブで、自分はまた失うのか!?)

 シンの脳裏に、家族の、妹の死に様がフラッシュバックされる。

「やらせるかぁぁあぁぁっ!!」



 プッツ~~~~ン!!



 頭の奥で、何かがはじけた。

 同時に全方向に視野が広がり、周囲のすべてが感じ取れる。世界が自分と一つになったように。

 次の瞬間、インパルスはMAの鉤爪を切り落としていた。





「な……」

 レイは呆然としてそれを見ていた。彼が呆然とするのは珍しいことである。

(今の高速……インパルスなら出せるだろうが、あの速度を出しながらビームサーベルを振るうなどという細かい動作が、できるものなのか?)

 あれだけの動きができるほどの優れた運動神経と動体視力を持つ者は、レイの知る限りポルナレフくらいだ。

 そのポルナレフにしても、MS操縦の経験が足らず、ああも精密に鉤爪を切り落とすなどという動きはできないだろう。

(一皮剥けた、というにしては、度が過ぎる……これが、ギルが見つけたシンの力なのか)

 レイは、目の前で破壊されていくMAを見つめながら、微笑みを浮かべていた。

 この力が、デュランダルの役に立つことを思って。







「こいつは……凄まじいものですな」

 ソガの言葉を聴きながら、ユウナは頷く。

「連合と組んでたら、まずアレを敵に回していたわけか。ぞっとしないね」

 装備を換装し、エネルギーを充填して、次々と敵艦をなぎ払っていくインパルスに、オーブ軍本部は賞賛と驚嘆の目を向けていた。

 連合軍が退いていったのは、それからまもなくのことであった。





 かくて戦いは終了した。その結果は、オーブの大勝利といってもよかった。

 敵は海岸までですべて食い止め、民間人の被害はゼロ。軍の被害も予想より遥かに少なかった。

(これで、終わったのか……?)

 喜びに沸く軍本部の中で、ユウナは内心で呟いた。

(あのMAだけが切り札だったというのか? 確かに手強かったが、あれ一機だけでは……それともまだ何か……)

 あまりにうまくいきすぎている現状に、不安を消すことができずにいた。





 一方、戦いの終了と共にそのままカーペンタリアに向かうミネルバでも、歓喜の声があがっていた。

「シン!! すっげえじゃねぇか!!」

「よくやってくれたぜ!!」

 特に、敵艦を何隻も沈めたシンに対しての激励は凄いものであった。

 ルナマリアやレイも笑みを浮かべて、それに参加する。

「ホントにスーパーエース級じゃない。ポルナレフ教官が聴いたら驚くわよ?」

「お前は船を護った。勲章ものの活躍だ」

 シンはその賞賛を嬉しさ半分、気恥ずかしさ半分で受け入れていた。

 いきなり力が増したあれは『火事場の馬鹿力』というやつだったのだろうか。

 かつてポルナレフも友人を失ったとき、通常以上の実力を出すことができたというが……。



 歓声があがる中、場になじまない男が現れた。このミネルバでただ一人、常に孤高を保つ男―――虹村形兆。



「レイ」

 形兆の方から話しかけるなど、極々稀なことである。

 シンとルナマリアは、自分に話しかけられたわけでもないのに体を硬直させる。

 周囲の騒ぎがピタリとやみ、沈黙が降りた。レイは少し戸惑いを目に宿して、次の言葉を待つ。

「なぜ俺を助けた? 命を賭けてもらえるほど親しい付き合いとは思っていないが?」

 形兆はどこか苛立たしげに言う。性格的にきっちりしていないといつまでも気分が悪いのだ。

「そうだな……俺はあなたの強さが知りたい。おそらくそれが理由だ」

 それはきっと、ギルの役に立つから。しかし、純粋に形兆を助けたいという理由もあった。

 レイは自分で思っているよりも、この男に敬意を抱いていたのだ。

 自分で生き方を決めることのできないレイにとって、彼は尊敬の対象だった。

 彼もまた自分のための人生を持っていないようであったが、少なくとも彼は自らの意志で人生を捨てたのだから。

「そうか……助かった。感謝する」

 形兆はただそう言っただけだったが、周囲の反応は劇的だった。

 誰もが耳を疑い、目を丸くし、口を半開きにしていた。レイですらも。

「この借りは返す。几帳面な性格でね。借りっぱなしというのは我慢ならない」

 形兆はそれきり口をつぐむと、格納庫を出て行った。

 やがて格納庫にざわめきが戻るが、それは勝利の喜びではなく、形兆への驚愕から出るざわめきであった。



 こうして、ミネルバはオーブを離れていった。





 そしてもう一つの陣営でも会話が行われていた。

 ジブリールは、オーブ攻撃を行った艦隊からの報告を聴いていた。



「それでは『成功』したということでよいのだな?」



《予想より被害も大きく、ザムザザーまで破壊されてしまいましたが、目的は達成しました》

「そうか……ご苦労だった。ザムザザーについてもデータは取れたのだからよしとしよう」

 ジブリールはねぎらいの言葉を送り、通信を切る。その手には、今回のオーブ攻撃の計画書があった。

 その書類の一番上にはこのように書かれていた。



『オーブ緑化作戦』



「海が赤く染まった後は……大地が緑に染まる番だ」

 ジブリールは、天使の名にふさわしからぬ暗い感情を胸に、今後のことを楽しみに待つのだった。

 



 オーブの海岸に、一つの荷物が置き去られていた。

 それは1.5メートルほどの大きさのトランクのような飾り気のないカプセルで、連合軍のMSによって運ばれ、海岸に置かれたものだった。(置いたMSは数分後に破壊された)


 しかし中は空であった。その『中身』は、自分から外に出ていたのだ。



「そろそろ頃合か……」



 中身であったものは呟く。空は暗く、星の光が瞬いていた。戦闘が終わって半日が経っている。

 連合軍の動きを警戒し、国民はまだシェルターにおり、今夜はそこで眠りについている。

 今、外にいるのは軍の関係者がほとんどのはずだ。

 その『男』は、あの戦闘からずっと影に身を潜め、機を待っていたのだ。



「それなりに命を賭けたのだ。元を取らねばな」



 誰が想像できるだろう。

 太陽が出ている間の戦いは、この男一人をオーブに上陸させるための陽動にすぎなかったことを。

 そして、その男にはそれだけのことをさせる価値があることを。

 そして男は動き出した。髪の毛を、十本以上の『キノコ』や『カタツムリの触覚』のような形に束ねている。

 耳には丸いイヤリング、口には紅をし、顔には奇妙な模様をつけている。

 手にはビデオカメラを持ち、その目は好奇心に輝き、常に観察を行っていた。

 男の横を、軍用車が通り過ぎる。

 その運転手の不幸は、男の近くを通ってしまったことと、その道が下り坂だったことであった。

 その車は、あからさまに怪しい男を見咎めることもなく、カーブでも曲がらずに壁に突っ込み、爆発炎上した。

 男は振り返りもしなかった。自分の求めるものを観察するには、手遅れであるとわかっていたからである。

 投げ出された運転手はすでに息絶えていた。

 その死体はグシャグシャに潰れ、砕けていたが、奇妙なことに全身が緑色に染まっていた……。








TO BE CONTINUED