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KtKs◆SEED―BIZARRE_第50話

Last-modified: 2012-02-29 (水) 15:32:42
 

 『PHASE 50:少年シン・アスカ』

 
 

 悲鳴が生まれては消えていく。
 罪人の魂は樹へと成り果て、花を咲かせ、立ち枯れて、『血』に更なる力を与えて朽ちていく。

 

 一人、また一人と樹へと変えられていくのを、ヴェルサスは楽しそうに眺めていた。
 樹にされていく者たちの中には、ケンゾーやテニール船長といった、
ヴェルサスと顔見知りの相手もいたが、彼は全く気にも留めなかった。
「きっさまぁ! 一体何のつも……
 激情のまま、彼がどんな罵声をヴェルサスに浴びせるつもりだったのかは、
永遠に分からずじまいとなった。
『血』の染み付いた骨は、ロード・ジブリールであった植物の傍に転がり、動きを止めていた。
周囲には、ファントムペインや、マイク・O、ヴィヴィアーノ・ウェストウッドであった樹が
立ち並んでいる。既にカガリやデュランダルたちの姿はなく、とっくに脱出しているようだ。
 隕石で天井に開いた穴は、アンダー・ワールドで掘り起こした過去の建造物を重ね、塞いでいる。
陽光が入ってくると、ヴェルサスには都合が悪いためだ。・
「そろそろか………」
 動きを止めた『血』は、いつの間にか樹の根に包まれ、バスケットボールほどの大きさの、
透明な繭のような『実』に変貌していた。
『実』の中には、緑色の人間の形をした『何か』が入っている。
 人間でいえば、肩の辺りに星型の模様が一つ、刻まれているのが特徴的だった。
「第一段階は終了というところか?」
 ヴェルサスがその『実』に手を伸ばすと、彼の手から植物の芽が噴き出てきた。
慌てて手を引っ込め、ヴェルサスは息をつく。
「危ない危ない。もう一人か二人くらい、食らわせてやった方がいいのかな?
 量は充分なはずだが、質に関してはどうだか……どう思う? そこにいる………」
 ヴェルサスは振り向いて、やってきた相手の姿を確認した。

 

「シン・アスカ」

 

 右手に細身の剣を握る少年は、こちらを見つめてくる瞳を睨み返す。

 

「知ったことじゃないな………ドナテロ・ヴェルサス」

 

シンにしてみれば、この男、ヴェルサスとの因縁はさほど深いものではない。
かつて一度戦っただけの相手。
確かにこの男は幾つもの邪悪を成し、この戦争の最初から最後まで関わり、
世界を傷つけてきた邪悪であろうが、シンと直接的な繋がりはない。
にもかかわらず、シンは確信していた。
この男との戦いこそが、シンにとってのこの戦争の決着であり、
決着をつけない限り、シンにとっての戦争は終わることはないことを。
そしてこの男と決着をつけるべきなのは、アスランでも、ポルナレフでも、リゾットでも、
ブチャラティでもない、自分であることを、シンは理解していた。

 

「言葉は無用、ということか? いいだろう。殺し合うとしようじゃないか」

 

 無論、ヴェルサスもまた理解している。

 

 なぜなら、この二人こそは全く同じ存在であるから。
 なぜなら、この二人こそは全く逆の存在であるから。

 

 同じように理不尽な運命を厭い、弱い己を憎み、世界を恨んだ者であるから。
 にもかかわらず、一方は正義を、一方は邪悪を選んだ者であるから。

 

 どちらがどちらになってもおかしくなかった。
少し出会いが違えば、少し歩みが変われば。今の立場も逆だったかもしれない。
違う自分で、同じ他人。だからこそ、決着は必要なのだ。
それが理屈ではなく、魂によって感じられる、宿命と運命の戦いなのだ。

 

「だがその前に」

 

 銃声が響く。シンの左手が抜いた拳銃からのものだ。
弾丸は天井を貫いて、その『向こう側』に命中した。
悲鳴があがり、天井に空いた銃痕から、赤い液体が垂れ落ちてくる。
「決着は二人だけで着けるべきだろう?」
「ああ。そうだな」
 ヴェルサスは頷き、眼から圧縮された体液を発射する。
容易く天井が切り裂かれ、天井裏の覗き屋が落下する。
「ウオオォ!」
 驚き慌てながらも、着地した男。右肩から血を流す、『グリーン・ディ』のチョコラータ。
 位置関係は、幾本もの樹が立ち並ぶ中に存在する『実』を背に立つ、ヴェルサス。
ヴェルサスと対峙するシン。シンの後ろに落ちたチョコラータとなる。

 

「よう。お前の力じゃ、生贄を殺しつくしちまいそうだから、ここには来るなと指示しといたんだがなぁ。
 大方、俺の目的を見極めて、可能なら出し抜いて漁夫の利を得ようって魂胆だったんだろうが、
 気付いてたよ。とっくになぁ。クフハハハハ」
 笑うヴェルサスを、チョコラータは屈辱と憎悪、そして恐怖の入り混じった目で睨む。
チョコラータの能力は凄まじい殺傷力を誇るが、相手が下に降りて行かないと効果を発揮しない。
ゆえに、ここではほとんど意味がない。
 吸血鬼の戦闘能力を考えれば、チョコラータに勝ち目は無い。
「だがなチョコラータ。チャンスだ。チャンスをやろう。
 シン・アスカを殺してみな。それができれば、見逃してやる」
 そう言われ、チョコラータはヴェルサスの言葉の真偽を見極めようとしたが、すぐに無意味だと諦める。
嘘であれ真実であれ、シンを殺す以外、できることはない。
「く………『グリーン・ディ』!」
 チョコラータはスタンドを使った。いかにシンの兵士としての戦闘力が高かろうと、
スタンドを感知できない常人である以上、スタンドを使えば簡単に殺せると判断してのことだ。
しかし、グリーン・ディの拳がシンの首を圧し折ろうとした時、
「………」
 シンは無言のまま、体をそらした。
グリーン・ディの拳は容易く避けられ、次の瞬間には、逆にシンの拳がチョコラータに叩き込まれていた。
その動きはただ速いだけではなく、無駄のない、最短の動作だった。
「うごぉっ!?」
 まさに目にも止まらぬ一撃を受け、逆に自分の方が相手の攻撃を感知できなかったことに混乱しながら、
チョコラータはよろめく。だがシンは追撃せず、構えをとることもなく、自然体のままに待つ。
「な、こ、この野郎がッ」
 メスを握り、直接刺しにかかってくるチョコラータに対し、シンは、

 

 プッツ~~~~~ン!!

 

 ようやく『SEED』を弾けさせた。世界が広がり、全ての動き、全ての力が、手に取るようにわかる。
チョコラータの動きも力も、全て理解できる。シンは花でも摘むように手を伸ばして掴み、
そして軽やかに体を回転させた。
 チョコラータの体は、チョコラータ自身の突進力と、シンの力が加わったことで、派手に投げ飛ばされた。
チョコラータはメスを落とし、その体は何メートルもの距離を飛び、ヴェルサスの立つ位置へと落下した。
「こんなものか。使えねえなぁ」
 ヴェルサスはチョコラータを片手で受け止めると、つまらなそうにため息をつき、
そのままヒョイと、『実』の上に落とした。
キィィィィコェェエェェ!!
 耳障りな叫びをあげ、チョコラータの体から芽が吹き出し、見る見るうちに一本の植物へと変わっていく。
その様を初めて見たシンは、さすがに表情を引きつらせる。
だが、今までにも人間が恐竜になっていく様を見たこともある彼は、すぐに気を取り直した。

 

「これで、ようやく始められるな」
「ああ、そうだな」
 余裕で答えるヴェルサスだったが、内心ではシンの存在が忌々しくて仕方が無かった。

 

(このガキめ……スタンド使いでも無いくせに、スタンドを知覚していやがった。
 いや、五感ではなく、『凄味』だ。『凄味』でスタンドを察して、いなしやがった。
 だが『凄味』を我がものにすることなどできるのか?
 それともこれが『SEED』とやらなのか……別々の世界の、異なる力が出会った結果だというのか?
 フン、構うものか。俺はただのスタンド使いではない。この俺は、既に人間を超越しているのだ!)

 

 対するシンは静かだった。静かに、その内側で炎を燃やし続けていた。
そして剣を強く握る。滾る炎を、剣に注ぎ込むように。
シンは、師から教わった、こういう場面での台詞を口にする。

 

「我が名はシン・アスカ。この世界の未来のため、貴様が踏み躙ってきた命の尊厳のため、
 我が運命の決着のため………お前を完膚なきまでに打ち倒す。ドナテロ・ヴェルサス!!」

 

 コーディネイターとして生まれ持った才能。重ね続けた修練。
ポルナレフから学んだ剣。アスランから教えられたSEED。
死闘を生き抜いた経験。自分の人生の集大成を、今こそ叩きつける。
その動きは、もはや吸血鬼の速度と大差無いほどだった。

 

「その程度でっ!」
 だが、速さが互角なだけではまだ足りない。

 

 ザグゥッ!!

 

 ヴェルサスは胸を傷つけられ、血が流れるが、不死身の怪物はその程度では止まらない。

 

「URYYYYYYYY!!」

 

 ヴェルサスの拳が放たれる。一発で人を殺す拳だ。まもとに防御すれば、防御ごと潰される。
「く!」
 シンは拳をかわそうとするが、かわしきれない。剣を持たぬ左手を振るい、ヴェルサスの拳と交差させ、
わずかにその拳をそらした。しかしそのおかげで、拳の直撃は避けられる。
追撃を食らう前に、更に動いて間合いを広げた。
 そこでようやく、シンは自分の左手が動かないことに気付いた。
「これは………」
「気化冷凍法。腕程度は一瞬触れた程度で凍りつかせられる。全身を凍らせるには2秒というところか」
 肘は動く。だが指は一本も動かせないし、手首も回らない。
「やはり、所詮貴様は人間だ! この俺の一触れで絶やせる、か弱い命に過ぎん!」
 邪笑と共に、ヴェルサスはスタンドを現わす。シンを更に確実に追い詰めようというのだろう。
シンは、スタンドが現れたことを感知できたが、スタンド相手にできるのは攻撃をかわすくらい。
いくらスタンドを感知できても、スタンドを傷つけることはできない。
スタンドはスタンドでしか傷つけられないのが基本ルールだ。
「ならっ」
 シンは剣を一度床に突き立て、右手で銃を抜き、撃ち放つ。
弾丸は見事と言っていい早撃ちで連射され、ヴェルサスへ殺到する。
「フン」
 いくら吸血鬼とはいえ、大口径の弾丸を、脳に受けてはただではすまない。
ヴェルサスはアンダー・ワールドによって弾丸を弾き飛ばす。
「足止めのつもりか? だがこの程度では十秒も持たんぞ。無駄だ、無駄無駄ァ」
 揶揄するヴェルサスに、シンは反応することなく、弾丸を放ったばかりの銃の銃身に左手を押し付けた。
ジュウッと嫌な音をたて、熱された銃身によって左手が解凍されていく。酷い痛みが、シンの顔を歪ませる。
「なるほど。足止めと、左手を取り戻すことを同時に行うか。
 考えたものだが、それでもやはり、所詮は時間稼ぎだ」
 ハァハァと荒い息をつくシンを見つめるヴェルサスは、
その行為を健気な、しかし無駄な努力であると称賛しつつ、嘲笑する。
アンダー・ワールドをシンの背後に回り込ませ、己とスタンドにより、シンを挟み撃ちにする形にする。

 

「さあ………そろそろ終わりにしてやる」
 そこで、ヴェルサスの耳に、パチパチと弾ける音が届いた。
アンダー・ワールドの視界をシンから、自分の背後へと移動させ、ようやく事態に気付いた。
「………なるほど、なるほど。足止めと、左手の解凍、そして更にこれを同時に行っていたわけだ」
 得意げな顔を歪め、ヴェルサスは己の背後で、魂を吸いつくされた枯れ木が燃え上がっているのを見た。
 さきほど放たれた弾丸が、別の物――たとえばファントムペインの銃や、
ジブリールのサイボーグとしての体か何か――と、ぶつかって散った火花が引火したのだろう。
炎は広がっていき、まだまだ大きくなっていく。
「確かに、こうも氷を溶かす炎が多いと、気化冷凍法はあまり威力を発揮できないだろうが、それだけだ。
 あの『実』も燃えてしまうことを期待しているのだったら、無駄だ。
 あれはあそこまで来た以上、殺すことはできない」
「殺す? 生きているのかよ、あれが」
「ああ。あれは俺以上に不滅の存在だ。だから、何も心配はいらない。
 それより、自分の心配をしろ。焼け死ぬか、窒息死するか、どちらにせよただの人間の貴様の方が、
 俺より先に力尽きるだろうぜ」
 だがシンは失望したりはしなかった。その程度のものではないと、感じていたからだ。
火を放ったのはまた別の理由である。無論、気化冷凍法の無力化もあるが、それだけではない。
「力尽きる前に、あんたをブッ倒す!」
 シンが右手に剣を握り直し、走る。
「無駄無駄ァ!」
 ヴェルサスは燃える樹の一本に手を伸ばして掴み折ると、それをシンに投げつけた。
シンはそれをかわして隙を生むようなことはせず、力強く燃える樹を蹴りつけた。
元々枯れ果てた樹は、燃えることで更に弱まっており、シンの蹴りで容易く砕ける。

 だが、その動きだけで十分足止めになっていた。
既に、シンの背後にはアンダー・ワールドが距離をつめている。
「絞め殺せ! アンダー・ワールド!」
 スタンドの手がシンの首に伸びる。シンはその気配を敏感に読み取り、前を向いたまま、
馬のように背後へと蹴りを放った。スタンドに効かないとはいえ、
こちらに触れようとしているスタンドには、こちらからも触れられた。
 蹴った反動で、シンの体は前に押し出されて跳ぶ。
「なにぃ!」
「お次はこれだぜ!」
 砕けた樹の屑と火の子が舞い散る中、シンは左手に握っていたものを放った。
「これは!?」
 周囲の浮遊物、炎に熱されて揺らぐ空気に視界を惑わされ、ヴェルサスはその攻撃を避けきれなかった。
ヴェルサスの方がシンより五感が優れているからこそ、炎の空間の中ではより惑わされる。
それがシンの狙い。

 

 ドズッ!

 

「ヌヌウッ!」
 ヴェルサスの左目に、一本の刃物が突き刺さる。それは、さきほどチョコラータが落としたメスだった。
「ヌウッ、こ、こんなもの、我が吸血鬼の肉体ならばすぐに再生してやる!」
 言い放ち、ヴェルサスはメスを引き抜いて放り投げる。だが、潰れた左目は再生しない。
「こ、これは、何かが傷口に入り込んで、貴様ッ、メスに何かを塗っていやがったか!」
 確かに、ヴェルサスの左目の傷口には、黒く蠢く物が溜まっていた。
それはシンがFFから貰った、フー・ファイターズの粘液。それを、シンはメスに塗って投げたのだ。
人間にとっては傷口を埋め、治るまでの繋ぎとなるものだが、
急速に再生できる吸血鬼ヴェルサスにとっては、再生の邪魔にしかならない。

 

「片方の目が死角になったな。さあ………勝負はこれからだ」

 

 シンは改めて剣を構える。
本来、彼の得意とするのはポルナレフの『銀の戦車』同様、突きを主体としたスタイルだが、今回は違う。
人間ならば一突きで致命傷を与えられるが、吸血鬼の場合はすぐに再生してしまう。
それどころか、下手に深く刺せば強靭な筋肉に抑え込まれ、抜けなくなってしまうかもしれない。
ゆえに今回は斬撃をもって攻める。
「ちぃぃぃぃ!!」
 ヴェルサスは左からの攻撃を防御しようとするが、いかに吸血鬼と化したといえ戦闘の素人。
左腕が肘から切断され、炎の中に飛んでいく。痛みはないが、喪失感は存在した。
ヴェルサスの表情に焦りが生じる。
「行くぜオラオラ! もう一撃ィィィ!!」
 シンの剣の切っ先が、ヴェルサスの左太股を抉った。返しで腹を捌く。
血が流れ落ち、はらわたが覗いた。ヴェルサスの表情が、焦りから恐怖に変わる。
腹の傷を抑えて飛び退き、必死で距離を取る。
「くっ! アンダー・ワールド!!」
 シンの背後に位置するアンダー・ワールドで、もう一度攻撃を仕掛ける。
塞がれた左目もスタンドの視力で補っており、これ以上、死角を突いた攻撃は効かない。
人間の力を超えた吸血鬼と、常人には見えないスタンド。
どちらもただの人間では、どうにもならない相手であった。
しかし、シンはその双方の拳をかわし、左足の脛を切断。ヴェルサスは支えを失い、倒れこむ。

 

「貴様、ここまで………!!」
 ヴェルサスは睨み、シンは睨み返す。その眼差しには微塵の恐怖も無く、ただ炎が燃えていた。
かつてアスランにも燃えていた物が、より熱く。
死の恐怖も、殺すことへの恐怖も、全てを焼き尽くした『漆黒の殺意』。
ヴェルサスはようやく気付く。吸血鬼とスタンド能力を併せ持つ自分は、一つの最強となりえている。
だが、今向かい合う相手は、SEEDを極めた、もう一つの最強。
言わば、『あっちの世界』と『こっちの世界』、双方の極みの対決なのだ。

「ならば俺も………全てを出し切る!! 『アンダー・ワールド』!!」
 ヴェルサスが倒れた場所の、床が掘り返され、下の階へと崩れ落ちた。
周囲を燃やす炎と共に、明かりも無い闇へと。
「逃がさない!!」
 シンは迷うことなく、自らも穴へと飛び込んでいった。

 

 闇の中でも、『SEED』によって空間を把握していたシンは、猫よりも見事に着地する。
そして、先に落ちたはずのヴェルサスの姿を探す。
共に落ちたかすかな炎に照らされ、その姿はすぐに見つかる。
左腕と左足を失った男は、床に倒れ伏していた。
(………罠?)
 まずはそう思う。しかし、あまりに無防備で、スタンドの気配も感じられない。
一体、どのような策があるというのか。
(………いや、どうぜ俺は頭が良くない。当たってみるだけだ)
 警戒しながらも思い切って、仰向けに倒れるヴェルサスへと近づいた。そして剣を突き付け、気付く。

 

「首が、無い………!?」

 

 ヴェルサスの首は切断され、頭部が丸ごと無くなっていた。

 

「しまっ」
 シンは上に向けて剣をかざす。直後、剣は半ばから砕かれ、シンの体は貫かれた。
「くはっ! ひっかかったなマヌケがぁ!!」
 シンの目に、天井からぶら下がる、ヴェルサスの『首だけ』が映っていた。
天井、上の階でいう床に空いた穴の側面から突き出た、鉄骨に髪の毛を絡みつかせて、こちらを見ている。
「もはや、並みの作戦では、貴様は凄味で感覚的に読みとっちまう。
 脳みそを働かせる必要も無く、力任せでやっちまうってんだから、まったくふざけた野郎だ。
 嵌めるにはこれくらいしなくちゃよぉ」
 肉体を捨てて囮にする、背水の陣。それを見事に成功させ、笑うヴェルサスの前で、シンが血を吐く。
胃だか肺だかわからないが、内蔵が傷つけられたのは確かだ。
「ぐほっ」
 更にもう一度貫かれた。

 

 空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)。

 

 正面から戦っている時は、もはや先読みされてかわされるだけだとして使われなかった攻撃だが、
今のシンに避ける力は無い。

 

「これで終わりだ。もう傷ついた肉体はいらねえ! 
 かつてDIOが宿敵ジョナサン・ジョースターの肉体を奪ったように、俺は貴様の体を奪う!
 『あっち』と『こっち』の最強が、ここに一つのものになる!!
 天国へ行く者に相応しいじゃねえか!!」
 シンは膝をついた。全身から力が抜けていく。傷口から流れ落ちる血と共に。
「この………勝手なことを」
 ヴェルサスの首の切断面から、血管らしきものが触手となって伸び、
シンの首にシュルシュルと巻きついていく。
「もう諦めろ。いや、むしろ光栄に思うんだな。貴様の体は、俺と共に天国へ行けるんだからよぉ!!」
 そしてヴェルサスの首が天井から離れ、シンへと迫ってくる。
(これで………終わる? 死ぬ? ああそうかもな……だけど)

 

 シンの脳裏を、多くの記憶がよぎった。
 走馬灯と言う奴かと、シンは落ち着いて受け止める。

 

 両親と妹から始まり、師であるJ.P.ポルナレフ、共に学んだマーレ・ストロード。
 レイやルナマリア、形兆、ミネルバの仲間たち。
 アスランやカガリ、デュランダル議長。
 FFにウェザー、ブチャラティやスティングらの姿が浮かぶ。
 敵であったキラ・ヤマト、フェルディナンド博士、リンゴォといった者たちまでもが現れ、
 そして最後に、金髪の少女が現れる。

 

(ステラ………ああ、そうだとも)

 

 少女の顔は、笑顔であった。シンが護りたかった笑顔。
だが、その笑顔もこれから失われてしまうかもしれない。
そう思いながらも、シンは残る全ての力を、剣を握る手に込めた。

 

(たとえここで死ぬとしても………こいつをこのままにしたら、残った彼女たちまでも。
 それはさせない。ステラ、君が悲しむとしても、それでも生きていて欲しいから……
 ……たとえ死んでも………勝つ!!)

 

 プッツーーーーーン!!

 

 シンは、自分の奥で、もう一度、弾ける音を聞いた。
 その瞬間、視界が光に染まる。そして全てが消えた。
 今までの『SEED』は、感覚が広がり、周囲の世界全てが把握できるようになるものだった。
 だが今のは逆。周囲の物は視界から消え、音も聞こえなくなった。敵である、ヴェルサスさえも。
 世界が消えた。ただ自分と、自分の剣だけがある。他は何もかも、光に満たされていた。

 

『光の中』で、シンは折れて半分になった剣を振るった。
弱った肉体で振るわれたそれは、最も優れた動きではない。最も速い動きでもない。最も強い動きでもない。

 

 だが、最もシンに相応しい、剣だった。

 

 ゆえにそれは、最優も、最速も、最強も超えて、最後の敵を、貫いた。

 

「ごぶっ!!?」

 

 最後の剣は、突きだった。
師から学び、昇華した突きは、ヴェルサスの口に抉り込まれ、牙を砕き散らし、触手をちぎり、
ヴェルサスを、燃え広がった炎の中へと吹き飛ばした。

 

 そして、それを最後に、シンの意識は急速に薄れていく。
朦朧と体を動かし、這いずる。自分でも何をやっているのか理解しないまま、
本能的に傷口にFFの粘液を流しこんだところで、シンの意識は途絶えた。

 

   ◆

 

 炎の中、ヴェルサスはまだ生きていた。
口を壊され、下顎はちぎれかけているが、それでもまだ生きていた。
(まだだ……俺はまだ諦めない……俺は必ず天国に………『DIO』に、父に………!!)
 触手を使って彼は動く。炎から脱出するために、足掻き続けた。だが、

 

 ゾワッ

 

 触手から、葉が生えた。
(!! こ、これは!)
 ヴェルサスは視線を左右に動かす。そして見つけた。
さきほど自分と共に上の階から落ちてきた、『血』の『実』を。
(や、やべえ! このままじゃ、俺も生贄になっちまう!! 言葉を、『14の言葉』を!!)

 

『14の言葉』。それはDIOの残した、『生まれたもの』が相手を『友』と認めるキーワード。
 だが、

 

(こ、この口では、シンに破壊されたこの口では、言葉を出せねえ!!)

 

 そして、ヴェルサスの頭部すべてが葉に覆われ、花が咲き開く。

 

(オ、オオオオオオオ!!)

 

 悲鳴をあげたくてもあげられないまま、ヴェルサスは枯れ果て、朽ちていく。

 

(き、消える。この俺が、吸収されて消えていく………いやだ。俺は、天国へ……
 ……俺を喰わないでくれ………『DIO』!)

 

 魂が吸われていくのを実感し、ヴェルサスは恐怖に震える。
だがそんなヴェルサスに大きな気配が叩きつけられた。

 

(!?)

 

 いや、叩きつけられたのではない。
ただ、現れた気配があまりに圧倒的であったために、そう感じてしまったのだ。
それはあまりにも強く、深く、大きく、美しい。
ヴェルサスはその気配を見る為に目をこらす。
実際には、もはや眼など存在しない。だが、ヴェルサスははっきりと見た。
幾度も掘り起こした過去の中で見た姿を、今までよりも遥かにはっきりと。

 

(おお………おお! おお!! おおおおおおおおっ!!)

 

 もはやヴェルサスに恐怖は無い。
荒れ狂うような感動の中で、自分がその存在と一体化していくことを、ただ歓喜を持って受け入れていた。

 

(ふは、ふははははは!! そうか、そうだったのか。プッチよ! ざまあみろ!!
 貴様は最初から間違えていた!! 貴様も吸収されてしまえば良かったんだ!!
 そうすれば回りくどいことをしなくても天国へ行けたのに!!)

 

 ヴェルサスは確信する。
『血』に、『実』に、呑み込まれながら、一つとなりながら、彼は満たされていた。

 

(これが『天国』だ! ここが『天国』だ!!
 だって『天国』っていうのは、『神(DIO)』のいるところなのだから!!)

 

 そしてヴェルサスは消える。DIOの『血』の中に、己の望みを達成した悦びに、震えながら。

 
 

 そして、ヴェルサスが消えた時、『それ』はその目を見開いた。

 
 

   ◆

 
 

「!!」
「シン! 気がついた!」

 

 シンが目を見開いた時、彼がいたのは病院のベッドの上であり、傍にいたのはステラ・ルーシェだった。
笑顔で抱きついてくるステラを、体の痛みを我慢しながらも抱きとめる。
その笑顔を泣き顔にせずに済んだことに、安堵した。
「まったく無茶してるなお前も。重ちーが探し出してくれなきゃ、危ないところだったんだぜ?」
声をかけられ、シンはようやく、ステラ以外にも人がいたことに気付く。
ポルナレフが肩をすくめながら立っていた。
「当番制で見舞いしてたんだ。今は俺の番。そのお嬢ちゃんは、ずっとそこにいたけどな」

 

 シンはポルナレフから説明を聞いた。
自分は建物の炎で燃え落ちた部分で、倒れていたのだそうだ。
だが、シンのいた場所だけ、崩れた壁が絶妙な具合で折り重なり、隙間となって、
シンを押し潰すことも、焼き殺すこともなく、護っていたのだ。
それもおそらく、シンの『SEED』が無意識のうちに安全な場所を把握し、そこに体を運んだのだろう。

 

「何にしても、これでようやく戦争は終わったわけだ」

 

 この後、別の会場を用意してからまた終戦条約を結ぶらしい。
残るクライン派もスピードワゴンたちが潰して回っている。もう邪魔するような者はいないだろう。

 

「そう………ですね」

 

 そう答えながらも、シンは心に沸く不安は止まらなかった。
ヴェルサスが『天国』と呼んでいたものは、まだ残っているはずだ。
あれがそう簡単に滅ぶわけはない。あれは必ず、何か悪いことをこの世界にもたらす。
だが、そんなふうに沈む彼を、温かな腕が抱きしめた。
「! ………ステラ?」
「大丈夫だよ、シン」
 彼女はシンの間近まで顔を近づけ、微笑む。

 

「シンは私が守るから」

「―――――!」

 

 ポルナレフは『まいっちゃうねぇ、もう』みたいな顔で、そっと病室を出ていく。
その背中に声をかけることもなく、シンはただ、ステラを見つめる。
ヴェルサスとの戦いの最後の最後で、思い起こされたもの。
シンが最も守りたいもの。失いかけたもの。かつて失ったものと、同じもの。

 

 故郷。家族。仲間。帰る場所。

 けど、今度は守れた。そして、

 

「ああ、俺も、これからも、ステラを守るよ」

 

 たとえこれから何が起ころうとも、それだけは変わらない。
 それならば、何も悩むことはない。 『立ち向かえ』ばいい。
 何も心配はいらない。皆が『傍に立って』いる。

 

 ならば負けない。理不尽な運命になど、絶対に負けない。
 そして帰る場所がある限り、自分は必ず帰ってくる。

 
 

 晴れてシン・アスカは、この戦争の、この時代の、
『BIZARRE73』―――『奇妙な73年』の、確かな勝利者となったのだ。

 
 
 

 シン・アスカ―――完全勝利

 

 ドナテロ・ヴェルサス(アンダー・ワールド)―――吸収され消滅(リタイア)

 
 

 ユニウス戦役―――完全終結

 
 

TO BE CONTINUED