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KtKs◆SEED―BIZARRE_第11話完

Last-modified: 2007-12-02 (日) 18:32:21

 ガルドの死、ファンフェルトの気絶から2分が経過した時点で、チョコラータはハーヴェストの目を慎重に避け、大通りに面した家屋の3階に辿り着いていた。

 3階のリビングの窓から、重ちーの姿が見えることを確認する。椅子に乗れば位置的にちょうどいい。

 身体をくねらせて這いずり、左手で椅子の足を握り、引き摺って窓際まで運ぶ。

(さて……)

 背中の荷物を下ろし、中身を取り出す。幾多の鉄の塊を左手だけで丁寧に組み立てていく。この器用さは人間を捌く月日の中でつちかったものだ。

(よし)

 5分と経たずにそれは完成する。大口径の狙撃ライフル。オーブ軍の防弾服といえど貫通できる威力を持つ、とっておきだ。

 本来ならこんな五体不満足で使える代物ではないが、グリーン・ディの左手も使いながら構えを取る。スコープを覗き、標的を確認する。

(このスコープに……録画機能でも付いていればよかったな)

 舌なめずりしながらそんなことを思った。



   ―――――――――――――――――――――



 じりじりと状況の変化を切望するワイドの視界に、ふと道路に倒れた死体が入った。ガルドではなく、ワイドが撃ち倒した名も知りえぬオーブ軍人の死体である。

 薬物で精神を壊されていたとはいえ、殺してしまったことにワイドは罪悪感を抱く。

(あのゲス野郎は毒まで持っていやがるのか……)

 そこで何かが引っかかった。

(『持っている』……だと?)

 そういえば、あいつは荷物を背負っていた。あれの中身は、薬だけでは足りない。

(他に何が入っている? 考えろ……敵の立場で考えろ……)



 その時、

「見つけた! あそこだどッ!!」

 重ちーがある家の3階の窓を指差す。



「もう遅い」

 こちらを指差す重ちーを見つめながら、チョコラータは愉快げに呟く。

 銃声が弾けた。



 熱と力が大気を引き裂く。

 耳を抉るような破砕音が響く。

 皮膚が千切れ血が飛び散る。



 そして、その血は重ちーのものではなかった。



「ワイドッ!!」



 誰かの声がする。

「ぐふっ、がはっ!!」

 ワイドは脇腹が、さっきの骨折とは違う痛みを訴えていることを理解する。

 銃弾はワイドのサブマシンガンに命中し、サブマシンガンに使用不可能になる衝撃を与え、跳弾してワイドの脇腹をえぐったのだ。



『接近戦ではサブマシンガンの差で敵は不利。ならば、単純に考えて敵が取る行動は、サブマシンガンで対処できない場所からの狙撃』



 そこまで推測したわけではなかったが、何かがヤバイことを感じ取っていたワイドだけが、弾丸の射線の間に入り込むという行動が取れたのだ。

 考えてのことではなく、本能による行動であり、だからこそ間に合ったのであろう。





「大丈夫か」

 ホースキンがワイドに駆け寄って介抱する。

「ぐっ、大した事ねえさ……それより」

 ワイドは激痛に耐えながら弾が放たれた窓を睨む。



 スピードワゴンは無言でそれに応え、サブマシンガンの引き金を引く。

 だがチョコラータは部屋の奥へ逃げ、弾丸はむなしく窓を壊すのみ。

「ちくしょう! 届かねえ!」

 悔しがるスピードワゴンに、声をかけるものがいた。

「スピードワゴンさん……」

 重ちーだ。

「オラならスピードワゴンさんを、3階まで運べるど……あいつが攻撃してきても、けど援護することはできない……それでいいかど?」

「いいぜ」

 1秒と間隔を置かずにスピードワゴンは了承した。

「『ハーヴェスト』ォッ!!」

 さきほどまで探索にあたっていたハーヴェストがスピードワゴンの周囲に集まる。もちろん、スピードワゴンにそれを見ることができないが。



「うおおおおお!!」



 スピードワゴンの身体が急に浮き上がり、彼は思わず声をあげる。

 ハーヴェストが集団で彼の身体を押し上げているのだ。一体一体の力は大した事が無いハーヴェストだが、何十体にもなれば人一人を動かす事も簡単だ。



 ハーヴェストに押し上げられ、人が走るのよりも速くスピードワゴンはチョコラータのもとへと、壁を滑り上がっていく。



「ふん……飛んで火に入る……だな」

 チョコラータは嘲笑する。スタンド使いでもない凡人が、一人で突っ込んできたのだ。笑わずにはいられない。

 ライフルを置き、拳銃に持ち帰る。

「弾丸も弾き返すことのできない身で……調子に乗るな」



 チョコラータとスピードワゴンの距離、4メートル。



 引き金が引かれる。



 スピードワゴンの胸に着弾する。防弾服に止められるが、衝撃はくらう。

 スピードワゴンはゆるがない。



 チョコラータとスピードワゴンの距離、3メートル。



 引き金が引かれる。



 頬をかすめ、血が流れる。

 スピードワゴンはゆるがない。



 チョコラータとスピードワゴンの距離、2.5メートル。



 引き金が引かれる。引かれる。



 こめかみをかする。サブマシンガンを握る右腕に着弾する。

 脳が震える。右の上腕を貫通する。



 スピードワゴンはゆるがない……ゆるがない!!



「な、んだと?」



 チョコラータとスピードワゴンの距離、2メートル。



「『グリーン・ディ』!!」



 スタンドの拳で殴りかかる。目に見えず、対処もできない攻撃がスピードワゴンを襲う。



 ゴズガズッ!!



 左頬が殴られる。奥歯が折れる。

 右胸が殴られる。胸骨に罅が入る。

 右脇腹を殴られる。肋骨が折れる。

 右腕を殴る。穴の開いた右腕に激痛が走る。



「どうだッ!!」



 チョコラータが勝ち誇る。これでここから突き落とせば、カビによってこの男は死ぬ!!

 だが、



「何がだ」



 スピードワゴンの右腕が動き、銃口がチョコラータに向けられる。

 炎のごとき視線が、チョコラータを見据える。



 スピードワゴンは、ゆるがない。逃げない。退かない。悪に対しては、絶対に。



(何故止まらない――!?)

 チョコラータには理解できない。この男は、力無き弱者のはずなのに!!

 チョコラータは意識せぬまま、取るに足らない凡人を前に、一歩退いた。





 ダンッ!!



 床を踏む音がたつ。スピードワゴン、3階への潜入、達成。

 チョコラータとスピードワゴンの距離、1メートル。



「『戦いの思考』……『北風が勇者バイキングを作った』。窮地へと踏み込むことが、勝機を生むッ!!」



 銃弾の嵐が吹き荒れた。



「ぬうっ!!」



 チョコラータはスタンドを持って必死に弾丸をはじく。だが、グリーン・ディの速度は並みである。一発二発ならともかく、数十発を防ぎきるのは至難の技。

「キイイイイコエエエエエエエ!!」

 チョコラータは苦肉の策を選択した。



 ゴゴンッ!!



 スタンドの腕が思い切り床を叩く。その反作用によってチョコラータの身体が浮き上がった。跳躍した肉体は弾丸の洗礼を受ける。

 だが幸運としかいいようがないことに、頭部や心臓に当たることはなかった。他の弾痕はすぐにカビで塞ぎ、止血する。

 そしてスピードワゴンの頭上を越え、外へと逃亡することに成功する。そして、下にいる者達に目を向ける。そして、一番組みやすそうな相手を判別した。

(人質が、必要だ!!)

「ぎょっええああああッ!!」

 グリーン・ディで家の壁を殴り、落下方向を修正。



 その落下方向にいる者は……サース・セム・イーリア。

「サース撃て!」

 ワイドの言葉に弾かれたように、サースはサブマシンガンを構え、引き金を引く。

 何も、起こらない。



「弾切れっ!?」

「逃げろサース!!」



 重ちーとホースキンが叫ぶ。だが支援は間に合わない。

 サースは動かない。

 チョコラータが目前に迫る。



「逃げても無駄だッ!!」

 チョコラータが言い放つ。



 サースは、



「北風が……」



 一歩、



「バイキングを」



 踏み出した。



「作った!!」



 サースはとっさにサブマシンガンの銃身(バレル)を握り、思い切り振りかぶった。

 グリップがチョコラータの顔面に吸い込まれ、したたかに殴打する。歯が2本折れ飛び、キリキリと回転しながら道路に突き刺さるように頭から落下する。

 2度バウンドし、ズザザザという音をたてて道路で身を削った後、ようやく静止した。



 そのまま、ピクリとも動かなくなる。

 周囲をハーヴェストが囲み、誰もが息を殺して、その動きを警戒した。



 3階に残されたスピードワゴンは、窓からそっと手を出し、自分の足の位置よりも下に下ろした。



 カビは生えなかった。



「……カビは消えた。俺たちの勝利だ!!」



 この高らかな勝利宣言が下されたのは、午前1時53分のことであった。



   ―――――――――――――――――――――



「ああ、そうだ。もうカビの心配はない」

 スピードワゴンはユウナと連絡を取っている。

『そうか……本当によくやってくれたよ』

「礼なら、SPW隊のメンバーに言ってくれ」

 これからの対応についても多少話はしたが、SPW隊の仕事はこれで終わりだ。

 後の始末は上層部にゆだねることになる。しかしスタンドのことを伏せたまま、この事件の説明をつけるのは中々難しいだろう。

 スピードワゴンはユウナの気苦労を思い、同情した。しかし、人の同情をしてもいられないのだ。

「隊長……そろそろ、この馬鹿げた冗談みてえな事件について、説明してくれねえか?」

 連絡を終えたスピードワゴンの背中に、ワイドの声がかかった。

 言いたいことはよくわかる。ここまでのものを見せられて、ウイルス兵器などという言い訳は通るまい。

(しかし……どう話したものか)

 ワイド、ホースキン、サース、気絶から目覚めたファンフェルトの顔を見ながら、スピードワゴンは腕組みをして考えこむ。





「えーと、まずはだな」



 ザガッ!!



「なにィッ!?」

 スピードワゴンの右方向から黒い影が躍りかかった。

 いきなりの襲撃に、スピードワゴンは腕を交差させて顔を防御するものの、突き倒されてしまう。

 黒い影は走り、倒れ伏すチョコラータへと向かう。黒い影の正体は、チョコラータの『下半身』であった。

 茂みから『右腕』も姿を見せ、チョコラータの上半身とくっつく。上半身と下半身も繋がり、チョコラータは五体満足な状態に戻った。

「ウヘヘヘヘこのアホどもがーーッ! 今回はしてやられたが、逃げ延びれば最終的に私の勝利だッ!!」

 チョコラータは大通りの外へと走る。

「くそッ!! 追うんだ! もうカビを出す力はないはずだ!!」

 もしもカビを使えるのなら、下水道へ逃げるはずである。そうすれば追いかけようがないからだ。

 なのにそうしないということは、下に降りることで繁殖するカビは、もう使えないということだ。そのスピードワゴンの判断は当たっていた。

(もはやカビを蔓延させるだけのスタンドパワーはない! だが、だがまだ手はある!!)

 チョコラータは走り、目当てのものに辿り着く。

 オーブの軍用車。さきほど囮にしたオーブ軍人のものだ。無論、キーは奪ってある。

「これで逃げて、身を潜め……スタンドパワーが戻り次第ッ!! またやってやるぞ!!」

 エンジンがかかり、タイヤが回転を始める。そして、人の足では到底適わない速度で、自動車は走り出した。



 ―――――――――――――――――――――



 遠ざかっていく自動車を眺めながら、スピードワゴンは重ちーに訊く。

「……やったか?」

「オラのハーヴェストなら、楽勝だど」

 重ちーの足元に三十体以上のハーヴェストが並び、そのどれもが、小さな機械部品を持っていた。

「オラのハーヴェストはなんだって集め取ってくるど。『自動車の部品』だって……」



 やがて激しい爆音が耳に届いた。

「カーブでブレーキがかからなかった、とかかねぇ」

 煙が立ち昇るのを見て、スピードワゴンは通信機で連絡を取ることにした。消火活動は自分たちでは無理だろうから。



 ―――――――――――――――――――――





「ぬ、ぐ、ぐぐう……」



 チョコラータは目を開いた。

 体中に痛みが走り、ろくに動くこともできない。視線をずらすと、家屋に突っ込んだ自動車と、燃え盛る家が見える。

(そうだ、確か私はあの車に乗っていた……なぜ助かった?)

 どうやら自分は芝生の上に寝かせられているらしい。そこに、



「気がついたようだな。死んでも不思議ではない傷だったが、しぶといものだ」



 声がかけられた。

「ッ!!」

 SPW隊のものではない。その声の主は、チョコラータの死角から、見える位置へと姿を現した。

「……誰だ貴様は」

 顔はよく見えない。声質からして男のようだが、聴き覚えはない。

「ご同類だ。ジブリールの命令で、お前を監視していた」

「何?」

「お前と同じ手段でオーブに潜入し、お前の動向を探っていた。もしもお前がやりすぎるようなら、消せと言われていた」

「なッ!!」

 チョコラータは思わず身を起こそうとするが、痛むだけで体が動かない。

「無駄だ。さっきの衝突で肉体に相当の衝撃を受けた上に、炎であぶられたのだから。治療を受けなければ、このままでも充分に死ぬ」

「私をどうするつもりだ……」

 チョコラータは割りと落ち着いていた。始末するなら、とっくにやっているはず。生かしておくつもりがあるのだろうと踏んだのだ。

「それだが……お前、このまま死んだことにするつもりはないか?」

 男がチョコラータの顔を覗き込みながら言う。そこでやっと、チョコラータは男の顔をはっきりと見た。

 確か大西洋連邦の、というよりはブルーコスモスの暗殺者であり、テロリストとしても手配されている男である。

「あの自動車からお前を助け出したあと、適当な死体を放り込んでおいた。あの火力だ。消火される前に骨まで灰になる。そうなれば、お前が生きているとわかる者はいない。オーブも、ジブリールもだ」


「……ジブリールを裏切れと言うのか。裏切って、どうしろと?」



「とりあえず、私の『もう一人の雇い主』と会ってもらおう。話はそれからだ」



 チョコラータは考えるまでもなかった。どうせこのままなら死ぬのだ。ならば生きる望みのある方に賭けるのは当然。彼は首を縦に振り、承諾の意を示した。

「よし。では運ぶぞ」

 男はチョコラータを軽々と担ぎ上げ、人が来る前に闇の中に姿を消した。

 惨劇の舞台を後に残して。新たなる舞台の幕を上げるために。



 ―――――――――――――――――――――



 死者312名。

 負傷者1128名。



 オーブ最悪の一夜として歴史に刻まれる事件は、ここに終結した。



 また、このときスピードワゴンが発した『戦いの思考』は、隊員たちの口から伝播し、伝えられていくことになる。オーブを救った教えとして。



 






TO BE CONTINUED