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KtKs◆SEED―BIZARRE_第42話

Last-modified: 2010-12-12 (日) 12:55:34

 『PHASE 42:最後の戦い』

 
 

 会場を襲った勢力は数でいえばそう多いものではなかった。
会場に配備されたMSの数と比べれば、半分にも満たない。
しかしその奇妙さに、誰もが呆然とした。
 ザフトのグフやザク、連合のウィンダム、オーブのムラサメ、あらゆる軍のMSがそろっており、
どこの軍とも判別がつかない。
「横流し品か? あれだけそろえるなら国買った方が安いだろうな」
「いや。持っていた奴らが自分自身ごと献上したんだろう。
 何だかよくわからんが、彼女には異様なカリスマがある」
 会場内の要人に対する避難誘導にあたっていたブチャラティが、傍らのポルナレフに答える。
 敵勢力がラクス・クラインの率いるものであるということはわかっていた。
敵部隊の先頭に、ガンダムタイプのMSがあったためだ。
 名前はわからないが、先日、ラクス・クラインの所有する高速戦闘艦エターナル――
前大戦でクライン派に強奪され、そのままになっていたそれを、
宇宙で見つけたザフト軍を撃退した、深紅のMS。
 ブチャラティたちは知らないそのMSの名は、『インフィニットジャスティス』といった。
「あんなMS、ザフトでも連合でもオーブでもつくってねえ、
 ってことは自分たちの勢力下でつくったってことか。とんでもねえ話だが………
 そこまでのカリスマを持っているとは思えねえんだがな」
 ポルナレフはラクスに直接会ったことはない。
写真や映像では幾度か見たが、そこまで人を心酔させるものとは思わなかった。
確かに引き付けられる感触はあったが、かつて彼が出会ったカリスマの持ち主と比べると、
深みが足りないような気がするのだ。
(………まあDIOやジョルノ、ジョースターの血統やらと比べるのは酷かもしれねえが)
 ポルナレフは首を振って、無駄な疑問をかき消す。今は、客人の避難が先である。
(ここは任せるしかねえ。頼むぞシン)

 

   ◆

 

「あいつだ………!!」
 デスティニーのコクピットに入り、そこで敵MSの映像を見たシンは、息を呑み、確信した。
 敵部隊の先頭を飛ぶ2機のMS。一つは前もって情報を聞いていた。
宇宙でザフトのMS部隊、25機を2分で全滅させたMS。
光のような速さで飛びまわり、ビームサーベルを振るって敵機を紙のように容易く斬り裂いた怪物。
 しかし、シンが目を奪われたのはもう一つの方。あのフリーダムによく似たMS。
それに乗っているのが、もはや仇敵と呼べる、キラ・ヤマトだとシンは確信してしまった。
音を聞いただけでブルドーザーとわかるような、そんな感覚で、そうと分かった。
「これもSEEDか?………いやそんなことはどうだっていいな」
 シンはデスティニーの操縦桿を強く握る。
「ポルナレフ教官も、アスラン隊長も、あんたを止められなかった。
 もう、俺しか残っていない。だから、絶対に俺が止めて見せる!」
 キラの乗る機体、フリーダムの上を行く最新型MS、ストライクフリーダムを睨み、
シンは誓いの言葉を吠えた。

 

「シン・アスカ、デスティニー、行きます!!」

 

 運命の名を背負った機体が出撃し、その後を、レイ・ザ・バレル、ルナマリア・ホーク、虹村形兆が続く。

 両陣営の戦力が整い、最後の戦いは始まった。

 

   ◆

 

「さて、まったく面白くなってきやがったなオイ?」
 スティングはカオスに乗り込み、同じくアビスに乗り込んでいるアウルに通信を送った。
しかしいつも一緒にいるステラはいない。
 彼女の機体であるガイアは、彼女がロドニアのラボに攻め込んできた際に奪還され、
ザフトの施設に送られたはずなのだが、妙なことにその後、行方不明となっている。
 ものがものだけに、調査が急がれているが、まだ詳しい情報は入っていない。
 慣れた機体が無い現状、ステラはSPとして働いており、この状況でも出撃は無い。
「面白すぎるって実際。何考えてやがるんだか」
 アウルは呆れた表情で言う。宣戦布告もなく、大義名分も語らず、一方的な攻撃を仕掛けるということが、
世間からどう見られるかわかっているのだろうか。
いくら戦争と言えど、してはいけないことはあるというのに。
 世間の批判を回避する策があるのか、ただの考え無しの馬鹿なのか、アウルは首をひねる。
「なんだっていいだろ? こっちがやることは変わらないんだし」
「それもそうだな」
 軽い調子で話す二人に、叱責の声が入った。
「ちょっと真面目にやりなさいよ! 冗談じゃなく、世界の命運が懸かっているのよ!?」
 声の主はメイリン・ホークだった。今回、会場に割り当てられた戦力を束ねるのは、
ミネルバと艦長のタリア・グラディスである。
指揮系統をまとめるため、連合もオーブも、彼女の命令に従うことになっている。
 誰が全指揮権を握るかについては、色々と悶着があった。
だが、様々な政治的駆け引きがなされた上で、最終的に会場に割り当てることが可能な戦力で最大のものが
現時点でザフトのミネルバであったため、グラディスが選ばれた。
「おっと、おっかないのが来たぜ?」
「別に怖くはねえよ。うるせえだけだ」
 からかうアウルに、スティングは憮然とした様子で答える。
その言葉に更に怒りを燃え上がらせたメイリンは、怒りを言葉にするために口を開こうとした。
しかしそれより前に、
「お前に言われるまでもねえ。今更、誰だろうと、邪魔されてたまるかよ」
 メイリンの怒気を一瞬でかき消すほどに、強く、重く、熱い意志の込められた声だった。
スティングは、実際は激怒していたのだ。
 スティングはファントムペイン3人組の中では自然とリーダーの位置についており、
常識外れなステラや、我儘なところのあるアウルより、落ち着いた行動をとることができる。
普段出す怒りも単発的なもので、そう深いものではない。だが今回は違った。

 

「冗談じゃないだと? ああそりゃあそうさ。会議を潰そうとするだと?
 ネオの、ダイアーの、犠牲の上にようやくなった平和を潰そうとするだと?
 冗談じゃねえ。冗談じゃねえさ!!」
 カオスの発信準備を手慣れた動作で進めながら、自らの心情を吐き出す。
「俺はずっと戦うために生きてきた。平和なんざ知らねえ。戦争が続こうが終わろうが構わねえ。
 だがあいつらは終わらせようとしてきた。命を賭けて。
 ちょっと前は、命を賭けるってえことがよくわからなかったが、今なら分かる気がする。
 その覚悟の重さって奴も。
 あいつらに教わったことだ。誰よりも命を大切にした奴らが、その命を失くす覚悟で望んだことが、
 ようやく叶うってえのに邪魔するなんざ、俺は絶対に許さねえ………!!」

 

「………スティング」
 メイリンはそれ以上言葉が出なかった。
最悪な出会い方をした相手が、その後も何度も衝突し、会うたびに喧嘩した相手が、
自分に初めて見せる顔をしていた。燃える怒りと、今にも泣き出しそうな悲しみと、硬い決意と、
多くのものが混然一体となったその表情。
 メイリンはその表情をどう受け止めていいのかもわからなかった。ただ、目も耳も逸らすことはなかった。
「さあ、準備完了だ。出撃の時間だぜ!!」
「ああ、俺だってわかってるさ。あいつら、泣くまでぶちのめしてやる!!」
 スティングが吠え、アウルも内心の怒りを声にした。アウルも当然、この上なく怒っていた。

 

「スティング・オークレー、カオス、発進する!!」
「アウル・ニーダ、アビス、出るよ!!」

 

 天地は混沌(カオス)から生まれ、生命は深淵(アビス)より芽生えた。
 今ここに、新たなものを生み出す名をつけられた2機のMSが、戦場に身を躍らせた。
 彼らの仲間が求めた世界を、生み出すために。

 

   ◆

 

「あーあ、来ちゃったよ」
 FFはため息をつく。
 来てほしくは無かった。もう、何もしないでほしかった。
だが来てしまったからには、黙っているわけにはいかない。
「しかしこれはこれで好都合かな。ミリアリアと約束しちゃったしねぇ」
「約束?」
 彼女の独り言に、ウェザーが反応した。
「ああ………『本当に生きるってことはどういうことなのか、あいつらに教えてやる』、って
 偉そうに言っちゃったんだ」
「ふむ………しかし、それにはまず彼らを話し合いの場に出さなければならないな」
「だよねぇ………あいつら戦争はいけないって言ってるけど、考えてみれば
 実力行使以外のことはしてないよな。要求するだけして、こっちの言い分に耳向けたこともなかったし」
「今更のような気がするが、確かに考えれば考えるほど無茶苦茶な連中だな」
 ため息をつきながらも、FFは気を取り直す。
「教育のしがいがあるってもんだと考えよう。とりあえず、言っても聞かないガキは
 一発殴ってから言うこときかせなきゃならない」
「体罰推奨か。だが今回はそれが正しかろう」
 ウェザーは言いながらヘルメットを被る。そして、用意された機体に目を向けた。

 

 金色に光輝く、およそ戦場に出るものとは思えない壮麗なガンダムタイプのMS『アカツキ』。

 

 オーブの海で連合軍と戦った際、レドニル・キサカが操縦していた機体。
全身を鏡面装甲にしており、ビーム攻撃を反射することができる、防御に異常なまでに優れたMSだ。
ウェザー・リポートの空気の層と合わせれば、その防御力は更に増すだろう。
 今回は、このアカツキに、ウェザー・リポートの発生させた雷をエネルギーにして充電し、
長時間戦闘を可能にする装置、『ミチザネ』を取り付けている。
ウェザーがこれに乗れば、まさにオーブ最強のMSになるだろう。

 

「そういうことだから、できれば殺さないでくれよ?」
「無茶な注文ではあるが………努力はしよう。そちらは任せたぞ?」
「ああ、任された」
 FFはMSでは出撃しない。彼女は負傷者の傷口を塞ぎ、治癒を促す能力を持っている。
MSに乗らせるより、怪我人が出た時のために残ってもらった方がよかろうという判断である。
勿論、護衛としての能力も充分である。
「ではガキどもを黙らせにいってくるか」

 

 そして太陽を象徴するMSは今、雲と風をまとい出撃する。

 

   ◆

 

「フフフ………こんなこともあろうかと、用意してきて正解であった!」
 彼は上機嫌で口にした。彼の前には、彼の専用機であり、彼そのものとも言えるMSがあった。
彼自身が名付け親となった、竜の名を持つMS『ファフニール』。
 この異常事態を耳にするや、避難そっちのけで格納庫に飛んできたシュトロハイムは、
喜び勇んで技術者に命じ、通常時のボディから生身である首を取り外し、
『ファフニール』と繋げる作業を行わせる。
 本来、世界の最重要人物となった彼を、戦場に向かわせるなど言語道断なのだが、
シュトロハイムの部下の誰も、反対するものはいなかった。
それは反対しても止められないとわかっていたからでもあるが、同時に彼らは信じていた。
 この出鱈目なまでに勇猛な男が、生還できないはずはないと、信仰していた。
あるいはクライン派がラクス・クラインを信仰する以上に、強く、そして熱狂的に。
「接続、完了いたしました」
『うむ。御苦労』
 外部スピーカーを使って返事をするシュトロハイムは、表情が無いMSとなりながら、
笑っているということが察せられるほど愉快そうだった。
『諸君、おそらくこれが、最後の戦いになる。泣いても笑っても………否、盛大に笑って見せよう。
 泣くとしたら、嬉し泣きだけだ。私を信じ、協力して来てくれた諸君たちのためにも、
 私は勝利することをここに誓おう』
 その場にいた全員が、その言葉を信じた。その誓いを信じた。
そして、その信頼が成就されることを祈り、彼らはあの言葉を口にした。
もはや彼らの合言葉となった、誓いの言葉を。

 

『『『ジークハイル!!』』』

 

 伝説の時代、英雄に討たれた竜は、英雄そのものとなって出撃していく。
銃の領域へ。鉄と火の庭へ。信頼に応えるために。

 

   ◆

 

「ハハ、いよいよだぞ、キラ・ヤマト。君の嫌いな戦争の時間だ」
 マスクマン、そう名乗る男がインフィニットジャスティスより、ストライクフリーダムに向けて通信を送る。しかし返答は無い。ヴェルサスの催眠術に、完全に支配されているのだ。
「やれやれ………つまらんモノになったな、君は」
 キラの現状をわかっていながら、それでも不満を隠せぬ声で、マスクマンは呟く。
「まあいい………今は君よりももっと語りあいたい人間がいる」
 その視線は、こちらに向かってやってくるレジェンドと、その奥にある会議場に向いていた。

 

   ◆

 

「くそっ! あいつら、よりによって………!!」
 何を言っていいのか、友人の行動に、もはや言葉も無いカガリ・ユラ・アスハは、ギルバート・デュランダル、ユウナ・ロマ・セイランら、多くの要人と共に、アスラン・ザラや他のSPに守られながら、避難の最中だった。
「今は何も言わずに急いでくれ! 相手はあらゆる意味で常識が通用しない。一体何をしてくるか………」
 的に、スタンド使いという異能者がいると知っているがゆえに、アスランの焦りは、他の要人やSPたちに比べ深刻であった。
「お前こそ落ち着けアスラン! 大丈夫だ。もうすぐ出口に………」
 傍らのスピードワゴンがアスランに注意する。しかし、今回に限ってはアスランの焦りの方が、現状を正確に理解していたと言えた。
「ねえ! 行き止まりなんだけど!?」
 前方を指差し、ユウナが叫んだ。
「うん? そんな馬鹿なこと………あったな」
 スピードワゴンがアスランから前方に視線を戻すと、確かにそこには壁が立ち塞がっていた。だが道を間違えたわけではない。大体、こんな風にいきなり行き止まりになるような通路は、この建物に無いはずなのだ。つまりこれは、
「やべえ! 既に攻撃は始まっている!!」
 スピードワゴンが叫ぶと同時に、地震のような振動が彼らを襲った。地震のような、というのは、地震とはどこか違ったからだ。グラグラと揺らされるのではなく、爆発に巻き込まれたような、乱暴に振り回されるかのような揺れだった。
 ほんの一瞬ではあったが、その場の全員の視界が乱れ、現状を把握できなくなる。
「ぬ、おお!?」
 揺れが収まり、落ち着いて周りを見られるようになった時には、既にその場の様相は一変していた。今までには無かった通路が生まれ、無かった壁が現れている。壁の材質や、照明までも、さっきまでと変わってしまっていた。
(移動させられた? それとも触れて感じることさえできる幻覚? いや、移動させられるのならデュランダルや要人たちだけでいい。俺まで移動させられる意味が無い。なら場所ではなく建物の方が変わったと見るべきだろう)
 問題なのは、スピードワゴンの近くにいたカガリやアスラン、ユウナ、そしてデュランダルの姿が見えなくなっていることだ。全体を見回すと、さっきまでいた人数の4分の1程度まで数が減っている。
 建物の構造を変化させた時、壁によって区切られ、バラバラに分断させられたと見ていい。
(壁の向こう側にいるのか、それとももっと遠くに連れて行かれたか………)
 スタンドについて知らず、何が起こったのか理解できていないSPや要人たちが茫然から暴走(パニック)に行動を移す前に、スピードワゴンは冷静に通信機を取り出し、
「ブチャラティか? 良かった、妨害電波などは出ていないみたいだな。すぐに重ちーのハーヴェストを放って、俺たちを探してくれ」
 重ちーたちと共に、別ルートで避難誘導を行っているはずのブチャラティに連絡を取る。
(構造が変化しても、この建物の大きさ自体が変化していなければ、じきにハーヴェストで調べ尽くせるだろう。しかし、それまでにかかる時間で、敵の襲撃を受けたら………いや、受けるだろう。それを狙ってのこの状況だ)
 ラクス・クラインの目的はおそらくギルバート・デュランダル。その彼が逃げ出せないようにすること。戦力の分断。そして現状を把握できなくし、混乱をもたらすこと。それらを、すべて同時に行われてしまった。
「結局は、戦って勝つしかないということになるのか」
 スピードワゴンは苦い表情をつくる。戦いも、殺し合いも、自らの死も、今さら怖気づくようなことではない。本当に怖いのは何もできないことだ。
 ジョナサンが死んだ時のように。ジョセフが死んだと思われた時のように。あの時、自分は何もできなかった。何もしてやれなかった。
 それだけは耐えられない。
(意地でも役に立ってやらぁ。見ていろよ)
 まずはこの場をまとめ、パニックを抑えなくてはならない。スピードワゴンは己のプライドに賭けて、行動を開始した。

 

   ◆

 

「うむ………よし、わかった重ちー、状況をできるだけ詳しく俺に報告してくれ。その都度、俺がまだ中にいるポルナレフ、アヴドゥル、花京院に指示を送る」
「了解したど!」
 スピードワゴンから連絡を受けた時、ブチャラティは会場の外にいた。彼は、会場の見取り図、人員の配置図を広げ、傍らの重ちーに協力を頼む。頷いた重ちーは、すぐさまハーヴェストを飛び立たせた。
「この辺りはスピードワゴンの言う、建物の変形という効果は出ていない。内部限定のようだな。そっちはどうだ? アバッキオ」
「こっちも四方八方から奇襲を受けているらしい………人数や能力、武装は大したことのない囮のようだが、ほっとくわけにもいかねえ。ある程度の人員をそっちに取られるぞ」
 会場の内部も問題だが、外部からもMS以外の敵による襲撃を受けている。囮とわかっていても手を打たずにはいられない。面倒なことだ。
「どうせ内部にいる敵は本命のスタンド使いだろう。一般兵では対処できまい。会場内の要人救出はポルナレフたちに任せて、外からの攻撃は一般の兵にさせよう」
 ブチャラティの提案に、アバッキオも異論は無かった。
「わかった。ああ、それと変な報告も来ているぜ。襲撃者の中に一人、妙な奴がいたらしい。矢面に立っていながら無防備で、案の定簡単に撃たれて血を流したんだが、そのくせ嫌に嬉しそうに笑って逃げて行ったんだと」
「確かにおかしいが………敵はほとんど狂信的な連中だ。頭がおかしくても不思議ではない。何か狙いがあったとしても、今はそこまで手を回せん」
「確かにな………しかし、おかしいと言えば、どうしてここまで奴らが接近するのに、誰も気付けなかったんだ?」
 アバッキオは首を捻る。MS群に気がついたのは、MSが会場を取り巻く町の付近にたどり着いた時のことだ。国土に無断侵入した武装MSが飛んでいることを、それまで誰も、どのレーダーも察知することができなかったのだ。
(レーダーは隙間を縫うなり、妨害するなりできるかもしれないが、誰にも見つからなかったのは偶然か? いや、ここまでの大胆な行動には、決して見つからないという自信、確信が感じられる。もしやスタンド能力………?)
 敵の戦力がつかみきれない状況下で、しかしアバッキオは怖気づくことはない。振るいかかる火の粉は振り払って踏みつぶすのみ。
「とにかく敵の狙いがデュランダル議長なのは確かだ。即刻確保するぞ。ナランチャを連れて、俺が直接行く!」

 

 そしてレオーネ・アバッキオも動き出す。

 

   ◆

 

「何だ………何だこの感覚は………!!」
 レイ・ザ・バレルは苛立ちを抑えていた。その苛立ちを生む原因は、目前に迫るインフィニットジャスティスにあった。ビームサーベルを構えたそのMSに内在する何かが、彼に訴えかけてきている。
「わからない。自分は何を感じている? 恐怖や怒りのような悪意ある感情ではない………これは、不安、いや既視感………懐かしさ? 敵に対して? なぜ………?」
「どうしたレイ?」
 ブツブツと呟くレイに不審を感じたのか、形兆から通信が入る。
「いえ………なんでもありません」
 レイにはそう答えるしかなかった。自分の中に浮かび続けて止まらない不可思議な感情をねじ伏せ、戦闘に入る。周囲では既に閃光が弾け、剣撃が振り撒かれていた。

 

 敵味方、双方の機体が砕け、大地に落下して火柱を上げる。そのたびに町の家々が破壊される。その様に対し、シン・アスカは渋面をつくっていた。街の中、非戦闘員である一般の人々に被害の及びかねない戦闘に、昔を思い出してしまう。
 苦々しさを抱えて街を見下ろしていると、その街中を3機のMSが一列になり、会場に向けて突進してきていた。3機とも同型の、重厚なMSである。脚部にホバリングユニットが取り付けられており、あれによって高速移動を行っているようだ。
 それはクライン派の秘密武装組織『ターミナル』が、ザフトのデータベースから盗用した設計図から作成したMS。名は『ドムトルーパー』。
「けど、あんな特殊な機能、使いこなすのはそう簡単じゃないぞ………」
 しかし、スムーズな動きからして、その難しい機体を完璧に操っていると見える。つまり、少なくとも中堅以上の腕を持つ強敵だということだ。あれにここの布陣を突破されてはまずい。後方のミネルバでさえ、下手をすれば落とされる。
 そして更に、
「あれは………ガイア!?」
 ロドニアで捕まった後、行方不明になった機体、ガイアガンダムが走っていた。どうやらクライン派に流されていたということらしい。四足の獣型MAの形態となった機体は、変わらず夜のような漆黒に彩られ、俊敏な動きを見せつけている。

 

「シン、ここは俺が行く。お前は奴を」
 ウェザーがそう申し出る。
「しかし、あれら全部をあんただけでは」
「いや、レーダーを見ろ。味方がもう1機来る」
「何? これは………! そうか、よし、わかった。頼む」
 シンが頷くと、金色のMSは、3機のMSを迎え撃つため、地上へと舞い降りていった。その直後、シンは、背後に威圧感が迫るのを察知し、咄嗟に身をひるがえす。一瞬前にデスティニーが存在した場所を、ビームが通り過ぎていった。
「くっ………」
 シンはそのビームを放った者、ストライクフリーダムを睨み、ビームサーベルを抜く。ポルナレフのグフ・チャリオッツに装備されていた高出力ビームサーベル『ジョワユース』である。師の闘志を貰い受けたように感じながら、シンは最強の敵へと駆け出した。

 

 そして残された1機、ガイアガンダムはいまだに走り続けていた。そこに連合から派遣されたウィンダムが2機、立ち塞がり、ビームライフルを構える。
 それを前に、ガイアは笑った。
 そう笑ったのだ。
「なっ………?」
 その笑みを見てしまったウィンダムのパイロットは、驚愕に動きを止める。ガイアのMA形態は四足獣の形であり、頭部に見える部分も存在するが、そこに口は無い。だが、今はあった。
「ケケケケケケケケ――――――!!!」
 その口は狼のように開き、ナイフのように鋭い牙が並んでいる。目も二つ存在していた。しかも機械であるMSとしては考えられぬことに、その口の中にはよだれに濡れた舌が蠢き、両眼は見開かれ血走っている。
「う、うわああああああ!!」
 ウィンダムのパイロットは恐怖にかられてビームを放つ。
「へたっピィイイイイイーーーッ!! けけけけけけけ!!」
 ガイアはビームを軽やかにかわすと嘲笑し、大口を開いてウィンダムに乗りかかる。その牙でコクピットに食らいかかり、中のパイロットごと噛み潰した。
「ひ、ひいいい!?」
 怯えるもう1機は、ガイアの背から伸びたビーム砲に撃ち抜かれ、破壊された。

 

 その様を遠くから見つめる者がいる。
 黒い髪を伸ばし、傷だらけの褐色の肌を持つ男。さきほど会場を襲い、兵士に撃たれて傷つき、逃げ帰った男。傷の痛みに恨みを燃やす男。悪魔のスタンドを持つ男。

 

『呪い』のデーボ。

 

 もはや、ガイアはガイアでなくなっていた。漆黒の悪魔『エボニー・デビル』に憑依され、デーボの思うままに動く怪物、魔獣と化していた。
 恨みを糧として人形にとりつき、遠隔操作で敵を襲う特殊なスタンドによって、大地の女神から悪魔に堕したMSは、MSとしてありえない動きをなす。このMSに勝てるとすれば少なくともシンやアスラン並みの、怪物じみた、あるいは冗談じみた腕前が必要だ。
 しかし、今はそのような腕を持つパイロットは塞がっていた。彼を止められる『パイロット』はいない。

 

「さーて、とりあえずミネルバをブチ落としておくかぁ!! ギャハハハハハハハ!!」
 哄笑し、もう一度走り出そうとした時、更なる機影が立ち塞がった。
「ああ? 邪魔すんじゃねえ!!」
 デーボはそいつにも牙を剥いた。ビームを放とうと、サーベルを振ろうと、避ける自信がデーボにはあった。しかし、そいつはデーボの考えを上回る行動をとった。
「ぬおおおおおおおお!!!」

 

 メキャアァァ!!!

 

 殴った。

 

 MSとしてはありえぬことに、人間のように体を捻り、人間のように拳を伸ばし、人間のように、ガイアガンダムを殴り倒した。
「ん、なぁ!? な、何しやがる!?」
「わからんか? 殴ったのだ」
 相手のMSは律義に外部スピーカーを使って答えた。
「そういう意味じゃねえ!! MSでそんなことすりゃあ、手が壊れるだろうが!!」
「心配は有難いが、無用のことだ。我が連合のォォォ! 科学力はァァァ! 世界一ィィィイイ!!! 格闘戦を想定に入れてェェェ、このファフニールの拳は作られているのだァァァァ!!」
 そのMSは、ガイアと同じほどにMSらしからぬ動きをしてのけた。腕を前方斜め上に真っ直ぐに突き出し、敬礼のポーズをとる。

 

「ジーク・ハイル! 我が勝利を、連合と、部下たちと、この俺自身に誓う!!」
「わけわからねえ! 何なんだてめえ!!」
「そうだな………」

 

 その男の名はルドル・フォン・シュトロハイム。連合軍の中で最も奇抜な軍人。
 そのMSの名はファフニール。この世界で最もMSらしからぬMS。

 

 その双方を一度に表すために、彼はこう答えた。

 

「今の俺は、ガンダムだ!!」

 

 そして彼の腕から、三日月型のビームサーベルが輝きを放つ。
 そう。今の彼はガンダム―――誇り高き、世界最強の兵器。力の世界の君臨者。

 

「はあ? はっ! ぎゃはははは!! いいぜぇ? そういうことなら………俺もガンダムだ!!」

 

 デーボもまた背中のグリフォン2ビームブレイドを発動させる。

 

 そしてシュトロハイムとデーボの、ファフニールとガイアの、魔龍と悪魔の、ガンダムとガンダムの戦いが始まった。

 

 ようこそ、銃の世界(Gun Domain)へ。

 

   ◆

 

「外も本格的に始まったようだな」
 ヴェルサスは通信を聞き終え、マスクを取る。既に建物の中に入り、太陽光の心配は無くなっている。
「しかし我ながら随分と力を上げたものだ」
 まったく変わってしまった屋内に、ヴェルサスは気を良くする。この変形は、ヴェルサスの掘り起こした過去が、現在と重ね合わされた結果だった。デュランダルが容易く逃げられなくするために。
 吸血鬼になる前なら、個人を過去の中に放り込むだけならともかく、過去を実体化させて浮かび上がらせることを、ここまで大規模に起こすのは無理だっただろう。
「能力は強力になったが、本質が変わっていない以上、戦闘力といった部分はさほど変わっていないだろうが………まあいい。この単純なパワーだけで十分だ」
 ヴェルサスは壁に手をつく。大して力を込めたようには見えなかったのに、押しただけで壁は潰れ、大きな亀裂が走った。
 力を試しているとラクスから通信が入る。
「ヴェルサスさん、大丈夫ですか?」
「………ええ、問題ありません。来てください」
 様子見ということで先に来ていたヴェルサスはそう返事をし、ラクスたちが来るのを待つ。今のところ、ヴェルサスにとって順調にことは運ばれている。

 

「さて………俺が呼び寄せた奴らは上手くやっているかな」

 

   ◆

 

「なんで、こんなことになっちゃったのかなぁ………」
 ミーア・キャンベルはため息をついた。彼女はサラたちに連れられて避難しており、既に外に出ている。ひとまずは安心していいはずだが、ミーアの顔はすぐれなかった。
 サンドマンの死、自分の存在意義の消失、重なる衝撃的な出来事に、彼女は人生で最も心を曇らせていた。
「私、何が悪かったんだろう………」
 肩を落とし、まだラクスのままの顔を伏せて、彼女は落ち込み続ける。
「フ~~、気持ちはわからないでもないけれど、今はそれどころじゃないわよ?」
 ミーア、サラと共に行動している『シンデレラ』のスタンド使い、辻彩が声をかける。彩はミーアのことを気に入っており、最後までつきあうつもりである。
 客の人生を変えた、魔法使い(エステシャン)として、客への責任は取らねばならないというプライドもあった。
「それで、フ~~、これからどこへ避難するの? サラさん」
「ええ、これからシェルターへ………」
 言いかけて、サラは物が倒れこむような鈍い音が上がるのを耳にした。その音に、彼女は尋常ではない不安を覚えた。
「!! 何!?」
 振り向くと、ミーア、サラ、辻彩以外の、兵士たちが全員倒れていた。しかも異常なことに、倒れた兵士たちの体は、皆ブクブクに太り、まるで出来の悪い相撲取りのようになっていた。
「ふむ………風水的に一番安全な場所を通ってきたが、それでも完璧とはいかなかったか。だが、ヴェルサスの奴に美味しいところをすべてかっさらわれるわけにもいかん。多少の凶は覚悟せにゃあな。さてラクス・クラインは………むう?」
 倒れた兵士たちの中心に立つのは、一人の青年だった。まだ若くありながら、老人のようにも見える。
「いつの間に………!?」
「気付かなかったことを恥じる必要は無い。我が風水を前にすれば致し方なきこと。MSの接近にさえ気付かなかったじゃろう?」
 彼こそがMSの接近に誰一人気付けなかった理由。風水的に見て、どちらから攻め込めばよいかを計算し、襲撃が成功する方角を見極めたのが彼。流石に四方八方から包むようにではなく、一方からしか攻撃させるしかなかったが。

 

「さて………我が教団のため、ラクス・クラインを引き入れる最高の機会がここにあると、わしは読んだ。しかし、ラクスを目指して来たのに、そこのおぬし、顔は同じでもラクス・クラインではないな。しかもその顔の変え方が妙じゃ。風水にも通じる特殊な手法と見た。
 それが我が完璧な風水をして、ラクス・クラインの居場所を見誤らせたか。普通なら小娘如き、見逃してもよいが、風水を乱してしまうとあればそうもいかぬ。悪いが皆殺しにさせてもらうぞ」

 

『教祖』ケンゾー――参戦。

 

   ◆

 

「どこだここは………」
 流石のデュランダルもどこか途方に暮れたような声をあげた。共にいるのはアスラン、カガリ、そしてユウナの3人だ。彼らも突然変貌した周囲に驚いていたが、デュランダルよりはこうした異常事態に耐性があった。
「この世界をまるごと書き換えるような大規模なやり方は………おそらくヴェルサスの能力だ」
 カガリは自らの経験から正解を感じ取る。
「過去を掘り起こす、だったっけ。過去に建てられた建造物を実体化させたということかい? これからどうすればいいんだ?」
 ユウナはまだ信じられないというように壁を擦りながら、アスランに尋ねる。
「スタンド能力者でない俺では荷が重いな。助けを待つしかないだろうが………救援と敵と、どちらが早く来るか………」
 アスランは自分の無力さを噛み締めて、悔しそうに言う。
「重ちーのハーヴェストなら、すぐに見つけてくれるだろう。焦るな二人とも」
 カガリがその場の不安を吹き飛ばそうとするかのように笑う。その動じず、他者を励まそうとさえする在り方に、本当に強くなったと、アスランは感心した。感動とすら言えた。
「………凄いな」
 そう言ったのはアスランではなく、デュランダルであった。彼が最後に見た時、彼女は精神不安定な、取るに足らない少女のはずだった。それが1年と経たぬうちに、どうしてここまで成長できるのか。羨望を覚えざるをえなかった。
(私は、あの頃から何も変わっていないのに………)
 デュランダルが自らの身を省みて、自嘲を抱いたと同時、付近の壁が炸裂した。

 

「「「「!!!」」」」

 

 コンクリートが砕け散り、大穴が空いた。土煙が舞い上がり、そして壁の向こう側から一人の男が現れる。その顔はその場の全員が見知っていた。世界の殆どの人間が知っているだろう。
「やあ、こうして直接会うのは初めてだな。顔はお互い知っているはずだが………」
 青白い、神経質そうな顔。そこには憎悪と狂気が表れている。
「貴様ッ!!」
 アスランは目にも止まらぬ速度で銃を抜き、弾丸を放った。しかし、男は音速を超える速度の弾丸を胸に浴びてもビクともしなかった。
「ふはは、もう私はそんなものは通用しない体になったのだよ」
 笑う男は、以前失われたはずの右腕で、身にまとっていた白いスーツを引きちぎった。
「それは………!!」
 ユウナの引きつった声が漏れた。スーツの下にあったのは金属の装甲。だが鎧ではない。その装甲がそのまま彼の体なのだ。今スーツを引きちぎった手も、金属で作られている。
「貴様………サイボーグに、シュトロハイムと同じ体に………」
 男の肉体の意味を理解したカガリもまた、驚愕を隠せない。情報によれば、彼は右腕と右足を失っただけである。だが今は首から下すべてが機械と化している。つまり、彼はあるべき人の体を自ら捨てたのだ。
「ヘブンズベース脱出後………シュトロハイムの体を参考に、兵士のサイボーグ化を研究させていた秘密のラボに入ってね。どうにか実用にまでこぎつけることができた」
 文字通り、鋼鉄の肉体を得た男は、かつて死神の剣を振るっていた時にも匹敵する戦闘力も手に入れていた。さきほどコンクリートの壁を殴り壊した程度には。

 

「私は人間をやめたぞ。デュランダル」
 パチリと指が鳴らされると、さきほど空いた穴から、何人も兵士たちが現れる。ほとんどがまだ少年と言える年齢で、それでいて動きは一般の兵士など相手にならぬ力と速さと正確さを伺わせた。

 

「かき集めたファントムペインの戦士たちだ。絶対に逃げられぬように、全力で貴様を討つ。貴様さえ殺せば、世界は今一度、混沌に戻る。その機に乗じ、私は帝王の座についてみせる。この世の支配者は、この私だ」

 

『旧盟主』ロード・ジブリール――再臨。

 

   ◆

 

「残念だが、役者不足だ。退場したまえ」
 余裕の響きを持って、仮面の男は言う。その台詞の直後、ルナマリアの操縦するインパルスは、インフィニットジャスティスによって右腕を切り飛ばされた。
「は、速っ」
 驚きの声をあげる間もなく、返しの剣がインパルスを襲い、胴体部を両断した。爆発が起こる直前、ルナマリアはコクピット部があるコアスプレンダーを分離させた。かろうじて脱出に成功するものの、もはや戦いようが無く、ルナマリアは戦線離脱する。
 狙えば撃ち落とせただろうが、マスクマンは彼女を見逃した。あえて殺すまでも無いということだろう。それほどに圧倒的な差だった。
「なんて奴。ルナマリアとてザフトの赤。決して2流の腕ではない。それなのに、赤子の手を捻るように!」
 レイは敵の実力に戦慄する。現在、彼と対峙する余裕のあるMSは、レイのレジェンド、形兆のグフ、スティングのカオスの3機だが、その3機すべてでかかっても、勝てるかどうか怪しいほどに、相手の力は化け物じみていた。
 キラ・ヤマトにさえ匹敵するほどに。
「何者だ………」
 そう呟きながらも、レイには相手の正体がわかっているような気がした。だがそれはありえないことだ。いや、ありえたとしても、そのことに気づいてはいけないと、自分の中で何かが訴えている。だがそれでも、相手の正体が気になって仕方が無いという矛盾。
「聞こえるかな? レイ・ザ・バレル」
 その時、レジェンドに向けて相手から通信が送られた。画像も同時に送られ、髑髏じみたマスクが映り出される。
「貴様、なぜ俺の名前を………」
 レジェンドに乗っているのがレイであることは、味方の人間しか知り得ないはずである。
「わからないと思っていたのかね? この私が、君に気付かないなどと思っていたのか? それは哀しい話じゃないか」
 その声は親しげだった。レイのことを良く知っているというように語りかけてくる。そしてレイは恐怖する。なぜなら、その声に心が………落ち着くのだ。ずっと聞いていてもいいと思えてしまうのだ。
「何だ。何だ! 貴様は一体、何者だ!!」
「やれやれ、本当にわからないのか? 仕方ない、答えを教えよう。ただその代わり、君も私の質問に答えてくれたまえ」
 マスクマンは仮面に手を伸ばす。
「質問だと? 一体なんだ」
 警戒も露わに、レイが相手の問いを求める。
「何、簡単だよ。君はなぜ………ガルナハンで取引を持ちかけられ、拒絶するなどという行動をとったのかね?」
 マスクマンが仮面のこめかみの部分に位置するスイッチを押す。する仮面が剥がれ落ち、頭部からは金色の、肩まで届く髪がこぼれおちる。その顔は白皙の美貌といってよいほどのものだった。それは、レイには見覚えがある顔だった。ゆえに、レイは言う。
「………嘘だ」
 その男は、もう死んだ男のはずだった。かつての大戦の最後に、宇宙での戦いで命を落としたはずだった。
「私も信じられないほどだが、驚くべきことに事実でね」

 

 あの日、彼は最も憎むべき敵と戦っていた。
 その敵とは、誰からも望まれた成功作品。乗るは最新鋭の最強兵器フリーダム。
 片やこちらは見捨てられた失敗作。操るは節理、神意の意の名を持つプロヴィデンス。
 互角の戦いを繰り広げたものの、最終的に彼は敗北し、機体もろとも消滅したと誰もが思った。
 だがそこに、ヴェルサスという男が、ふとした思いつきをした。本当に、消滅したのだろうかと。そして彼は風水師ケンゾーに占わせ、ンドゥールによって探させた。
 結果として、彼は消滅してはいなかった。無論、死んではいたが、その機体は地球に落ち、大気圏の中でも燃え尽きず大地に落下してなお、形を保っていたのだ。コクピット内の死体と共に。
 ロゴスのデストロイによるベルリン襲撃時の前後辺りで、それがンドゥールによって発見され、死体は運び出された。そして………

 

「君ならば知っているはずだ。吸血鬼には、死者をも不死身の吸血鬼として蘇らせる力があると。その上、老人を最盛期の年齢まで若返らせることもできる」
 男の顔は、レイに瓜二つであった。違いは男の方が、歳が10年ほど上というだけだ。そして、微笑むその唇の隙間から、一対の牙が見える。それですべてを悟りながら、なおもレイからは言葉が出ない。それほどに、衝撃的過ぎたのだ。

 

「そして私はここにいる。再び、私を生み出した人類に裁きを下すために。世界を破壊するために。さあ私は答えた。次は君の番だ。君はなぜ、この力を、この命を拒んだのだ? 答えてくれ。レイ・ザ・バレル。もう一人の………私よ」

 

『仮面の男』ラウ・ル・クルーゼ――復活。

 
 

TO BE CONTINUED