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KtKs◆SEED―BIZARRE_第15話

Last-modified: 2008-06-28 (土) 00:05:16

『PHASE 15:明日なきインド洋』

 
 
 

「お前は何を言っているんだ」

 

 オーブへと帰還し、ユウナから事情を聴いたアスランは始めにそう言った。別にユウナに疑いを覚えたわけではなく、本当にわけがわからなかったからである。
「フリーダムとアークエンジェルがカガリを拉致した? そんなことあるわけないだろう」
 フリーダムということは、犯人はキラやラクスたちということになるが、彼らがそんなことをする理由はない。

 

「いや、そう思うのも無理はないが、事実なんだ。マスコミのカメラにも映ってる。動機は皆目見当つかないが、カガリをさらったのは彼らに間違いない」
「……本当に本物なのか?」
「偽者だとして、彼らを装うメリットがあるのかい?」

 

 確かに、せいぜいキラたちの評判を落とすくらいしか意味はない。

 

「今のところ、犯行声明も出ていないし、どう対応したらいいのか方針もしっかり立っていない状況だよ。国際的にこの蛮行を訴えるつもりではあるけどね……
それで今後のことだけど、デュランダル議長の頼みを聞き届けることにするよ。君にはミネルバに行ってもらう」
「いいのか?」

 

 ユウナがこうもあっさりと要求を呑んだことが、少し意外であった。その考えを読み取ったのか、ユウナは説明する。

 

「確かに、セイバーなんて最新鋭兵器をいきなり渡してきたり、ザフトへの複隊だけならまだしも、特別権限を持ったフェイスなんてものに任命したりと、あまりに旨すぎて怪しくはあるが……怪しいからこそ、食いついて見る価値はある」
「言いたいことはわかるが、食いついて釣り針や毒が仕掛けられていたらどうする?」
「仕掛けにひっかかる前に気づくくらいは、期待してもいいだろう? なぁに、君にならできるさ」
「簡単に言ってくれるな」

 

 アスランは苦笑する。対するユウナは真顔で言う。

 

「今のオーブは正直いっぱいいっぱいだ。カガリはさらわれ、父は病院、ぶっちゃけ一番の政治的実力者が青二才のこの僕という体たらく。フリーダムの行動で国民も混乱してる。外に向けて動ける状況じゃない」

 
 

 今のユウナは父ウナトの地位である、宰相の代理ということらしい。今のところ、オーブへの攻撃を行うという動きはない。連合もプラント対策で手一杯なのだろう。
 だがそれは同時に、連合の攻撃はプラントに集中するということだ。協力を申し込んでおいて、手をこまねいているわけにはいかない。

 

「そういうわけで、今プラントに行える協力は、君を派遣するくらいなんだ」
「つまり俺はオーブ代表ということか。責任重大だな」
「責任は僕が取るさ。責任者は責任を取るのがお仕事だからね。それと、カガリの、そしてアークエンジェルの情報を集めてもらうのにも、外に出た方がいいだろう。
これからカガリ捜索依頼を含めた諸々の書類をまとめて……それからあのセイバーも調べたいところだし、そうだね明日にでも飛んでもらうよ」
「わかった」

 

 キラたちの行動は不可解であるが、彼らがカガリを害するとも思えない。その辺りについては安心していたアスランは、まず自分ができることをすることに思考を切り替えた。

 

「頼むよ。オーブと、カガリのために」

 

 そしてどちらからともなく、アスランとユウナは手を差し出し、握り合った。趣味も得意分野も違う、かつては嫌いあっていた二人は、同じ守るべきものと覚悟のもとに、分かり合っていた。
 そして翌日早朝、アスランはミネルバの待つカーペンタリア基地へ飛んだ。使命感と不安とを半々に。

 
 

 カーペンタリアを訪れたアスランを最初に出迎えたのは、いわく言いがたい表情をしたシン・アスカであった。どういう感情を向ければいいのかわからないという感じだ。

 

「ザフトに戻ったんですか?」
「いや、正確には違うな。オーブから派遣された形だ」
「……それでいてフェイスって、そういうのって、いいんですか?」

 

 フェイス(FAITH) は、評議会直属の特務隊。国防委員会や評議会議長に戦績・人格ともに優れていると認められた者が任命される。
 通常の命令系統には属さず、並みの指揮官クラスより上の権限を持ち、現場レベルなら作戦の立案、実行の命令もできる。ザフトのトップエリートと言うべき存在である。
 他国の人間に与えられるようなものでは、ありえない。

 

「さあ、デュランダル議長とユウナ宰相代理が認めたんだから、いいんじゃないか?」

 

 シンは納得いかないという顔を見せたが、そのことは置いて、別のことを、もっと気になっていることを口にする。

 

「……あの女がさらわれたって聴きました。オーブはどうなっているんですか」
「今はまだなんとも言えないな。ひどく混乱しているのは確かだが、このくらいで潰れるほど弱い国じゃないさ。君の故郷は」

 

 シンは一瞬ほっとした顔を見せたが、それを恥じるようにすぐさま打ち消し、憮然とした表情を繕った。アスランはその変化に笑いそうになるのを、どうにか堪える。

 

「話はまた後で……まず艦長に挨拶にいかなきゃな」

 

 アスランはそう言って歩き出す。

 

(なんか、前会ったときより余裕? があるみたいな気がするな……)

 

 シンがそう思っていると、アスランが不意に立ち止まり、シンの方を振り返り言った。

 

「言い忘れていたことがあった。ポルナレフさんからの伝言だ。『じきに俺もそっちに行く。それまで艦を沈ませるんじゃないぞ。タリア艦長やアスランの言うことはちゃんと聞いておけ。暴走すんなよ』だそうだ」

 

 シンは目を丸くしたが、やがて口元をほころばせ、次にアスランに怒鳴り声をあげた。

 

「それを早く言えよ!!」

 

 敬語も忘れたシンの声に、アスランは今度こそ大笑いした。

 
 

「あいつは本当にポルナレフさんに懐いているようだな」

 

 アスランは艦長室に向かいながら、シンの表情を思い返して呟く。その声に、一応艦長室への案内として、共に歩いているルナマリアが反応した。

 

「そうですね。あいつ他の教官や上司には反発してばかりなのに、ポルナレフ教官の言うことは文句言いつつもちゃんと聞くんですよ。私もまあ面白い人だとは思いますよ。女好きですけど」

 

(実際、ポルナレフさんは大した人だからな。影響力もある)

 

 アスラン自身、影響を受けている一人だ。ポルナレフにはそこいらの人間にはないエネルギーがある。生命力の強さというか、タフネスというか、コーディネイターだの遺伝子の優秀さだのをどうでもよくしてしまう、強さがある。
 それはウェザーや形兆にも言えることだ。

 

(なんだかんだで、俺たちは遺伝子に振り回されている。だが彼らは、そんなもの気にせず、人間としての本質が強い)

 

 そこに痺れる。憧れる。自分たちが忘れてしまったものを、彼らは持っているのだ。

 

 艦長室についたアスランは、議長から預かった書類と、ユウナからの書類を、タリア艦長に渡した。

 

「オーブの人間であるあなたをフェイスにして、最新鋭の機体を渡し、そして私もフェイスに……何を考えているのかしらね。議長は」
「私にもわかりかねます」

 

 アスランはポルナレフに、議長の意図を尋ねてみたが、返事はこうだった。

 

『いちいち気にしたってしょうがねえって。俺も頭いい方じゃねえし……都合のいいところ貰っておいてよ、何か悪いこと企んでるとわかったら止めればいいのさ』

 

 なるほどとアスランは頷いた。彼らしいシンプルな答えだ。だがどうやらポルナレフも議長のことはあまり信頼していないようだ。

 

『とことん悪い奴ってわけじゃないだろうが、根っからの善人とも思えねえ。キャラ的に。でも世話になってるし、できれば敵にしたくはねえな。サラ……あ、俺の友人な。そいつもデュランダルが何か企んでるっぽいっつうんだがよ、
俺には【騙されないように注意した方がいいけど、注意したところであんたじゃどうせ騙されるんだろうから、気にしても始まらない。自然にしてろ】、なんて言うんだぜ? 俺を何だと思ってやがんだ』

 

 確かにデュランダル議長は油断ならない相手には違いない。だがそれを思い煩っていてもどうしようもない。不毛な思考を中断し、アスランはタリアと話をする。

 
 

「この命令によると、ミネルバは今後、ジブラルタルへ向かい、現在スエズ攻略を行っている駐留軍を支援せよ、ということよ」

 

 現在、スエズは最も混乱の激しい地域である。ユーラシア西側は、大西洋連邦の横暴に反発し分離独立を求める一派が、紛争を起こしている。元々大西洋連邦の支配下にあるに近い地球に、不満を抱く者は多かった。
 そこにこの戦争である。ユニウスセブン落下の被害に苦しんでいるというのに、無理矢理出兵を要求され、我慢の限界に達したということだろう。

 

「それらの多くを地球軍は力で押さえつけようとして……酷いことになっているみたいね」

 

 アスランはタリアの言い方に、疑問を覚えた。

 

「多くを……ということは、少しは力以外で何とかしようとしているところもある、と?」
「聞き逃さないのね。ええ、確かにほんの一握りだけど、あるわ。極力、対話によって解決しようとしているところがね……『スリーピング・スレイヴ』って、聴いたことはない?」

 

 あまり情報通ではないアスランも、その名は知っていた。

 

「『平和の敵よ心せよ、眠れる奴隷が目を覚ます』……軍における唯一の民衆の味方と讃えられる、治安維持特別部隊」
「そう、情報は少ないけれど、あなたも噂くらい耳にするでしょ? 人気者ですもの。今起きている紛争も、彼らの活動がなければ、より大きなものになっていたかもしれないわ。
けど、スリーピング・スレイヴも対話でどうにもならなければ、力を振るいもする。私たちがその地方に行けば、彼らと戦うことになるかもしれない」

 

 アスランは頷く。話に聞けば、隊長ブローノ・ブチャラティ率いるその部隊は優秀にして強力。自分たちの十倍規模の敵との戦いにも勝利したという。

 

(民衆の味方、か。できれば戦いたくないな、力量的にも、心情的にも)

 

 アスランもタリアも知らない。すでに彼らとやりあっているということを。
 そしてアスランがやってきた次の朝、ミネルバはカーペンタリアを出港する。新たな戦場を目指して。

 
 
 

〔当部隊のウィンダムを全機出せだと!? 何をふざけたことを言っている!〕

 

 インド洋上に浮かぶ地球連合軍空母、『J.P.ジョーンズ』の艦橋で、ネオは通信機の向こうの相手に怒声をあげられていた。

 

「ふざけてるのはどっちだよ。相手はボズゴロフ級の潜水艦と、ザフト最新鋭艦ミネルバだぞ? 全力出さないでどうする」

 

 ネオはあえて高圧的に言い放つ。相手が下手に出れば付け上がるだけの人間であると、読んだためだ。

 

〔我々は対カーペンタリア前線基地を造るために派遣されているのだぞ!! その任務をおろそかにして、貴下にMSを出すなど……〕
「その基地も何も、すべてはザフトを討つためだろ? 寝ぼけたこと言ってないで言うことを聴け!! ここの護衛にはガイアを置いていってやる!!」

 

 そもそも、基地発見の危険性にもかかわらず、ネオにこの近辺での戦闘を、上層部が許したということは、上層部はこの基地の完成を諦めたということだ。
 上層部としては、自分たちから基地建設計画の失敗を言い出したくないから、基地建設部隊のミスによって基地を見つけられ、計画が終わってしまう、という形にしたいのだろう。
 彼らは、失敗の責任を押し付けられる未来に気づいていない。ネオもそれを教えてやるほど、義理は無い。

 

〔いやしかし……〕
〔いいんじゃないか?〕

 

 突如、向こうから新しい声が発せられた。

 

〔この基地にMSがあったところで、作りかけの今じゃ発見されたらそこでおしまいだ。彼らに使ってもらった方が役に立つんじゃないかな?〕

 

 向こう側の司令官に対し、随分な言いようだ。ネオは声の正体がつかめず、首をひねる。

 

「そう言って頂くのはありがたいが……貴官は一体?」
〔ああ。わたしは『ブードゥーキングダム』。それでわかるだろう?〕
「……!!」

 

 声の返事に、ネオは一瞬息を呑む。

 

『ブードゥーキングダム』――それはネオたちファントムペインとはまた別に、最近作られた特殊部隊。
 部隊というよりは、ロード・ジブリールの私兵集団であり、ロゴスやブルーコスモスの指揮系統にも組み込まれない、ジブリールのためだけの戦力である。
 同時に、ジブリールの許可を受ければ、あらゆる行動を許される存在でもある。その内部情報は一切不明。まさに『闇の王国(ブードゥーキングダム)』の名のとおりである。

 

「……なるほどね。それで、ウィンダムは借りれるってことでいいんだな?」
〔ああ。ただし、わたしは今、君らファントムペインに命令する権利も持っている。それを憶えておいてもらおう〕

 

 気取った口ぶりに、ネオは顔をしかめながらも了承した。

 
 

「まったく! 何がファントムペインだ!!」

 

 司令官は通信を終えて、忌々しそうに吐き捨てる。本当は司令室にいるブードゥーキングダムの人間も怒りの対象であったのだが、面と向かって言えはしない。

 

「……司令官」
「何だ!!」

 

 憤懣やるかたない彼に、部下がおそるおそる話しかけた。

 

「現地の者たちが、責任者を出せと、押しかけてきています」

 

 この基地は、地球連合に加わる国の一つ、赤道連合に属する島に建設されている。
 基地建設のさい、人の住んでいない土地を選び、現地の人間とも話し合いはすませてある。
 最初は現地人を強制的に収容し、働かせるという案も出たのだが、スリーピング・スレイヴなどという煩いものができたため、廃案となった。
 そしてできるだけ穏便にことを行っているのだが、軍事基地が付近の人間に歓迎されるはずもない。

 

「今更抗議など受け付けんぞ! 話し合いはとうに終わった!!」
「それが……どうも部隊の人間が、女性に暴行を働いたと向こうは主張しておりまして」

 

 なんたることだ。司令官は暗然となる。なんでこの厄介なときに厄介なことをしてくれるのだ。

 

「くッ……今は忙しい。とりあえずお前が話だけ聴いておけ。詳しいことは後日だ」

 

 司令官は気づかなかった。ブードゥーキングダムの男が、猟奇的な猫のような笑みを浮かべたことを。

 
 

「大丈夫かね……連合の軍人ってのは荒っぽいそうじゃないか?」
「今更そんなことを言っても仕方ないだろう」

 

 男は友人に言う。

 

「そうだよ。それにこの兄さんがいてくれりゃ安心さ!」

 

 別の友人が男の肩を叩く。その言葉に、二十人ほどいた現地の人々の顔に笑みが浮かぶ。誰もが信頼しているのだ。この男を。

 

「まあ、何があっても最善は尽くすさ」

 

 二年前、男は彼らの村にやってきた。そこがどこかもわからない男を、村の人たちは快く迎え入れてくれた。
 やがて、彼は『この世界』のことを知るために旅に出たが、時にはこの村に戻ってきていた。その村は男にとって第二の故郷だった。
 あのユニウスセブン落下の後、心配になって村に来て見たが、幸い被害は大したことなかったが、村でも特に男の世話をしてくれた村の長老が、ショックで寝込んでいた。 男は恩返しとばかりに村に滞在し、長老の世話をした。
 やがて長老の具合もよくなって、また旅に戻ろうかと考えたところに、この騒ぎだ。

 

(面倒ごとは尽きない……いや俺が世話をやきすぎるのかな?)

 

 そう思うものの、男が村人たちを助けないという選択肢はありえないことだった。
 男は知らない。この後に、更なる面倒ごとが訪れることを。

 
 

 出航から数時間後、ミネルバ及び、ボズゴロフ級潜水艦ニーラゴンゴは、熱源探知センサーによって連合MSウィンダム三十機と、カオスの存在を捕らえていた。
 シンとアスランが、それぞれのMSに搭乗する。コクピットに入ったシンに、アスランから通信が入る。

 

「発進後の戦闘指揮は俺が執ることになった」
「ええっ……いや、いいすけど」

 

 シンはアスランの言葉に、若干納得いかないものを持ちながらも、了承する。アスランに向けられる感情は、オーブのこともあって少々複雑ではあるが、悪い人間とは思っていない。ポルナレフの言いつけもある。

 

「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」

 

 二人のMSが出撃する。二人の目に敵MS部隊の姿が飛び込んできた。
 赤紫のウィンダムに乗るネオは、見覚えの無い赤いMSに気づき、コンピュータ照合を行なう。だがデータはない。

 

「また新型か」

 

 ザフトの技術力に感心しながらも余裕を持ち、どう対処するか考えを巡らせる。

 

「ふん! あんなモノ……! それよりアイツは……」

 

 カオスに乗るスティングはそう呟き、暗緑色のザク、形兆の搭乗機を探す。

 

「ちっ、まだ出てきてないか。なら、とりあえずこいつらをッ!」

 

 カオスがウィンダムの集団から突出し、セイバーへと向かう。
 ネオはそれを止めない。MSとパイロット、共にウィンダム部隊と差がありすぎて、ろくな連携プレイはできまい。
 実力的につりあうネオ、ステラ、アウルとならばできるのだろうが、ネオはウィンダム部隊の指揮を執らなくてはならない。ステラはガイアが海で戦闘できないために戦えない。アウルはアビスで海中から攻撃を仕掛けている。

 

「しょうがないねまったく。まああいつなら大丈夫か……じゃあやるかね、白いの!」

 

 カオスがセイバーにビームと機関銃の弾丸を叩き付ける。だが機動力重視でつくられたセイバーは、驚異的な加速でその攻撃をかわし、雲の中に入り込む。
 そして雲の向こうからカオスに向けて、ビームが放たれた。だがビームは紙一重でカオスから外れる。

 

「ちいっ、なるほど、ほんのちょっとはやるじゃねえかッ!」

 

 更に放たれるビームをシールドで防ぎながら、スティングはこの新型機を強敵と認めた。

 
 

「ええい! 数ばかりごちゃごちゃと!」

 

 一方シンは、ウィンダム十機以上を一人で相手にしていた。四方八方からビームが放たれるが、シンは動き回って回避する。
 ウィンダム一機一機はシンの敵ではないが、この数では厳しい。
 最初こそ際立った性能を持つインパルスに次々と撃墜されていったが、次第にその動きに慣れたらしく、こちらが攻撃しようとすれば、その隙を別の機体が突いてくる。

 

「シン、出過ぎだぞ! 何やってる!」

 

 アスランからの通信に気がつけば、ミネルバからかなり引き剥がされている。ここにいる以外のウィンダムは、ミネルバに向かっているのが見えた。

 

「これが狙いか!」

 

 このまま戦っても落とされる気はしないが、本命(ミネルバ)が落とされてしまっては意味がない。
 しかし、そう簡単に落とせるミネルバではない。ミネルバ自体の強さと、何よりうちのMSはまだ三機もいるのだから。

 
 

 ウィンダムへの対処として、ミネルバから暗緑色のブレイズザクファントムが出撃する。

 

「まあものは考えようだな……カオスはアスランが、ウィンダムの大多数はシンが抑えている。俺は網から漏れた雑魚を潰せばいい」

 

 形兆は呟き、自らのザクを動かす。ミネルバを向かうウィンダムに対しビームを発射する。ミネルバからもミサイルの攻撃がなされた。それによって上空のウィンダムは足止めされてしまう。

 

「こっちはこれでいいが……」
『海中からMS接近! これは…アビスです!』
「やっぱ来るよな」

 

 ミネルバからの通信を聴き、形兆は納得する。挟み撃ちは戦術の基本中の基本。しかもミネルバは宇宙船だ。水中の敵への対処方法はない。

 

「弱点を順当に狙ってきたわけだが、さて」

 

 やがてニーラゴンゴから水中用MS・グーンが三機、発進したという連絡が入った。このためにいるのだから当然だ。こちらもレイとルナマリアを出すそうだ。戦力的には互角と見ていいだろう。
 形兆は戦況の分析をしながらも、迫り来るウィンダムを確実に落としていった。

 
 

「やはりやるな……だがもう終わりだ」

 

 ウィンダム部隊はすでに五機ほどに減らされていたが、ネオは不敵に笑った。敵機のエネルギー消耗も少なくはないはず。
 だが自分はエネルギーを温存していたし、陸地も近く、ガイアの支援も望める。
 シンに勝つために、今残っている以外のウィンダムとパイロットを生贄としたことを、ネオは自覚していた。命を使い捨てにする恥ずべき行為だ。
 少し前までのネオならば、気にはしなかっただろう。
 自分と親しいわけでもない者に、いちいち構ってはいられない。勝つための行為なのだから、どれほどの犠牲が出てもすべて正しい。
 だが、彼らなら。ブチャラティたちならば、このような行為は許すまい。部下を使い捨てにするような行為は。そう思うと、自分が酷く嫌になる。

 

「それでも、どんな手を使ってでも勝たなきゃならんのが……ファントムペインのつらいとこだ……」

 

 勝てないファントムペインに存在価値はない。存在価値がないもの末路は滅びだけ。
 自分はせめて、あの三人の子供たちを生かしたい。そのためなら何でもしてやると決めたのだ。だからこの選択に後悔はない。

 

「ネオ! スティング! こっちは潜水艦をやっつけたぜ!」

 

 アウルが陽気に言う。しばらく弱敵を弄ぶものと思っていたが、最近、アウルたちは戦闘に対して真剣になったように思える。
 やはりブチャラティの言うとおり、恐怖を知らぬ戦士などノミの同類、真の強者たりえないということなのだろうか。

 

「ようし、こっちも負けちゃいられないな!」

 

 そしてネオが、インパルスからの攻撃をいなし、相手にビーム砲の照準を合わせた時、

 

〔引いてくれないか? ロアノーク大佐〕

 

 その通信が入った。

 

「なっ……ブードゥーキングダムの!」
〔そうだ。それがわかっているのなら、この命令に逆らってはならないことも、わかっているだろう?〕

 

 そして男は、もう少し陸地に引き付けてから、ファントムペインはJ.P.ジョーンズに戻るように命令を下した。

 

(もう少しで、あいつを倒せるというのに!)

 

 ネオは唇を歪め、怒りの表情をつくったが、どうしようもなかった。彼の命令に逆らうことはできない。
 結局自分は、ただ命を無駄にしただけだったわけだ。自分の情けなさに涙が出そうだった。
 その時には、ウィンダムはすべて撃墜されていた。

 
 

「なんだってんだ……?」

 

 シンはやや呆気にとられた様子で、敵の動きを見ていた。さっきの瞬間、もう駄目だと思った。
 致命的な隙をつくってしまい、それを見逃すような相手ではなかったのだ。
 だが、予想に反して攻撃はなかった。それどころか、カオスやアビスもまとめて引き上げてしまったのだ。
 シンは奇妙に思いながら、何気なく大地を見下ろしたとき、予想外のものを発見した。

 

「……基地!?」

 

 間違えようもない。滑走路が伸び、銃や砲台が備え付けられ、格納庫が並んでいる。それは連合の基地に間違いなかった。

 

「こんなカーペンタリア基地の目と鼻の先でよくも……今までなんで気づかなかったんだ?」

 

 シンは敵の度胸と、味方の迂闊さに呆れつつ、基地の前に降り立ち、報告をする。

 

「……攻撃してこないな」

 

 MS部隊を撃破されて諦めたのだろうか。そうしていると、アスランのセイバーが隣に降り立った。

 

「シン! 勝手に動くんじゃない!」

 

 アスランは一言叱責した後、外部スピーカーに切り替え、

 

「この基地にいる者たちに告ぐ。諸君らのMS部隊は全滅した。大人しく降伏するというのなら、身の安全は保障する!」

 

 そう促すが、反応はない。

 

「どうしたんだ……?」

 

基地の規模からして、何十人もの軍人がいるはずだが、どこにも姿を見ることはできない。攻撃してくる気配もない。

 

「俺、ちょっと見てきます」

 

 シンはそれだけ言うと、アスランが止める間もなくインパルスから降り、基地内部へと入っていった。

 

「なっ、こら待てシン! ったく!」

 

 アスランは頭を掻き毟る。扱いづらいというか、無茶苦茶だ。行動力がありすぎる。しかしこの行動力が、シンの価値であることも否定できないのが難しいところだ。

 

「仕方ないな……ミネルバ、こちらアスラン。私とシンは、これより基地内部の調査を開始します。30分経っても連絡がなければ、応援をよこしてください」

 

 こうしてアスランもまた、セイバーを降り、シンを追った。

 
 

 基地に乗り込んでくる二人を見て、ブードゥーキングダムの男はほくそえむ。双眼鏡を目から離すと、歓迎を始めることにした。

 

 こうしていると、あのときを思い出す。あのとき、自分が死んだときも、このようにしていた。
 自分が一度死んだあの日、彼は一心に救いを求めた。
 死にたくない。生きていたい。
 事切れようとした一瞬、彼は全身を光で包まれたような感覚を得た。
 そして意識が暗闇に落ち、永遠とも思えるほどに深い眠りより覚めたとき、かれは『この世界』にいた。
 まさしく、『奇跡』。ましてや死者の復活など、『あの方』にしかできないことだ。

 

「『あの方』は私を救ってくださった! 私は、選ばれたのだ!」

 

 選ばれたことへの歓喜を抱きながら、しかしなぜ、本来の世界に復活しなかったのか。彼は不思議に思ったが、やがて謎は解けた。

 

「さあ、この世界を救わねばならない。コーディネイターによって汚されたこの世界を、私が浄化する!」

 

 それが、彼がこの世界に呼ばれた理由だと、彼は信じた。真実はわからないが、少なくとも彼にとっては、疑いようのない真実だった。

 
 

 基地内を散策して五分ばかり経つが、誰も出ては来ない。あとは建物の中だけだが、もし待ち構えているとなると、さすがに入るのは危険だ。

 

「犬の子一匹出てこない……逃げたのか?」

 

 シンの呟きを、アスランが否定する。

 

「いや、そう素早く逃げられるとは思えない。もしも逃げたとすれば時間的に、俺たちが戦闘を始める前からでなくては間に合わない。そんな敵前逃亡を行うとは考えにくい。それに自動車も置きっぱなしだ」

 

 そう言いながらも、アスランは状況の奇妙さに首をひねる。そんな彼の目が、あるものを捕らえた。

 

「なんだこれは……」

 

 格納庫の壁にいくつもの銃痕があった。そして、その場に放り捨てられたようなサブマシンガン。サブマシンガンには微量であるが、赤黒いものがこびりついていた。

 

「血……?」

 

 戦闘が、行われていたというのか? 自分たちが来る前に何者と?
 考え込んでいると、シンの方でドタドタという物音がした。

 

「どうした!」

 

 行ってみると、シンが座り込んだ男の顔に、拳銃を突きつけていた。地球軍の軍服を着ていることから、この基地の人間であることは間違いない。手を上げて、無抵抗の意を表している。
 床に一丁の拳銃が落ちているのは、彼のものであろう。顔が腫れているところからして、シンを見つけ銃をかざしたが、引き金を引く前に殴られて銃を落とし、降伏する羽目になったというところか。

 

「何者だ?」
「……私はブルート・リンブルグ、階級は軍曹だ」

 

 髭を生やした、筋肉質の大男であり、格闘技術には長けていると見受けられた。アスランは、この男を倒したシンの身体能力を脳裏で評価する。

 

「他の軍人たちはどこだ?」
「この先の本部だ。隊長たちは武器を持って立て篭もり、篭城戦を考えている」
「篭城戦ね……救援が来るとも思えないが」

 

 助けを当てにできない篭城戦など、敗北を遅らせるだけで最終的には無駄である。しかし人間誰もが、いつでも合理的というわけでもない。

 

「どうすんです?」

 

 なってない言葉遣いのシンに、ちょっと眉をひそめながらアスランは通信機を取り出す。とりあえず状況をミネルバに知らせないといけない。だがそこで、シンが怪訝そうに声を出した。

 

「……? おいお前、そんなに口、でかかったか?」

 

 濃い髭が邪魔でわかりにくかったが、ブルートの口は明らかにさっきよりも大きくなっていた。いや、今もなお大きくなっている。
 ピリピリと裂けるように広がり、今や口の端が耳元まできている。

 

「へへへ、連絡は……できねえ、ぜッ」

 

 バシッ

 アスランの右手で音がした。見れば、その手に通信機はなかった。
 通信機は、一瞬にしてアスランの背後まで跳躍したブルートの手の中にあり、そして、ゴキャリと握り潰された。
 その手は、カサカサに乾燥しているように見えた。肌がひび割れてウロコのようになっている。爪は鋭く尖り、悪魔のようだ。

 

「な、んだ、今の動きは、何者だ貴様ッ!」

 

 アスランが銃を抜く。シンのものを含め、二丁の拳銃を突きつけられながら、ブルートは笑っていた。

 

「へへへ……脅してるつもりかよ? ぜーんぜん怖くねえな。お前らノロマだし、へへ、俺がブチのめして、連合軍のヒーローになってやるぜ……!」

 

 ブルートの軍服が、肌と同化していく。瞳は蛇のように細り、鼻先が突き出てくる。体の姿勢が前かがみになり、ブーツが破けて尖った爪先がのぞく。
 彼の背後では、細長いものが揺れているのが見えた。

 

「おい……だ、誰が『しっぽ』生やしていい、なんて言ったよ」

 

 シンが調子の外れたことを言う。さすがにこの光景に混乱しているのだろう。

 

「き・や・が・れ・ベ・イ・ビ・-」

 

 ブルートが人間に理解できる言葉を口にしたのは、それで最後だった。彼はもはや、人間ではなくなっていたから。
 二本足で立つそれのシルエットは、鳥に似ていた。しかし羽毛は無く、かわりに長い尾と、ナイフのような爪を備えた前足、そして鋸のような牙があった。
 長い首をくねらせながら、鼻息荒くこちらに視線を向けている。
 シンもアスランも知っていた。その存在の呼称を。一度も見たことはないし、誰にも見ることはできないそれを、しかし彼らは知っていた。
 それは過去に失われたものであり、そして今は無いものの中で、最も有名な存在なのだから。

 

「『恐竜』」

 

 どちらかが、あるいは、どちらもがその名前を口にした。
 二人のコーディネイターが目にしているものは紛れも無く、6500万年前の遥か過去に滅び去った、かつての地球の支配者の姿であった。

 
 

TO BE CONTINUED